吾妻編第54話 山吹花の走馬灯
極限のヒルクライム。
標高が上がるにつれ、空気は薄くなり、連続する旋回と加速が容赦なく意識を削っていく。
その中で、先頭を走るフリスのケイマンGT4が、明らかに異質な動きを見せた。
キィィィィィィン……。
白い車体の周囲から、甘く冷たい雪が静かに溢れ出す。
激しく吹き荒れる吹雪ではない。
音もなく、逃げ道だけを少しずつ消していくような、底の見えない冷気だった。
山吹花「……ッ?」
青いVABのフロントガラス越しに見えていた吾妻の山肌から、ゆっくりと色が抜け落ちていく。
夕映えの赤。山々の緑。
路面を照らしていた白い光。
そのすべてが濃密な黒へと沈み、アスファルトの境界すら曖昧になった。
山吹花「なに、これ……。」
「前が……見えない……ッ。」
視界に残されたのは、フリスのケイマンが灯す二つのテールランプだけ。
冷たい赤い光が、深い奈落の奥から花を見つめ返していた。
ステアリングを握る指先から、感覚が少しずつ失われていく。
タイヤの振動も、エンジンの鼓動も、遠い世界の音のように薄れていった。
だが、花の意識は消えていない。
むしろ、その黒い世界の中で、自分自身の姿だけが鮮明に浮かび上がっていた。
相手を見下し、力を誇り、勝利だけを求めて走り続けた自分。
「ざぁ〜こ♡」と笑いながら、誰よりも追い詰められ、誰よりも必死に強く見せようとしていた自分。
山吹花「違う……ッ!」
小さな声が、黒い世界へ落ちる。
山吹花「私、こんなふうになりたかったわけじゃない……。」
花は確かに覚醒していた。
葛藤も恐怖も乗り越え、自分自身とVABを一段上の領域へ押し上げた。
その経験も、技術も、速さも偽物ではない。
だが、強くなることばかりを求めるあまり、花は自分の繊細さも、優しさも、誰かを思いやる心まで、奥深くへ押し込めていた。
フリス「越えてはならぬと言ったはずだ。」
静かな声が、黒い空間へ響く。
フリス「ここから先は、力だけを求める者が踏み入る道ではない。」
VABの窓を叩く白い欠片が、さらさらと流れていく。
それは雪でありながら、冷たさよりも深い静けさを運んでいた。
フリス「花。」
フリス「お前が得た強さは、奪わない。」
フリス「速さも、経験も、その車と積み重ねたすべても、お前のものだ。」
フリス「だが、その代わりに捨ててしまったものを……我が返そう。」
ケイマンの周囲から広がった甘い雪が、VABをやさしく包み込む。
暴力的に凍らせるのではない。
花の内側へ絡みついた黒い棘だけを、一つずつ溶かしていくような冷気だった。
フリス「強くなるために隠した心。」
フリス「泣きたい時に我慢した涙。」
フリス「誰かを傷つけたくないと願っていた、元のお前を。」
フリス「すべて返すぞ。」
フリス「我なら、お前を元の場所へ還すことができる。」
ぱき……。
花の胸の奥で、何かに小さな亀裂が入る。
これまで必死に纏っていた女王の殻。
生意気な笑みも、鋭い言葉も、絶対に負けないと自分を縛っていた傲慢さも。
パキィィィィィィン……!
音を立てて砕け散った。
山吹花「え……ッ?」
黒く染まっていた視界へ、淡い光が差し込む。
春の木漏れ日のような、柔らかなピンク色。
消えていた吾妻の山肌が戻り、路面の白線が再び見え始める。
ステアリングの感触も、タイヤが路面を掴む振動も、ひとつずつ花の手へ戻ってきた。
山吹花「あ……。」
強く握り締めていた指が、ゆっくりと緩む。
呼吸が震えた。
自分が今までどれほど力を入れていたのか、ようやく気づいたように。
山吹花「私……ずっと、怖かったんだ……。」
山吹花「負けたら、また弱いって思われる気がして……。」
山吹花「だから、強いふりをして……みんなを見下して……。」
声は細く、今にも消えそうだった。
だがそこには、先ほどまでの刺々しさはもうない。
優しく、繊細で、不器用ながらも前へ進もうとする、本来の山吹花の声だった。
山吹花「ごめんなさい……。」
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からない。
カナタへ。
サテラへ。
フリスへ。
そして、無理をさせ続けた青いVABへ。
花はステアリングをそっと撫でた。
山吹花「ごめんね……。」
山吹花「ずっと無理させてたよね……。」
その瞬間、VABの挙動が変わった。
荒々しく路面を抉っていた四輪が、今度はアスファルトへやさしく馴染んでいく。
急激な荷重移動は消え、花の細かな操作へ応えるように、青い車体が穏やかな軌道を描いた。
強さが失われたわけではない。
むしろ余計な力が抜けたことで、VABはこれまで以上に自然に、そしてしなやかに曲がっていく。
山吹花「……ちゃんと走ろう。」
山吹花「誰かを潰すためじゃなくて…… 最後まで、この子と一緒に走りたい。」
瞳から鋭い棘が消えていた。
そこに戻ったのは、涙を堪えながらも前を向こうとする、健気な少女の光だった。
フリスはバックミラー越しに、その変化を確かめる。
絶対的な威厳を放っていた表情が、ふっと緩んだ。
そして――。
ぽんっ。
フリスはステアリングを軽く叩き、鈴が転がるような明るい声で笑った。
フリス「あははっ!戻った、戻った!」
フリス「やっぱり花ちゃんは、その顔の方がずっと可愛いぞっ!」
山吹花「フ、フリス……?」
フリス「我もちょっと疲れちゃったな〜。」
先ほどまでの冷たい王者の気配は、嘘のように消えていた。
白いケイマンの中で、フリスは子どものように楽しそうな笑みを浮かべる。
フリス「でも、強くなったことまで忘れちゃダメだぞ!」
フリス「花ちゃんはちゃんと速くなった。だから今度は、花ちゃんらしい走り方でその速さを使えばいいんだよっ☆」
山吹花「私らしい……走り方……。」
フリス「うんっ!」
フリス「誰かを怖がらせるんじゃなくて、みんなが見惚れるような走り!」
フリス「さ、ゴールまでまだあるぞ!最後まで一緒に楽しもうよっ!」
キィィィィィィンッ!!
白いケイマンが、軽やかに加速する。
その後ろで、青いVABも穏やかにエンジン音を重ねた。
山吹花「……うん。」
小さく、けれど確かな返事。
山吹花「私、ちゃんと最後まで走る。」
山吹花「もう誰かを傷つけるような走りはしない。」
青いVABは桜の風をまとい、フリスのケイマンを追い始める。
そこにあったのは、生意気な女王の暴走ではない。
繊細で、優しく、健気な少女が、自分自身の足で再び前へ進み始めた姿だった。
フリス「やはり、これが……英雄の、その先の成れの果てか……。」
どしゅううううんッ!!
ドゴオオオオオンッ!!
白いケイマンと青いVABが、重なるような加速音を響かせてコーナーを抜ける。
花は前方を見つめたまま、震える指で無線のスイッチを押した。
ブツッ。
その声は、カナタと伊藤のマシンへ同時に届く。
山吹花「カナタ……伊藤くん……。」
腹切カナタ「……花?」
伊藤「どうしたんだ、急に。」
花は一度、息を詰まらせた。
先ほどまで浴びせていた言葉が、胸の奥で鋭く突き刺さる。
山吹花「ごめんなさい……。」
山吹花「私、速くならなきゃって焦って……二人のことまで見下して、ひどいことを言った。」
青いVABのステアリングを握る手に、再び力が入りかける。
だが花は、ゆっくりと指を緩めた。
山吹花「カナタの86も、伊藤くんのスイスポも……ずっと頑張って走ってたのに。」
山吹花「私、自分だけが特別みたいな顔をして……二人の走りを馬鹿にしてた。」
腹切カナタ「……戻ったんだな。」
山吹花「うん……。」
腹切カナタ「なら、それでいい。」
山吹花「でも……。」
腹切カナタ「謝るなら、最後まで走れ。」
腹切カナタ「途中で投げ出したら、その方が俺は嫌だ。」
花の瞳が、わずかに潤む。
伊藤「俺も同じだ。」
伊藤「正直、腹は立ってた。でも今の花が本気で謝ってるなら、もう引きずらない。」
山吹花「伊藤くん……。」
伊藤「ただし次に“ざぁ〜こ♡”とか言ったら、スイスポで追い回すからな。」
山吹花「……ふふっ。」
小さな笑みが、ようやく花の頬へ戻った。
山吹花「うん。もう言わない。」
山吹花「二人とも……本当にごめんなさい。」
腹切カナタ「謝罪は聞いた。」
伊藤「後はゴールで話そうぜ。」
ブツッ。
通信が切れる。
花は目元を軽く拭い、前方の白いケイマンを見据えた。
山吹花「……最後まで走る。」
山吹花「今度は、私らしく。」
ゴオオオオオオッ!!
青いVABは荒々しさを捨てながらも、その速さだけは失わず、桜の風をまとって再び加速した。
若林「うおおおっと!!中堅集団のパワーバランスが崩れたアアアア!!!!」
ギャアアアアアアッ!!
ズバババババッ!!
伊藤翔太の黄色いスイスポと、高槻健永の赤いバイパーが完全なサイドバイサイド。
車格も排気量も違う二台が、互いに一歩も譲らず加速していく。
若林「そのまま古賀のM5と岡田のGR GTをまとめて突破ォォォォ!!!!軽量弾丸と8.4リッターの怪物が、並んだまま前へ出たァァァァ!!!!」
古賀加奈子「ちょっと……二台まとめて来るの!?」
岡田大成「勢いだけじゃない。完全にこちらの減速位置を読まれたな。」
高槻健永「ハハハッ!やるじゃねぇか、伊藤!!」
高槻健永「そのスイスポ、本当に弾丸みたいだな!」
伊藤翔太「高槻、よくこの速度で喋れるな……ッ!」
伊藤翔太「でも、十位は俺がもらう!!」
高槻健永「いいぜ!どっちが先に頂上へ出るか勝負だ!!」
ヴォアアアアアアッ!!
ギャアアアアアアンッ!!
二台は次のコーナーへ横並びのまま突入する。
エアリ「高槻くん、完全に迷いが消えたッスね!」
エアリ「さっきまではバイパーのパワーを抑えようとしてたッスけど、今はリアが動く前提でアクセルを開けてるッス!」
エアリ「でも伊藤くんも負けてないッスよ!軽い車体を先にインへ入れて、バイパーが向きを変える前にラインを取ってるッス!」
クンッ!クンッ!!
ストンッ!!
伊藤翔太が素早くシフトを落とし、スイスポのノーズをイン側へ向ける。
若林「立ち上がりイイイイイ!!!!伊藤翔太、インから攻めるウウウウ!!!!」
ギャギャアアアアアッ!!
黄色いスイスポが一瞬だけ前へ出る。
だが高槻がアクセルを踏み抜いた瞬間、バイパーの巨大なV10が爆発した。
ドゴオオオオオオンッ!!
若林「しかしパワーの立ち上がりは、さすがにバイパーが上かアアアア!?赤いドラゴンが外側から押し返してきたァァァァ!!!!」
伊藤翔太「まだだ……ッ!」
高槻健永「そうこなくちゃ面白くねぇ!!」
二台は再び横一線となり、十位を懸けて次の加速区間へ飛び出した。
高槻健永「それにしても……。」
バイパーを全開で押し出しながら、高槻は無線の沈黙に眉をひそめる。
高槻健永「プライベート通信から、花の応答がまったくない……。」
その脳裏に、先ほどまでの刺々しい花の声がよみがえる。
高槻健永「まさか……アイツ、裏切ったな……ッ!」
伊藤翔太「何ぶつぶつ言ってんだ、高槻!」
高槻健永「何でもねぇよ!!」
ヴォアアアアアアッ!!
高槻は苛立ちをアクセルへ叩きつけ、バイパーをさらに前へ押し出した。
若林「後方集団でも、とんでもない火花が散っているウウウウ!!!!」
ギャアアアアアアンッ!!
銀色のランエボIXが、相川律のR35 NISMOへ一気に迫る。
若林「眞鍋琉世!!4G63の咆哮を響かせ、世界最強クラスのGT-Rへ牙を剥いたァァァァ!!!!」
眞鍋琉世「俺のエボを、ただの旧型だと思うなよ。」
眞鍋琉世「コーナーの出口なら、この銀の弾丸が食い破るッ!!」
シャコンッ!!
ギャアアアアアッ!!
眞鍋は五連ヘアピンの立ち上がりで素早くシフトを繋ぎ、R35が大パワーを路面へ伝える一瞬の遅れを突く。
軽いノーズをイン側へ向け、GT-Rの横へ一気に並んだ。
相川律「マジかよ……!この立ち上がりで追いつくのか!?」
相川律「眞鍋、お前のエボは何を仕込んでやがる!!」
エアリ「眞鍋くん、R35と直線勝負をしてないッス!」
エアリ「コーナー出口で先に車体をまっすぐにして、4G63の加速を早く使ってるッスね!」
エアリ「相川くんのR35はパワーが大きいぶん、旋回中に踏みすぎれば外へ膨らむッス。その一瞬だけなら、軽いエボが前へ出られるッスよ!」
若林「最新鋭のR35 NISMOへ、二十年前のランエボIXが食らいつく!!後方でもジャイアントキリングの予感だアアアア!!!!」
さらに、その前方では――。
ンバアアアアアアッ!!
黒いGR GTのイン側へ、柊蒼真の白いFL5が飛び込んだ。
若林「この二台も並んだアアアア!!!!鈴鹿レーシングスクール時代の因縁!!柊蒼真対岡田大成だァァァァ!!!!」
柊蒼真「岡田ァ……やっと捕まえたぞ!!」
柊蒼真「車を替えた程度で、俺から逃げ切れると思うなよ!!」
岡田大成「相変わらず熱いな、柊。」
岡田大成「でも、昔の結果をまだ握ってる時点で、お前は前を見てない。」
ギャギャアアアアッ!!
柊はFL5の鋭い回頭性でイン側へ食らいつく。
だが岡田はGR GTをわずかに中央へ残し、柊がアクセルを開ける出口を狭めた。
柊蒼真「ラインを潰したつもりか!?」
岡田大成「つもりじゃない。もう潰してる。」
ドゴオオオオオンッ!!
GR GTが立ち上がりで先に加速し、FL5を半車身だけ押し戻す。
エアリ「二人とも相手の癖を知りすぎてるッス!」
エアリ「柊くんは岡田くんが出口を重視するのを読んで、進入で先に入ったッス。でも岡田くんも、柊くんがインへ来ると分かって中央を残してた!」
エアリ「速さだけじゃなく、相手が次に何をするかまで読み合ってるッスよ!」
若林「白いFL5と黒いGR GT!!互いの手の内を知り尽くした二台が、ミリ単位で削り合うウウウウ!!!!」
エアリ「柊くんの進入は荒々しいッスけど、岡田くんのブロックへ当たるたびに修正されてるッス!」
エアリ「ブレーキ位置もステアリングの切り方も、周回ごとに鋭くなってる。互いを知ってる二人だからこその成長ッスね!」
若林「十二位、十三位を超えた意地の対決!!柊蒼真と岡田大成、因縁の決着はまだつかなあああい!!!!」
そして吾妻のラストストレート。
黄色いスイスポと赤いバイパーが並ぶ、その中央へ――。
ヴァアアアアアアッ!!
内藤セリナの黄色いR8が強引に割り込んだ。
ドンッ!!
ガガガッ!!
ギャアアアアアアッ!!
若林「三台並走だアアアア!!!!伊藤翔太、高槻健永、内藤セリナ!!左右のガードレールまで数センチしかなあああい!!!!」
内藤セリナ「あははっ!最高に楽しいじゃない!!」
内藤セリナ「伊藤くんも高槻さんも、もっと踏んでいこうよッ!!」
高槻健永「ハハハッ!相変わらず元気だな、セリナちゃん!」
高槻健永「伊藤!このドラゴンの加速について来られるか!?」
伊藤翔太「左右から挟みやがって……ッ!」
伊藤翔太「でも、ここで引くわけにはいかねぇ!!」
ギャアアアアアアンッ!!
伊藤翔太は車体をわずかにインへ寄せ、R8とバイパーの間でスイスポをまっすぐ保つ。
エアリ「三台とも接近しすぎて、互いの空気の流れが乱れてるッス!」
エアリ「セリナさんのR8は四駆で姿勢が安定、高槻くんは大排気量で押し切る。伊藤くんは軽さを使って、狭い隙間でも加速を止めてないッスね!」
若林「異なる武器を持つ三台が、十位を懸けて横一線!!魂の削り合いはさらに激しくなるウウウウ!!!!」
若林「アレェェェ!?大変な事態です!!!!」
若林「頂上付近の視界が完全に消失!!先頭集団が猛吹雪の区間へ突入したアアアア!!!!」
ビュオオオオオオオッ!!
ヴォォォォォォォンッ!!
本来なら全開で駆け抜けるはずのバックストレートが、白銀の地獄へ変わっていた。
雪がフロントガラスを激しく叩き、数十メートル先のテールランプさえ白い闇へ溶けていく。
その中で、ちとせのRZ34だけが異様なほど滑らかに加速を続けていた。
ちとせ「もへ〜……ちょっと寒くなってきたねぇ。」
ちとせは運転席の窓を少し開ける。
吹雪が車内へ流れ込む中、左手を窓の外へ伸ばした。
ちとせ「後ろのみんなも……涼しくしてあげようかなぁ。」
すうううう……。
白い指先へ冷気が集まり、掌の周囲で細かな氷雪が渦を巻く。
次の瞬間――。
ゴオオオオオオオッ!!
ちとせの片手から放たれた極寒の吹雪が、RZ34の後方へ一気に広がった。
バックストレートを覆っていた雪へさらに濃い冷気が重なり、後続車の視界を完全に奪っていく。
山吹花「ち、ちとせ……ッ!?」
青いVABのワイパーが全速で動く。
だが雪は拭った直後から積もり、前方の白いケイマンすら見失いかけていた。
山吹花「これ、ちとせがやってるんでしょ……!?」
山吹花「前が全然見えないよ……このままじゃ、どこを走ってるか分からなくなっちゃう……ッ!」
ちとせ「さあ〜……?」
ちとせ「吾妻の山が、ちょっと寒がってるだけかもしれないよぉ。」
山吹花「そんなのんびり言ってる場合じゃないよぉ……!」
花は怯えを押し殺し、ステアリングを丁寧に握り直す。
山吹花「大丈夫……白線が見えなくても、路面の感触は残ってる。」
山吹花「焦らないで……この子を信じれば、ちゃんと走れる……ッ。」
若林「山吹花、視界を失いながらもVABの挙動だけを頼りに走っている!!」
若林「そしてフリスのケイマンも、白い闇の中へ完全に姿を消したァァァァ!!!!」
エアリ「これは普通の吹雪じゃないッス!」
エアリ「ちとせさんの冷気が後方へ流れて、フリスさんの甘い氷雪と混ざってるッスよ!」
エアリ「雪の粒が細かすぎて、ライトを点けても全部反射して真っ白になる!こうなると遠くを見るより、タイヤとステアリングから伝わる情報を信じるしかないッス!」
腹切カナタ「……何も見えない。」
赤い86のフロントガラスを、真横から吹きつける雪が覆う。
カナタはアクセルをわずかに戻し、ステアリングへ伝わる振動へ集中した。
腹切カナタ「でも、路面は消えてない。」
腹切カナタ「86……俺に道を教えてくれ。」
その後方では、クリスタの488GTSが雪を巻き上げながら激しく左右へ揺れる。
クリスタ・ニールセン「ちょっとおおお!!なによ、この吹雪!!」
クリスタ「せっかく追いついたのに、これじゃ何も見えないじゃないのよオオオオ!!!!」
ボボボボッ!!
フェラーリのアフターファイアが白い雪を赤く照らす。
しかし、その光さえ数メートル先で飲み込まれた。
若林「カナタ!サテラ!クリスタ!!全車が白銀の闇へ飲み込まれていくウウウウ!!!!」
若林「このホワイトアウトを最初に抜け出すのは誰だアアアア!!!!」
ライブ配信コメント
雪山観戦民「ちとせ絶対やっただろ!!」
赤い戦闘機推し「カナタ、路面だけ信じろおお!!」
花ちゃん応援隊「花ちゃん戻ったばかりなのに試練が重すぎる!」
VAB信者「四駆の意地を見せろ!!」
跳ね馬ファン「クリスタの炎でも雪が消えねぇ!!」
実況席心配民「若林の声だけは視界良好で草」
ちとせ推し「窓開けて片手で吹雪出してるの怖すぎる」
吾妻GT視聴中「これレースじゃなくて雪山遭難だろ!!」




