吾妻編第18話 高槻の作戦
k424
大事なお知らせ
86伝説エーペックスの投稿は、アドバンテイル再投稿開始のために土曜夜のみにお引越し!!!
アドバンテイルも見てね!
秋の木漏れ日が不気味に揺れる中、高槻 健永のダッジ・バイパーが、山吹 花のWRX STIの横にぴたりと幅寄せする。
V10エンジンのアイドリング音が、まるで地獄の獣の唸り声のように響く中、健永は窓越しに花へ声をかけた。
高槻 健永「花、作戦があるんだ。とっておきのな......」
健永の瞳は、サングラスの奥で氷のように冷たく、しかし楽しげに光っていた。
花は、艶やかな指先でステアリングをなぞりながら、興味深そうに微笑む。
山吹 花「あら、なぁに? 高槻くんの『とっておき』なんて、聞くだけでゾクゾクしちゃうわ。まさか、あの黄色いゴミを掃除する方法かしら?」
高槻 健永「フッ、それも含めてだ。……いいか、この路面はちとせの氷と落ち葉でカオスになってる。俺たちのパワーなら、立ち上がりで『意図的に』氷の飛沫を後ろに飛ばせる。」
※そんなのできません。
健永の声のトーンが、一段低くなる。それはレースの戦略というよりは、狩りの相談に近い響きだった。
高槻 健永「俺とお前で、コース幅を完全に支配するんだ。そして、後ろから来るカナタや、あの能天気なフリス……そして生意気な黄色い虫けらがラインに入ろうとした瞬間、俺たちのトラクションで氷の壁を作ってやる。視界を奪い、グリップを奪い……絶望の淵へ『クール』にエスコートしてやるのさ。」
山吹 花「ふふっ……最高ね。それなら、私のVABのAWDシステムが火を吹くわ。後ろの連中が泥と氷に塗れて這いつくばる姿……想像するだけで傑作よ。」
二人は互いの残虐な思考に共鳴し、声を殺して笑い合った。
その邪悪な気配を背中で感じたのか、少し離れた場所にいた伊藤 翔太の背筋に、冷たい戦慄が走った。
伊藤 翔太「(な、なんだ……? あの二人、何を話してやがる……。すげぇ嫌な予感がしやがる……!)」
秋の木漏れ日が、高槻 健永のサングラスに冷たく反射する。
彼はコース図を頭に描きながら、山吹 花に悪魔の囁きを続けた。
高槻 健永「それにこのコースはつづら折りが多いだろ? 低速のヘアピンが連続するセクション……そこが俺たちの狩り場だ。」
健永はニヤリと笑い、自分のバイパーの極太のリアタイヤを指差した。
高槻 健永「狭いコーナーで、俺とお前が並走してレコードラインを塞ぐ。いわゆる『動くバリケード』だ。後続の連中は、俺たちの排ガスを吸いながら、ノロノロとついてくるしかねぇ。」
山吹 花「なるほどね……。出口が見えないストレスで、あの弱弱翔太なんかは泣き出しちゃうかもしれないわね。そして、コーナーの立ち上がりで……?」
高槻 健永「そう、そこがクライマックスだ。俺のV10と、お前のAWDで全開加速する。溜まりに溜まった鬱憤を晴らそうと焦る連中のフロントガラスに、溶けかけの氷と砂利を、思いっきり浴びせてやるのさ。」
山吹 花「最高……! 視界を奪われて、パニックになった雑魚たちがガードレールとお友達になる姿……あぁ、想像するだけでゾクゾクしちゃう!」
二人の笑い声は、秋の風に乗って不気味に響き渡る。
それは単なるレースの駆け引きを超えた、純粋な悪意の結晶だった。
少し離れた場所で、その異様な気配を感じ取ったのか、伊藤 翔太の背中が小さく震えた。
伊藤 翔太「(な、なんなんだよ……。あの二人、こっちを見ながらニヤニヤしてやがる……。絶対にロクなこと考えてねぇぞ……!)」
秋晴れの空に、実況・若林の熱い絶叫がこだまする。
若林「皆さん! お待たせしました!! エーペックスカップ第8戦 吾妻GT、いよいよ開幕です!!!」
会場のボルテージが一気に跳ね上がる中、若林がコース図を指し示す。
若林「今回の舞台は、紅葉燃ゆる『磐梯吾妻スカイライン』! 高湯温泉をスタートし、標高1,600mの浄土平を越え、そこから地獄のつづら折りダウンヒルで土湯温泉へ! さらに庭坂区間を駆け抜けて戻ってくる、過酷な周回レースを2ラップで開催します!!」
モニターには、美しい紅葉と、路面を覆う不気味な氷のコントラストが映し出される。
若林「実況は私、若林! そして解説には、第288戦でもゲスト解説を務めてくれた、あのお方をお呼びしましたー!!!!」
マイクを受け取ったのは、白髪のショートポニーテールに赤い瞳、愛らしいケモミミを持つ美女、エアリだ。
エアリ「ふふっ、エアリです。よろしくお願いします! わぁ〜、今日の吾妻はとっても綺麗! ……でも、なんだか路面がキラキラしてる? あれってまさか、ちとせちゃんの仕業かな〜?」
エアリはモニターに映るトップのフェアレディZを見つめ、楽しそうに目を細める。
若林「その通りです! 現在、ポールポジションの『ちとせ』選手が、路面をブラックアイスバーンに変えているとの情報が入っています! しかも気温は秋の暖かさ……非常に読みづらいコンディションです!」
エアリ「大変だねぇ。でも、わたしは岩属性だから、あんなツルツルした道より、ゴツゴツした岩場の方が好きかな〜...?
みんな、砂嵐に巻き込まれないように気をつけてね? ……あ、そうそう! わたしの友達の86の子も頑張ってるみたいだし、応援しちゃおっかな!」
若林「おおっと! エアリさん、特定の選手への贔屓は……いや、この際何でもありだ! さぁ、全車エンジンスタート! シグナルに注目です!!」
グリッド上では、23台の猛獣たちが一斉に咆哮を上げた。
ちとせの冷気、フリスの能天気な笑顔、花と健永の殺気、そして翔太とカナタの闘志。
全ての感情が入り乱れる中、運命のレッドシグナルが点灯する。
大型ビジョンに映し出されたのは、グリッドの8番手につける鮮やかなブルーのマシンだった。
エアリ「特に大注目なのは山吹花さんなんです。青いWRX STI VAB型。水平対向エンジンの中でもEJ20は最高峰のボクサーエンジンです。」
エアリの声には、純粋にメカニズムを愛でる響きがあった。彼女は岩属性として鉱物や硬いものを好むが、完成された機械の造形美にも目がなかったのだ。
エアリ「低重心でバランスが良くて、独特のドロドロした排気音……『ボクサーサウンド』が、大地の鼓動みたいで素敵だよね〜。それに、彼女の走りはいつも仲間想いで優しくて……」
若林「そ、そうですね! 山吹選手といえば、チームの精神的支柱! ……しかしエアリさん、今日の山吹選手の雰囲気、少し違和感を感じませんか? マシンから漂うオーラが、いつもの『守る走り』というよりは、何かこう……鋭利な刃物のような……」
エアリ「それはレースをしてみないと分からないものですし...他人が決める物事ではないんですよ。山吹花自身が...花ちゃん自身にかかるプレッシャーなんだと私は思います。」
「それを昔いつもいてくれた友達が証明してくれたので、私はそれを事実だと思うんです。」
モニターの中の山吹 花は、コックピットの中で冷ややかな笑みを浮かべていた。実況の声が聞こえているわけではないが、自分に向けられた注目を肌で感じているようだ。
山吹 花「ふふっ、最高峰のエンジン……ええ、そうよ。だからこそ、この力は私のために使われるべきなの。仲間を守る? バカバカしい。このEJ20が唸りを上げるときは、誰かを蹴落として絶望させるときだけよ。」
隣に並ぶ高槻 健永が、V10エンジンの轟音の合間にニヤリと笑う。
高槻 健永「へぇ、解説席のねーちゃん、いいこと言うじゃねぇか。だが、その『最高峰』が牙を剥くのは、これからだぜ。……なぁ、花。そのボクサーエンジンで、後ろの有象無象をサンドバッグにしてやれよ。」
一方、後方の14番手でその実況を聞いていた伊藤 翔太は、ステアリングを握る手に力を込めた。かつての花なら、その称賛を照れくさそうに受け止めていただろう。だが今は、その賞賛さえも彼女の歪んだ自尊心を肥大化させる燃料にしかならない気がしていた。
伊藤 翔太「EJ20が最高峰なのは知ってるさ……! でも、花……お前が乗るなら、もっと熱くて優しい走りだったはずだろ……! なんでそんなに冷めちまったんだよ……!」
シグナルが赤く点灯していく。
5つ点灯し、ブラックアウトするその瞬間まで、あと数秒。
誰もが息を呑む緊張の中、ちとせの作り出した氷の結晶が、スタートライン上で不気味に輝いていた。
スタート直前、グリッド上のスピーカーから運営委員の怒鳴り声が響き渡った。
運営「おい! ポールポジションのちとせさん! ちゃんと走ってください!! コースを勝手に凍らせたり、変な雪だるま出したりするのも禁止です!!! これ以上やったら失格にしますよ!!」
運営からの名指しでの警告に、観客席からはどよめきと笑いが漏れる。
しかし、当のちとせは運転席でハンドルに突っ伏し、面倒くさそうにぼやいた。
ちとせ「うへ〜...どうして〜....? 暑いから涼しくしてあげてるだけなのにぃ......。みんなもその方が走りやすいでしょぉ......?」
そのマイペースすぎる態度に、後方9番グリッドの相川 美保(スカイラインGT-R 400R)が窓から身を乗り出して叫んだ。
相川 美保「ふざけんな!! 誰が氷の上で走りやすいってんだよ!! テメェ、黒川みたいな荒らし行為すんじゃねェ!!!!」
かつて暴走行為で悪名を轟かせた黒川 海斗を引き合いに出しての激怒。
会場がピリつく中、解説席のエアリは苦笑しながらマイクに向かった。
エアリ「あはは……美保さん、顔が怖いですよ。やめましょう、落ち着いて...(笑)。」
「ちとせちゃんも、今日はちょっとだけ我慢しようね? わたしの顔に免じて、ね?」
若林「さ、さすがエアリさん! 暴走しかけた空気を笑顔で鎮めたー!! さぁ、気を取り直して……エーペックスカップ第8戦、いよいよスタートです!!」
秋の爽やかな風すら凍りつくような殺気が、15番グリッドの相川 律を襲っていた。
彼は純白のGT-R NISMO R35のバケットシートに深く体を沈め、ガタガタと震える膝を必死に抑え込もうとしていた。
視線の先、9番グリッドに鎮座する伝説のマシン、スカイラインGT-R 400R。その運転席から溢れ出るオーラは、もはや人間のそれではない。
相川 律「……いつもはアイドルみたいに可愛い美保が……こんなにも殺気立ってる……!!」
律の脳裏には、普段の姉の姿が走馬灯のように駆け巡る。
エプロン姿で「りつくん、ご飯できたよ〜♡」と微笑む姉。
休日にショッピングモールで「この服、似合うかなぁ?」と首をかしげる姉。
誰からも愛される、ふわふわとした天然アイドルのような姉。
だが、今、目の前にいるのは「修羅」だ。
相川 美保「 テメェ、スタート直後に少しでも変な雪降らせてみろ……そのRZ34ごとミンチにしてやるからなァアア!!!」
窓から乗り出して怒号を飛ばす美保の声は、400RのRB-X GT2エンジンのアイドリング音すら掻き消すほどの迫力だった。
周囲の空気すらビリビリと振動している。
相川 律「ひぃっ……! マジだ……姉貴、マジで殺る気だ……。黒川さんの件は、姉貴にとって最大の地雷……それを踏み抜いたちとせさん、あんた勇者すぎるよ……」
律は恐怖で乾いた唇を舐め、自身のGT-Rのハンドルを握りしめた。手汗が止まらない。
もしレース中に美保の射程圏内に入ってしまったら? もし彼女のスイッチが入った走りに巻き込まれたら?
想像するだけで、NISMOの堅牢なボディ剛性が紙屑のように感じられた。
相川 律「頼む……頼むから俺の前でスピンとかしないでくれよ……。姉貴の暴走に巻き込まれたら、俺のGT-Rなんて一瞬でスクラップだ……。神様、仏様、姉貴の機嫌を直してください……!」
※スピンするのお前だろ笑
嵐のような怒号が収まった直後、相川 美保の周囲から不自然なほどスッと殺気が消え失せた。
先ほどまで鬼の形相でちとせを罵倒していた彼女は、突然ハッと我に返ったように口元を抑え、潤んだ瞳で後方の律を見つめた。
相川 美保「あ...ごめんね...お兄ちゃんのいる前でこんな怒号を.....海のような私の心が...抉り削られてしまいそう.....怖い.....」
「こんなことしたらおばあに怒られそうだよ......」
その声は、守ってあげたくなるような可憐さと、ガラス細工のような脆さを孕んでいた。
400Rの窓枠に頬を寄せ、しなしなと萎れるその姿は、まさに悲劇のヒロインそのもの。
先ほどの「テメェ」と怒鳴っていた人物と同一人物とは到底思えない。
相川 律「(ヒィッ……! こ、この切り替えこそが美保の真骨頂……! さっきまでヤクザみたいだったのに、急に儚い妹キャラに戻りやがった……!)」
律はGT-R NISMOのハンドルを握る手が汗ばむのを感じた。
妹・美保のこの激しい情緒のアップダウンこそが、彼女の走りの予測不能さを生み出している源泉であり、兄として最も恐れている部分でもあった。
相川 律「だ、大丈夫だぞ美保……! お兄ちゃんは怒ってないから……! だから、レース中は情緒を安定させてくれよ……頼むから……!」
エアリ「わぁ〜、すごい表現力! 『海のような心』だって! 詩的だね〜。でも、情緒のジェットコースターが激しすぎて...タイヤの空気圧が変わっちゃいそうですね(笑)」
若林「さ、さぁ! 400R使い相川美保選手も(ある意味)整ったところで! 会場の空気も最高潮! 運命のカウントダウンが始まります!!」
会場が困惑と興奮の渦に包まれる中、スタートシグナルのレッドランプが一つ、また一つと点灯していく。
若林「ところでエアリさんの好きな路面ってどんな感じでしょうか? やっぱりザラザラした感じとか?」
エアリは優しく微笑み、ケモミミをゆっくりと揺らしながら答えた。
エアリ「んー、そうですね、わたしはやっぱり、お日様の匂いがするような、温かくてザラザラしたアスファルトが好きだと思いますねー。」
彼女の声は、春の日差しのように柔らかく、聞いているだけで心が安らぐような響きを持っていた。
エアリ「タイヤがしっかりと路面を掴む感触って、まるで『手をつないでる』みたいで安心するじゃないですか。 大地の温もりが伝わってくる感じがして、とっても愛おしいの......。」
若林「なるほど……『手をつなぐ』ですか。岩属性のエアリさんならではの、大地への愛を感じる表現ですね! では、ちとせ選手の氷雪路面については?」
エアリ「ちとせちゃんの氷も、宝石みたいにキラキラして本当に素敵なんだけど……やっぱり、みんなが寒くて滑っちゃうのはちょっと心配なんです。もしわたしが走るなら、温かい砂のお布団をふわりと敷いて、みんなが転ばないように優しく支えてあげたいかもしれません。」
破壊や改修ではなく、「支える」「守る」という言葉を選び、エアリは聖女のような慈愛に満ちた視線をコースへと送った。




