吾妻編第64話SP M5のダーティエアと花、大激怒!
86伝説エーペックス 須賀川戦リメイク、288編リメイク制作決定!!!
腹切カナタ「……菜園。」
煙を上げる911。
だが、その左側。
ほんの一台分だけ、道が残っている。
腹切カナタ「……そこ、空いてる。」
ぽんっ!!
ギュオオオオオオッ!!
赤いREVIVE86が一気に進路を変える。
大破した911の脇を、ミラーすれすれで駆け抜けた。
若林「カナタ、かわしたアアアア!!!!」
腹切カナタ「悪いな、菜園。」
腹切カナタ「俺はまだ行く。」
前方にはイヨ。
そのさらに先には、フリス、内藤セリナ、クリスタ、山吹花。
ゴールへ続く最後の区間が、ついに視界へ入る。
若林「菜園宗一郎、ここで戦線離脱!!」
若林「そして5位イヨ!! その背後に腹切カナタ!!」
若林「最後の最後まで生き残った者だけが、吾妻のチェッカーへ辿り着くウウウウ!!!!」
若林「あああああああッ!! 吾妻の最終盤、菜園宗一郎がリタイヤ!! その混乱の中から、今度は紅い重戦車が牙を剥いたアアアア!!!!」
低く重いV8サウンドを響かせながら、古賀加奈子のBMW M5 G90が中段集団を押し上げてくる。
古賀加奈子「……優勝はこの私よオオオ!!!!」
さらにアクセルを踏み込む。
古賀加奈子「くらええええ!! ダーティエアアアアア!!!!」
ゴォォォォォォォォッ!!
巨大なM5が空気を押し退けた瞬間、その背後で気流が激しく崩れた。
若林「んんんッ!? どうなっている!!」
若林「サテラ!! コタロー!! 相川美保!! そして古賀加奈子!!」
若林「4台が横一列だアアアア!!!!」
道幅いっぱい。
Evo VII MR、ウアイラ、400R、そしてM5。
四台の車体が僅かな間隔だけを残し、互いに進路を譲らない。
本来ならば、それぞれのボディを滑らかに流れるはずの空気。
しかし四台が密集したことで、その流れは互いにぶつかり合い、車体の周囲で不規則な渦へ変わっていた。
古賀加奈子「ワハハ。」
加奈子の口元だけが、不気味なほど楽しそうに緩んだ。
M5は微動だにせず、その巨大な車体を道路中央へ押し出し続ける。
対する三台は、荒れた気流に翻弄されるように細かな修正舵を繰り返していた。
若林「4台とも空力がまともに効かないッ!! この状態、長くは続けられないぞオオオオ!!!!」
エアリ「ここはかなり危ないッスね。」
エアリはモニターへ身を乗り出し、四台の挙動を細かく追う。
エアリ「まず加奈子さんのM5が大きな空気の壁を作ってる。」
エアリ「そこへ左右の三台が並んだから、それぞれのフロントへ入る空気が綺麗に流れなくなってるッス。」
ウアイラのフロントが小さく左右へ揺れる。
コタロー「……風が読めない。」
アクティブエアロが細かく動く。
だが、先ほどまでのように車体は安定しない。
エアリ「特にコタローくんは影響が大きいッス。」
エアリ「ウアイラは高速域で空力を積極的に使う車だから、前から入ってくる空気の方向が急に変わると、フロントとリアでダウンフォースのバランスが崩れる。」
エアリ「今、右へ修正した直後に左へ戻してるのも、そのせいッスね。」
その隣では、美保の400Rも落ち着かない。
相川美保「……フロントが軽い……ッ!」
400Rが一瞬だけ外へ流れる。
すぐに美保がステアリングを戻し、四輪駆動のトラクションで姿勢を整えた。
エアリ「美保さんは四駆だから立ち上がりでは耐えられる。」
エアリ「でも空気が乱れてフロントの接地感が薄くなると、ターンインの瞬間だけはどうしても苦しくなるッス。」
若林「では加奈子だけが有利なのかアアアア!?」
エアリ「完全に有利ってわけじゃないッス。」
エアリ「M5自身も同じ乱流の中にいる。」
エアリ「ただ加奈子さんは車重とホイールベースを使って、多少空力が乱れても車体をどっしり安定させてる。」
エアリ「その代わり、次のコーナーで一気に向きを変えるのはかなり大変になるはずッス。」
四台の先に、高速右コーナーが迫る。
サテラ「……来るね。」
コタロー「……ここで決まる。」
相川美保「引かない……!」
古賀加奈子はなおも中央を譲らない。
紅いM5の巨体が、左右の三台へ無言の圧力を掛け続ける。
若林「四台並走のまま高速コーナーが迫るウウウウ!!!!」
若林「誰かが引かなければ、全員が理想ラインを失う!!」
若林「7位争い、完全に空力戦へ突入だアアアア!!!!」
若林「サテラも必死の形相でエボVIIを抑え込むッ!!」
ギャアアアアアアンッ!!
四台の車体が、火花を散らしかねない距離まで接近する。
サテラのエボVII MRは乱れた空気の中で細かく姿勢を修正しながら、それでもアクセルを緩めない。
腹切カナタ「……くッ!」
ミラー越しに、その走りを一瞬だけ確認する。
腹切カナタ「サテラさん、速い……ッ!」
腹切カナタ「さすがエボだ……!」
その頃、さらに前方。
先頭争いを続けるケイマンGT4の車内で、フリスが静かにメーターを見ていた。
フリス「……。」
少し間を置く。
フリス「……温泉街を通ったなら。」
フリス「もう温泉に入ったことになるのだろうか。」
ぽぉんっ。
そのまま何事もなかったようにシフトを上げ、再び前だけを見る。
誰にも届かない、小さな独り言だった。
その直後――。
ゴォォォォォォォォッ!!
吾妻山山麓の高速ダウンヒルを、重いV8ツインターボの咆哮が貫いた。
若林「あああああああッ!! セクター6で再び動いたアアアア!!!!」
若林「古賀加奈子のBMW M5 G90!! 菜園宗一郎が消えた後方集団から、一気に前へ出てきたァァァァ!!!!」
巨大なM5が高速域で車体を押し出す。
その背後では空気が激しく乱れ、サテラ、コタロー、美保の三台が僅かにラインを外していく。
エアリ「加奈子さん、かなり意図的に車を置いてるッスね。」
若林「意図的に!?」
エアリ「はいッス。」
エアリ「ただ前を走ってるだけじゃない。コーナー進入で少し中央寄りに車を置いて、後続が左右どちらから抜こうとしても乱れた空気を受ける位置にしてる。」
エアリ「特に高速区間では、前の車が作る乱流を受けるとフロントの荷重感が抜けやすい。」
エアリ「サテラさんのエボもコタローくんのウアイラも、さっきから修正舵が増えてるッス。」
若林「つまり加奈子、自分の巨体そのものを壁にしているッ!!」
エアリ「そうッス。」
エアリ「M5は重いぶん、多少空気が乱れても車体の姿勢が急激には変わりにくい。」
エアリ「でも後ろの軽い車や空力依存度の高い車は、同じ乱流でももっと大きく影響を受ける。」
そのまま加奈子は、前方のイヨへ急接近する。
古賀加奈子「……ふふ。」
古賀加奈子「カナタくん、伊藤くん。」
古賀加奈子「今日の私は、先生じゃないわよ。」
赤いM5のノーズが、白いGRスープラへ迫る。
古賀加奈子「このコースでは……一人のレーサーとして走るだけ。」
ヴォオオオオオオッ!!
イヨ「わっ!?」
バックミラーいっぱいに、巨大な赤いボディが映る。
イヨ「なにあれーっ!?」
イヨ「大きいし、後ろの空気までぐちゃぐちゃだよぉ!!」
ピンク色の重力波動を強める。
しかし、M5が作った乱流の中ではスープラの車体が僅かに左右へ揺さぶられる。
エアリ「ここ、イヨさんも苦しいッスね。」
エアリ「重力でタイヤを押しつければ接地荷重は増やせる。」
エアリ「でもフロントへ入る空気そのものが不安定だと、高速域では車体の姿勢が一定にならない。」
エアリ「だからイヨさん、さっきよりステアリング修正が多い。」
若林「その一瞬を古賀加奈子が狙ったアアアア!!!!」
高速右コーナー。
イヨがイン側を守る。
だが加奈子は一度アウトへ膨らませ、M5の大きな車体を早めに出口へ向けた。
エアリ「加奈子さん、ブレーキを奥まで我慢してないッス。」
エアリ「少し手前から減速して、重いM5を早く曲げ終わらせてる。」
エアリ「これなら出口でV8のトルクを一気に使えるッス!」
ヴァアアアアアアッ!!
M5が立ち上がりで猛烈に伸びる。
イヨ「ええええっ!?」
若林「並んだアアアア!!!!」
若林「白いGRスープラの横へ、紅い重戦車が完全に並びかけたァァァァ!!!!」
その少し前。
カナタもミラー越しに状況を確認する。
腹切カナタ「……先生まで来たか。」
タイヤは限界。
それでも86のステアリングを握る手は緩めない。
腹切カナタ「後ろを気にしてる余裕はない。」
腹切カナタ「前へ行く。」
ぽんっ!!
ギュオオオオオオッ!!
若林「古賀加奈子がイヨを追い詰める!!」
若林「そして前ではカナタが逃げる!!」
若林「セクター6終盤!! ダーティエア、重力、そして限界寸前のタイヤ!!」
若林「すべてが絡み合い、吾妻GTはいよいよ最後の決着へ向かっていくウウウウ!!!!」
イヨ「へぇー……古賀さんがここまでねー……ッ。」
白いGRスープラの横へ、紅いM5がじわじわと並びかけてくる。
イヨは一瞬だけ横目でその巨体を見た。
さっきまでの慌てた表情は、もうない。
代わりに、口元へ小さな笑みが浮かぶ。
イヨ「でも……イヨ、まだ本気出してないからね……ッ?」
その瞬間。
スープラの足元で、濃いピンク色の重力波動が一段深く沈んだ。
ギュウウウウウウッ……!!
四輪が路面へ吸いつく。
車体の揺れが、ぴたりと止まる。
古賀加奈子「……何?」
若林「イヨちゃんの挙動が変わったアアアア!!!!」
若林「さっきまでダーティエアに揺さぶられていたGRスープラが、突然まったくブレなくなったぞオオオオ!!!!」
イヨ「えへへ……☆」
イヨ「ここから、もっと重くするよ。」
アクセルが踏み込まれる。
ギュオオオオオオオオンッ!!
紅いM5と白いスープラ。
二台は再び横一列となり、そのまま高速ダウンヒルへ飛び込んでいった。
若林「吾妻の地平が、たった一人の音楽家の狂気によって塗り替えられていくッ!! 古賀 加奈子のBMW M5 G90、その巨体から放たれる凄まじい熱量が、先頭集団の『神の領域』を文字通り焼き尽くしたアアアッ!!」
(グワッ!!!! ズドドォォォォンッ!!!)
菜園宗一郎は、クラッシュから立て直した911 GT3のステアリングを握りながら、前方を走る集団へ鋭い視線を向けた。
フリス、イヨ、サテラ、そして伊藤翔太。
それぞれまるで違う走り方をする四人を眺めながら、菜園は静かに口を開く。
菜園宗一郎「……フリス。」
菜園宗一郎「お前のケイマンは確かに速い。重心も低い、旋回も鋭い……だが、静かすぎるんだよ。」
菜園宗一郎「限界ってのはな、黙ってたって勝手に近づいてくる。」
フリス「……。」
菜園宗一郎「イヨ。」
菜園宗一郎「重力だろうが魔法だろうが、タイヤが路面へ伝えられる力には限界がある。垂直荷重を増やしたからって、摩擦力が無限に増えるわけじゃねえ。」
菜園は一度息を吐き、次にサテラのエボVIIへ視線を移す。
菜園宗一郎「サテラ。四駆だからって安心するな。」
菜園宗一郎「前後左右、四本のタイヤに仕事を分散できるのは強い。だが、その四本全部が飽和した瞬間……助けてくれるタイヤは一本も残らねえ。」
そして最後。
黄色いスイスポへ視線が止まった。
菜園宗一郎「……伊藤。」
伊藤翔太「……。」
菜園宗一郎「軽い車ほど荷重移動は速い。だから向きも変えやすい。」
菜園宗一郎「だが高速域じゃ、軽さは安定性と引き換えになる。」
菜園宗一郎「お前がどれだけ根性で踏んでも、空力とタイヤと馬力の差までは気合いじゃ消せねえぞ。」
伊藤翔太「……余計なお世話だ。」
菜園宗一郎「……そうか。」
そこで菜園の視線が、少し前を走る青いWRXへ移った。
山吹花だった。
ほんの数秒だけ、菜園は黙った。
菜園宗一郎「そして山吹花……。」
山吹花「……?」
菜園宗一郎「お前には一つ言っておこう。」
無線の向こう。
さらにライブ配信を見ている何万人もの視聴者へ聞かせるように、菜園は妙に静かな声を続ける。
菜園宗一郎「配信を見てる奴らも……よく聞いてくれェ……。」
一拍。
菜園宗一郎「……クソ喰らえってなあああああああああああああああ!!!!!!」
その瞬間。
ライブ配信のコメント欄が爆発した。
【ライブ配信コメント】
「は???????」
「花ちゃんに何言ってんだ菜園!!!!」
「おい待てコラ!!!!」
「花ちゃんファン敵に回したぞwwww」
「今のは許さんぞ菜園宗一郎」
「急にどうした50代!!!!」
「物理学の授業から突然クソ喰らえは草」
「花ちゃん何もしてないだろ!!!!」
「花ちゃんファンド緊急総会」
「山吹花を守る会、ただいま発足」
「菜園炎上確定で草」
「全国の花ちゃんファンが立ち上がった」
「ポルシェよりコメント欄が炎上してる」
「菜園宗一郎、本日最大の敵を作る」
「花ちゃんファンド『撤回を要求します』」
コメントは数秒で流れ切り、画面が文字で埋め尽くされていく。これまで菜園のドライビングを評価していた視聴者まで巻き込み、配信欄はレース本編以上の勢いで荒れ始めていた。
山吹花「……。」
花はしばらく何も言わなかった。
青いWRXはラインを乱すことなく、淡々と次の高速ベントへ入っていく。
だが――。
ステアリングを握る指だけが、少し強く締まった。
山吹花「……あとで覚えててね。」
その静かな一言だけが、怒号で埋め尽くされた配信よりも妙に恐ろしく響いた。
菜園宗一郎「山吹花……。」
低い声だった。
それまでの挑発よりも、妙に落ち着いている。その静けさがかえって嫌な予感を漂わせた。
菜園宗一郎「お前は本当にクソ喰らえだな。」
山吹花「……。」
菜園宗一郎「お前だけが王にもなれず、ただレースをしてるだけの女がどこにいる……ッ。」
菜園宗一郎「RVカップはどうした?
中途半端に残して、今度はこっちか。」
WRXの車内。
花は何も返さない。
ただ前方だけを見たまま、ステアリングを握る指がわずかに強くなる。
菜園宗一郎「それに、そのケモ耳。」
菜園宗一郎「どっかのメルヘンランドから来たみたいな格好しやがって……いっそバッサリ切ったらどうなんだ?」
菜園宗一郎「どうせコスプレなんだろ?」
一瞬、無線が静まり返った。
だが菜園は止めなかった。
菜園宗一郎「……つまらん空虚な人生だったなぁ。」
菜園宗一郎「そんな小賢しい女が、この世界にいること自体意味不明だ……ッ。」
その瞬間だった。
レース中継を見ていたSNSが、ほぼ同時に爆発した。
【ライブ配信コメント】
「おい今のはアウトだろ」
「花ちゃんの耳にまで何言ってんだ!!!!」
「菜園さすがに言いすぎ」
「RVカップまで持ち出してきたぞ」
「花ちゃんファン完全ブチギレ」
「誰か菜園の無線切れwwww」
「さっきまで物理学の話してた人どこ行った」
「『空虚な人生』はさすがに刺しに行きすぎ」
「花ちゃん黙ってるの逆に怖い」
「山吹花ファン、緊急声明まだ?」
「SNS全部菜園で埋まってて草」
「菜園宗一郎、レースより炎上速度の方が速い」
さらにSNSでは、花を応援する投稿が一気に急増した。
『#山吹花を応援します』
『#菜園それは言いすぎ』
『#花ちゃん負けるな』
関連ワードが次々と伸びていく。
それでも花は、無線で言い返そうとはしなかった。
青いWRXは淡々と高速ベントへ進入し、ブレーキから旋回、そして立ち上がりまで一つも乱さず駆け抜ける。
山吹花「……。」
ミラーの奥にいる菜園を、一瞬だけ見る。
山吹花「……好きに言ってれば。」
声は小さい。
怒鳴り声でもなければ、泣き声でもない。
ただ、その直後。
ギュオオオオオオッ!!
WRXが一段深くアクセルを踏み込み、前方のクリスタへ再び距離を詰め始めた。
言葉ではなく、走りそのもので返すつもりだった。
菜園宗一郎「しかも……よくその年齢で、あんなスバルのモンスターを操れるもんだな……ッ。」
菜園の声は、先ほどまでの荒々しい挑発とは違い、妙に低く、粘つくように無線へ流れ込んだ。
青いWRXを遠くに捉えながら、さらに言葉を続ける。
菜園宗一郎「で……お母さんやお父さんはどうしてるんだ……?」
ほんの一瞬だけ、間が空く。
菜園宗一郎「この世からくたばって……そのメルヘンランドにでも行ったのか……ッ?」
その言葉が届いた瞬間。
山吹花「……ッ!!!」
花の肩が僅かに跳ねた。
ステアリングを握る両手が強く締まり、青いWRXがほんの一瞬だけラインを揺らす。それでも花はアクセルを戻さない。ただ、さっきまでとは明らかに違うほど、その表情から柔らかさが消えていた。
そして後方。
黄色いスイスポの車内で、伊藤翔太の目つきが変わる。
伊藤翔太「……テメェ……ッ!!!」
怒鳴り声になる寸前で、伊藤は歯を食いしばった。
伊藤翔太「それ以上……花の家族に触れてみろ。」
1.4リッターターボの回転が一気に跳ね上がる。
ヴォオオオオオオッ!!
伊藤翔太「レースの挑発で済むと思うなよ……ッ!」
花はまだ何も返さない。
ただ、ミラーの奥にいる菜園を一瞬だけ見たあと、静かに前を向き直る。
山吹花「……最低。」
その一言だけだった。
だが、その直後。
ギュオオオオオオッ!!
WRXがさらに加速し、前を走るクリスタへ一気に距離を詰めていった。
【ライブ配信コメント】
「いや菜園それはダメだろ」
「家族まで出すな!!!!」
「花ちゃん完全に顔変わったぞ」
「伊藤キレた」
「さすがに笑えないライン越えた」
「花ちゃんファン全員ブチギレ案件」
「ケモ耳煽りまではまだ挑発だったけど今のは違う」
「菜園宗一郎、SNS炎上どころじゃない」
「伊藤の『テメェ』怖すぎる」
「花ちゃん黙ってるのが一番怖い」
「#菜園謝れ」
「#山吹花を守れ」
「走りで返そうとしてる花ちゃん頑張れ」
「これもうチェッカー後の方が怖いだろ……」
フリスは先頭を走るケイマンGT4の中で、ほんの一瞬だけバックミラーへ視線を送った。
遠く後方では、さっきまで騒がしく暴れていたポルシェが、まだ落ち着かない動きを見せている。
フリス「……なに?」
少しだけ眉を寄せる。
フリス「……あのウザいポルシェ……。」
もう一度だけミラーを見る。
フリス「後ろで、ぶつかってたけど……。」
しばらく無言。
そして、いつもの静かな声でぽつりと落とした。
フリス「……あの男、嫌い。」
ぽぉんっ。
パドルを引き、ケイマンはそのまま次の高速ベントへ滑り込んでいく。
それ以上、菜園について語る気はないらしい。
フリスの意識はもう、前方のコースへ戻っていた。
若林「あああああああッ!! フェラーリ! WRX! R8! そして絶対王者フリスの718ケイマンGT4まで!!」
若林「古賀加奈子のM5が、ダーティエアの濁流を引きずりながら一気に全車を飲み込んだアアアア!!!!」
ブォォォォォォォォォンッ!!
2.4トン級の巨体が、乾いた路面を踏み砕くような勢いで前へ出る。
古賀加奈子「アハハハハハハ!!」
古賀加奈子「素晴らしいわ、この景色!! 前に誰もいない!!」
古賀加奈子「フリス、セリナ、クリスタ!! 必死に守ってきた順位も、今は全部私の後ろよッ!!」
その声には、前半戦まで見せていた穏やかな教師の面影などほとんど残っていなかった。
ただ勝利だけを見据えた、一人のレーサーの声だった。
若林「古賀加奈子、ここへ来て完全覚醒だアアアア!!!!」
若林「前ラップまでの落ち着いた走りは何だったのか!! 288戦で二桁順位に沈んだあの古賀加奈子が、今、吾妻GTの先頭に立ったアアアア!!!!」
後方。
フリスのケイマンGT4は、M5の巨大なリアを追っていた。
だが、さっきまでなら確実に詰められていたはずの距離が、少しずつ開いていく。
フリス「……。」
ほんの少しだけ眉が動く。
フリス「……目障り。」
それだけだった。
ぽぉんっ。
ケイマンはさらに加速する。
だが前方のM5は、なおも遠い。
エアリ「これは単純な最高速勝負じゃないッスね。」
若林「と言いますと!?」
エアリ「加奈子さん、前半からずっとタイヤとブレーキを残してた。」
エアリ「だから完全ドライになった今、重いM5でも四輪へしっかり荷重を掛けられてるッス。」
エアリ「それに最終ダウンヒルでは、車重そのものが慣性として効いてくる。もちろん重ければ何でも速いわけじゃないッスけど、姿勢さえ作れれば速度を落としにくい。」
エアリは画面上のM5のラインを指で追った。
エアリ「見てください。加奈子さん、ブレーキを一気に踏み抜いてない。」
エアリ「最初に強く減速して、そこから少しずつ抜きながらフロントへ荷重を残してる。」
エアリ「だから2.4トン近い車体でも、最終コーナー進入でノーズが外へ逃げない。」
若林「重戦車を力任せに曲げているわけではないッ!!」
エアリ「むしろ逆ッス。」
エアリ「重い車だからこそ、荷重移動を急に起こさない。」
エアリ「アクセルを入れる時も、ステアリングがほぼ戻ってから一気に踏んでる。そこでM5のトルクを全部使ってるッスね。」
前方。
赤いM5が最終コーナーへ進入する。
ギャアアアアアアンッ!!
一瞬だけ車体が外へ沈む。
しかし加奈子は乱さない。
その慣性すら利用して、車体を出口へ滑らかに向ける。
古賀加奈子「……ここよッ!」
ヴァアアアアアアアッ!!
M5が立ち上がる。
若林「速いイイイイ!!!!」
若林「最終コーナーを完全に抜けた!! ゴールまで残り200メートルだアアアア!!!!」
その背後。
内藤セリナのR8がスリップへ入ろうとする。
内藤セリナ「加奈子先生、本気すぎるよぉ……ッ!」
だがM5の後方では、乱れた空気が大きく広がっている。
R8のフロントが僅かに揺れた。
内藤セリナ「うわっ……真っすぐ入れない!」
さらに後ろ。
フリスも同じ気流を受ける。
フリス「……。」
ケイマンのステアリングを、ごく小さく修正する。
エアリ「ここも加奈子さんが強いッス。」
エアリ「M5の後ろへ近づけばスリップは取れる。でも近づきすぎると、乱流でフロントの接地感が薄くなる。」
エアリ「セリナさんもフリスさんも、追いつきたいのに完全には真後ろへ入れない。」
エアリ「前を走ってる加奈子さん自身が、巨大な空力バリアみたいになってるッス。」
腹切カナタ「……先生。」
さらに後方から、カナタも赤いM5を見る。
タイヤは限界を越え、86の挙動も決して安定してはいない。
それでもアクセルは戻さない。
腹切カナタ「……まだ終わってない。」
サテラ「……見つけた。」
ギュオオオオオオッ!!
最後方から、黒いマシンが一気にラインを切り裂く。
乱れた空気のさらに外側――誰も使っていなかった“清浄なライン”を踏み抜いて、サテラが一気に浮上する。
若林「な、なんだアアアア!?!? ここで新たな刺客だとォォォォ!!!!」
エアリ「サテラ……!? いつの間にあの位置にッスか!!」
サテラ「前が詰まってるなら……全部まとめて抜く。」
ぽんっ!!
ギュオオオオオオんんんッッ!!!!
サテラのマシンが、腹切カナタの横を一瞬で抜き去る。
さらにそのまま、セリナのR8の乱流を“外から回避”して接近。
内藤セリナ「えっ……!? 外から来るの!?」
サテラ「邪魔。」
一閃。
サテラがセリナの横を抜き、フリスの射程圏へ飛び込む。
フリス「……新手か。」
若林「サテラが一気に上がってきたアアアア!!!! これは混戦だァァァァ!!!!」
ぽんっ!!
ギュオオオオオオッ!!
若林「カナタも追う!! しかし距離はまだあるッ!!」
若林「先頭、古賀加奈子!! 2位フリス!! 3位内藤セリナ!! 4位サテラ!! その後ろからクリスタ、山吹花、腹切カナタ!!」
若林「288戦では届かなかった頂点!! その雪辱を、この吾妻で一気に晴らそうとしているウウウウ!!!!」
チェッカーフラッグを握るオフィシャルが、ついに赤いM5を視界へ捉える。
残り100メートル。
フリス「……。」
残り80メートル。
セリナがさらに踏む。
サテラ「まだ上がる。」
残り50メートル。
古賀加奈子「……アハハッ。」
ステアリングを握る手に、さらに力が入った。
若林「古賀加奈子に初優勝が見えたアアアア!!!!」
若林「絶対王者フリスの王座を奪い!! 太陽神セリナを抑え!! そして新たな刺客サテラまでも巻き込み!! 紅い重戦車が今――」
チェッカーフラッグが、高く振り上げられた。
若林「吾妻GTのゴールラインへ飛び込むウウウウウウ!!!!」
次回 レース決着!!!!




