吾妻編第45話 トンネルストレートからの加速
内藤セリナ「えへへ☆おっ先ー!!誰でしたか?内藤でした〜☆おほほほほほ♡」
柳津雄介「……なァ!?またやられた!?」
柳津雄介「ほぉ……ッ?伊藤が来やがったのか。来れるもんなら……来いッ!!」
伊藤「マジでこの真ん中は地獄すぎるだろ!!どっちを向いても、排気量が倍以上の化け物ばっかりじゃねぇか!!」
ヴァアアアアアアアアンッ!!!!
若林「さらに……ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァ!!!!」
ギャアアアアアアアアア!!!!!!!
内藤セリナ「えへへ☆おっ先ー!!誰でしたか?内藤でした〜☆おほほほほほ♡」
柳津雄介「……なァ!?またやられた!?」
若林「来たアアアア!!!!内藤セリナのフミッパスライダアアアアアアッ!!!!!」
漆黒のR115トンネルを切り裂いたのは、アウディR8 V10 plusの甲高い絶叫だった。
十六位に沈んでいた内藤セリナは、アクセルを床まで踏み抜き、前方車両のスリップストリームを次々と乗り継いでいく。
若林「トンネルストレートで一気に九台を飲み込んだ!!相川律!柳津!岡田!コタロー!高槻!さらに、爆走していたイヨのGRスープラの鼻先まで奪ったアアアア!!!!」
白いスープラの横を、R8が光の矢となって通過する。
イヨ「わああっ!?速ーい!!」
内藤セリナ「イヨちゃんも速かったよー!でもセリナの方が、ちょっとだけ速かったみたーい☆」
イヨ「むむー!今度は負けないよー!」
若林「エアリさんも何か言ってくださいよ、いい加減ッ!!」
エアリ「言おうとしてたッスよー!!内藤さん、ただアクセルを踏みっぱなしにしてるだけじゃないッス!」
若林「では、あの九台抜きの正体は!?」
エアリ「前の車が作った空気の流れを、一台ずつ渡り歩いてるッス!一台の後ろで加速して、横へ出た瞬間に次の車のスリップへ入る。それをほとんど途切れさせずに繰り返してるんスよ!」
若林「まさにフミッパスライダー!!」
エアリ「しかも内藤さん、前の車が動くより先に次の隙間へ向かってるッス!相川くんや柳津くん、コタローくん、高槻くんが互いにラインを塞ぎ合った瞬間を、全部まとめて利用したッスね!」
エアリ「イヨさんのスープラは重力操作で一気に速度を上げたッスけど、内藤さんのR8は高速域での伸びを切らさなかったッス。トンネルの長さとV10の加速を最後まで使い切った結果ッスよ!」
トンネル出口の白い光が迫る中、セリナは上位陣のテールランプへ向けて楽しそうにウインクを飛ばした。
内藤セリナ「えへへ☆でも、まだまだだよ?目指すは一位〜〜〜♪」
R8が鮮やかにシフトアップし、さらに速度を伸ばす。九台を抜き去っても、セリナの右足には一切の迷いがなかった。
若林「内藤セリナ!狂乱の加速を見せながら、その姿はどこまでも明るくポジティブ!!命懸けの超高速バトルを、放課後のライブのように楽しんでおりますッ!!」
エアリ「内藤さんにとって、速さは怖がるものじゃなくて楽しむものなんスね!今のR8、本人のテンションが上がるほどエンジンまで元気になってるように見えるッス!」
内藤セリナ「カナタ!柊!今から背中を叩きに行くから、待っててねー☆」
若林「七位へ浮上したセリナが、その勢いのままREVIVE86とFL5を追撃するウウウウ!!!!絶叫のフミッパ、まだ止まりませええええんッ!!」
トンネルを抜けた瞬間、夕闇の吾妻スカイラインにV10エンジンの祝祭が響き渡った。
若林「さらに来たアアアア!!!!後方では十九位の菜園宗一郎が、古賀加奈子のM5とクリスタの488GTSをまとめてオーバーテイク成立だアアアア!!!!二キロのストレート!ハイパワー自慢の猛者たちが、次々と餌食になっていくゥゥ!!!!」
R115の超高速トンネルを抜ける直前。漆黒の闇から現れたポルシェ992 GT3の鋭いヘッドライトが、赤い重戦車とイタリアの跳ね馬を同時に射抜いた。
古賀加奈子「……は?ふざけてんじゃないわよおお!!そっちがその気なら、私だって……ッ!!」
どぎゃあああああッ!!
若林「しかしダメだああああ!!!!古賀が内藤の真似をしようとしても、まったくできなああああい!!大量オーバーテイク失敗ッ!!」
クリスタ「諦めなさいよ……ッ!私みたいに軽く『どがあああああ!!』って思い切りぶつけないと、あのフミッパ女はくたばらないわ……ッ!さっさと追いつくわよ!!」
菜園宗一郎は、ポルシェ特有のRRレイアウトが生み出す盤石のトラクションと、一分の隙もないシフトワークで二台をあっさり葬り去った。
菜園宗一郎「待ってたぜ、この時を……ッ!!86なんか、後からターボを付けたところで失速するだけだ!!」
菜園は遥か前方を走るカナタの影を睨み、毒を吐く。彼にとって水平対向エンジンの正統な使い手はポルシェであり、REVIVE86など紛い物にすぎなかった。
菜園宗一郎「ストレートこそ俺の大好きな区間だ!見せてやるぜ、コイツの凄さを!!そしてブレーキングで誇るポルシェが世界一なんだよオオオ!!!!」
アクセルを床まで踏み抜きながら、菜園はトンネル出口の先に待つ高速ブレーキングポイントを凝視する。ストレートで得た速度を、絶大な制動力で一瞬にして旋回へ変える――それこそがGT3の真骨頂だった。
十七位まで浮上した菜園は、さらに前を走る伊藤のスイフトスポーツと、柳津のM4を視界へ捉える。
若林「菜園があああッ!!86への対抗心を燃やし、ポルシェ最高峰の制動能力を武器に、上位へ殴り込みを開始だアアアア!!!!」
若林「エアリさん!菜園の二台抜きを解説してください!!」
エアリ「菜園くん、二台が並んで空気を押し合った瞬間を狙ったッス!古賀さんとクリスタさんは互いに加速ラインを潰し合って、その後ろだけ空気抵抗が薄くなってたんスよ!」
若林「そこへGT3が飛び込んだと!?」
エアリ「そうッス!しかも菜園くんは、抜いた後のブレーキングまで計算してたッスね!GT3なら速度を残したままでも、出口直後に一気に減速できると分かってたッス!」
エアリ「ただし、ストレートが得意と言いながら、本当の武器は進入まで含めた組み立てッス!菜園くん、かなり嫌な相手ッスよー!」
若林「そしてハイパワーカーに挟まれるスイフトスポーツZC33S!伊藤だアアアア!!!!」
若林「前には三リッター直列六気筒ターボの怪物、柳津のM4!後ろには『ブレーキ世界一』を豪語する菜園のGT3!この三台による地獄の戦いを見逃すなアアアア!!!!」
トンネルを抜けた直後の緩やかな下り。わずか一・四リッターターボ、九百七十キロの軽量ボディで戦う伊藤のスイフトスポーツは、巨大な猛獣に囲まれた龍の落とし子のような状態だった。
前方からはBMW M4の太い排気音。後方からはポルシェ特有の乾いた咆哮が迫り、黄色いスイスポの小さな車体を激しく圧迫する。
柳津雄介「ほぉ……ッ?伊藤が来やがったのか。来れるもんなら……来いッ!!」
伊藤「マジでこの真ん中は地獄すぎるだろ!!どっちを向いても、排気量が倍以上の化け物ばっかりじゃねぇか!!」
伊藤はステアリングを必死に押さえ込み、前後から押し寄せる風圧へ耐える。軽量さという武器は、超高速域では車体が浮き上がる恐怖へと変わっていた。
それでも伊藤はアクセルを抜かない。
伊藤(だけどよ……俺は実家の『伊藤自動車』の看板を背負ってんだ。ここでビビったら、親父にも仲間にも顔向けできねぇ……ッ!!)
伊藤(行けええ、俺のスイフト!!立ち上がりの速さなら、負けてねぇんだよッ!!)
柳津雄介「……ふん。スイスポ風情が、この速度域でよくついてくる。だが、このDTMマシンの加速からは逃げられんぞ。」
柳津はミラーへ視線を移し、後方から迫る白いGT3を捉えた。
柳津雄介「……ん?後ろのポルシェ、妙にブレーキを遅らせてやがるな……。」
伊藤「前からM4!後ろからポルシェ!!どっちもまとめて来やがれええええ!!!!」
菜園宗一郎「……退け、スイスポ。お前のような非力な車に、ポルシェの進路を塞ぐ権利はない!!ストレートの終わり、その刹那のブレーキングで三台まとめて沈めてやるッ!!」
若林「地獄のサンドイッチだアアアア!!!!柳津のプライド!伊藤の熱血!そして菜園の執念!!三台の排気音と火花が、除雪ステーションの闇を切り裂いていくウウウウ!!!!」
エアリ「菜園くん、二台がブレーキへ入るギリギリまで待ってるッス!M4は重量がある分、姿勢を整えるために少し早く減速する。伊藤くんのスイスポは軽いッスけど、この速度だと車体が不安定になりやすいッス!」
若林「その弱点を同時に狙っていると!?」
エアリ「そうッス!菜園くんはGT3の制動力を信じて、二台より奥まで速度を残したまま突っ込んでるッス!外側のM4と内側のスイスポ、その間にできる一瞬の隙間を狙ってるッスよ!!」
ギャアアアアアアアンッ!!
R115区間の終端。高速ベントを抜け、フルブレーキングへ入った瞬間、白い992 GT3が地面へ吸いつくような姿勢で二台の間へ飛び込んだ。
若林「菜園が前に出たアアアア!!!!992 GT3、これで十五位だアアアア!!超高速域からの精密なブレーキング!!柳津のM4を外側から、伊藤のスイスポを内側から同時に切り裂いたアアアア!!!!」
若林「伊藤は粘って十六位!!柳津雄介が痛恨の十七位へ後退だアアアア!!!!」
菜園宗一郎「言ったはずだ……ブレーキングで誇るポルシェこそが世界一だと!!重量級のセダンも、非力なハッチバックも、この制動力の前では止まっているに等しいッ!!」
菜園は鮮やかにステアリングを切り、二台を一気に視界の後方へ追いやる。RRレイアウトと強力なブレーキが、極限の速度域での逆転を可能にしていた。
伊藤「うわああああッ!!マジかよ、あのポルシェ!!あんな奥まで突っ込めるのか!?」
伊藤はギリギリのラインで柳津のM4を抑え込み、十六位を死守する。それでも、目の前で離れていくGT3のリアウイングを前に、止まる力の差を見せつけられていた。
伊藤「クソッ……菜園には届かなかった!でも、柳津には絶対抜かせねぇぞ!!」
柳津雄介「……馬鹿なッ!?この俺のM4が、ポルシェごときに……ッ!おのれ菜園!それに小癪なスイスポめ!!この屈辱、必ず晴らしてやるッ!!」
エアリ「菜園くん、加速だけじゃなく減速まで全部ひとつの勝負として使ってるッス!ただ、伊藤くんもM4を抑えたまま立ち上がってる!この黄色いスイスポ、まだ簡単には沈まないッスよー!」
若林「下位集団も地殻変動だアアアア!!!!菜園がポルシェの誇りを見せつけて一気に浮上!!セクター4の終わり、順位は刻一刻と残酷なまでに書き換えられていくウウウウ!!!!」
若林「しかも先頭グループの様子もおかしい!!!!山吹花から、ヤバすぎるオーラが全開だアアアア!!!!」
若林「先ほどの体当たりと罵倒が、生意気に生まれ変わった氷の女王の逆鱗へ完全に触れてしまったのかアアアア!!??」
セクター4の終わり。ちとせにトップを奪われ、「お尻眺めててね〜☆」と宣言された花のVABから、すべてを拒絶するような冷たい威圧が噴き上がる。
山吹花「……あら、ちとせさん。その程度のお遊びで満足しちゃったのかしら?」
ちとせ「もへ〜……?」
山吹花「さっきの体当たり、重いだけで全然スマートじゃなかったわ。時代遅れのダンプカーみたい。」
ちとせ「おじさんの愛情表現、足りなかったかなぁ〜☆」
山吹花「愛情?私、おじさんの加齢臭が漂う車を眺めて走る趣味なんてないの。」
花は人を食ったような冷笑を浮かべ、DCCDを回頭性重視へ切り替えた。
山吹花「そのRZ34、そろそろ壊れるんじゃない?私の『真実の氷』で、うるさいエンジンごと永久に黙らせてあげるわ。」
ちとせ「……ッ!」
山吹花「あなたが獣神なら、私はその神すら凍らせる世界の終わりよ。そこをどきなさい。」
山吹花「あなたの時代は、ここで私が終わらせてあげる。……あら、もう終わってるかもね?」
若林「女王のオーラが、吾妻の夜を完全に支配しようとしているゥゥ!!!!」
セクター5入口。ちとせのRZ34が巻き起こす吹雪を切り裂き、スバルブルーのVABが巨大なGTウイングを震わせながら横へ並ぶ。
若林「VABが前へ出ようとしているぞオオオオ!!!!全二周、まだ一周目後半だというのに、この勢い!!まるで今この瞬間へすべてを賭けているような加速だアアアア!!!!」
若林「エアリさん!この山吹花の走り、どう見ますか!?」
エアリ「花さん、怒りでただ突っ込んでるように見えるッスけど、操作自体はすごく細かいッス!」
若林「冷静さは残っていると!?」
エアリ「はいッス!DCCDを回頭性重視へ寄せて、前へ向きを変える力を強めてるッスね!ちとせさんのRZ34が吹雪で視界と路面感覚を乱してくるから、その前に鼻先を入れて主導権を奪うつもりッス!」
若林「しかし、速度が異常です!!」
エアリ「今の花さん、自分の限界じゃなく、ちとせさんを抜くために必要な速度だけを見てるッス!だからブレーキを遅らせて、VABの四輪駆動で無理やり路面へ押しつけてるんスよ!」
エアリ「ただし危険ッス!このまま二台が同じラインへ入れば、出口で必ずぶつかるッス!ちとせさんが引くか、花さんがさらに外へ逃げるか……次の一瞬で決まるッスよ!!」
ちとせ「もへ〜……花ちゃん、ずいぶん冷たくなったねぇ〜。」
山吹花「黙って前を譲りなさい。今の私に逆らっていい人なんて、一人もいないのよ。」
青いVABと銀色のRZ34が、吹雪と女王の威圧をぶつけ合いながらセクター5へ雪崩れ込んだ。
エアリ「……ふふ、ここで来ないとちとせさんは思ったんでしょうね。体力を温存し、2ラップ目に勝負をかけるのがセオリー。ですが……花さんは、セオリーなんて言葉すら、凍らせて粉砕するつもりのようです。」
花はちとせのサイドミラーに自らの冷徹な視線を叩きつけるように、さらに追い打ちをかける罵声を通信機越しに響かせた。
山吹花「……ねえ、ちとせさん。そのRZ34、さっきから後ろで見ているとフラフラしていて、寿命間近の老人の散歩に付き合わされている気分だわ。」
山吹花「そんなに疲れているなら、その鉄屑をコースの外へ放り投げて、お家で大人しくお粥でも食べていたらどうかしら?」
ちとせ「もへ〜……?おじさんは、まだまだ元気いっぱいだよぉ〜☆」
山吹花「黙れ、この老害!!その『もへ〜』って間の抜けた声を聞くだけで、空気が汚れるのが分かるわ!」
山吹花「私の視界から消えなさい。このコースに神なんていらない。必要なのは、絶対的な支配者である私だけよ!」
山吹花「さあ、凍りついて永遠に眠りなさいッ!!」
ごおおおおおおおッ!!!!
花のVABが強引にイン側へ飛び込む。ちとせの吹雪と花の冷気が激突し、路面を覆う氷が一斉に爆ぜ飛んだ。
若林「山吹花、止まらないッ!!先輩のちとせを老害呼ばわりだアアア!!獣神を侮辱し、その頂点から引きずり落とそうというのかアアアア!!!!」
銀色のRZ34と青いWRX STI VABが、互いのドアをかすめる寸前まで接近する。
若林「接触スレスレで突入するRZ34とWRX STI VABイイイイ!!!!嫌なムードしかなあああい!!それでも目を離したくなあああい!!!!」
若林「エアリさん!この二台、どうなっていますか!?」
エアリ「花さん、イン側へ入った時点では前へ出切れていないッス!ちとせさんのRZ34が外側のカントを使って、まだ速度を残してるッスね!」
若林「では花は無理に突っ込んだだけですか!?」
エアリ「違うッス!花さんはDCCDでVABの向きを強引に変えて、出口までに鼻先だけでも前へ出そうとしてるッス!でも、ちとせさんもブレーキをほとんど残さず、そのまま並走してるッスよ!」
エアリ「今は花さんの四輪駆動と、ちとせさんの安定したFR旋回が完全に拮抗してるッス!どちらかが数センチでもラインを外せば、すぐ接触ッス!」
山吹花「……ッ!!」
ちとせ「……ッ!!」
二人は一歩も引かない。
凍てつく風を切り裂きながら、青と銀の二台は接触寸前の距離を保ったまま、セクター5の出口へ突進していった。
おまけ
エアリ「ところで若林さん、なんかしみったれた顔してるッスね!そんな顔じゃ実況まで湿っぽくなるッスよ!」
若林「えっ!?今この接触寸前の大一番で、なぜ私の顔の話を――」
エアリ「砂の風、浴びせてあげるッス!!そーらああああ!!」
ぶわああああああッ!!
解説席に突然、細かな砂を含んだ強烈な風が巻き起こる。若林の髪とネクタイが激しく跳ね上がり、机の原稿が一斉に宙へ舞った。
若林「うわあああああ!!目が!口が!
実況資料が全部飛んでいくうううう!!!!」
エアリ「これで少しはシャキッとしたッスね!」
若林「シャキッとする前に砂まみれですよォ!!」
エアリ「大丈夫ッス!山の砂は気合いが入るッスよー!」
若林「そんな効能、初めて聞きましたアアアア!!!!」
その間にもモニターの中では、花のVABとちとせのRZ34が接触寸前のまま並走を続けている。
若林「って、ふざけてる場合じゃなあああい!!先頭二台、まだ一歩も引いておりませええええん!!!!」
エアリ「はいッス!若林さんも元気になったところで、ここからもっと激しく実況してもらうッスよー!」




