見えない意図
地下工業区画には、今日も鉄の匂いが満ちていた。
溶鉱炉は止まらない。
レールは次々と生産され、整然と並べられていく。
私はその光景を見ながら満足げに頷いた。
「……いいわね」
文官が横で報告する。
「ゆき様の領地へも、予定通りの量を搬出しております」
私は腕を組む。
「かなりの量いってるでしょ?」
「はい。相当な量です」
私は小さく笑った。
「上等上等」
このペース。この生産力。
これなら――
私は遠くを見た。
「領都までレール引くのも夢じゃないわね」
文官も静かに頷く。
鉄道網が広がれば、領地の形が変わる。
物流が変わる。人の流れも変わる。
その時だった。
「お嬢様」
別の文官がやってくる。
「何?」
「ゆき様より連絡です」
私は眉を上げた。
「何かしら」
文官はメモを見ながら言う。
「とうもろこしの共同栽培依頼です」
私は一瞬、止まった。
「……とうもろこし?」
「はい」
私は少し考える。
「うちで育てるって事?」
「そのようです」
私は椅子に座りながら腕を組んだ。
「うーん……」
とうもろこし。用途は多い。
食料。飼料。
そして――
私は小さく呟く。
「……まさか」
文官が首を傾げる。
「何か?」
私は視線を上げた。
「バイオ燃料?」
可能性はある。
発酵。アルコール。燃料化。
今の技術でも不可能ではない。
私は少し考えたが、すぐに肩をすくめた。
「まあいいか」
どうせ理由は後で分かる。
私は文官を見る。
「どのくらいの規模?」
文官は少し困った顔をした。
「それが……」
「可能な限り広範囲で、との事です」
私は思わず聞き返した。
「は?」
文官は続ける。
「人員は必要な人数を送ると」
私は額に手を当てた。
「……そんなに?」
これは単なる試験栽培ではない。
本気だ。私はため息をついた。
「はぁ……」
一体何を考えているのか。
私は少し考える。
「食料不足?」
ゆきちゃんの領地は岩場が多い。
斜面。山地。確かに農地には向かない。
私は納得したように頷く。
「なるほどね」
それなら大規模栽培も理解出来る。
それにしても規模が大きい。
私は小さく呟いた。
「何かあるわね」
だが拒否する理由はない。
むしろ利益になる。私は顔を上げた。
「いいわよ」
文官が姿勢を正す。
「ただし」
私は指を立てる。
「どれだけ人員を回せるか確認して」
こちらも人手は限られている。
無制限には受けられない。
文官は頷いた。
「承知しました」
文官が部屋を出て行く。
私は一人、椅子にもたれた。
「とうもろこし、ねぇ……」
食料か。燃料か。それとも――
私は小さく笑った。
「まあ、いいわ」
いずれ分かる。今はただ。
その流れに乗るだけだ。




