吾妻編第26話 頂上目前のドッグファイト
山吹 花「ほら、そこの86そんな遅いの? ざぁ〜こ♡ ざぁ〜こ♡ ざぁ〜こ......♡」
WRX STIのブースト圧を上げながら、花は楽しそうに、リズミカルにカナタを煽る。
バックミラーに映る青い悪魔は、パッシングライトをBGMに合わせて点滅させるかのようにチカチカと浴びせかける。
山吹 花「280馬力ぽっちで、あたしのVABちゃんの前に立とうなんて100年早いのよぉ〜! さっさとママのお腹に帰ってミルクでも飲んでなさいよ、この雑魚86ぅ〜♡」
その言葉は、カナタのプライドを鋭利なナイフのように切り刻む。
直線の加速では、どうあがいてもWRXの暴力的なトルクには勝てない。
物理的な「遅さ」を突きつけられ、カナタの額に血管が浮き上がる。
腹切 カナタ「くっ....! うおあああああああああああ!!!!!!!」
カナタは咆哮と共に、アクセルペダルを床板が抜けるほどの勢いで踏み抜いた。
怒りではない。これは、自身の、そして86の可能性を信じ切るための叫びだ。
腹切 カナタ「遅いだと......!? 確かに直線じゃ置いていかれるかもしれない......!! でもな、この86は......!! コーナーじゃ誰よりも速いんだよッ!!!!」
コーナーへのブレーキング。
カナタは、常識では考えられないほど奥までブレーキを我慢した。
タイヤがロック寸前の悲鳴を上げ、車体が横Gで大きく傾く。
しかし、古田の組んだ足回りは、その荷重を完璧に受け止め、86を「オン・ザ・レール」で旋回させる。
腹切 カナタ「ここだッ!!! 見てろよ花!!! 俺の86の『キレ』をッ!!!」
スパパンッ!!
電光石火のシフトダウン。
86はまるで物理法則を無視したかのような鋭角なラインでコーナーをクリアし、立ち上がりでWRXとの差を逆に広げてみせた。
若林「うおおおおおっ!!! 言い返したアアアア!!! いや、走りで言い返したアアアア!!! 『ざぁ〜こ』と言われた直後の鬼のツッコミ!!! ブレーキングでWRXをちぎったアアアア!!! 腹切 カナタ、メンタルが鋼鉄です!!!」
エアリ「……素晴らしい。挑発に乗ってラフになるのではなく、逆に集中力を高めましたね。罵倒を『燃料』に変えて燃焼効率を上げる……。カナタさん、あなたも相当な変態ですね(褒め言葉)。」
カナタの咆哮が、無線のノイズに乗って吾妻の山々に響き渡る。
前を走るフリスの異常な冷気が路面を撫で、背後からは花の悪意と眞鍋の殺意が迫る。
その極限のプレッシャーの中にあって、腹切 カナタの心はかつてないほど澄み切っていた。
彼の目に映っているのは、単なるレースの勝敗や順位の変動ではない。
氷の女王と化し、暴走するかつての仲間、山吹 花の心をこの吾妻の道で止めることだけだった。
腹切 カナタ「花...!! お前のことは俺たちが取り戻すっ!!! ここは抜かせない!!!」
ステアリングを握りしめ、カナタは86の車幅を最大限に活かしてレコードラインを死守する。
古田が心血を注いで組み上げたサスペンションが、カナタの熱い意志に呼応するように路面をガッチリと掴んで離さない。
どれだけWRX STIが直線で牙を剥こうとも、コーナーの進入で86は再び青い悪魔の鼻先を押さえ込む。
280馬力という非力さを、一切の無駄を削ぎ落としたコーナリングスピードだけで補っていく。
山吹 花「はぁっ!? 取り戻すぅ!? あんたバカじゃないの!? あたしは今、最高に気分がいいの! 誰にも縛られず、雑魚どもを蹴散らすこの快感が、あんたみたいな鈍亀にわかってたまるもんですかッ!! 邪魔しないでよ、このポンコツ86ぅぅぅッ!!」
花の怒声と共に、VABのボクサーエンジンが悲鳴のようなエキゾーストノートを轟かせる。
彼女はイン側、アウト側、あらゆる隙間からカナタを刺そうと車体をねじ込んでくる。
だが、カナタは決して怯まない。
恐怖をねじ伏せ、ただひたすらに前だけを見てアクセルを踏み続ける。
彼が口にした俺たちという言葉。それは間違いなく、後方でもがいているであろうスズキスイフトスポーツのドライバー、伊藤 翔太への絶対的な信頼の証だった。
若林「うおおおおおっ!! 腹切 カナタ、魂のブロック!! パワーの差を、ライン取りと気迫で完全にカバーしています!! そして彼が放った言葉! これは、後方から追い上げてくるであろう伊藤 翔太への熱いメッセージでもあるのかアアア!!!」
エアリ「……熱いですね。彼女の冷たく歪んだ心を、その熱量で溶かせるか。ですが、物理的な直線スピードの差は、歴戦のチューナーの腕をもってしても完全に埋めきれるものではありません。カナタさん、この先のロングストレートが本当の正念場ですよ。」
解説陣が息を呑んで見守る中、86とWRXの死闘は続く。
そしてその後ろでは、眞鍋 琉世のランエボIXが、虎視眈々と二台が共倒れになる瞬間を狙い、不気味なミスファイアリングの炎を上げ続けていた。
三つ巴のバトルは、ヒルクライム区間の頂上に向けてさらに熱を帯びていく。
排気音の連鎖が、吾妻の静寂を切り裂き続ける。
吾妻の峠道に、腹切カナタの魂の叫びが木霊する。それは、ただ勝利を渇望するだけのレーサーの雄叫びではない。かつての優しく、そして純粋に走ることを愛していた一人の少女の心を取り戻すための、悲痛で熱い祈りそのものだった。
腹切 カナタ「嫌に決まってんだろオオオ!!!!!」
無線通信を通じてサーキット全体へと叩きつけられたその言葉に、背後から迫る山吹花のWRX STIが一瞬だけ挙動を乱した。彼女の冷たく凍りついた心に、カナタの放つ圧倒的な熱量がほんの僅かにノイズを生じさせたのだ。だが、青い悪魔はすぐに体勢を立て直し、再び86のリアバンパーへと鋭い牙を剥く。
腹切 カナタ「...お前が戻らなかったとしてもお前の心は必ず取り戻してやる......!!!そうじゃなきゃこのままゴールなんてさせねェェ!!!!!」
カナタはステアリングを握る手にさらに力を込める。280馬力という絶対的なパワー不足を補うため、古田が魂を込めてセッティングしたサスペンションの限界をさらに超える領域へと踏み込んでいく。コーナーの進入でブレーキを極限まで遅らせ、タイヤが限界の悲鳴を上げながらも強引にノーズをイン側へとねじ込む。それはもはや理論や計算で導き出されたものではない。カナタ自身の気迫と意地だけで車体をねじ伏せ、コース上に留まらせているような常軌を逸したコーナリングだった。全身にのしかかる横Gに耐えながら、彼はペダルを踏み替え続ける。
山吹 花「なによそれ......!あたしの心をどうこうするって!?気安くあたしの中に入り込もうとしないでよッ!!うざい、うざい、うざいッ!!さっさと道を開けなさいよこの鈍亀がァッ!!」
花は苛立ちをあからさまに露わにし、WRXのアクセルを乱暴に踏み抜く。水平対向エンジンの荒々しい咆哮が谷間に響き渡り、力任せに86の横へと並びかけようとする。四輪駆動の暴力的なトラクションが路面を蹴り上げ、容赦なくカナタを飲み込もうとする。
しかし、カナタはその動きを完全に読み切り、絶妙なライン取りと車体のコントロールでWRXのノーズを完璧に抑え込む。抜かせない。絶対に前へは行かせない。後ろから追い上げてくるはずの伊藤翔太に、元の彼女を会わせるまでは。その強烈な意志が、86の小さな車体を鉄壁の要塞のように見せていた。
若林「うおおおおおっ!!腹切カナタ、一歩も引きません!!山吹花の猛攻を、気迫と執念のブロックで完全に防ぎ切っている!!直線では明らかに分が悪い86が、コーナーの連続するこの区間で己の全てを賭けて立ち塞がる!!この男の辞書に後退という文字は無いのかアアア!!!」
エアリ「……驚異的な集中力ですね。マシンのスペック差という絶対的な物理の壁を、人間の精神力だけで埋めようとしています。山吹さんの焦りが、逆に彼女のドライビングをわずかに雑にしています。カナタさんのその熱が、彼女の分厚い氷を溶かすのか、それとも共に砕け散るのか……。後方からのプレッシャーも含め、非常に危険で美しい攻防です。目が離せません。」
そして、その死闘のすぐ後ろでは、眞鍋琉世のランエボIXが不気味に息を潜めている。二台が隙を見せ、接触やコースアウトを起こすその一瞬を虎視眈々と狙い続けながら、ミスファイアリングシステムの炎をマフラーから吐き出しているのだ。
吾妻の峠を舞台にした三つ巴の愛憎劇は、いよいよ抜き差しならない極限の領域へと突入していく。それぞれの想いとエゴが激しく交錯し、エンジンの爆音とタイヤのスキール音が、焦燥と情熱の入り混じった狂騒曲を奏で続けていた。
この先の連続する難所、勝負の行方はまだ誰にも分からない。
若林「しかし!そこに山吹 花の横から銀の戦闘機!EVO9の眞鍋が迫ってきたアアア!!!!VABとサイドバイサイドで来ましたアアアア!!!!」
カナタの操るREVIVE 86を強引にこじ開けようと、アウト側から覆い被さるようなアグレッシブなライン取りをしていた山吹 花。
その「カナタを絶対に抜く」という強すぎる執着が、彼女の冷徹で広い視野をほんの僅かに狭めていた。コーナーのイン側にポッカリと空いた、車一台分のわずかなスペース。
百戦錬磨のランエボ使いである眞鍋 琉世が、その一瞬の死角を見逃すはずがなかった。
山吹 花「な......っ!!!!」
花の視界の端、WRXの助手席側の窓を暴力的に埋め尽くすように、鋭く尖った銀色のフロントノーズが飛び込んでくる。
強烈なバックタービンの悲鳴と、マフラーから吐き出されるミスファイアリングシステムの鼓膜を破るような破裂音。
眞鍋のランエボIXが、コーナーの進入でイン側の縁石を深く、そしてえげつなく舐めながら、完全に花のVABの懐へと鼻先をねじ込んだのだ。
眞鍋 琉世「ナメるなよ、クソ生意気な小娘がッ!! 21歳の『お爺ちゃん』の意地、ここからとくと味わえェェッ!!」
眞鍋の目は血走り、ステアリングを握る手にはどす黒い復讐の炎が宿っていた。
先ほどの屈辱的な罵倒、そして心をへし折りにきた冷徹なプレッシャー。普通のドライバーならメンタルを完全に砕かれ、戦線から離脱していくところだ。だが、眞鍋は違った。彼は己の怒りと屈辱を、名機4G63エンジンの爆発力へと直結させ、地獄の底から這い上がってきたのだ。
山吹 花「くっ……! しつこい男は嫌われるわよッ!! さっさと退きなさい!!」
花は舌打ちと共に慌ててステアリングを切り足し、幅寄せをしてランエボをアウト側へ押し出そうとする。
しかし、イン側の主導権を完全に握った眞鍋のランエボはビクともしない。三菱が誇る電子制御4WDの強烈なトラクションで路面を鷲掴みにし、WRXとドアミラーが接触するほどのギリギリの距離で、サイド・バイ・サイドの死闘へと持ち込む。
ガリッ!という微かな接触音が響く。
スバルブルーのWRX STIと、シルバーのランサーエボリューションIX。WRXのEJ20エンジンとランエボの4G63エンジン。日本が世界に誇る2リッター四駆ターボの頂点同士が、互いの存在を否定するかのように咆哮を上げ、タイヤのスキール音が吾妻の谷間に二重奏となって響き渡る。WRCの黄金期から脈々と続く宿命のライバル同士の意地とプライドが、この過酷な峠道で激しい火花を散らしていた。
腹切 カナタ「後ろで二台が並んだ……!? ここでやり合う気かよ!!」
バックミラー越しにその異常な光景を見たカナタも、思わず息を呑む。
エアリ「……見事なリカバリーですね。山吹さんがカナタさんに意識を集中しすぎたことで生じた、ほんの数十センチの死角。眞鍋さんはそこへ、ランエボの強靭なトラクションを活かして正確に楔を打ち込みました。……怒りに我を忘れているように見えて、その走りは冷徹な『戦闘機』そのものです。山吹さん、少し足元をすくわれましたね。」
後方から迫る銀の刃によって、ついに氷の女王の完璧なペースが乱れ始める。
前には魂のブロックを続けるカナタの86、真横には復讐の鬼と化した眞鍋のランエボ。
吾妻GTのヒルクライム後半戦、三つ巴のバトルは、息もつかせぬ超接近戦の極みへと突入していった。
若林「新旧ラリーカーヘアピン対決の決着は如何にイイイイイっっ!!???」
山吹 花「......速い!!エボなんて雑魚のクセになんで......っ!!」
吾妻の山肌に沿うように作られた、極悪なRのヘアピンカーブ。
イン側を完全に確保した眞鍋 琉世のランエボIXが、物理法則を嘲笑うかのような鋭角なターンを見せつける。
三菱が誇る電子制御、スーパーAYCがリアの左右駆動力を最適に配分し、まるでコンパスの針を突き刺したかのように、重いフロントノーズを強引にイン側へと巻き込んでいく。
眞鍋 琉世「俺の相棒を、ただの古い鉄屑だと言ったなッ!! ランエボの真骨頂は、この地を這うようなコーナリングにあるんだよッ!!」
眞鍋の怒号が、4G63エンジンの爆音と共に響き渡る。
対する山吹 花のWRX STIは、アウト側の厳しいラインを強いられていた。
最新鋭のボディ剛性とDCCDを駆使しても、タイヤのダストが浮くアウト側では、インベタで旋回するランエボの圧倒的な回頭性に対抗できない。
山吹 花「くそっ、曲がれッ! あたしのVABちゃんが、こんな型落ちのエボに負けるわけないでしょッ!!」
花はステアリングを力任せにこじり、アクセルを踏み込んで強引にノーズをねじ込もうとする。
しかし、その女王としての傲慢さと焦りが、さらなるアンダーステアを誘発した。
青い車体は無情にもアウト側へと膨らみ、トラクションが逃げていく。
その致命的な隙を、銀の戦闘機は見逃さなかった。
ズバァァァンッ!!!
ミスファイアリングシステムの強烈な炸裂音を置き土産に、ランエボIXがWRX STIの横を弾丸のようにすり抜けていく。
エアリ「見事なクロスラインです。山吹さんは完全に冷静さを失い、マシンのポテンシャルを自ら殺してしまいましたね。対して眞鍋さんは、怒りを完璧なトラクションコントロールへと変換しました。ランエボのあの恐ろしいまでの旋回性能、わたしも感心してしまいます。」
ヘアピンを立ち上がった瞬間、勝負は決した。
氷の女王のプライドを粉々に砕き、眞鍋 琉世が再び前に躍り出る。
そして、その復讐の炎を纏った銀色の切っ先は、すぐ目の前で決死のディフェンスラインを構築する腹切 カナタの86へと向けられた。
若林「眞鍋 琉世が6位に帰還してきましたアアアアアっ!!!!!!」
実況席の若林が椅子から身を乗り出し、モニターに映る銀色の残像に絶叫する。
ヘアピンの立ち上がり、路面を力強く蹴り上げたランエボIXが、屈辱を振り払うかのようにスバルブルーをミラーの彼方へと追いやった。
若林「アップダウン多めのヒルクライムで、激しいデッドヒートが続くううう!!!!! エアリさんも何か言ってください!!!」
エアリ「……素晴らしいオーバーテイクでしたね。感情に流されることなく、マシンの特性を理解し、一瞬の隙に全てのトラクションを叩きつけた。これこそがランエボの、そして眞鍋さんの真の姿と言えるでしょう。」
エアリの赤い瞳が、冷徹な分析の中にも、どこか満足げな光を宿す。
エアリ「ですが、山吹(花)さんはこのままでは終わらないでしょうね。彼女のプライドは今、修復不可能なほどに傷ついている。……復讐の連鎖が、さらにこのヒルクライムの温度を上昇させています。見てください、カナタさんの背中を捉える銀色の影を。」
若林「そうなんです! 眞鍋が戻ってきたことで、5位の腹切 カナタはさらなる窮地に!! 86対ランエボ、新旧世代を超えた意地がぶつかり合うッ!!!」
眞鍋 琉世「……カナタ。次は、お前だ。お前が守ろうとしているその『何か』ごと、俺がブチ抜いてやるッ!!」
眞鍋の咆哮と共に、4G63エンジンの排圧が高まる。
背後に迫る死神のような銀色のプレッシャーを全身で感じながら、カナタはステアリングを握り直した。
若林の実況が、5位争いの狂騒から一転して後方の激戦区を映し出す。
そこでは、ドイツが誇る生粋のレーシングマシンと、幼き破壊神の操る白い国産スポーツカーが、火花を散らすようなサイド・バイ・サイドの攻防を繰り広げていた。
若林「さらに後方では、M4 DTM!柳津 雄介がGRスープラのイヨとサイド・バイ・サイド中だアアア!!!!!」
吾妻の過酷な峠道。
柳津 雄介は、BMW M4 DTM Editionの重たいステアリングをねじ伏せるように握りしめていた。35歳という年齢を感じさせない、20代のような若々しくクールな顔立ちに、今は焦りと意地が入り混じった汗が滲んでいる。
柳津 雄介「ここでくたばる訳にはいかないんだよ......っ!!!!」
彼には絶対に負けられない理由があった。繊細な氷の姫と称される妹、柳津 カリンに情けない姿は見せられないという兄としてのプライド。そして何より、この吾妻山の麓には、彼を強烈に誘惑する極上の温泉街が広がっているのだ。
無類の温泉大好き人間である彼は、この過酷なレースの最中にもかかわらず、もうこのままコースを外れてリタイアして、高湯温泉の硫黄が香る源泉掛け流しの湯にどっぷりと浸かりたいという強烈な煩悩と戦っていた。
その誘惑をなんとか振り払うかのように、彼はDTM譲りのV8エンジンをレッドゾーンまで叩き込み、カーボンブレーキを酷使してコーナーへと突っ込んでいく。
柳津 雄介「温泉の誘惑なんかに負けてたまるかよッ!! 俺のM4の圧倒的なダウンフォースと剛性で、このままアウトからねじ伏せてやる!!」
しかし、並走する白いGRスープラの助手席側から、可愛らしくも恐ろしい声が響いてきた。
イヨ「えっへん☆ お兄さん、そんなに急いでどこ行くの〜? わたしが少しだけ『壊す側』として、たっぷり遊んであげるね!」
11歳の幼い少女、イヨ。神秘的な白髪に愛らしい猫耳を揺らし、ピンク色の萌え袖をステアリングに添えながら、彼女は無邪気に微笑む。トップを独走する氷雪の獣神ちとせの面影を強く継承する彼女は、天真爛漫な破壊神としての顔を持っていた。
その微笑みとは裏腹に、白いGRスープラの周囲には濃いピンク色の不気味な波動が渦巻き始める。あらゆる重さを自在に操る、彼女の規格外の星属性の能力。
イヨ「重たーくなあれっ☆」
無邪気な声と共に、濃いピンク色の重力波動が隣を走るM4 DTMに覆い被さる。
瞬間、柳津のBMWは目に見えない巨大なプレス機に上から押し潰されたかのように、硬められたレーシングサスペンションが悲鳴を上げて限界まで沈み込んだ。
柳津 雄介「なっ!? なんだこの異常なGは!? 車体が……アスファルトにめり込みそうだッ!? エンジンが吹けないッ!?」
イヨ「あははっ☆ すごいすごい! お兄さんのカッコいい車、ペッチャンコのおせんべいになっちゃうかも! えっへん☆」
柳津のM4は強烈なダウンフォースを生み出すエアロパーツを備えているが、イヨの放つ重力波はそれを遥かに凌駕する絶対的な制圧力で車体の自由を奪っていく。ステアリングが岩のように重くなり、強大なトラクションは路面に吸い付くどころか、路面に縛り付けられるような感覚へと変わった。
柳津 雄介「くそッ……!! 温泉……いや、俺のクールなプライドが、こんな小娘の謎パワーの前に……!!」
若林「うおおおおっ!! 柳津 雄介のM4 DTMが急激に失速!! 一体何が起きているんだ!? 白いGRスープラのイヨが、無邪気な笑顔のままBMWを置き去りにしていくゥゥゥッ!!!!」
エアリ「……恐ろしいですね。物理法則そのものを書き換える重力操作。あらゆる重さを自在に操る彼女の前では、ダウンフォースも空力デバイスも全くの無意味です。柳津さん、これ以上無理をしてアクセルを踏み込むと、本当に車体が押し潰されて大破しますよ。おとなしくレースを降りて、大好きな温泉へ直行した方が身のためかもしれませんね。」
濃いピンク色の重力波動を撒き散らしながら、白いGRスープラが猛然と加速し、身動きの取れなくなったM4をあっさりと抜き去っていく。後方集団でもまた、常識の通用しないバケモノたちの戦いが繰り広げられていた。




