吾妻編第29話 女王 山吹花!!!
山吹 花「いいわね....さっさと赤い86なんて眠ってしまいなさい......っ!!」
バックミラー越しに小さくなっていく赤い残像を見つめながら、花は冷酷な勝利の余韻に浸る。
WRX STIのテールランプが、まるでカナタとの決別を告げるかのように赤々と輝き、ヒルクライムの急勾配へと消えていく。
山吹 花「あたしの後ろを走ることすら、あんたには身の程知らずだったのよ。そのまま路肩の藻屑にでもなって、あたしの完璧な走りを下から眺めていればいいのよぉ……ッ!!」
花の言葉はもはや、単なる挑発を超えた「呪い」のように、カナタのコックピットへと降り注ぐ。
抜かれた衝撃と、仲間の豹変。二重の絶望に打ちひしがれたカナタは、ステアリングを握る力さえ失いかけていた。
腹切 カナタ「花……。本当に、行っちまうのかよ……。俺たちの知ってるお前は、もう……どこにもいないのかよ……!!」
若林「腹切 カナタ、完全に戦意喪失かアアア!! 5位に浮上した山吹 花、その加速に一切の迷いなし!! 青い稲妻が、もはや視界から消えようとしています!!」
エアリ「……残酷ですね。追い越した瞬間に、相手の存在価値すら否定する。今の山吹さんは、勝つことよりも『相手を壊すこと』に悦びを見出している。……カナタさん、このまま眠らされてしまうのですか? あなたが信じた86は、そんなに脆いものではないはずですよ。」
だが、その絶望の淵に沈むカナタの無線に、怒りと共振するような鋭い声が飛び込んできた。
伊藤 翔太「カナタ!! 何ボサッとしてんだよッ!! あんな女の言うこと、真に受けてんじゃねぇッ!!」
後方から、黄色いスイフトスポーツが、上位のパワーウォーズに割って入るべく猛然と追い上げてくる。
親友を侮辱され、愛する女性が闇に堕ちた姿を目の当たりにした翔太の怒りは、今や沸点を超えていた。
伊藤 翔太「花を……花を取り戻すんだろッ!! だったら、あんな『ざぁ〜こ』なんて言葉に負けてんじゃねぇよッ!! 起きろ、カナタッ!!!」
若林「アアアアアッ!! 山吹 花の勢いが止まらない!! カナタを沈めただけでは飽き足らず、再びターゲットを背後の銀の戦闘機、眞鍋 琉世へと向けたアアア!!」
不動沢橋のストレートエンド。5位に浮上した山吹 花のWRX STIは、さらにその悪意を加速させる。
彼女はあえて速度を微調整し、背後に迫る眞鍋のランエボIXとの距離を詰めさせると、バックミラー越しに突き刺すような視線を送った。
山吹 花「次はアンタの番よ! 眞鍋っ!!」
無線のパブリックチャンネルに、氷のように冷たく、それでいて火傷しそうなほど傲慢な声が響き渡る。
山吹 花「さっきはよくも生意気にインを突いてくれたわねぇ……。でも、型落ちのランエボが女王の前にいられる時間はもう終わりよ! あんたもカナタと一緒に、あたしの後ろで惨めに這いずり回りなさいッ!!」
眞鍋 琉世「……何だとッ!?」
山吹 花「聞こえなかったぁ? ざぁ〜こ♡ ってことよ! あんたのその銀色のガラクタ、あたしのVABちゃんの踏み台にすらならないわ! さっさと道を空けて、あたしの引き立て役としてスクラップにでもなりなさいよぉぉッ!!」
眞鍋のコックピットに、花の罵倒が突き刺さる。
かつての仲間であったはずの少女から投げかけられる、容赦のない「ゴミ」扱いに、眞鍋の額に青筋が浮かび上がる。
若林「出たアアアア!! 女王の超生意気モード!! 眞鍋 琉世に対しても一切の容赦なし!! 眞鍋選手、これには黙っていられません!!」
エアリ「……煽りますね。山吹さんは、眞鍋さんの誇りであるランエボの『血統』すらも否定しにかかっています。眞鍋さんにとって、車を否定されることは自分自身を否定されることと同義。……この挑発、眞鍋さんが冷静でいられるはずがありませんよ。」
眞鍋 琉世「……抜かしてろ、クソアマ。お前のその腐った性格ごと、俺の4G63でブチ抜いてやるッ!!」
怒りに震える眞鍋がシフトダウン。
ミスファイアリングシステムの炸裂音が、女王への宣戦布告として吾妻の空に響いた。
若林「アアアアアッ!! 山吹 花の勢いが止まらない!! カナタを沈めただけでは飽き足らず、眞鍋に対しても例の『呪文』を解禁したアアアア!!!」
山吹 花「ざぁ〜こ♡ ざぁ〜こ♡ ざぁ〜こ♡ ざぁ〜こ♡ ざぁ〜こ眞鍋ぇッ!!」
花のWRX STIは、先行する余裕を見せつけるかのように、リアテールを眞鍋のランエボIXの鼻先にチラつかせながら、リズミカルに罵倒を叩きつける。
無線越しに聞こえるその声は、執拗で、粘り気があり、眞鍋のプライドを執拗に逆撫でした。
山吹 花「ねぇ、どんな気分? 自分が世界一だと思ってた三菱のガラクタが、あたしのVABちゃんに手も足も出ない今の気分はぁ?♡ ざぁ〜こ♡ ざぁ〜こ♡ 型落ちエボは大人しく、あたしの排気ガスでも吸って錆び付いてなさいよォォッ!!」
眞鍋 琉世「……っ!! クソアマが……よくもこれだけ並べ立てやがって……ッ!!」
眞鍋はステアリングを握りしめ、歯が砕けんばかりに食いしばる。
彼にとって、エボIXは単なる機械ではない。自分と共に数々の修羅場を潜り抜けてきた「戦友」だ。それを「ガラクタ」「錆び付く」と断じられ、怒りで視界が赤く染まる。
山吹 花「あはははは! 怒ってる怒ってるぅ〜! 眞鍋ぇ、そんなに顔を真っ赤にしてどうしたのぉ? 悔しかったら抜いてみなさいよ、この『ざぁ〜こエボ使い』がッ!! ざぁ〜こ♡ ざぁ〜こ♡ ざぁ〜こ♡!!」
若林「山吹 花、完全に眞鍋をコントロール下に置いている!! 執拗な煽り! 止まらない『ざぁ〜こ』連呼!! 眞鍋選手の冷静さが、怒りの沸点を超えて霧散していくウウウッ!!!」
エアリ「……これは不味いですね。眞鍋さんは熱くなりすぎると、本来の緻密なライン取りを捨ててパワー勝負に出てしまう。それは、山吹さんの思うツボです。……ですが、この罵倒の嵐。わたしが眞鍋さんの立場でも、耳を塞ぎたくなりますよ。」
山吹 花「ほらぁ! 立ち上がりで離されてるわよぉ? ざぁ〜こ♡ ざぁ〜こ♡!! あたしの後ろがお似合いよ、一生そこで吠えてなさいッ!!」
若林「アアアアアッ!! 山吹 花のテンションがさらに跳ね上がった!! 怒りに震える眞鍋を嘲笑うかのように、彼女のボルテージは最高潮だアアア!!」
山吹 花「...そんなに聞こえないのなら眞鍋、もっと大声で言ってあげる!!!!」
花のWRX STIが、わざとらしく眞鍋のランエボIXの目の前でブレーキランプをチカチカと点滅させる。
それは、背後の眞鍋を極限まで苛立たせるためのサイン。
そして彼女は、無線のマイクを飲み込むほどの勢いで、肺の全ての空気を吐き出すように絶叫した。
山吹 花「ざぁ〜こぉぉぉぉぉぉぉッ♡ ざぁ〜こぉぉぉぉぉぉぉッ♡!! 眞鍋ぇ、聞こえたぁ!? あんたの乗ってるその銀色のゴミ箱と一緒に、あたしの後ろでワンワン鳴いてなさいよォォォォッ!!」
吾妻の山々に、女王の狂気じみた罵倒がスピーカーを割るほどの音量で響き渡る。
もはやレースの実況解説さえも遮るほどの圧倒的な「言葉の暴力」。
眞鍋 琉世「……っ、うおおおおおおおあああああああああッ!!!」
眞鍋の咆哮。
それは、愛車を「ゴミ箱」呼ばわりされたことへの、魂の底からの激昂だった。
視界は怒りで完全に赤く染まり、彼はもはやタイヤの摩耗もエンジンの耐久性も、後方の順位さえもすべて思考から排除した。
ただ、目の前で嘲笑う青いリアビューを、物理的にブチ抜くこと。その一念だけで、エボIXのアクセルペダルを床板ごと踏みちぎる勢いで踏み込む。
眞鍋 琉世「言わせておけばッ……! この4G63がゴミだと!? だったらそのゴミに、お前の高価なVABをズタズタに引き裂かせてやるよォォッ!!!」
凄まじいアフターファイアの炎が、ランエボのマフラーから夜を切り裂くように噴き出す。
眞鍋は、次のタイトな左コーナーに向けて、ブレーキを一切踏まないまま、シフトダウンの衝撃だけで車体を強引に向き合わせる「超高速ドリフト」で突っ込んだ!!
若林「眞鍋が行ったアアア!! 自殺行為とも言えるノーブレーキ・エントリー!! 怒りが彼を修羅に変えたアアアア!! 山吹 花の罵倒が、ついに眠れる獅子の逆鱗を完全に引き裂いたぞオオオ!!!」
エアリ「……正気ではありませんね。あれでは曲がりきれずに崖下です。……でも、今の眞鍋さんなら、その狂気すらもトラクションに変えてしまうかもしれない。山吹さん、遊びすぎましたね。あなたの『大声』が、本物の怪物を呼び醒ましてしまいましたよ。」
若林「そして再び赤い戦闘機がEVO9に近づく!!!! この2台は、一気にWRXから引き離されていくがサイドバイサイドオオオ!!!!!」
実況の絶叫が、コース上の異変を告げる。
山吹 花の罵倒に煽られ、狂気的な突っ込みを見せた眞鍋 琉世のランエボIX。
だが、その背後から、戦意を喪失していたはずの「赤い戦闘機」——腹切 カナタのREVIVE 86が、まるで地獄から這い上がるような加速で肉薄していた。
腹切 カナタ「……っ、うおおおおおおおあああああああああッ!!!」
カナタの咆哮。それは絶望を焼き尽くす、再生の叫びだ。
翔太の叱咤が、花の罵倒に凍りついていた彼の心臓を再び叩き起こした。
軽量な車体を極限まで振り回し、眞鍋の強引なラインによって生まれた「乱気流」を逆に利用して、カナタはランエボのサイドへと強引に鼻先をねじ込む。
眞鍋 琉世「カナタ……ッ!? てめぇ、さっきまで死んでたクセに……ッ!!」
眞鍋 琉世は、隣に並びかける86の存在に驚愕する。
怒りに任せてタイヤを酷使し、オーバースピードで突っ込む自分のランエボに対し、カナタの86は精密なコントロールでその挙動を追随している。
山吹 花のWRX STIは、この二台の「意地のぶつかり合い」を置き去りにするように前方へと加速していくが、今、この5位・6位争いは、理屈を超えた肉弾戦へと変貌していた。
若林「信じられんッ!! 精神を破壊されたはずの腹切 カナタが、眞鍋 琉世とドアミラーをぶつけ合うほどのサイド・バイ・サイド!! まさに泥沼のドッグファイト!! 5位の花からは引き離されていますが、この二台の熱量は異常だアアア!!」
エアリ「……共鳴していますね。眞鍋さんの怒りと、カナタさんの再起。二人の執念が互いを加速させ、引きずり合っている。……ですが、このままではタイヤが持ちません。どちらかが折れるか、あるいは共倒れか……。山吹さんは、高みの見物といったところでしょうか。」
眞鍋 琉世「どけッ、カナタ!! 俺はあの女をブチ殺さなきゃ気が済まねぇんだよッ!!」
腹切 カナタ「どかないッ……!! 花を……花を取り戻すのは、俺だッ!! 眞鍋さん、あんたに花は渡さないッ!!!」
二台の「戦闘機」は、互いの車体を激しく接触させながら、コーナーへと消えていく。
WRX STIが放つ冷徹な罵倒。それを上書きするかのような、二台のNAとターボの混ざり合った狂気的な排気音が、吾妻の夜を焦がし続けていた。
さらにその後方で......!!
若林「いったあああああ!!!! ついに大排気量の猛獣が沈んだアアアア!!!! 高槻 健永のダッジ・バイパー破れたり!!! GR GTが鉄壁の壁となって立ちはだかってきましたアアア!!!! 岡田 大成が順位をひとつあげたアアア!!!!」
吾妻のタイトなセクション。8.4リッターV10エンジンの咆哮を上げ、強大なトルクで路面をねじ伏せていた高槻のバイパーだったが、その巨大なフロントノーズが、岡田 大成の駆る「黒き開発プロトタイプ」によって完璧に封じ込められた。
高槻 健永「.....っ!!! バカな、このバイパーの加速をインから抑え込むだと……!? あのトヨタ、ただの市販車じゃねぇな……ッ!!」
赤いジャンバーを靡かせ、余裕の表情を崩さなかった高槻の顔に焦りが走る。
岡田のGR GTは、まるで高槻のラインをあらかじめ知っているかのように、一ミリの狂いもなくバイパーの加速ラインを潰し、その軽量なボディを活かしてインサイドを強奪したのだ。
岡田 大成「……悪いな、高槻。お前のバイパーは速いが、このセクションでは俺のデータのほうが上だ。市販化前のテストデータ、存分に味あわせてやるよ。」
岡田は一切の感情を排した声で呟き、淡々とシフトアップ。
最新鋭のエアロダイナミクスが、バイパーの放つ凄まじい熱気を切り裂き、黒い影となって前方へと吸い込まれていく。
若林「岡田 大成、まさに精密機械!! 高槻選手のパワーを完全に無力化しての9位浮上だアアア!! これで中団グループの序列がさらに混沌としてきたぞオオオ!!!」
エアリ「……合理的ですね。岡田さんは高槻さんの『バイパーの重さ』と『タイヤのタレ』を正確に計算していました。バイパーがパワーに頼ってラインを膨らませた一瞬を、外科手術のような正確さで切り裂いた。……高槻さん、リッチな走りもここまでですよ。ここからは、本物の『開発者』の執念がコースを支配します。」




