吾妻編第55話 スリップマン相川再び!!!!
若林「一方――ん? ウオオオオオオアアアアア!?!?」
若林「ちょっと待ってください!!」
若林「ちょっと待ってくださあああああい!!!!」
ビュオオオオオオオオッ!!
ズドオオオオオオオンッ!!
ギャアアアアアアッ!!
ホワイトアウトに包まれた大橋ストレート。
視界は、わずか数メートル。
その白い闇の中を、三つのヘッドライトが横一列で切り裂いていた。
眞鍋琉世の銀色のエボIX。
相川律のR35 NISMO。
そして菜園宗一郎の992 GT3。
若林「眞鍋!相川!菜園!!三台が並んだまま猛吹雪の橋を突き抜けていくウウウウ!!!!」
ヴォアアアアアアッ!!
ギャオオオオオオンッ!!
キィィィィィィンッ!!
横風が三台の車体を激しく揺さぶる。
それでもアクセルは戻らない。
デジタルメーターの数字が、次々と跳ね上がっていく。
若林「正気かァァァァ!?三台並走のまま、時速三百キロを超え始めたァァァァ!!!!」
菜園宗一郎「こいつら、本気で何やってんだ……ッ!」
菜園宗一郎「視界ゼロで飛び出したら、そのまま雲海まで落ちるぞ!!」
992 GT3のダウンフォースを信じ、菜園は雪に埋もれた白線を必死に追う。
その横では、眞鍋がステアリングを細かく修正し続けていた。
眞鍋琉世「風に逆らうな……流された分だけ戻せばいい。」
相川律「ここで引いたら、また“滑る兄貴”扱いだ……ッ!」
相川律「眞鍋も菜園も関係ねぇ!!俺のNISMOを見せてやる!!」
相川律「美保……俺、このレースが終わったら――」
若林「よぉーし!!三台一斉のブレーキ勝負だアアアア!!!!」
若林「ここは際どいぞオオオオ!!!!」
ギギギギギギッ!!
三台のブレーキランプが、白い吹雪の中で同時に赤く光る。
だが――。
山吹花「……相川ァ!!!!」
R35の左側タイヤが、薄く凍った路面へ乗った。
同時に横風が漆黒の車体を叩く。
ギギギャアアアアアアッ!!
相川律「なっ――!?」
リアが大きく振れ、R35が橋の上で高速回転を始める。
一回。
二回。
三回――。
菜園宗一郎「相川ァ!!ブレーキを離せ!!」
眞鍋琉世「間に合わねぇ!!」
ドガアアアアアンッ!!
R35の側面が雪で盛り上がった欄干へ乗り上げる。
その巨体が跳ね上がり、白い闇の中へ飛び出した。
若林「ああああああッ!!相川アアアアアアアア!!!!」
若林「R35 NISMOが高速スピン!!そのまま欄干をジャンプ台にして宙を舞ったァァァァ!!!!」
若林「飛んでいる!!GT-Rが空を飛んでいるぞオオオオオ!!!!」
ゴオオオオオオッ!!
巨大な影が、後方集団の頭上を横切っていく。
山吹花「へ……?」
山吹花「今、すごく大きな鳥みたいなのが飛んでいかなかった……?」
腹切カナタ「なにやってんだ相川アアアア!!!!」
腹切カナタ「そこで変にアクセル抜くなって言っただろ!!」
岡田大成「……今、俺たちの頭上をGT-Rが通過したよな?」
岡田大成「錯覚じゃないよな……?」
そして無線に、悲鳴が響き渡った。
相川美保「お兄ちゃアアアアアアん!!!!」
若林「相川律!!スピンしながら、とんでもない飛距離を記録しているウウウウ!!!!」
白い吹雪を突き破ったR35 NISMOは、そのまま五色沼の上空へ飛び出した。
相川律「うわああああああッ!!」
ぼっちゃああああああんッ!!!!
巨大な水柱が、湖面から一気に立ち上がる。
R35は数秒だけ水面へ浮かんだ後、泡を残しながら静かに沈んでいった。
若林「決まったアアアア!!!!五色沼の中心へ完全着水!!」
若林「スリップマアアアアアアン!!!!相川律、伝説の大ジャンプから当然のリタイヤだアアアア!!!!」
相川美保「お兄ちゃああああん!!!!」
エアリ「相川くん、最後に何か言おうとしてたッスけど……全部湖に沈んだッスね。」
エアリ「飛距離は百メートル近かったと思うッス。レースの記録には残らなくても、映像には一生残るッスよ……。」
その頃、ピットエリア。
モニター越しに一部始終を見ていた黒川海斗が、頭を抱えて絶叫した。
黒川海斗「だから毎回なにやってんだよアイツウウウウ!!!!」
黒川海斗「せっかくいいところまで走ってたのによ!!」
黒川海斗「相川ァ!!お前はレースをしに来たのか、バラエティ番組の収録に来たのか、どっちなんだよオオオオ!!!!」
その直後。
五色沼の岸へ這い上がった相川律のスマホが、激しく鳴り響いた。
ブブブブブッ!!
相川律「……誰だよ、こんな時に。」
通話へ出た瞬間、黒川海斗の怒声が耳を貫く。
黒川海斗「おい相川、テメェ!!俺が風邪で休んでる間に、また何してくれてんだアアア!!!!」
相川律「だって86号車が……。」
黒川海斗「86号車のことはいいから、自分の走りに集中しろッ!!」
黒川海斗「お前、どんだけカナタのこと好きなんだよォォォ!!!!」
相川律「好きじゃねぇよ!!」
黒川海斗「じゃあ毎回追いかけてスピンすんな!!」
相川律「今回は吹雪と横風が悪い!!」
黒川海斗「最後に妙な告白まで始めようとしてただろうが!!」
相川律「そこまで聞こえてたのかよ……ッ!」
黒川海斗「全国配信だぞバカ野郎!!」
相川律は水を滴らせながら、静かにスマホから顔を離した。
相川律「……風邪なのに元気だな、アイツ。」
黒川海斗「まだ切ってねぇぞオオオオ!!!!」
黒川海斗「お前こそ、なんでそんなに元気なんだよ!!」
黒川海斗「千メートル近く落ちて、池のど真ん中に突っ込んだんだぞオオオオ!!!!」
相川律「いや……R35が頑丈だったから。」
黒川海斗「車の頑丈さだけで説明できる落ち方じゃねぇだろ!!」
相川律「あと、水がクッションになった。」
黒川海斗「そんな便利なクッションがあるかアアアア!!!!」
相川律「でも俺、普通に泳いで岸まで来たぞ。」
黒川海斗「そこが一番おかしいんだよ!!」
相川律は全身から水を滴らせながら、沈んでいくR35を振り返る。
相川律「……NISMOはまだ湖の中だけどな。」
黒川海斗
「先にそれを心配しろォォォォ!!!!」
五色沼実況民「スリップマン相川、ついに空まで滑った」
R35推し「NISMOで湖ダイブは伝説すぎる」
赤い戦闘機ファン「またカナタ追って事故ってて草」
黒川応援隊「黒川の説教が正論すぎる」
相川兄妹推し「美保ちゃんの叫びが一番つらい」
吾妻GT視聴中「レースじゃなくてバラエティだろこれ」
湖畔カメラ班「飛距離だけなら本日トップ」
スリップマン公式「次戦から浮き輪を装備してください」
若林「吹雪はさらに激しさを増している!!こけし大橋ストレートを抜けた先はダウンヒル!!」
若林「だが、ホワイトアウトは止まらない!!相川の消えた湖面を背に、残された二十二台が深い白の闇へ突入していくぞオオオオ!!!!」
ビュオオオオオオッ!!
ギャアアアアアアンッ!!
雪煙の中、古賀加奈子の赤いM5が水飛沫の上がった湖面を一瞬だけ横目に見る。
古賀加奈子「……またスピンだって。ダッサー。」
高槻健永「あんなの放っとけよ。付き合ってたらこっちまで落ちるぞ。」
そして、その吹雪を生み出した静かな共犯者は――。
ちとせ「やったもへ〜♪」
ちとせ「スリップマン相川、誕生だもへ〜……♪」
RZ34を滑らかに走らせながら、ちとせは片手で通話を発信した。
一方、五色沼の岸。
ずぶ濡れの相川律のスマホが、再び震える。
ブブブブブッ。
相川律「……今度は誰だよ。」
ちとせ「相川く〜ん♪」
相川律「……。」
ちとせ「最高のスライディングシュートだったよ〜☆」
相川律「……。」
ちとせ「いや〜、あの飛距離とコントロールなら、インターハイでも負けなしなんじゃな〜い?」
相川律「……。」
相川の頭の中では、五色沼への着水、黒川の説教、美保の絶叫、そして全国配信の映像が何度も再生されていた。
ちとせ「じゃあ次は、ちゃんとゴールへシュートしてねぇ。もへ〜♪」
ブツッ。
通話は一方的に切れた。
相川律「……。」
湖畔には、吹雪の音だけが残る。
相川律「……もう何も言いたくねぇ。」
ライブ配信コメント
湖畔実況民「ちとせ追撃電話までしてて草」
スリップマン公式「インターハイ出場決定」
R35推し「相川、完全に心折れてる」
もへ〜同好会「やったもへ〜♪じゃないんだよ」
黒川応援隊「次は黒川から二度目の説教だな」
五色沼カメラ班「相川ノーコメントで終了」
美保ちゃん推し「お兄ちゃんをこれ以上いじめないで!」
吾妻GT視聴中「レースより電話の方がダメージ大きい」
若林「ああああッ!!漆黒のR35 NISMOが五色沼へ沈んだアアアア!!!!」
ぼっちゃあああああんッ!!
氷点下の水柱が猛吹雪へ混ざり、湖面には巨大な波紋だけが残った。
若林「相川律、渾身のダイブ成功ォォォ!!……いや、当然の大失敗!!リタイヤだアアアア!!!!」
ビュオオオオオオッ……。
その直後、雪原には一瞬の静寂が訪れる。
ちとせのRZ34だけは何事もなかったように、白い闇を滑らかに駆け続けていた。
ちとせ「スリップマン出たね〜☆」
ちとせ「律お兄さん、水遊びがしたかったのかなぁ。五色沼、今はすっごく冷たいのにねぇ……もへ〜♪」
山吹花「ちとせ……悠長に笑ってる場合じゃないよぉ!」
山吹花「目の前で車が飛んだんだよ!?それに前も真っ白で、何も見えない……ッ!」
元の繊細な花へ戻ったことで、声には隠し切れない不安が滲んでいた。
それでも花はVABの四輪から伝わる感触を頼りに、慎重に進路を保つ。
その後方では、相川美保の悲鳴が無線へ響いた。
相川美保「お兄ちゃあああん!!」
相川美保「なんで肝心なところで沼に飛び込むのよぉ!!帰ったら絶対お説教だからね!!」
エアリ「美保さん、今は走りに集中するッス!」
エアリ「律くんはもう岸まで泳いでるみたいッスから、たぶん大丈夫ッスよ!」
若林「“たぶん”が付いたァァァァ!!!!」
ライブ配信コメント
スリップマン観測隊「期待を裏切らない男」
R35潜水部「NISMO潜水モード起動」
吾妻ジャンプ審査員「飛距離だけなら優勝」
美保ちゃん応援隊「笑ってる場合じゃないけど笑う」
五色沼の魚「なんか車落ちてきた」
若林「しかしレースは止まらない!!残されたマシンは猛吹雪のダウンヒルへ突入するウウウウ!!!!」
その時――。
ヴァアアアアアアッ!!
黄色いR8の前方に、白い影が浮かび上がった。
内藤セリナ「見つけたぁ……☆」
雪煙の向こうで揺れるテールランプへ、セリナは笑みを浮かべる。
内藤セリナ「この吹雪の中でも、逃がさないからねーッ!!」
若林「ホワイトアウトのヘアピンで、ポジティブの狂気が爆発!!内藤セリナのR8が、前方の白いマシンへ襲いかかったアアアア!!!!」
クォォォォォォォンッ!!
ギュガガガガガッ!!
内藤セリナ「ヘアピン、今だッ!!」
内藤セリナ「吹雪なんて関係ない!!わたしの心には太陽が見えてるもん!!」
黄色いR8が四輪を滑らせながら、白い闇のイン側へ飛び込む。
若林「内藤セリナのフミッパ・スライダアアアア!!!!」
荷重をフロントへ叩きつけ、滑りながら最短距離を貫いたR8が、イヨのGRスープラの横へ一気に飛び出した。
イヨ「えっ!?どこから来たのぉ!?」
イヨ「重力で押さえてたのに、ふわって抜かれたぁぁ!!」
若林「内藤セリナ、イヨを突破!!一気にちとせのRZ34へ迫るウウウウ!!!!」
エアリ「セリナさん、滑ることを止めようとしてないッス!」
エアリ「四輪が流れる量を最初から計算して、出口へ向く位置だけ合わせた!無茶に見えるッスけど、アクセルを戻さなかったから速度が落ちなかったッスね!」
ヴォォォォォォンッ!!
ビュオオオオオオッ!!
黄色いR8が吹雪を裂き、銀色のRZ34へ並ぶ。
ちとせ「もへ〜……やっぱり来たねぇ、セリナちゃん。」
ちとせ「すごくキラキラしてるけど……冬の山は、おじさんの遊び場だよぉ。」
ちとせがステアリングへ指を滑らせる。
その瞬間、RZ34の進路だけを導くように、路面へ薄い氷の結晶が広がった。
内藤セリナ「えへへッ☆ だったら、その冬ごと溶かしてあげる!」
内藤セリナ「わたしのR8、太陽みたいに輝けええええッ!!」
ヴァアアアアアアッ!!
R8は外側から速度を保ち、RZ34を押し出すように並走する。
だが、ちとせはほとんどステアリングを動かさない。
氷の上を滑る刃のように、最小限の修正だけでラインを維持していた。
若林「氷の獣神と、ポジティブの太陽!!猛吹雪の中で完全なサイドバイサイドだアアアア!!!!」
エアリ「ちとせさんは氷のグリップを使って、狭いラインでも姿勢を崩してないッス!」
エアリ「セリナさんは外側の広いラインで速度を残し、quattroのトラクションで押し切ろうとしてる!得意な走りが真逆だから、簡単には決まらないッスよ!」
内藤セリナ「太陽神って呼んでくれていいよーッ☆」
ちとせ「太陽神かぁ……暖かそうでいいねぇ。」
ちとせ「でも、太陽が沈んだ後の夜は……すごく長くて冷たいよぉ。」
すうううう……。
RZ34の周囲から、さらに濃い蒼白い冷気が広がる。
ビュオオオオオオオッ!!
R8のヘッドライトが照らしていた黄色い光が、再び白い雪へ飲み込まれた。
内藤セリナ「うわっ、また真っ白!!」
ちとせ「もへ〜……ここからが夜だよぉ。」
その直後、二台の背後へプリズムホワイトのGRスープラが戻ってくる。
ギュワアアアアアンッ!!
イヨ「二人だけで楽しむのズルいよぉ!!」
イヨ「イヨも混ぜてっ!今度は重力で二台まとめて押さえるんだから!!」
若林「イヨも再接近!!RZ34、R8、GRスープラ!!白銀の闇で三台が再び一つになったアアアア!!!!」




