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86伝説エーペックス  作者: SAI
吾妻GT編
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504/534

吾妻編第44話 進撃のREVIVE86

若林「土湯峠区間を……赤い戦闘機が抜けたアアアア!!!!あの難攻不落のヘアピン群を制し、腹切カナタのREVIVE86が猛スピードで駆け抜けていくゥゥ!!!!」


コタロー(……気味が悪い。あの86、何を狙ってやがる……ッ?)


腹切カナタ「……何も仕掛けはしない。相手はハイパワーだからこそ、こっちはコーナーへ向けて全力で突っ込むんだ……ッ!」

若林「土湯峠区間を……赤い戦闘機が抜けたアアアア!!!!あの難攻不落のヘアピン群を制し、腹切カナタのREVIVE86が猛スピードで駆け抜けていくゥゥ!!!!」


吾妻スカイライン、セクター3からセクター4へ。曲がりくねったテクニカル区間が終わり、前方にはR115区間――通称「二キロのトンネルストレート」が巨大な口を開けて待っていた。


NAからターボへ進化したREVIVE86にとって、ここは真価を問われる最大の試練であり、最大の好機でもある。アクセルを踏み抜いたカナタの視界、その遥か前方に黒い流線形のシルエットが浮かび上がった。


イタリアの至宝、パガーニ・ウアイラ。


カーボンチタンのボディがトンネル照明を妖しく反射し、巨大なV12ツインターボの音が壁面を震わせている。


若林「ここからはR115区間!!二キロのトンネルストレートが待ち受けるッ!!トヨタ86ターボが捉えたのは……黒いウアイラだアアアア!!!!」


若林「二百八十五馬力のハチロクが、七百馬力を超えるハイパーカーへ喧嘩を売ろうというのかアアアア!!??」


ギュオオオオオオオッ!!


ウアイラのバックミラーへ、赤いREVIVE86がじわじわと映り込む。その姿を確認したコタローは、普段の浮世離れした表情をわずかに曇らせた。


コタロー「REVIVE86が来ただと……!?どうやって、あの岡田のGR GTを倒したんだ……ッ!?」


風を読む天才であるコタローは、後方で巻き起こった乱気流から、岡田とカナタの激闘を感じ取っていた。しかし、圧倒的な出力を誇るGR GTが86に敗れる結末は、彼の描いた風のシナリオには存在していなかった。


コタロー「俺の読みじゃ、GR GTのパワーがハチロクを押し潰すはずだった。だが……風向きが変わった。」


コタロー「あの86は風に逆らったんじゃねぇ。乱れた空気の隙間を縫って、ここまで登ってきやがったのか……。」


コタローはウアイラのアクティブエアロフラップを細かく動かし、高速域の姿勢を整える。トンネル内の空気が押し分けられ、その後方には一筋のスリップストリームが形成された。


その風の道へ、カナタの86が迷いなく飛び込む。


腹切カナタ「見つけた……ッ!ウアイラが作った風の道だ!!」


REVIVE86の過給圧が高まり、赤いボディが一気に前へ引き寄せられる。絶対的な加速力では届かなくても、空気抵抗を削れば食らいつくことはできる。


コタロー「……面白い。GR GTを食ったその実力、俺のウアイラで測ってやるよ。」


コタローはパドルシフトを弾き、アクセルをさらに深く踏み込んだ。


コタロー「抜かせるわけがねェ……!!

とことん、この俺に付き合ってもらうぞ……ッ!!!」


ドゴオオオオオオオオッ!!!!


メルセデスAMG製V12エンジンが、ジェット機のような咆哮を放つ。ウアイラが一気に加速し、コタローの身体を強烈なGがシートへ押しつけた。


腹切カナタ「上等だァ!!七百馬力だろうが億越えだろうが、離されてたまるかよッ!!」


REVIVE86もターボを限界まで回し、黒いウアイラの真後ろへ張りつく。赤と黒の二台が、轟音を重ねながらトンネルの闇を切り裂いていった。


若林「さあ、トンネル内での異種格闘技戦だアアアア!!!!庶民のヒーロー86が、億越えのハイパーカー・ウアイラへどこまで通用するのかッ!!」


若林「夢を見せてくれ、腹切カナタアアアア!!!!」


オレンジ色の照明が流れるトンネルの中で、赤と黒の光の帯が激しく伸縮を繰り返す。


若林「この二キロに渡るトンネルストレート!現在は照明が完全に消灯しています!!まさに闇のチューブ!!その真っ暗なトンネルで……赤い戦闘機がウアイラへ並ぶウウウッ!!!!」


R115区間、全長二キロの長大なトンネル。ヘッドライトだけが頼りの漆黒を、カナタのREVIVE86が弾丸のように突き進む。


ギュオオオオオオッ!!


一瞬、赤い86のフロントが黒いウアイラの横へ届く。


だが――。


ドゴオオオオオオオッ!!!!


コタローがアクセルを深く踏み込んだ瞬間、七百馬力を超えるV12ツインターボが本領を発揮した。ウアイラは闇の奥へ吸い込まれるように加速し、REVIVE86との距離をみるみる広げていく。


若林「離れる!!やはり絶対的なパワー差か!!ウアイラが赤い86を突き放していくうううう!!!!」


コタロー「どうした、腹切。風の道へ入った程度で、このウアイラと並べると思ったか?」


カナタは表情を崩さず、遠ざかるテールランプを静かに見据えた。焦って過給圧を上げても、この直線では追いつけない。その事実を誰より早く受け入れ、頭の中で次の区間を組み立てていく。


腹切カナタ「……直線じゃ無理だな。」


コタロー「諦めたか?」


腹切カナタ「いや。お前が速いのは、ここだけだ。」


コタロー「……何?」


腹切カナタ「今は離れていい。トンネル出口の減速で、全部返してもらう。」


カナタは無理に追わず、ウアイラが作る乱気流の中心からわずかに位置をずらす。前方のブレーキランプが点灯する、その一瞬だけを冷静に待っていた。


若林「カナタ、追わない!!ここで無理にアクセル勝負を仕掛けず、トンネル出口へ照準を合わせたかッ!?」


エアリ「そうッス!直線でウアイラへ付き合ったら、タイヤもブレーキも消耗するだけッス!カナタくん、離されたんじゃなくて、自分から次の勝負へ切り替えたッスね!」


闇の先に、トンネル出口のわずかな光が見え始める。


コタロー「抜かせるわけがねぇ……このまま出口まで引き離す!!」


腹切カナタ「好きにしろ。」


カナタは小さく息を吐き、ブレーキングポイントへ視線を固定する。


腹切カナタ「その代わり、出口で後ろを見るなよ。」


コタロー(……なんのことだ?カナタのパブリック通信での『出口で後ろを見るなよ』……それが、どういう意味なんだよォ……ッ?)


黒いウアイラはなおも圧倒的な加速でトンネルを駆け抜ける。だがコタローの胸には、先ほどまでなかった小さな違和感が残っていた。


コタロー(直線では完全に俺が上だ。なのに、あいつは焦っていなかった……。まるで出口で何かが起きると分かっているみたいじゃねぇか。)


バックミラーには、離れた位置を一定の間隔で追う赤いREVIVE86。無理に追いつこうともせず、ただ静かに機会を待っている。


コタロー(……気味が悪い。あの86、何を狙ってやがる……ッ?)


トンネル出口の光が、急速に大きくなっていく。


コタロー「……来るなら来い、腹切。どんな仕掛けでも、このウアイラで潰してやる……ッ!!」


その言葉とは裏腹に、コタローの視線は一瞬だけバックミラーへ吸い寄せられていた。


腹切カナタ「……何も仕掛けはしない。相手はハイパワーだからこそ、こっちはコーナーへ向けて全力で突っ込むんだ……ッ!」


前を走るパガーニ・ウアイラが生み出す強烈な乱気流。カナタは闇の中でその風の尻尾を正確に掴み、二百八十馬力――実測約三百馬力のREVIVE86を限界まで回し切る。


ぐわあああああッ!!!!


コタロー「……なァ……ッ!?」


離れていたはずの赤い86が、トンネル出口を前に一気に距離を詰める。その瞬間、カナタの口元にほんの一瞬だけ笑みが浮かんだ。


ごおおおおおおッ!!!!


若林「赤い戦闘機がブレーキングで飛び込んだああああ!!!!アウトサイドから、超レイトブレーキングだああああ!!!!」


ヴァアアアアアアア……ッッ!!


ウアイラが減速へ入ったその外側を、REVIVE86が速度を残したまま並びかける。軽い車体が鋭く向きを変え、コーナー出口へ先に鼻先を差し込んだ。


コタロー「踏ん張れウアイラァ!!86なんかの非力な買い物車に負けてんじゃねエエエエ!!!!」


だが、赤い戦闘機はそのまま前へ出る。


ギュオオオオオオッ!!


コタロー「……負けてんじゃねぇかよォォォ!!!」


コタローは目を見開き、口を大きく歪めた変顔のまま叫ぶ。黒いウアイラの前方では、カナタのREVIVE86が何事もなかったかのように次のコーナーへ消えていった。


腹切カナタ「……だから言っただろ。出口で後ろを見るなって。」


コタロー「ありえない……ッ!!七百馬力のウアイラに、三百馬力程度の86ターボがついてくるだと!?バケモノなのか……ッ!!」


バックミラーに映る赤い光が、まるで離れない。REVIVE86はウアイラが切り裂いた空気の道へ正確に入り込み、スリップストリームを最大限に利用して速度を伸ばしていた。


コタロー「俺の風を……逆に利用してやがるのか……ッ!」


腹切カナタ「お前が速いほど、後ろの空気抵抗は小さくなる。悪いな……その風、借りるぞ。」


カナタは冷静にウアイラの背後へ食らいつき、勢いを失わないまま次の車へ照準を合わせる。


前方に現れたのは、赤いドラゴン――高槻健永のダッジ・バイパー。


若林「行ってしまうウウウウ!!!!カナタのREVIVE86、ウアイラのスリップを使ってさらに加速!!前を走る赤いドラゴン、ダッジ・バイパーまで射程圏内だアアアア!!!!」


若林「エアリさん!ウアイラとの圧倒的な馬力差を、どうやって覆したのでしょうか!?」


エアリ「カナタくんは、直線だけでウアイラを倒したわけじゃないッス!トンネル内ではコタローくんの真後ろについて、空気抵抗をできる限り減らしてたんスよ!」


若林「つまり、七百馬力の加速を利用したと!?」


エアリ「その通りッス!ウアイラが作った速い空気の流れへ86を乗せて、出口のブレーキングで勝負したッス!パワーではなく、軽さと減速性能を活かしたオーバーテイクッスね!」


エアリ「しかも抜いた後も、ウアイラから受け取った速度を無駄にしてないッス!そのまま高槻くんのバイパーまで狙ってる……カナタくん、コース全体を一本の流れとして使ってるッスよ!」


赤いバイパーのコックピットで、高槻がバックミラーへ視線を向ける。そこには、黒いウアイラを従えるように迫る赤い86が映っていた。


高槻健永「なにィ……!?86がウアイラの前へ出ただと……ッ?」


高槻は信じられないものを見るように目を見開き、何度もミラーを確認する。


高槻健永「ついてこられるはずがない……。それなのに、なんでお前はここまでついてこれるんだ……ッ!?」


腹切カナタ「車の値段も馬力も、ここじゃ順位を守ってくれない。」


高槻健永「……ッ!」


腹切カナタ「次はお前だ、高槻。」


REVIVE86のターボが再び鋭く唸る。


高槻健永「面白ぇ……ッ!非力な86が、この赤いドラゴンに噛みつけると思うなよォ!!」


若林「ウアイラを撃破した赤い戦闘機が、今度はダッジ・バイパーへ襲いかかるうううう!!!!」


アメリカンマッスルの頂点、八・四リッターV10を積むダッジ・バイパー。圧倒的なトルクで引き離しにかかるはずが、赤いREVIVE86は背後へ食らいつき、ついには横へ並びかけた。


ギャギャアアアアアアンッ!!!!


高槻健永「……お前、毎回アウトから行くのが好きなのか!?ふざけてるのか!?そんなところから入ったら、壁とラインの隙間しか残らねぇぞ!!何がどうなってやがる!?」


カナタはバイパーのアウト側、トンネル壁面すれすれの死のラインへ迷わず飛び込む。普通なら遠心力で壁へ吸い寄せられる。しかしREVIVE86は、触れる寸前の距離を保ったまま鋭く向きを変えた。


腹切カナタ「……外側の方が、速度を残せる。」


高槻健永「それで曲がれるわけがねぇだろォ!!」


だが赤い86は曲がった。


リアをわずかに流し、前輪へ荷重を残したまま旋回。バイパーが巨体を抑え込むために減速した一瞬で、カナタはその前へ滑り込んだ。


若林「またしても赤い戦闘機が前へエエエエエ!!!!ウアイラとバイパー!二台のモンスターマシンを連続撃破ッ!!闇のトンネルで、ハチロクがジャイアントキリングを成し遂げたアアアア!!!!」


高槻健永「嘘だろ……八・四リッターが、ハチロクにコーナーで置いていかれただと……ッ!?」


若林「エアリさん!今の動きを詳しくお願いします!!」


エアリはモニターを凝視し、赤い86の挙動を何度も巻き戻した。


エアリ「カナタくん、バイパーと立ち上がり勝負をしなかったッス!V10のトルクと真正面から戦ったら、まず勝てないッスからね!」


若林「では、あのアウト側への進入は!?」


エアリ「コーナー入口の速度を極限まで残すためッス!アウト側は距離が長い代わりに、ステアリングを切る量を少なくできるッス。そこでリアを少しだけ滑らせて、車体の向きを先に変えたんスよ!」


若林「慣性ドリフトですか!?」


エアリ「そうッス!ただし派手に流すドリフトじゃないッス。ほんの一瞬だけリアを外へ出して、前へ進む速度をほとんど殺さずに旋回してるッス!」


エアリ「しかもサイドブレーキは使ってないッスね。アクセルを一瞬抜いて前へ荷重を移し、ステアリングとアクセルだけで角度を作ってるッス!戦闘機が空中で機首だけを切り返すみたいな動きッスよ!」


若林「壁すれすれだったのは、計算だったと!?」


エアリ「はいッス!カナタくんは車幅、滑る量、出口までの距離を全部感覚で合わせてるッス。ただし、少しでもタイミングを間違えれば即クラッシュッス。大胆に見えて、実際はものすごく繊細な操作ッスよ!」


エアリ「ウアイラから得た速度をスリップで維持して、バイパーには減速を強制させ、自分だけ速度を残した。二台を別々に倒したんじゃなく、ひとつの流れでまとめて抜いたッス!」


トンネル出口の光が迫り、赤い86が闇から飛び出す。


若林「土湯除雪ステーション手前の高速ベントオオオオ!!!!R115トンネルを抜けた直後、今度は純白のシビックタイプR FL5が、背後の赤い戦闘機に襲われるうううう!!!!」


前方を走る柊蒼真がバックミラーを見る。そこにはウアイラとバイパーを従えたように迫る、カナタのREVIVE86が映っていた。


柊蒼真「……もうここまで来たのか。」


若林「ウアイラとバイパーを食った勢いは本物だ!!次なる標的は純白の追跡者、柊蒼真のFL5!!これぞ赤い戦闘機だアアアアッ!!!!」


腹切カナタ「……次だ。」


カナタは静かにシフトを落とし、純白のFL5へ照準を合わせた。


その走りを、遠く離れた部屋のテレビで見つめている者がいた。


ピンク色のお団子頭を揺らしながら、ソファへ身を沈める天真爛漫な女性。テーブルには開けかけのお菓子と、走行データを映したタブレットが置かれている。


???「……ふふっ。ちょっと言い過ぎだよ、エアリちゃん。」


女性は楽しそうに笑いながら、画面の中でアウト側を駆け抜けるREVIVE86を指差した。


???「でも、確かにあの緻密なコーナリングができるようになるまでは、ものすごく時間がかかるんだよね〜。」


映像を一時停止し、コーナー進入直前のカナタの86を拡大する。


???「まず大事なのは、ただ遅くブレーキを踏むことじゃないの。コーナーへ入る前から、どこで前の荷重を増やして、どこで後ろを少し軽くするかを決めてるんだよ。」


指先で画面をなぞると、86の軌道に沿って一本の線が表示された。


???「アクセルを一瞬だけ緩めると、重さが前へ移るでしょ?その瞬間にステアリングを入れて、リアがほんの少しだけ外へ動くのを待つの。」


???「でも滑らせすぎたら失速するし、足りなければ曲がれない。だから、車体が向きを変え始めた瞬間にアクセルを戻して、前へ進む力へ変えるんだよ〜。」


女性は今度はバイパーとの位置関係を映す。


???「カナタくんは、バイパーより後から曲がり始めたように見えるけど、実際はもっと早い段階から車の姿勢を作ってるの。だから外側の長いラインでも、出口へ向くのは早いんだよね。」


???「壁ぎりぎりを通ったのも偶然じゃないよ。タイヤが滑る距離、車幅、速度、それから出口までの角度を、全部ひとつの動きにまとめてるの。」


映像の中で、赤い86がバイパーの前へ出る。


???「つまりこれは、勢いだけのドリフトじゃないの。速く走るために必要な分だけ滑らせる、すごく静かな慣性ドリフトなんだよ。」


女性は満足そうにお菓子を一つ口へ放り込み、再びテレビへ視線を戻した。


???「ふふっ……カナタくん、ずいぶん上手になったね〜。でも、次のFL5は簡単にはいかないかも。」


※この???の人は制作中の大長編のエンジェル46編に出てきます。


吾妻スカイラインからR115へ接続し、長大なトンネルを抜けた先に待ち受けるのは、土湯除雪ステーションへ続く緩やかな超高速左ベント。


その区間で、五位を走る柊蒼真のホンダ・シビックタイプR FL5の背後へ、腹切カナタのTOYOTA 86 REVIVEがぴたりと張りついた。


夜闇から飛び出した真紅の弾丸は、FF最速級のコーナリングマシンであるFL5を相手に、まったく引けを取らない旋回速度でプレッシャーをかけ続ける。


柊蒼真「カナタかよ……ッ!!同じ二・〇リッターターボになったからには、こっちも容赦しねぇぞ!!」


蒼真はバックミラーに映る赤い86を確認し、口元をニヤリと歪めた。


かつてはNAの非力なハチロクだった。しかし現在のREVIVE86は過給機を搭載し、シビックと同じ二・〇リッターターボの領域へ足を踏み入れている。


残る違いはFFとFRという駆動方式、そしてドライバーの腕だけだった。


柊蒼真「タイプRの誇りにかけて、ここで沈むわけにはいかねぇ!!FFのトラクションを見せてやるぜ!!」


蒼真はステアリングを強く握り、VTECターボの咆哮とともにFL5を高速ベントのアウト側まで膨らませる。


フロントタイヤがアスファルトを食らい、リアが鋭く追従するホンダ伝統の旋回。


しかし、カナタの86はそのイン側へ、カミソリで切り裂くようにノーズをねじ込んできた。


腹切カナタ「柊……そのシビックが速いのは知ってる。」


カナタは高速Gを受けながら、冷静な視線を前方へ向ける。


腹切カナタ「でも、今のREVIVE86は……もっと速い。」


赤と白の二台が横並びとなり、除雪ステーションの照明が激闘をストロボのように照らし出す。


若林「土湯除雪ステーション前の超高速ベント!!逃げる純白のシビック!追う真紅の86!!二・〇リッターターボ同士の意地が、火花となって散り咲くウウウウ!!!!」


セクター4。広大な雪原を背景に、ホンダの赤バッジが激しく咆哮を上げる。


柊はK20Cエンジンをレッドゾーン寸前まで回し切り、甲高いターボサウンドとともにFL5を強引に前へ押し出した。


柊蒼真「HONDAのVTECを舐めるなよ……ッ!!岡田にも、カナタにも負けねぇ!!!!」


蒼真の瞳には、かつてないほどの闘志が宿っていた。先行するサテラのエボVII、そして背後から猛追するカナタの86。同世代のライバルたちに、FF最強の称号を持つシビックが遅れを取ることは許されない。

FL5の巨大なリアウイングが空気を切り裂き、強烈なダウンフォースで路面を鷲掴みにする。


腹切カナタ「……柊のシビック、やっぱり速いな。ストレートの伸びも、コーナーの安定感も以前とは桁違いだ。」


腹切カナタ「さすがはFF最速マシンだな。」


背後につけるカナタは、ステアリングを握る手へ静かに力を込めた。REVIVE86のターボが甲高く唸り、純白のFL5が作り出すスリップストリームへ食らいついていく。


腹切カナタ「でも、この86はもう『非力なハチロク』じゃない。俺のREVIVE86は、柊のVTECと同じ領域で戦える……ッ!」


カナタは除雪ステーション前の広い路面を利用し、イン側ではなく、カントの強いアウト側へノーズを向けた。


若林「カナタが動いたアアアア!!!!シビックのVTECターボサウンドへ、86の過給音が重なるッ!!」


若林「柊の強烈なFFトラクションに対し、カナタはアウト側からの大外刈りを狙うのかアアアア!?またしてもアウト!!正気なのかッ!!?」


柊蒼真「また外からだと……ッ!?そのラインで俺のFL5を抜けると思うなよ!!」


腹切カナタ「インを守るなら、外から行くだけだ。」


エアリ「熱いッスねー!!柊くんの『絶対に負けない』って気迫で、FL5が限界ぎりぎりまで前へ進んでるッス!」


若林「しかしカナタも譲らない!!」


エアリ「カナタくんはアウト側のカントを利用して、速度をなるべく落とさずに旋回するつもりッス!ただ、コーナー出口では二台のラインが一気に近づくッスよ!」


エアリ「柊くんが前輪のトラクションで先に立ち上がるか、カナタくんが大きな旋回半径で速度を残すか……出口で勝負が決まるッス!」


純白のFL5と真紅のREVIVE86。


ホンダのVTECターボと、トヨタ86の水平対向ターボが咆哮を重ねる。二・〇リッター同士の意地を懸けた戦いは、除雪ステーションを通過する最高速の瞬間へ突入した。


そして――。


若林「ウオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアア!!!!見てください!!後方から、とんでもない弾丸が飛んできたアアアア!!!!」


若林「十二位を走っていたイヨのGRスープラだ!!トンネルストレートで五台を一気にごぼう抜きだアアアア!!!!」


漆黒のR115トンネル。先行車のテールランプが連なる中、プリズムホワイトのGRスープラが濃いピンク色の重力波動を撒き散らし、物理法則を置き去りにするような加速を見せた。


イヨ「えっへん!少しだけ“壊す側”になっちゃうよ!スープラ、みんなを押し潰しちゃえ〜!」


イヨが萌え袖の手でステアリングを叩く。


ゴワシャアアアアアッ!!


瞬間、周囲の空間が大きく歪んだ。


前を走っていた相川律のR35 NISMO、柳津雄介のM4、美保の400Rを含む五台が、見えない巨大な手で路面へ押さえつけられたように失速する。


その横を、自らの重力だけを軽くしたGRスープラが白い閃光となって駆け抜けた。


ごおおおおおおおッ!!!!


若林「信じられないッ!!まるで周囲の車が止まっているようです!!R35 NISMOすら、スープラの加速の前では静止して見えるッ!!」


若林「イヨが十二位から一気に七位!!バイパーとウアイラの背後までジャンプアップだアアアア!!!!バックストレートの途中で、いったい何が起きたんだアアアア!?」


イヨ「……☆」


イヨは満足そうに笑い、前方の二台へぴたりと照準を合わせる。


若林「エアリさん!!この異常な追い上げを解説してください!!」


エアリ「イヨさん、自分のスープラだけを速くしたんじゃないッス!前方の五台へ強い下向きの重力をかけて、加速とタイヤの回転を一瞬だけ鈍らせたんスよ!」


若林「相手を遅くしながら、自分は加速したと!?」


エアリ「そうッス!さらに自分の車体へかかる重さを軽くして、直線加速を一気に引き上げてるッス!相手との速度差を両側から作ったから、周囲が止まって見えたんスね!」


エアリ「でも、本当にすごいのは仕掛けるタイミングッス!トンネル内は道幅が限られてるから、五台のラインが重ならない瞬間まで待ってたんスよ!」


エアリ「力だけじゃないッス!前の車がどこへ動くかを全部見て、最も安全に抜ける一本の隙間へスープラを通したんス!イヨさん、楽しそうに見えて、とんでもなく冷静ッスよー!」


一瞬で抜き去られた後方集団は、遠ざかる白い残像と、路面に残された重力の余韻を前に呆然とするしかなかった。


相川律「……また、あいつかよ……ッ!」


柳津雄介「五台まとめてだと……!?ふざけやがってェ……ッ!!」


その頃イヨは、バイパーとウアイラのテールランプを見つめ、楽しそうにアクセルを踏み込んでいた。


イヨ「次は、あの二台と遊ぶよー!」

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