吾妻編第48話SP 地続きバトル!!奇跡のタックイン!!!
若林「なんというスピードだアアア!!律のR35を仕留めた伊藤が、瞬く間に十三位・相川美保の背後まで迫ったアアアア!!!!」
セクター2終盤。複雑な中高速コーナーを、黄色いスイフトスポーツが連続して切り裂いていく。
相川律「気をつけろ美保ッ!!伊藤がもう後ろに張り付いてるぞ!!」
相川美保「伊藤くんが!?さっきまで後ろにいたはずなのに……!ッ!!!!」
ディープマリンブルーの400Rへ、乾いたフジツボサウンドが急接近する。
伊藤「見えたぞ、400R!!美保ちゃん、悪いな……今の俺は誰にも止められねぇッ!!」
若林「一・四リッターターボがRB26DETTの背後へ牙を剥く!!ブルーシャーク対チャンピオンイエローだアアアア!!!!」
エアリ「伊藤くん、律さんを抜いた直後からブレーキの回数を減らしてるッス!コーナー同士を一本のラインとしてつないで、軽い車体の速度を落とさず美保さんへ近づいたッスね!」
若林「この勢いのままインへ飛び込むのかアアア!?」
エアリ「いや、伊藤くんは美保さんがインを閉じると読んでるッス!だから次の右コーナー、あえて外側へ振ったッスよ!!」
ギャアアアアアアンッ!!
若林「大外だアアアア!!!!伊藤、この超高速の回り込む右コーナーで、400Rのアウト側へ並びかけたアアアア!!!!」
スイスポは遠心力に押されながらも、外側の広いラインで速度を維持する。だが美保も怯まず、400Rの長い車体を安定させたまま出口へ向けてアクセルを開いた。
相川美保「外から来るのね……ッ!でも行かせない!!この400Rの安定感を甘く見ないでッ!!」
エアリ「美保さん、ステアリングを余計に切らず、ロングホイールベースで姿勢を保ってるッス!伊藤くんが外側で速度を残しても、出口まで並ばせなければ400Rの加速が使えるッスよ!」
伊藤「くっ……まだ前に出られねぇッ!!」
相川美保「速いわ、伊藤くん。でもこのコーナーは、ブルーシャークの海よッ!!」
若林「並んだ!!しかし抜けない!!軽さで外から襲う伊藤と、安定性で守り切る美保!!二台が横並びのまま、コーナー出口へ雪崩れ込むウウウウ!!!!」
エアリ「伊藤くんは進入速度、美保さんは出口のトラクションで勝負してるッス!まだ順位は変わらないッスけど、次のブレーキングまでこの並走が続けば、一気に決着する可能性があるッスよ!!」
美保の背後に、巨大な深海のサメの幻影が立ち昇る。
400Rのワイドな車体がアウト側を塞ぎ、伊藤のスイスポをガードレール際まで押し込んでいく。
若林「鉄壁だアアアア!!美保の400Rが海の防壁と化し、伊藤の侵攻を許さない!!スイスポ、外側へ追い詰められたアアアア!!!!」
伊藤「この程度で引くかよ……ッ!出口に一台分あれば、それで十分だ!!」
エアリ「美保さん、車幅と四輪駆動を使って、伊藤くんが加速できる場所を完全に消しに来たッス!」
エアリ「ただ、伊藤くんは最初から外側を抜け切るつもりじゃないッスね。美保さんをアウト側へ動かして、内側へ空間を作らせようとしてるッスよ!」
若林「しかし信じられない粘りだアアアア!!ガードレールまで数センチ!絶望的な位置から、黄色い車体がさらに加速していくウウウウ!!!!」
グオオオオオンッ!!
セクター3の低速ヘアピン。400Rが重厚なトルクで立ち上がろうとした瞬間、伊藤はスイスポをさらに外へ振った。
するっ……!
ストンッ!!
ずどおおおおんッ!!
若林「うおアアア!?外から行ったアアアア!?!?」
相川美保「何をしてるの……ッ?アウトから来るなら、こっちも外へ車体をずらせば――」
その瞬間、伊藤はアクセルを一度だけ抜いた。
前輪へ荷重が移り、スイスポのノーズが鋭く内側へ向きを変える。
ギャアアアアアアアッ!!
相川美保「……なッ!?」
アウトへ行くと見せかけた黄色い車体が、瞬間移動のように400Rのイン側へ滑り込んだ。
伊藤「出口に一台分ありゃあ……抜けられるなアアアア!!!!」
伊藤「Rの前、もらったァァァ!!!!」
若林「うおっとおおお!?アウトから仕掛けると見せて、インへ切り返したアアアア!!!!低速ヘアピンで鮮烈なクロスラインだアアアア!!!!」
ぎゃああああッ!!
美保は慌ててアクセルを踏み込む。しかしアウト側へ荷重を残した400Rは、すぐに内側へ向きを変えられない。
相川美保「え……グリップが戻らない……ッ!?」
エアリ「美保さん、伊藤くんを外へ押し出すために、車体の荷重をアウト側へ残しすぎたッス!」
エアリ「その瞬間に伊藤くんはアクセルを抜いて前輪へ荷重を移し、一気にインへ向きを変えたッスよ!軽いスイスポだからできる、ものすごく速い切り返しッス!」
ごおおおおおおおッ!!
黄色いスイスポがヘアピン出口へ先に飛び出す。400RもRB26を咆哮させるが、伊藤はすでに半車身前へ出ていた。
若林「アアアアア!!!!またしても来てしまったアアアア!!!!チャンピオンイエローが、わずかに!しかし確実に前へ出たアアアア!!!!」
若林「鉄壁を誇った400Rをも抜き去るスイフトスポーツ!!伊藤、十三位奪取だアアアア!!!!」
伊藤「っしゃああああ!!これが軽量ハッチバックの底力だッ!!」
伊藤「美保ちゃん、先に行かせてもらうぜ!!」
相川美保「まさか……私を外へ誘い出してから、内側へ切り返したの……ッ!」
エアリ「今のオーバーテイクは、速度だけじゃないッス!伊藤くんは美保さんの防御そのものを利用したッスよ!」
エアリ「400Rのロングホイールベースは高速域では安定するッスけど、一度荷重を外側へ寄せると、反対方向へ戻すまで少し時間がかかるッス!」
エアリ「伊藤くんはその一瞬を読んで、軽い車体と短いホイールベースで内側へ飛び込んだッスね!まさに軽量ハッチバックの切り返し勝ちッス!!」
ディープマリンブルーの400Rが、伊藤のバックミラーの中で小さくなっていく。
十六位から三台を抜き去り、一気に十三位まで駆け上がった伊藤。
その勢いは、もはや上位陣すら飲み込もうとする熱い嵐へ変わっていた。
若林「エアリさん!今の伊藤のオーバーテイクは一体……ッ!?」
エアリ「タックインです……ッ!」
エアリ「伊藤くんが見せたのは、FF車特有のタックインを利用した切り返しッス!!」
若林「タックイン!?」
エアリ「はいッス!コーナリング中にアクセルを抜くと、前輪へ荷重が移ってグリップが増えるッス。その一方で後輪は荷重が抜けて、車体の向きが内側へ鋭く変わるんスよ!」
先ほどの映像がリプレイされる。
伊藤はアウト側から美保へ並ぶ素振りを見せた直後、一瞬だけアクセルを抜いていた。
その瞬間、スイスポのフロントが沈み込み、黄色い車体が400Rの背後からイン側へ切れ込んでいく。
エアリ「伊藤くんは最初から、アウト側で抜き切るつもりじゃなかったッス!」
エアリ「美保さんに外側を守らせて、コーナー出口のイン側へ一台分の隙間を作らせたんスね!」
若林「美保のブロックを逆に利用したというのかアアアア!?」
エアリ「そうッス!美保さんがスイスポを外へ押し出そうとした瞬間、伊藤くんはアクセルオフ!」
エアリ「スイスポのノーズを内側へ向けて、400Rがラインを戻すより早く、その空いた場所へ滑り込んだッス!」
若林「しかし、アクセルを抜けば失速するのでは!?」
エアリ「普通ならそうッス。でもスイスポは車体が軽くて、ターボのレスポンスも鋭いッス!向きが変わった直後にアクセルを踏み直せば、失った速度をすぐに取り戻せるッスよ!」
エアリ「それに伊藤くんは、前輪がグリップを失う直前まで進入速度を残してたッス。アクセルを抜いたのは減速のためじゃなく、旋回のきっかけを作るためッスね!」
若林「タックインで向きを変え、空いたインへ飛び込み、そのまま加速して抜き切ったと!!」
エアリ「はいッス!ただし、かなり危険な技ッスよ!」
エアリ「アクセルを抜く時間が長ければ失速するし、荷重移動が急すぎればリアが流れてスピンするッス。しかも今回はガードレールまで数センチしかなかったッス!」
若林「まさに一瞬の勝負だアアアア!!!!」
エアリ「伊藤くんは美保さんの防御、コーナーの出口、それからスイスポの旋回特性を全部読んでたッス!」
エアリ「アウトから仕掛けるふりをして相手を動かし、タックインでインへ切り返す。これは馬力で押し切ったオーバーテイクじゃないッス!」
エアリ「相手の守り方を利用して、抜ける道を自分で作ったオーバーテイクッスよ!!」
若林「これが伊藤翔太!!これがチャンピオンイエロー!!美保の鉄壁を、タックイン一発で切り裂いたアアアア!!!!」
若林「さらにその後方!!高速コーナーで、信じられない質量の塊が空間を強引にこじ開けたアアアア!!!!」
ギャギャアアアンッ!!
ゴオオオオオオオオンッ!!
十九位を走る古賀加奈子の赤いBMW M5 G90が、二・四トンを超える巨体を高速コーナーのインへねじ込む。
柳津雄介「嘘だろ……!?この速度で、あの重戦車をインへ刺してくるのか!!正気か、古賀アアアア!!」
古賀加奈子「重いっていうのはね、それだけで立派な武器になるのよ!」
古賀加奈子「柳津くん、DTM仕様のプライドごと粉砕してあげる!!いけエエエエ!!!!」
M5は四輪を路面へ押しつけ、わずかにスライドしながら前方の集団へ割り込んでいく。
若林「赤いM5が四台の前へ飛び出したアアアア!!!!柳津、クリスタ、そして菜園までもが、その圧力にラインを乱されたァァァ!!!!」
エアリ「古賀さん、M5の重さを弱点じゃなくて安定性に使ってるッス!」
若林「重いほど有利になると!?」
エアリ「高速コーナーでは車体が大きく揺さぶられるッスけど、M5は四輪駆動と電子制御でタイヤを路面へ押しつけてるッス!」
エアリ「しかもV8ハイブリッドの太いトルクがあるから、車体を滑らせてもすぐに前へ押し出せるッスね!古賀さんはインへ飛び込んで、後ろの三台へブレーキを踏ませたんスよ!」
柳津雄介「くそッ……前へ入られた!!」
古賀加奈子「遅いわよ。道を譲らないなら、こっちから開けるだけよ!」
若林「古賀加奈子、重量級セダンで集団をねじ伏せていくウウウウ!!!!」
その直後、さらに後方で順位が動いた。
若林「そしてまさかの展開!!クリスタ・ニールセンの488 GTSが、陽太のNDロードスターに抜かれてしまうウウウウ!!!!」
キィィィィィンッ!!
ギュワアアアアアンッ!!
高速区間を抜け、セクター3の中速連続コーナーへ。パワーで勝る488 GTSがわずかにアウトへ膨らんだ瞬間、オレンジ色のロードスターがインへ飛び込む。
クリスタ「なッ……!?どこから入ってきたのよ!!」
陽太「直線で離されても、曲がる場所なら追いつける。」
若林「陽太アアアア!!!!直線で開いた差を、コーナーひとつで帳消しにしたアアアア!!!!」
エアリ「陽太くん、フェラーリと加速勝負をする気は最初からないッス!」
エアリ「488 GTSが高速区間の終わりで強く減速する場所まで待って、ロードスターの軽さを使ってブレーキを遅らせたッスね!」
若林「旋回速度の差で前へ出たと!?」
エアリ「はいッス!クリスタさんは大きなパワーを受け止めるため、出口へ向けて車体を安定させる必要があるッス。でも陽太くんは、軽い車体を一気に内側へ向けられるッスよ!」
エアリ「インへ入った後も速度を落とさず、次の切り返しまで先に押さえたッス!一つのコーナーだけじゃなく、連続区間全体を使ったオーバーテイクッスね!」
クリスタ「百三十馬力程度の車に……また抜かれた……ッ!?」
陽太「馬力だけで勝てるなら、こんな山道で走る意味はないだろ。」
若林「これぞライトウェイトスポーツの真骨頂!!陽太のオレンジ色のロードスターが、跳ね馬を切り裂いたアアアア!!!!」
クリスタ・ニールセン「……嘘でしょ!?私のフェラーリが、あんな非力なロードスターに……ッ!ラインが、速すぎる……!!」
陽太「悪いな。このコーナーの出口は、僕の方がよく見えているんだ。」
陽太は最小限のステアリング操作で488 GTSの鼻先をかすめ、オレンジ色のロードスターを次のコーナーへ滑り込ませる。
エアリ「陽太くん、488のパワーが使えない場所だけを選んで仕掛けたッス!」
エアリ「クリスタさんは加速へ移るために車体を安定させたい。でも陽太くんは、進入から出口まで速度を落とさず一本のラインでつないだッスね!」
若林「そしてそのまま柳津のM4へ迫るウウウウ!!!!ロードスターが格上のBMWへ並びかけたアアアア!!!!」
ギュワアアアアアンッ!!
ズババババッ!!
セクター3出口の狭い左コーナー。柳津がインを守った直後、陽太は縁石ぎりぎりのさらに内側へノーズを差し込んだ。
柳津雄介「ドイツもコイツもふざけやがってェ!!なんでそんな狂った走りで前へ出られるんだ!?」
陽太「バカで結構。でも、この道は数字だけじゃ走れない。」
柳津雄介「なにィ……ッ!?」
ロードスターは小さな車体を隙間へねじ込み、M4より早く向きを変える。そのままコーナー出口の内側を押さえ、柳津の加速ラインを完全に奪った。
パァァァァァンッ!!
若林「抜けてしまったアアアア!!!!NDロードスターがM4の前へ出たァァァ!!!!陽太、十八位浮上だアアアア!!!!」
エアリ「今の陽太くん、ブレーキングで勝ったわけじゃないッス!」
若林「では、どこで差を作ったのでしょうか!?」
エアリ「柳津さんがインを守るために減速した瞬間、陽太くんはさらに小さな旋回半径を選んだッス!ロードスターのコンパクトな車体だから通せたラインッスね!」
エアリ「M4は出口でパワーを使いたくても、陽太くんに前を押さえられてアクセルを開けられないッス。つまり、相手の強みを出す前に勝負を終わらせたんスよ!」
柳津雄介「くそッ……また軽い車に……!」
陽太「重さも馬力も、使えなければ意味がない。」
オレンジ色のテールランプが柳津から離れていく。
その前方には、菜園宗一郎の992 GT3。
若林「陽太の快進撃はまだ止まらない!!次の標的は、電光石火のPDKを誇るポルシェだアアアア!!!!」
エアリ「ただ、菜園さんのGT3は旋回もブレーキもかなり強いッス!ここまでみたいに、一度の飛び込みだけで崩せる相手じゃないッスよ!」
エアリ「陽太くんが軽さで道を切り開くのか、菜園さんがGT3の完成度で押さえ込むのか……ここからが本当の勝負ッス!!」
菜園宗一郎「……ロードスターが、なぜポルシェのGT3なんかに……ッ!?86ですらあれなのに、なぜだ……?」
バックミラーいっぱいに迫るオレンジ色の影を見ながら、菜園は息を呑む。
菜園宗一郎「車重が軽いぶん、同じ速度でも必要な減速距離は短い……。しかも慣性モーメントが小さいから、向きを変えるまでの時間も圧倒的に短い……ッ!」
菜園宗一郎「だが、それだけじゃない。陽太は荷重移動を一度も止めていない……。ブレーキ、旋回、加速を別々の動作にせず、全部を一つの流れとしてつないでやがる……!」
そして――。
若林「いったアアアアアアア!!!!狙い済ましたように、オレンジ色のロードスターが迫りかかるウウウウ!!!!」
ごおおおおおおおッ!!!!
陽太のNDロードスターがGT3の背後から一気に距離を詰め、次のブレーキングポイントでイン側へ車体を振る。
若林「さあ!いくかアアアアア!!!!」
菜園宗一郎「来るな……ッ!!」
菜園は歯を食いしばり、992 GT3の強力なブレーキを思い切り踏み込む。
ギャアアアアアアンッ!!
GT3のノーズが深く沈み、リアがわずかに浮く。
陽太「くっ……!」
ロードスターも遅れてブレーキへ入る。だが菜園はイン側を完全に閉ざし、陽太のノーズが差し込む直前でラインを守り切った。
若林「届かなあああい!!陽太、あと半車身!!わずかにGT3の前へ出られなかったアアアア!!!!」
菜園宗一郎「危なかった……ッ!だが、ここは渡さない!!」
陽太「今のは防がれたか……。」
エアリ「菜園さん、陽太くんが飛び込む場所を完全に読んでたッス!」
エアリ「GT3はブレーキング時の姿勢が安定してるから、かなり奥まで減速を遅らせてもラインを外さないッス。陽太くんは軽さで詰めたッスけど、今回はインへ入る空間を作ってもらえなかったッスね!」
若林「オーバーテイク失敗!!しかしロードスターは離れないィィィ!!!!」
オレンジ色のNDはGT3のリアバンパーすれすれに残り、次の切り返しへ食らいついていく。
菜園宗一郎「……一度防いだだけじゃ終わらないか。」
陽太「次は、そのブレーキごと読ませてもらう。」
若林「菜園宗一郎、辛うじて防衛成功!!だが陽太のロードスターは、なおもポルシェの真後ろだアアアア!!!!」
若林「エアリさん!なぜ今のロードスターが、ポルシェ911 GT3に追いつけたのでしょうか!?考えたくもありませんが……ッ!!」
エアリ「陽太くん、GT3より速いマシンを作ったわけじゃないッス!ダウンヒルで、ロードスターの弱点が出にくい状況を作ったんスよ!」
若林「弱点が出にくい状況!?」
エアリ「下り坂では重力が加速を助けるから、エンジンパワーの差が上りや平地ほど大きく出ないッス!ロードスターも速度を保ちやすくなるッスね!」
エアリ「しかも車体が軽いから、GT3より奥までブレーキを我慢できるッス。減速で詰めて、軽い車体ですぐに向きを変え、出口まで速度をつなげてるッスよ!」
リプレイ映像では、GT3が強烈なブレーキで速度を落とす一方、ロードスターは短い制動で距離を一気に縮めていた。
エアリ「菜園さんのGT3はブレーキ性能も旋回性能も圧倒的ッス。でも、その性能を安全に使うためのラインを陽太くんが先に読んでるッスね!」
若林「マシン性能ではなく、コーナー同士のつなぎ方で追いついたと!?」
エアリ「はいッス!陽太くんは一つのコーナーで無理に差を詰めてないッス。減速、旋回、立ち上がりを何度も積み重ねて、少しずつGT3との距離を削ったんスよ!」
エアリ「パワーでは負けても、軽さ、制動距離、速度を落とさないライン取りなら勝負できるッス!これがダウンヒルでロードスターが化ける理由ッスね!」
若林「ダウンヒルに入ってから、ロースペック勢が次々とポジションアップしてきましたアアアア!!!!」
オレンジ色のロードスターが、再びGT3のリアへ食らいつく。
その後方でも、軽量なマシンたちが高出力車のブレーキングを狙い、次々と距離を縮めていた。
若林「馬力だけでは順位を守れない!!軽さと技術が、ハイパワーマシンを追い詰めていくウウウウ!!!!」
若林「この吾妻GTから、目が離せなああああい!!!!」
若林「さあ、セクター4へ突入!!……うおおっとォォォ!?超高速域からのフルブレーキング勝負!!古賀加奈子の赤いM5が、イヨのGRスープラへ猛烈に迫るウウウウ!!!!」
古賀加奈子「……どういうこと?この子、まだブレーキを踏まないの……?」
キィィィィィィィィィンッ!!
どしゅうううううんッ!!
R115区間の終端。最も過酷な減速が要求される進入で、二台はほぼ同時にブレーキングへ入った。
赤いM5の巨体が激しく沈み込み、その真横からプリズムホワイトのGRスープラが、まるでコーナーへ飛び込むようにノーズを差し込む。
イヨ「イヨ、そこ行くよおおおッ!!」
古賀加奈子「ちょっと……ッ!その隙間、本気で入るつもり!?」
ギャアアアアアアンッ!!
イヨはABSを細かく作動させながら、スープラの短いノーズをM5のイン側へ押し込む。
しかし古賀も引かない。巨大なブレーキと四輪駆動を使い、赤い車体を路面へ押しつけたまま、コーナー入口を強引に奪い返す。
若林「二台が並んだアアアア!!!!重戦車M5と、軽快に飛び込むGRスープラ!!車格も性格もまるで違う二台が、同じブレーキングポイントで激突だアアアア!!!!」
古賀加奈子「軽いだけで前に出られると思わないことね。止めて、曲げて、踏み切るまでが勝負よ!」
イヨ「でもイヨのスープラ、まだ曲がれるもんッ!!」
イヨはブレーキをわずかに残しながら、スープラの向きを内側へ変える。
一方のM5はフロントタイヤへ強烈な荷重をかけ、巨体をねじ伏せるように旋回へ入った。
ドゴオオオオオンッ!!
若林「古賀加奈子、止まった!!いや、止めたァァァ!!!!二・四トン超のM5を、この短い距離で完全に減速させたアアアア!!!!」
エアリ「古賀さん、ただ強くブレーキを踏んだだけじゃないッス!進入前に車体を真っすぐ安定させて、四輪全部へ均等に仕事をさせてるッスよ!」
若林「重量を制動力へ変えたということですか!?」
エアリ「重量そのものが制動力になるわけじゃないッス。でもM5は大径ブレーキと回生ブレーキ、それに電子制御で姿勢を乱さず減速できるッス!」
エアリ「古賀さんは重い車体が前へ押し出される力を、タイヤの限界を超えないギリギリで受け止めてるッスね!」
若林「ではイヨは!?」
エアリ「イヨさんは逆ッス!スープラの小さな動きと短い反応時間を使って、M5が向きを変える前にインへ入ろうとしてるッス!」
エアリ「古賀さんが減速の完成度で守るのか、イヨさんが旋回の速さで入り込むのか!今は完全に別の強み同士の勝負ッスよ!」
イヨ「まだだよッ!イヨ、ここから内側へ行くもん!」
古賀加奈子「甘いわね。出口まで見えていない飛び込みは、ただのお願いよ!」
古賀はステアリングをわずかに戻し、M5の姿勢を早々に整える。そのままV8ハイブリッドの強烈なトルクを解放した。
ズオオオオオオンッ!!
イヨ「わああッ!?立ち上がり、速いッ!!」
若林「M5が前へ出るウウウウ!!!!イヨのスープラがインへ食い下がるが、古賀加奈子がコーナー出口の加速で押し返したアアアア!!!!」
エアリ「古賀さん、入口で勝負を終わらせなかったッス!早めに車体をまっすぐへ戻して、出口で一気にトルクを使ったッスね!」
エアリ「イヨさんは旋回中の速度で勝ってたッスけど、アクセルを全開にできるタイミングが少し遅れたッス。その一瞬でM5が前へ出たッスよ!」
イヨ「むぅぅ……あの赤いの、すっごく重そうなのに速いよぉ!」
古賀加奈子「見た目で決めつけると置いていくわよ。重い車には、重い車の勝ち方があるの。」
若林「古賀加奈子、GRスープラを抑え込んだまま、さらに前方へ迫るゥゥゥ!!!!赤いM5の快進撃が止まらなあああい!!!!」
その先では、内藤セリナのアウディR8がコーナー出口へ向けて加速していた。
古賀のM5は、先ほどまでの防御から一転。スープラを振り切ると、今度はR8のスリップストリームへ一直線に飛び込んでいく。
ドォォォォンッ!!
内藤セリナ「えっ!?なんであのデカいM5、もう後ろにいるのよ!?」
古賀加奈子「やっと上位の景色が見えてきたわね。さあ、そのR8がどれだけ長く前を守れるか試してみましょうか。」
若林「古賀加奈子、今度は内藤セリナへ照準を合わせたアアアア!!!!一周目とは別人のような攻撃性!!これは何かを温存していたのかアアアア!?」
エアリ「古賀さん、一周目は前の車へ無理に仕掛けず、ブレーキ温度とタイヤの摩耗を抑えてた可能性が高いッス!」
若林「つまり、二周目へ向けて準備していたと!?」
エアリ「そうッス!重いM5は一度タイヤを使いすぎると、後半で曲がらなくなるッス。だから一周目は集団の中で限界を探して、二周目に使える場所だけ全開にしてるッスね!」
エアリ「特に今の古賀さん、シフトダウンとブレーキ開始のタイミングが毎回同じッス。コースのどこで止まり、どこで踏めるか、全部整理できてる走りッスよ!」
古賀加奈子「最初から全部見せるほど、私は親切じゃないの。」
古賀加奈子「セリナ、後ろばかり気にしていると次のブレーキを外すわよ。前だけ見て走りなさい。」
内藤セリナ「余裕ぶってんじゃないわよッ!!絶対に抜かせないから!!」
若林「赤いM5がついに上位陣へ牙を剥いたアアアア!!!!止める力、曲げる技術、そして出口の暴力的トルク!!古賀加奈子の本領が、ここで一気に解放されたァァァ!!!!」
若林「岡田大成、驚愕!!自らの計算を上回る古賀加奈子の急襲!!数学的ドライビングが、ついに乱されたかアアアア!!!!」
ズオオオオオンッ!!
赤いM5がGR GTの横へ並び、巨大な車体から放たれる風圧で黒いマシンを外側へ追いやる。
岡田大成「一瞬で抜かれた……ッ!?あの巨体で、俺のラインへ割り込んできただと!?」
古賀は強烈なブレーキングでM5の姿勢を沈め、そのまま四輪へ駆動力を伝えてコーナー出口へ飛び出した。
岡田大成「制動から旋回への移行が速すぎる……!重さを消してるんじゃない。電子制御と荷重移動で、重いまま曲げてるのか……ッ!」
若林「岡田も食い下がる!!しかしM5が放つ圧力に、GR GTの最短ラインが次々と塞がれていくウウウウ!!!!」
若林「エアリさん!古賀加奈子の走り、本当に底が見えません!!」
エアリ「古賀さん、M5のxDriveで四輪のグリップを最後まで使い切ってるッス!」
エアリ「ブレーキング中は前輪へ荷重を乗せて向きを変えて、旋回が始まったら後輪へ駆動力を移して車体を前へ押し出してるッスね!」
若林「二・四トンを超える重量を、完全に制御していると!?」
エアリ「はいッス!重いマシンはタイヤへの負担が大きいッスけど、その代わり一度姿勢が決まれば高速域で安定するッス!」
エアリ「古賀さんは無理に軽い車みたいに振り回さず、ブレーキとアクセルで荷重を動かしてるッスよ!だから岡田くんが予測した減速地点より、ずっと奥まで進入できたッス!」
岡田大成「……新しい変数が増えた。それなら、もう一度計算し直すだけだ!」
古賀加奈子「計算は好きにすればいいわ。でも、私の後ろで考えている間に、レースは先へ進むわよ。」
その先では、内藤セリナのR8が激しくラインを変えながら逃げていた。
ドォォォォォンッ!!
古賀のM5がV8ツインターボを轟かせ、R8の背後へ一気に迫る。
内藤セリナ「……くッ!!後ろからM5が来たの!?」
バックミラーを埋め尽くす赤いフロントマスク。その圧力に、セリナは思わずステアリングを強く握り直した。
古賀加奈子「見つけたわ、セリナ。さっきまで随分と楽しそうに抜いていたじゃない。」
内藤セリナ「来ないでよ、この赤い重戦車ァァァ!!」
古賀加奈子「逃げるならもっと綺麗に走りなさい。そんなにミラーばかり見ていたら、次のコーナーで私に入口を渡すことになるわよ。」
若林「古賀加奈子、今度は内藤セリナへ完全にロックオン!!R8の背後わずか数十センチ!!重戦車が獲物を追い詰めていくウウウウ!!!!」
エアリ「セリナさん、R8の加速で距離を作ろうとしてるッス!でも古賀さんはその直後のブレーキング区間を狙ってるッスね!」
エアリ「M5は直線で無理に並ばず、R8が減速した瞬間へ大きなトルクを残したまま飛び込むつもりッスよ!」
内藤セリナ「絶対に入れさせない……ッ!このR8、簡単に抜けると思わないでよ!!」
古賀加奈子「そう。そのくらい抵抗してくれないと、追いかける意味がないわ。」
赤いM5と黄色いR8が、次のフルブレーキング区間へ向けて加速していった。
内藤セリナ「あァ〜……胃が痛くなってきた……ッ!私の邪魔をしないでよォォォ!!!!」
ヴァアアアアアアアッ!!!!
黄色いR8がV10を咆哮させ、次のストレートへ飛び出す。
古賀のM5を振り切ろうと、セリナはアクセルを床まで踏み抜いた。
内藤セリナ「このクソゴミムシがああああああッッ!!!!」
若林「出たアアアア!!!!内藤セリナ、ついに本性を剥き出しにしたァァァ!!!!」
古賀加奈子「あら。ずいぶん可愛らしい挨拶ね。」
内藤セリナ「……えへへ?私、何か言ってた?」
内藤セリナ「えへへへへへ……☆」
一瞬でいつもの笑顔へ戻り、何事もなかったかのように首を傾げる。
その時、無線へ冷静な声が割り込んだ。
眞鍋流世「図星だよ、セリナ。」
内藤セリナ「はァ!?聞いてたのォ!?」
眞鍋流世「全部。かなり綺麗に聞こえてた。」
若林「完全に聞かれていたアアアア!!!!内藤セリナ、暴言を誤魔化しきれなあああい!!!!」
内藤セリナ「うるさいッ!!今のはエンジン音だから!!」
眞鍋流世「人の言葉を話すV10なんて初めて見たよ。」
古賀加奈子「ふふ。賑やかな子ね。でも、後ろはもう空いていないわよ。」
ドォォォォンッ!!
赤いM5が再びR8の背後へ迫る。
内藤セリナ「だから来ないでって言ってるでしょおおおお!!!!」
次回:土湯温泉




