吾妻編第50話 吾妻GT!包囲戦!!!
若林「アアッ……赤い戦闘機だアアアアアアア!!
いつの間にか、こんなところまで這い上がってきていたァァァ!!!!」
若林「腹切カナタのREVIVE 86が、獣神ちとせのRZ34、その懐へ飛び込んだアアアア!!!!」
ギャアアアアアアンッ!!
バシュウウウウンッ!!
運営の指示を受け、ちとせが減速した一瞬。
カナタは迷わず86を右車線へ振り、RZ34の横へ並びかけた。
舞台はR115荒井バイパス。片側二車線の高架区間だが、中央には冷たい鉄格子が連なり、二台が使える幅はほとんど残されていない。
ちとせ「もへ〜……みんな、おじさんが減速したところばっかり狙うんだねぇ……。」
虚空を見つめていたブルーグレーの瞳が、真横から迫る赤い86の熱気を捉える。
ちとせ「……カナタくんまで来たのぉ?」
若林「ここは狭ああああい!!鉄格子とRZ34の間、わずか一台分!!行けるのかカナタアアアア!!!!」
エアリ「……ッ!」
中継席のエアリも余計な言葉を挟まず、モニターへ身を乗り出した。
シャコンッ!!
ヴォアアアアアアアッ!!
86ターボがギアを叩き上げ、RZ34の太い加速へ食らいつく。
ちとせもアクセルを踏み直した。
ドゴオオオオオオンッ!!
銀色のZと赤い86が、鉄格子すれすれのまま超高速ベントへ突入する。
若林「横一線!!どちらも引かなあああい!!!!」
腹切カナタ「ここで前に出る……ッ!」
ちとせ「簡単には通さないよぉ……。」
RZ34の冷気が86のフロントへ触れる。
しかしカナタはステアリングを一度も揺らさず、鉄格子側へ残された細い直線ラインを踏み抜いた。
ギャギャアアアアッ!!
ミラーが鉄格子を掠め、火花が赤いボディの横を走る。
若林「いったアアアアアアア!!!!オーバーテイクだアアアアアアア!!!!」
バシュウウウウンッ!!
86が半車身、そして一台分前へ。
カナタはRZ34の鼻先を完全に封じ、四位へ浮上した。
若林「赤い戦闘機、腹切カナタ!!鉄格子との間で火花を散らしながら、獣神を抜き去ったアアアア!!!!」
エアリ「今のカナタくん、加速だけで勝ったんじゃないッス!」
若林「では、何が決め手だったのでしょうか!?」
エアリ「ちとせさんは運営の指示で一度アクセルを戻して、走行ラインも外側へ寄せたッス。そのせいで、RZ34がもう一度加速へ入るまでに一瞬だけ間ができたッスよ!」
エアリ「カナタくんは、その間に86を完全に横へ並べたッス!」
エアリ「並んだ後は鉄格子側の狭いラインを使って、ステアリングをほとんど切らずに速度を残したッスね。RZ34はベントへ合わせて少し向きを変える必要があった。その差で86が前へ出たッス!」
若林「冷気へ対抗したのではなく、加速とラインのつながりで上回ったと!?」
エアリ「そうッス!ちとせさんが冷気を広げる前に、カナタくんが前へ出て走行ラインを塞いだッス!」
エアリ「それに86は軽いから、狭い場所でも姿勢修正が小さくて済むッス。今のはカナタくんが一瞬の減速、車幅、ベントの曲率を全部まとめて読んだオーバーテイクッスよ!」
ちとせ「あは……抜かれちゃった。」
ちとせは冷たい微笑を浮かべながら、前へ出た86を見つめる。
ちとせ「カナタくん、やっぱりタチが悪いねぇ……。でも、その熱さは嫌いじゃないよぉ。」
腹切カナタ「……まだ四位だ。」
赤い86の前方には、水色のエボ7MR。
さらに白いケイマンGT4と、先頭を走るスバルブルーのWRX STIが見える。
若林「腹切カナタ、ついに四位!!表彰台まであと一台!!」
若林「前方にはサテラ、フリス、そして山吹花!!ファイナルラップのセクター3、赤い戦闘機がトップ争いへ殴り込んできたアアアア!!!!」
エアリ「これで先頭集団の並びが大きく変わったッス!」
エアリ「カナタくんは高速区間でFL5を抜き、狭いベントではRZ34まで仕留めたッス。今の86は、区間ごとに違う抜き方を使えてるッスよ!」
エアリ「次のサテラくんは四輪駆動の立ち上がりが強いッス。カナタくんが同じやり方で簡単に抜ける相手じゃないッスね!」
若林「赤い86の快進撃は、どこまで続くのかアアアア!!!!」
若林「そして先頭!!青い戦闘機・山吹花が、ついに沈黙を破ったアアアア!!!!迷いを振り切ったWRXが、吾妻の路面へ再び爪を立てるゥゥゥ!!!!」
ギャアアアアアアンッ!!
ズバババババッ!!
山吹花「お待たせ。ここからが本当の勝負よ……ッ!」
山吹花「ざぁ〜こ♡ あの86もポルシェも、私には追いつけないって教えてあげるわ!!」
WRX STIの回転数が跳ね上がる。花は四輪の駆動力を余さず路面へ伝え、連続コーナーを最小限の減速でつないでいく。
フリス「……ッ!?さっきまでと立ち上がりが違う……!」
白いケイマンGT4との間隔が、コーナーを一つ抜けるたびに広がっていった。
若林「山吹花が引き離す!!コンマ五秒、さらに一秒!!独走態勢へ入り始めたアアアア!!!!」
エアリ「花さん、アクセルを早く開けるだけじゃなく、コーナー入口で車体の向きをほとんど完成させてるッス!」
エアリ「だから旋回中の修正が少なく、出口では四輪全部を加速へ使えるッスね!今まで迷いで遅れていた操作が、全部一つにつながった走りッス!」
その花から、後方の高槻へ無線が飛ぶ。
山吹花「何してるの、私の高槻くん♡ そんなところで遊んでたら、女王の隣には来られないわよ?」
山吹花「ざぁ〜こ♡ 早く追いついてきなさいッ!」
高槻健永「言ってくれるじゃねぇか……ッ!待ってろ花!!」
ギャギャギャアアアンッ!!
赤いバイパーが、コタローのウアイラのスリップストリームへ強引に飛び込む。
コタロー「また来やがったか、高槻ッ!」
高槻健永「その黒い風神を抜いて、今すぐ花のところへ行くんだよォォォ!!」
若林「花の挑発で赤いドラゴンが再点火!!高槻がウアイラへ再び襲いかかったアアアア!!!!」
エアリ「高槻くん、ウアイラと正面から最高速勝負をするんじゃなく、後ろへ入って空気抵抗を減らしたッス!」
エアリ「次のブレーキングまで離されずにいれば、バイパーの大排気量トルクで仕掛け直せるッスよ!」
さらに終盤のダウンヒルでは、プリズムホワイトのGRスープラが前方の三台へ迫っていた。
イヨ「えっへん☆ 岡田お兄ちゃんも、古賀さんも、セリナさんも……イヨに道を譲ってね!」
イヨ「譲ってくれないなら、少しだけ重くしちゃうよぉ!!」
ドォォォォォンッ!!
ピンク色の重力波が広がり、岡田のGR GT、古賀のM5、セリナのR8の動きが一斉に鈍る。
岡田大成「計算より減速が大きい……!?車体が路面へ押しつけられているのかッ!」
古賀加奈子「これは厄介ね。アクセルを踏んでも、車体が前へ出ないわ……!」
内藤セリナ「また変なの来たああああ!!胃が痛くなるでしょおおおお!!!!」
イヨ「今だよッ!」
ギュワアアアアアンッ!!
イヨは三台の速度が落ちた瞬間にスープラを外側へ振り、そのまま一気に前へ抜け出した。
若林「三台まとめて抜いたアアアア!!!!イヨ、十位から一気に七位へ浮上だアアアア!!!!」
エアリ「イヨさん、自分のスープラだけを速くしたんじゃないッス!前の三台へ重力を集中させて、旋回と立ち上がりを遅らせたッスよ!」
エアリ「その間に自分の車体へかかる力を調整して、外側の広いラインから速度を残して抜き切ったッスね!」
イヨ「普段は押し入れでパソコンをカタカタしたり、お菓子を食べたりしてるけど……レースでは負けないもん!」
イヨ「吾妻GTも、イヨが絶対にクリアするゲームだよッ!」
その前方には、柊の白いFL5。
柊蒼真「嘘だろ……!?さっきまで後ろにいたスープラが、もうここまで来たのか!!」
イヨ「蒼真お兄ちゃん、そこはイヨの通り道だよぉ!」
イヨ「グラビティ・バーストォォォ!!!!」
ドゴオオオオオンッ!!
FL5の動きが一瞬だけ沈む。
イヨはその外側へスープラを並べ、強烈な重力による接地力を使ってコーナーを高速で回り込んだ。
柊蒼真「外からだと……ッ!?」
若林「イヨがFL5を捲り切ったアアアア!!!!七位から六位へ浮上!!獣神ちとせの背後まで迫ったァァァ!!!!」
エアリ「イヨさん、FL5の進路を直接塞がず、アウト側へ自分のグリップを増やして速度差を作ったッス!」
エアリ「柊くんは内側の小さなラインで減速が必要だった。そこを外側から大きく回り、立ち上がり速度で抜いたオーバーテイクッスよ!」
若林「先頭では覚醒した山吹花!!中団では高槻がウアイラへ反撃!!さらにイヨが重力で一気に六位へ!!」
若林「吾妻GT終盤、全グループで順位が激しく動き始めたアアアア!!!!」
若林「全2周のサバイバルも勝負の後半戦もいよいよ大詰めだああああ!!!」
ちとせ「カナタく〜ん……今、行くからねぇ?」
腹切カナタ「……ッ!!」
次の瞬間だった。
ゴォォォォォォォッ!!
吹雪のオーラを纏ったRZ34が、赤い86の横へ一気に並ぶ。
ちとせは先ほどまでの減速が嘘だったかのように、太いトルクを解放。銀色の車体がカナタの視界を覆い、そのまま前方へ滑り込んだ。
若林「ああ……Zアアアアアアア!!!!」
若林「ちとせのRZ34が、一瞬で赤い戦闘機の前へ出たァァァァ!!!!」
ギャアアアアアアンッ!!
ヴォオオオオオオッ!!
86ターボもすぐに加速するが、RZ34はコーナー出口でさらに速度を伸ばしていく。
腹切カナタ「速い……ッ!」
ちとせ「もへ〜……さっきは運営さんに止められただけだからねぇ。」
ちとせ「今度は、おじさんの力で抜き返したよぉ。」
若林「ちとせ、四位を奪還!!獣神の反撃が早すぎるウウウウ!!!!」
エアリ「ちとせさん、カナタくんが前へ出た直後から、86の加速位置をずっと見てたッス!」
エアリ「カナタくんは狭いベントでラインを優先した分、次の立ち上がりで少しだけ速度が伸び切らなかったッスね!」
エアリ「そこへRZ34の大きなトルクを一気にぶつけて、外側の広いラインから加速したッス!」
腹切カナタ「……まだだ。」
ちとせ「うん。まだ終わってないよぉ。」
銀色のRZ34が再び四位。
赤い86はその直後へ食らいつき、獣神の背後を離れなかった。
若林「バックストレート突入!!赤い戦闘機、一気にZから切り離されるウウウウ!!!!」
ドゴオオオオオオッ!!
RZ34が太いトルクを解放し、吹雪を引きずりながら一気に加速する。
その後方で、カナタのREVIVE 86もターボを唸らせるが、直線が伸びるほど二台の差は目に見えて広がっていった。
シャコンッ!!
ヴォアアアアアアッ!!
腹切カナタ「……くッ!」
ちとせ「もへ〜……直線なら、おじさんのZもまだまだ速いよぉ。」
若林「RZ34の加速が止まらない!!86ターボも全開だが、パワーとトルクの差が露骨に出てしまったアアアア!!!!」
エアリ「ここは完全にちとせさんの区間ッス!」
エアリ「カナタくんの86は軽さと速度コントロールでコーナーでは戦えるッス。でも長い直線では、RZ34の排気量と太いトルクを受け止めきれないッスね!」
若林「先ほど抜いた相手に、今度は純粋な加速で引き離されていくゥゥゥ!!」
エアリ「カナタくんがもう一度前へ出るなら、次の減速区間まで差を広げられすぎないことが重要ッス!」
エアリ「直線では耐えて、ブレーキングと旋回で取り返す。その勝負へ切り替えるしかないッスよ!」
腹切カナタ「……分かってる。」
赤い86は離されながらも、アクセルを一度も戻さない。
銀色のRZ34のテールランプを、カナタは真っすぐ見据えていた。
腹切カナタ「直線で勝てないなら……次で追いつく。」
若林「獣神ちとせが再び差を作る!!だが赤い戦闘機も諦めない!!次のフルブレーキングへ向けて、反撃の機会を狙っているゥゥゥ!!!!」
若林「いや……もう見えない!!RZ34が、赤い86の視界から消えるほど遠くへ行ってしまうウウウウ!!!!」
ドゴオオオオオオオッ!!
ちとせのRZ34は吹雪の尾を引きながら、バックストレートの彼方へ消えていく。
腹切カナタ「……ッ。」
カナタはアクセルを踏み切っている。
それでも、銀色のZとの距離は縮まらない。
若林「これは厳しい!!コーナーで食らいついたREVIVE 86も、純粋な直線加速では完全に置き去りだアアアア!!!!」
エアリ「ここまで差が開くと、次のブレーキングだけで全部を取り返すのは難しいッス!」
エアリ「カナタくんはまず、前方の走行ラインとブレーキランプをもう一度視界へ戻さないといけないッスね!」
若林「獣神ちとせ、圧倒的な最高速!!四位を奪い返しただけではない!!赤い戦闘機との勝負そのものを、一度完全に断ち切ったアアアア!!!!」
腹切カナタ「……直線じゃ、話にならないか。」
赤い86の前には、もはやRZ34の姿すらない。
それでもカナタはシフトを叩き上げ、次の減速区間へ向けて走り続けた。
腹切カナタ「だったら……また見えるところまで追うだけだ。」
ドゴオオオオオオオッ!!
銀色のRZ34は、バックストレートを吹雪の尾とともに貫いていく。
ちとせ「もへ〜……カナタくん、見えなくなっちゃったねぇ。」
ブルーグレーの瞳が、バックミラーに映る小さな赤い光を静かに捉える。
先ほど自分を抜いたREVIVE 86は、今や遥か後方。
ちとせ「狭いところでは上手だったけど……真っすぐ走るなら、おじさんのZの方が速いよぉ。」
シャコンッ!!
ギャオオオオオオオンッ!!
ちとせは迷いなくシフトを叩き上げ、RZ34のトルクをさらに解放する。
吹雪のオーラが車体の後方へ引き伸ばされ、周囲の空気を白く切り裂いていった。
ちとせ「でも、カナタくんは諦めないんだろうなぁ……。」
ちとせ「見えなくなっても、また後ろまで来る。そういうところ……ちょっと怖いねぇ。」
その声は穏やかだった。
しかし、口元には獲物の執念を楽しむような、冷たい笑みが浮かんでいる。
ちとせ「だから今のうちに、もっと遠くへ行こうかなぁ。」
前方には、サテラのエボ7MR。
さらにその先には、フリスのケイマンGT4と、先頭を逃げる山吹花のWRX STIが見えていた。
ちとせ「サテラくんも、フリスも……花ちゃんも。」
ちとせ「おじさんを置いていったまま、終われると思わないでねぇ?」
ゴォォォォォォォッ!!
RZ34の周囲へ、再び濃い冷気が集まり始める。
だが先ほどのようにコース全体を覆うことはない。
ちとせは冷気を車体の周囲だけへ圧縮し、空気抵抗を切り裂くように速度へ変えていく。
ちとせ「運営さんに怒られないように……今度はちゃんと、走りだけで追いつこうねぇ。」
銀色のZは四位のまま、サテラの水色のエボへ急速に距離を詰め始めた。
若林「REVIVE 86がRZ34に追いつけない!!腹切カナタ、ついに表彰台争いから脱落かアアアア!?!?」
赤い86はなおも全開でバックストレートを駆け抜ける。
しかし前方に、ちとせの銀色のZはもう見えない。
腹切カナタ「……ッ。」
若林「四位ちとせとの差が一気に拡大!!このままではサテラ、フリス、山吹花どころか、RZ34へ再接近することすらできなあああい!!!!」
エアリ「ここは厳しいッスね……!直線だけで取り返せる差じゃないッス!」
エアリ「カナタくんの86はコーナーで速さを作るタイプッス。でも今は、次のテクニカル区間へ入る前に差を開かれすぎてるッスよ!」
若林「では、本当に表彰台争いは終わったのか!?」
エアリ「まだ完全に終わったとは言えないッス!」
エアリ「前の三台が争って速度を落とすか、ちとせさんがサテラくんへ仕掛けてラインを乱せば、カナタくんにも追いつく時間が生まれるッス!」
エアリ「ただ、自力だけで追い戻すにはかなり苦しいッスね。今のカナタくんは、前方の混戦が起きることまで計算に入れて走るしかないッス!」
腹切カナタ「……誰かが崩れるのを待つつもりはない。」
シャコンッ!!
ヴォアアアアアアアッ!!
腹切カナタ「次のコーナーで、また差を削る。」
若林「赤い戦闘機はまだ諦めない!!だが前方は遥か彼方!!腹切カナタ、表彰台へ残された道は極めて細いぞオオオオ!!!!」
ちとせ「削らせないよ、カナタくん……。」
銀色のRZ34はバックストレートの先でさらに加速し、前方のサテラたちへ狙いを定める。
ちとせ「おじさんが、この先にいるフリスちゃんたちをまとめてぶち抜いて……そのまま勝っちゃうんだよね〜。」
ブルーグレーの瞳が細まり、穏やかな笑みの奥に獣神の闘志が宿る。
シャコンッ!!
ギャオオオオオオオンッ!!
RZ34のギアが入り、太いトルクが一気に路面へ叩きつけられた。
ちとせ「カナタくんは、後ろで一生懸命追いかけてきてねぇ。」
ちとせ「でも、おじさんの背中は……もう簡単には見せてあげないよぉ。」
前方には水色のエボ7MR。
そのさらに先には、白いケイマンGT4と、先頭を走る青いWRX STI。
ちとせ「サテラくん、フリスちゃん、花ちゃん……。」
ちとせ「みんなまとめて、おじさんが追いつくから待っててねぇ。」
ゴォォォォォォォッ!!
銀色のZは冷気をまといながら、次のブレーキング区間へ向けてさらに速度を上げていった。
そこに――インから!!!
ごおおおおおおおッ!!!!
若林「うわああああ!!赤い戦闘機だアアアア!!!!なんなんだああああ!?!?」
ちとせ「……へ?」
銀色のRZ34が次の右コーナーへ進入した、その瞬間。
遥か後方へ消えたはずのREVIVE 86が、イン側の側溝へ右タイヤを落としながら、一気に姿を現した。
ガコンッ!!
ギャアアアアアアッ!!
腹切カナタ「ここしかない……ッ!!」
86の内側タイヤが溝へ食い込み、車体が強引にコーナー内側へ引き寄せられる。
外へ膨らもうとする遠心力を、側溝の段差が物理的に押さえ込む。
若林「溝落としだアアアア!!!!赤い86、側溝へタイヤを落として旋回半径を無理やり縮めたァァァァ!!!!」
ちとせ「カナタくん……いつの間に追いついたのぉ!?」
腹切カナタ「直線で見えなくなっても……コーナーは逃げない。」
シャコンッ!!
ヴォアアアアアアッ!!
86ターボが溝から飛び出し、RZ34のイン側へ鼻先を差し込む。
若林「並んだアアアア!!!!一度は表彰台争いから消えた赤い戦闘機が、獣神の懐へ再び戻ってきたァァァァ!!!!」
エアリ「カナタくん、直線で追いついたんじゃないッス!」
エアリ「ちとせさんが次のコーナーへ向けて減速する場所まで、ブレーキを遅らせて一気に差を詰めたッスよ!」
エアリ「さらに側溝へ内輪を落として、普通なら使えない小さな旋回半径を作ったッス!そのぶん速度を残したまま、RZ34のインへ入れたんスね!」
ちとせ「もへぇ……そこを走るの、ずるくない?」
腹切カナタ「道の中だ。」
ちとせ「側溝だよぉ。」
腹切カナタ「使えるなら、道だ。」
若林「赤い戦闘機、再びちとせと横一線!!腹切カナタ、執念の溝落としで四位争いへ復帰だアアアア!!!!」
ちとせ「運営さ〜ん……カナタくんのこれって、反則だよねぇ?ルール違反だよねぇ?」
運営「確認します!腹切カナタ選手、右側タイヤを側溝へ落としていますが……車体はコース内です!」
ちとせ「もへぇ……側溝なのにぃ?」
運営「現時点ではコースアウト判定なし!オーバーテイクは有効です!!」
ちとせ「ええ〜……。」
腹切カナタ「聞いたか。反則じゃない。」
ちとせ「カナタくん、そういうところだけ急に元気だねぇ……。」
ガコンッ!!
86が側溝から跳ね上がり、RZ34のイン側へさらに車体をねじ込む。
若林「運営、溝落としを有効と判定!!赤い戦闘機の奇襲は止められなあああい!!!!」
ちとせ「じゃあ、おじさんも使っていいってことだよねぇ?」
運営「ちとせさんは冷気による路面改変を禁止します!!」
ちとせ「まだ何もしてないよぉ……。」
腹切カナタ「考えてた顔だった。」
ちとせ「もへ〜……バレちゃったぁ。」
エアリ「やっぱりZには、溝落としを使わないと勝てなかったッスね……ッ!」
若林「それほどまでに、RZ34の直線加速が圧倒的だったということかアアアア!?」
エアリ「はいッス!普通のラインで追いかけても、カナタくんの86はちとせさんのZに加速で置いていかれるッス!」
エアリ「だから今回は、ブレーキングを遅らせて差を詰めて、さらに側溝で旋回半径を小さくしたッス!」
エアリ「つまり、速さで上回ったんじゃなくて、Zが使えない場所を86だけが使ったんスよ!」
ちとせ「もへぇ……やっぱり普通に走ったら、おじさんの勝ちだったんだねぇ。」
腹切カナタ「……普通に走って勝てないなら、普通じゃない道を使う。」
エアリ「それがカナタくんの強さッスね!マシン性能で負けても、コースの使い方まで同じにする必要はないッス!」
若林「腹切カナタ!!RZ34へ真正面から挑まず、溝落としという異次元のラインで再び並んだアアアア!!!!」
ちとせ「カナタく〜ん……普通に走った方がいいんじゃな〜い?のんびりしてていいよ〜ん♪」
腹切カナタ「……悔やまれますよ、ちとせさん。」
ちとせ「もへ?」
腹切カナタ「普通に走っていたら、俺はもうあなたの後ろにいなかった。」
ガコンッ!!
側溝へ落としたタイヤが段差を捉え、赤い86の車体をさらにイン側へ引き込む。
ヴォアアアアアアッ!!
ちとせ「……ッ!」
腹切カナタ「俺に普通を勧めたこと……すぐに悔やむことになります。」
若林「カナタ、静かに宣戦布告だアアアア!!!!赤い戦闘機が、溝の中からさらに前へ出ようとしているゥゥゥ!!!!」
ちとせ「もへ〜……怖いこと言うねぇ。」
ちとせは笑っていた。
だが、そのブルーグレーの瞳は完全にカナタを捉え、RZ34のアクセルを再び深く踏み込む。
ちとせ「じゃあ、おじさんも……のんびりするの、やめようかなぁ。」
ドゴオオオオオオンッ!!
銀色のZと赤い86が、コーナー出口へ横一線で飛び出した。
腹切カナタ「いや、気持ちはのんびりでもいいんだよ……。」
ちとせ「……もへ?」
腹切カナタ「その中にある……魂さ。」
カナタは前だけを見たまま、赤い86のアクセルをさらに踏み込む。
腹切カナタ「ゆっくりしてても、迷っててもいい。」
腹切カナタ「でも最後に前へ出る時だけは、自分の魂を信じる。」
ガコンッ!!
側溝から86が跳ね上がり、RZ34の横へ完全に並ぶ。
ちとせ「……カナタくん、意外と熱いこと言うんだねぇ。」
腹切カナタ「今さらですか。」
ちとせ「もへ〜……おじさん、そういうの嫌いじゃないよぉ。」
ドゴオオオオオオンッ!!
銀色のZと赤い86が、互いに一歩も譲らずコーナー出口へ飛び出した。




