謎の音
私が勝手に名付けた――食料増産計画。
その本格的な開墾が、ついに始まった。
ゆきちゃんの領地から送られてきた人員も到着。
しかも。
「ロイド操作経験者?」
私は思わず笑った。
「やるじゃない」
機械を扱える人材。これはかなり大きい。
開墾現場を見渡す。
カーデン・ロイドが土を掘り返し、整地していく。人員も連携して動く。
見る見るうちに地形が変わっていく。
私は腕を組んだ。
「順調〜」
文官も頷く。
「予定以上の速度です」
これならかなりの面積を確保できる。
とうもろこしの大規模栽培も現実的だ。
私は満足して現場を後にした。
そして今日のもう一つの予定。
「ギルドね」
冒険者ギルドの責任者が挨拶に来る。
私はその対応に向かっていた。
提供した建物は、もともと開拓用の倉庫として建てたもの。
今後はギルドの支店として使われる。
ただし、そのままでは使いにくい。改装が必要だ。今日はその打ち合わせ。
私は建物に入る。
「……もう来てるわね」
すでに荷物が運び込まれていた。
箱。道具。棚。
何やら手際よく配置が進められている。
私は少しキョロキョロと見回す。
その時。
「お嬢様」
声をかけられた方を振り向く。
そこに立っていたのは――
ダークエルフの女性。
長い耳。落ち着いた雰囲気。
そしてどこか鋭い視線。
「この度は、建物を提供していただきありがとうございます」
私は軽く微笑んだ。
「いえいえ。こちらこそ、これからよろしくお願いしますね」
彼女も静かに頭を下げる。
「こちらこそ。よしなに」
――ピッ
私は一瞬、眉をひそめたが会話は続く。
私は話を進める。
「それで改装の件なんですがうちの文官と話して進めてもらえれば」
彼女は頷いた。
「承知しました」
――ピッ
また音がした。
私は少しだけ周囲を見るが誰も気にしていない。彼女も普通に話している。
「ありがとうございます」
――ピッ
三度目。
私は完全に違和感を覚えた。
「……ん?」
思わず小さく呟く。何の音?
私は視線を動かす。
荷物?道具?
それとも――
「音はこちらです」
受付の横に、小さな箱が置かれていた。
木箱のような装置。
その上に金属板のようなものがある。
ダークエルフは一枚のカードを取り出した。
「このギルド身分証をこの箱に差し掛けると……」
カードを近づける。
ピッ
箱が光る。
「登録内容等が確認出来ます!」
私は固まった。
「はぁ?」
思わず声が出る。
「非接触型カード!?」
ダークエルフはきょとんとしている。
「非接触……?」
私は箱を覗き込んだ。
金属板。内部構造。
これは――完全にRFIDだ。
「何故!?ギルドに!?」
私は箱をひっくり返すように観察する。
回路。魔石。刻印。
理解が追いつかない。
その時、私はカードに刻まれた文字を見た。
「こっ、この名前は?」
私はカードを指差す。
ダークエルフは普通に答えた。
「うーむ。ギルドではソニンって呼んでますね」
私は呟く。
「ソニン……」
胸がざわつく。まさか。
「……まさか」
私はダークエルフに詰め寄る。
「これ!如何やって作ったの?!?」
ダークエルフは少し困った顔をした。
「えーっと」
そして言う。
「かの昔2人の天才が作ったと言われてますね」
私は固まる。
「げっ」
嫌な予感しかしない。
「まさかあの2人?」
私は装置をもう一度見る。
だがダークエルフは続けた。
「でも仕組みがよく分からなくて」
私は振り向く。
「え?」
ダークエルフは箱を軽く叩いた。
「この箱の再現は出来ますが」
そして笑った。
「ギルドではこう言う使い方をしてますね」
私は目を見開く。
「どーゆーこと!?」
再現は出来る。でも仕組みが分からない。
つまり――私は呟いた。
「ロストテクノロジーになっている!?」
ダークエルフは首を傾げた。
私は箱を見つめる。
非接触カード。RFID。
この世界に存在するはずがない技術。
私は小さく呟いた。
「……誰よこれ作ったの」
胸の奥がざわつく。




