届いた声
「――全区域、接続確認完了しました」
地下工業都市の中央制御室。
新たに設置された設備の前で、文官が報告する。
壁には配線図。
各区画へ伸びる音声線。
そして――スピーカー。
私は腕を組みながら、それを見上げた。
「……いよいよね」
文官が緊張した面持ちで頷く。
「はい」
これが――公共放送。
地下都市全域へ、声を届ける仕組み。
掲示板では遅いし人は見に来ない。
音なら、強制的に届く。
私はマイクを手に取った。
「全員、配置は?」
「問題ありません」
「受信確認済みです」
私は軽く息を吐く。
「……よし」
初めての放送で失敗は出来ない。
ここまで準備出来た後はやるだけだ。
私はスイッチを押した。
ジッ……と軽い音が鳴る。
そして。
「――こちら、地下都市管制より」
自分の声が、スピーカーから遅れて返ってくる。
少しだけ違和感。
成功だ。
文官が小さく頷く。
私は続けた。
「本日より、公共放送を開始する」
地下各所へ工房に、居住区そして作業現場。
そこに私の声が響いている。
「作業連絡、緊急指示、その他通達は今後、この放送でも行う」
私は少し間を置く。
「以上」
スイッチを切り静寂。
文官がゆっくりと息を吐いた。
「……成功です」
私は小さく笑った。
「でしょ?」
外からざわめきが聞こえる。
作業員達の声。
驚きに感心と戸惑い。
確実に伝わった。
私は満足げに頷いた。
「これで一気に管理しやすくなるわね」
文官も同意する。
「はい」
都市はまた一歩進んだ。
私は設備を見渡す。
「良い感じ」
さて。表向きの作業はこれで一区切り。
私は一人、静かに視線を落とした。
「……ここからね」
本命は――別にある。
盗聴機は既に仕掛けた。
録音装置も設置済み。
あとは――機能確認。
私は配置した文官に歌を歌う様に指示してあるさて。ちゃんと聞こえるかしら?
指示通りに文官は鼻歌を歌っていた。
「るーるる、るーーるるるるるーるる」
棒読みの歌声が、妙に響く。
私は軽く目を閉じた。
そして別室に設置した受信機に耳を傾ける。
「……ふふ」
小さく笑う。
「ちゃんと聴こえてる」
音は拾えているし遅延も問題なし。
雑音も許容範囲。
これなら――使える。
録音装置も事前にテスト済み。
再生も問題なし。
私はゆっくりと息を吐いた。
「……これでいい」
十分だ。
私は視線を細める。
「不本意だけど」
同郷。それでも――
完全に信用する理由にはならない。
むしろだからこそ危険な可能性もある。
私は静かに呟いた。
「白黒はっきりするまでは」
監視は続ける。
それが今、私に出来る最善だった。




