吾妻編第53話 バイパーとウアイラ
エアリ「直線は速いッスけど、頂上付近の細かいコーナーでラインが膨らみすぎてる。このままじゃ上位へ戻るのは厳しいッスね。」
若林「事実上の敗北宣言!!高槻、十二位から意地を見せられるかァァァァ!?」
ヴォアアアアアアッ!!
赤いバイパーがV10を轟かせる。
だが立ち上がりでリアが揺れ、わずかに加速が鈍った。
その瞬間――。
ズォオオオオオオッ!!
黒いウアイラが、風を切り裂きながら背後へ現れる。
若林「コタローが来たアアアア!!!!黒い風神が、赤いドラゴンを再び捉えたァァァァ!!!!」
コタロー「見つけたぞ、高槻。」
コタロー「その乱れたライン……風が全部教えてくれた。」
高槻健永「またお前かよ……ッ!」
高槻健永「上位が無理だなんて、勝手に決めるんじゃねぇ!!」
ギャアアアアアアンッ!!
コタローはバイパーのスリップストリームへ潜り込み、出口で外側へ飛び出す。
エアリ「高槻くんがアクセルを開けすぎて外へ膨らんだッス!」
エアリ「コタローくんはその内側で加速を整えて、風の抵抗が少ない位置から一気に並んだッスね!」
若林「バイパー対ウアイラ!!十一位を懸けた最終盤のサイドバイサイドだアアアア!!!!」
若林「ん!?いや、まさかの光景だアアアア!!!!」
若林「コタローのウアイラが抜き去ると思われたその瞬間、高槻健永が猛烈なレイトブレーキングを仕掛けたァァァァ!!!!」
ギギギギギィィィィッ!!
白煙を噴き上げながら、赤いバイパーがイン側へ突っ込む。
コタロー「ウソだろ!?その速度じゃ曲がれねぇぞ!!」
高槻健永「止まれええええッ!!」
高槻健永「上位が無理だと!?まだ終わってねぇんだよオオオオ!!!!」
バイパーはガードレール寸前まで膨らみながらも、強引に向きを変える。
その巨体がウアイラの鼻先を押さえ、イン側を守り切った。
若林「止まったアアアア!!!!高槻、白煙を上げながら順位を奪い返したァァァァ!!!!」
エアリ「いや、今のは普通じゃないッス!」
エアリ「ブレーキの効き方が明らかに異常ッスよ!高槻くん、何か相当いじってるッスね!」
若林「計算された走りではないのかァァァ!?」
エアリ「計算より執念ッス!」
エアリ「フロントを無理やり路面へ押しつけて、曲がり切れないはずの速度を腕でねじ伏せたッス!」
コタロー「面白い。」
コタロー「風だけじゃ抜けないなら、次は力ずくで行く。」
ヴォオオオオオッ!!
黒いウアイラは再びバイパーの背後へ潜り込み、次の勝負へ備えた。
若林「そしてクリスタアアアア!!!!なんという追い上げだァァァァ!!!!」
ドォォォォォォォンッ!!
ズバババババッ!!
ヴォアアアアアッ!!
ギャアアアアアアンッ!!
赤い488GTSが、カナタの86、サテラのエボ7MR、花のVABを猛烈な加速で次々と飲み込む。
腹切カナタ「……またか。」
サテラ「へぇ……ボクの前を横切るなんて、ずいぶんアグレッシブだね。」
山吹花「……は?なに、その赤いマッチョマシーン。」
山吹花「私の花道を横切らないでくれる……?」
そしてクリスタは、ついに先頭のケイマンGT4へ迫った。
キュアアアアアアッ!!
フェラーリのタイヤが路面へ食いつき、白いポルシェのアウト側へ一気に並ぶ。
フリス「……来たようね。フェラーリ。」
フリス「我の前に。」
クリスタ・ニールセン「オラアアアアッ!!これが跳ね馬の芸術的なパワーよ!!」
クリスタ「我なんて気取ってる小娘に、姉の前を走らせるわけないでしょッ!!」
ドギャアアアアアンッ!!
488GTSが高い過給圧を叩きつけ、ケイマンの横から半車身前へ出る。
フリスは冷静にイン側を守った。
しかしクリスタは、フリスが作り出した冷えた路面を避けるように、わずかに乾いた外側だけを選んで加速していた。
フリス「……ッ。」
クリスタ「その氷、外側までは届いてないわよ!!」
フリス「見破ったわね……姉さん……ッ!!」
若林「姉妹対決だアアアア!!!!姉クリスタが、妹フリスの冷気の範囲を読み切ったァァァァ!!!!」
エアリ「クリスタさん、ただパワーで押しただけじゃないッス!」
エアリ「フリスさんがグリップを作る冷えたラインを避けて、熱の残る路面だけを踏んでるッスよ!」
エアリ「488の強烈な加速を、滑らない場所へ正確に乗せた!これは姉だからこそ、フリスさんの癖を知ってる走りッスね!」
クリスタ「いつまで妹に王者の顔をさせておくと思ったのよ!!」
クリスタ「一位は、このクリスタ・ニールセンがもらうわッ!!」
ボボボボッ!!
488GTSのリアから炎が噴き出し、ついにケイマンの前へ出る。
フリス「姉さん……我を抜いた程度で、勝ったと思わないことね。」
若林「21位から先頭へ!!クリスタが大逆転でトップ浮上だアアアア!!!!」
だが、その背後。
水色のエボ7MRを駆るサテラが、前を争う姉妹のラインを静かに見つめていた。
サテラ「二人とも、前しか見えてないね。」
サテラ「ならボクが、その間をもらおうかな。」
バアアアアアアアンッ!!
若林「サテラもまだ諦めていない!!チェッカーまでは、まだ決着しなあああい!!!!」
サテラ「げ……やっぱり来たよ、馬力番長のフェラーリ。」
水色のエボ7MRから、先頭へ躍り出た488GTSを睨む。
サテラ「ボクに勝てると思ってるわけ……?」
だが、そのすぐ前にはフリスの白いケイマン。
静かな冷気をまとった背中に、サテラは一瞬だけアクセルを緩めた。
サテラ「……今はやめとこ。」
サテラ「前にいるフリス、下手に触ったら絶対おっかないからね。」
その直後、バックミラーへ赤いREVIVE 86が映り込む。
サテラ「カナタも来てる……?」
サテラ「あり得ないだろ。NAから百馬力近く上乗せしたターボ仕様でも、所詮は86だぞ……。」
サテラ「なんでまだ、ボクたちについて来られるんだよ……ッ!」
ヴォアアアアアアッ!!
赤い戦闘機はタイヤを労わりながらも、エボの背後から離れない。
若林「サテラ、無理な仕掛けは避ける構えか!!」
若林「暴れるクリスタと、路面を支配するフリス!!二人の女王が激突する直後で、青いエボ7MRが三位を守りに入ったァァァァ!!!!」
エアリ「サテラくん、前の二台へ近づきすぎないように、ブレーキ地点を少し手前へずらしてるッス!」
エアリ「クリスタさんが強引にラインを変えれば巻き込まれるし、フリスさんの冷えた路面へ乗ればグリップを失うッスからね!」
エアリ「今は旋回速度を少し落としてでも、出口で車体を安定させて三位を守る。かなり現実的な判断ッス!」
白いケイマンの中で、フリスは一度だけ深く息を吐いた。
フリス「落ち着け、我よ。」
フリス「静かな甘い雪のように……心を戻せ。」
しゅうううう……。
荒れていた冷気が、ケイマンの周囲へ薄く整えられていく。
若林「フリスも冷静さを取り戻した!!そしてその後ろでは、サテラとカナタが表彰台を懸けて距離を縮めているゥゥゥ!!!!」
さらに後方。
若林「さあ、肝心のバイパーへウアイラが迫るウウウウ!!!!」
ヴォオオオオオッ!!
ズォオオオオオオッ!!
赤いバイパーと黒いウアイラ。
その前方には、岡田の黒いGR GTと古賀加奈子の赤いM5が接近していた。
若林「十位から十三位までが一つの塊になったァァァァ!!!!」
若林「岡田!古賀!高槻!コタロー!!四台が最終セクションへ雪崩れ込む、巨大な四つ巴バトルだアアアア!!!!」
岡田大成「まとめて来るなら、全員処理する。」
古賀加奈子「後ろで勝手に潰し合ってくれると助かるわ。」
高槻健永「誰が潰れるかよ!!」
コタロー「前の二台ごと抜く。」
ギャアアアアアアンッ!!
ブオオオオオオンッ!!
四台は互いのラインを奪い合いながら、最終区間へ一斉に飛び込んだ。
ギャアアアアアアンッ!!
赤いM5 G90が、2.4トンの巨体でコース中央を塞ぐ。
古賀加奈子「この重さごと壁にしてやる!!十位は渡さないッ!!」
岡田大成「なら、そのロールの隙をもらう。」
黒いGR GTがM5のインへ鼻先を差し込む。
その背後から、高槻のバイパーとコタローのウアイラも一気に迫った。
若林「十位から十三位まで四台が密集!!巨大な鉄の塊となって山頂へ突入するウウウウ!!!!」
そこへ――。
ドギャンッ!!
黄色いスイスポが、ウアイラの真横へ飛び込む。
若林「伊藤が来たアアアア!!!!巨体ばかりの集団へ、軽量コンパクトが割って入ったァァァァ!!!!」
コタロー「伊藤!そこに入ったら曲がれねぇだろ!!」
伊藤「邪魔でも何でも、ここが俺の道だ!!」
エアリ「伊藤くん、ウアイラが向きを変える前にインを塞いだッス!コタローくんのラインを完全に消したッスね!」
若林「M5、GR GT、バイパー、ウアイラ、そしてスイスポ!!五つ巴の大乱戦だアアアア!!!!」
一方、先頭集団。
キィィィィィィッ!!
青いVABが、カナタの86とサテラのエボ7MRの隙間へ突っ込む。
山吹花「ざぁ〜こ♡ 二台まとめて退きなさいッ!!」
若林「山吹花、一気に二台抜き!!フリスのケイマンへ再び迫ったァァァァ!!!!」
しかし、その直後。
先頭を走っていたクリスタの488GTSが、五連ヘアピンで大きくラインを乱す。
ドギャアアアアンッ!!
若林「クリスタが一位から五位へ急降下アアアア!!!!」
クリスタ「誰が五位で終わるもんですかッ!!ぶつけてでも戻るわよ!!」
488GTSが前方へ荒々しく鼻先を振る。
その左右から、ちとせのRZ34とイヨのGRスープラが迫った。
ちとせ「もへ〜……暴れすぎると危ないよぉ。」
イヨ「クリスお姉さん、イヨの重力でぺったんこだよ!」
クリスタ「まとめて来なさいよオオオオ!!!!」
ヴォオオオオオンッ!!
ギュワアアアアアンッ!!
若林「クリスタを挟んで、RZ34とGRスープラが並んだァァァァ!!!!五位から七位まで三台横一線!!ゴールまで残り五十六キロ、まだ何が起きるか分からなあああい!!!!」
次回 山吹花の走馬灯
山吹花「なに、これ……。」
「前が……見えない……ッ。」




