吾妻編第33話 スイスポのヘアピン合戦
若林「さあ、上位争いも静寂のあとの嵐だアアア!! 4位を走る『絶対王者』フリス、そしてそれを猛追する『氷の女王』山吹 花!! 青いスバルボディが、ポルシェのリアバンパーを削り取らんばかりの気迫で迫り来るッ!!」
ダウンヒルの超高速セクション。フリスはポルシェ 718 ケイマン GT4の完璧に調律されたステアリングを握りながら、バックミラーに映る山吹 花の挙動に違和感を覚えていた。
先ほどまでとは明らかに違う。そのWRX STIが撒き散らすプレッシャー、そしてコーナーごとに見せる「異常なまでの安定感」と「狂気」。
フリス「なんかおかしい....後ろの子......。これは、ヴィヴァーチェさん、なにかした? 彼女の力が注ぎ込まれてるように感じる......。」
フリスの脳裏に、かつて刃を交えたことのある神のごとき存在の影がよぎる。今の山吹 花の走りには、人間が持ち得る集中力を超えた、何か異質なエネルギーが宿っている。
閻魔天としての真の力を解放すれば、一瞬で捻り潰すことも可能だろう。だが、今は正体を隠し、このエーペックスカップを走り抜かなければならない。
フリス「我がこの方をどうにかしないといけないのか......っ! 仕方ない... 防御体制に作戦変更だ......。君がどれほどの力を授かろうと、この我の精密なラインだけは、決して踏ませない……!!」
フリスは静かにシフトを落とし、マシンの挙動を「攻め」から「鉄壁の守り」へと切り替えた。
ケイマンのミッドシップ・レイアウトを最大限に活用し、コーナーの入り口では山吹 花が飛び込む隙間をミリ単位で塞ぎ、立ち上がりでは一寸の狂いもない加速でインサイドを死守する。
山吹 花「あははは! なにそれ、王者の走りにしては随分と慎重じゃないのッ!! 怖いの? あたしのこの『熱』が怖いのね!! 逃がさないわよポルシェ!! その喉元、あたしが食いちぎってあげるわッ!!」
山吹 花は狂気に満ちた叫びを上げ、WRXをポルシェのリアに叩きつけるような勢いでチャージをかける。
精密機械のごときフリスのディフェンスか、それともヴィヴァーチェの影が揺らめく花の猛攻か!!
若林「フリス、まさかの徹底守備体制!! 4位争いは今、吾妻の峠で最も危険な温度まで上昇しているぞオオオ!!!」
エアリ「……フリスさん、冷静ですね。花の背後にいる『何か』を察知して、無闇な攻めを控えた。……ですが花さん、今のあなたは少し『熱』を持ちすぎです。フリスさんの冷徹な壁を突破できなければ、その熱は自分自身を焼き尽くすことになりますよ?」
若林「さあ! 再びヘアピン!! 菜園が再び来ましたアアア!!!!! ストップ・アンド・ゴーを封じられた怒りを、フラット6の咆哮に乗せて、再びクリスタのフェラーリへと牙を剥くッ!!!」
ダウンヒル最終盤のタイトなヘアピン。17位争いはもはやレースの体を成していなかった。菜園 宗一郎のポルシェ 992 GT3と、クリスタ・ニールセンのフェラーリ 488GTS。世界が誇る至高の二台が、まるで路上の喧嘩のごとく火花を散らし、ガンガンと車体をぶつけ合い始めたのだ!
菜園 宗一郎
「....そろそろ終わりにしてやらアアアアアアっっ!!!!!」
「綺麗なツラして走れるのもここまでだッ!! どけッ、フェラーリィィ!!」
ガアアアアンッ!!!
菜園が強引にインサイドをこじ開け、ポルシェの右フロントをフェラーリのドアパネルに叩きつける! 金属同士が削れ合う不快な音が吾妻の山肌に響き渡り、火花が夜の闇を切り裂いた。
クリスタ・ニールセン「オラアアア!!! やったわね……やったアアアっっ!!!! このクソがアアア!!!!! くたばれポルシェエエエ!!!!」
若林「なんとオオオ!! 優雅な跳ね馬の乗り手、クリスタ・ニールセンが豹変したアアア!! まさに狂犬!! ぶつけられた衝撃をそのままステアリングに込め、ポルシェをガードレール際まで力ずくで押し返していくううう!!!」
クリスタの瞳からは先ほどまでの冷静さは消え失せ、ドス黒い闘争本能が燃え上がっていた。彼女は488GTSのトルクを爆発させ、サイドバイサイドの状態から菜園のポルシェをアウト側へと弾き飛ばしにかかる!
エアリ「……あーあ、怒らせちゃいましたね。クリスタさんのあの豹変ぶり、あれこそが彼女の『本性』ですよ。タイヤ温存なんて言葉はもうどこかへ消えました。今の彼女は、菜園さんのポルシェをスクラップにすることしか考えていません。……菜園さん、その『ストップ・アンド・ゴー』、止まったら最後、食い殺されますよ?」
若林「ここからは更なる急勾配、ダウンヒル区間!! 豹変したクリスタ・ニールセン、その勢いが止まらないッ!! 先ほど菜園をガードレールに押し付けた勢いのまま、フェラーリが伊藤 翔太のチャンピオンイエローに肉薄しているぞオオオオ!!!!」
488GTSのV8ターボが、獲物を追い詰める野獣の如く咆哮する。クリスタの瞳は完全に据わっており、かつての冷静な「タイヤ温存」という作戦は、今の彼女には微塵も残っていない。
クリスタ・ニールセン「どうせたかがスイスポっ☆ 格下の分際で私の前を走るなんて100年早いのよ!! ここで一気にラフファイトで仕留めてあげる......っ!!!!」
若林「危ないッ!! スレスレのラインでスイスポを横切ってしまうフェラーリが抑えきれない......っ!!! まるで伊藤 翔太のマシンを路外へ弾き飛ばそうとするかのような、狂気的なライン取りだアアア!!!」
伊藤「クリスタか......!? ちょっと待つってのがねェのかお前......っ!?? しかもこのラインでどうやって前に出るつもりなんだ......? 接触覚悟かよッ!?」
伊藤はバックミラーを埋め尽くす真っ赤なフェラーリのフロントノーズに、思わずステアリングを握り直す。本来、軽量なスイスポにとって、パワーに勝るフェラーリとの「ラフファイト」は圧倒的に不利。だが、クリスタのラインはもはやオーバーテイクを目的としたものではなく、文字通り敵を「破壊」するための軌道を描いていた。
エアリ「……クリスタさん、完全に理性が飛んじゃいましたね。あんなラインで突っ込めば、スイスポを巻き込んで自分もただでは済みません。……伊藤さん、気を付けて。今の彼女は『勝つ』ことよりも、あなたのイエローを『汚す』ことに快感を覚えてますよ。」
若林「しかし! 抜けない!! クリスティ・ニールセンの猛攻を、チャンピオンイエローの小龍が真っ向から跳ね除けたアアア!! 300馬力にまで極限チューンされたスイスポの、恐るべきハイスピードエントリーだアアア!! 下りのヘアピン、物理限界のスピードで通過していくううう!!!!」
吾妻のダウンヒル、路面を焦がすようなスキール音が夜の静寂を切り裂く。
クリスタのフェラーリが放つ威圧感は、並のドライバーならミラーを見ただけでラインを譲るほどの狂気に満ちていた。しかし、伊藤の駆るスイフトスポーツは、その巨大な跳ね馬の影に飲み込まれるどころか、逆にその影を振り払うかのように鋭い旋回を見せる。
伊藤「……ハッ、たかがスイスポ、かよ! 悪いな、実家の整備工場で一速一速叩き込んできた俺のギアは、カタログスペックの数字じゃ測れねえんだよッ!!」
伊藤は、フェラーリのフロントノーズが自分のリアバンパーを掠める感触を背中で感じながらも、アクセルペダルから右足を離さない。
スイスポの軽量なボディに搭載されたK14Cターボエンジンが、ブースト計を振り切りながら300馬力の咆哮を上げる。下り坂の慣性をすべて「曲がる力」へと変換し、コーナーの最深部でクリスタの鼻先をミリ単位で封じ込めた。
若林「信じられないッ!! フェラーリがパワーでねじ伏せようとしたインサイドを、伊藤 翔太は最短距離のライン取りと、異次元の突っ込み速度で完全にシャットアウトしたアアア!! 300馬力のスイスポ、まさに下りの『黄色い閃光』だアアア!!」
クリスタ・ニールセン「……ッ!! なんで……なんであの安っぽいハッチバックが曲がれるのよ!? 私のフェラーリの方が、空力も、重心も、すべてが上のはずなのに……っ!!」
クリスタは、自分の計算をことごとく裏切るスイスポの挙動に、さらに理性を失いかける。
フェラーリのV8ターボが唸りを上げ、立ち上がりでパワーを叩きつけようとするが、伊藤はすでにフロントタイヤのグリップを完璧に回復させ、コーナーの出口へ向けて弾丸のように加速を開始していた。
エアリ「……執念の差ですね、クリスタさん。あなたは自分のマシンのステータスを信じすぎた。対して伊藤さんは、自分の手足となったそのスイスポの『限界の向こう側』を信じている。……格下のスイスポに遊ばれている今のあなた、最高に滑稽ですよ?」
若林「伊藤 翔太、15位を死守!! 格上のスーパーカーを相手に、吾妻の峠で一歩も引かない!! まさにムードメーカー、この中団グループに火をつけたのは間違いなくこの男だアアア!!!」
若林「来たアアア!!!!! 伊藤のハイスピードエントリーVSフミッパスライダーだアアアアっ!!!! ダウンヒルの終着点、第1周目のクライマックスで、まさかのイエロー対決が勃発だアアア!!!」
吾妻の山肌を照らすのは、二つの異なる黄色い光。最新鋭のV10エンジンを搭載したスーパーカー、アウディR8。そして、その背後に吸い付くように迫るのは、徹底的に鍛え上げられた「峠の小龍」スイフトスポーツ。
内藤 セリナ「……伊藤くんが後ろから来たの!? いつの間にパワーを!? さっきまでもっと後ろで揉み合ってたはずじゃない!!」
セリナの視界を覆い尽くす、眩いばかりのチャンピオンイエロー。先ほどまでクリスタの猛攻を凌いでいたはずのスイスポが、その勢いを殺すどころか、さらに鋭い牙を剥いて自身の懐に飛び込んできた事実に、セリナの背筋に冷たい汗が流れる。
伊藤 翔太「悪いなセリナ……俺はここでくたばるような人間じゃないんだよオオオオ!!!! お前のR8がどれだけ豪華でも、この坂道じゃ『軽さ』が最強の武器なんだよォッ!!」
伊藤は一切の躊躇なく、300馬力を解き放ったスイスポをR8のインサイドへと滑り込ませた。対するセリナも、そのプライドにかけて負けられない。
内藤 セリナ「舐めるなァ! 私の『フミッパ』は伊達じゃないのよッ!! 喰らいなさい、フミッパスライダー全開ッ!!」
若林「セリナ、勝負に出たアアア!! コーナーの頂点でリアを意図的にスライドさせ、四輪駆動のトラクションで無理やり車体を前に押し出す必殺の旋回術!! R8が火花を散らしながら、スイスポの進路を塞ぐように横を向くッ!!」
エアリ「……ふふ。面白い。セリナさんの『フミッパスライダー』は、本来格下を突き放すための技。ですが、伊藤さんの『ハイスピードエントリー』は、そのスライドの隙間に潜り込むための、狂気的な突っ込みです。……セリナさん、そのスライダー、隙間だらけですよ? 華やかなステップをいくら踏んでも、泥臭い突進に足元を掬われれば終わりです。」
二台のマシンは、サイドミラーが接触し、塗装が焦げるほどの超至近距離でサイド・バイ・サイド。R8のV10サウンドと、スイスポのターボラグを感じさせない鋭い咆哮が、吾妻の夜空に溶け合っていく。
若林「抜けない!! まさに互角!! 排気量も馬力も倍以上の差があるはずの両雄が、今このダウンヒルの魔力によって完全に対等となったアアア!! セリナか、伊藤か!! 1周目の決着はすぐそこだアアア!!!」
若林「狭い高低差のある吾妻のダウンヒルで300馬力にチューンされたフジツボ製スイスポとハイパワー4WDを誇る5.2リッターV10エンジン! R8がここでサイド・バイ・サイドオオオオオオオオ!!!!!! まさに重力とパワー、そして意地が真っ向から衝突しているッ!!!」
ダウンヒルの最終コーナー、二台のイエローが路面を焦がすようなスキール音を響かせる。内藤セリナのR8がその大排気量を活かして強引に外側から被せようとするが、伊藤のスイフトスポーツは吸い付くようなライン取りで一歩も退かない。フジツボ製エキゾーストから放たれる乾いた咆哮が、V10の重低音を真っ向から切り裂いていく。
伊藤 翔太「……悪いなセリナ! この車はな、俺の魂そのものなんだよッ!! 300馬力まで磨き上げたこの鼓動、お前のスーパーカーに負けるわけにはいかねえんだよォォォッ!!」
ヘアピンの立ち上がり、軽量なボディを弾丸のように弾けさせたのは、伊藤のスイスポだった。R8がその車重ゆえに加速の瞬間に僅かなラグを見せたその隙に、チャンピオンイエローの影がR8の鼻先を完全に封じ込める。
内藤 セリナ「どこにでも居そうなスイスポがなんで私のR8が負けるのオオオオ!!??? 安月給以下のスイスポがアアア!!!!! 納得いかないわよ、こんなのォォォッ!!」
若林「行ったアアアアアアアアア!!!!!!! 伊藤 翔太、内藤 セリナを完全にシャットアウト!! 14位へと浮上ですッ!! スーパーカーを峠のハッチバックが力ずくでねじ伏せたアアア!! これがエーペックスカップの醍醐味だアアア!!」
エアリ「……ふふ。セリナさん、あなたの負けです。車を値段やカタログスペックでしか見ていないあなたには、この『一瞬』にかける伊藤さんの熱量は理解できないでしょうね。……安月給以下? 失礼ですね。今の伊藤さんの走りは、どんな宝石よりも輝いていますよ。」
若林「そして嬉しいお知らせです....!! ダウンヒルが赤い戦闘機(カナタの86)の次に速い伊藤 翔太のスイスポが、あの怪物! イヨの白いGRスープラに迫ってきているううう!!!!! 300馬力の心臓が、11歳の破壊神をロックオンしたアアア!!!」
吾妻の闇を切り裂く、二つの強烈な光。
先行するイヨのGRスープラが放つ、周囲を威圧するような「濃いピンク色」の重力波動。それに対し、伊藤のスイスポは限界まで削り込んだハイスピードエントリーで、その波動を真っ向から切り裂いていく。
エアリ「……ふふ。あの伊藤くんのスイスポがGRスープラにですか。……面白いですね。数値上のスペック差を、ダウンヒルの慣性と、彼自身の『負けられない』という執念が埋めているというわけですか。」
若林「凄いですよね!!!? ダウンヒルで一気に追い詰めてきましたアアア!!!!! セリナのR8を仕留めた勢いそのままに、イヨの懐へと飛び込んでいくッ!! 1周目最後の最後で、とんでもないジャイアント・キリングが起きようとしています!!!」
イヨ「後ろ...スイスポが来たの!? イヨ、スイスポは好きだよー☆ ……でも、抜かせる訳にはいかないよ!! イヨのスープラちゃんは、お姉ちゃんたちを追いかけるためにここにいるんだもんっ!!」
イヨは愛らしい表情の裏で、ステアリングを握る手に力を込めた。スープラの車体がピンク色の波動と共に路面へさらに強く圧着される。対する伊藤も、シフトダウンと共にフジツボ製マフラーを咆哮させ、スープラのリアバンパーを逃さない。
伊藤 翔太「……悪いなイヨちゃん!! 相手が誰だろうと、このダウンヒルで俺の前に居座る奴は全員抜き去るッ!! それが俺のレースだあああ!!!」
若林「来た、来た、来たあああ!! 1周目のホームストレート目前、13位争いはもはや火の出るような超高回転バトルだアアア!!!」




