吾妻編第59話 土壇場でのリタイヤ
若林「あああああああッ!! 何が起きた!? ちとせのRZ34がラインを乱したアアアアッッ!!」
ガリッ!!
ギャリギャリイイイイインッ!!!
蒼いRZ34の左フロントが凍結路面を掴み切れず、外側のガードレールへ激しく接触する。
ちとせ「うわああああ〜……☆」
ガラッシャアアアアアンッ!!!
若林「ちとせ、まさかのリタイヤアアアア!!!!
路面まで味方にできなかったのかアアアアアア!!????」
腹切カナタ「山は誰に対しても平等ってことか……。」
山吹花「伊藤くん、今のうちに上がってきて……ッ!」
伊藤翔太「....あぁッ!!!!!待ってろよ花ァ!そっち行く!!!!」
その頃、先頭のケイマンGT4。
フリス「……。」
フリスは一瞬だけバックミラーを確認する。
フリス「ちとせが落ちたか。」
そして数秒。
フリス「……。」
さらに数秒。
フリス「……我、今何位だったか。」
山吹花「えっ?」
腹切カナタ「……。」
フリス「いや……先頭だった気はする。」
フリス「だが、さっき花に抜かれて……我が抜き返して……その後イヨが来て……。」
フリスは静かな顔のまま、完全に順位を見失っていた。
フリス「……二位?」
山吹花「フリス、今先頭だよ!」
フリス「……そうか。」
ぽぉんっ。
フリス「なら問題ない。」
腹切カナタ「そこ忘れるのかよ……。」
フリス「レースに集中しすぎると、順位はたまに消える。」
山吹花「普通そこが一番大事じゃない!?」
フリス「……言われてみれば、そうだな。」
ほんの一瞬だけ、王者の威厳が消える。
だが次のコーナーが迫った瞬間――。
フリス「……さて。」
声が低くなる。
フリス「先頭だと分かったなら、話は早い。」
フリス「我の前には誰もいない。」
ごぎゃああああああッ!!
ぽぉんっ!!
ケイマンGT4が一気に加速する。
若林「順位を忘れていた絶対王者!! しかし思い出した瞬間、再びケイマンが逃げるウウウウ!!!!」
フリス「……今度は忘れぬ。」
山吹花「たぶんまた忘れるよ……。」
フリス「……否定はできない。」
若林「ちとせの脱落が、残されたレーサーたちの魂にさらなる火をつけたアアア!!」
若林「1位フリス!2位山吹花!3位腹切カナタ!4位イヨ!!そして7位には伊藤翔太!!」
若林「そして標高を下げたことで天候も大きく変化!!あれほど荒れ狂っていた雪は弱まり、視界が一気に開けてきたアアアア!!!!」
山頂の白い世界とは違う。
吾妻の麓では雲の切れ間から薄い光が差し込み、道路脇に雪こそ残るものの、前方のラインははっきり見える。
ただし、路面温度は低い。
日陰には薄い凍結も残り、油断すれば一瞬でグリップを失う状況だった。
若林「そして上位陣の裏でも、とんでもない戦いが続いているウウウウ!!!!」
若林「相川美保の400R!!柳津雄介のM4 DTM Edition!!まだ張り付いていたアアアア!!!!」
ヴォォォォォォォンッ!!
キィィィィィィッ!!
ディープマリンブルーの400Rが、高速ベントから柳津のM4へ猛烈に迫る。
相川美保「やっと前が見えるようになった……!」
相川美保「だったら、ここからは思い切り攻められる!!」
柳津雄介「来るか、美保ちゃん……ッ!だが、こっからは容赦しないぜェ......ッ!!」
相川美保「柳津さん、そのM4……確かに走る城壁の挙兵だけど...今ここで抜かせてもらうよオオッ!!」
ごぎゃああああああああああ!!!
ぎいいいいいいんん!!!
若林「.....ブレーキングウウウウウッッ!!!!!!!!!」
美保は400Rの四輪を路面へ押しつけ、イン側へ鋭く飛び込む。
柳津はM4を外側へ残し、旋回速度を落とさず抵抗する。
ギャアアアアアアンッ!!
若林「33Rがイン!!M4がアウトに膨らむうううっ!!二台並んだアアアア!!!!
レースマネジメントが最高にうまい!相川美保!14歳!!!!!!」
柳津雄介「この程度で終わると思うなよ....ッ!!こっちにも負けられないプライドとメンツッてモンあるんだァ......!!!!」
ヴぉおおおおおおおおお!!!!!!!!
柳津雄介「俺のM4は、高速コーナーならまだ負けねぇ!」
相川美保「だったら立ち上がりで勝負ッ......いけえええええええええ!!!!!!」
ドゴオオオオオンッ!!
400Rが四輪駆動のトラクションを活かし、一気に前へ出る。
柳津雄介「なッ……速い!!」
若林「相川美保が伸びるウウウウ!!!!Rの加速がM4を上回った!!
相川美保がついに前へ出たアアアア!!!!」
ドン!!!ぎゃぎゃああああああああああ!!!!
エアリ「今の美保さん、すごく上手かったッス!山頂では雪が深くて二台とも思い切り踏めなかった。でも麓へ下りて視界が戻ったことで、美保さんは400Rの四駆をかなり積極的に使えるようになったッスね!柳津さんのM4はコーナー中の安定感と高速旋回が強い。でも出口から直線へ入った瞬間、美保さんが四輪全部へ上下のGが下に傾いた瞬間に美保さんが気づいてトラクションを掛けた!素晴らしいレース運びッスねー....。やられましたねー...柳津くんは.....ッ!!!」
エアリ「そこで一気に差が出たッス!」
柳津雄介「……参ったな。山頂より走りやすくなった途端、さらに速くなりやがった。
….まるでカリンのromaと同じオーバーテイクをアイツはしかける......。」
「なんでもないところでまた一歩ゴールラインへの道筋があるって言うのか.....?」
相川美保「お兄ちゃんがいなくても、私はちゃんと走れるんだから!」
柳津雄介「そういう妹の方が、兄貴より怖いんだよ……ッ!」
若林「相川美保、15位を奪取ォォォォ!!!!」
だが柳津も離れない。
M4は400Rの真後ろへ入り、スリップストリームを使って再び距離を縮めていく。
柳津雄介「まだ終わってねぇぞ、美保ちゃん。」
相川美保「もちろん!」
相川美保「最後まで付き合ってもらうからねッ!」
ヴォオオオオオオッ!!
二台は残雪の舞う吾妻の麓を、さらに下っていく。
若林「山頂の雪地獄を抜けても戦いは終わらない!!」
若林「ここからは視界良好!!だからこそ、純粋な速度とライン取りが問われるセクター4だアアアア!!!!」
若林「あああああッ!! 吾妻の魔物は、ベテランのプライドさえ容赦なく削り取るウウウウ!!!!」
若林「相川美保に抜かれた柳津雄介のM4 DTM Edition!! その背後から今度は、陽太のオレンジ・ロードスターが急接近だアアアア!!!!」
ヴォオオオオオッ!!
ギュガガガガッ!!
吾妻の麓。
吹雪は弱まり、視界はかなり開けている。
ただし路面には残雪と濡れた凍結箇所がまだ残り、柳津のM4は先ほどのバトルで乱れたタイヤの温度と姿勢を立て直し切れていない。
柳津雄介「次から次へと来やがって……ッ!」
柳津雄介「どう止めろってんだよ! こっちは美保ちゃん相手に散々タイヤ使わされてんだぞ!」
バックミラーいっぱいに、オレンジ色のロードスターが映る。
柳津雄介「今度は軽量車かよ……。」
陽太「柳津さんのM4、コーナー出口で少しだけ踏み出しが遅い。」
陽太「だったら……そこを使う!」
中速右コーナー。
柳津はM4のフロントへ荷重を乗せ、アウトから大きく旋回する。
だが、まだ車体が完全に前を向く前にアクセルを開けたことで、リアが僅かに外へ逃げた。
ギャッ!!
柳津雄介「チッ……!」
その瞬間。
陽太はロードスターをインへ滑り込ませる。
ギュオオオオオッ!!
若林「陽太、迷わずインへ飛び込んだアアアア!!!!」
柳津雄介「そこ来るのかよッ!」
陽太「今なら入れる!!」
軽いロードスターはステアリングを最小限に切り、縁石すれすれを小さな姿勢変化だけで抜けていく。
対するM4はパワーこそ圧倒的。
しかし出口まで車体を安定させるため、一瞬だけアクセルを待たされた。
その一瞬で――。
ンバアアアアアッ!!
ロードスターが半車身前へ。
若林「前に出たアアアア!!!! 陽太、M4を仕留めるかアアアア!!!!」
エアリ「これは陽太くん、かなり状況を読んでたッス!」
エアリ「柳津さんのM4はパワーもブレーキも強いッスけど、車重がある分、コーナーで一度姿勢を崩すと立て直すまで少し時間が必要なんスよ。」
エアリ「しかも美保さんとのバトルでタイヤをかなり使ってる。特にリアが熱を持ったあと、冷えた路面へ入ったことでグリップの出方が一定じゃないッス。」
エアリ「陽太くんはそこを見て、ブレーキング勝負を真正面から挑まなかった!」
エアリ「柳津さんが旋回して、アクセルを入れ直すまでの短い空白だけを狙ったッスね。」
若林「なるほど!! パワー差を戦わずして消したのかアアアア!!!!」
エアリ「そうッス!」
エアリ「ロードスターは軽いから、ブレーキで減速させる距離も短いし、向きを変えた後の修正も小さく済む。」
エアリ「柳津さんがM4の大きなパワーを使えるのは、車体がちゃんと出口へ向いてから。でも陽太くんは、その前にインから前へ出たッス!」
エアリ「つまり直線の速さじゃなくて、“アクセルを全開にできるまでの時間”で勝負したんスよ!」
柳津雄介「……なるほどな。」
柳津雄介「俺が踏めない時間を狙いやがったのか……!」
陽太「パワーじゃ勝てないですから。」
陽太「なら、ロードスターが一番得意なところで勝負します!」
ヴォオオオオオッ!!
次の短い直線。
柳津のM4が猛烈に加速を始める。
だが陽太はすでに前。
次のコーナーへ向け、イン側を先に押さえる。
柳津雄介「クソッ! 前に出られたら厄介だな……ッ!」
エアリ「そこも大事ッスね!」
エアリ「一回ロードスターを前に出すと、柳津さんは今度、自分の得意な加速を使う前に陽太くんのラインを避けなきゃならない。」
エアリ「軽い車に先にコーナー入口を取られると、ハイパワー車でも簡単には抜き返せないッスよ!」
若林「陽太、完全にM4の強みを封じ込めたアアアア!!!!」
若林「16位争い!! オレンジの軽量弾丸が、BMW M4 DTM Editionをついに突破だアアアア!!!!」
柳津雄介「……若い奴ら、ほんと容赦ねぇな。」
柳津雄介「でもまだ終わってねぇ。次の直線で取り返す。」
陽太「来るなら来てください!」
若林「ロードスター対M4!! ジャイアント・キリング成立!! しかし柳津もまだ噛みついているウウウウ!!!!」
若林「先頭グループ、互いの出方を伺いながら一歩も引かないッ!!」
若林「そして運命の土湯峠分岐点を全車通過ァァァァ!!!!」
ヴォォォォォォォンッ!!
ギュオオオオオッ!!
若林「全長120キロの吾妻GT!!ここで2周目も後半戦へ突入!!」
若林「現在およそ90キロ地点!!残り約30キロだアアアア!!!!」
高速ベント区間。
フリスのケイマンGT4を先頭に、山吹花、腹切カナタ、イヨが数秒の中へ固まる。
その後方では、内藤セリナのR8も前との差を詰め始めていた。
内藤セリナ「えへへ☆ ここから高速区間だね!」
内藤セリナ「だったらV10の出番じゃーん!まだまだ追いつくよーッ!」
ヴァアアアアアアンッ!!
エアリ「セリナさんにはかなりチャンスあるッスね!」
エアリ「高速ベントはR8の安定性と加速を使いやすい。前のクリスタさんや伊藤くんとの距離を詰めるなら、この区間が勝負ッス!」
山吹花「……あと30キロ。」
山吹花「タイヤが厳しくても……最後まで走り切るッ!」
腹切カナタ「トンネルストレートまで持たせる。」
腹切カナタ「そこで一度、勝負を作る……。」
そして先頭。
フリス「……。」
フリスは静かにメーターへ目を落とした。
フリス「ところで。」
山吹花「……?」
フリス「我らは今、何キロ地点にいる。」
腹切カナタ「……90キロくらい。」
フリス「……そうか。」
数秒の沈黙。
フリス「では、あと90キロか。」
山吹花「違うよ!?」
フリス「……違うのか。」
腹切カナタ「全長120キロだぞ。」
フリス「……。」
フリスは静かに計算を始める。
フリス「120から90……。」
フリス「……40。」
山吹花「30!!」
フリス「……惜しい。」
フリス「……レースに距離の計算は不要だ。」
山吹花「今、自分から聞いたんじゃない!」
岡田大成「.....だったらそんな事言うんじゃねェ!!!!」
ぽぉんっ!!
フリスは何事もなかったようにシフトアップした。
フリス「……では残り30キロ。我が逃げ切ればよいのだな。」
【ライブ配信コメント】
●「王者、算数で負ける」
●「120-90=40は草」
●「花ちゃん即ツッコミ」
●「フリス『惜しい』←どこがだよ」
●「走りは王者、計算はポンコツ」
●「自分から距離聞いて計算放棄するなwww」
●「残り30kmって聞いた瞬間だけ急に王者へ戻るの好き」
若林「絶対王者、距離計算では盛大に迷子!!」
「しかし走りでは依然として先頭!!残り30キロ、後半戦が始まるウウウウ!!!!」




