貴族の道楽
「……これでよし」
私は書類に最後の確認印を押した。
今回出した依頼。
相手は――商人と冒険者ギルド。
内容はシンプルだ。
「珍しい物」
それだけ。
文官が少し不思議そうに聞いてきた。
「本当にこれでよろしいのですか?」
私は軽く頷く。
「いいのよ」
そして少し笑った。
「変に具体的にするとね。逆に怪しまれるから」
転生者の技術を探している。
そんな事を知られれば面倒になる。
だから。あくまで曖昧に。
私は椅子に座りながら続ける。
「動かなくてもいいって付け加えたでしょ?」
文官が頷く。
「はい」
それがポイントだ。
普通なら価値のある物は「動く」必要がある。
今回は違う。
壊れていてもいい。動かなくてもいい。
つまり――
「とにかく“珍しい物”なら何でもいい」
そういう依頼だ。
文官が少し考えた顔をする。
「確かに……」
私は肩をすくめた。
「貴族の道楽に見えるでしょ?」
珍品収集。変わった物好き。
この世界では珍しくない。
文官は納得したように頷いた。
「違和感はありませんね」
私は満足げに笑った。
「でしょ?」
これなら余計な詮索はされない。
表向きはただの収集依頼。
裏では――情報収集。
私はゆっくりと椅子にもたれた。
「さて」
文官が次の指示を待っている。
私は首を振った。
「今は何もしない。待つだけ」
文官が少し意外そうな顔をする。
「よろしいのですか?」
私は頷いた。
「変に急ぐとね。適当な物を持って来られる」
質より量になる。
それは意味がない。
私は指を軽く机に打ち付けた。
「時間はかかってもいい。本物が欲しい」
文官は静かに頭を下げた。
「承知しました」
部屋に静けさが戻る。
私は目を閉じた。転生者の痕跡。
どこにあるか分からない。
確実に存在する。
私は小さく呟いた。
「……そのうち来るでしょ」
焦る必要はない。網は張った。
あとは――引っかかるのを待つだけだ。




