吾妻編第37話 土湯峠
若林「先頭グループの2台が土湯峠へ!!!! 氷雪の獣神・ちとせと、純白の追跡者・柊 蒼真!! 1周目セクター3、いよいよトップ争いが本格化してまいりましたアアア!!」
高槻 健永「サテラ……! 貴様、その変態的なライン取り……物理法則を舐めているのかッ!!」
サテラ「俺のエボに......WRXが!!!?」
イヨ「......ッやっか......。」
若林「先頭グループの2台が土湯峠へ!!!! 氷雪の獣神・ちとせと、純白の追跡者・柊 蒼真!! 1周目セクター3、いよいよトップ争いが本格化してまいりましたアアア!!」
吾妻スカイライン、1周目セクター3。ダウンヒルストレートから続くこの過酷な区間は、ドライバーたちの精神とマシンの限界を容赦なく削り取っていく。
夜の闇を切り裂くように、先頭を往く二つの閃光が土湯峠の分岐点へと差し掛かっていた。
ちとせの駆る日産 フェアレディZ RZ34は、路面を滑るように滑らかで、それでいて周囲の空気を凍てつかせるような絶対零度のオーラを放っている。その後方、コンマ数秒の距離で食らいつく柊 蒼真のホンダ シビックタイプR FL5。FF最速の称号を持つその純白のボディは、ちとせが残す冷気を切り裂きながら、決して獲物を逃さない執念を燃やしていた。
しかし、この吾妻の山を焦がしているのはトップの2台だけではない。
少し後方、第3グループから第4グループにかけてのセクター3では、狂気とも呼べる美学の衝突が起きていた。
サテラが操る水色のランサーエボリューションVII MR。その後方には、先ほど怒涛の追い上げを見せた高槻 健永のダッジ・バイパーが、V10エンジンの暴力的な咆哮を轟かせて迫っている。
サテラ「……ふふ、高槻くん。ただ吠えるだけなら犬でもできるよ。俺が見せてあげるのは、そんな安っぽい熱量じゃない……。そして俺の静かなる変態こそ、レースの素質があるんだよォ……っ!!!!」
サテラの男としての意地、そして自らの走りを「変態」と呼んで憚らないそのプライドが、エボVII MRの挙動を別次元へと引き上げていく。
三菱自慢のACDとAYCが、サテラの極めて繊細なステアリング操作とアクセルワークに呼応する。通常であればオーバースピードでコースアウト必至のコーナー進入。しかしサテラは、崖側のガードレールすれすれにフロントノーズをねじ込み、四輪を綺麗にスライドさせながら、まるで氷上を舞うフィギュアスケーターのようにコーナーをクリアしていく。
高槻 健永「サテラ……! 貴様、その変態的なライン取り……物理法則を舐めているのかッ!!」
高槻のバイパーがアウト側から巨大なトルクで被せようとするが、サテラの「静かなる変態」ラインは、アウトに膨らむ隙を一切与えない。水色の水鮫は、極限まで無駄を削ぎ落とした最短距離、いや「最美距離」を駆け抜けていく。
エアリ「……素晴らしいですね。サテラ君の言う『静かなる変態』……それは、他者との安易な競合を避け、自分だけの理想のラインを追求する孤高の美学。若林さん、1周目のセクター3で、彼はすでに自分自身との戦いの領域に入っていますよ。高槻さんの熱い焔すら、彼の描く冷たくも美しい水飛沫の前では、少し形無しですね。」
若林「サテラ、一歩も譲らないッ!! 1周目のセクター3、土湯峠を前にして、水鮫と赤いドラゴンの死闘はさらに熱を帯びていくウウウ!!」
夜の吾妻に響くスキール音とエキゾーストノート。1周目はまだ終わっていない。それぞれの美学と執念が交差するセクター3の戦いは、ゆっくりと、しかし確実に過酷なフィナーレへと向かっていく。
吾妻スカイライン、1周目セクター3。土湯峠へと向かう過酷なダウンヒル区間は、ドライバーたちの精神を極限まで削り取っていく。
変態的なまでの美学で完璧なラインをトレースするサテラのランサーエボリューションVII MR。その後ろで強引にこじ開けようとしていた高槻 健永のダッジ・バイパーだったが、巨大なV10エンジンの熱量をもってしても、サテラの「静かなる変態」の壁は思いのほか厚かった。
ここで高槻は、ある決断を下す。彼はバイパーのアクセルをわずかに緩め、アウト側へと車体を寄せた。
高槻 健永「(花ちゃん、先に行ってくれ......その女王パワーであんな水鮫のサテラなんてやってしまうんだ......!!!)」
赤いドラゴンの焔が道を譲ったその瞬間、背後から底冷えするようなプレッシャーが解き放たれた。
コクッ......
精密な機械式時計の針が進むような、硬質で確かなシフトチェンジの音。それは、スバルブルーの車体を駆る氷の女王、山吹 花が戦闘態勢に入った合図だった。
ゴワッ!!!!!!
EJ20エンジンが野太い咆哮を上げ、強烈なトルクが四輪へと一気に伝達される。SUBARU WRX STI VAB。その車体は、サテラのトリッキーな動きとは対極にある「安定感の塊」だった。どんな路面状況でも決して揺るがない、強靭な体幹を持った青い戦闘機が、バイパーの横をすり抜け、猛然とエボのインサイドへと飛び込んでいく。
サテラ「俺のエボに......WRXが!!!?」
ミラーに映るスバルブルーの接近に、サテラのツンとした表情が驚愕に染まる。三菱のランエボと、スバルのWRX。かつて世界ラリー選手権(WRC)の舞台で覇権を争い、日本の四輪駆動スポーツの歴史を牽引してきた宿命のライバル同士が、この吾妻の峠で完全に横並びとなった。
若林「エボとWRXがまさかのサイドバイサイドオオオオ!!!! この2人の戦いは珍しいのではないでしょうか!? 水鮫のエボ使いサテラ! そして青い戦闘機、山吹 花!!!」
エアリ「……ええ、若林さん。これは胸が熱くなる展開ですね。サテラさんの『変態的』なまでに研ぎ澄まされた独自の美学。それに対して、花さんのWRXはどこまでも冷静で、揺るぎない芯の強さを持っています。……花さんはチームの精神的支柱。後方を走る仲間のカナタさんや伊藤さんを背中で導くためにも、ここでは絶対に引かないはずです。」
山吹 花「……サテラさん。あなたの美学は素晴らしいけれど、私には守るべき仲間がいるの。氷の女王の前に、その水飛沫ごと凍てつかせてあげるわ。」
花の冷静でしおらしい、しかし芯の強い声がコクピットに響く。WRX STIのDCCDが路面のミューを完璧に読み取り、サテラのエボVII MRが放つ水色のオーラに、スバルブルーの極寒の冷気が真っ向からぶつかり合う。
土湯峠へと続く深い森の中、二台のAWDマシンが火花を散らしながら、一歩も譲らぬ死闘の幕を開けた。
吾妻スカイライン、1周目セクター3の奥深く。土湯峠へと向かう過酷なダウンヒルの中、二つのAWDマシンが織りなす極限のサイド・バイ・サイドは、コーナーの進入でついに臨界点を迎えた。
アウト側からサテラのランサーエボリューションVII MRが「静かなる変態」の異名をとる変幻自在のラインでねじ込もうとする。しかし、イン側を死守する山吹 花のSUBARU WRX STI VABは、微動だにしない。
山吹 花「……サテラさん。あなたの変態的な美学、確かに予測不能で面白いけれど……。その程度の『揺らぎ』じゃ、私の『安定』は絶対に崩せないわよ。」
花の口元に、普段のしおらしさからは想像もつかない、生意気で挑戦的な笑みが浮かぶ。彼女はWRXの強靭なボディ剛性とDCCDのトラクション制御を完璧に信頼し、クリッピングポイントめがけて一切の躊躇なくステアリングを切り込んだ。
対するサテラのエボは、そのトリッキーな姿勢変化が仇となり、イン側の最も美味しいラインを完璧に抑えられたことで、わずかに外側へ膨らませざるを得なかった。
サテラ「なっ……!? 俺の美学のラインが、外に弾き出されただと……ッ!? なんだあのWRXの異様なまでの接地感と重圧は……!!」
ゴアアアアッ!!!!
EJ20エンジンの図太いボクサーサウンドが吾妻の夜空に轟き、スバルブルーの車体がエボの横を見事にすり抜けていく。極寒の氷の女王が、水色の鮫を完全に封じ込めた瞬間だった。
若林「WRXがコーナーでエボを抜き去ったアアアア!!!!! 安定感の塊、山吹 花の完璧なインベタ・コーナリングッ!! これぞまさに、誰も容易に触れることのできない、山吹 花の『高嶺の花』だアアアア!!!!」
実況席の若林がマイクを握りしめて絶叫する中、花はバックミラーに遠ざかる水色のエボを一瞥し、無線越しに生意気な言葉を投げかけた。
山吹 花「……ふふっ。ごめんなさいね、サテラさん。変態を極めるのもいいけれど、レースの基本は『地に足をつける』ことよ。冷たい氷の上じゃ、あなたの自慢の水鮫もただの干物になっちゃうわ。せいぜいそこで、私のお尻でも眺めながら、その立派な推理学のやり直しでもすることね。」
サテラ「くっ……! あの女、普段はしおらしい顔して、どんだけ口が減らないんだ……ッ!! 俺の『静かなる変態』の芸術を、ただの干物扱いだとォ!?」
エアリ「……ふふ、驚きましたね。花さん、いつもは世話焼きで控えめな印象ですが、勝負所ではあんなに強気で生意気な顔を見せるんですね。カナタさんや伊藤くんという大切な仲間を背中で引っ張るための、彼女なりの『精神的支柱』としての表現なのでしょう。サテラ君、あなたの変態的な美学も、今日は氷の女王の『絶対的な安定』の前に屈するしかなかったようですね。」
WRX STIが放つ冷気が、土湯峠の入り口をさらに白く凍てつかせていく。山吹 花は宿命のライバルを打ち破り、堂々の4位へ浮上。その先には、同じく冷気を操り、復讐の刃を研ぐフリスのポルシェ ケイマン GT4が不気味に待ち構えていた。
若林「さあ、山吹 花が劇的なオーバーテイクを見せたその少し後方!! 8位から10位の集団でも、三つ巴の死闘が勃発していますッ!! 岡田 大成のGR GT、眞鍋 琉世のランエボIX、そして腹切 カナタのハチロクだアアア!!」
吾妻スカイライン、1周目セクター3。土湯峠の連続コーナーへと差し掛かるこの区間は、絶対的なパワーよりもマシンの回頭性とドライバーの腕が如実に表れる難所である。
黒き伝説の継承者・岡田 大成が操る巨大なトヨタ GR GT。その後方から、銀色の戦闘機・眞鍋 琉世のランサーエボリューションIXが、AYCの暴力的な旋回力を武器に牙を剥いていた。
眞鍋 琉世「……俺のランエボIXのスーパーAYCを舐めるなよッ! GR GTのパワーがなんぼのもんじゃい!! この土湯峠のタイトコーナーなら、俺の銀の戦闘機が圧倒的に有利だぜ!!」
岡田 大成「チッ……! 直線なら俺のGR GTが圧倒的に上だが、この回り込んだ連続コーナーじゃ、四駆のエボが厄介すぎる……!! だが、俺は黒き伝説を継ぐ者だ。排気量の暴力だけで走ってるわけじゃねえんだよッ!」
黒いGR GTが巨大な車体をよじらせながらイン側を死守する。そこへ銀色のエボIXがアウト側から並びかけ、二台は激しいブレーキング合戦に突入した。火花が飛び散り、焦げたゴムの匂いが夜の闇を満たしていく。
しかし、その二台の死闘を、最後尾から虎視眈々と見つめる「赤い瞳」があった。
腹切 カナタ「……二人のラインが交差する。アウトとインが激しく入れ替わる一瞬……そこが俺の、ハチロクが突っ込む唯一の隙だ。」
17歳の若きドライバー、腹切 カナタ。彼の愛車である真紅のTOYOTA 86 REVIVEは、前方の二台に比べて絶対的なパワーでは劣る。しかし、280psまで研ぎ澄まされた水平対向エンジンと、極限まで軽量化された車体は、この土湯峠の深い下りにおいて最強の武器となる。
カナタは一切の無駄を削ぎ落としたステアリングワークで、前の二台が作り出した「空気のポケット」へとハチロクを音もなく滑り込ませた。
若林「うおおおおッ!! カナタのハチロクが、前方の二台にピタリと張り付いているッ!! パワーで劣るはずのNAマシンが、ハイパワーの化け物たちを相手に一歩も引かないアアア!!」
エアリ「……ふふ、見事ですね。岡田さんと眞鍋さんがラインを奪い合って互いの速度を落としている間に、カナタさんはハチロクの持つ『コーナリングスピード』を100%維持したまま背後に迫りました。……パワーがない分、ブレーキを限界まで遅らせて、旋回速度で勝負する。まさに赤い戦闘機……17歳とは思えない冷静で残酷なハンターの目ですね。」
岡田のGR GTと眞鍋のエボIXがコーナーの出口で姿勢を乱した、そのわずかな一瞬。
カナタのハチロクが、二台の隙間を縫うように真紅の閃光となって突き抜けるべく、スロットルを全開にした。
腹切 カナタ「……俺は行くぜ。この86の魂、見せてやるッ!!」
三台の意地が交差する土湯峠。軽量級のハチロクが、重量級の二台をまとめて飲み込もうと牙を剥く!
若林「さあ、激戦が続く吾妻のダウンヒル!! さらなる後方では、樋口 瀬那のXiaomiにまさかのNDロードスターが迫るううう!!!!!」
吾妻スカイライン、1周目セクター3。土湯峠のタイトな連続コーナーが牙を剥くこの難所において、マシンの「重さ」は絶対的なハンデとなる。
1500馬力以上という途方もないスペックを誇り、直線では無敵の速さを見せる樋口 瀬那のXiaomi SU7 Ultra。
しかし、その2トンを超える巨大な車体は、急勾配のダウンヒルでは強烈な慣性となって彼女に襲いかかっていた。コーナーの度にブレーキローターは悲鳴を上げ、極太のタイヤがアスファルトを削りながら必死にグリップを探っている。
そして、その苦しむ巨大なEVモンスターのバックミラーには、オレンジ色の小柄な影が、まるで幽霊のように音もなく張り付いていた。
樋口 瀬那「ウソでしょ……!? なんでロードスターが張り付いてるのよ……!?? 私のSU7 Ultraの加速力に、あんな非力な車がついてこれるわけないじゃないッ!!」
瀬那はステアリングを握りしめながら、ギリッと奥歯を噛み締める。彼女の脳裏には、このレースで下克上を果たしていく格下と思われていたマシンたちの姿がフラッシュバックしていた。
樋口 瀬那「赤い戦闘機も、青い電撃の桜狼も……チャンピオンイエローも、33も……!! ちょっと競り上げて調子乗ってんじゃないの……!?? 排気量やスペックがすべての時代は終わったっていうの!? ふざけないでよッ!!」
瀬那の焦りとは対極に、オレンジのNDロードスターを操る陽太のコクピットは、驚くほど静かで研ぎ澄まされていた。
男の意地と、ライトウェイトスポーツの誇りを懸けた戦い。陽太はシフトレバーを滑らかに操り、ヒール&トウでエンジンの回転数を完璧に合わせながら、Xiaomiが残す乱気流をひらりひらりと躱していく。
陽太「……直線ならともかく、この土湯峠の下りで俺のロードスターから逃げ切れると思うなよ。重たいバッテリーを引きずって走るEVに、吾妻の風は読めない。俺とこのオレンジの相棒は、この山の風と完全に一体になっているんだ……ッ!!」
陽太は「俺」という一人称に込められた熱い闘志を右足の繊細なアクセルワークへと変換する。NDロードスターの軽量なフロントノーズは、Xiaomiが膨らむイン側のわずかな隙間を正確に捉え、まるで吸い込まれるように飛び込んでいった。
タイヤのスキール音すら最小限に抑えられた、極めて無駄のないゼロカウンター・コーナリング。
若林「陽太のロードスター、信じられないコーナリングスピードだアアア!! 巨大なXiaomiの懐へ、オレンジの風が吹き込んでいくッ!! 圧倒的なパワー差を、このダウンヒルで完全に無効化してしまったアアア!!」
エアリ「……ふふ、見事な下克上ですね。樋口さんのXiaomiは確かに直線では無敵のモンスターです。でも、車重という物理法則の呪縛からは逃れられない。対して陽太さんのロードスターは、圧倒的に軽い。この土湯峠の連続コーナーでは、ブレーキを遅らせ、旋回速度を極限まで保てる陽太さんの方に分があります。……それに、陽太さんのライン取りには迷いがありませんね。俺はこの車で勝つんだという、男としての強い覚悟を感じます。樋口さん、あなたのモーターのトルクで、このオレンジの風を振り切れますか?」
夜の土湯峠に、モーターの甲高い駆動音と、NAエンジンの軽快なエキゾーストノートが交差する。
スペックの壁を越え、己の腕と軽量ボディを武器に巨人を討ち果たそうとする陽太のオレンジ・ロードスターが、ついにXiaomiの真横へと並びかけた。後方集団の熱気もまた、トップ争いに勝るとも劣らない炎を上げている。
吾妻スカイラインの深い闇が、突如として異様な気配に包まれた。
後方集団の激戦が続く中、実況席のモニターが捉えた一つの不可解な現象に、若林の絶叫がこだまする。
若林「ん..アアアアアアアアア!!!???」
若林「さあああ!!一周目、セクター3区間ッ!!昼の土湯峠に、エキゾーストサウンドのレクイエムが鳴り響くうううう!!!!」
白い二台が狭い山岳路を駆け抜ける。前を走るのは相川律のR35 GT-R NISMO。そのすぐ後ろへ、イヨのGRスープラSZが猛烈な勢いで迫っていた。
ゴオオオオオオオッ!!
若林「GRスープラが追突せんばかりにプッシュ!プウウウッシュウウウ!!!!白いGT-Rのリアバンパーへ、今にも牙を突き立てそうですッ!!危険なムードを作ってくれています!!」
相川律「近すぎる……ッ!ブレーキングで突っ込んでくる気か!?」
イヨ「まだまだ離れないよー!その白いGT-R、ずっと後ろから追いかけちゃうからね!」
右へ大きく曲がり込む高速コーナー。律のR35は四輪を路面へ押しつけ、安定した旋回でイン側を守る。しかしスープラもアクセルを緩めず、その真後ろへ張りついた。
エアリ「イヨさん、かなり強気ッス!でも、この距離だと前の相川さんが少しでも早くブレーキを踏んだら危ないッスよ!」
若林「しかし離れない!!白と白!!GT-R NISMO対GRスープラSZ!日産とトヨタの意地が、土湯峠で激しくぶつかり合っていますッッ!!」
エアリ「R35は立ち上がりの四輪駆動が強いッスけど、スープラは軽さと旋回性で揺さぶれます!イヨさん、次の切り返しで一気に横へ並ぶつもりッスね!」
イヨ「次で横に出るよー!」
相川律「やれるものなら来い……ッ!」
ゴワシャッ!!ギュオオオオオオッ!!!!
アスファルトが悲鳴を上げ、土湯峠の空気が歪む。その中心で、イヨの純白のGRスープラSZから濃いピンク色の重力波動が噴き上がった。
イヨ「……やっか。」
愛らしい猫耳とピンク色の萌え袖。その姿とは裏腹に、十一歳の少女の瞳は冷たく前方のR35を捉えていた。氷雪の獣神ちとせの面影を継ぐ星属性――自らを少しだけ「壊す側」と呼ぶイヨが、ついに力を解放する。
ブオンッ!ブロロロロッ!!
ギャアアアアアアアアッ!!!!
若林「高速区間ッ!!下りのバックストレートで、相川律のR35 NISMOが思い切りスパートをかけていくうううう!!!!」
白いGT-Rが四輪で路面を掴み、猛烈な勢いで加速する。その背後では、重力波動を纏った白いスープラが車間を一気に削っていた。
エアリ「レースはまだ一周目ッスよ……!?二人とも、もう最終周みたいな走りになってるッス!不安しかありませんね……ッ!!」
相川律「舐められてたまるかよ……俺たちのGT-Rをなァァァァッ!!!!」
R35の排気音が山肌を揺らし、速度計の針が跳ね上がる。それでもスープラは離れない。ピンク色の重力が車体を路面へ押しつけ、白い弾丸のように真後ろへ食らいつく。
イヨ「速いね。でも……逃がさないよ。」
若林「縮まる!縮まっていくううう!!純白のGRスープラが、純白のR35 NISMOを重力で引き寄せているかのようですッッ!!」
エアリ「相川さんは直線で逃げ切るつもりッス!でもイヨさん、重力で安定性まで引き上げてるッスね……!次のブレーキング、本当に危険ッスよ!!」
相川律「だったら最後までついてこい!!このGT-Rが、ただの古い看板じゃねぇって教えてやる!!」
二台の白いマシンは轟音を重ねたまま、下りきった先の高速コーナーへ突入していった。
二台の白いボディが、次の連続コーナーへ雪崩れ込んでいった。
ぎゅおおおおおお!!!!
しゃああああああんっ!!!!
若林「さあ……中速コーナーへ――おおおおッ!?!?」
ぎゃああああんッ!!
ドカンッ……!!!!
プリズムホワイトのGRスープラSZが、相川律のR35 NISMOの横へ猛烈な勢いで滑り込む。白い二台が、わずかな隙間を奪い合いながら並んだ。
どがあああああんッ!!!!
スープラの側面がR35のボディを激しく擦り、そのまま強引に前へ出ようとする。
相川律「なああああああッ!?!?」
その瞬間だけ、イヨの明るい表情から笑みが消えた。
イヨ「……邪魔ッ!!」
ごがああああああッ!!
ガンッ!!
ギイィィィィ……ッ!!
二台のボディが火花を散らす。さらにスープラが触れた部分から、透き通った氷砂糖の結晶がR35のサイドからテールへ張りついていった。
相川律「クソッ!!こいつ、コーナーが速すぎる……ッ!!」
濃いピンク色の重力場によって路面へ固定されたGRスープラは、下りの慣性すら推進力へ変え、異次元の旋回加速を見せる。
一方のR35は、巨大な手で上から押さえつけられたように加速を鈍らされ、コーナー出口で一気に置き去りにされた。
若林「GRスープラが一瞬でR35 NISMOを撃破アアアア!!白い怪物同士の激突を制したのはイヨですッ!!そして止まらない!次のコーナーへ超高速エントリー!!前を走る柳津雄介のM4へ並んだアアアア!!!!」
どごおおおおんッ!!
ごギャアアアアアアッ!!
柳津雄介「アウトからだと……ッ!?お前、ハラキリの仲間か!!舐めやがって……ッ!!」
常識外れの速度で旋回するGRスープラが、柳津のBMW M4 DTM Editionのアウト側へ強引に並ぶ。
若林「規格外のコーナリングエントリーッ!!五百五十馬力のM4が、アウト側から押し込まれていくうううう!!!!」
柳津雄介「またGRスープラかよ……ッ!ふざけるな!!俺のM4は五百五十馬力だぞ!?」
柳津はアクセルを床まで踏み抜く。だが、M4の強烈な推進力と空力は、イヨが広げた濃いピンク色の重力場に絡め取られ、徐々に勢いを失っていった。
若林「エアリさん!今のシーンを解説していただけませんか!?」
エアリ「はいッス!まずイヨさん、R35の真後ろでじっくりラインを観察してたッス!下りの直線では無理に出ず、相川さんが一番苦しくなる中速コーナーまで待ってたんスよ!」
若林「力任せに突撃しただけではないと!?」
エアリ「そうッス!相川さんは直線の加速力を活かすため、コーナー入口で少しだけ安定重視のラインを選んだッス!そこへイヨさんが重力でスープラを路面へ押しつけ、通常なら曲がれない速度のまま内側へ飛び込んだんス!」
エアリ「しかも抜いた直後、次の柳津さんまで一気に狙ってるッス!前の一台だけじゃなく、その先の配置まで見ながら動いてるんスよ!イヨさん、天真爛漫に見えてレース全体をすごく冷静に組み立ててるッス!」
若林「しかし、五百五十馬力のM4まで重力場に捕まっておりますッ!!」
エアリ「馬力があっても、タイヤと路面の関係を崩されたら前へ進めないッス!イヨさんは自分のスープラだけを重く安定させて、柳津さんのM4には逆方向の重力をかけてるッスね!」
エアリ「それに、さっきR35へ付着した氷砂糖も厄介ッス!車体のバランスを少しずつ変えて、相川さんの追撃を遅らせるつもりッスよ!重力、氷砂糖、それからレースマネジメント……全部を同時に使ってるッス!」
濃いピンク色の波動が、昼の土湯峠を禍々しく染め上げる。十一歳の少女が作り出した重力の檻が、柳津のM4を飲み込もうとしていた。
イヨ「わぁー!並べたああ!!このM4、すっごく速いね!イヨ、もっと一緒に走りたいー!」
先ほどの冷たい一言が嘘だったかのように、イヨは嬉しそうに笑いながらアクセルを踏み込む。
柳津雄介「楽しんでんじゃねぇぞ、このガキィィィ!!」
その後方では、氷砂糖を張りつかせたR35が再び速度を上げていた。
相川律「このまま終われるかよ……ッ!俺のGT-Rを押し退けて、勝ったつもりになるな!!」
相川はステアリングを握り締め、前方の白いスープラを睨む。
相川律「必ず追いつく……。次は俺が、お前をコーナーの外へ追い出してやるッ!!」
白い重力破壊神を追い、傷ついたR35 NISMOが再び咆哮を上げた。
柳津雄介「……こんなGRスープラなんか、ストレートでひとひねりだ。並んでインにつけば簡単だろう……ッ!!」
若林「おっと!再びM4が仕掛けていくうううう!!!!」
ゴオオオオオオ……ッ!!
柳津のM4 DTM Editionが一気に加速し、次のコーナーへ向けてGRスープラのイン側へ飛び込んでいく。
柳津雄介「今だアアア!!終わりだ、スープラァ……ッ!!」
ぎゃぎゃああああんッ!!!!
イヨ「……させないッ!!」
ドカアアアアアアッ!!!!
ガンッ……!!
イヨのGRスープラが進路を塞ぐように鋭く寄せ、M4の側面へ激しく接触した。触れた場所から氷砂糖の結晶が張りつき、白く硬い塊となってボディを覆っていく。
ぎゃああああああッ!!!!
若林「うわああああ!!GRスープラが思い切りM4へ接触させたああああ!!!!M4のラインが危なああああい!!!!」
どがあああああッ!!
柳津のM4はイン側へ入り切れず、姿勢を大きく乱しながらコーナー外側へ弾き出された。
若林「柳津雄介!オーバーテイク失敗〜〜〜!!!!」
イヨ「えへへ!やったー!これでM4さんはゲームオーバーだねッ!」
柳津雄介「……ッ!!クソォォォ!!」
若林「エアリさん!今の攻防、どう見ましたか!?」
エアリ「柳津くん、直線のパワー差を使ってイン側へ入るところまでは良かったッス!でも、仕掛ける位置が少し遅かったッスね!」
若林「遅かったと!?」
エアリ「はいッス!柳津くんは並んだ瞬間に勝負が決まったと思って、一気にブレーキングへ入ったッス。でもイヨさんは、その動きを最初から読んでたんスよ!」
エアリ「だからコーナー入口でほんの少しだけラインを残して、柳津くんをイン側へ誘い込んだッス!それから一気に進路を閉じて、M4の姿勢を崩したんスね!」
若林「つまり、あえて仕掛けさせたと!?」
エアリ「そうッス!柳津くんは前へ出ることばかり考えてたッスけど、イヨさんは抜かれない位置と、次の立ち上がりまで全部見てたッス!この駆け引きは完全にイヨさんの勝ちッスよ!」
前方ではイヨが楽しそうに手を振り、後方では柳津が怒りを押し殺しながらM4を立て直していた。
柳津雄介(……なんでM4なのに、スープラを抜けねぇんだ……ッ?トリックか?普通に走ってても、あんなに速いなんて大間違いすぎるぜェ……ッ!!)
柳津は苛立ちを滲ませながら、前方を走るプリズムホワイトのGRスープラを睨みつけた。
柳津雄介(五百五十馬力だぞ……?直線でもコーナーでも、俺のM4が押し切れるはずなんだ。それなのに、あのガキ……まるで路面そのものを味方につけてやがる……ッ!)
その視線の先で、イヨは何事もなかったかのように楽しそうに次のコーナーへ飛び込んでいく。
イヨ「次もいっくよー!」
柳津雄介「ふざけんなァァァ!!次こそ絶対に抜いてやるッ!!」




