吾妻編第67話 2台のゴールの行方だった.....。
86伝説エーペックス288編リメイク制作決定!!!
2027年第1半期!
最終コーナーへのアプローチ。残るはたったひとつの複合旋回のみ。
赤と白、二台のトヨタが完全に並走したまま、時速二百キロを超える超高速領域で飛び込んでいく。
ギュオオオオオオッ!
ドロロロロロオオッ!
イン側を力づくでキープするイヨの白いGRスープラ。直列6気筒ツインターボの圧倒的な分厚いトルクが、リヤタイヤを路面へ強烈に押し付ける。
イヨ「えっへん☆小細工なしでも、イヨのスープラが一番速いんだから!」
バシュウウウッ!
ブースト圧を限界まで高めたスープラが、イン側の縁石を激しく踏み荒らしながらノーズをねじ込んでいく。
純粋なパワーと最新シャシーの剛性で、強引にカナタのラインを押し潰しにかかる。
だが、大外に位置する赤いREVIVE86も絶対に引かない。
腹切カナタ「パワーで劣ってようが、タイヤが終わってようが……この86の曲がり方は俺が一番知ってるッ!」
ドガアアアッ!
ズシャアアアアッ!
カナタは旋回の限界点ギリギリで鋭い荷重移動を敢行。
左フロントの消耗を補うように車輪の荷重を斜め後ろへ逃がし、リヤタイヤをわずかに滑らせながら異次元の旋回速度で回り込む。
キュルルルルルッ!
バキキキッ!
火花とタイヤスモークが二台の間で爆発的に吹き荒れる。
ボディとボディが数ミリ単位で擦れ合い、互いのサイドミラーが風圧で激しく軋む。
イヨ「うわっ、外から被せてくるの!?負けないんだからーっ!」
ドガガガガッ!
腹切カナタ「行けえええっ、86ッ!」
ギュイイイイイインッ!
立ち上がりへ向けて、二台同時に全開フルスロットル。
白煙を切り裂き、赤と白のノーズが完全に一直線に並んだまま、最終ストレートのチェッカーフラッグへと弾丸のように射出された。
若林「逃げる赤い戦闘機にGRスープラがピタリと張り付くううう!そして並んだあああ!」
実況の絶叫が最高潮に達する中、ストレートへ立ち上がった二台の距離はゼロへと縮まっていた。
ぎゃんっ!
ごおおおおおおおっ!
互いのドアミラーが接触寸前まで引き絞られ、風圧とタイヤカスが激しくフロントガラスを叩きつける。
腹切カナタ「ッ!」
イヨ「ッ!」
カナタは激しく振動するステアリングを両手でねじ伏せ、壊れかけのREVIVE86から最後の一滴までパワーを絞り出す。
隣の白いGRスープラでは、イヨが猫耳をピンと立て、無邪気さを脱ぎ捨てた真剣な眼差しでアクセルペダルを床まで踏み抜いていた。
ギュルルルルルッ!
バババババッ!
赤と白のノーズがミリ単位で前後に揺れ動き、まったく譲らないまま、目の前のチェッカーフラッグへと突撃していく。
若林「GRスープラがノーズを出していくッ!」
フィニッシュラインまで残り数十メートル。
直列6気筒ツインターボの強烈な高回転域の伸びが、白いGRスープラをわずかに押し出す。
バオオオオオオッ!
ドガガガガッ!
イヨのスープラのフロントバンパーが、カナタの86のノーズを数センチ、そして十数センチと確実に追い越していく。
イヨ「もらったぁぁぁ!イヨの勝ちーっ!」
愛らしい叫びとともに、チェッカーフラッグが振り下ろされるその直下へ白い閃光が飛び込んでいく。
だが、その真横。
腹切カナタ「まだだ……まだ終わってねええええッ!」
カナタは左フロントの限界も、吹き飛びそうな油温もすべてを無視し、86の心臓部を限界まで絞り尽くして食らいつき続ける。
ギュイイイイイインッ!
ドスウウウウウッ!
二台のマシンがほぼ同時のタイミングで、白黒のチェッカーフラッグの下を猛スピードで駆け抜けた。
白黒のチェッカーフラッグが激しく風を切り、二台の残像がコントロールラインを一閃した。
バシュウウウウウッ!
ドガアアアアンッ!
目視では到底判別のつかない、完全なる同着に見える通過。
若林「チェッカーだあッ!ほぼ同時のゴールインッ!カメラ審査入りますッ!どっちが先にゴールインしたんだああああ!?」
実況ブースの若林がマイクを握りしめたまま立ち上がり、場内モニターに映し出されるスロー再生の映像を凝視する。
グランドスタンドの観客たちも総立ちとなり、息を呑んで審議の行方を見守っていた。
クーリングラップへと入ったコース上では、全力を出し尽くした二台が激しい熱気を放ちながら減速していく。
腹切カナタ「ハァ……ハァ……くそっ、届いたか……!?」
カナタは激しく息を乱しながら、油圧の落ちきったメーターと荒れ果てたステアリングを見下ろす。
その真横へ、白いGRスープラがすーっと並びかけてきた。
パワーウィンドウが下がり、中からイヨがひょこっと顔を出す。
猫耳を少し伏せ、悔しそうにも見えるが、どこか満足げな笑顔を浮かべていた。
イヨ「カナタくん、すっごく速かったよ!でもイヨのノーズの方が、ほんのちょっとだけ先に出てた気がするもんね☆」
腹切カナタ「……どうだろうな。俺の86も、最後は限界を超えて伸びてくれたはずだ」
二人が互いに健闘を称え合うように視線を交わす中、電光掲示板の「審議中」のランプが激しく点滅を繰り返していた。
若林「そして4位と5位!山吹花と眞鍋の戦闘が勃発!!ラリーカー対決かあああ!!??」
トップ2台がチェッカーを受け、写真判定の熱気が冷めやらぬ最終直線。
その後方から、地響きのような四駆の爆音が二重奏となって押し寄せてきた。
ドリュウウウウッ!
ズババババッ!
スバルブルーのWRX STIと、漆黒のランサーエボリューションIX MR。
WRCの遺伝子を色濃く受け継ぐ二大名門マシンが、一歩も引かないデッドヒートを繰り広げながらフィニッシュラインへと突進してくる。
山吹花「眞鍋くん....ッ!?やっと来たのね......ッ!!!」
バックミラーに映る漆黒のエボIXを捉え、山吹花はステアリングを握る両手に一層の力を込める。
水平対向EJ20エンジンの咆哮を響かせ、AWDの精密なトルク配分で路面を力強く掻きむしる。
眞鍋「さっきの借りをここで返してやるッ!!!!」
クールな表情の裏に獰猛な闘志を宿らせ、眞鍋はエボIXの4G63ターボを限界までスクリームさせる。
スリップストリームから外側へ僅かにノーズを振り出し、花のマシンの真横へと鋭くノーズをねじ込んでいった。
キュルルルルッ!
バチチチチッ!
火花を散らしながら並走する青と黒の車体。
4位の座を賭けた意地とプライドの激突が、チェッカー直前で一気に火花を散らす。
最終ストレートを駆け抜けながら、並走する二台の無線回線が激しく干渉し、スピーカーから荒々しいノイズが弾け飛ぶ。
ドガアアアッ!
山吹花のWRX STIの真横に、眞鍋琉斗のランエボIXが狂気配を孕んだ加速で車体を押し当てんばかりに迫る。
その殺気に満ちた気配に、花は眉をひそめながら無線越しに問いかけた。
山吹花「どういうこと?私がなんかしたの??」
眞鍋琉斗「身に覚えあるだろクソ女」
普段の冷徹な仮面をかなぐり捨てた眞鍋のドスの利いた声が、ノイズ混じりに叩きつけられる。
山吹花「あ?」
一瞬、花の声音からも柔らかさが消え、鋭いトーンが返る。
だが眞鍋の怒りはすでに沸点を突破していた。4G63のブースト圧と共に、溜まりに溜まった鬱屈を一気に爆発させる。
眞鍋琉斗「予選でも紐しゃぶってろとかゴミとか言ってたのは、お前だろおがああああ!おまけにいい気味とか言いやがってえええ!」
アクセルを床まで踏み抜き、エボIXのノーズをミリ単位でねじ込もうとする眞鍋。
その猛烈な剣幕と予想外すぎる言動に、花は純粋に目を丸くして戸惑いの声を上げた。
山吹花「えッ?なんのこと?なんでそんなにありもしない事を?」
身に覚えのまったくない罵詈雑言の数々に、花は混乱しながらもステアリングを握り直す。
しかし、そんな二台のサイドバイサイドの真後ろから、さらに巨大な影が猛烈な風圧を巻き起こしながら迫りつつあった。
眞鍋琉斗の激しい罵声が、無線を通じて容赦なく耳元へ突き刺さる。
まったく身に覚えのない悪意と暴言の数々に、山吹花の心は大きく揺さぶられていた。
山吹花「私……そんな酷いこと……誰にも言ったことないのに……」
しゅん……。
青いWRX STIの車内で、花は小さく肩を落とした。
いつもチームを優しく包み込み、凛と前を向いていた彼女の瞳が、繊細な桜の花びらが春の冷たい雨に打たれて散り落ちるように、切なく伏せられる。
ふわ……っ。
まるで散りゆく八重桜のように儚く、消え入りそうな雰囲気がコクピットを満たしていく。
アクセルを踏み込む右足の力が、悲しみとショックでわずかに抜けかけた。
ぎゅるるるる……ッ!
駆動力がほんの一瞬だけ緩み、VABのノーズがミリ単位で後退しかける。
だが、その時。
ブロオオオオオッ!
真横で激しく唸るエボIXのターボ音と、目の前に迫る白黒のチェッカーフラッグが、花の意識を現実に引き戻した。
山吹花「……でも、今はレース中なんだよね。伊藤くんやカナタくんが、最後まで全力で走ってるんだから……!」
きゅっ……!
花は涙をぐっと堪え、ステアリングを繊細かつ力強いタッチで握り直した。
傷ついた心を押し包むように、薄紅色のオーラが車体全体をふわりと包み込む。
ドゴオオオオオッ!
ズババババッ!
スバルのAWDシステムが四輪のトルクを極限まで引き出し、再び黒いランエボIXの横へと美しくノーズを押し戻していく。
眞鍋琉斗「ちっ……白々しい態度取りやがって!俺の前を行かせるかよッ!」
キュキュキュッ!
ドガアアアッ!
眞鍋のエボIXが強烈なスロットルオンでねじ込むが、花のWRX STIは桜の枝が風を受け流すかのようにしなやかなラインを維持し、イン側のミリ単位の隙間を完璧に塞ぎ続けた。
若林「4位争い、青と黒のラリーマシンが火花を散らしながらチェッカーラインへ飛び込んでいくううう!」
二台のノーズが重なり合い、火花と風圧を激しく撒き散らしながら、運命のコントロールラインを一閃した。
山吹花が戸惑いと悲しみに暮れる中、眞鍋琉斗の瞳には狂気じみた怒りの炎が燃え盛っていた。
眞鍋琉斗「なら、この俺が思い出させてやらアアアア!!!!!」
怒号とともに、ランエボIXのアクセルペダルが底板を突き破るかのように踏み抜かれる。
ドグオオオオオオッ!
バババババンッ!
4G63エンジンの排気バルブから炸裂音とともに猛烈なアフターファイアが噴き出し、漆黒の車体が青いWRX STIのドアスレスレまで肉薄する。
激しい風圧が花のVABを激しく揺さぶり、サスペンションがきしみ音を立てた。
ギシシシシッ!
山吹花「っ……!そんなの……思い出すも何も、私本当に何もしてないのに……!」
花の瞳に滲む戸惑いと切なさ。
だが、眞鍋の突進は一切の情けを容赦なく削ぎ落としていた。
ズザザザザザッ!
キュルルルルッ!
二台の四輪駆動車は互いのボディを接触限界まで寄せ合い、火花をアスファルトに撒き散らしながら、4位の座を奪い合う死闘のまま最終直線を突き進んでいく。
若林「最終ストレートォッ!山吹花のVABがリードしたああああ!」
看板への直撃を間一髪でかすめつつも、姿勢を崩して激しく失速した銀のエボIXを置き去りにし、スバルブルーの車体がストレートのセンターを堂々と切り裂いていく。
ドゴオオオオオッ!
ズババババッ!
EJ20ボクサーターボの重厚な咆哮が夜空を震わせ、AWDの圧倒的なトラクションが花のマシンを弾丸のように前へ前へと押し出していく。
後方で煙を上げながら必死にステアリングを立て直そうとする眞鍋琉斗は、バックミラー越しに遠ざかる青いテールランプを呆然と見つめ、思わず呻き声を漏らした。
眞鍋琉斗「さっきよりも鋭い一撃だな……なんだそりゃァ.....ッ!?」
ただ力任せにぶつけるのではない。荷重移動のタイミング、タイヤの接地限界、相手の視線すら誘導して完璧にラインを奪い取る、精密極まりない一撃。
山吹花「言ったでしょ。...アリもしない言いがかりで、私たちの走りを邪魔しないでエェェ!!!」
花は鋭い眼差しを前方のフィニッシュラインへと固定し、アクセルを力強く踏み抜いた。
若林「最終ストレートォッ!山吹花のVABがリードしたああああ!」
看板への直撃を間一髪でかすめつつも、姿勢を崩して激しく失速した銀のエボIXを置き去りにし、スバルブルーの車体がストレートのセンターを堂々と切り裂いていく。
ドゴオオオオオッ!
ズババババッ!
EJ20ボクサーターボの重厚な咆哮が夜空を震わせ、AWDの圧倒的なトラクションが花のマシンを弾丸のように前へ前へと押し出していく。
後方で煙を上げながら必死にステアリングを立て直そうとする眞鍋琉斗は、バックミラー越しに遠ざかる青いテールランプを呆然と見つめ、思わず呻き声を漏らした。
眞鍋琉斗「さっきよりも鋭い一撃だな……なんだそりゃァ!?」
ただ力任せにぶつけるのではない。荷重移動のタイミング、タイヤの接地限界、相手の視線すら誘導して完璧にラインを奪い取る、精密極まりない一撃。
山吹花「言ったでしょ。ありもしない言いがかりで、私たちの走りを邪魔しないでってエエ!!!!いくらバトったライバルだろうと許さないんだから!!!」
花は鋭い眼差しを前方のフィニッシュラインへと固定し、アクセルを力強く踏み抜いた。
コクピットの中で、花は荒ぶる車体の挙動をステアリングの繊細な舵角調整でねじ伏せていく。
メーターパネルのタコメーターの針がレッドゾーンの手前で激しく跳ね、シフトインジケーターの赤いランプが点滅を繰り返す。
バシュウウウッ!
カチッ!
素早いシフトアップとともに過給圧が瞬時にリセットされ、ターボチャージャーが鋭い吸気音を響かせて空気を貪り食う。
リヤディフューザーが巻き上げる強烈な雪煙とタイヤスモークが後方へ吹き荒れ、眞鍋のエボIXの視界を完全に遮断していった。
若林「68号車いったアアアアアアアア!!!!!!!」
眞鍋琉斗「くそっ……俺のランエボが、完全に置いていかれるだと……!?」
眞鍋は歯ぎしりをしながらアクセルを踏み直そうとするが、先ほどの接触と看板への急制動によってタイヤの表面温度は急激にドロップし、サスペンションのジオメトリにも狂いが生じていた。
もはやWRX STIの背中を追う余力は残されていない。
一方、前を行く山吹花は、すでに視界の先に捉えた白黒のチェッカーフラッグへと意識を研ぎ澄ませていた。
山吹花「カナタ君、伊藤君……私も、最後まで走り抜くよ!」
青い弾丸と化したVABが、強烈な風切り音とともにコントロールラインへとまっすぐに飛び込んでいく。
若林「山吹花4位でゴール!!前半戦こそ波乱でしたが見事有終の美を飾ったああああああ!!!!」
チェッカーフラッグが大きく振り下ろされ、スバルブルーのWRX STIがコントロールラインを駆け抜ける。
その直後、足回りにダメージを負いながらもどうにか持ちこたえた眞鍋琉斗の銀のエボIXがラインを通過した。
若林「5位に銀の戦闘機エボ9!!!6位にコタローのウアイラああ!!!」
カーボンファイバーの車体を夕闇に鈍く光らせながら、伊藤乎太郎のパガーニ・ウアイラが最終ストレートへ滑り込んでくる。
伊藤乎太郎「あと少しだったんだがなッ!悔しかったぜ!」
乎太郎は悔しげにステアリングを叩くが、その表情には全力を出し切った爽快感が浮かんでいた。
だが、勝負はまだ終わっていなかった。
若林「ウアイラこのままゴールか……?その後ろから猛追が来ている!!見てください!チャンピオンイエローのスイスポが横に並んだああああ!!!伊藤翔太がここできたあああ!!!最終コーナーでウアイラにインサイドから回り込むうう!!!!」
ドリュウウウッ!
キキキキッ!
鮮やかなチャンピオンイエローのZC33Sスイフトスポーツが、ウアイラの巨体のイン側へ電光石火の飛び込みを見せる。
軽量ボディを極限まで活かした鋭角的なノーズの入りに、解説席のエアリがマイクを握りしめて身を乗り出した。
エアリ「はいッス!これぞスイスポの真骨頂ッスね!ウアイラみたいな超ド級のハイパーカーは、最終コーナーの進入で強烈なダウンフォースと車重を受け止めるために、どうしてもブレーキングポイントを手前に取らざるを得ないッス!そこを翔太君は見逃さなかったッスよ!1トンを切る圧倒的な軽さを武器に、クリッピングポイントの遥か奥までノーブレーキに近い突っ込みを見せて、ウアイラがアクセルを開けられないデッドスペースへ最短距離でノーズをねじ込んだんス!立ち上がりのトラクション勝負になればパワー差で負けるッスけど、この進入のラインクロスなら完全に翔太君の間合いッス!」
伊藤翔太「届いてくれッ……!俺のスイスポォォ!!!!お前しか頼りがいねぇんだああ!!!!」
黄色い弾丸と漆黒の怪物が、火花を散らす超接近戦のままチェッカーラインへ向けて雪崩れ込んでいく。
若林「さらにコタローのウアイラに……来たああああ!!!BMW M4!!柳津雄介が来てしまったかあああ!!!!」
実況席の若林が立ち上がり、絶叫を響かせる。
最終コーナーの立ち上がり、スイスポの急襲を受けてアウト側にわずかなスペースを余儀なくされたウアイラの背後。
そこへ、アルピンホワイトのボディにDTM専用カラーを纏った獰猛なクーペが、異次元のブレーキング突進で飛び込んできた。
伊藤乎太郎「速いッ!?400馬力下の車にこんな……?」
バックミラーを埋め尽くすM4の鋭利なキドニーグリルに、乎太郎は目を見張る。
千馬力に迫るV12ツインターボを搭載したウアイラに対し、M4の出力差は歴然。それでも、その絶対的な馬力差を嘲笑うかのように、柳津のBMWはミリ単位のイン側を狂いなくえぐり取っていた。
カーボンバケットシートに身を沈め、柳津雄介は氷のように冷徹な眼光を前方のハイパーカーへと突き刺す。
普段は孤高を貫き、感情を表に出さない三十半ばのベテラン。だが、ステアリングを握り限界領域に踏み込んだ男の言葉には、研ぎ澄まされたプライドが宿っていた。
柳津雄介「レースってモノは……速さが全てじゃねェ……!!!ブレーキングできねェバカはレースなんか出るんじゃねェ!!!!!」
ズババババッ!
キキキッ!
M4 DTM Edition専用のカーボンセラミックブレーキが漆黒のローターを噛み締め、車重を完璧に前輪へ押し当てる。
リヤが微塵もブレない極限のノーズダイブから、柳津は電光石火のステアリング操作でウアイラのインサイドを完全に奪い去った。
若林「3号車も仕掛けて前に出たあああ!!!!!33号車スイスポ伊藤に続き3号車も前へエエ!!!!……一体どのようなオーバーテイクに組み込まれて来たんでしょうか?エアリさん!教えてください!!!」
解説席のモニターを食い入るように見つめていたエアリが、尻尾をピンと立ててマイクをぐっと引き寄せた。
エアリ「はいッス!これ、完全に柳津さんの職人技炸裂ッスね!ウアイラはさっき翔太君のスイスポにインを差されたことで、旋回中にアクセルを開けるタイミングが一瞬遅れて、ダウンフォースが抜けた状態だったんス!柳津さんはその一瞬の乱気流と失速を完璧に読んで、クリッピングの手前でわざとブレーキをわずかに残す『トレイルブレイキング』を極限まで深く使ったんスよ!M4の強靭なロールケージとエアロダイナミクスを信じ切って、フロントタイヤの接地荷重を1ミリも逃さずにインの最短ラインへ車体を放り込んだッス!ウアイラが姿勢を戻そうとした瞬間には、もうM4のノーズが脱出ラインを押さえていた……パワーに頼らない、純粋な減速技術とシャシーコントロールでねじ伏せた見事なオーバーテイクッス!」
冷徹な計算と極限の制動技術でウアイラを屠った柳津のM4が、直列6気筒ツインターボの硬質なサウンドを轟かせ、スイスポの背後へと躍り出る。
若林「さあ!ウアイラまでがゴールイン!そして赤色のボディを輝かせるダーティな音楽家!古賀加奈子のM5も……うおおおお!!!ここで内藤セリナのレモンカラーのR8が仕掛けたあああああ!!!」
伊藤翔太のスイスポ、柳津雄介のM4、そして伊藤乎太郎のウアイラが激闘の末に立て続けにコントロールラインを駆け抜けた直後。
後方から響き渡ったのは、地を裂くようなV10自然吸気の超高周波サウンドだった。
ヴああああああああ!!!!!
鮮烈なレモンイエローを纏ったアウディ・R8が、ストレートのイン側へ猛烈な車速で滑り込んでくる。
前を行く古賀加奈子の深紅のBMW M5が描く重厚なブロックラインに対し、セリナは悪戯っぽく瞳を輝かせた。
内藤セリナ「えへへッ☆……フミッパスライダああああああああ!!!!」
キュルルルルルッ!
バシュウウウウッ!
進入の遠心力を利用し、アクセルを抜かずに踏み抜いたままリヤを一気にスライドさせる豪快なドリフトモーション。
クワトロシステムの四輪トラクションを狂気的な全開スロットルで制御しながら、R8のノーズが深紅のセダンをミリ単位でかすめ取り、大外から豪快に回り込んでいく。
古賀加奈子「なっ……何よこの走り!狂ってるんじゃないの!?」
優雅な音楽家を自称する加奈子の表情が驚愕に歪む。
強烈な横Gを受け止めながら、レモンイエローのスーパーカーが猛烈な白煙とともにM5のサイドを完全に奪い去っていった。
若林「きたああああ!!!内藤セリナのフミッパスライダアアアアアア!!!!」
実況ブースの若林がデスクを叩きながら絶叫する中、解説席のエアリはモニターに映し出されたレモンイエローの奇跡的な挙動に、毛を逆立てて驚愕の表情を浮かべていた。
エアリ「若林さん、あれマジで人間業じゃないッスよ!普通、あのクラスのハイパワーミッドシップであの速度域からアクセル全開のままスライドに入ったら、一瞬でハイサイド食らってガードレールの餌食ッス!だけどセリナちゃんは、進入の瞬間に意図的な荷重抜けを作って、アクセル全開のままクワトロのトルク配分をリヤからフロントへ強制的に引きずり出してるッス!踏み抜くことで車体を無理やり前に引っ張りながら横滑りを維持する……恐怖心ゼロどころか、常人の三半規管じゃ即座に気絶するレベルの超絶変態テクニックッスよ!」
一方、真横で異様なスキール音を浴びせられている深紅のM5の車内では、古賀加奈子が冷や汗を流しながら驚愕していた。
古賀加奈子(……何故そんなハイパワーな車でフミッパベタ踏みでアクセルを?)
ぎゃぎゃん!!!
若林「いけたああああ!!!狙い済ました渾身のフェイントがM5に迫るううう!!!!!M5がのされていくううう!!!!」
大外から強烈な遠心力を纏って迫るレモンイエローの車体に視界を圧迫され、重厚なM5のノーズがプレッシャーでじりじりと押し戻されていく。
古賀加奈子(……何してるのよあんた……。その見た目でその技は……人間じゃない……ッ!頭おかしいの……?病院行く?……何か言いなさいよォ……ッ!)
だが、セリナの狂気的な走りはそこで終わらなかった。
旋回の頂点、わずかに膨らみかけたR8のアウト側のリアタイヤが、コース外縁のアスファルトの段差――外側の深い側溝の縁へ吸い込まれるように落ちていく。
どごっ!!!!
ごぎゃあああああ!!!
金属とゴムが激しく路面を叩く激突音とともに、R8のサスペンションが限界まで縮み切る。
溝のフチを壁面のように利用した強烈な引っ掛かりが、膨らもうとするマシンを無理やり旋回軸の中心へと引き戻した。
若林「R8が前にきたああああ!!!!」
溝落としの反動を推進力へと変換し、レモンイエローのスーパーカーがM5の目の前へと躍り出た。
その光景に、エアリが再びマイクを握りしめて叫ぶ。
エアリ「出たッス!外側の溝を使った強制的な遠心力キャンセルッス!普通なら足回りが粉砕されて終わりッスけど、セリナちゃんはフミッパで四輪を回し続けることで、溝からの衝撃を全部前進するトラクションに変えちまったんスよ!まさに命知らずの神業ッスねー!」




