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86伝説エーペックス  作者: SAI
吾妻GT編
PR
530/534

吾妻編第66話SP 無限の先に

吾妻GT完結!!!!

86伝説エーペックス蔵王編 2027年4月続編開始予定!!!

それまで同作者のPE3や新アドバンテイルを進めます!!!

アドバンテイルはエアリの過去がわかります!

そして大事なことが...86伝説エーペックス!ゲーム映像化決定!!!!

吾妻の最終複合コーナーへ向けて、首位を争うマシン群が密集隊形となって雪煙を切り裂いていく。

先頭を死守するフリスのポルシェ718ケイマンGT4は、路面μが激しく変動する難所にあっても寸分の狂いもない軌道を描き続けていた。


その真後ろから車体をねじ込むのは古賀加奈子のBMW M5。

圧倒的な車重と大排気量ツインターボから放たれる熱気、そして後流のダーティエアが背後からフリスへ容赦なく叩きつけられる。


フリス「我の描く絶対ラインを越えることは誰にも許されない。結末はすでに定まっている」


冷徹な宣告とともにケイマンGT4はミリ単位のイン側を閉ざした。

直後、猛烈なピンク色の波動が背後から炸裂する。イヨの白いGRスープラが重力操作の力場を展開しながら強引に古賀のM5のイン側へとノーズを差し込んだ。


イヨ「えっへん☆イヨの重力でまとめて吹き飛ばしちゃうよ!」


濃密な重力波がM5の巨体をわずかに押し出し、GRスープラが2位へと躍り出る。

だが、その後方ではさらに熾烈な死闘が繰り広げられていた。


腹切カナタのREVIVE86は、左フロントタイヤの限界を迎えつつも、路肩の微小な傾斜と側溝の段差を引っ掛けて強烈な旋回力を引き出している。

山吹花のWRX STIがすぐ隣で強固な壁となって後続の追撃を遮断し、カナタの走行ラインを死守していた。


山吹花「カナタ君、前だけを見て走って!ここは私が抑え込むから!」


カナタはステアリングから伝わる激しい振動を力強くねじ伏せ、スロットルを踏み抜く。


腹切カナタ「俺の86はまだ死んじゃいない。タイヤがどうだろうと食らいついてみせる!」


その直後、極寒の冷気を纏うちとせのRZ34が青い軌跡を描いて並びかけてくる。


ちとせ「もへ〜。冷たい氷の底へ沈みな〜....☆」


絶対零度の冷気が路面を瞬間凍結させようとするが、眞鍋のランエボIXが強烈な四駆トラクションでその氷を砕き割りながら突頭してきた。


眞鍋「俺の前を塞ぐ奴は誰だろうとねじ伏せるだけだ!」


さらに大外からは伊藤乎太郎のパガーニ・ウアイラが気流の隙間を滑空するように加速し、一瞬で先頭集団へ肉薄する。


伊藤乎太郎「わかるよ。風が、ボクに道を教えてくれてるんだ」


最終シケインを立ち上がり、残す直線はわずか数百メートル。


フリス、イヨ、古賀、カナタ、花、ちとせ、眞鍋、コタローが全開加速でチェッカーフラッグへと雪崩れ込んでいく。


五台の加速音が重なり、フィニッシュラインまで残りわずか。


腹切カナタは、重力の残滓を受けたREVIVE86をどうにか前へ押し出していた。


ぽんっ!


ギュアアアアアアアッ!


ステアリングから伝わる振動は荒い。


左フロントはとっくに限界へ近づき、エンジンも息を切らしている。それでも目の前には花のVAB、イヨのGRスープラ、そして逃げるフリスのケイマンがいる。


腹切カナタ「まだだ。あと少しだけ持ってくれッ!」


その時だった。


バックミラーの隅。


白い何かが、凄まじい勢いで大きくなる。


腹切カナタ「ッ!?」


ゴアアアアアアアアッ!


白いRZ34。


ちとせだった。


いつの間にか眞鍋の横を抜け、赤い86の真後ろへぴたりと張りついている。


だが。


カナタが最初に感じたのは、車の速さではなかった。


背中を這うような、異様な冷たさ。


ちとせ「見つけた」


その一言だけで、さっきまでののんびりした空気が消えた。


声が低い。


柔らかさも、冗談も、どこにもない。


まるで真冬の夜にできた細い氷柱を、そのまま耳の奥へ差し込まれたような声だった。


腹切カナタ「ちとせさん」


ちとせ「名前を呼ぶ余裕はあるんだ。ならもう少し削れるね」


腹切カナタ「何を」


ちとせ「お前の余裕。」


ギュオオオオオオッ!


Zが僅かに右へ振る。

カナタは反射的にミラーを見る。


だが次の瞬間には、ちとせは左側へ。


ただ追い抜こうとしているのではない。


カナタに、後ろを意識させている。


前だけを見させない。


一瞬でも集中を分散させれば、すぐ先に迫るフィニッシュ直前の高速ラインで86は簡単に姿勢を崩す。


ちとせ「前を見れば、後ろが怖い。後ろを見れば前に置いていかれる。困ったね」


腹切カナタ「性格悪すぎだろッ」


ちとせ「今さら?お前が勝手に、おじさんを優しい人だと思ってただけだよ」


腹切カナタ「ッ」


ちとせ「レースの最後まで残った奴に、優しくする理由なんてどこにあるの?」


白いZが、86の真後ろへ再び戻る。


そこから生まれる乱れた空気が赤い車体を細かく揺さぶった。


ギシッ。


腹切カナタ「くッ!」


弱ったサスペンションが一度、大きく沈む。


その動きを、ちとせは見逃さない。


ちとせ「今、左が沈んだ。さっきより遅い。かわいそう」


言葉だけを聞けば同情しているようにも聞こえる。


だが声音には、一片の温度もなかった。


ちとせ「もう機械が、お前についていけなくなってる」


腹切カナタ「黙れ」


ちとせ「嫌。最後まで聞いて」


RZ34のヘッドライトが、ミラーいっぱいに広がる。


ちとせ「お前がステアリングを握ってる限り、その86は、自分から止まれない。だから壊れるまで走らされる」


腹切カナタ「……」


ちとせ「それを根性って呼ぶなら」


一拍。


ちとせ「ずいぶん残酷だね、カナタくん」


その言葉に、カナタの指が一瞬だけ強くステアリングを握り込んだ。


腹切カナタ「俺の車のことを、勝手に決めるな」


ちとせ「決めてないよ。見えてるだけ」


ちとせは淡々と続ける。


ちとせ「タイヤの逃げ方。ブレーキを離した後の揺れ。シフトを入れた時の一瞬の間。全部、前より鈍い。それでも気づかないふりしてるのは、お前だけ。お前がどれだけ必死に腕を振っても、摩耗したゴムは元に戻らない。金属の疲労も、熱ダレした油温も、お前の熱量じゃ冷やせない。現実を見なよ」


腹切カナタ「現実なら、目の前のラインしか見てねえよ!」


ちとせ「それが盲目だって言ってるの」


ぽんっ!


カナタが強引にシフトアップ。


REVIVE86が再び前へ伸びる。


しかし。


ごぎゃああああああッ!


RZ34も同時に加速した。


離れない。


むしろさらに近づく。


ちとせ「逃げてもいいよ」


腹切カナタ「は?」


ちとせ「おじさんからじゃない」


少しだけ間を置く。


ちとせ「勝ちたいって気持ちから」


腹切カナタ「……」


ちとせ「楽になるよ。アクセルを少し戻して、前の三台を見送って、今日のところは十分だったって、自分に言い聞かせればいい。そうすれば壊さなくて済む」


腹切カナタ「ふざけんな」


ちとせ「ふざけてない。だから厄介なんだよ」


腹切カナタ「ッ」


ちとせ「おじさん、今ものすごく真面目だから。熱くなった頭を、絶対零度まで冷ましてあげる。無駄な足掻きをここで終わらせるのが、一番の救済だよ」


腹切カナタ「救済だと?余計なお世話だ!」


その瞬間。


ズギャアアアアアアンッ!


RZ34が一気に右へ飛び出した。


カナタの横へ。


ドア一枚分。


さらに半車身。


腹切カナタ「来やがったッ!」


ちとせは横へ並びながら、カナタの方を見もしない。


ただ前だけを見ていた。


ちとせ「もう最後だよ。ここから先は、速いとか上手いとかそんな話じゃない。最後まで自分を壊さずに残った奴が、前にいる」


腹切カナタ「だったら俺も残る!」


ちとせ「そう」


わずかな沈黙。


そして。


ちとせ「じゃあ、証明して。お前の執念が、壊れかけの86より価値があるって。薄っぺらいプライドごと、凍りついて消えなよ」


腹切カナタ「ッ!」


二台のエンジン音が重なる。


赤いREVIVE86。


白いRZ34。


前方にはフリス、イヨ、花。


背後からは眞鍋も迫っている。


フィニッシュラインまで、もう数百メートルもない。


それでもちとせの声だけは、エンジンの咆哮を切り裂いてカナタの胸へ届き続ける。


ちとせ「さあ。最後まで踏みなよ。おじさんが横で見てあげるからさ。」


ほんの一瞬だけ、冷たい笑みを浮かべる。


ちとせ「お前がどこまで壊れずにいられるか、見ててあげる。お前がどれだけ熱くなっても、おじさんが先にそこへ着けば」


一拍。


氷柱の先端を心臓へ押し当てるような、鋭く冷たい声。


ちとせ「カナタくん...いや、お前の物語は、そこで閉じる」


ギュオオオオオオオオオッ!


腹切カナタ

「終わらせるかよォォォォッ!」


REVIVE86が再び前へ押し返す。


ちとせは横目でそれを見る。


その瞳には、もう温度らしいものが一切残っていなかった。


ちとせ「じゃあ証明して。その壊れかけの赤い戦闘機で、おじさんの前までちゃんと来てみな」


最終ストレートの路面に潜む、わずかな隆起。


時速二百キロを遥かに超える超高速域で、絡み合うように加速していたマシン群がそのギャップへ同時に突っ込んだ。


ドンッ!


ドガアアアアンッ!


強烈な衝撃とともに、三台の車体がアスファルトを離れて虚空へと跳ね上がる。


若林「3台サイドバイサイドで飛んだああああ!2位グループ3台が激しくなってきたあああ!」


実況席の絶叫を切り裂くように、吹き荒れる風と金属の軋み音が重なり合う。


イヨのGRスープラ、山吹花のWRX STI、そして腹切カナタのREVIVE86。


三台が完全に横並びのまま、数センチの隙間もない空中戦へと突入していた。


ヒュオオオオオッ!


バシュウウウッ!


宙に浮いたイヨのスープラから、ピンク色の重力粒子が激しく吹き出す。


イヨ「ふわふわジャンプだよ!ここから一気に落ちて加速しちゃうんだから!」


グワアアアッ!


空中で重力場が歪み、スープラのノーズが強制的に路面へと引き倒される。


その真横、花のWRX STIは四輪の駆動力を空転させず、水平姿勢を完璧に保ったまま空中を滑空していた。


山吹花「カナタ君、着地で姿勢を乱さないで!このまま前へ出るよ!」


腹切カナタ「ああ!俺の86はまだ飛べる!絶対に前へ行くッ!」


ギュルルルルッ!


バババババッ!


カナタのREVIVE86は、激しく消耗した左フロントを庇うように僅かに傾きながらも、限界ギリギリの回転数でタイヤを唸らせる。


だが、その直下。


凍てつく蒼い影が、路面すれすれを滑るように割り込んできた。


ちとせのRZ34だ。


ちとせはジャンプの衝撃をサスペンションのストロークで完全に殺し、誰よりも早く路面を捉えていた。


ザザザザッ!


キイイイインッ!


ちとせ「飛んでる間は、ステアリングが効かないね。無防備だよ」


冷酷な言葉とともに、RZ34のマフラーから絶対零度の冷気が爆発的に吐き出される。


ドスンッ!


ズシャアアアアッ!


着地した三台の足回りが悲鳴を上げる。


火花が激しく飛び散り、サスペンションが底突きを起こす鈍い音が響き渡る。


ガシャアンッ!


腹切カナタ「ぐッ!踏ん張れ86!」


着地の衝撃で左へ流れそうになる車体を、カナタは腕の力だけで強引に抑え込んだ。


キュルルルルッ!


タイヤスモークと雪煙が激しく混ざり合い、視界が真っ白に染まる。


その白銀の煙を突き破り、首位のフリスが駆るケイマンGT4のテールランプが眼前に迫っていた。


バオオオオオッ!


フリス「追いつくことは叶わぬ。このラインこそが絶対の境界だ」


フリスの放つ冷徹なオーラが、後続を拒絶するように路面へ叩きつけられる。


だが、2位グループの熱量はそれを遥かに凌駕していた。


イヨの重力加速、花の電光石火の四駆トラクション、カナタの命を削るような突進、そしてちとせの冷気。


ドゴオオオオッ!


チェッカーフラッグが振り下ろされるその瞬間へ向けて、全車が限界を超えたフルスロットルで突入していく。


実況の熱気が最高潮に達する中、解説席のモニターを食い入るように見つめていたエアリが、勢いよくマイクを握りしめて身を乗り出した。


エアリ「はいッス!あのカタパルト橋の超高速ジャンプ、とんでもない空中戦だったッスね!特にカナタ君のREVIVE86の動き、あれはただの勢いじゃないッスよ!」


身振り手振りを交えながら、エアリは白熱した走りの裏にある精密な技術を淀みなく解説し始める。


エアリ「普通ならあの速度で3台並んで踏み切ったら、左フロントのタイヤが死んでる86は着地の瞬間にアンダーステアを出して壁に突き刺さるッス!だけどカナタ君、ジャンプ台の直前でわずかに右へ振ってから一気に左へ荷重を乗せ直す『フェイントモーション』を入れていたッス!」


モニターのスロー映像を指差し、尻尾をパタパタと揺らしながら言葉に熱を込める。


エアリ「あれによって、踏み切る直前に弱った左サスペンションを一度完全に縮ませて、反発のタイミングをジャンプの離陸と完璧に同期させたんス!空中に飛び出す瞬間、車体のロール剛性を意図的に均等へ戻すことで、着地した瞬間のタイヤへの衝撃を四輪へ綺麗に分散させたんスよ!だから着地の強烈なGでも挙動を乱さず、イヨちゃんの重力場と花ちゃんの四駆の推進力に挟まれながらも、綺麗に前へトラクションを伝えられたんス!」


エアリ「まさに命がけの極限コントロールッス!86の限界を完全に把握しているカナタ君だからこそできた、神業レベルの空中姿勢制御ッスよ!」


熱気あふれる解説が響く中、コース上ではいよいよ運命のチェッカーが目前へと迫っていた。


着地の瞬間、エアリの解説通り完璧な荷重コントロールでトラクションを路面へと伝えたREVIVE86が、凄まじい蹴り出しを見せた。


キュオオオオオオッ!


ドガアアアアンッ!


消耗しきった左フロントタイヤから悲鳴のようなスキール音が上がるが、カナタは一切アクセルを緩めない。車体をミリ単位で制御しながら、イヨのGRスープラと花のWRX STIのわずかな間隙をこじ開けるようにノーズをねじ込んだ。


若林「腹切カナタが大逆転だあああ!」


実況ブースの絶叫がサーキット中に轟く。


山吹花「ッ!」


真横をすり抜けていく赤い残像に、花は息を呑みながらもステアリングを握り直す。


山吹花「行けエエエ!カナタ君!!」


後方からその光景をモニター越しに捉えていた伊藤翔太も、思わずシートの中で拳を強く握りしめて叫んでいた。


伊藤翔太「.....カナタッ!」


先行していたフリスのケイマンGT4の背後、真のトップ争いへと赤い戦闘機が躍り出る。


腹切カナタ「俺と86は、まだ終わっちゃいねええええッ!」


リミッターを振り切るエンジンの咆哮とともに、カナタの86はチェッカーフラッグが待つフィニッシュラインへ向けて一気に突き進んでいく。


三台が極限のサイドバイサイドを維持したまま突入した最終ストレート。

一番イン側で逃げ場を失っていた白いRZ34の挙動が、唐突にふわりと乱れた。


ちとせ「うわあぁぁぁ〜♪」


のんびりとした気の抜けた声を響かせた瞬間、Zのリアタイヤが縁石の凍結した突起に弾かれ、完全にグリップを失った。


ズざあああああッ!


キキキキキキッ!


白煙と火花を激しく撒き散らしながら、白いRZ34が豪快に360度フルスピンを喫する。

後方を走っていたサテラが無線越しに悲鳴を上げた。


サテラ「ちとせく〜ん!」


腹切カナタ「ッ!....ちとせさん!?」


イヨ「えっ!?ちとせおじさん何やってるの〜!?」


ギュオオオオオオオオッ!


ドバアアアアンッ!


カナタのREVIVE86とイヨのGRスープラは、スピンしながら遠ざかる白い車体をコンマ数秒で置き去りにし、猛烈な加速音を轟かせて突き抜けていく。

カナタはバックミラー越しに小さくなるZの影を視界の隅で捉えつつ、息を呑んで前方を睨みつけた。


腹切カナタ「あんなに冷静だった奴が、最後の最後で足元をすくわれるなんて……!」


イヨ「もったいないけど、これでもう邪魔者はいないね!一気にフリスを捕まえるよ!」


若林「ちとせスピいいいんっ!土壇場でまさかのスピンでえええすッ!」


実況席の若林が立ち上がって絶叫する中、解説席のエアリが呆れたようにモニターへ視線を投げた。


エアリ「はい!どう考えても赤い戦闘機にちょっかいを出したバチが当たったね!」


直後、エアリは手元のマイクのスイッチをパブリック通信のギリギリに乗せ、ちとせにだけ届くか届かないかの低いトーンで吐き捨てた。


エアリ「違反だってさっさと気づけよ。バカじゃねェんだからッ」


若林「へ?いまなんて?」


エアリ「バカだと言ったんですよ。ちったあ頭使えやッ!あ、申し訳ないッス!声が勝手に!」


リタイアし、コース脇のセーフティエリアからモニターを見上げていた菜園宗一郎が苦々しく奥歯を噛み締める。


菜園宗一郎「あいつッ」


【ライブ配信コメント欄】

・草ァ!?ちとせ何やってんのwwwwww

・ここで360度スピンは伝説すぎるwww

・ちとせ「うわあぁぁぁ〜♪」じゃないがwwwww

・解説のエアリちゃん急に口悪くなってて草

・エアリ「バカだと言ったんですよ」wwwwwww

・本音ダダ漏れで草生えるッス

・カナタとイヨが完全に抜けたぞおおおおお!!

・誰が勝つんだこれマジでわからん!!!


若林「その後ろからは……」


首位争いの三台がチェッカー直前で火花を散らす、そのすぐ背後の暗闇。

雪煙とオイルの焼ける匂いが充満するストレートへ、獰猛な四気筒ターボの爆音が鋭く響き渡った。


ぎゃぎゃあああああん!!!


路面のわずかなグリップを四輪すべてで無駄なく毟り取り、猛烈な突進力で距離を詰めてくる黒い影。


若林「来たあああ!!!眞鍋だあああッ!!!!!」


三菱ランサーエボリューションIX MR。

幾重もの死闘と乱気流を潜り抜けてきたその車体は、一切のブレもなく直線的な最短ラインを穿ち抜いていた。


コクピットの中で、眞鍋は荒ぶるステアリングを氷のように冷徹な眼差しでミリ単位に制御する。


眞鍋「前がどれだけもつれようと関係ない。俺はただ、最短のラインを最速で駆け抜けるだけだ」


感情を一切交えない低い呟きとともに、シフトノブを叩き込む。

極限のバトルで乱れた前方の気流すらも計算に入れ、ランエボのノーズが先行集団の背後へと容赦なく突き刺さっていく。


ちとせのRZ34が豪快にスピンしたその一瞬の隙間。

煙と火花が渦巻く極小のインサイドを、スバルブルーの閃光が矢のように貫いた。


ズバアアアアアンッ!


強烈な四駆トラクションで路面を蹴り上げ、カナタの86とイヨのGRスープラの真横へ一気に滑り込んでくる。


若林「うおおおっと!そこにVABだあああ!」


イヨ「なにッ!?イヨに並んでェ!?」


腹切カナタ「花!」


バックミラーを見る間もなく並びかけてきた青い車体へ、カナタは驚愕の声を漏らす。

隣でステアリングを握る山吹花は、息を切らしながらも静かに微笑んでいた。


山吹花「来たよ、カナタくん!」


普段の仲間を包み込むような柔らかさを湛えつつも、その瞳には凛とした決意の光が宿っている。


山吹花「カナタ君が前を諦めないなら、私も絶対に引かない。一緒に走れて本当によかった」


若林「Zがスピンした時にインを捩じ込んで追いついてきたあああ!3台サイドバイサイドおおお!」


若林「その前方12秒後、ケイマンGT4がチェッカーだあああああ!」


若林「優勝は、絶対王者フリスああああ!やはりこの白きポルシェの栄光には敵わなかったのかあああ!!!!!」


若林「その後ろで2位争いが激しいいいい!」


先行するフリスが悠々とチェッカーを受ける中、コース上では2位の表彰台を賭けた極限の三つ巴が火花を散らす。


イヨ「フリスに逃げられたのは悔しいけど、2位は絶対に渡さないんだから!」


濃密なピンク色の重力波を全方位へ展開し、路面を押し潰すようにして前に出ようとするイヨのGRスープラ。

対する山吹花は、水平対向ターボの重低音を響かせ、AWDの精密な前後駆動配分で重力場を力強く切り裂いていく。


山吹花「カナタ君、伊藤君、そしてチームのみんなの想いも、この車に乗ってるの!」


そして大外から、満身創痍のREVIVE86を限界のその先へ押し込む腹切カナタ。


腹切カナタ「俺たちの走りを、ここで全部出し切るッ!」


三台のノーズが完全に一直線に並び、ミリ単位の差で運命のチェッカーラインへと突入していく。


若林「肝心の2位争いッ!GRスープラと86が僅かにリードオオオオオオ!」


チェッカーラインまで残りわずか百メートル。

山吹花のWRX STIをわずかに引き離し、イヨのGRスープラと腹切カナタのREVIVE86が並走したまま猛烈な火花を散らし合っていた。


エンジンが限界を超えて悲鳴を上げ、二台のノーズがミリ単位で前後する。

その時、白いGRスープラの運転席側のウィンドウがスルスルと開いた。


中から覗いたのは、白髪の猫耳をぴこぴこと揺らし、大きなピンク色の萌え袖を風になびかせる愛らしい11歳の少女の姿だった。


イヨ「えっへん☆カナタお兄ちゃん、2位はイヨがもらったよ〜!」


無邪気で天真爛漫な笑顔とともに、萌え袖の先から濃密なピンク色の重力波動が凝縮された、太く甘い香りを放つわたあめの糸が勢いよく撃ち出された。


シュパアアアンッ!


ベチャッ!


ピンク色の粘着糸が、全開加速中のREVIVE86の左フロントフェンダーとホイール周辺へ完璧に絡みつく。


ズズズズズッ!


腹切カナタ「なっ……なんだこれッ!?」


イヨ「ぐぐ〜〜〜っと引っぱっちゃえ〜☆」


見た目は小さくて愛らしい女の子が放ったとは思えない、凶悪な超重力の牽引力が発生する。

スープラの車体と86がピンクの糸で直結され、86のフロントノーズが強烈な力で斜め後方へと引きずり込まれた。


キキキキキキッ!


すでに限界を迎えていた86の左フロントタイヤが激しい抵抗を受け、車体が外側へと強烈に押し流される。致命的なアンダーステアが牙を剥いた。


腹切カナタ「くそっ、ステアリングが重え……!フロントが逃げていく!」


カナタは歯を食いしばり、両腕の筋肉を張り詰めてステアリングを力づくで抑え込もうとする。

だが、甘いお菓子の匂いとは裏腹に、イヨの破壊神としての重力拘束は86の進路を容赦なく狂わせていた。


太いピンクの糸から伝わる凄まじい重力負荷が、REVIVE86の左フロントサスペンションを限界まで押し潰していた。


ギギギギギッ!


バキキキッ!


路面を捉えるべきタイヤが完全に外側を向き、グリップの限界を超えてアスファルトを削り取る。


腹切カナタ「くそッ!フルスロットルでもサスペンション持ってかれるッ!」


カナタがいくら腕力でステアリングをねじ込もうとも、車体は無情にもアウト側へと押し流されていく。


ズザザザザザッ!


キュルルルルルッ!


白煙を激しく巻き上げながら、赤い車体が激しく滑り散らかした。

リヤが激しく暴れ、スピン寸前の強烈な慣性Gがカナタの身体を容赦なく揺さぶる。


その様子をバックミラーで確認したイヨは、助手席側のウィンドウからピンクの萌え袖を軽くひらめかせた。


イヨ「えいっ☆」


クイッ!


ピシィィィィンッ!


イヨが手首を逆方向へと軽くひねると、張り詰めていたわたあめの糸に逆位相の重力波動が走る。


ブツンッ!


シュルルルルルッ!


ピンと張られていた太い糸が弾けるように千切れ、ピンク色の光の粒子となって収束しながら、イヨのふんわりとした萌え袖の奥へと吸い込まれるように消え去った。


パシュウウウッ!


拘束から解放されたREVIVE86のノーズが一気に自由を取り戻すが、急激なトラクションの復活によって車体が激しく左右へ揺れる。

カナタは電光石火のカウンターステアで強引に挙動を抑え込み、再びスロットルを踏み抜いた。


ドガアアアアッ!


若林「ゴールまであとわずかああああ!86ターボか!?それともGRスープラかああああ!?」


チェッカーまで残すは、高速の連続S字からなる残り3コーナー。


首位のフリスが駆け抜けた後の冷え切ったアスファルトへ、2位争いを繰り広げる二台が超高速のまま突入していく。


ドリュウウウウッ!


先頭を行くイヨのGRスープラは、車体周囲の重力を局所的に高めることでダウンフォースを疑似的に増大させ、タイヤを路面へ強引に押し付けながら1つ目の右コーナーを鋭角的に切れ込んでいく。


イヨ「このまま逃げ切っちゃうよ!イヨのスープラは曲がりきれちゃうんだから!」


ギチチチチッ!


ピンク色の重力波がアスファルトをきしませ、スープラがイン側の縁石すれすれを猛スピードでトレースする。


だが、その真後ろ。


先ほどのスピン寸前のスライドから体勢を立て直した腹切カナタのREVIVE86が、凄まじい気迫で食らいついていた。


ボッ!


ドガアアアッ!


左フロントタイヤはもはや完全にトレッド面が荒れ果て、ステアリングを切り込むたびに強烈なアンダーステアの振動が両腕を襲う。


それでもカナタはアクセルを緩めない。


腹切カナタ「タイヤが死んでるなら、荷重移動で曲げるまでだッ!」


カナタはコーナー進入の刹那、鋭いブレーキングから一気にステアリングをこじり、リヤを意図的に流し出すフェイントモーションを敢行した。


ズザザザザッ!


左フロントのグリップ不足を、強烈なリヤのスライドとアクセルオンによるトラクションでねじ伏せ、スープラのイン側へとノーズをねじじり込んでいく。


若林「残り3コーナー!スープラが抑えるか、86がこじ開けるか!2台が完全に接触寸前の超接近戦だあああ!」


2つ目の左への切り返し。


切り返しのGで車体が激しく軋む中、イヨとカナタの視線が火花を散らすように交錯する。


イヨ「うわっ、まだついてくるの!?本当にしつこいんだから!」


腹切カナタ「2位の座は、絶対に譲らねえ!」


ギュオオオオオオオッ!


そして運命の最終コーナーへ向けて、二台は互いのボディを擦り合わせるようなサイドバイサイドのまま雪崩れ込んでいった。


若林「2コーナー目もサイドバイサイドを継続中うううう!」


実況の絶叫が響く中、激しい切り返しのGに抗いながら二台のマシンが立ち上がっていく。


ギュイイイイイインッ!


ドロロロロロオオッ!


直列4気筒ターボが絞り出すREVIVE86の鋭利な咆哮と、B58直列6気筒ツインターボの重厚なビートを響かせるGRスープラの加速音が重なり合い、山あいのサーキットを震わせる。


互いのドアミラーが接触しそうなほどの超至近距離のまま、二台は一歩も引かずにスロットルを踏み抜き合っていた。


若林「大変になってきましたよエアリさん!この2台どうなるんでしょうかね?」


解説席のモニターを鋭い赤い瞳で見据えながら、エアリは耳をぴんと立てて冷静に戦況を分析し始めた。


エアリ「はいッス!これ、めちゃくちゃギリギリのせめぎ合いッスね!純粋なマシンスペックと立ち上がりのトルク、それに重力操作による強制的なトラクションを考えれば、完全にイヨちゃんのGRスープラが優勢ッス!」


エアリは身を乗り出し、画面上の二台の軌跡を指差す。


エアリ「だけど、カナタ君のREVIVE86はさっきのフェイントモーションで左フロントの摩耗を完全にリヤの旋回力でカバーする走りに切り替えているッス!立ち上がりのライン取りとノーズの入り方はカナタ君の方がわずかに鋭いッスよ!パワーと重力で強引じねじ伏せるスープラか、極限の荷重移動と執念でラインを奪い取る86か……最終コーナーの立ち上がりラインをどっちが先に押さえるかで勝負が決まるッス!」


最終コーナーへのアプローチ。残るはたったひとつの複合旋回のみ。


赤と白、二台のトヨタが完全に並走したまま、時速二百キロを超える超高速領域で飛び込んでいく。


ギュオオオオオオッ!


ドロロロロロオオッ!


イン側を力づくでキープするイヨの白いGRスープラ。直列6気筒ツインターボの圧倒的な分厚いトルクが、リヤタイヤを路面へ強烈に押し付ける。


イヨ「えっへん☆小細工なしでも、イヨのスープラが一番速いんだから!」


バシュウウウッ!


ブースト圧を限界まで高めたスープラが、イン側の縁石を激しく踏み荒らしながらノーズをねじ込んでいく。

純粋なパワーと最新シャシーの剛性で、強引にカナタのラインを押し潰しにかかる。


だが、大外に位置する赤いREVIVE86も絶対に引かない。


腹切カナタ「パワーで劣ってようが、タイヤが終わってようが……この86の曲がり方は俺が一番知ってるッ!」


ドガアアアッ!


ズシャアアアアッ!


カナタは旋回の限界点ギリギリで鋭い荷重移動を敢行。

左フロントの消耗を補うように車輪の荷重を斜め後ろへ逃がし、リヤタイヤをわずかに滑らせながら異次元の旋回速度で回り込む。


キュルルルルルッ!


バキキキッ!


火花とタイヤスモークが二台の間で爆発的に吹き荒れる。

ボディとボディが数ミリ単位で擦れ合い、互いのサイドミラーが風圧で激しく軋む。


イヨ「うわっ、外から被せてくるの!?負けないんだからーっ!」


ドガガガガッ!


腹切カナタ「行けえええっ、86ッ!」


ギュイイイイイインッ!


立ち上がりへ向けて、二台同時に全開フルスロットル。

白煙を切り裂き、赤と白のノーズが完全に一直線に並んだまま、最終ストレートのチェッカーフラッグへと弾丸のように射出された。


最終コーナーへのアプローチ。残るはたったひとつの複合旋回のみ。


赤と白、二台のトヨタが完全に並走したまま、時速二百キロを超える超高速領域で飛び込んでいく。


ギュオオオオオオッ!


ドロロロロロオオッ!


イン側を力づくでキープするイヨの白いGRスープラ。直列6気筒ツインターボの圧倒的な分厚いトルクが、リヤタイヤを路面へ強烈に押し付ける。


イヨ「えっへん☆小細工なしでも、イヨのスープラが一番速いんだから!」


バシュウウウッ!


ブースト圧を限界まで高めたスープラが、イン側の縁石を激しく踏み荒らしながらノーズをねじ込んでいく。

純粋なパワーと最新シャシーの剛性で、強引にカナタのラインを押し潰しにかかる。


だが、大外に位置する赤いREVIVE86も絶対に引かない。


腹切カナタ「パワーで劣ってようが、タイヤが終わってようが……この86の曲がり方は俺が一番知ってるッ!」


ドガアアアッ!


ズシャアアアアッ!


カナタは旋回の限界点ギリギリで鋭い荷重移動を敢行。

左フロントの消耗を補うように車輪の荷重を斜め後ろへ逃がし、リヤタイヤをわずかに滑らせながら異次元の旋回速度で回り込む。


キュルルルルルッ!


バキキキッ!


火花とタイヤスモークが二台の間で爆発的に吹き荒れる。

ボディとボディが数ミリ単位で擦れ合い、互いのサイドミラーが風圧で激しく軋む。


イヨ「うわっ、外から被せてくるの!?負けないんだからーっ!」


ドガガガガッ!


腹切カナタ「行けえええっ、86ッ!」


ギュイイイイイインッ!


立ち上がりへ向けて、二台同時に全開フルスロットル。

白煙を切り裂き、赤と白のノーズが完全に一直線に並んだまま、最終ストレートのチェッカーフラッグへと弾丸のように射出された。




若林「4位、山吹 花!! チームの精神的支柱がその実力を見せつけたアアアッ!! そして5位には、初出場にしてこの死闘を生き抜いた眞鍋 琉世!! 銀の戦闘機を操るルーキーが、トップ集団の一角を崩したアアアッ!! 眞鍋、また出会う時は来るのだろうかアアア!!?? 続く6位には、最下位付近から大逆転の嵐を巻き起こした風の神、伊藤 乎太郎だアアアアアアッッ!!!!」


眞鍋 琉世「……ちっ、5位か。……先生を抜き返したまでは良かったが、あの三台の『絆』には一歩及ばなかったか。……面白い。腹切 カナタ、お前のライン、次は俺が完璧に撃墜してやる。……また戦場(コース)で会おうぜ。」


伊藤 乎太郎「……風が、止まったね。……眞鍋さんの後ろを走って、ボクは新しい風の形を知ることができた。……ボクのウアイラは、まだまだ速くなれる。……古田さん、最高のセッティングをありがとう。……次はボクが、一番綺麗な風を掴むよ。」


若林「七つの宝石が今、吾妻の地にそれぞれの輝きを刻み、長い戦いに幕を下ろしたアアアッ!! 勝者も敗者も、その魂は今、達成感と次なる闘志に燃え上がっているはずだアアアアアアッッ!!!!」


若林「そしてM5……おおおおお!!?? 栄光のチェッカーまで残りわずか、紅い壁の背後から弾け飛ぶような加速だアアアッ!! スズキ・スイフトスポーツが仕掛けたアアアッ!! 伊藤 翔太だアアアアアアッッ!!!!」


(キィィィィィィィィィィンッ!!! 1.4リッターターボが限界を超えた咆哮を上げる)


若林「加奈子が放つ絶望の『ダーティエア』、その濁流のど真ん中を、翔太のスイスポがまるで針の穴を通すような鋭さで突き抜けていくッ!! 2.4トンのM5に対し、1トンを切るスイスポの軽快さが、この超高速域での土壇場で牙を剥いたアアアッ!!」


古賀 加奈子「……っ!? 伊藤くん!? バカな……私のM5が作る気流を、真っ向から切り裂いてくるというの!? このダーティエアの重圧に、その小さな車体で耐えられるはずが……ッ!!」


伊藤 翔太「……加奈子先生! 変わったのは、古賀先生だけじゃないってこと……見せてやるんだアアア!!!! 俺はもう、先生の後ろをついていくだけの生徒じゃないッ!! 吾妻の風は、俺のこの手で、俺のスイスポで掴み取ってみせるッ!! いけえええええええッッ!!」


若林「来たアアアアアアッ!!!! これを待っていたんだという視聴者コメントは言わんばかりッ!! 師を越えようとする弟子の咆哮が、吾妻の山麓を震わせるッ!! 加奈子のM5、タイヤのタレからくる僅かな加速の鈍りを見逃さなかったッ!! 最終ライン、並んだ、並んだ、そして……抜いたアアアアアアッッ!!!!」


エアリ「……今の伊藤くんのオーバーテイクは、物理的なパワーの差を『意志の硬度』で埋めた結果です。……加奈子様のM5は、先ほどまでの激しい防御によってリヤタイヤの表面温度が危険域に達し、トラクション(路面を蹴る力)が僅かに抜けていました。……そこに、徹底した軽量化と徹底的なスリップストリームの利用、そして何より迷いのないスロットルワーク。……彼は、先生が教えた『技術』を、先生を倒すための『刃』へと研ぎ澄ませたのですね。」


若林「伊藤 翔太がM5を差し置いて、今、7位でゴールだアアア!!!! 自らの手で『卒業証書』を奪い取るかのような、鮮烈な逆転劇ィィッ!! 続いて古賀 加奈子も8位でフィニッシュラインを通過アアアッ!! 恩師を抜き去った弟子の背中、加奈子の瞳にはどう映っているのかアアアッ!!」


古賀 加奈子「……(……ハァ、ハァ……。完敗ね、伊藤くん。……君があんなに力強い音を鳴らせるようになるなんて。……先生、少しだけ……いえ、とっても誇らしいわ……ッ。)」


伊藤 翔太「(……やった……。俺……先生を抜いたんだ。……手が震えてやがる。……加奈子先生、俺、もっともっと先に行くぜ。……いつか、カナタと一緒に、あの頂点に立つために……ッ!!)」


若林「七つの宝石、そして八つ目の煌めき!! 全車が次々とチェッカーを潜り抜け、吾妻の地に新たな歴史が刻まれたアアアアアアッッ!!!!」


若林「チェッカーフラッグの嵐が吹き荒れる吾妻GT、最後の一秒まで順位が確定しないッ!! 1位から8位までが怒涛のゴールを決める中、続く9位争いが白熱しているッ!! 内藤 セリナのR8が盤石の逃げ切りを見せるか……いや、大外から凄まじい衝撃波を伴う影が迫るッ!! 柳津 雄介だアアアアアアッッ!!!! 柳津のBMW M4 DTM Editionが、時速300キロの壁を力ずくで引き裂き、R8の真横を銀色の弾丸となって通過したアアアッ!! 鼻差、わずか数センチの差で、柳津がR8よりも先にゴールラインへ突っ込んだアアアアアアッッ!!!!」


(キィィィィィィィィィィンッ!!! 4.0リッターV8ツインターボが狂気的な咆哮を上げる)


内藤 セリナ「……はあ!? ちょっと、ウソでしょ!? 今、私のR8もリミッターギリギリの速度だったはずなのに……っ!! クソBMWがアアアアアア!!!!!! 安っぽい似た顔ばかりのメーカーがアアア!!!! 伝統のV10エンジンが、あんな量産セダンの派生形に負けるなんて、絶対に認めないんだからアアアアアアッッ!!!!」


柳津 雄介「……ふぅ。悪ぃな、お嬢ちゃん。俺、すぐ近くの温泉入りたかったんだわ……!!! 疲れを癒やすには、勝利という名のエッセンスが一番だからな。……それに、今日は留守番してる妹のカリンに、最高のプレゼントを持ち帰りたかったんだ。……『兄貴が一番カッコよかった』って言わせるためのな。……悪いが、プライドの高さじゃ、俺もお前に負けてねえんだよ。」


エアリ「……解説させていただきます。若林さん、柳津 雄介様のM4 DTM Editionは、その名の通りドイツツーリングカー選手権(DTM)の空力パッケージを公道仕様に落とし込んだ究極のマシンです。……最終直線、彼は内藤 セリナ様がアンダーステアで乱した気流を逆手に取り、スリップストリームから抜け出す瞬間にDRS(可変リアウィング)のような最適なダウンフォースバランスを実現しました。……時速300キロを超えた領域での伸びは、完全にM4に分がありましたね。……一方の内藤 セリナ様は、先ほどの操作ミスでタイヤの表面温度が上昇し、この超高速域での安定したトラクションを確保しきれなかったことが敗因です。」


若林「柳津 雄介、クールな外見に秘めた熱い執念で9位を奪取ッ!! 内藤 セリナは屈辱の10位転落だアアアッ!! 続いて紅い暴君クリスタ、そしてブルーシャーク相川 美保も今、続々とフィニッシュラインを越えていくゥッ!! 吾妻の空を焼き尽くした宝石たちの饗宴、ついに全車がゴールへと吸い込まれていくぞオオオオッッ!!!!」


腹切 カナタ「(……柳津さんか。あの人も、最後にとんでもねえ伸びを見せやがった。……温泉のために時速300キロを出すなんて、やっぱりこのレースに出てる奴らは、全員が『宝石』並みの硬度を持った怪物ばっかりだぜ……。……俺も、もっと磨き上げなきゃな。)」


柳津 雄介「……さて、カリン。兄貴の勇姿、しっかり目に焼き付けたか? ……俺は一足先に、土湯の名湯でこの興奮を冷まさせてもらうぜ。……あばよ、吾妻。」


岩手県陸前高田市、柳津家のリビング。窓の外には、激闘の舞台となった吾妻山が、夕闇の中にその巨大なシルエットを沈めようとしていた。室内は暖房の微かな音だけが響き、大型モニターの放つ淡い光が、ソファに深く腰掛けた一人の少女を、冷たく、そして美しく照らし出している。


柳津 カリン。

その姿は、この部屋の空気さえも凍らせてしまいそうなほどに繊細で、儚い。亜麻色の長い髪は、彼女が着ている真っ白なコートの襟元にさらさらと流れ落ち、滑らかな曲線を描いている。まるで、降り積もったばかりの処女雪の上に、一筋の陽光が差し込んだかのような色合い。そして、ふとモニターに向けられた彼女の瞳は、ブルーグレー。それは凍てつく冬の湖底を覗き込むような、深く、透明な輝きを放っていた。


画面の中では、兄である柳津 雄介が操るBMW M4 DTM Editionが、時速300キロを超える極限の世界で、内藤 セリナのR8を僅か数センチの差で差し切った瞬間が、何度もリピート放送されていた。


柳津 雄介「悪ぃな……すぐ温泉入りたかった……!!! それに、カリンに最高のプレゼントもしたかったからさ!」


マイクに拾われた兄の、不器用ながらも温かいその声がスピーカーから流れ出す。その瞬間、カリンの唇が微かに、本当に微かに綻んだ。その表情の変化は、まるで氷の宝石に一瞬だけ体温が宿ったかのような、奇跡的なまでの可憐さ。


柳津 カリン「……ありがとう、お兄ちゃん。……約束、守ってくれたんだね。お兄ちゃんが一番かっこよくて、一番速いってこと……カリンには、ちゃんと伝わったよ。」


彼女の白く細い指先が、画面の中の汚れ、傷ついた銀色の車体にそっと触れる。モニターの熱が指先に伝わるが、カリンの纏う雰囲気は、依然として氷の宝石のような凛とした冷たさを保っている。彼女にとって、兄が命を懸けて持ち帰った「9位」という結果は、どんな高価な宝石よりも価値のある、純粋な結晶だった。


カリンは、兄がこのレースに向けてどれほどの覚悟で臨んでいたかを知っている。病弱な自分を気遣い、強がってばかりの兄。けれど、ステアリングを握れば誰よりも情熱的に風を切り裂く。そのギャップが、カリンにとっては誇らしく、そして少しだけ心配でもあった。


柳津 カリン「……温泉、ゆっくり入ってきてね。カリン、お兄ちゃんが帰ってくるまで、あったかいお茶を淹れて待ってるから。……お疲れ様......。」


カリンは静かに目を閉じ、兄が駆け抜けた吾妻の風を想像する。彼女のブルーグレーの瞳の奥には、今もまだ、銀色の弾丸が残した光の尾が鮮やかに焼き付いていた。


部屋の隅に置かれた加湿器から白い蒸気が立ち上り、彼女の白いコートの裾をかすめる。その光景は、あたかも雪の妖精が束の間の休息を取っているかのよう。柳津 雄介という「動」の宝石と、柳津 カリンという「静」の宝石。二つの魂が吾妻の夜に共鳴し、激闘の終わりを優しく、そして冷たく包み込んでいった。


若林「……吾妻の最終局面、順位争いはもはや上位陣だけではないッ!! 10位の内藤 セリナ、その直後で凄まじい『捕食劇』が始まろうとしているぞオオオオッ!! フェラーリ 488GTSとスカイラインGT-R 400Rが、時速270キロオーバーのサイドバイサイドだアアアッ!! 相川 美保がクリスタ・ニールセンに迫ってきたアアア!! フィニッシュライン手前、最終コーナーの高速ベントオオオオ!!!! 蒼い400Rが、逃げるフェラーリのインサイドを強引にこじ開けるッ!!」


(ヴォォォォォォォォォォンッ!!! RB26DETT改の過給音が、吾妻の山々に木霊する)


相川 律(通信)「……聞こえるか、美保ォ!! 俺は今、五色沼のど真ん中でお前の走りを見てるぜッ!! スリップストリーム、完璧だ!! お前のブルーシャークの力、ここで全部出し切って勝負を決めてしまおうぜッ!! 誰よりも速く、あの紅い影を食い千切ってこいッ!!」


相川 美保「……うん! お兄ちゃん!! ここで決めちゃうよ!!! 私のブルーシャーク……お兄ちゃんの想いも、潮風に乗せて全部持っていくッ!! 私、海が……鮫が、大好きだもんッ!! 赤い炎に焼かれる前に、私の蒼い海に沈めてあげるッ!! 私のブルーシャークッ!!!!!」


クリスタ・ニールセン「……あらあらぁ~、威勢のいい小魚さんが紛れ込んできましたねぇ……。でも残念。私のミルク氷の中で、冷たく、そして熱く眠らせてあげますよぉ~。私のフェラーリの排熱で、その生意気な海、全部蒸発させてあげますからねぇ~!!」


若林「さあ! ブルーシャークが赤いフェラーリを食うのかアアア!!!??」


エアリ「……美保ちゃんの400R、そのATTESA E-TS(アテーサ)によるトラクション制御が極限状態にありますね。……この最終高速ベントにおいて、4WDの圧倒的な安定性を武器に、クリスタ様のフェラーリが作る『乱流の僅かな隙間』を正確に突いています。……これはまさに、深海の高圧下で磨き上げられた『サファイア』の硬度。……対するクリスタ様は、ミッドシップ特有の旋回力で粘っていますが、相川 美保様の放つ『海の重圧』に、じわじわとアウト側へ押し出されています。……もしこのままインサイドを保持し続ければ、逆転は確実でしょう。」


若林「エアリさんの鑑定通り、400Rの蒼い影が、フェラーリの紅いボディを完全に捉えたアアアッ!! 潮風を纏ったブルーシャークが、今、チェッカーに向けて最後の大跳躍を見せるぞオオオオッッ!!!!」


若林「あああああああッ!! 吾妻の最終直線、コンクリートの壁を震わせる最後の咆哮が止まらないッ!! 内藤 セリナ、柳津 雄介に続き、今、二台の影が同時にチェッカーへと飛び込んだアアアッ!! 相川 美保とクリスタ・ニールセンもゴオオオオル!!!! どちらが前だ、どちらがコンマ一秒を制したんだアアアッ!!」


(ヴォォォォォォォォォォォォォンッ!!!! 激しい排気熱がゴールラインを焼き尽くす)


クリスタ・ニールセン「(……っ、この私が……あの蒼い小魚に差し切られたというの!? 488のパワーをもってしても、あのGT-Rの重圧を退けられなかった……ッ。それにしても、あんなに非力なはずのハラキリやGRスープラ、それにケイマン……。あいつらは、最後の最後までグリップとギアを、まるで宝箱に隠すように残していた……。なぜ……なぜあんな非力なマシンで、あんな『隠しギア』を使いこなすことができるのよ……ッ!?)」


相川 美保「……ハァ、ハァ……!! やった……やったよ、お兄ちゃん!! 私のブルーシャークが、赤いフェラーリを捕まえたッ!! 海の声が……お兄ちゃんの声が、私をゴールまで運んでくれたんだッ!!」


エアリ「それは徹底した『エネルギー・マネジメント』の差に他なりません。……腹切 カナタ様やイヨ様は、レース中盤の激しい混戦においても、常にタイヤの表面温度を一定に保ち、不必要なスライドを極限まで抑えていました。……特にカナタくんの86は、パワーがないからこそ『重力』と『慣性』をギアの一枚として利用し、燃料やタイヤを一切無駄にしないライン取りを完遂していました。……対するクリスタ様のフェラーリは、その圧倒的なパワーゆえに、コーナーの立ち上がりで僅かな空転(スリップ)を許容し、それが最終盤でのコンマ数秒の『ギアの差』として現れたのです。」


若林「エネルギー・マネジメントの勝利ッ!! カナタたちが残していたのは、マシンのスペックではなく、魂の『余力』だったというのかアアアッ!! そして公式判定が出たアアアッ!! 11位、相川 美保!! 12位、クリスタ・ニールセン!! 蒼い鮫が、暴君を飲み込んでのフィニッシュだアアアアアアッッ!!!!」


相川 律(通信)「……よくやった、美保!! 最高の『捕食』だったぜッ!! お前が吾妻の海で一番速い鮫だってこと、俺が一番よくわかってるからなッ!! 最高の走りをありがとうよッ!!」


クリスタ・ニールセン「……ふん、お熱い兄妹ね。……でも、次は覚悟しなさい。私のフェラーリ、次はギアを隠す余裕なんて与えないくらい、最初から最後までフルパワーで焼き尽くしてあげるから……ッ!!」


若林「第8戦、全車がゴールラインを越えたアアアッ!! 静まり返る吾妻の空には、宝石たちが残した激闘の熱気だけが漂っているッ!!」


若林「あああああああッ!! 吾妻GT第8戦、ついにすべての物語が完結しようとしているッ!! 12位クリスタに続き、今、二台のマシンが火花を散らしながら、もつれ合うようにゴールラインを通過アアアッ!! サテラ! そして高槻 健永!! まるでダンスでも踊っているかのような、奇跡の同時ゴールだアアアッ!!」


サテラ「……はぁ、はぁ……!! どこが仲良いんだよコイツと……!! 最終直線でずっとサイドバイサイドで突っついてきやがって……。私のエボのミラー、コイツのバイパーの赤い龍(ドラゴン)しか見えなかったっつの!!」


高槻 健永「……ははっ、いいじゃないかサテラ。最高のデッドヒートだったぜ。このリッチでクールな俺が、ここまで本気でアクセルを踏まされたのは久しぶりだ。……なんなら今ここで、勝利の……いや、完走のキスを……」


サテラ「だからいらねェよ!!! その赤いジャンバーごと、五色沼に沈めてやろうかッ!! 二度と私の隣を走るなバカツキッ!!」


若林「……相変わらずの仲の良さ(?)だアアアッ!! そして続く後続車たちも、今、吾妻の魂を刻みつけるようにチェッカーを受けるッ!! 岡田 大成! 柊 蒼真! 陽太! 佐藤 ジュン! そして……最下位から泥臭く、しかし気高く走り抜いたラストマン、中野 伸一が今、フィニッシュラインを越えたアアアアアアッッ!!!! 全車完走ッ!! 吾妻GT、最高に熱く、最高に美しいレースでしたね! エアリさん!!」


エアリ「……ふふ。そうですね、若林さん。……皆様の走りを鑑定させていただきましたが、最後はまるで、荒い砂利を噛み砕いて熱を帯びた、ザラついた石の咆哮のようでした。……丁寧に磨かれた宝石のような走りもいいですが、わたしはこういう、泥と砂に塗れて剥き出しになった『魂の原石』も……嫌いじゃありませんよ(笑)。」


若林「エアリさんの鑑定、最後は実に奥深いッ!! 岩属性の神様をも唸らせた、宝石たちの饗宴!!」


エアリ「……ええ。加奈子様や眞鍋様、そしてカナタ様。……皆様の情熱という名の砂塵が、わたしのこの白髪の間にも、少しだけ入り込んでしまったようです。……お日様の匂いがするわたしの耳も、今の皆様の『熱さ』を吸収して、ちょっとだけ火傷しそうなほどジンジンと疼いていますよ。……ふふ。これほどまでに心をザラつかせてくれるレース、そうそうお目にかかれるものではありません。……皆様、本当にお疲れ様でした。……ゆっくりと、その熱を冷ましてくださいね。」


若林「エアリさん、最後はいつもの包容力の中に、どこかイタズラな砂嵐のような気配を感じさせるコメント、ありがとうございますッ!! 第8戦、吾妻の山々に刻まれた伝説は、今ここに完結ゥッ!! 勝利のポルシェも、敗北の悔しさに震えるマシンも、すべては明日の自分を磨くための糧となるッ!!」


エアリ「……そうですね。一度砕けた石が、より硬いダイヤモンドへと再結晶するように。……わたしも、次回の皆様の『硬度』がどこまで上がっているか、今から楽しみで仕方がありません。……あ、高槻様。あまりサテラ様をからかうと、本当にわたしの能力で『紅い宝石』に変えて固定してしまいますよ?(笑)」


若林「最後まで予断を許さないエアリさんの毒舌(?)を以て、吾妻GT、これにて閉幕ですッ!! 視聴者の皆様、また次なる伝説の地でお会いしましょう!! さようならああああああッッ!!!!」


放送ブースの熱気が、窓の外の吾妻の夕闇に吸い込まれていく。実況席のヘッドセットを外したエアリは、白髪のショートポニーテールを軽く振り、赤い瞳を悪戯っぽく細めた。その耳からは、お日様の匂いがする熱い吐息――「ふーっ」という微かな音が漏れ、ブース内の空気が一瞬で砂粒の混じった乾燥した熱を帯びる。


エアリ「ふふ。若林さん、お疲れ様。……でも、最後の方はちょっと興奮しすぎじゃない? わたしの隣で、あんなに喉を震わせて……。……ねえ、最後にわたしの砂嵐と砂の竜巻、受けてみる……?」


若林「えっ!? エ、エアリさん……!? なんだか急に雰囲気が……。それに、ブースの中に砂が舞い始めて……ゲホッ、ゲホッ!!」


エアリ「あはは! そんなに驚かなくてもいいじゃない。……ほら、そんなに固くなってると、本当にわたしの力で『紅い宝石』に変えちゃうよ? 圧力と地熱をたっぷり込めて、永遠に変わらない、綺麗な石にね。……まあ、若林さんが宝石になったら、実況の声が聞こえなくなって寂しいから、今日は竜巻ぐらいで勘弁してあげるけど。」


エアリが指先を軽く鳴らすと、ブースの床から小さな砂の渦が巻き起こり、若林の足元をざらついた感触で包み込む。それは攻撃というよりは、自由奔放な彼女なりの「お疲れ様」という挨拶に近いものだった。


エアリ「レースは終わったけど、みんなの熱量はまだこの山に残ってる。……あーあ、ちとせがリタイヤしちゃったのは残念だけど。あの子、のんびりしすぎて水没しちゃうんだもん。……後で『もへ〜……』って言いながら落ち込んでるあの子を、わたしの砂風呂で温めてあげなきゃ。属性は真逆だけど、あの子といると石の心も少しだけ柔らかくなる気がするんだよね。」


彼女は窓の外、パドックへと戻っていくマシンたちの列を眺めた。


エアリ「カナタ様も、翔太様も、加奈子様も……。みんな、いい削れ具合だった。……若林さん、もう一回聞くよ? わたしの砂、浴びたい? それとも、わたしに宝石にされたい? ……ふふ、どっちを選んでも、明日の朝にはお日様の匂いがする砂粒になってるかもしれないけどね。」


若林「い、遠慮しておきます……! 喉が砂だらけになっちゃいますから!」


エアリ「ちぇ、つまんないの。……まあいいや。わたしもそろそろ、このザラついた熱を冷ましにいくよ。……みんなが磨き上げた宝石の輝き、最後まで見届けられて楽しかった。……若林さんも、次はもっと『硬い』実況、期待してるからね。」


エアリは自由奔放な足取りでブースを後にした。彼女が通り過ぎた後には、ほんの少しの砂の粒子と、焼けた大地のような温かい匂いだけが残されていた。


放送ブースの狭い空間に、突如として乾いた熱風が吹き抜けた。エアリ(エアリ)が小さく笑いながら両手を広げると、足元から黄金色の砂が湧き出し、意思を持つ生き物のように渦を巻き始める。


エアリ(エアリ)「あはは! そーれ! 砂嵐と砂の竜巻だよ!! 若林さん、そんなに隅っこで震えてないで、もっとこの『熱』を感じなよ! レースが終わった後の余熱を、わたしの砂でさらに研磨してあげるんだからさ。」


若林(若林)「うわあああッ!? エ、エアリさん、タンマ! タンマですッ!! 放送機材が、機材が砂だらけに……ッ!! ゲホッ、喉に……喉に砂が入って、実況の声が砂利を噛んだみたいになっちゃううううッ!!」


エアリ(エアリ)「いいじゃない、そのザラついた声。今の若林さんには、そのくらい『硬い』響きが似合ってるよ。……ほら、わたしの竜巻に巻かれて、少しは頭を冷やしなよ。……あ、逆か。砂嵐だから、もっと熱くなっちゃうかもね(笑)。」


ブース内は瞬く間に砂の竜巻に呑み込まれ、視界は遮断された。舞い踊る砂の微粒子は、エアリの吐息と同じお日様の匂いを放ち、肌をチリチリと焼くような心地よい刺激を運んでくる。若林(若林)は必死にマイクを守りながら、嵐の中心で天真爛漫に笑う少女を見上げた。


エアリ(エアリ)「……ふふ。今のレース、本当に最高だった。フリス様の氷のような冷静さも、カナタ様の泥臭い執念も、全部わたしの砂が飲み込んで、もっと輝く宝石に磨いてあげたい気分。……若林さんも、この嵐の中で少しは『原石』としての自覚が芽生えた? ずっと叫びっぱなしで、喉が熱くなってるでしょ。……ほら、耳ふー、してあげようか? 砂が混じった、すっごく熱い風だよ。」


若林(若林)「ひ、一気に干からびちゃうううッ!! エアリさん、もう勘弁してください!! 吾妻の山々が、別の意味で噴火しちゃいそうですッ!!」


エアリ(エアリ)「あはは、冗談だよ。……でも、わたしの砂嵐に巻かれたんだから、若林さんのスーツはもう砂だらけだね。……今夜は温泉に入っても、耳の裏から砂が出てくるかもしれないよ? ……それも、今日の激闘の証として、大切に持ち帰ってよね。」


エアリ(エアリ)が指をパチンと鳴らすと、猛威を振るっていた砂の竜巻は、嘘のように足元へと吸い込まれて消えた。後に残ったのは、砂まみれで呆然とする若林(若林)と、いたずらっぽく赤い瞳を輝かせるエアリ(エアリ)の姿だけ。


エアリ(エアリ)「さて、わたしはもう行くよ。ちとせ(ちとせ)を迎えに行って、あの子の氷をわたしの砂風呂で溶かしてあげなきゃ。……若林さん、喉をお大事にね。次はもっと『硬度』の高い声、期待してるよ!」


放送ブースの喧騒が遠のき、静まり返った空間に、乾いた熱気が凝縮されていく。エアリは、砂まみれで呆然としている若林に、音もなく歩み寄った。彼女の白いショートポニーテールが揺れ、赤い瞳が獲物を定めるように細められる。


エアリ「……ふふ。若林さん、そんなに固まってどうしたの? 喉が枯れるまで叫んで、心臓がバクバク言ってるのがここまで聞こえるよ。……ねえ、そんなに熱くなってるなら、わたしの『砂』で、もっと中から研磨してあげようか。」


エアリは若林の肩にそっと手を置くと、逃げ場を塞ぐように顔を寄せた。至近距離。彼女のケモミミがピクリと跳ね、そこから放たれる「お日様の匂い」が、鼻腔を熱くくすぐる。それは、真夏の砂漠で焼かれた大地の、どこか懐かしくも暴力的な香り。


エアリ「……ちょっとだけ、じっとしててね。……そーれ、砂嵐の耳ふー、だよ。」


彼女が唇を若林の耳元に寄せ、熱い吐息を吹きかけた。


(シュゥゥゥゥゥ……ッ!!!)


それはただの吐息ではなかった。エアリの肺から漏れ出た空気には、目に見えないほど微細な、けれど確実に「個体」としての感触を持つ砂の粒子が混じっている。熱を帯びた砂嵐が、鼓膜を直接震わせ、脳の奥深くまでザラついた刺激を叩き込む。


若林「ッ……あ、熱い……!! 耳の奥が、砂で……焼けるみたいだ……!! ゲホッ、エアリさん……これ、実況の声が出なくなっちゃい……ッ!!」


エアリ「あはは! 実況なんて今はいいよ。……ほら、わたしの砂の感触、しっかり刻み込んで。今の若林さんの頭の中、レースの興奮でドロドロでしょ? この砂の竜巻で、全部綺麗に削り取ってあげる。……ほら、もっと熱くなってきた。お日様の匂い、耳の奥まで届いてる?」


吐息が重なるたびに、耳元から首筋にかけて、微細な砂の粒子が肌を研磨していく。チリチリとした熱と、砂嵐が巻き起こす真空のような気圧の変化。若林は、自分の意思が砂の中に溶け出していくような錯覚に陥った。それは、自由奔放な岩の神様による、最も濃密で、最も「ザラついた」抱擁だった。


エアリ「……ふぅ。……どう? 少しはシャキッとしたかな。……若林さんの魂、今の耳ふーで、少しだけ『紅い宝石』の輝きが混じった気がするよ。……まあ、まだ完全に固めるには、わたしの地熱が足りないみたいだけどね。」


エアリは満足げに身を引くと、いたずらっぽく舌を出した。彼女が通り過ぎた後の若林の耳には、いつまでも消えない砂の唸りと、焼けた大地の熱い記憶が、熱風と共に残り続けていた。


エーペックスカップ第8戦 吾妻GT 最終確定公式順位表】

Current Conditions: 全車フィニッシュ(路面:ドライ・大会終了)

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1位 :フリス(ポルシェ 718 ケイマン GT4 / )

2位 :イヨちゃん(トヨタ GRスープラ / )

3位 :腹切 カナタ(TOYOTA 86 REVIVE / )

4位 :山吹 花(SUBARU WRX STI VAB / )

5位 :眞鍋 琉世(三菱 ランサーエボリューション IX MR / )

6位 :伊藤 乎太郎(パガーニ・ウアイラ / )

7位 :伊藤 翔太(スズキ スイフトスポーツ ZC33S / )

8位 :古賀 加奈子(BMW M5 G90 / )

9位 :柳津 雄介(BMW M4 DTM Edition / )

10位:内藤 セリナ(アウディ R8 V10 plus / )

11位:相川 美保(日産 スカイラインGT-R 400R - ブルーシャーク / )

12位:クリスタ・ニールセン(フェラーリ 488GTS - 紅い暴君 / )

13位:サテラ(三菱 ランサーエボリューション VII MR / )

14位:高槻 健永(ダッジ・バイパー GTS / )

15位:岡田 大成(トヨタ GR GT / )

16位:柊 蒼真(ホンダ シビックタイプR FL5 / )

17位:陽太(マツダ ロードスター / )

18位:佐藤 ジュン(マツダ RX-7 FD3S / )

19位:中野 伸一(トヨタ クラウンアルテッツァ / )

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【リタイヤ】

・菜園 宗一郎(ポルシェ 911 GT3 / 接触大破)

・ちとせ(日産 フェアレディZ RZ34 / スピン・おじさん)

・相川 律(日産 GT-R NISMO R35 / 五色沼の主・水没マン)

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【欠場】

・黒川 海斗

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若林「それでは今度こそ!実況は若林とエアリさんでした!!!

HelloAPEXCup!seeyou again!!」


エアリ「皆さん!またお会いしましょう!!!!!」

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