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86伝説エーペックス  作者: SAI
吾妻GT編
PR
509/534

吾妻編第49話 土湯温泉

若林「エアリさん!大変なことになってきました!!なぜ前を走っていたR8へ、あの重量級M5がここまで迫れたのでしょうか!?」


エアリ「一番大きいのは、古賀さんがR8の速い場所では勝負してないことッス!」


若林「速い場所を避けた!?」


エアリ「はいッス!セリナさんのR8は、自然吸気V10のレスポンスと四輪駆動のトラクションが強いッス。コーナー出口から高速域へ入った時の加速なら、M5を引き離せるッスよ!」


黄色いR8が甲高いV10サウンドを響かせ、短い直線で赤いM5との距離を広げる。


ヴァアアアアアアッ!!


内藤セリナ「ほらァ!!デカくて重いだけじゃ、私のR8には追いつけないんだからねッ!!」


エアリ「でも古賀さんは、直線で無理に追いつこうとしてないッス。R8が次のコーナーで減速する瞬間まで、距離を保って待ってるッスね!」


若林「ブレーキングで一気に縮めるというのか!?」


エアリ「そうッス!M5は強力なブレーキと電子制御で、重い車体を安定したまま減速できるッス。古賀さんはセリナさんよりブレーキを遅らせて、進入のたびに差を削ってるッスよ!」


リプレイでは、直線で離されたM5がブレーキング区間へ入ると、R8のリアバンパーへ一気に迫っていた。


エアリ「それにセリナさん、後ろを気にして少しずつラインが乱れてるッス。コーナー入口を守ろうとして、本来の滑らかなラインを使えてないッスね!」


若林「古賀の圧力が、R8の速さを封じ始めているゥゥゥ!!!!」


エアリ「ただ、R8の強みはまだかなり大きいッス!」


エアリ「ミッドシップに近い重量配分で向きを変えやすく、低い重心で高速コーナーでも安定するッス。それに四輪駆動だから、旋回後すぐアクセルを開けても四輪で路面を蹴れるッスよ!」


若林「つまり、コーナーを抜けた後の加速が強烈だと!!」


エアリ「はいッス!セリナさんが落ち着いて出口重視のラインへ戻れば、R8のV10とトラクションでまた差を広げられるッス!」


エアリ「古賀さんは進入とブレーキング、セリナさんは旋回から立ち上がり。二人が違う区間で強みを出してるから、近づいては離れる攻防になってるッスね!」


内藤セリナ「そういうことなら……出口で全部置き去りにしてやるわよォ!!」


古賀加奈子「いいわね。その速さを、次のブレーキングまで維持できるか見せてもらうわ。」


若林「進入で襲う赤いM5!!出口で逃げる黄色いR8!!重量級セダンとV10スーパーカーの攻防が、さらに激しくなっていくウウウウ!!!!」


若林「まさか……今ずっと柊蒼真の白いFL5へ張り付いている、腹切カナタの赤い戦闘機も同じタイプなのでしょうか!?」


エアリ「似てるッスけど、カナタくんの狙いは少し違うッス!」


若林「違う!?」


エアリ「古賀さんは、自分が強いブレーキング区間まで待って仕掛けてるッス。でもカナタくんは、柊くんの速い場所も遅い場所も全部追い続けてるッスね!」


エアリ「FL5は前輪のグリップが強くて、低速から中速コーナーの立ち上がりも速いッス!柊くんが隙を見せない限り、86が普通に横へ並ぶのはかなり難しいッスよ!」


若林「それでも距離が開かないのはなぜだアアアア!?」


エアリ「カナタくんはFL5の真後ろへ入り、空気抵抗を減らしながらアクセル量を合わせてるッス!」


エアリ「ブレーキングでも無理に前へ出ず、柊くんがタイヤを使って守るたびに、自分だけ少し余力を残してるッスよ!」


ギャアアアアアアッ!!!!


白いFL5が高速コーナーへ飛び込み、その直後を赤い86が寸分違わぬラインで追う。


柊蒼真「……まだ仕掛けないんだな。」


柊はバックミラーの中から消えない赤い戦闘機へ、鋭い視線を送った。


柊蒼真「ここで抜けなきゃ……カナタ、お前はどのセクターでも俺のFL5を抜けないってワケだ……ッ!」


柊蒼真「その答えを見せてやってくれ……ッ!!」


腹切カナタ「……答えなら、もう見えてる。」


柊蒼真「なに……ッ?」


腹切カナタ「お前は全部のコーナーで、俺を警戒して走ってる。」


腹切カナタ「だったら、今抜く必要はない。」


若林「カナタ、またしても仕掛けない!!しかしFL5のリアから一切離れなあああい!!!!」


エアリ「カナタくん、柊くんに守らせ続けるつもりッス!」


エアリ「FL5は速いッスけど、前輪で曲がって前輪で加速するFF車ッス。毎回インを閉じて無理に立ち上がれば、フロントタイヤへの負担がどんどん増えるッスよ!」


若林「タイヤが厳しくなる瞬間を待っていると!?」


エアリ「そうッス!カナタくんの86は後輪駆動だから、前輪は主に向きを変える仕事へ集中できるッス!」


エアリ「柊くんが前輪を使い切るまで張り付き続けて、最後にFL5が曲がれなくなる場所を狙うつもりッスね!」


柊蒼真「俺のタイヤが先に終わると思ってるのか……!」


腹切カナタ「思ってない。」


腹切カナタ「終わらせるんだよ。俺が後ろから。」


白いFL5が加速する。


赤い86も、まるで影のようにその背後へ食らいついた。


若林「順位は変わらない!!だが柊の前輪と集中力が、確実に削られていくウウウウ!!!!」


エアリ「これはオーバーテイク前の準備ッス!カナタくん、抜く瞬間だけじゃなく、その瞬間を作るところからレースを組み立ててるッスよ!」


柊蒼真「俺を終わらせる……ッ?どういうことなんだ一体……ッ?」


白いFL5を揺らしながら、柊はバックミラーの赤い86を睨みつける。


柊蒼真「いよいよ、言ってる意味が言葉じゃなくなってきたな。」


腹切カナタ「分からなくていい。」


ギャアアアアアアッ!!


次の右コーナーでも、柊はインを完全に閉ざす。


その直後を、カナタは一切仕掛けず、数十センチの距離でなぞるように通過した。


腹切カナタ「お前が俺を意識して、毎回同じ守り方をする。」


腹切カナタ「その時点で、もう走りは自由じゃない。」


柊蒼真「……ッ!」


若林「カナタの言葉が柊へ突き刺さったアアアア!!!!抜いていない!!だが、すでにFL5のラインを支配し始めているゥゥゥ!!!!」


エアリ「柊くん、今はコースじゃなくてカナタくんを見ながら走ってるッス!」


エアリ「本来なら出口を広く使える場所でも、インを閉じるために小さく曲がってるッスね。そのぶん速度が落ちて、前輪にも負担がかかるッスよ!」


柊蒼真「なら来いよ、カナタ!!いつまで後ろで偉そうにしてるつもりだ!!」


腹切カナタ「まだだ。」


柊蒼真「またそれかよ……ッ!」


腹切カナタ「お前が自分から道を空けるまで、待つ。」


白いFL5と赤い86は、順位を変えないまま次の連続コーナーへ飛び込んでいった。


若林「しかし、抜け切らないッ!!赤い86は白いFL5の横へすら出られないィィィ!!!!」


若林「やはりニュルブルクリンク最速級のFFマシンは格上なのかアアアア!?!?」


白いFL5が連続コーナーを鋭く切り返し、その背後をカナタの86が追う。


距離は縮まっている。


だが、順位は変わらない。


エアリ「ここで抜けなければ、今の区間では86の方が遅いってことになるッス!」


若林「やはり、マシン性能の差が出ていると!?」


エアリ「はいッス!カナタくんはずっと柊くんへ圧力をかけてるッスけど、FL5は前輪のグリップと高速旋回の安定性がかなり高いッス!」


エアリ「柊くんがミスをせず、理想に近いラインを守り続ける限り、86が後ろから追いつくだけでは前に出られないッスよ!」


柊蒼真「ほらな、カナタ……ッ!張り付くだけじゃ俺は抜けない!!」


ギャアアアアアアッ!!


柊はアクセルを早く開け、FL5をコーナー出口へ一気に押し出す。


カナタも追うが、赤い86のノーズは白いリアバンパーの後ろに残った。


エアリ「86は後輪駆動で、出口の加速へきれいにつなげられるッス。でもFL5も、電子制御と前輪のトラクションで驚くほど早くアクセルを開けられるッスね!」


若林「それではカナタに勝ち目はないのか!?」


エアリ「このまま同じラインで追うだけなら厳しいッス!」


エアリ「今ここで抜け切れなければ、少なくとも純粋なコーナリング速度と加速のつながりでは、柊くんのFL5が上ッスよ!」


エアリ「カナタくんが前へ出るには、違うラインを作るか、柊くんへ守らせて出口速度を落とすしかないッス!」


腹切カナタ「……分かってる。」


柊蒼真「だったら見せてみろよ!!性能で負けてる86が、どうやって俺のFL5を抜くのかをなァ!!」


腹切カナタ「だから、まだ仕掛けてない。」


若林「カナタは認めているのか!?正面から同じ走りを続ければ、86ではFL5に勝てないとォォォ!!!!」


エアリ「そうッス。でも、速い車が必ず前で終わるなら、オーバーテイクなんて必要ないッスよ!」


白いFL5が前。


赤い86が後ろ。


マシンの速さでは、柊が上。


それでもカナタは、数十センチの距離を一度も離さなかった。


若林「高速S字……うわああっとォォォ!!赤い戦闘機が、再び仕掛けるのかアアアア!?!?」


ギャアアアアアアッ!!


ヴォオオオオオオオッ!!


柊のFL5がターボを鋭く立ち上げ、白い車体を一つ目の右へ叩き込む。


その直後、カナタの86ターボも低い排気音を響かせながら、イン側へ一気に並びかけた。


シャコンッ!!


ギャオオオオオオンッ!!


若林「二台、高速S字で横一線ンンンンッッ!!!!!」


腹切カナタ「うおああああ!!!!」


柊蒼真「……邪魔を……ッ!!」


柊はFL5のステアリングを最小限に抑え、外側のラインで速度を維持する。


カナタも86をイン側へ残し、ターボトルクを一気に解放した。


ガチャンッ!!


ヴォアアアアアアアッ!!


ギャアアアアアアアッ!!


若林「さあ……どうなるのかアアアア!?赤い86が半車身まで並んだ!!今度こそ柊の前へ出るのかアアアア!!!!」


二つ目の左へ切り返した瞬間、FL5の車体が路面へ吸いつくように姿勢を変える。


86も追う。


だが、コーナー出口へ向けて速度が高まるほど、白いFL5がじわじわと前へ出始めた。


柊蒼真「ここは俺の区間だ……ッ!!」


バシュンッ!!


ギャアアアアアアアアッ!!


若林「しかし、このセクター3はハイスピード区間だアアアア!!FL5、さらに速度が乗っていく!!赤い86を押し戻したァァァ!!!!」


若林「カナタ、二度目の敢行もオーバーテイク失敗!!またしても柊蒼真を抜けなかったアアアア!!!!」


腹切カナタ「……くッ!」


柊蒼真「言っただろ。ここじゃ、お前の86は俺を抜けない。」


若林「エアリさん!コーナーが連続していたのに、なぜ赤い戦闘機は抜けなかったのでしょうか!?」


エアリ「高速S字では、ただ小さく曲がれるだけじゃ足りないッス!」


エアリ「一つ目のコーナーを抜けた時点で、次の切り返しへ向けて車体を安定させながら、高い速度を保つ必要があるッスよ!」


若林「そこでFL5が上だったと!?」


エアリ「はいッス!FL5は車体剛性と空力、それにワイドなタイヤで、高速の切り返しでも姿勢が乱れにくいッス!」


エアリ「柊くんは一つ目から二つ目まで、アクセルをほとんど戻さず速度をつないだッスね。だから並ばれても、出口へ向かうほど加速を伸ばせたッス!」


若林「カナタの86ターボはどうだったのでしょうか!?」


エアリ「カナタくんはイン側へ入ったぶん、曲がる半径が小さくなったッス。その状態で横並びを維持するには、少しだけアクセルを抜いて向きを変える必要があったッスよ!」


エアリ「その一瞬でターボの加速が途切れて、外側の広いラインで速度を残したFL5へ前を取り返されたんス!」


若林「つまり、高速S字ではFL5の完成度が上回ったァァァ!!!!」


エアリ「そうッス!今の区間だけを見れば、純粋な高速旋回性能ではFL5の方が速いッス!」


エアリ「86が前へ出るには、同じ速度勝負を続けるんじゃなくて、次の減速区間で柊くんのラインを崩す必要があるッスね!」


柊蒼真「二回やって、二回とも失敗だ。」


腹切カナタ「……まだ終わってない。」


白いFL5が再び前。


その背後へ、赤い86ターボがなおも食らいついていった。


若林「その三十秒手前!!先頭グループが土湯温泉街の大橋へ突入するウウウウ!!!!」


若林「両端に巨大なこけしが立つ、短く幅の広い高速橋!!荒れた路面がカタパルトのように先頭集団を跳ね上げるぞオオオオ!!!!」


ドォォォォォォンッ!!


ズガガガガガガッ!!


温泉街を眼下に望む大橋。


千キロ毎時を超える先頭集団が突入した瞬間、路面の継ぎ目が各車のサスペンションを激しく突き上げた。


逃げる山吹花のWRX STI。


その背後から絶対零度を広げる、ちとせのRZ34。


さらに後方では、フリスたちが二台の争いを見据えている。


山吹花「……ッ!何なのよ、この路面!!跳ねるたびに、あいつの冷気が足元まで入ってくる……ッ!」


VABのタイヤが一瞬だけ路面から浮き、着地と同時に激しい火花を散らす。


花はステアリングを押さえ込み、アクセルを戻さず車体を前へ押し出した。


山吹花「ざぁこって言ったでしょう……!私はまだ止まらないわよッ!!」


ギャアアアアアアッ!!


ちとせの冷気が橋の路面を白く染め、VABの走行ラインを追うように氷が広がっていく。


ちとせ「……もへ〜……。」


ちとせ「逃げても無駄だよぉ、花ちゃん……。この橋は真っすぐで、逃げられる場所も少ないからねぇ……。」


ギギギギギ……ッ!!


大橋の欄干が真っ白に凍りつき、振動に耐え切れず細かな氷片を撒き散らす。


若林「ちとせの絶対零度が、土湯の大橋を支配していくウウウウ!!!!山吹花、速度を維持できるのか!?それともここで獣神に捕まるのかアアアア!?!?」


エアリ「ここは花さんにとって、かなり厳しい区間ッス!」


若林「やはり、ちとせの冷気が有利に働くのでしょうか!?」


エアリ「それもあるッスけど、この橋は路面が荒れていて、高速のまま車体を安定させるのが難しいッス!」


エアリ「花さんのVABは四輪駆動で着地後の加速は強いッス。でもタイヤが跳ねて接地が抜けるたびに、駆動力を路面へ伝えられない時間ができるッスよ!」


若林「その隙に、ちとせが追いつくと!?」


エアリ「はいッス!ちとせさんのRZ34は直線へ車体を向けたまま、太いトルクで前へ押し続けてるッス!」


エアリ「それに冷気で路面温度を下げて、花さんのタイヤグリップまで削ってるッスね!花さんは速く走ろうとするほど、跳ねた後の姿勢修正が大きくなるッス!」


山吹花「こんな橋くらいで……私を止められると思わないでッ!!」


VABが橋の中央で大きく跳ねる。


着地した瞬間、花は四輪を空転させながらも強引に加速へ戻した。


ちとせ「もへ〜……頑張るねぇ。」


エアリ「ただ、花さんも簡単には捕まらないッス!VABの電子制御で着地のたびに駆動力を戻して、冷気の範囲から抜けようとしてるッスよ!」


若林「絶対零度で追うRZ34!!荒れた路面を力ずくで駆け抜けるWRX STI!!」


若林「土湯の大橋が、先頭二台を谷底へ撃ち出す巨大なカタパルトと化したアアアア!!!!」


若林「その後ろからフリスのケイマンGT4!!さらにサテラのエボ7MR!!先頭集団が数センチ単位で火花を散らす超密集戦だアアアア!!!!」


ギャアアアアアアンッ!!


ズガガガガガッ!!


荒れた大橋の上で、白いケイマンGT4が小刻みに跳ねる。その直後、サテラの水色のエボ7MRが、リアバンパーへ触れそうな距離まで迫った。


サテラ「フリス!悪いけど、そこ通してもらうよッ!」


フリス「えへへ……嫌だよ。僕も前の二台を追いかけたいんだもん!」


サテラ「そう言うと思ったよ。まったく、子供みたいな顔して頑固なんだから!」


フリス「サテラくんだって、ずっと僕のお尻ばっかり見てるじゃない。」


サテラ「ち、違うからね!?ラインを見てるだけだから!!」


若林「追突しそうなほどにエボ7がプッシュをかけるウウウウ!!!!サテラ、一歩も引かない!!」


水色のエボ7MRがイン側へ振る。


フリスはすぐにケイマンを中央へ戻し、短い車体で進路を塞いだ。


ギャギャアアアアッ!!


サテラ「そこも閉じるのかよッ!」


フリス「だって、空けたら来るでしょう?」


サテラ「当たり前だろ!ボクは抜くために走ってるんだから!」


ケイマンGT4はミッドシップの安定感を使い、橋の継ぎ目を踏んでも姿勢を大きく乱さない。


一方のエボ7MRは四輪駆動で着地のたびに路面を蹴り、わずかな失速を一気に埋めていく。


若林「フリスは旋回の安定性!!サテラは四輪駆動の立ち上がり!!まったく異なる強みが、橋の上で激突しているゥゥゥ!!!!」


エアリ「サテラくん、フリスさんが跳ねる瞬間を狙ってるッス!接地が抜けた時にエボ7の四輪駆動で前へ出るつもりッスね!」


フリス「へぇ……そこを見てるんだ。」


サテラ「気づいたなら、譲ってくれてもいいんじゃない?」


フリス「それは嫌かな。」


次の継ぎ目でケイマンがわずかに浮く。


その瞬間、エボ7MRが一気に距離を詰めた。


ドンッ!!


サテラ「今だッ!!」


若林「エボ7が横へ出るかアアアア!?!?」


だがフリスは着地と同時にケイマンのリアを沈め、アクセルを深く踏み込んだ。


ギャオオオオオオンッ!!


サテラ「くっ……速いッ!」


フリス「まだ僕の前には出られないよ。」


その声は明るく、無邪気だった。


しかし次の瞬間、フリスの瞳から光が消える。


フリス「……我の前を奪うつもりなら、もう少し深く踏み込むことだ。」


サテラ「その声、急に怖いんだけど……ッ!」


フリス「えへへ。何のこと?」


若林「フリス、再び無邪気な表情へ戻ったァァァ!!!!だが今の一瞬、空気が完全に変わったぞオオオオ!!!!」


サテラ「ホント、油断ならないな……でも、そういう相手の方が燃えるんだよッ!」


フリス「じゃあ、もう少し遊ぼうか。サテラくん。」


白いケイマンGT4と水色のエボ7MRが、互いのボディを数センチまで近づけながら、大橋の出口へ突き進んでいった。


サテラ(この先の急勾配でねじ込んで……全部終わらせてやる……ッ!)


サテラ(1位になるのは、このボクなんだ……ッ!このまま後ろで指をくわえてたまるかよォ……ッ!!)


水色のエボ7MRは、ケイマンGT4の背後でわずかに左右へ揺れる。


サテラは橋の出口、その先に待つ急勾配へ視線を固定した。


サテラ(フリスがブレーキを残すなら、その一瞬でインへ入る。着地で姿勢を乱すなら、四輪で押し切る……。)


サテラ(優しく譲ってもらうつもりなんてない。ボクの手で奪うんだ……ッ!)


その前を走るフリスは、無邪気な笑みを浮かべたまま、静かにバックミラーを見つめていた。


フリス(……急勾配で来るつもりか。)


フリス(我の着地と減速、その僅かな揺らぎへ牙を立てる。単純だが、悪くない……。)


ケイマンGT4のステアリングを握る指先が、ゆっくりと締まる。


フリス(だが、甘いな……サテラ。)


フリス(我が前を譲ると思ったか。お前が最も深く踏み込んだ瞬間、その勢いごと凍らせてやろう……。)


フリス「えへへ……サテラくん、次の坂で来るんでしょう?」


サテラ「……ッ!」


フリス「いいよ。ちゃんと相手してあげる。」


その声は明るく幼い。


だが、その奥には砂糖菓子のように甘く、底の見えない冷酷さが沈んでいた。


フリス(さあ、来い。我の前で、その執念がどこまで保つのか見せてみろ。)


若林「そして……アアアアア!!!!腹切カナタ、ここで行ったァァァァ!!!!こけし大橋、その一瞬だけ開いた死の隙間を突いたアアアア!!!!」


ギャギャアアアアアッ!!


キュアアアアアアンッ!!


柊の白いFL5が激しくタイヤを鳴らしながら姿勢を立て直す。


ガコンッ!!


ヴァアアアアアアッ!!


FL5が一段シフトを落とした直後、カナタのREVIVE 86は逆にギアを叩き上げ、ターボの加速を途切れさせずインサイドへ飛び込んだ。


若林「入ったアアアアア!!!!インから赤い戦闘機!!ついにFL5の横へ完全に並んだァァァァ!!!!」


柊蒼真「ウソだろ……ッ!?ここで来るのかよ、カナタ!!」


橋の荒れた継ぎ目を踏み、白いFL5の車体がわずかに外側へ跳ねる。


その一瞬。


赤い86は、サイドミラーが触れそうな距離まで迫りながら、路面に残された細いグリップラインへ四輪を正確に乗せた。


柊蒼真「なんで乱れない……ッ!?そんな細いラインで、どうしてアクセルを踏み続けられるんだ!!」


腹切カナタ「路面が荒れてるなら……全部避ける必要はない。」


腹切カナタ「タイヤが噛む場所だけ拾えばいい……ッ!」


柊が減速へ入った場所で、カナタはアクセルを戻さない。


橋の継ぎ目、タイヤ痕、わずかに盛り上がった舗装。そのすべてをつなぎ、86だけの一本のラインを作り上げていく。


腹切カナタ(滑らせるんじゃない……。荷重が抜ける前に、次の接地点へ乗せる……ッ!)


腹切カナタ(柊が姿勢を戻す、その前に前へ出る!!)


シャコンッ!!


ギャオオオオオオオンッ!!


若林「赤い86が前へ出たアアアア!!!!柊蒼真のFL5をついに攻略!!腹切カナタ、一気に五位へ浮上だアアアア!!!!」


柊蒼真「抜かれた……!?二度も止めた俺を、この一瞬だけで……ッ!」


腹切カナタ「待ってたんだよ。」


腹切カナタ「お前が一番速く走ろうとして、一番大きく姿勢を乱す瞬間をな。」


エアリ「カナタくん、FL5と同じ速さで勝負するのをやめたッス!」


若林「同じ速さで勝負していない!?」


エアリ「はいッス!高速S字では、FL5の旋回性能と安定性が上だったッス。でもこの橋は路面の継ぎ目が多くて、速い車ほど姿勢変化が大きくなるッスよ!」


エアリ「柊くんはFL5の速度を維持するために、橋の出口で一度だけ修正舵と減速を入れたッス。その瞬間、カナタくんは荒れた場所の間に残っていたグリップの強い線をつないで、アクセルを踏み切ったんス!」


若林「性能差ではなく、使える路面の幅で勝ったというのかアアアア!!!!」


エアリ「そうッス!86はFL5より高速域の性能では不利だったッス。でも軽い車体と後輪駆動を使って、細かな荷重変化へすぐ対応できたッスね!」


エアリ「それにカナタくんは、ずっと柊くんの後ろでブレーキ位置と姿勢の乱れ方を見てたッス。今のオーバーテイクは奇跡じゃないッス!」


エアリ「二度失敗したからこそ作れた、三度目の正解ッスよ!!」


若林「REVIVE 86がFL5の前へ出たアアアア!!!!ニュルブルクリンクで鍛えられた最速級FFを、吾妻の荒れたダウンヒルでついに仕留めたァァァァ!!!!」


土湯大橋を抜け、勾配が一気に深くなる。


柊のFL5が強烈な加速で追いすがるが、赤い86はイン側の縁石すれすれをなぞり、前を譲らない。


若林「カナタの前にはサテラ!!そしてフリス!!赤い戦闘機が、ついに先頭集団の背中へ牙を届かせたアアアア!!!!」


若林「ダウンヒル突入から、焦げたタイヤと先頭争いの冷気が混ざり合っているゥゥゥ!!嫌な匂いしかしなあああい!!!!」


エアリ「カナタくん、FL5より速い車にしたんじゃないッス。速度を落とす場所と、残す場所の判断で上回ったんスよ!」


エアリ「柊くんは荒れた路面で姿勢を整えるために一瞬だけ減速したッス。でもカナタくんは、接地が残る場所をつないで速度を維持したッスね!」


柊蒼真「嘘だろ……ッ!あの速度で着地して、まだ姿勢が乱れないのか!?」


柊蒼真「カナタ……お前、一体何を見てるんだッ!?」


腹切カナタ(悪いな、柊。俺には見えるんだ。86が走りたがっている場所が……ッ!)


腹切カナタ(先生、見ててくれ。俺の走りは、まだ終わらねぇ!!)


若林「赤い戦闘機がサテラのエボ7MRを猛追!!さらに前にはフリス、ちとせ、そして山吹花!!先頭集団が完全な混戦へ突入したアアアア!!!!」


その後方では、赤いバイパーと黒いウアイラが横一線に並んでいた。


ドォォォォォンッ!!


ズォォォォォンッ!!


高槻健永「嘘だろ!?俺のバイパーが、加速で押し返されてる……ッ!」


コタロー「AMGのV12を舐めるなッ!風は誰にも縛れねぇ!!」


ウアイラはアクティブエアロを寝かせ、バイパーのスリップストリームから一気に飛び出す。


若林「コタローのウアイラが直線で刺し返したアアアア!!赤いドラゴンを、黒の風神が抜き去ったァァァ!!!!」


エアリ「バイパーは大排気量のトルクで路面を蹴るタイプッス!でもウアイラは空気抵抗を減らしながら、V12ツインターボの加速を最後まで伸ばせるッスよ!」


若林「しかも、このレースでV12を積むのはウアイラだけだアアアア!!!!」


コタロー「聞こえるか、高槻!これが十二気筒の音だ!!」


管楽器のように澄みながら、地響きのように重い排気音がダウンヒルを切り裂いた。


そして先頭集団は、四季の里へ差しかかる。


若林「かつての中世ヨーロッパを思わせる農村施設、四季の里!!先頭二台が、その美しい景色へ突入するゥゥゥ!!!!」


その瞬間――。


ゴォォォォォォォォッ!!


ちとせのRZ34から、猛烈な吹雪が解き放たれた。


ちとせ「……もへ〜……。もう終わりだよぉ、花ちゃん……。」


ちとせ「全部白くして、動けなくしちゃおうねぇ……。」


視界は一瞬で消え、路面も車体も白く染まる。花のVABは吹雪の中心で速度を失った。


山吹花「な、何よこれ……ッ!前が見えない!指も動かない……ッ!」


若林「局地的な猛吹雪!!先頭の山吹花が完全に捕まったアアアア!!!!」


エアリ「ちとせさん、視界だけじゃなく、花さんの判断速度まで奪いに来たッス!」


フリス(……ちとせ、やりすぎだ。これでは我らまで巻き込まれる。)


サテラ(ボディが削られる……!でも、ここで止まるわけにはいかないッ!)


腹切カナタ(見えないなら、音と風で追う……。俺は止まらねぇ!!)


吹雪の中、花のVABが完全に静止したように見えた。


若林「山吹花が動かない!!氷の繭に包まれたァァァ!!!!」


音のない闇の中で、花は自らへ問いかける。


山吹花(王とは何……?私は何のために走るの……?)


紫と桜色の炎が、暗闇の中へ降り注ぐ。


山吹花(私は誰にも屈しない……。この魂が、王であると叫んでいるからッ!!)


ドォォォォォンッ!!


VABのエンジンが再び咆哮し、氷の膜が内側から砕け散った。


山吹花「ざぁ〜こ♡誰が止まるって言ったの?」


山吹花「この程度の吹雪で、私を支配できると思わないでッ!!」


ギャアアアアアアアアンッ!!


若林「山吹花、再始動だアアアア!!!!氷の繭を粉砕し、紫と桜色のオーラを纏って再加速したァァァ!!!!」


エアリ「花さん、自分の恐怖まで力へ変えたッス!」


エアリ「今の花さんは、ただ生意気なだけじゃないッス。先頭を奪うためなら、冷気も吹雪も全部踏み越える戦う女王ッスよ!!」


ちとせ「……ッ!?おじさんの氷を、力ずくで壊したのぉ……?」


砕け散った氷片の向こうから、紫と桜色のオーラを纏ったWRX STIが姿を現す。


花は白煙を切り裂き、凍りついたタイヤを強引に回転させながら、再びRZ34の前方へ迫った。


山吹花「この程度で私を止めたつもり?笑わせないで。」


山吹花「あなたの冷気ごと踏み砕いて、もう一度前へ出てあげるわッ!」


ギャアアアアアアッ!!


ちとせ「もへぇ……おもしろいねぇ、花ちゃん。」


ちとせのブルーグレーの瞳が細まり、RZ34の周囲に再び白い冷気が集まり始める。


ちとせ「だったら、もっと冷たくしてあげる。今度はエンジンも、タイヤも、お口まで動かなくなるくらいにねぇ……。」


山吹花「やってみなさいよ、老害ッ!!」


二台は四季の里の狭い直線で並び、互いの車体を押し合う。


ドガンッ!!


パキパキパキッ!!


RZ34の冷気がVABのドアへ張りつく一方、花は四輪駆動の加速で銀色の車体を外側へ押し返した。


若林「再び接触だアアアア!!!!女王と獣神、一歩も譲らなあああい!!!!」


その時、運営無線が二台の通信へ強引に割り込んだ。


運営「ちとせさん!またWRXへの妨害を確認しました!!芦ノ湖での件も忘れていませんよ!!」


運営「直ちに天候を戻し、山吹花さんへ進路を譲ってください!さらに後方のフリスさん、サテラさんにもです!!」


ちとせ「ちぇ〜……運営さん、うるさいなぁ。」


ちとせ「芦ノ湖のこと、まだ覚えてたのぉ……?もへ〜……。」


ゴォォォォ……。


四季の里を覆っていた猛吹雪が急速に弱まり、白く閉ざされていた視界が一気に開けていく。


ちとせは不満げに口を尖らせ、RZ34を右側へ寄せた。


山吹花「ふん。運営に助けられるなんて癪だけど……これも王の運ってことかしら?」


山吹花「ざぁ〜こ♡そこで大人しく見てなさいッ!!」


ギャアアアアアンッ!!


花のVABが最初にRZ34の横を駆け抜ける。


続いて白いケイマンGT4が、わずかに空いた左側へ滑り込んだ。


フリス「えへへ……それじゃあ、僕も先に行くね。」


一瞬だけ、フリスの瞳が冷たく沈む。


フリス(我の道を塞いだ代償は、後で払ってもらおう。)


その直後、水色のエボ7MRも四輪を激しく蹴り出した。


サテラ「悪いけど、ボクも遠慮しないよッ!」


ズバアアアアアッ!!


三台が一気にちとせを抜き去り、四季の里出口へ向かって縦一列に並ぶ。


若林「ちとせ、まさかの強制後退!!先頭は再び山吹花!!二位フリス、三位サテラ!!」


若林「そしてちとせは四位!!その背後には、腹切カナタの赤い86が迫っているゥゥゥ!!!!」


腹切カナタ「……前が開いた。」


赤いREVIVE 86が、冷気の消えた路面で一気に加速する。


ちとせはバックミラーへ映る赤い戦闘機を見つめ、静かに頬を膨らませた。


ちとせ「みんなして、おじさんを置いていくんだねぇ……。」


エアリ「ちとせさん、かなり不満そうッスね!でも進路を譲っただけで、走る力まで失ったわけじゃないッス!」


エアリ「むしろ冷気を止めたことで、RZ34本来の加速へ集中できるッスよ。カナタくんも、簡単には前へ出られないはずッス!」


若林「牙を封じられた獣神と、勢いに乗る赤い戦闘機!!四位争いまで一気に燃え上がるぞオオオオ!!!!」

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