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86伝説エーペックス  作者: SAI
吾妻GT編
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527/534

吾妻編第63話 GRSUPRAvs992GT3

若林「そういえば……この二人の対決!! 気になっていたライブ視聴者も多いでしょうッ!!」


若林「11歳の天才少女・イヨ!! 対するは50代の鉄人・菜園宗一郎!!」


若林「世代差およそ40年!! 土湯温泉街の狭い路地で、ついに直接対決だアアアア!!!!」


ブォォォォォォォォンッ!!


ギュオオオオオオッ!!


白いGRスープラ。


その真後ろに、黒い911 GT3。


旅館の建物が迫る狭い区間で、菜園は僅か数メートルの間隔を保ったまま離れない。


イヨ「むーっ……!」


イヨ「このおじさん、ずっといるよーっ!!」


菜園宗一郎「バックミラーばっか見てんな。」


菜園宗一郎「前を見ろ。次、右だ。」


イヨ「えっ!?」


その直後。


右へ折れ込むタイトコーナー。


イヨは重力を強め、スープラの四輪を路面へ押しつける。


ビシュウウウウッ!!


ギャアアアアアアンッ!!


若林「イヨ、重力トラクション!! ブレーキングを遅らせたアアアア!!!!」


だが菜園は追わない。


一瞬だけ早くブレーキ。


911のフロントへ荷重を乗せ、そのまま小さく向きを変える。


菜園宗一郎「……そこじゃねえ。」


イヨ「え?」


菜園はインへ入らない。


あえて少し外側を通り、コーナー出口へ911を早く向ける。


ブォオオオオオオッ!!


若林「菜園、入口では引いた!! しかし立ち上がりで一気に距離を詰めるウウウウ!!!!」


エアリ「今の、かなり上手いッス。」


若林「どこですか!?」


エアリ「イヨさんは重力で接地荷重を増やせるから、入口のブレーキングはすごく強い。」


エアリ「でも菜園さん、それを分かっててブレーキ勝負してないッス。」


エアリ「少し早めに減速して、ステアリングを切る時間を短くした。」


エアリ「だからイヨさんがまだ横Gを受けながら曲がってる時に、菜園さんはもう911を出口へ向けてアクセルを踏めてるッスね。」


若林「入口を捨てて出口を取ったアアアア!?」


エアリ「そうッス!」


エアリ「しかもRRはリアに荷重が乗りやすい。出口でアクセルを入れた瞬間、後輪にトラクションを掛けやすい。」


エアリ「この細い路地だと最高速より、“どれだけ早く次の加速姿勢を作れるか”の方が大事ッス。」


ズバアアアアッ!!


911がスープラのリアバンパー寸前まで接近する。


イヨ「わああっ! また来たーっ!!」


イヨ「だったら……もっと重くするもんッ!!」


濃いピンク色の波動が、今度は911の周囲へ広がる。


ギュウウウウウッ!!


菜園宗一郎「……重いな。」


ステアリングが僅かに重くなる。


サスペンションも沈み込む。


だが菜園はすぐにアクセルを抜かない。


菜園宗一郎「だったら、使わせてもらう。」


若林「菜園、重力を受けたままコーナーへ突っ込むウウウウ!!!!」


エアリ「ここも見てほしいッス!」


エアリ「車重が増えたみたいな状態になると、普通は慣性も大きくなるから止まりにくくなる。」


エアリ「だから菜園さん、ブレーキを踏み増してるんじゃなくて、さっきより手前から減速してる。」


エアリ「その代わり、重力でタイヤへ掛かった荷重を使って、旋回中の接地を安定させてるッス。」


若林「魔法に逆らわず、セットアップみたいに扱っているッ!?」


エアリ「そんな感じッス。」


エアリ「ただし、荷重を増やせば何でもグリップが増えるわけじゃないッスよ。タイヤには限界がある。」


エアリ「菜園さんはその限界を越えないギリギリまでしか使ってない。」


エアリ「重力が強くなった瞬間に、ステアリング角もちゃんと減らしてる。そこまで見てるッスね。」


次の左。


イヨはインを守る。


イヨ「ここは入れないよーっ!」


菜園宗一郎「……そうか。」


911が一度右へ振れる。


イヨ「そっち!?」


だがフェイント。


菜園はすぐ左へ戻し、スープラの真後ろへ入る。


ブォォォォォンッ!!


若林「菜園、無理に横へ出ない!!」


エアリ「前へ出るための準備ッスね。」


エアリ「ここで並ぶと次の右コーナーで二台ともラインが苦しくなる。」


エアリ「だから菜園さん、今はスリップだけ使って距離を詰めてる。」


エアリ「イヨさんが次のブレーキングで少しでもインを守りすぎたら、出口が遅くなる。」


エアリ「そこを待ってるッス。」


イヨ「……むむむっ。」


次の右。


イヨは菜園を警戒し、通常より早くイン側へ寄る。


菜園宗一郎「……かかった。」


イヨ「えっ?」


イヨは内側を守ったことで、コーナー半径が小さくなる。


ステアリングを大きく切る。


スープラの速度が僅かに落ちる。


エアリ「これッス!」


エアリ「菜園さん、さっきからインへ入る素振りを何回も見せてた。」


エアリ「だからイヨさんが防御のために早くインを閉めた。」


エアリ「その結果、イヨさん自身が出口速度を落としたッス!」


若林「走りだけじゃない!! 相手のラインまで誘導していたアアアア!!!!」


菜園宗一郎「遅いぞ、お嬢ちゃん。」


ブォオオオオオオッ!!


911は外側から大きな弧を描く。


車体を早く真っすぐへ戻し――。


ズバアアアアアッ!!


イヨ「わああああっ!?」


スープラの横へ並ぶ。


若林「並んだアアアア!!!!」


若林「白いGRスープラ!! 黒い911 GT3!! 土湯温泉街の狭い路地で完全サイドバイサイドォォォォ!!!!」


イヨ「えええいっ!!」


再び重力。


911の車体が沈む。


ギュウウウッ!!


菜園宗一郎「……まだやるか。」


イヨ「今度こそ止まってよーっ!!」


菜園は一瞬だけ911を外側へ逃がす。


荷重の集中を避け、タイヤを真っすぐ使える時間を作る。


エアリ「菜園さん、今わざと半車身下がったッス!」


若林「下がった!?」


エアリ「重力を受けた状態で無理に横Gまで掛けると、タイヤが一気に飽和する。」


エアリ「だから一度ステアリングを戻して、縦方向だけにグリップを使ったッス。」


エアリ「それで加速を残して……。」


ブォォォォォォォォンッ!!


911が再び伸びる。


エアリ「もう一回並ぶ!」


若林「なんという執念ンンンン!!!!」


菜園宗一郎「まだ終わってねえぞ。」


イヨ「このおじさん、しつこすぎるよぉぉぉ!!」


菜園宗一郎「褒め言葉だ。」


イヨ「褒めてないよーっ!!」


若林「イヨちゃん、完全に余裕が消えたアアアア!!!!」


エアリ「菜園さん、速いというより“崩れない”ッスね。」


エアリ「イヨさんの重力が来るたびに、ブレーキ位置、ステアリング角、アクセルを入れるタイミングを全部少しずつ変えてる。」


エアリ「同じ走りを一回もしてない。」


エアリ「相手の能力を一周の中で学習しながら、自分のラインを修正してるッス。」


若林「50代の経験値が、11歳の超能力を追い詰めるウウウウ!!!!」


菜園宗一郎「さあ、お嬢ちゃん。

次はどうする?」


イヨ「……えっへん☆」


一瞬だけ、イヨが笑う。


イヨ「だったらイヨも、本気で考えるもんッ!」


濃いピンク色の重力波動が、今度はスープラ自身の周囲だけへ収束する。


エアリ「……あ。」


若林「エアリさん!?」


エアリ「イヨさんも学習したッス。」


エアリ「相手を重くするんじゃなくて、自分のタイヤだけに重力を掛け始めた。」


エアリ「これなら菜園さんに利用されにくい。」


菜園宗一郎「……そう来るか。」


ブォォォォォォォンッ!!


ギュオオオオオオッ!!


若林「ベテランが読み!! 天才が対応する!!」


若林「イヨ対菜園!! このタイマン、ここからが本当の勝負だアアアア!!!!」


イヨ「えっへん☆ 今度はイヨ自身だけ、ぎゅーって重たくするんだからっ!」


ビシュウウウウッ!!


GRスープラの足元へ、濃いピンク色の重力波動が集中する。


ギュオオオオオッ!!


菜園宗一郎「……。」


911の車内で、菜園の眉が僅かに動いた。


菜園宗一郎「……俺の科学的理論では、こんなことはありえない……ッ!!」


若林「菜園、ついに困惑したアアアア!!!!」


菜園宗一郎「相手の車重を増やすならまだ分かる……!」


菜園宗一郎「だが自分の接地荷重だけ変えて、旋回と加速を両立するだと……!?」


イヨ「えへへー☆ 科学だけじゃ、イヨは測れないもんねーっ!」


ズバアアアアアッ!!


スープラがコーナー出口で一気に加速する。


菜園宗一郎「……チッ。」


それでも911は離れない。


エアリ「菜園さんが驚くのも当然ッス。」


エアリ「さっきまではイヨさんの重力変化を、菜園さんがブレーキ位置やステアリング角で対応できてた。」


エアリ「でも今は違う。」


エアリ「イヨさん、自分の車だけ重力を細かく変えてるから、コーナーの入口、旋回中、出口で接地荷重そのものが変化してるッス。」


エアリ「普通のセッティングじゃ絶対に再現できない動きッスよ。」


菜園宗一郎「……面白ぇ。」


菜園宗一郎「だったら、その理論外まで読んでやる。」


若林「科学を信じる鉄人と、科学を飛び越える破壊神!!」


若林「菜園VSイヨ!!まだ決着はつかないイイイイ!!!!」


腹切カナタ「……イヨちゃんの重力、まだ菜園を止められないのか。」


腹切カナタ「だったら二人がやり合ってる今に、俺は前へ行く。」


若林「11歳のイヨ!!50代の菜園宗一郎!!土湯温泉街で白い二台のタイマン勝負だアアアア!!!!」


ブォォォォォォォンッ!!


ギュオオオオオオッ!!


白いGRスープラの直後に、白い911 GT3。


イヨ「むーっ! まだついてくるのーっ!」


菜園宗一郎「当然だ。公道のリズムを教えてやるよ。」


イヨ「だったら……もっと重くしちゃうもんッ!」


ビシュウウウウッ!!


濃いピンク色の重力波動が911を押さえ込む。


車体が沈み、タイヤへ一気に荷重が掛かる。


若林「菜園のポルシェが沈んだアアアア!!!!」


菜園宗一郎「……重いッ!」


それでもアクセルは抜かない。


エアリ「菜園さん、ここかなり細かく対応してるッス。」


エアリ「重力が強まった瞬間、ステアリング角を減らしてる。タイヤに横方向の仕事をさせすぎず、増えた接地荷重を加速側へ使ってるッスね。」


エアリ「ただ、荷重を掛けすぎればタイヤは飽和する。菜園さんはその限界ギリギリだけ拾ってるッス。」


菜園宗一郎「……科学的にはありえねえ。」


菜園宗一郎「だが、使えるなら使うだけだッ!」


ブォオオオオオオッ!!


911が再びスープラへ接近する。


イヨ「なんで動けるのぉ!?」


その背後。


赤いREVIVE86も距離を詰める。


腹切カナタ「……二人とも相手しか見えてない。」


腹切カナタ「なら、その間を狙う。」


若林「カナタまで来たアアアア!!!!5位争いが三つ巴へ変わるウウウウ!!!!」


さらにイヨの周囲から、甘いわたあめの香りが漂い始める。


イヨ「えっへん☆ 今度はこれーっ!」


シュルシュルシュルッ!!


細いピンク色の糸が渦を巻き、911の周囲へ絡みつく。


菜園宗一郎「今度はわたあめかよッ!?」


若林「甘い竜巻がポルシェを包んだアアアア!!!!」


エアリ「これは重力とは別の厄介さッスね。」


エアリ「糸で車体周辺の空気が乱されるから、911のリアへ流れる風が安定しない。」


エアリ「菜園さん、さっきまでみたいにトラクションだけでは処理しきれないッス。」


911が小さく左右へ揺れる。


だが菜園はステアリングを細かく修正し続ける。


菜園宗一郎「……まだ終わってねえ。」


イヨ「しつこいよーっ!!」


その後ろでカナタが竜巻の中心を見る。


腹切カナタ「……中心だけ、風が弱い。」


ぽんっ!!


ギュオオオオオオッ!!


腹切カナタ「そこを通る。」


エアリ「カナタくんも見てるッス!」


エアリ「竜巻の外側は空気が乱れてる。でも中心付近は相対的に流れが安定する。」


エアリ「タイヤが厳しい86にとっては、空気抵抗の少ない場所を使えるだけでも大きいッスよ!」


若林「イヨの重力!!菜園の経験!!そしてカナタの観察眼!!」


若林「土湯温泉街、5位争いは完全な三つ巴だアアアア!!!!」


ギャアアアアアアッ!!


ゴオオオオオオッ!!


若林「赤い戦闘機も思い切り舵を切り込みましたアアアアア!!!!」


ぽんっ!!


ギュオオオオオオオッ!!


86ターボが一段ギアを繋ぎ、カナタは高速S字へほとんど速度を落とさず飛び込む。


菜園宗一郎「……バカかッ!?」


菜園宗一郎「この先は高速S字だぞ!!その速度で曲がるなんざ自殺行為だァ……ッ!!」


ギャアアアアアアンッ!!


86のフロントが一瞬だけ外へ逃げる。


だがカナタはさらに切り足さない。


ほんの一瞬アクセルを戻し、前荷重を作る。


そのまま右。


すぐ左。


ズバッ!!


ギュンッ!!


赤い車体が最小限の姿勢変化だけで、S字を一直線に切り抜けていく。


菜園宗一郎「……ッ!?」


菜園宗一郎「どう見てもオーバースピードだった……!」


菜園宗一郎「なのに……物理法則を無視したみたいに切り返して抜けていく……ッ!」


若林「カナタ、速い!!切り返しが異常に速いッ!!」


エアリ「でも無視してるわけじゃないッス!」


エアリ「カナタくん、最初の進入で曲げ切ろうとしてない。」


エアリ「右へ入る瞬間に全部のグリップを使わず、ほんの少しだけ余らせてるんスよ。」


エアリ「だから一発目の旋回が終わる前から、もう次の左へ荷重を移し始めてる。」


エアリ「S字を二つのコーナーとしてじゃなくて、“一つの連続した荷重移動”として処理してるッス!」


菜園宗一郎「……ブレーキも速い……ッ!」


菜園宗一郎「いや違う……俺の方がブレーキ開始は遅いはずだ!」


菜園宗一郎「なのに、なぜあいつの方が先に向きを変え終わってる!?」


エアリ「そこもポイントッス。」


エアリ「菜園さんはブレーキを奥まで我慢して、減速してから曲げるタイプ。」


エアリ「でもカナタくんは、ブレーキを短く強く使って、完全に減速しきる前から旋回へ入ってる。」


エアリ「だから“ブレーキを遅らせる”んじゃなくて、“ブレーキ時間そのものを短くしてる”ッス。」


菜園宗一郎「……ッ!」


エアリ「しかも86は軽い。」


エアリ「重い911より荷重の移り変わりが速いから、右から左への切り返しで一瞬早く次の姿勢を作れるッスね。」


ギュオオオオオオッ!!


カナタの86がさらに前へ。


菜園宗一郎「……このペースに……お前だけがいないんだよ……ッ!」


菜園宗一郎「他の奴らは高速S字に入った瞬間、必ず一度リズムが落ちる……!」


菜園宗一郎「なのにお前だけ……ずっと同じテンポで走ってやがる!!」


腹切カナタ「……。」


菜園宗一郎「それは一体なぜだァ……!?」


エアリ「たぶん菜園さんが感じてる違和感、それッス。」


エアリ「カナタくんだけ“コーナーごとに走ってない”。」


エアリ「高速S字全体を一本のラインとして先に作ってる。」


エアリ「だから一個目を抜けた後に考える時間がない。最初から二個目、三個目まで車を置く場所が決まってるッス。」


若林「これが赤い戦闘機の高速S字攻略ゥゥゥゥ!!!!」


若林「満身創痍の86!!それでも走りのリズムだけは崩れないアアアア!!!!」


菜園宗一郎「だが、そんな86なら……この先の高速コーナーでどうせ失速するだろ?」


菜園宗一郎「それに伊藤……お前の速さはもう――」


腹切カナタ「伊藤より自分の心配しろよな。」


菜園宗一郎「……なあああ!!??」


次の瞬間。


ドガアアアアアアッ!!!!


菜園の911が高速コーナー進入で大きく姿勢を乱す。


ギャアアアアアアンッ!!


菜園宗一郎「うおおおおッ!?」


カナタへの意識が一瞬だけ強くなり、ブレーキングポイントを僅かに見誤った。


911のフロントが外へ流れる。


その横を――。


ぽんっ!!


ギュオオオオオオッ!!


赤いREVIVE86が一気に駆け抜ける。


腹切カナタ「ほら。」


腹切カナタ「前見ろって。」


菜園宗一郎「クソオオオオオッ!!!!!」


若林「菜園、完全にカナタへ意識を持っていかれたアアアア!!!!」


若林「高速コーナーでラインを外した!!その横を赤い戦闘機が突き抜けるウウウウ!!!!」


エアリ「今のカナタくん、何も特別なことしてないッス。」


エアリ「菜園さんがカナタくんと伊藤くんを意識しすぎて、ブレーキ開始がほんの僅かに遅れた。」


エアリ「高速コーナーは、その数メートルのズレだけでクリップへ入れなくなるッス。」


エアリ「逆にカナタくんは喋りながらも視線はずっと出口。そこが決定的な差になったッスね。」


菜園宗一郎「……ッ!!」


腹切カナタ「人の心配してる場合じゃないだろ。」


ギュオオオオオオッ!!


若林「腹切カナタ、冷静ッ!!」


若林「菜園宗一郎の挑発を逆に利用し、高速コーナーで再び距離を広げたアアアア!!!!」


菜園宗一郎「だが、そんな86なら……この先の高速コーナーでどうせ失速するだろ?」


黒い911 GT3は赤い86の背後へ食らいついたまま、じわじわと距離を詰めていた。


菜園の視線はカナタのラインを追いながら、それでも意識の片隅では、さらに後方を走る黄色いスイスポへ向いている。


菜園宗一郎「特に伊藤……お前の速さはもう――」


その言葉を遮るように、無線越しにカナタの低い声が飛んだ。


腹切カナタ「伊藤より、自分の心配しろよな。」


菜園宗一郎「なあああ!!??」


ほんの一瞬。


菜園の視線が揺れた。


目の前には、すでに高速右コーナーが迫っている。


菜園宗一郎「しまっ――」


ドガアアアアアアッ!!!!


911の左側が路面の荒れた部分を踏み、車体が大きく跳ねた。


ギャアアアアアアンッ!!


フロントタイヤが一瞬グリップを失い、黒いポルシェのノーズが外側へ流れていく。


菜園宗一郎「クソッ!!」


慌ててステアリングを戻す。


だが、その瞬間にはもう遅かった。


赤い86はすでに理想のラインへ入っている。


ぽんっ!!


ギュオオオオオオッ!!


ターボの加速音を響かせながら、カナタは菜園の横を一気に抜けていった。


腹切カナタ「……ほら。」


ほんの少しだけミラーを見る。


腹切カナタ「前、見ろって。」


菜園宗一郎「こ、この野郎オオオオッ!!」


若林「ああああああッ!! 菜園、まさかのミス!!」


若林「カナタへの意識が一瞬強くなったその隙に、ブレーキングポイントを外したアアアア!!!!」


エアリ「今の差、ほんの数メートルッスよ。」


エアリ「でも高速コーナーでは、その数メートルが大きい。」


エアリ「菜園さんは進入で少し速度を残しすぎて、フロントがクリップへ向かなかった。」


エアリ「対してカナタくんは、喋っている間も視線はずっと出口を見てたッス。」


前方。


赤い86が次の高速ベントへ向けて、再び姿勢を整える。


タイヤは限界。


足回りも傷んでいる。


それでも、カナタのラインだけは乱れない。


腹切カナタ「……人の心配してる場合じゃないだろ。」


ギュオオオオオオッ!!


若林「腹切カナタ、冷静だアアアア!!!!」


若林「満身創痍の赤い戦闘機!! 菜園宗一郎を再び引き離していくウウウウ!!!!」


若林「そして後方では、岡田大成のGR GTが熱いッ!!!!」


ヴァアアアアアアアッ!!!!


低く唸るエンジン音を響かせながら、黒いGR GTが高速コーナーへ飛び込んでいく。


その前方。


追われているドライバーは、ミラーに映る岡田の存在を確認しているはずだった。


それでも、表情一つ崩さない。


岡田大成「……なんだよ、その安定した顔は。」


ステアリングを握る岡田の指に、僅かに力が入る。


こちらは限界ぎりぎりまでブレーキを詰め、少しずつ距離を削っている。


だが前のマシンは、まるで背後から迫る圧力など存在しないかのように、一定のリズムでコーナーを抜けていく。


ギャアアアアアアンッ!!


岡田大成「……俺がここまで張り付いてるんだぞ。」


黒いGR GTがさらにインへ寄る。


岡田大成「少しくらい焦れよ……ッ。」


若林「岡田大成、完全にロックオン!!」


若林「しかし前走車は動じない!! 岡田の猛烈なプレッシャーを受けても、ラインがまったく乱れないぞオオオオッ!!!!」

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