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86伝説エーペックス  作者: SAI
吾妻GT編
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476/535

吾妻編第17話 決勝開幕

k423

秋の陽光が路面の落ち葉を黄金色に照らす中、先頭を走るちとせのフェアレディZからは、季節を無視した絶対零度の冷気が噴き出していた。凍りついた紅葉が、後続車のタイヤに踏みつぶされ、クリスタルの砕けるような音を山々に響かせる。


ちとせ「もへ〜……。お日様はポカポカしてるのに、おじさんの周りだけ氷が溶けないねぇ……。不思議だねぇ……。」


ちとせが気だるげにステアリングを切ると、路面には弾力のある「ヌルコチ」とした氷が厚さを増していく。2番手の柊蒼真、3番手のサテラは、その異様な路面変化に翻弄され、ラインを乱されていた。


フリス「……太陽光による路面温度の上昇と、ちとせの冷気による氷結。この相反する事象が、路面のμ(ミュー)をカオスへと変えている。だが、我の計算はその混沌すらも変数として組み込んでいるよ。」


4位のフリスは、ポルシェの電子制御をフルに活用し、氷とアスファルトの境界線をミリ単位でトレースしていく。しかし、その直後、5位の腹切カナタが驚異的な動きを見せた。


腹切 カナタ「見える……! 日陰の凍ったラインと、日向の溶けかかったラインの境目が! ここなら、今の86のパワーを逃がさずに前に進める……!」


カナタはREVIVE86をあえて不安定な氷の境界線に乗せ、280馬力のトルクを爆発させた。フリスが計算し得なかった「不確定なグリップ」を感覚で支配し、その差を詰めにかかる。


伊藤 乎太郎「わかるよ……。上昇気流と冷たい風がぶつかって、ボクのウアイラを路面に押し付けてくれている。兄貴、ボクは今、誰よりも風に近いよ。」


伊藤 翔太「おい! 伊藤がこんなところで立ち止まってられるか! カナタ、乎太郎、調子に乗ってんじゃねーぞ! 俺のスイフトだって、この秋の吾妻を全力で駆け抜けてやる!」


後方18位のイヨは、ピンク色の重力波動を周囲に撒き散らし、先行するマシンたちの荷重を無理やり操作し始めていた。


イヨ「えっへん☆ みんな、体が重たくな〜れ! イヨだけが、この秋の空をふわふわ飛んで追い越してあげちゃうんだから!」


相川「重くならねェよ!!誰が重くな〜れ☆だ!!!」


秋の柔らかな陽光が降り注ぐ吾妻スカイラインに、路面の氷を砕く暴力的な排気音が二つ、響き渡った。

スバルブルーのWRX STIと、燃えるような赤のダッジ・バイパー。


山吹 花「……あら、みんなして氷の上でお遊戯会? 滑るのが怖くてアクセルが踏めないなら、さっさと道を空けてくれないかしら。この程度の路面、私にとってはレッドカーペットと同じよ。」


これまでの世話焼きな面影は消え、女王のような傲慢な笑みを浮かべる花。彼女のVABは、氷結路面を嘲笑うかのような鋭い挙動で、先行車たちの背後に詰め寄る。


高槻 健永「おいおい、そんなに急かすなよ花。まだパーティーは始まったばかりだぜ。……よぉカナタ、フリス。お前ら、そんな慎重な走りで勝てると思ってんのか? クールにいこうぜ、クールにな。……まぁ、レースはまだ始まってすらいないんだけどな。」


健永はバイパーの巨大なV10エンジンを軽く煽り、余裕の笑みを見せる。その態度は気さくながらも、他者を完全に見下すような不敵さに満ちていた。


ちとせ「もへ〜……。新しいお客さんが来たんだねぇ……。生意気な子たちだけど、私の氷の中で大人しくしてくれるかなぁ……。」


ちとせの冷気、フリスの計算、カナタの闘志。そこに花と健永の「傲慢な速さ」が加わり、秋の吾妻は一気に一触即発の空気に包まれる。


伊藤 翔太「おい花! お前、キャラ変わりすぎだろ!? それにそのバイパーの野郎……ムカつくぜ、伊藤の血が黙ってねぇ!」


腹切 カナタ「……花さん? いや、今はそんなこと言ってる場合じゃない。来るなら来い。この路面で、誰が一番速いか……証明するだけだ!」


伊藤 乎太郎「わかるよ……。新しく入ってきた二人の風が、これまでの流れを全部掻き回してる。ボクの風の道が……どんどん歪んでいく……。」


秋の陽光が路面の氷をギラギラと照らす中、伊藤 翔太のスイフトスポーツは苦悶していた。FF(前輪駆動)特有のアンダーステア。フロントタイヤが氷に負け、ノーズが思うようにインに向かない。

その隙を縫うように、背後から暴力的なプレッシャーが迫る。


右のミラーには、スバルブルーの閃光。

左のミラーには、血のような真紅の影。


山吹 花「あらあら、翔太。あなたのその黄色い車、遠くから見たら工事現場の看板かと思ったわ。まさか本気でレースに参加していたなんて……滑稽すぎて涙が出そう。」


WRX STI VABが、氷の上とは思えないトラクションで翔太の右サイドに並ぶ。サイドウィンドウ越しに見える花の瞳は、かつての仲間の温かさを完全に失い、ゴミを見るような冷徹な光を宿していた。


伊藤 翔太「は、花……!? お前、マジで何を言って……!」


山吹 花「黙りなさい、雑草。チャンピオンイエロー? どの口が言うのかしら。今のあなたにお似合いなのは『敗北者のイエローカード』よ。私の視界から消えてちょうだい。その安っぽいエンジン音が、私の鼓膜を汚すから。」


花がアクセルを踏み込むと、AWD(全輪駆動)の暴力的な加速が氷を掻きむしり、翔太のスイフトを置き去りにする。

呆然とする翔太の左側から、今度は地響きのようなV10サウンドが鼓膜を叩いた。


高槻 健永「おいおい、花も手厳しいな。……よう、翔太。一生懸命ハンドルにしがみついて、可愛いじゃねぇか。まるで初めて補助輪を外した子供みたいでさ。」


ダッジ・バイパーの巨大なボンネットが、スイフトの横に並ぶ。健永は片手でハンドルを握り、もう片方の手でわざとらしくあくびをして見せた。


伊藤 翔太「健永……! テメェまで、俺をナメやがって……!!」


高槻 健永「ナメる? 勘違いするなよ。俺はただ、事実を『クール』に分析してるだけだ。お前のそのおもちゃじゃ、このステージの『参加資格』すら満たしてないってな。……悪いが、排気量が違いすぎる。俺の吸い込む空気だけで、お前の車ごと吹き飛ばしちまいそうだ。」


ドォォォォォォォォン!!


健永が右足に力を込めた瞬間、8.4リッターV10エンジンの爆音が炸裂する。その衝撃波だけでスイフトが揺らぐほどの圧倒的パワー。

翔太が何事かを叫び返す暇もなく、紅いバイパーはテールスライドすら優雅なダンスのように演出しながら、前方へと消え去った。


伊藤 翔太「クッ……ソォォォォォ!!

待てよ!! なんなんだよ、二人とも!! 俺は……俺はまだ終わっちゃいねぇぞ!!」


翔太の絶叫は、冷たい秋風にかき消され、ただ虚しく紅葉の山に吸い込まれていった。


秋の風が冷たく吹き抜ける中、山吹 花のWRX STIと高槻 健永のバイパーは、バックミラーに小さく映る黄色い車影を一瞥もせずにアクセルを踏み込んだ。


山吹 花「いきましょ? 高槻くん☆ 雑音は消えたわ。ここからは選ばれた人間だけのステージよ。」


花の声は甘く、しかし残酷なほどに明るい。先ほどまでの罵倒が嘘のように、彼女は隣を走るバイパーに艶やかな視線を送る。

健永は片手でステアリングを操作しながら、鼻で笑って答えた。


高槻 健永「ああ……あんなヤツ構っても意味ないんだ? どうせアイツのスイスポは53(ゴミ)クズだからな。所詮はスズキのブースタージェットなんだろ? 排気量1.4Lのコンパクトカーが、俺たちの世界に足を踏み入れようってのが間違いなんだよ。」


健永の言葉には、徹底的な侮蔑が込められていた。彼の操る8.4L V10エンジンと比較すれば、翔太のエンジンなどおもちゃ同然だと言わんばかりだ。


山吹 花「ふふっ、ゴミクズなんて言葉、高槻くんらしくない汚い言葉ね。でも……事実は事実だもの、仕方ないわよね。さようなら、翔太。せいぜいそこで、落ち葉掃除でもしていなさい。」


二台のマシンは、まるで申し合わせたかのように同時に加速体制に入る。

WRX STIのEJ20がヒステリックな高回転音を奏で、バイパーのV10が重低音の咆哮を上げる。

その圧倒的なパワー差を見せつけるように、二台は瞬く間に次のコーナーへと消え、翔太の前にはただ冷たい秋の風だけが残された。


伊藤 翔太「…………なんなんだよ……あいつら……!!」


花と健永に置き去りにされ、絶望の淵に立たされた翔太。そして、前方を走るカナタ。


秋の冷たい風が吹き抜ける吾妻スカイラインのスタート地点付近。山吹花と高槻健永の暴言の余韻が、重く垂れ込めていた。

伊藤翔太は、自分の黄色いスイフトのボンネットを悔しそうに叩いた。


伊藤 翔太「クソッ……! どいつもこいつも、人の車をバカにしやがって……!

53クズだ!? ふざけんな.....ッ!!」


その様子を、少し離れた位置から腹切カナタが静かに見つめていた。かける言葉を探していると、突然、場違いなほど明るく、能天気な声が響き渡った。


???「あははっ☆ なになに〜? なんでそんなに怒ってるの〜? 黄色い車の人〜。」


二人が振り返ると、そこには信じられない光景があった。

あの冷徹な「精密機械」、絶対王者フリスのポルシェ 718 ケイマン GT4の横に立っていたのは、フリフリのついたレーシングスーツを着た、小柄で可愛らしい女の子だったのだ。


フリス(仮)「ん〜っとね、ボクはフリス! よろしくねぇ☆ ……ってあれ? キミ、顔真っ赤だよ? まるで茹で上がったタコさんウインナーみたいだねぇ!」


悪気のかけらもない笑顔で、フリスは翔太の顔を覗き込む。


フリス(仮)「うん、そうだよぉ。ボクがフリス! ……で、キミのその黄色い車、すっごく可愛いね! まるで縁日のひよこみたい! でも、ひよこってあんまり速く走れないよねぇ? 大丈夫かなぁ?」


翔太の神経を逆なでするような言葉を、ニコニコしながら言い放つ。翔太はあまりのことに言葉を失った。

そしてフリスは、くるりと向きを変え、カナタの方へと歩み寄る。


フリス(仮)「あ! キミがカナタくんだね!

噂は聞いてるよぉ。古いハチロクで頑張ってるんだってねぇ。偉いねぇ〜♪」


腹切カナタ「なんだよお前......」


カナタは警戒心を強めながらも、目の前の能天気な少女の姿に困惑を隠せない。


フリス(仮)「ボクね、難しい計算とか疲れちゃうからやめちゃったの! これからは楽しく走ることにしたんだぁ☆ ねぇねぇカナタくん、ボクのポルシェと鬼ごっこして遊んでくれるよねぇ? ボク、捕まるのキライだから、一生懸命逃げるねっ☆」


キャハハと笑うフリスの背後で、ケイマンGT4のエンジンが、主人の変貌など我関せずといった様子で、低く唸りを上げていた。

嵐の前の静けさどころか、全く別の種類の嵐が、吾妻に到来しようとしていた。


秋風が吹き抜ける吾妻スカイラインのパドック。

鮮やかな紅葉とは裏腹に、伊藤 翔太の心は曇天のように重く沈んでいた。

目の前では、あの絶対王者フリス(仮)が、スキップでもしそうな足取りでポルシェの方へ戻っていく。

そのあまりに能天気な背中を見送りながら、翔太は愛車であるスイフトスポーツの黄色いボディに力なく背を預けた。


伊藤 翔太「なんだよアイツ......。花はおかしくなるし...変なやつは来るし......」


翔太は地面の砂利を靴先で蹴った。

耳に残るのは、さっき浴びせられた「53(ゴミ)クズ」「野良犬」という罵倒の言葉。そして何より、いつも自分たちを支えてくれていた山吹花の変わり果てた冷たい瞳。

今の状況は、翔太の理解の範疇を遥かに超えていた。


伊藤 翔太「俺のスイフトは......ゴミなんかじゃねぇよ......。でも、あいつらの言う通り、俺だけ場違いなのか......? 俺だけが、何も変われずに置いていかれてるのか......?」


腹切 カナタ「翔太......。」


カナタが心配そうに声をかけるが、翔太の耳には届いていないようだった。

そこへ、風のようにふわりと現れたのは、パガーニ・ウアイラの若き天才、伊藤 乎太郎だ。


伊藤 乎太郎「わかるよ......。兄貴の周りの空気が、淀んで重くなってる。......でもね、風はいつまで向かい風のままじゃない。花さんも、あの変なフリスも、今は乱気流の中にいるだけかもしれないよ。」


乎太郎は、どこか遠くの空を見つめながら、静かに呟く。

しかし、翔太の拳は震えたままだった。


【吾妻スカイライン・バトルロイヤル順位表】

1位 :ちとせ(日産 フェアレディZ RZ34 - 氷雪仕様) ★POLE POSITION

2位 :柊 蒼真(ホンダ シビックタイプR FL5 - ブラックパッケージ)

3位 :サテラ(三菱 ランサーエボリューション VII MR - 水鮫)

4位 :フリス(ポルシェ 718 ケイマン GT4 - 走る精密機械)

5位 :腹切 カナタ(TOYOTA 86 REVIVE - 280馬力仕様)

6位 :眞鍋 琉世(三菱 ランサーエボリューション IX - 銀の戦闘機)

7位 :伊藤 乎太郎(パガーニ・ウアイラ - 風の天才)

8位 :山吹 花(SUBARU WRX STI VAB - 女王の進撃) ★性格変貌

9位 :相川 美保(日産 スカイラインGT-R 400R - ブルーシャーク)

10位:岡田 大成(トヨタ GR GT - 黒き開発プロトタイプ)

11位:古賀 加奈子(BMW M5 G90 - 紅い重戦車)

12位:高槻 健永(ダッジ・バイパー - クールな挑発) ★不敵な乱入

13位:クリスタ・ニールセン(フェラーリ 488GTS)

14位:伊藤 翔太(スズキ スイフトスポーツ ZC33S - チャンピオンイエロー)

15位:相川 律(日産 GT-R NISMO R35 - ホワイト)

16位:菜園 宗一郎(ポルシェ 992 GT3 - 解析の狂気)

17位:内藤 セリナ(アウディ R8 V10 plus - フミッパスライダー)

18位:イヨ(トヨタ GRスープラ - 白い重力破壊神)

19位:樋口 瀬那(Xiaomi SU7 Ultra - ライトニングイエロー)

20位:柳津 雄介(BMW M4 DTM Edition - Mの誇り)

21位:佐藤 ジュン(マツダ RX-7 FD3S - 紅蓮の少女)

22位:陽太(マツダ ロードスター - オレンジの意地)

23位:中野 伸一(トヨタ クラウンアルテッツァ - 福島の意地)

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