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86伝説エーペックス  作者: SAI
吾妻GT編
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517/534

吾妻編第54話 山吹花の走馬灯

極限のヒルクライム。


標高が上がるにつれ、空気は薄くなり、連続する旋回と加速が容赦なく意識を削っていく。


その中で、先頭を走るフリスのケイマンGT4が、明らかに異質な動きを見せた。


キィィィィィィン……。


白い車体の周囲から、甘く冷たい雪が静かに溢れ出す。


激しく吹き荒れる吹雪ではない。


音もなく、逃げ道だけを少しずつ消していくような、底の見えない冷気だった。


山吹花「……ッ?」


青いVABのフロントガラス越しに見えていた吾妻の山肌から、ゆっくりと色が抜け落ちていく。


夕映えの赤。山々の緑。

路面を照らしていた白い光。


そのすべてが濃密な黒へと沈み、アスファルトの境界すら曖昧になった。


山吹花「なに、これ……。」

「前が……見えない……ッ。」


視界に残されたのは、フリスのケイマンが灯す二つのテールランプだけ。


冷たい赤い光が、深い奈落の奥から花を見つめ返していた。


ステアリングを握る指先から、感覚が少しずつ失われていく。


タイヤの振動も、エンジンの鼓動も、遠い世界の音のように薄れていった。


だが、花の意識は消えていない。


むしろ、その黒い世界の中で、自分自身の姿だけが鮮明に浮かび上がっていた。


相手を見下し、力を誇り、勝利だけを求めて走り続けた自分。


「ざぁ〜こ♡」と笑いながら、誰よりも追い詰められ、誰よりも必死に強く見せようとしていた自分。


山吹花「違う……ッ!」


小さな声が、黒い世界へ落ちる。


山吹花「私、こんなふうになりたかったわけじゃない……。」


花は確かに覚醒していた。


葛藤も恐怖も乗り越え、自分自身とVABを一段上の領域へ押し上げた。


その経験も、技術も、速さも偽物ではない。


だが、強くなることばかりを求めるあまり、花は自分の繊細さも、優しさも、誰かを思いやる心まで、奥深くへ押し込めていた。


フリス「越えてはならぬと言ったはずだ。」


静かな声が、黒い空間へ響く。


フリス「ここから先は、力だけを求める者が踏み入る道ではない。」


VABの窓を叩く白い欠片が、さらさらと流れていく。


それは雪でありながら、冷たさよりも深い静けさを運んでいた。


フリス「花。」


フリス「お前が得た強さは、奪わない。」


フリス「速さも、経験も、その車と積み重ねたすべても、お前のものだ。」


フリス「だが、その代わりに捨ててしまったものを……我が返そう。」


ケイマンの周囲から広がった甘い雪が、VABをやさしく包み込む。


暴力的に凍らせるのではない。


花の内側へ絡みついた黒い棘だけを、一つずつ溶かしていくような冷気だった。


フリス「強くなるために隠した心。」


フリス「泣きたい時に我慢した涙。」


フリス「誰かを傷つけたくないと願っていた、元のお前を。」


フリス「すべて返すぞ。」


フリス「我なら、お前を元の場所へ還すことができる。」


ぱき……。


花の胸の奥で、何かに小さな亀裂が入る。


これまで必死に纏っていた女王の殻。


生意気な笑みも、鋭い言葉も、絶対に負けないと自分を縛っていた傲慢さも。


パキィィィィィィン……!


音を立てて砕け散った。


山吹花「え……ッ?」


黒く染まっていた視界へ、淡い光が差し込む。


春の木漏れ日のような、柔らかなピンク色。


消えていた吾妻の山肌が戻り、路面の白線が再び見え始める。


ステアリングの感触も、タイヤが路面を掴む振動も、ひとつずつ花の手へ戻ってきた。


山吹花「あ……。」


強く握り締めていた指が、ゆっくりと緩む。


呼吸が震えた。


自分が今までどれほど力を入れていたのか、ようやく気づいたように。


山吹花「私……ずっと、怖かったんだ……。」


山吹花「負けたら、また弱いって思われる気がして……。」


山吹花「だから、強いふりをして……みんなを見下して……。」


声は細く、今にも消えそうだった。


だがそこには、先ほどまでの刺々しさはもうない。


優しく、繊細で、不器用ながらも前へ進もうとする、本来の山吹花の声だった。


山吹花「ごめんなさい……。」


誰に向けた言葉なのか、自分でも分からない。


カナタへ。


サテラへ。


フリスへ。


そして、無理をさせ続けた青いVABへ。


花はステアリングをそっと撫でた。


山吹花「ごめんね……。」


山吹花「ずっと無理させてたよね……。」


その瞬間、VABの挙動が変わった。


荒々しく路面を抉っていた四輪が、今度はアスファルトへやさしく馴染んでいく。


急激な荷重移動は消え、花の細かな操作へ応えるように、青い車体が穏やかな軌道を描いた。


強さが失われたわけではない。


むしろ余計な力が抜けたことで、VABはこれまで以上に自然に、そしてしなやかに曲がっていく。


山吹花「……ちゃんと走ろう。」


山吹花「誰かを潰すためじゃなくて…… 最後まで、この子と一緒に走りたい。」


瞳から鋭い棘が消えていた。


そこに戻ったのは、涙を堪えながらも前を向こうとする、健気な少女の光だった。


フリスはバックミラー越しに、その変化を確かめる。


絶対的な威厳を放っていた表情が、ふっと緩んだ。


そして――。


ぽんっ。


フリスはステアリングを軽く叩き、鈴が転がるような明るい声で笑った。


フリス「あははっ!戻った、戻った!」


フリス「やっぱり花ちゃんは、その顔の方がずっと可愛いぞっ!」


山吹花「フ、フリス……?」


フリス「我もちょっと疲れちゃったな〜。」


先ほどまでの冷たい王者の気配は、嘘のように消えていた。


白いケイマンの中で、フリスは子どものように楽しそうな笑みを浮かべる。


フリス「でも、強くなったことまで忘れちゃダメだぞ!」


フリス「花ちゃんはちゃんと速くなった。だから今度は、花ちゃんらしい走り方でその速さを使えばいいんだよっ☆」


山吹花「私らしい……走り方……。」


フリス「うんっ!」


フリス「誰かを怖がらせるんじゃなくて、みんなが見惚れるような走り!」


フリス「さ、ゴールまでまだあるぞ!最後まで一緒に楽しもうよっ!」


キィィィィィィンッ!!


白いケイマンが、軽やかに加速する。


その後ろで、青いVABも穏やかにエンジン音を重ねた。


山吹花「……うん。」


小さく、けれど確かな返事。


山吹花「私、ちゃんと最後まで走る。」


山吹花「もう誰かを傷つけるような走りはしない。」


青いVABは桜の風をまとい、フリスのケイマンを追い始める。


そこにあったのは、生意気な女王の暴走ではない。


繊細で、優しく、健気な少女が、自分自身の足で再び前へ進み始めた姿だった。


フリス「やはり、これが……英雄の、その先の成れの果てか……。」


どしゅううううんッ!!


ドゴオオオオオンッ!!


白いケイマンと青いVABが、重なるような加速音を響かせてコーナーを抜ける。


花は前方を見つめたまま、震える指で無線のスイッチを押した。


ブツッ。


その声は、カナタと伊藤のマシンへ同時に届く。


山吹花「カナタ……伊藤くん……。」


腹切カナタ「……花?」


伊藤「どうしたんだ、急に。」


花は一度、息を詰まらせた。


先ほどまで浴びせていた言葉が、胸の奥で鋭く突き刺さる。


山吹花「ごめんなさい……。」


山吹花「私、速くならなきゃって焦って……二人のことまで見下して、ひどいことを言った。」


青いVABのステアリングを握る手に、再び力が入りかける。


だが花は、ゆっくりと指を緩めた。


山吹花「カナタの86も、伊藤くんのスイスポも……ずっと頑張って走ってたのに。」


山吹花「私、自分だけが特別みたいな顔をして……二人の走りを馬鹿にしてた。」


腹切カナタ「……戻ったんだな。」


山吹花「うん……。」


腹切カナタ「なら、それでいい。」


山吹花「でも……。」


腹切カナタ「謝るなら、最後まで走れ。」


腹切カナタ「途中で投げ出したら、その方が俺は嫌だ。」


花の瞳が、わずかに潤む。


伊藤「俺も同じだ。」


伊藤「正直、腹は立ってた。でも今の花が本気で謝ってるなら、もう引きずらない。」


山吹花「伊藤くん……。」


伊藤「ただし次に“ざぁ〜こ♡”とか言ったら、スイスポで追い回すからな。」


山吹花「……ふふっ。」


小さな笑みが、ようやく花の頬へ戻った。


山吹花「うん。もう言わない。」


山吹花「二人とも……本当にごめんなさい。」


腹切カナタ「謝罪は聞いた。」


伊藤「後はゴールで話そうぜ。」


ブツッ。


通信が切れる。


花は目元を軽く拭い、前方の白いケイマンを見据えた。


山吹花「……最後まで走る。」


山吹花「今度は、私らしく。」


ゴオオオオオオッ!!


青いVABは荒々しさを捨てながらも、その速さだけは失わず、桜の風をまとって再び加速した。


若林「うおおおっと!!中堅集団のパワーバランスが崩れたアアアア!!!!」


ギャアアアアアアッ!!


ズバババババッ!!


伊藤翔太の黄色いスイスポと、高槻健永の赤いバイパーが完全なサイドバイサイド。


車格も排気量も違う二台が、互いに一歩も譲らず加速していく。


若林「そのまま古賀のM5と岡田のGR GTをまとめて突破ォォォォ!!!!軽量弾丸と8.4リッターの怪物が、並んだまま前へ出たァァァァ!!!!」


古賀加奈子「ちょっと……二台まとめて来るの!?」


岡田大成「勢いだけじゃない。完全にこちらの減速位置を読まれたな。」


高槻健永「ハハハッ!やるじゃねぇか、伊藤!!」


高槻健永「そのスイスポ、本当に弾丸みたいだな!」


伊藤翔太「高槻、よくこの速度で喋れるな……ッ!」


伊藤翔太「でも、十位は俺がもらう!!」


高槻健永「いいぜ!どっちが先に頂上へ出るか勝負だ!!」


ヴォアアアアアアッ!!


ギャアアアアアアンッ!!


二台は次のコーナーへ横並びのまま突入する。


エアリ「高槻くん、完全に迷いが消えたッスね!」


エアリ「さっきまではバイパーのパワーを抑えようとしてたッスけど、今はリアが動く前提でアクセルを開けてるッス!」


エアリ「でも伊藤くんも負けてないッスよ!軽い車体を先にインへ入れて、バイパーが向きを変える前にラインを取ってるッス!」


クンッ!クンッ!!


ストンッ!!


伊藤翔太が素早くシフトを落とし、スイスポのノーズをイン側へ向ける。


若林「立ち上がりイイイイイ!!!!伊藤翔太、インから攻めるウウウウ!!!!」


ギャギャアアアアアッ!!


黄色いスイスポが一瞬だけ前へ出る。


だが高槻がアクセルを踏み抜いた瞬間、バイパーの巨大なV10が爆発した。


ドゴオオオオオオンッ!!


若林「しかしパワーの立ち上がりは、さすがにバイパーが上かアアアア!?赤いドラゴンが外側から押し返してきたァァァァ!!!!」


伊藤翔太「まだだ……ッ!」


高槻健永「そうこなくちゃ面白くねぇ!!」


二台は再び横一線となり、十位を懸けて次の加速区間へ飛び出した。


高槻健永「それにしても……。」


バイパーを全開で押し出しながら、高槻は無線の沈黙に眉をひそめる。


高槻健永「プライベート通信から、花の応答がまったくない……。」


その脳裏に、先ほどまでの刺々しい花の声がよみがえる。


高槻健永「まさか……アイツ、裏切ったな……ッ!」


伊藤翔太「何ぶつぶつ言ってんだ、高槻!」


高槻健永「何でもねぇよ!!」


ヴォアアアアアアッ!!


高槻は苛立ちをアクセルへ叩きつけ、バイパーをさらに前へ押し出した。


若林「後方集団でも、とんでもない火花が散っているウウウウ!!!!」


ギャアアアアアアンッ!!


銀色のランエボIXが、相川律のR35 NISMOへ一気に迫る。


若林「眞鍋琉世!!4G63の咆哮を響かせ、世界最強クラスのGT-Rへ牙を剥いたァァァァ!!!!」


眞鍋琉世「俺のエボを、ただの旧型だと思うなよ。」


眞鍋琉世「コーナーの出口なら、この銀の弾丸が食い破るッ!!」


シャコンッ!!


ギャアアアアアッ!!


眞鍋は五連ヘアピンの立ち上がりで素早くシフトを繋ぎ、R35が大パワーを路面へ伝える一瞬の遅れを突く。


軽いノーズをイン側へ向け、GT-Rの横へ一気に並んだ。


相川律「マジかよ……!この立ち上がりで追いつくのか!?」


相川律「眞鍋、お前のエボは何を仕込んでやがる!!」


エアリ「眞鍋くん、R35と直線勝負をしてないッス!」


エアリ「コーナー出口で先に車体をまっすぐにして、4G63の加速を早く使ってるッスね!」


エアリ「相川くんのR35はパワーが大きいぶん、旋回中に踏みすぎれば外へ膨らむッス。その一瞬だけなら、軽いエボが前へ出られるッスよ!」


若林「最新鋭のR35 NISMOへ、二十年前のランエボIXが食らいつく!!後方でもジャイアントキリングの予感だアアアア!!!!」


さらに、その前方では――。


ンバアアアアアアッ!!


黒いGR GTのイン側へ、柊蒼真の白いFL5が飛び込んだ。


若林「この二台も並んだアアアア!!!!鈴鹿レーシングスクール時代の因縁!!柊蒼真対岡田大成だァァァァ!!!!」


柊蒼真「岡田ァ……やっと捕まえたぞ!!」


柊蒼真「車を替えた程度で、俺から逃げ切れると思うなよ!!」


岡田大成「相変わらず熱いな、柊。」


岡田大成「でも、昔の結果をまだ握ってる時点で、お前は前を見てない。」


ギャギャアアアアッ!!


柊はFL5の鋭い回頭性でイン側へ食らいつく。


だが岡田はGR GTをわずかに中央へ残し、柊がアクセルを開ける出口を狭めた。


柊蒼真「ラインを潰したつもりか!?」


岡田大成「つもりじゃない。もう潰してる。」


ドゴオオオオオンッ!!


GR GTが立ち上がりで先に加速し、FL5を半車身だけ押し戻す。


エアリ「二人とも相手の癖を知りすぎてるッス!」


エアリ「柊くんは岡田くんが出口を重視するのを読んで、進入で先に入ったッス。でも岡田くんも、柊くんがインへ来ると分かって中央を残してた!」


エアリ「速さだけじゃなく、相手が次に何をするかまで読み合ってるッスよ!」


若林「白いFL5と黒いGR GT!!互いの手の内を知り尽くした二台が、ミリ単位で削り合うウウウウ!!!!」


エアリ「柊くんの進入は荒々しいッスけど、岡田くんのブロックへ当たるたびに修正されてるッス!」


エアリ「ブレーキ位置もステアリングの切り方も、周回ごとに鋭くなってる。互いを知ってる二人だからこその成長ッスね!」


若林「十二位、十三位を超えた意地の対決!!柊蒼真と岡田大成、因縁の決着はまだつかなあああい!!!!」


そして吾妻のラストストレート。


黄色いスイスポと赤いバイパーが並ぶ、その中央へ――。


ヴァアアアアアアッ!!


内藤セリナの黄色いR8が強引に割り込んだ。


ドンッ!!


ガガガッ!!


ギャアアアアアアッ!!


若林「三台並走だアアアア!!!!伊藤翔太、高槻健永、内藤セリナ!!左右のガードレールまで数センチしかなあああい!!!!」


内藤セリナ「あははっ!最高に楽しいじゃない!!」


内藤セリナ「伊藤くんも高槻さんも、もっと踏んでいこうよッ!!」


高槻健永「ハハハッ!相変わらず元気だな、セリナちゃん!」


高槻健永「伊藤!このドラゴンの加速について来られるか!?」


伊藤翔太「左右から挟みやがって……ッ!」


伊藤翔太「でも、ここで引くわけにはいかねぇ!!」


ギャアアアアアアンッ!!


伊藤翔太は車体をわずかにインへ寄せ、R8とバイパーの間でスイスポをまっすぐ保つ。


エアリ「三台とも接近しすぎて、互いの空気の流れが乱れてるッス!」


エアリ「セリナさんのR8は四駆で姿勢が安定、高槻くんは大排気量で押し切る。伊藤くんは軽さを使って、狭い隙間でも加速を止めてないッスね!」


若林「異なる武器を持つ三台が、十位を懸けて横一線!!魂の削り合いはさらに激しくなるウウウウ!!!!」


若林「アレェェェ!?大変な事態です!!!!」


若林「頂上付近の視界が完全に消失!!先頭集団が猛吹雪の区間へ突入したアアアア!!!!」


ビュオオオオオオオッ!!


ヴォォォォォォォンッ!!


本来なら全開で駆け抜けるはずのバックストレートが、白銀の地獄へ変わっていた。


雪がフロントガラスを激しく叩き、数十メートル先のテールランプさえ白い闇へ溶けていく。


その中で、ちとせのRZ34だけが異様なほど滑らかに加速を続けていた。


ちとせ「もへ〜……ちょっと寒くなってきたねぇ。」


ちとせは運転席の窓を少し開ける。


吹雪が車内へ流れ込む中、左手を窓の外へ伸ばした。


ちとせ「後ろのみんなも……涼しくしてあげようかなぁ。」


すうううう……。


白い指先へ冷気が集まり、掌の周囲で細かな氷雪が渦を巻く。


次の瞬間――。


ゴオオオオオオオッ!!


ちとせの片手から放たれた極寒の吹雪が、RZ34の後方へ一気に広がった。


バックストレートを覆っていた雪へさらに濃い冷気が重なり、後続車の視界を完全に奪っていく。


山吹花「ち、ちとせ……ッ!?」


青いVABのワイパーが全速で動く。


だが雪は拭った直後から積もり、前方の白いケイマンすら見失いかけていた。


山吹花「これ、ちとせがやってるんでしょ……!?」


山吹花「前が全然見えないよ……このままじゃ、どこを走ってるか分からなくなっちゃう……ッ!」


ちとせ「さあ〜……?」


ちとせ「吾妻の山が、ちょっと寒がってるだけかもしれないよぉ。」


山吹花「そんなのんびり言ってる場合じゃないよぉ……!」


花は怯えを押し殺し、ステアリングを丁寧に握り直す。


山吹花「大丈夫……白線が見えなくても、路面の感触は残ってる。」


山吹花「焦らないで……この子を信じれば、ちゃんと走れる……ッ。」


若林「山吹花、視界を失いながらもVABの挙動だけを頼りに走っている!!」


若林「そしてフリスのケイマンも、白い闇の中へ完全に姿を消したァァァァ!!!!」


エアリ「これは普通の吹雪じゃないッス!」


エアリ「ちとせさんの冷気が後方へ流れて、フリスさんの甘い氷雪と混ざってるッスよ!」


エアリ「雪の粒が細かすぎて、ライトを点けても全部反射して真っ白になる!こうなると遠くを見るより、タイヤとステアリングから伝わる情報を信じるしかないッス!」


腹切カナタ「……何も見えない。」


赤い86のフロントガラスを、真横から吹きつける雪が覆う。


カナタはアクセルをわずかに戻し、ステアリングへ伝わる振動へ集中した。


腹切カナタ「でも、路面は消えてない。」


腹切カナタ「86……俺に道を教えてくれ。」


その後方では、クリスタの488GTSが雪を巻き上げながら激しく左右へ揺れる。


クリスタ・ニールセン「ちょっとおおお!!なによ、この吹雪!!」


クリスタ「せっかく追いついたのに、これじゃ何も見えないじゃないのよオオオオ!!!!」


ボボボボッ!!


フェラーリのアフターファイアが白い雪を赤く照らす。


しかし、その光さえ数メートル先で飲み込まれた。


若林「カナタ!サテラ!クリスタ!!全車が白銀の闇へ飲み込まれていくウウウウ!!!!」


若林「このホワイトアウトを最初に抜け出すのは誰だアアアア!!!!」



ライブ配信コメント


雪山観戦民「ちとせ絶対やっただろ!!」


赤い戦闘機推し「カナタ、路面だけ信じろおお!!」


花ちゃん応援隊「花ちゃん戻ったばかりなのに試練が重すぎる!」


VAB信者「四駆の意地を見せろ!!」


跳ね馬ファン「クリスタの炎でも雪が消えねぇ!!」


実況席心配民「若林の声だけは視界良好で草」


ちとせ推し「窓開けて片手で吹雪出してるの怖すぎる」


吾妻GT視聴中「これレースじゃなくて雪山遭難だろ!!」

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