吾妻編第51話 柳津雄介のM4
眞鍋 琉世「なんだあの車!? 音しないのに一瞬で抜かれた!!?? ターボの過給を待ってる間に、もうあんな先に……バケモノかよッ!!」
若林「ブルーシャークとバイエルンの狼!!二台横一線のまま、最終コーナーへ飛び込んだアアアア!!!!」
若林「眞鍋 琉世、驚愕!! 自慢の三菱4WDの立ち上がりを嘲笑うかのような、Xiaomi SU7 Ultraの異次元のトラクションだアアア!! 眞鍋のエボIX、一瞬で置き去りにされたアアアア!!!!」
(シュイィィィィィィィィン……ッ!!!)
眞鍋 琉世「なんだあの車!? 音しないのに一瞬で抜かれた!!?? ターボの過給を待ってる間に、もうあんな先に……バケモノかよッ!!」
若林「眞鍋の悲鳴がバイパスに響くッ!! 三菱が誇るACDの旋回性能をもってしても、3モーターによる完全独立トルクベクタリングの敵ではなかったのかアアア!! 樋口 瀬那、もはやバックミラーの中に眞鍋を閉じ込めたアアア!!」
土湯の険しい峠道を切り裂くタイヤの悲鳴が、周囲の静寂を暴力的に塗り替えていく。
ファイナルラップ、セクター5。先頭集団が差し掛かったのは、このコースでも指折りの急勾配を伴うタイトなヘアピンカーブだった。
そのコーナーのインサイド。本来ならば注意を促すはずの警戒標識の隣に、場違いなほどピンク色に輝く巨大な私設看板が居座っている。
そこには、温泉街の湯煙をイメージしたかのような艶めかしいフォントで、『エチエチパラダイス in 土湯♡』という、ドライバーの集中力を根底から削ぎ落とすような文字が踊っていた。
相川 律「……ブッ!! な、なんだあの看板はアアア!!? 『エチエチパラダイス』だと!? こんな極限状態でなんてもんを見せつけやがるッ!!」
不意に飛び込んできた卑猥な文字列に、スリップマンこと律の動揺がステアリングに伝わる。一瞬、R35の挙動がアウト側に膨らんだ。
樋口 瀬那「……ふん、下品ね。でも、その一瞬の『煩悩』が命取りよ。」
(シュイィィィィィィィィンッ!!!)
相川律「危ない!!!!」
お前がなwww
土湯のヘアピンを抜けた直後。
最後方に沈んでいた「温泉を愛する男」の執念が、アスファルトを震わせた。
ヴォオオオオオンッ!!
ギャアアアアアアンッ!!
柳津のM4 DTM Editionが直列六気筒ターボを解放し、陽太のロードスターと菜園の911 GT3へ一気に迫る。
柳津雄介「このまま終われるかよォォォ!!!!」
柳津雄介「温泉へ入る前に、お前らをまとめて倒すッ!!走りも身体の芯まで冷え冷えにしてやるぜ!!」
若林「柳津が来たアアアア!!!!白いM4が二台の間へ飛び込んだァァァ!!!!」
狭い立ち上がり区間。
陽太がイン側、菜園がアウト側を取る中、柳津はその中央へM4の鼻先を強引に差し込んだ。
ドガッ!!
ギャギャアアアアッ!!
三台のサイドミラーが触れそうな距離で並ぶ。
陽太「速い……ッ!さっきまでの走りと全然違う!!」
菜園宗一郎「ここで来るのか!?まだ加速途中だぞ!!」
柳津雄介「加速途中だから来たんだよ!!二台とも姿勢を整え切れてねぇからなァ!!」
柳津はアクセルを一瞬だけ戻し、M4のノーズを内側へ向ける。
陽太のロードスターが軽さを活かして先に旋回するが、柳津はその外側へ車体を重ね、出口を塞いだ。
一方、菜園のGT3が加速へ移ろうとした瞬間には、M4のリアがその進路へ滑り込む。
若林「柳津、二台のラインを同時に潰したアアアア!!!!ロードスターには出口を与えず、GT3には加速する場所を残さなあああい!!!!」
菜園宗一郎「こいつ……二台を別々に見てるんじゃない!三台まとめて一本のラインとして処理してやがるッ!」
陽太「なら、その中央を最後まで守れるか試してみる!」
オレンジ色のロードスターがさらにインへ潜り込み、GT3も外側から加速を開始する。
柳津雄介「上等だアアアア!!!!」
ヴォアアアアアアアッ!!
三台は横並びのまま、次の短い直線へ飛び出した。
若林「陽太!柳津!菜園!!三台横一線のまま加速するウウウウ!!!!温泉を愛する男が、最後方から一気に牙を剥いたアアアア!!!!」
若林「M4が再びいったアアアア!!!!やはりコーナーの魔術師、柳津雄介は黙っていなかったァァァ!!!!」
白いM4 DTM Editionが三台横並びの中央から一気に飛び出し、陽太のロードスターと菜園の911 GT3をまとめて置き去りにする。
ヴォオオオオオンッ!!
ギャアアアアアアンッ!!
若林「柳津、二台抜き成功!!温泉への執念を爆発させ、再び上位進出への足掛かりを築いたアアアア!!!!」
エアリ「柳津さん、力任せに曲げてないッス!今のステアリング操作、ものすごく滑らかだったッスね!」
エアリ「三台で並んだ時も余計な修正をせず、M4が自然に向きを変える瞬間まで待ったッス!そのぶん出口で早くアクセルを開けられたんスよ!」
陽太「一度も車体を暴れさせず、中央から抜けた……ッ!」
菜園宗一郎「感情的に見えて、操作は恐ろしく冷静だ……!」
その走りの奥には、深夜の柳津家で交わされた約束があった。
静かなガレージで、柳津はM4のボンネットへ手を置いていた。
柳津雄介「ごめんな、カリン。俺だけが予選を通って……お前もあれだけ練習してたのに。」
亜麻色の髪をロングハーフアップに結んだ柳津カリンは、穏やかに首を横へ振った。
柳津カリン「謝らなくていいよ、お兄ちゃん。」
柳津カリン「お兄ちゃんが温泉みたいに熱い走りをしてくれれば、私はそれだけで満足だから。」
その微笑みが、雄介の胸へ消えない火を灯した。
そして現在。
吾妻の冷たい風を切り裂きながら、柳津はアクセルを踏み抜く。
柳津雄介「カリン……お前の分まで、お兄ちゃんは走る!!」
柳津雄介「誰にも、この温泉へ続く道を譲るわけにはいかないんだアアアア!!!!」
ドォォォォォォンッ!!
ギャアアアアアアンッ!!
白いM4はさらに加速し、前方の集団へ向かって猛烈な勢いで突き進んでいった。
若林「コーナーの魔術師が今、魂を燃やす修羅と化したアアアア!!!!」
ガアアアアアンッ!!
ギュワアアアアアンッ!!
柳津のM4 DTM Editionが、相川律のR35 NISMOと樋口瀬那のXiaomi SU7 Ultraの間へ、凄まじいブレーキングで飛び込む。
三台横一線。
柳津はブレーキを残したままM4のノーズを内側へ向け、重量級の二台が旋回へ入る前に中央のラインを奪った。
相川律「またM4かよ……ッ!この狭さで入ってくるのか!!」
樋口瀬那「左右とも塞がれてる……!どこへ逃げればいいの!?」
エアリ「柳津さん、二台が減速を始めるタイミングをずらして使ったッス!」
若林「ずらして使った!?」
エアリ「Xiaomiは重量があるから早めに減速して、R35は四輪駆動で奥まで突っ込んだッス。そのブレーキ位置の差で、二台の間に一瞬だけ空間ができたッスよ!」
エアリ「柳津さんはそこへM4を入れて、ブレーキを残しながら向きを変えたッス!中央を先に押さえたから、左右の二台はアクセルを開けられないッスね!」
ヴォアアアアアアッ!!
M4が出口へ先に飛び出す。
若林「柳津、二台の中央を突破!!魂の雄叫びだアアアア!!!!」
若林「妹カリンとの約束を胸に、M4の性能を限界まで解放!!次なる標的は、前方の相川美保が操る400Rだアアアア!!!!」
ディープマリンブルーの400Rへ、白いM4が猛烈な勢いで迫る。
柳津雄介「BMWの天下はM4だアアアア!!!!」
柳津雄介「ニュルとDTMで鍛えたこの脚を、舐めてもらっちゃ困るぜ!!」
ギャアアアアアアンッ!!
柳津は400Rのブレーキングへ合わせ、イン側へフロントをねじ込む。
相川美保「柳津さん……ッ!そこは通さない!!」
柳津雄介「お前ら日産の伝説は、ここで俺が上書きするッ!!」
若林「白いM4がブルーシャークの懐へ飛び込んだアアアア!!!!コーナーの魔術師、今度は400Rへ牙を剥くゥゥゥ!!!!」
相川美保「M4がここまで来たの……ッ?」
相川美保「さっきから次々と追ってきて、忙しいんだから……ッ!!」
白いM4 DTM Editionが、ディープマリンブルーのR33 GT-R Vスペックへ猛烈に迫る。
相川美保「お兄ちゃん!後ろからM4が来てる!!すごい気迫……車体が左右へ振られるッ!!」
相川律「美保、慌てるな!!R33の四輪駆動と剛性を信じろ!!」
相川律「立ち上がりで四輪へトラクションを掛けろ!温泉野郎に、GT-Rの丸いテールランプを拝ませてやれッ!!」
ギャアアアアアアンッ!!
美保はR33をコーナー中央へ寄せ、柳津が狙うイン側を塞ぐ。
その瞬間、柳津はM4を外側へ振り、速度を残したままR33の横へ並びかけた。
若林「相川兄妹、意地のブロック!!日産のプライドを背負うR33 GT-R Vスペックへ、柳津のM4がアウトから襲いかかるウウウウ!!!!」
相川美保「外から来るの……!?それなら、出口の加速で押し返す!!」
柳津雄介「俺の狙いは入口じゃねぇ!!このまま外側で速度を残し、出口で前へ出るッ!!」
ヴォアアアアアアッ!!
ズバババババッ!!
青いR33と白いM4が、火花を散らしながら最終コーナー直前へ突入する。
若林「ブルーシャークとバイエルンの狼!!二台横一線のまま、最終コーナーへ飛び込んだアアアア!!!!」
エアリ「美保さんはR33のアテーサE-TSを使って、立ち上がりで四輪へ駆動力を配分してるッス!」
エアリ「対する柳津さんは、M4の軽快なフロントと直列六気筒ターボのレスポンスで、外側でも速度を落としてないッスね!」
若林「どちらが有利なのでしょうか!?」
エアリ「出口で車体を早くまっすぐにできれば、美保さんのR33が強いッス!でも柳津さんが外側の広いラインで旋回速度を保てば、M4が前へ出る可能性もあるッスよ!」
相川律「美保!アクセルを開けろ!!そのM4を前へ行かせるなッ!!」
相川美保「分かってる!!このR33は、簡単に抜かれるような車じゃないッ!!」
柳津雄介「日産の伝説か……上等だ!!」
柳津雄介「BMWとDTMの意地で、その壁ごと突破してやるアアアア!!!!」
若林「R33 GT-R Vスペック対M4 DTM Edition!!日産の四輪駆動とBMWの旋回性能が、最終局面で真っ向から激突したァァァァ!!!!」
柳津雄介「俺のM4は、イタルデザインの古き伝統を受け継ぐ一台だ。」
柳津雄介「ドイツの剛健さと、イタリアの美学。その価値を……お前たちの『R』に汚させるつもりはない。」
声を荒らげることなく、柳津は前方だけを見据える。
その直後、美保のR33 GT-R Vスペックがアウト側へわずかな空間を残した。
柳津雄介「……そこか。」
キィィィィィィィンッ!!
ヴォアアアアアアッ!!
柳津は弾丸のようにM4を外側へ振り出し、R33の横へ一気に飛び込んだ。
しかし――。
柳津雄介「……ん?」
ギャアアアアアアンッ!!
グォオオオオオオンッ!!
美保のR33も同時に加速する。
青いGT-Rは四輪へ強烈なトラクションを掛け、M4を外側へ押し返すように並走した。
夕映えを反射するM4のボディが、彫刻のような輪郭で吾妻の空気を切り裂く。
そのすぐ隣では、R33の重厚な車体が路面へ張りつき、一歩も譲らない。
相川美保「私とお兄ちゃんのRはね……ッ!!」
相川美保「誰かの美学を汚すために走ってるんじゃない!!私たちの誇りを守るために走ってるのッ!!」
若林「美保が押し返したアアアア!!!!M4のアウト側奇襲に対し、R33 GT-R Vスペックが四輪駆動の加速で真っ向から応戦だァァァァ!!!!」
二台はまだ最終コーナーには届いていない。
その手前に続く高速コーナーで、M4は外側、R33は内側を維持したままサイドバイサイドを続ける。
エアリ「美保さん、柳津さんが外へ動いた瞬間にアクセルを開けたッス!」
エアリ「R33は立ち上がりで四輪へ駆動力を掛けられるから、多少ラインが窮屈でも車体を前へ押し出せるッスね!」
若林「では柳津は不利なのかァァァ!?」
エアリ「いえ!柳津さんは外側の広いラインを使って、速度を落とさず次の切り返しへ入ろうとしてるッス!」
エアリ「今はR33が加速で耐えてるッスけど、次のコーナーでM4が旋回速度を残せば、また前後が入れ替わるッスよ!」
柳津雄介「いい加速だ。」
柳津は表情を変えず、ステアリングをわずかに切り足す。
柳津雄介「だが、まだ終わっていない。」
ギャアアアアアアンッ!!
若林「孤高のコーナーマイスター、柳津雄介!!冷静なままR33の横を離れない!!二台は次なる高速コーナーへ、並んだまま突入するウウウウ!!!!」
温泉レーサー「ヤイーダいけええ!!!」
青鮫推し「美保ちゃん負けるなああ!!」
M4信者「“……そこか”カッコよすぎる!」
R33魂「GT-Rの意地を見せろおお!!」
吾妻実況民「まだ最終コーナーじゃないの!?」
直6サウンド狂「M4の音えぐすぎる!!」




