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86伝説エーペックス  作者: SAI
吾妻GT編
PR
522/534

86伝説エーペックス蔵王編 本予告

ベコンッ!!!!


静まり返った工場内に、カナタがドアを力強く閉じる音が響き渡る。

マシンの仕上がりに確信を持った、その力強い意志の現れでもあった。

作業着の汚れも気にせず、ガレージの奥から古田のりあきが駆け寄ってくる。


古田のりあき「すげぇな……!! すっかり俺が直したやつを、いつの間にか自分のものにして行ってやがる……!!! セッティングや足、ボディは平気なのか? 蔵王の路面はもっとシビアだぞ!」


古田は、まるで自分の子供の健康状態を心配する親のように、REVIVE86のタイヤやフェンダーの隙間を覗き込んだ。

カナタの走りに応えるように、完璧に調律されたマシンの気配に、古田の瞳には技術者としての誇りが光っていた。


腹切カナタ「ええ、何とか大丈夫ですよ。理想的な動きです。これも古田さんのお陰です!!!」


若林の絶叫が蔵王の麓に響き渡った。

「みなさん!お待たせ致しました!!ロッキング蔵王開幕です!!!!」


若林「3人目は、ドライバーとしては初参戦!車も初お披露目!三陸戦でゲスト解説員を務めてもらいました!霧咲凛ッ!!!銀色の3UZ改5.3リッターにスーパーチャージャーのセルシオがゲートを……抜けたアアアア!!!!!!」


スタートラインに姿を現したのは、威圧感すら漂わせる重厚な銀色のセルシオだった。

高級セダンの面影を残しながらも、そのボンネットの下に収まるのは3UZエンジンを5.3リッターまでボアアップし、さらにスーパーチャージャーで過給した化け物ユニットだ。

アイドリングの時点で、周囲の空気が重低音で細かく震えている。


霧咲凛「古い車でも現代で勝てるってところ……見せてあげるッ!!

私の本当の染み渡る白さも!!!」


凛は控えめな瞳を鋭く光らせ、ハンドルを握る手に力を込めた。

彼女から分泌される汗と氷雪の力が、マシンの冷却系とリンクし、エンジンの効率を極限まで引き上げる。

車内には白桃の皮が凍りつくような、冷たくも甘い香りが立ち込めた。


標高を上げるにつれ、空気は刃物のように研ぎ澄まされていく。

スターティンググリッドには、23台のモンスターマシンがひしめき合っていた。

エンジンが放つ熱気が雪を溶かし、周囲には不気味なほどの蒸気が立ち込めている。


内藤セリナ「へへッ、私の視界から消えるのはどなたかしらー?おほほほほほ☆」

R8の車内でセリナが優雅に微笑む。


山吹芽衣「...お姉ちゃんに負けない...ッ!いくよッッ!」

本宮大輝「この俺がライトカップの本宮ターンパイクスで鍛えた走り、見せてやるぜ!」


爆音が蔵王の山々を揺らした。

23台のマシンが一斉に雪煙を上げ、絶対零度のバトルへと飛び出していく。

先頭を切るのは誰か、そして最後に笑うのは誰か。

運命のダウンヒルが、今まさに始まった!


腹切カナタ「まだだ、もっといける。86、お前の本当の力を見せてやれ!」


スピードメーターの針が跳ね上がる。

蔵王の山肌を削り取るようなエキゾーストノートが、予選開始の号砲となって夜空へ消えていった。

カナタとREVIVE86の、命を懸けた15キロの孤独な戦いが今、最高潮へと達しようとしている。


若林の絶叫が夜の蔵王に響き渡る。

若林「86ターボに早速迫るのはきついヒルクライムッ!!蔵王エコーラインをもろともせずに腹切カナタが行くウウ!!」


若林「速いッ!!初期型とは思えないレスポンスだアア!!クレア、第1セクターからカナタのタイムをコンマ単位で削り取っていくッ!!」


クレアは無機質なステアリングを、まるで愛撫するように繊細に、かつ大胆に操る。

R35の巨体が、蔵王のタイトなコーナーを軽快に、そして冷徹にクリアしていく。

電子制御をあえてねじ伏せ、マシンの本能を剥き出しにするようなその走りは、観る者すべてを戦慄させた。


クレア「ふふ、これこそが我の求めていた速度。この漆黒の翼で、頂点まで駆け上がってくれるわ!」

コーナーの出口でアクセルを床まで踏み抜くと、2つのタービンが狂ったように空気を吸い込み、デビルRをさらなる高みへと押し上げる。


そして、19人目の挑戦者が、静かに、しかし異様な存在感を放ちながらスタートゲートへと滑り込んできた。


若林「19人目! 白いマツダ RX-8!! 心臓部には悪魔の4ローター、R26Bエンジンを搭載したこの男!! 森下遊矢がゲートへ!!!」


純白のボディに、究極のロータリーサウンド。

アイドリング状態でも、周囲の空気が細かく振動するほどのエネルギーを秘めている。

そこに、ゴール地点でソフトクリームを片手にしたちとせが、モニター越しの遊矢に不敵な微笑みを投げかけた。


腹切カナタ「……遊矢、どした?お前もう人権ないぞ....?」


ちとせ「もへ〜……♪」

(ふふ、、、いいねェ〜……心がカチコチになってたけどさらにそこに吹雪が増したような性格だ……ッ)


小岩イオリ「歴史の残層の路面がわたしに押し寄せる.....ッ。」


若林の容赦ない絶叫が、崖下に消えた白い怪鳥に引導を渡した。

若林「相川律! 決勝進出ならずウウ!!! やはり、相川律はスリップマン相川でしたアアア!!!!」


電光掲示板の「DNF」の文字が非情に点滅する中、ピットエリアでは黒川海斗がモニターを蹴り飛ばさんばかりの勢いで吠えていた。

黒川海斗「だから何してんだよオオオ!!!! まだ予選だぞッッ!!?? 優勝だの花のキスだの寝言言ってるからそんな無様に転げ落ちるんだよ、あの馬鹿がッ!!」

黒川は同じエボ乗りとして、そして律の気合を知る者として、そのあまりにもお粗末な結末が許せなかった。


だが、そんな狂犬の背後に、忍び寄る水色の影があった。

サテラ「ま〜いいじゃないか黒川くん☆ 君こそどうせまたこの前のダム落ちた時みたいになるんでしょ? 決勝では……♪」

サテラはエボVIIの窓から身を乗り出し、黒川の古傷をこれ以上ないほど深く抉る言葉を投げかけた。


黒川海斗「……ッ!! テメェ、今なんて言った……!? ダムだとッ!!?」

黒川の脳裏に、以前のレースで屈辱的な最期を遂げた記憶がフラッシュバックする。

こめかみの青筋が今にも弾けそうなほどに膨らみ、彼の周囲には物理的な熱気が漂い始めた。


サテラ「あははッ!! 怒ってる怒ってる!! でも本当のことでしょ〜? 律くんが雪の中に消えた次は、君が崖の下でカラスの餌になる番かな〜って思ってさッ!!」

サテラは悪戯っぽく舌を出し、さらに黒川を挑発する。


黒川海斗「上等だアアアサテラアアアアア!!!! レースでは覚えておけエエエ!!!!! テメェのその水色のガラクタ、粉々に噛み砕いて雪の一部にしてやるからなッッ!!!!」

黒川の怒号は、蔵王の冷気を一瞬で蒸発させるほどの熱量を持っていた。


静まり返ったスタートゲートの奥から、闇を切り裂くような直列6気筒の咆哮が響き渡った。

そこに姿を現したのは、鮮やかな赤に彩られたトヨタ 80スープラ。

巨大なGTウイングを装着し、研ぎ澄まされた刃物のような威圧感を放つそのマシンの主は、不敵な笑みを浮かべて車を停めた。


若林「東條だアアア!!!! ついに復活だアアア!!!!!!」


東條ヒカル「よお、久しぶりだな」

東條はゆっくりとドアを開け、相変わらずの高圧的な、しかしどこか懐かしさを感じさせる口調で言い放った。

その瞳には、かつてカナタや翔太と競い合った時の、プライドの高いギラついた光が宿っている。


腹切カナタ「東條ッ!!!!」

カナタは驚きで一歩前に出た。かつて自分を苦しめ、そして高みへと導いてくれたライバルの登場に、胸の鼓動が激しく波打つ。


伊藤翔太「久しぶりだなッ!!! お前、どこで何してたんだよッ!?」

翔太も驚きを隠せず、スイスポの傍から身を乗り出した。

相川の欠落を埋めるのが東條だという事実に、ピットの空気は一瞬で戦闘モードへと切り替わる。


山吹芽衣「……カナタくん、知り合いなの? でも、彼が来てくれたおかげで、また一つ熱い勝負が見られそうだね」


芽衣は驚くカナタの隣にそっと寄り添い、その不安を和らげるように優しく微笑んだ。


山吹芽衣「カナタくん、負けないでね? 私はずっとここで、カナタくんの味方をしてるから」


スタートゲートに滑り込んできたのは、月明かりを弾いて鮮やかに輝くイエローのアストンマーティン・ヴァンテージ DB11。

運転席から姿を現したのは、銀髪を高い位置で一つに結んだポニーテール姿のリリィだった。

彼女の瞳は、蔵王の氷壁よりも鋭く、そして美しく澄み切っている。


リリィ「赤い戦闘機や花ちゃんとついにバトルできてしまう……ッ!! 光栄だよカナタくん。これが先代の実力者なのを示してあげる……ッ!!!!」

リリィは無線機を手に、ピットでモニターを見つめるカナタへと、凛とした、しかし挑戦的な声を届けた。


腹切カナタ「……リリィさん。実況席から見ていたあの人が、今度はコースで牙を剥いてくるなんて」

カナタは、リリィが放つ「冷凍庫」のような冷たくも透き通ったプレッシャーに、思わず背筋を伸ばした。

先代の実力者。その言葉の重みが、800馬力近いV12エンジンの鼓動と共に、カナタの心臓へと直接響いてくる。



高橋勇太「いかせるかアアアアア!!!!!」

高橋勇太はステアリングを力強く握り直し、NSXのアクセルを深く踏み込んだ。俺はバニラさんの弟子だ。あの氷の挙兵のような厳しい師匠に鍛え上げられた俺が、ここでベテランの意地に押し負けるわけにはいかない。フロントのツインモーターとダイレクトドライブモーターが瞬時にトルクを発生させ、凍てつく路面を確実にとらえようとする。


古田のりあき「ぴえん☆」

その緊迫した瞬間、古田のりあきはまさかの行動に出た。激痛に耐えかねたのか、それとも若者を油断させるための高度な心理戦か。黄色いMRーSの窓越しに見える古田の顔は、涙目を装ったあざとい表情を作り上げていた。名付けて古田ぴえあき作戦。背骨を痛めた中年ドライバーが放つ破壊的なかわいこぶりっこ攻撃が、高橋の視界を強襲する。


高橋勇太「そんな顔に騙されるかよッ!!!!」

高橋勇太は一瞬だけ背筋に悪寒を走らせたが、すぐに冷静さを取り戻して叫んだ。師匠であるバニラの厳しさに比べれば、こんな小細工は児戯にも等しい。俺の目標はもっと前にある。高橋は一切の躊躇なく、NSXのハイブリッドスポーツモードを全開にした。V6ツインターボエンジンが甲高い産声を上げ、電気モーターの強烈なアシストが車体を弾き出す。


ギャギャアアアアア!!!

ヴイイイイイインッ!!!!


山吹芽衣「.....まるで人望ない走り。かわいそ。」


伊藤翔太「...そんな弱気なこと言わずに俺たちを...引っ張れエエエエエ!!!!

東條の80スープラを俺たちは待ってやってたんだぞオオオ!!?」


森下遊矢「前の3台、このセクションで余計にブレーキをいるんだ....ッ!!!

前に出れるってことなんだこれはァ.....!!!!」


眞鍋琉世「強い! これがエボの力かッ!! 簡単にはどかしてくれないだろうなッ!!」


5位の眞鍋琉世は、前方の黒川が撒き散らす泥と排圧を全身に浴びながら、冷静にステアリングを保持した。同じランエボを操るからこそ分かる、黒川の加速の鋭さとラインの強引さ。眞鍋は4G63エンジンの咆哮を聴きながら、反撃のチャンスをじっと待った。


セシル「さっきのは何だったんですか? 随分と変な感じでしたね.....ッ!!」


先頭を走るセシルは、ウラカンEVOのバックミラーに映る後方の混乱を思い返し、首を傾げた。絶対王者たちのスピン、そしてヒカルたちの脱落。あまりにも不可解な「山の魔物」の仕業に、人見知りの彼女は薄気味悪さを感じていた。だが、背後に迫るスイスポの気配だけは、はっきりと殺意を持って彼女を追い詰めている。


山吹花「伊藤くん、頑張って。……アナタのことを信じてるから。」


7位の山吹花は、しおらしく、しかし祈るような想いで無線を飛ばした。彼女にとって「伊藤くん」は誰よりも輝くレーサーだ。WRXのブースト圧を維持しながら、彼女もまた後方から来るカリンたちの猛追を必死に抑え込んでいた。


腹切カナタ「……っ、前がどれだけきつくても、俺は諦めねえッ!! 翔太が前で踏ん張ってるんだ、俺もこの闇をぶち抜いてやるッ!!」

17位の腹切カナタは「俺」の意志を叫び、クレアのGT-Rの背後でスクランブルブーストを全開にした。


若林「なんとッ!!! Romaにエミーラが立ち向かうのかああああ!??? パワーウェイトレシオでは圧倒的に不利なはずのエミーラが、超高速コーナーで柳津カリンの真横に並びかけたあああッ!!!」


フブキ「……前のRomaの方がパワーは速い。だからってブレーキング競走では、判断力はこっちが上」

11位のフブキは、氷色の瞳を冷徹に細め、エミーラのブレーキペダルを踏み抜いた。先行するフェラーリのテールランプが激しく発光するよりも早く、彼女は減速の極限を見極めていた。

キキィ!!! ギャアアアアアアン!!!

タイヤが悲鳴を上げ、路面から白煙が上がる。だが、フブキのマシンは吸い込まれるようにアウト側のラインへと突き刺さった。


バニラ「なるほどな。最後までに逆転をして欲しいものだな。あいつは今、牙を隠しているだけだ。この長期戦、タイヤが厳しくなる終盤に、あの赤い86が氷の壁を突き破る瞬間を私は待っているぞッ!!」


東條ヒカル「やっぱり80は最高だなッ!! 俺の永遠の相棒だッ!!! 」


ヒカルは重量級のボディをねじ伏せるようにステアリングを切り込み、2JZエンジンの野太い咆哮を雪壁に反響させた。

東條ヒカル「この前のエーペックスカップは家でライブ配信を見たけど、あのイヨちゃんの白いGRスープラは最高だったな。最新の技術とスープラの魂が混ざり合ってた。……でもな、この前見たプリウスにレースタイヤはめてるやつはガッカリしたよな。あんなのは53だッ!! 53にも見せつけてやるよ、スポーツカーの意地ってやつをなッ!! 」


黒川海斗「こざかしい……ッ!!!! 静かなレコードラインなど俺には求めていない……ッ!!!! それをぶち壊してやる……ッ!!! このまま、楽しい所へ連れってやらアアア!!!!」


白い闇を、黒い衝撃波が引き裂いた。


カナタの意識が沈みかけたその瞬間、86の左側面すれすれを一台の車が轟音とともに駆け抜けていった。その衝撃波が白い繭を吹き散らし、凍りついた86のサイドウィンドウに張りついた氷を粉々に砕いた。走行風の壁。音速には遠く及ばないが、至近距離を全開で通過するランサーエボリューションの排気圧と乱気流は、一瞬だけカナタのコクピットに暖かい空気を送り込んだ。


黒い車体。黒いボンネット。黒いホイール。すべてが漆黒に塗り潰されたランサーエボリューション IX MR。


黒川海斗「オラオラアアアアアア!!!!!

んなことはさせねぇぞカナタアアアアアア!!!!!!!」


黒川海斗は血走った眼でステアリングを叩き、ランサーエボリューションIX MRの4G63エンジンを限界まで咆哮させた。

ミスファイアリングシステムの爆音が蔵王の雪壁に反響し、まるで戦車のような威圧感で前方のマシンを追い詰める。彼はもはや順位を競っているのではない。自らの存在を誇示するために、路面もライバルもすべてを破壊する勢いで突進していた。


坂田「頼む、、、、! あと十連だけ、、、、! これで出なかったら、もう蔵王どころじゃねえ、、、、!!」


再び、指が震えながら画面をなぞる。

ガチャ演出が回る。光が弾ける。

坂田の喉が、ごくりと鳴った。


坂田「コロンビーナアアアアアアア!!!!!」


その叫びだけが、部屋の中に虚しく響いた。


高橋「くっ......!! まだ終わってねえ!!!

前に出たくらいで勝ったつもりになるなァァァ!!!」


セシル「勝ったつもりではありません....ッ!ここから、引き離します!!!」


ギュオオオオオオッ!!!!


先頭へ出たウラカンが、そのまま左ターンの出口でさらに一段深く沈み込む。


リアがぶれない。

フロントも逃げない。


冷えきったR13の入口で、その車だけがまるで路面の温度を知っているみたいに鋭く前へ伸びた。


若林「速いィィィィ!!!! セシル、抜いただけじゃない!!!

そのまま差を作りにいっているウウウウウ!!!!」


若林「先頭争い! 森下遊矢対柳津カリンのRoma!! 社外カラーのビアンコベージュッ!!!」

蔵王の白い雪景色に、透き通るようなビアンコベージュのフェラーリが溶け込み、そして鮮烈に浮かび上がる。

柳津カリンは、震える指先でステアリングを握り直した。彼女の繊細な感覚は、タイヤが雪を噛む音のわずかな変化さえも逃さない。


柳津カリン「森下くん、私、負けたくない……。この硝子の光が消える前に、あなたを追い抜いてみせるッ!!」


カリンのローマが、遊矢のRX-8の背後にぴったりと張り付く。一ミリのミスも許されない超高速の舞踏。彼女の繊細な走りが、絶対王者の牙城を崩そうとしていた。


バニラ「フン、あのビアンコベージュの輝き……。カリンさんの繊細な魂が車に乗り移ったようだな。若林、見ろッ!! 1位の遊矢が、彼女の放つ『硝子のプレッシャー』に押されているぞッ!!」


内藤「えへへっ! 真白ちゃん、追いついちゃった!」


久遠真白「速い....! さっきまで後ろだったのに....ッ!!」


ギュオオオオオオオッ!!!!


若林「さあ!内藤セリナが久遠真白に接近してきたアアア!!!!!」


久遠真白「セリナさんが....ッ!? どうなってるの!? この戦い....ッ!!??」


ぎゅわあああああ!!!!


若林「突っ込みましたアアア!!!!! 全くビクともしないハイパワー四駆だアアア!!!!」


白い県道の先、わずかに開けた区間。


アイスシルバーのSC430の後ろへ、白いR8が獣みたいに迫ってくる。


さっきまで少し離れていたはずの距離が、今はもう消えかけていた。


セリナのR8は迷っていない。


四輪を真っ直ぐ路面へ押しつけたまま、ただ前の一台だけを喰うために加速していた。


内藤「えへへっ! 真白ちゃん、追いついちゃった!」


久遠真白「速い....! さっきまで後ろだったのに....ッ!!」


若林「おっと! 後方で……ウラカンが抜けたああああ!!!!

フブキのエミーラが抜かれたアアアア!!!!!」


氷のドラゴンの息吹がエミーラの車体を掠めた瞬間、鉛色のエミーラの左サイドが一瞬で凍りついた。タイヤのグリップが消失し、コーナーの出口でエミーラがアウトに膨らむ。その内側を、セシルのウラカンが氷の軌跡を残しながらすり抜けていった。


フブキ「……ッ!!!!」


フブキの狐耳が鋭く逆立った。ぶっきらぼうな表情の奥に、悔しさが滲んでいた。先ほどまでクレアと一進一退のバトルを繰り広げていた。その消耗がまだ残っている。鉛色の吹雪を展開する余力が足りなかった。


抜かれた。それも、一瞬で。バトルですらなかった。セシルのウラカンは、フブキと戦ったのではない。ただ通過しただけだ。伊藤を追いかける道の途中にいた障害物を、排除しただけだった。


狐耳がゆっくりと伏せられた。小さな拳がステアリングを握り締める。


フブキ「……覚えた。クソが....ッ!」


短い言葉。だがその声の奥底に、鉛色の吹雪がじわりと渦巻いていた。今は追えない。だが、いつか必ず。


クレア「我のコーナリング舐めてもらっちゃこまるのォ……ッ!!」


幼い声。だがその言葉に込められた自負は本物だった。GT-Rが重い。GT-Rがコーナーで遅い。そんな常識を、クレアの闇は塗り替える。


クレア「次のコーナーのブレーキングで追いつきそうなのじゃ!!!」


11歳の少女が、目を爛々と輝かせていた。闇の魔術師と呼ばれる禍々しい二つ名とは裏腹に、その目には純粋な闘争心が燃えている。レースが好きなのだ。この子は。速く走ることが、誰かと競い合うことが、たまらなく好きなのだ。


サテラ「古田さんか〜……君とバトルする機会あまり無かったよね……?」


軽い口調。だがステアリングを握り直す手には、緊張が滲んでいた。古田のりあき。このレースの参加者の中で、おそらく最年長のドライバー。60代。白髪交じりの髪。皺の刻まれた手。若い連中がスーパーカーやチューンドマシンで暴れ回る中、あの小さなMR-Sで走り続けている男。


正直に言えば、サテラは古田を侮っていた。エボ VII MRの4G63ターボと、MR-Sでは格が違う。AWDとミッドシップFRでは安定性が違う。何より、60代の反射神経で、この蔵王の夜道を全開で走れるはずがない。


そう思っていた。


――黄色いMR-Sが、さらに距離を詰めてきた。


サテラのエボ VII MRは、七ヶ宿湖畔を抜けた先の下りワインディングを攻めていた。AWDのトラクションを活かし、コーナーの立ち上がりで安定した加速を繰り返す。エボリューションとしてはオーソドックスな、だが確実な走り。それなのに、バックミラーの中の黄色い影が離れない。むしろ、コーナーのたびに近づいてくる。


サテラ「……マジかよ」


黄色いMR-Sのコクピット。60代の男が、使い込まれたレーシンググローブでステアリングを握っていた。白髪交じりの髪は短く刈り込まれ、深い皺が目尻に刻まれている。だがその目だけは、20代の若者よりも鋭かった。何十年もの間、車と対話し続けてきた目だ。


古田のりあきは、静かに前方のエボ VII MRを見据えていた。


古田「このMR-SはK24Aエンジンスワップだ……エボが舐めるなよ……ッ!!」


七ヶ宿湖畔の直線。その先端を走る2台の車の周囲だけが、明らかに異常だった。路面が白い。ガードレールが白い。道路脇の木々の枝が白い。まるで真冬の蔵王が、この区間だけに降りてきたかのように、世界が凍りついていた。


その白い世界の中心を、2台が縦一列で駆け抜けていく。先頭の白いケイマンGT4。そのテールにぴたりと張りつくRZ34。二台の間隔は、もう車半台分もなかった。


若林「危険すぎる!!!RZ34ちとせとケイマンGT4フリス!!!

この2台が猛加速して縦並びだああああ!!!!絶対に目を逃すなああああ!!!!!」


若林の声が悲鳴に近かった。モニターの速度表示が跳ね上がっていく。240、250、260――七ヶ宿湖畔の公道で出していい速度ではない。出していい速度でないどころか、この道幅で、この距離感で、この速度域でのバトルは――人間の領域ではなかった。


ギャンギャン!!!


フリスのケイマンGT4のフラット6が甲高い絶叫を上げた。4リッター自然吸気の回転数がレッドゾーンに叩きつけられ、シフトアップ。間髪入れずにまたレッドゾーン。フリスが本気でアクセルを踏んでいた。仮の姿はもう完全に消えている。蒼い瞳に閻魔の光を宿し、ステアリングに張りついた氷の結晶が加速の振動で粉々に砕け散る。


クオオオオオンッ!!!


ケイマンGT4のエンジンが咆えた。コットンアイスが車体から爆発的に放出され、白い氷煙が後方に尾を引いた。後ろにいるちとせのRZ34を凍結させる意図ではない。ただ純粋に、全力で走った結果として冷気が溢れ出ているだけだった。


ヴオオオオオンッ!!!!


ちとせのRZ34が、そのコットンアイスの氷煙を正面から突き破った。VR30DDTTツインターボが轟音を叩きつけ、フリスの冷気をものともせずに食らいついていく。ちとせの吹雪のオーラが、フリスのコットンアイスとぶつかり合い、二つの冷気が渦を巻いて中和し合う。


バニラ「……信じられんな」


バニラの声が低かった。モニターを見つめるその目に、畏怖の色が浮かんでいた。


バニラ「フリスのコットンアイスが、ちとせの吹雪に相殺されておる。普通の車なら一瞬で凍りつくフリスの冷気を、ちとせは自分の冷気で中和しながら走っておるのだ。氷で氷を防ぐ。……こんな走りが成立するのは、この2台だけだ」


若林「つまり、ちとせ選手はフリス選手の天敵……?」


バニラ「天敵かどうかは分からん。だが相性は最悪だろうな。フリスにとっては。コットンアイスが効かない相手など、今まで存在しなかったはずだ」


フリスのコクピット。蒼い瞳が、バックミラーの中のRZ34を捉えていた。


距離が縮まらない。だが離れもしない。全力で踏んでいるのに、あのRZ34が消えない。コットンアイスを全開で放出しているのに、凍らない。フリスがこのレースで初めて感じた感覚があった。


焦り。


フリス「…………」


口を開かない。言葉にすれば、それは認めたことになる。自分が――追い詰められていることを。


ちとせのRZ34のコクピット。のんびりとした少女の表情が、かすかに変わっていた。目が細くなり、蒼い瞳の奥で獣神の本能が脈動している。口元には微笑みが残っているが、それは穏やかさではなく、獲物を前にした古き神の歓びだった。


ちとせ「フリスちゃん、速いね〜……」


のんびりとした声。だがRZ34のエンジン回転数は限界域に張りついたままだ。


ちとせ「おじさんもね〜……久しぶりに本気出しちゃってるの〜……」


吹雪のオーラが一段階強くなった。RZ34の車体を包む白い粒子が密度を増し、車体の輪郭がぼやけるほどに膨張していく。路面に残るRZ34の走行軌跡が、完全に凍結して白い線となって七ヶ宿湖畔に刻まれていた。


ちとせ「だからね〜……ちょっとだけ、怖いかもしれないけど〜……」


ちとせの右足がアクセルを踏み込んだ。RZ34の車体が一瞬沈み込み、AWDのトラクションが4本のタイヤを通じて凍結した路面を掴む。自分で凍らせた路面を、自分のタイヤだけが掴める。氷雪の獣神だけに許された、反則のような走り。


ケイマンGT4との距離が、また縮まった。


VABのフロントが半台身、さらに鼻先ひとつ前へ出た。


白い霧の中から、青い戦闘機がまるで再誕するみたいに飛び出していく。


若林「速いィィィィ!!!! 山吹花、完全に霧の檻をぶち破ったアアアア!!!!」


バニラ「いい返しだな。白く染められながらも、花は全部を見ようとしなかった。たった一つ残した目印に自分の車を重ねて、そのままインから噛み砕いた。ああいうやつは簡単には折れん」


凛「..やるねー....。」


花「眠るのはそっちでしょォ.....! 私はまだ前に行くんだからッ!!」


高橋勇太「あ? スイスポだと? なめてんのかッ!?」


勇太がアクセルを踏み込むが、ヘアピンの中ではNSXの馬力を活かしきれない。スイスポの小さな車体がするりと内側を通り抜け、勇太の鼻先を掠めるように前に出た。


だが伊藤はそれだけでは終わらなかった。


次のヘアピン。左の急カーブ。翔太はブレーキングと同時にサイドブレーキを引いた。スイスポの車体が一瞬で向きを変え、180度スピン。後ろ向きのまま慣性でコーナーのクリッピングポイントを通過する。隣を走っていたセシルのウラカンとクレアのGT-Rが、目の前で後ろ向きに走るスイスポに面食らって一瞬反応が遅れた。


その一瞬を、翔太は逃さなかった。


伊藤翔太「これが俺の……全力投球だアアアアアアアッッ!!!!!!!」


スピンの回転を利用して車体をさらに180度回す。合計360度。後ろ向きから再び前向きに戻ったスイスポが、コーナーの出口で完璧なラインに復帰した。エンジンの回転数は一切落ちていない。スピン中もアクセルを踏み続け、4WDのトラクションで即座に加速態勢に入っていた。


ズドオオオオオ!!!


セシルのウラカンは、霧咲凛のセルシオを抜き、フブキのエミーラを抜き、クレアのGT-Rを抜いた。怒りに任せた走りではあったが、氷のドラゴンの力が車体を包み込み、コーナーのたびに路面を凍結させて後続を妨害しながら前進していく。眞鍋琉世をカチコチにした時と同じ、生きた冷気。竜の息吹が獲物を追いかけるように、伊藤のスイスポに向かって一直線に伸びていた。


だが、伊藤のスイスポは捕まらなかった。


1.4リッターの非力なエンジン。だが車重が軽い。コーナーの連続するワインディングでは、その軽さが武器になる。伊藤はブレーキングを限界まで遅らせ、スイスポの小さな車体を振り回すようにコーナーを抜けていく。ウラカンのV10がストレートで詰めても、次のコーナーでまた離される。


セシルの苛立ちが、さらに膨れ上がった。


セシル「ちょ……ちょっと待ちなさいッ!!!」


もふもふの袖でステアリングを握りながら、セシルが叫んだ。


セシル「伊藤翔太さん……あなた……紳士じゃありませんわッ!!!!」


紳士。その言葉が、セシルの怒りのすべてを表していた。


山吹芽衣がセシルとクレアの混戦に飛び込み、凍結でペースを落とす瞬間を。自分と芽衣のバトルが始まった時から、フブキはずっと計算していた。芽衣が前に出ても焦らなかった。セシルとクレアの氷と闇が、いずれ芽衣の薫風を鈍らせることを、フブキは予感していた。


鉛色の吹雪を纏うフブキにとって、氷と闘う者の消耗は手に取るように分かった。同じ氷雪系の使い手だから。


フブキのエミーラのコクピット。狐耳がぴんと立ち、鉛色の瞳に鋭い光が宿っていた。ぶっきらぼうな表情の奥に、初めて感情が滲んでいた。


フブキ「いったでしょ……ゴールするまでは前に出るって……ッ!!」


ぶっきらぼうな声が、かすかに震えていた。怒りではない。これは――想いだった。


フブキ「芽衣ちゃんだからこそ抑えたい気持ちが山ほどあるの……ッ!!」


同い年の少女。同じように小柄で、同じように静かで、同じように本物の速さを持つ存在。だからこそ負けたくない。だからこそ、芽衣の前を走りたい。他の誰に抜かれても構わない。だが芽衣にだけは。この少女にだけは。


黒いGR GTと、RX-8。最新鋭のカーボンマシンと、4ローターのロータリー。R457の山岳路を、二台が横並びでコーナーに飛び込んでいく。


ガンッ!!!


最初の接触は、コーナーの中で起きた。岡田のGR GTがインを奪おうとしてノーズを押し込み、森下のRX-8の右リアクォーターに当たった。金属とカーボンがぶつかる鈍い音が夜に響いた。


森下「……ッ!!」


R26Bの4ローターが悲鳴のように甲高い音を上げ、RX-8の車体が揺れた。だが森下はカウンターを当てて姿勢を立て直し、コーナーの出口で踏ん張った。


森下「やるじゃねぇか岡田……ッ!!」


岡田「お前こそ。パッソの時よりずっとタフになったな」


パッソ。その言葉に、森下の目がかすかに揺れた。


あの時の自分は何も持っていなかった。パッソという非力な小型車で、岡田に挑んだ。能力もない。チューンもない。ただ走ることが好きで、ただ速くなりたくて。結果は完敗だった。パッソではどうあがいても岡田の車には追いつけなかった。


若林「山吹花!そして腹切カナタで激しい競り合いだああああ!!!!!」


高速ベント。緩やかな右カーブ。速度域が高く、わずかなミスが致命的になるコーナー。そこに赤い86と青いWRXが横に並んでいた。


赤と青。このレースの最初に並んだ二台が、最後のコーナーで再び並んでいた。


花のWRXのコクピット。桜風のオーラを纏った少女が、横目に赤い86を見た。氷の残骸が車体にこびりつき、タイヤは死に、ボディにかすり傷を負った赤い戦闘機。それが自分の横にいる。113キロを走りきった末に、ここで。


花「カナタくん……ッ!?」


カナタの86のコクピット。フロントガラスの霜の残りが風で剥がれ、視界が開けていた。その視界の左側に、青いWRXが映っている。桜風のオーラが淡い桃色に車体を包み、EJ20ターボが唸っている。


カナタ「花ッ!!!!」


叫んだ。名前を。このレースで桜風で助けてくれた少女の名前を。借り一つだと言われた。利子をつけて返すと答えた。


あの約束を、今ここで。


二台が高速ベントに突入した。赤い86がインを取り、青いWRXがアウトから被せる。300馬力と280馬力。ほぼ互角の馬力。だが花にはAWDのトラクションと桜風のオーラがある。カナタにはタイヤが死んだ86と路面の声がある。


高速ベントの中で、二台の車体が数センチの距離まで接近した。桜風の暖かい風がカナタの86に触れ、残っていた霜が溶けていく。同時にカナタの86から伝わる路面の振動が、花のWRXのサスペンションに共鳴した。


二台が、会話していた。


車を通じて。振動を通じて。風と路面を通じて。


花「カナタくん……借り、返しに来たの?」


カナタ「ああ。ここで返す」



若林の絶叫が、スタートラインに漂う緊張感を一気に加熱させた。

若林「続いては10人目!前戦は、インフルエンザで欠席を取りましたが今回はそうはいかないッ!!黒カラスの帝王!松島で赤い戦闘機を倒したこの男!黒川海斗ッ!!!!」


漆黒のランサーエボリューションIX MRが、野太い排気音を轟かせてゲートに滑り込んできた。

エボ特有の直列4気筒ターボが、獲物を前にした獣のように唸り声を上げている。

だが、車内の黒川海斗は、カメラに向かってふざけきった表情を作ってみせた。


黒川海斗「バブー☆おかあちゃ元気〜?」

その挑発的な視線は、ピットで待機している山吹花へと向けられていた。


山吹花「……アンタは毎回毎回イイイイ!!!!」

花は我慢の限界を超え、車を降りて黒川の元へ詰め寄ると、その脛を全力で蹴り飛ばした。


ゲシッ!ガシッ!!!バキイイッ!!


黒川海斗「はいはい、おかあちゃは黙ってレース見てましょーね★」

黒川は蹴りを受けた脚をさすりながらも、不敵な笑みを崩さない。

山吹花「その言い方そろそろやめろオオオ!!!!」

花の怒号が蔵王の山々に響き渡るが、黒川はそれを楽しむかのようにシートにしまった。


山吹花「は!? ちょっとちょっと!!!古田さんッ! ちょっとなんで古田ぴえあきのままでエントリーしてるのオオオ!!??」


ガレージの隅で、K24Aエンジンを積み終えたばかりのMR-Sの横、古田が情けない顔をして縮こまっていた。

古田ぴえあき「頼むから入れてくれよ……ッ。俺、自信ないんだよ……。ぴえあきとして走らないと、緊張でクラッチ蹴れないんだよ……ぴえん

☆」


山吹花「言い訳もあるかアアアッ!!!!

ちゃんと古田のりあきでエントリーしやがれエエエ!!!」


花は青い電撃のオーラを右足に集中させると、

迷いなく古田の脇腹へ鋭い一撃を叩き込んだ。


ゲシッ!!!!

古田のりあき「OHッ☆」


2027年 COMIGSOON!

若林「さあッ! 中団グループに異変ですッ!! 15位フリスと16位クレア、加速セクションに入ったにも関わらず、僅かにアクセルを抜いているように見えますッ!! 何を企んでいるのかあああッ!!!?」


腹切カナタ「ん? クレアにフリス……? アクセル軽く抜いて何やってんだ?

....ただ、ふたりから抜こうとする気がしない.....?」


腹切カナタは、眼前の二台が放つ奇妙な挙動に目を見開いた。絶好の加速ポイント。ハイパワーなGT-Rやポルシェなら、ここで86を引き離すのは容易なはずだ。だが、彼女たちはあえてカナタの前に隙間を作り、まるで道を示すかのようにラインを空けている。


バニラ「若林ッ!! 見たかッ!! 牙を剥き合っていた獣たちが、一つの獲物を狙うために群れを成したぞッ!! 腹切カナタ、その恩義を力に変えて、全ての化け物を喰らい尽くせッ!!」


フリス「...気がついたか。反応が極めて速いな....。これは我とお前のメインでの紳士協定だ....ッ。いくぞ!!腹切ィ.....ッ!!!!」


柳津カリン「後ろにヴァンテージが……? それでも、前に私は進むよ?」

9位の柳津カリンは、バックミラーを埋め尽くすリリィのプレッシャーを感じながらも、前方のちとせを見据えた。彼女の走りに迷いはない。フェラーリの咆哮は、蔵王の冷気を切り裂き、さらなる高みへと向かおうとしていた。


フリス「仮」(この連鎖、どこまで続くかしら....? あの背中が見えるまで、我はたとえひとりでも...止まらない.....ッ!!!!!)


16位のフリスもまた、ポルシェの鋭い旋回性能を使い、カナタが最短ラインを通れるよう絶妙に道を切り拓いていく。


2位を猛走する伊藤翔太は、淡々と無線を返した。彼の表情に笑みはなく、ただ冷徹にセシルのウラカンの挙動を射抜いている。

伊藤翔太「芽衣ちゃん、後ろの連中が熱くなりすぎてる。俺たちはクールに、かつ確実に仕留めるぞ」

13位の山吹芽衣は、ポルシェを滑らせながら冷静に戦況を分析し、仲間の覚醒を確信した。


バニラ「腹切カナタ、フリス、そしてクレアまでもがグループを結成したなー。これはチェインファイアと言ってもいいんじゃないか? そう名付けよう」


解説席のバニラが、モニターに映る三台の並走を見て不敵に断言した。漆黒のGTーR、蒼白のケイマン、そして深紅の86。本来なら互いを喰らい合うはずの獲物たちが、今は一つの意思を持って蔵王の坂を焼き尽くそうとしている。


若林「チェインファイアッ!! 伝説の解説者バニラによって名付けられましたッ!! 15位ハラキリ、16位フリス、17位クレアの三連星が、先行するフブキのエミーラを猛烈な勢いで追い詰めていくッ!!」

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