届いた波紋
その頃――
まきの領都では、静かに空気が変わり始めていた。
執務室。重厚な机の上に積まれた報告書。
男はその一枚を手に取り、ゆっくりと目を通す。
「……遂に、か」
低く呟く。王都。
その言葉の重みは大きい。
娘の製品、あの機械そして流通。
その噂が、ついに王都にまで届いた。
父は静かに椅子にもたれた。
「まだ……掴めてはいないか」
報告によれば、開発拠点の特定には至っていない。
理由は明確だ。
「OEM……だったな」
娘が口にしていた言葉。
技術を囲い込まない。
一部を開放し、各地の工房で生産させる。
その結果で製品は広がる。
「出所がぼやける」
どこで作られているのか。
どこが中心なのか。
特定が難しくなる。
父は小さく笑った。
「意図してか、無意識か」
どちらにせよ。効果は絶大だ。
だからこそ――目立つ。
「……時間の問題だな」
いずれ必ず、核心に辿り着く者が現れる。
父は視線を落とす。
「警備隊は……正解だったか」
早めに派遣した。
表向きは治安維持だが本当の目的は別。
「……お前の護りだ」
娘の存在にその価値。
それはもはや、一領地の話ではない。
「世界を掻き回す」
その力を持っている。
いや既に、掻き回し始めている。
父は静かに目を閉じた。
「隣国の娘も……か」
もう一人。同じく異質な存在。
二つの領地。二つの知識。
それが繋がっている。
その意味は――あまりにも大きい。
しばしの沈黙。
やがてレオンハルトは目を開いた。
「……ふぅ」
深く息を吐くそして決断する。
「私も動くか」
これまでは見守っていた。
もう違う放置すれば、取り返しがつかない。
父は机の上に置かれた装置を見る。
「無線機……だったな」
娘が送ってきたもの。
これで直接やり取りが出来る。
彼は静かに呟いた。
「密に連絡を取るとしよう」
それは父としてか。
それとも――領主としてか。
まだ、その境界は曖昧だった。




