監視と発展
「……この位置ね」
私は建築中の建物を見上げながら、小さく呟いた。
商人用の店舗。
まだ骨組みの段階だが、形は見えてきている。
ここに――あの男が入る。
私は軽く視線を巡らせた。
壁に天井と柱。
「仕掛けるなら……今のうち」
完成してからでは遅いし人の出入りが始まる前。誰にも気づかれない状態で。
私は文官に小さく指示を出す。
「各部屋に目立たない位置で」
文官が頷く。
「承知しました」
盗聴機。一つでは足りない。
複数仕掛け死角を潰す。
私は少しだけ視線を落とした。
「……嫌な役目ね」
こんな事、本来やりたくはない。
私はすぐに思考を切り替える。
「仕方ない」
警戒しない方が危険だ。
相手が誰であれ同郷だろうと関係ない。
私は静かに呟いた。
「やるべき事をやるだけ」
文官達が作業に入る。
私はその場を離れ、少し歩いた。
ふと、足を止める。
「……」
周囲を見渡す。
レンガ造りの建物。整然と並ぶ区画。
工房に住宅に倉庫。
どこを見ても――
「……変わったわね」
最初は何もなかった。
草原。何も無い土地。
それが今は一つの街になっている。
私は少し笑った。
「いい感じじゃない」
さらに視線を遠くへ向ける。
田畑。開墾された土地。
整備された農地。
「もう少しで自給も安定するか」
家畜も増えている。
まだ少しずつだが、確実に増えている。
このままいけば輸送に頼らない体制も作れる。
私は小さく息を吐いた。
「順調、順調」
その時、ふと思う。
「……これ」
私は腕を組む。
「私がやる事なの?」
本来は貴族。領主の娘。贅沢して。
のんびり過ごすはずだった。
それが今は開拓に工業。農業に監視。
私は苦笑した。
「……はぁ」
肩をすくめる。
「まあいいか」
もう始めてしまった。
ここまで来た。
なら――やるしかない。
私は再び歩き出した。
「やるなら徹底的にね」
町は今日も――静かに拡張を続けていた。




