吾妻編第16話 運営との抗議
K422
パドックが決勝への準備に追われる中、運営管理室の重厚なドアが、ミシミシと音を立てて凍りつきながら開いた。
そこには、蒼色の萌え袖をゆらゆらと揺らし、ブルーグレーの瞳に深淵のような冷気を宿したちとせが立っていた。
ちとせ「運営さ〜ん♪♬ カナタくんに眞鍋くんや乎太郎くん、下の方なのなんでかな〜?」
運営責任者「は、はい……? それは、予選のタイム順でして……。レギュレーションに従い厳正に……」
ちとせ「なななな〜ぞが〜なぞを解くのが名探偵でしょ〜? 冗談だよ〜☆……にしてもわかるよね? 私がこの運営の管理室にふーふーしちゃえば、どんなことが起こるか?」
ちとせがニッコリと、しかし温度の全くない笑みを浮かべた。
彼女が小さく唇を尖らせ、白く濁った息を管理室全体に吹きかける。
「ふーーーーーーっ……」
刹那、管理室の温度がマイナス100度を下回った。
最新鋭のメインサーバーは一瞬で霜に覆われて火花を散らし、スタッフたちの手元のコーヒーはカチカチの氷柱へと変わる。
運営責任者「ヒ、ヒィィィィッ!! 指が、指がキーボードに張り付いて……!!」
ちとせ「もへ〜……。ねえ、ランキング……もう一回、考え直してみない……?
おじさん、不公平なのは嫌いなんだ〜。わかるよね……? 泣かせたら、どうなるか……☆」
ちとせの背後で、巨大な氷雪の獣が咆哮を上げたような幻覚が走る。
運営スタッフたちは凍える手で、狂ったようにエントリーリストを書き換え始めた。
もはや、吾妻GTのルールはちとせの吐息一つで再定義されてしまった。
書き換えられたモニターの光が、凍りついた管理室に青白く反射している。
ちとせはスタッフに背を向けたまま、窓の外、パドックで高槻に寄り添う花の姿をじっと見つめていた。
ちとせ「それとね〜、花ちゃんの様子がおかしいんだけどさ〜……」
先ほどまでのふざけたトーンが、一瞬で消える。
運営の責任者がガタガタと震えながら、凍りついた喉を必死に鳴らして答えようとした。
運営「そ、それは……高槻様と契約を結んでから……その……」
「…………」
ちとせがゆっくりと振り返る。
その瞳は、もはやブルーグレーですらなく、すべてを無に帰す絶対零度の「虚無」そのものだった。
管理室の壁がパキパキとひび割れ、スタッフの吐く息がそのまま氷の粒となって床に落ちる。
ちとせ「何があった……?」
低く、深く、心臓の奥まで凍りつかせるような極寒の声。
ちとせの足元から、黒い影のような吹雪が渦を巻いて広がり、運営のデスクを粉砕した。
ちとせ「あの優しい花ちゃんが、あんなゴミみたいな男と一緒にいて……
あんな風に、仲間を……眞鍋くんを笑うわけがないんだよ……。
おじさんに、全部話しなよ……? そうしないと、この山ごと、君たちを永遠の氷漬けにしちゃうよ……?」
運営「ひ、ひぃ……っ!! 洗脳ですッ! 高槻が、何らかの薬物か暗示を使って、
山吹様の精神を書き換えたという報告が……ッ!!」
ちとせの周囲に、凄まじい密度の冷気が収束していく。
彼女の「怒り」が、吾妻の山に吹雪を呼び寄せ始めていた。
「……沈黙は、おじさん嫌いなんだよね〜……。」
運営のスタッフたちが、凍りつく喉を必死に鳴らして助けを請おうとするが、ちとせのブルーグレーの瞳にはもう、彼らの姿は映っていない。
彼女がそっと、愛らしい唇を尖らせた。
ちとせ「じゃあ〜、答えないならおじさんがふーふーしちゃおうかな〜......?」
「……ふーーーーーーっ」
刹那、運営管理室を埋め尽くしたのは、吹雪というよりは「現象」だった。
最高級の綿毛のように**「もふもふ」**としていて、つきたての餅よりも白く**「もちもち」**とした、幻想的な氷雪の奔流。
運営責任者「な、なんだ……この雪、もふもふして……っ!? が……あ……ッ!!」
触れた瞬間、その「もふもち」とした雪は、一切の熱を、音を、そして生命の鼓動を奪い去る。
弾力で弾くことなどない。ただ、もちもちとした質感でスタッフたちの肌に吸い付き、そのまま細胞ごと、絶対零度の静寂の中へと引きずり込んでいく。
管理室のすべてが、ちとせ特有の「もふもち」な雪に覆い尽くされた。
それは、見た目の愛らしさとは裏腹に、触れたものを一瞬で原子レベルまで凍結させる、雪神の死の抱擁。
ちとせは、室内に降り積もった真っ白な「もふもち」を萌え袖でそっと撫でると、のんびりと呟いた。
ちとせ「もへ〜……。みんな、この雪の中で『もふもち』になっちゃったね〜.......。
おじさん、嘘つきは嫌いなんだ〜……。さて、ゴミ掃除の続きをしようかな〜……?」
「ね〜...本当にどういうことなの〜?」
ちとせの声は、どこまでも穏やかで、どこまでも甘い。
だが、その背後に渦巻く「もふもふ」で「もちもち」の氷雪は、運営室の機材を、そしてスタッフたちの逃げ場をじわじわと、確実に侵食していた。
ちとせのブルーグレーの瞳が、凍りついたモニターに映る「高槻と花の親密そうな映像」をじっと見つめる。
ちとせ「おじさん、嘘つきと……お友達を泣かせるゴミは、大嫌いなんだ〜……。」
運営の責任者が、凍りついた椅子の上でガタガタと歯を鳴らす。
ちとせがそっと彼に歩み寄り、萌え袖で覆われた冷たい指先で、彼の頬を撫でた。
ちとせ「ねえ……花ちゃんをあんな風にしたのは、あのアカい車のおじさんなの……?」
その問いに答えなければ、この運営室に積もった「もふもち雪」が、彼の呼吸すらも奪い去るだろう。
ちとせの周囲に漂うアールグレイの香りが、鋭いベルガモットの棘となってスタッフたちの肌を刺す。
運営責任者「は、はい……ッ! 高槻健永が……契約と称して、山吹様に特殊な暗示を……精神を支配する処置を施したという記録が……ッ!!」
ちとせ「…………そう。」
ちとせの瞳から、わずかに残っていた慈悲が完全に消え失せた。
一瞬、管理室全体の「もふもち」な氷が激しく脈打ち、パキパキと音を立てて硬度を増していく。
ちとせ「もへ〜……。やっぱり、おじさんが『ふーふー』してお掃除しなきゃいけないみたいだね〜.......。」
彼女の背後に、蒼白い巨大な雪の怪物の影がゆらりと立ち上がる。
その牙は、今まさにパドックで勝ち誇っている高槻の喉元に向けられていた。
「……なわけねーだろ……?」
運営室の空気が、物理的に重くなった。
さっきまでの、おっとりとした「おじさん」の響きはどこにもない。
ちとせの口から放たれたのは、地獄の底を流れる氷河のように冷たく、すべてを拒絶する拒絶の声。
運営の責任者は、その声を聞いた瞬間に心臓が凍りつき、呼吸の仕方を忘れた。
ちとせは、凍りついたモニターに映る「高槻と並んで笑う花」を、ゴミを見るような瞳で射抜く。
ちとせ「高槻くんとはただ今の状態だと気が合うだけでしょ〜?」
一転して、声に「いつもの」トーンが混ざる。
だが、その瞳だけは一切笑っていない。
高槻が施した「洗脳」や「暗示」などという薄っぺらな技術……。
ちとせにとってそれは、今の山吹花が一時的に高槻という「毒」に当てられ、ただの「趣味の悪い状態」になっているに過ぎない、という冷酷な観察。
ちとせ「……ねえ。花ちゃんの魂が、あんな安っぽい術で変わるはずがないんだよ。
今の花ちゃんは……ただ、壊れたおもちゃに夢中になってるだけ。
だから……その『おもちゃ』、おじさんが今すぐ粉々に壊してあげなきゃいけないんだよね〜.......?」
ちとせがそう呟いた瞬間、運営室を埋め尽くしていた「もふもふ」で「もちもち」の雪が、一斉に逆立ち、鋭い氷の刃へと変貌した。
運営管理室は、ちとせが放つ「もふもち」の雪で、もはや物理的な極限を超えた静寂に包まれていた。
ちとせは、凍りついたキーボードの上を萌え袖の指先で軽くなぞり、壊れかけたモニターに顔を近づける。
ちとせ「本当に花ちゃんをあんな感じにしたのは誰なの〜?運営さ〜ん♬♬♬」
その声は歌うように軽やかだが、管理室の壁にはピキピキと巨大な亀裂が走り、天井からは巨大な氷柱がスタッフたちの頭上ギリギリに降りてくる。
ちとせの瞳には、高槻という「駒」の背後に潜む、もっと巨大で、もっと淀んだ「何か」が映っているようだった。
運営責任者「あ、が……ッ!! ち、ちとせ様……! 本当に、公式な記録では高槻様が……ッ!!」
ちとせ「……だーめ。おじさん、嘘つきは『もふもち』の中に閉じ込めちゃうよ〜.......?」
ちとせがふわりと責任者の首筋に手を添える。
その指先から、熱を一切拒絶する絶対零度の冷気が、彼の血管を伝って心臓へと向かっていく。
ちとせ「花ちゃんはね、あんな安い術に掛かるような子じゃないんだよ……。
ねえ、誰なの……? 運営の裏で、あのアカい車のおじさんを使って、花ちゃんの心を弄ったのは……?」
運営の奥底、一般のスタッフすらアクセスできない『特秘アーカイブ』。
そこに隠された、ある人物のコードネームがモニターの端にノイズと共に表示された。
それを見た瞬間、ちとせの周りの「もふもち」の雪が、怒りに震えるように激しく舞い上がった。
「……しょうがないな〜、、、真実を吐くまで猛吹雪でも味わってたら〜?」
ちとせの瞳から完全に光が消え、その瞳孔が獣のように鋭く裂ける。
彼女が萌え袖から覗かせた両手を運営のメインサーバーへ向けた瞬間、世界から「音」が消えた。
ちとせの両手から、淡い蒼色の輝きを放つ、物理法則を無視した「猛吹雪」が解き放たれる。
「……ふーーーっ、もへ〜……!!」
ドォォォォォン!! という衝撃波と共に、運営室の全空間が蒼白い旋風に飲み込まれた。
それはただの風ではない。触れた端から熱を奪い、分子の動きを停止させる「死の抱擁」。
運営スタッフたちの叫び声さえも、空気ごと凍りついて床に転がる。
壁は「もふもふ」で「もちもち」の厚い氷に覆われ、コンピュータの演算回路は絶対零度の冷気によって強制的に書き換えられていく。
運営責任者「が、あ……っ!! 待っ、待ってください! 吐きます! 全て吐きますから……ッ!!」
ちとせは吹雪の手を緩めない。
淡い蒼色の嵐の中で、彼女の髪が逆立ち、背後には巨大な雪狐の尾が九つ、怒りの炎のように揺らめいている。
ちとせ「おじさん、耳はいい方なんだ〜……。
吹雪の音に紛れた、君たちの『心臓の嘘』も全部聞こえてるよ〜.......?
さあ……花ちゃんを『壊した』本当の名前を、凍りつく前に言いなよ……?」
吹雪が渦を巻き、運営の秘密アーカイブを物理的に粉砕して、隠されていた「真の契約書」をちとせの足元へと運んできた。
淡い蒼色の猛吹雪が、運営管理室を異界へと変えていく。
ちとせは、凍りついて身動きの取れない運営責任者の目の前まで、音もなく歩み寄った。
その表情は、まるでお昼寝の時間を楽しむ子供のように無邪気で、残酷だった。
ちとせ「運営さ〜ん♡ 猛吹雪、気持ちいいかな……? おじさんの特別なプレゼントだよぉ……♪」
ちとせがニコリと微笑むと、室内の温度がさらに数段跳ね下がり、スタッフたちの睫毛が瞬時に白く凍りつく。
だが、次の瞬間。
彼女の口から漏れたのは、先ほどまでの甘い声とは似ても似つかない、深淵の底から響くような「断罪」の声だった。
ちとせ「……早く吐け。」
その一言は、物理的な質量を持って責任者の胸を突き刺した。
ブルーグレーの瞳が絶対零度の鋭さで彼の精神を切り刻む。
もはや「もふもち」の柔らかさはそこにはない。
ただ、真実を言わねば魂ごと塵に帰すという、純粋な「暴力」としての冷気がそこにあった。
運営責任者「あ、あが……ッ!! 高槻……健永の背後にいるのは……『柊家』の別家……柊……ッ!!」
ちとせ「…………柊?」
ちとせの眉が、ピクリと動く。
2番グリッドにいる柊蒼真とは別の、闇に潜む「柊」の名。
その名を聞いた瞬間、ちとせの周囲の吹雪が「ギィィィィィィッ!!」と、金属を擦るような悲鳴を上げて激しさを増した。
ちとせ「……そう。あの蒼い風の柊くんじゃなくて……おじさんが一番嫌いな、陰湿な方の柊ね……。」
ちとせは責任者の喉元から手を離すと、凍りついた契約書を「むぎゅ」と握り潰した。
1位 :ちとせ(日産 フェアレディZ RZ34 - 氷雪仕様) ★POLE POSITION
2位 :柊 蒼真(ホンダ シビックタイプR FL5 - ブラックパッケージ)
3位 :サテラ(三菱 ランサーエボリューション VII MR - 水鮫)
4位 :フリス(ポルシェ 718 ケイマン GT4 - 走る精密機械)
5位 :腹切 カナタ(TOYOTA 86 REVIVE - 280馬力仕様) ★大幅ランクアップ!
6位 :眞鍋 琉世(三菱 ランサーエボリューション IX - 銀の戦闘機) ★大幅ランクアップ!
7位 :伊藤 乎太郎(パガーニ・ウアイラ - 風の天才) ★大幅ランクアップ!
8位 :山吹 花(SUBARU WRX STI VAB - 首都高・ハイカム仕様)
9位 :相川 美保(日産 スカイラインGT-R 400R - ブルーシャーク)
10位:岡田 大成(トヨタ GR GT - 黒き開発プロトタイプ)
11位:古賀 加奈子(BMW M5 G90 - 紅い重戦車)
12位:高槻 健永(ダッジ・バイパー - 赤いドラゴン)
13位:クリスタ・ニールセン(フェラーリ 488GTS)
14位:伊藤 翔太(スズキ スイフトスポーツ ZC33S - チャンピオンイエロー)
15位:相川 律(日産 GT-R NISMO R35 - ホワイト)
16位:菜園 宗一郎(ポルシェ 992 GT3 - 解析の狂気)
17位:内藤 セリナ(アウディ R8 V10 plus - フミッパスライダー)
18位:イヨ(トヨタ GRスープラ - 白い重力破壊神)
19位:樋口 瀬那(Xiaomi SU7 Ultra - ライトニングイエロー)
20位:柳津 雄介(BMW M4 DTM Edition - Mの誇り)
21位:佐藤 ジュン(マツダ RX-7 FD3S - 紅蓮の少女)
22位:陽太(マツダ ロードスター - オレンジの意地)
23位:中野 伸一(トヨタ クラウンアルテッツァ - 福島の意地)
ちとせ「もへ〜……。お日様はポカポカしてるのに、おじさんの周りだけ氷が溶けないねぇ……。不思議だねぇ……。」
???「あははっ☆ なになに〜? なんでそんなに怒ってるの〜? 黄色い車の人〜。」
高槻 健永「おいおい、花も手厳しいな。……よう、翔太。一生懸命ハンドルにしがみついて、可愛いじゃねぇか。まるで初めて補助輪を外した子供みたいでさ。」
ダッジ・バイパーの巨大なボンネットが、スイフトの横に並ぶ。健永は片手でハンドルを握り、もう片方の手でわざとらしくあくびをして見せた。
伊藤 翔太「健永……! テメェまで、俺をナメやがって……!!」
次回吾妻編第17話 決勝開幕




