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86伝説エーペックス  作者: SAI
吾妻GT編
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474/535

吾妻編第15話 逆らえない領域

K421

エーペックスカップ吾妻支部のプレハブ内は、つい数分前まで「予選終了」の安堵感でコーヒーの香りが漂っていた。

だが、山吹花と同じく「真っ赤な耳」を微かに震わせ、ちとせがドアを開けた瞬間、その香りは一瞬で凍りついた。


ちとせ「運営さ〜ん♪♪」


のんびりとした、眠たげな声。だが、彼女が足を踏み出すたびに、床のタイルがメキメキと音を立てて白く霜付いていく。

運営の責任者が震える手で眼鏡を直しながら、椅子から転げ落ちるようにして対応した。


運営「あ、ああ、ちとせ様……。レコード樹立、おめでとうございます……。何か、ご不満でも……?」


ちとせ「不満なんてないよ〜? おじさんは満足してるんだ〜、、、もへ〜。

でもね……あと4人ぐらい、お友達を入れて欲しいんだけどダメかな、、、、?」


ちとせは萌え袖の中から、4通の「青く凍りついた封筒」を取り出し、ガサリと机に置いた。

その封筒から漏れ出す冷気だけで、運営のPCモニターの端がパキリと割れる。


ちとせ「雪ちゃん達がこのままだと泣いちゃうよ。……いいの、、、?」


運営「し、しかし、レギュレーションが……すでに18人のグリッドは確定して……」


その瞬間、ちとせの瞳から温度が完全に消失した。

ブルーグレーの瞳が、深淵のような絶対零度の闇へと変わる。


ちとせ「……泣かせたら、分かるよな?」


運営「……ッ!!!」


運営スタッフ全員の喉が、物理的に凍りついたかのように凍りついた。

呼吸をすれば肺が刺されるような極寒。ちとせの背後には、巨大な獣の影が吹雪の中に揺らめいている。


運営「は、はいいいいいい!!! 申し訳ありません! 枠を、枠を今すぐ広げます!!」


運営2「緊急プログラム始動!! 最大22人に書き換えろ!

ルールなんてどうでもいい、彼女を怒らせるな! 吾妻山を氷山に変えさせる気か!!」


ちとせ「もへ〜……話が早くて助かるよ〜、、、。

それじゃあ……まずは『ボクの娘』を呼んじゃおうかな〜.......?」


ちとせがパチンと指を鳴らすと、プレハブの外から、重力を捻じ曲げるような凄まじいエンジン音と、ピンク色の重力波動が押し寄せてきた。


若林「何だあのアナウンスはアアア!!

予選終了のはずが、運営から緊急の『追加枠』が発表されたあああ!!!

19人目……このピンク色のプレッシャー、まさかッ!!!」


イヨ「えっへん☆ お母さんに呼ばれて来ちゃったよ!!」


若林「来たアアアアア!!! 氷雪の獣神の愛娘、イヨだあああ!!!

白いGRスープラが、路面をピンク色の重力波動で押し潰しながらゲートに沈み込むッ!!!」


「えっへん☆ 少しだけ、吾妻の山を壊しに来ちゃったよ!」


白いGRスープラから響く、幼くも傲岸不遜な少女の声。

イヨがアクセルを踏み込んだ瞬間、マシンの周囲に濃いピンク色の重力波動がブワリと広がった。

それは、路面を「押し潰す」ことで異次元のグリップを発生させる、物理法則を無視した走り。


若林「何だあの挙動はアアア!!

白いGRスープラ、コーナーで全くロールしていない!!

路面を重力で強制的にグリップさせ、まるで磁石のように張り付いて曲がっていくぅぅ!!」


高槻 健永「あはは☆ またガキかよぉ!

重力だか何だか知らないけど、そんなピンクの光に何ができるって……」


その瞬間、イヨがバイパーの横を通り抜ける。

高槻のバイパーが「ズシンッ!!」と、まるで巨人に踏みつけられたかのようにサスペンションを底突きさせ、アスファルトに火花を散らした。


イヨ「おじさん、邪魔だよ☆」


高槻 健永「な、何だあ!? 今、車が……重くなった……!?」


若林「イヨ、今チェッカーーーッ!!

1500kgを超える車体を重力操作で羽のように操り、暫定11位に滑り込んだアアアアアッ!!!」


パドックに戻ったイヨは、スープラの屋根の上にひらりと飛び乗ると、

ちとせに向かって「これくらいでいいか〜」と無邪気に笑ってみせた。


「……計算完了。この山の斜度、摩擦係数、そして風の抵抗……全てボクの掌の上だよ。」


フリスのポルシェ 718 ケイマン GT4が、吾妻のタイトなヘアピンを、まるでレールの上を走るかのような滑らかさでクリアしていく。

無駄なタイヤスモークも、派手なエンジン音も必要ない。

ただ、最速へと続く「細い一本の正解」を正確にトレースする。


若林「何という静寂の速さだあああ!!

一切のミスがない! まるで山全体と対話しているかのように、

フリスのポルシェがデジタルな挙動でチェックポイントを通過していくぅぅ!!」


高槻 健永「あはは☆ また計算とか言ってるよ。

そんなちっこい車が、俺のバイパーや花ちゃんのWRXを抜けるわけ……」


若林「ゴールイン!! タイムが出たあああ!!!

フリス! 惜しくもちとせのレコードには届かなかったものの、

サテラに次ぐ暫定3位を奪取ッ!!

山吹花を抑えて、フロントローに王手をかけたあああああッ!!!」


パドックに戻ったフリスは、汗一つかかず、真っ赤な耳を震わせている花を冷ややかに一瞥した。


フリス「……山吹花。君の走りは情動に寄りすぎている。

勝利への最適解を外した時点で、君がボクの前に出る結末は存在しないんだよ。」


山吹 花「……ッ(屈辱に唇を噛み、高槻の腕を強く握る)」


高槻 健永「……チッ、計算機野郎が……ッ!」


パドックに、V8ツインターボの咆哮と、高出力モーターの風切り音が混ざり合った、不気味なほど力強い響きが満ちる。

現れたのは、深紅のボディに漆黒のディテールが光る、巨大な新型BMW M5 (G90)。


加奈子「じゃあ! いってきます!!!」


加奈子は元気いっぱいに手を振ると、赤いスタートボタンを押し込んだ。

その瞳の奥には、父譲りか、あるいはそれ以上の勝負師の光が宿っている。


加奈子(M5の実力、見せてあげる……!! 2.4トンの重さが、武器になるってことをね!)


若林「21人目!! 古賀加奈子ッ!!

マシンはBMW史上最強、727馬力を叩き出す怪物セダン、M5 G90だあああ!!!」


「ドォォォォン!!」

4輪がアスファルトを噛み砕くような凄まじい蹴り出し。

重い。あまりにも重い。だが、その重量を1,000Nmのトルクが力技で「正のエネルギー」へと変えていく。


若林「速い、いや、重いのに速いッ!!

コーナーではM xDriveが巨体を強引に曲げ、立ち上がりでは電撃的な加速で直線を引き裂く!!

まさに吾妻の山を駆け上がる紅い重戦車だあああ!!!」


加奈子は正確なステアリングワークで、重量級マシンとは思えない軽やかなリズムを刻む。

ブレーキングでの圧倒的な制動力、そして再加速。

デジタルの力を借りたその走りは、フリスのポルシェとも、ちとせのZとも違う、純粋な「力の証明」だった。


若林「ゴールイン!! タイムが出たあああ!!!

古賀加奈子、なんと高槻のバイパーを僅かに上回り、暫定5位へジャンプアップゥゥ!!」


予選の最終盤、パドックのすべての会話が、地を這うような重低音によってかき消された。

陽炎の向こうから姿を現したのは、市販車とは明らかに一線を画す、ロングノーズ・ショートデッキの凶悪なシルエット。

マットブラックのボディに包まれた、トヨタの最新鋭プロトタイプ、GR GT。


若林「最後は、、、ん? あれは、、、まさかッ!!

トヨタが開発中の『GR GT』!?? 岡田大成が、あの化け物に乗って現れたああああッ!!!」


伊藤 翔太「……GR GT!!?? 開発中のテスト車両をそのまま持ってきたのかよ!?」


全世界の配信チャット欄は「え? まじ? GR GT?」「実車が動いてるのか!?」「反則だろww」という驚愕のコメントで埋め尽くされる。

車から降りた岡田大成は、冷徹なまでに研ぎ澄まされた表情でヘルメットを被り直した。


岡田 大成「……データを取るついでに、ここ(吾妻)の王座、塗り替えていくよ。」


「ズォォォォォッ!!」

V8ツインターボの咆哮が、吾妻の山々を震わせる。

スタートの瞬間、GR GTは強大なダウンフォースで路面に吸い付くように加速。

それはもはや「走り屋」の次元を超えた、メーカーの威信を懸けた「軍事力」にも等しい加速だった。


若林「速すぎるッ!! 第1コーナー、ブレーキを踏んでいない!?

空力で強引に路面を抑え込み、物理法則を書き換えるような速度で消えていったあああ!!」


高槻 健永「……な、何だよ、あんなの……!

開発中のプロトタイプなんて、エーペックスカップに出していいのかよぉ☆」


高槻の動揺を余所に、大成のGR GTは「最適解」をさらに上回る「開発目標値」の走りで吾妻を蹂躙した。


漆黒のGR GTが、猛烈なダウンフォースで路面を削りながらゴールラインを駆け抜けた。

パドックの全員が「1位更新」を確信したその時、掲示板に表示された順位にどよめきが走る。


若林「岡田大成が相川美保と古賀加奈子の間に入ったあああ!!!

まさかの暫定6位!! コースレコード更新には僅かに届かず!!」


岡田 大成「……チッ、まだサスペンションのストロークが吾妻のバンプに対応しきれてないか。

それに、先行する5人のタイムが……異常すぎる。」


大成は車を降り、冷徹な目で自分より上位の5台——ちとせ、サテラ、フリス、花、そして美保の400Rを見据えた。


相川 美保「……大成くん、すごいマシンに乗ってるね。

でも、私の400Rは……おにぃちゃんや皆の想いが乗ってるから、簡単には抜かせないよ?」


古賀 加奈子「大成さん! 開発車両がそんな後ろでいいんですかぁ?

私のM5が、その黒い背中を突っついてあげますからね!」


若林「これで確定だあああ!!

1位から5位までがコンマ数秒差の超密着状態!!

そして6位の大成が、牙を剥いて虎視眈々とトップ集団を狙う!!!」


22台がグリッドに並び、誰もがスタートを確信したその瞬間。

ポールポジションに座るちとせが、ひょいと萌え袖の手を挙げて、実況席の若林を指差した。


ちとせ「若林く〜ん♪ 柊蒼真くんまだいないじゃーん、、、23人でいいんじゃな〜い? ね〜若林くん♡」


若林「は、はひっ!? ち、ちとせ様、何をおっしゃいますか!

もうグリッドはパンパン、これ以上は物理的にコースが……!」


ちとせ「……ね〜、若林くん。雪ちゃんたちが、また泣きそうだよ……?

柊くんがいないと、この『お祭り』、ちっとも冷たくならないじゃない……?」


ちとせが首をかしげた瞬間、実況席の窓ガラスがバキバキと凍りつき、若林のヘッドセットからツララが垂れ下がった。

そのブルーグレーの瞳は、笑っているようでいて、逆らえばパドックごと氷河期に沈めるという明確な意志を宿している。


若林「はいいいい!! 柊蒼真、追加ぁぁぁ!! 23人でスタートだあああ!!

誰か、誰か早く柊くんに連絡して! マッハで吾妻に来させてえええ!!!」


伊藤 翔太「柊蒼真……!? あの、かつてエーペックスカップを震撼させた伝説の……!」


伊藤 乎太郎「風……。ボクのとは違う、もっと鋭くて、すべてを切り裂く風が来る……!」


パドックの視線が入り口に集中する。

すると、遠くの麓から、まるで空気を切り裂くような、形容しがたい鋭い高周波が聞こえてきた。


パドックの視線が一点に集中する中、霧の向こうから現れたのは、鋭いエッジを纏った蒼いシルエット。

伝説のドライバー、柊蒼真。

彼は挨拶もそこそこに、ちとせの横を通り過ぎる際、一瞬だけ不敵に口角を上げた。


柊 蒼真「……待たせたな。ちとせの『わがまま』に応えるのは、ボクの役目だろ?」


若林「予選ラスト!! 23人目は、、、柊蒼真だああああ!!!!!

蒼き旋風が、吾妻のスタートゲートを粉砕せんばかりの勢いで飛び出したあああ!!!」


「キィィィィィィィィィッ!!!」

タイヤが悲鳴を上げる暇すら与えない。

蒼真のマシンは、まるで吾妻の重力を受け流すかのように、軽やかに、しかし猛烈な速度でつづら折りを消し去っていく。


セクター1、トップタイム更新。セクター2、ちとせと同タイム!


柊 蒼真「ボクのFL5は、ただのタイプRじゃない。ブラックパッケージを纏った、夜の吾妻の支配者だ。」


K20C VTECターボが、アイドリングの時点から周囲の空気を震わせ、熱風を吐き出す。

若林「見ろ、あのFL5の佇まいを! まさに研ぎ澄まされた日本刀!

ちとせのRZ34と、柊蒼真のFL5。この2台がフロントローに並ぶ姿は、もはや芸術の域だあああ!!」


高槻 健永「あはは☆ また国産のスポーツカー?

シビックなんて、俺のバイパーから見ればただの買い物車……っ、あぐっ!?」


高槻が言い終わる前に、蒼真がアクセルを軽く煽った。

マフラーから放たれた強烈なアフターファイアの爆音と圧力が、9位グリッドにいた高槻のバイパーのフロントガラスをビりつかせた。


柊 蒼真「……うるさいぞ、おじさん。お前のエンジン音は、ボクのVTECの音にかき消される運命なんだよ。」


苍い瞳でバックミラー越しに高槻を射抜くと、蒼真は静かにスターティング・レブリミットを固定した。


若林「何だあの速さはッ!!

ブランクを感じさせないどころか、以前よりもさらにキレを増している!!

今、ゴールラインを通過……タイムは……ッ!!!」


若林の喉が詰まる。電光掲示板に刻まれたのは、ちとせのレコードから僅か「0.2秒」遅れの、驚異的な数字。


若林「ちとせからコンマ0.2秒下でゴール!!!!!

柊蒼真、たった一走で暫定2位へ躍り出たアアアアアッ!!!」


パドックが静まり返る。

2位にいたサテラが、3位のフリスが、そして4位の花が、信じられないものを見る目でそのタイムを見つめていた。


【開催地】福島県・磐梯吾妻スカイライン

【日時】2026年 10月27日(日)

【天候】晴れ(予報)

【コンディション】秋の紅葉、路面温度低下の懸念あり


若林「さあ、役者は揃ったッ!!

『おじさん』こと氷雪の女王・ちとせ!

漆黒の刃・柊蒼真!

復讐に燃える水鮫・サテラ!

そして、自称・王族コンビの高槻と花……。


誰が勝ち、誰が散るのか!?

秋の紅葉が赤く染まるのは、山の彩りか、それとも敗者のテールランプか……!!


3日後!!!

10月27日、吾妻GT決勝レースで……またお会いしましょう!!!」


予選グリッド結果 吾妻GT


1位 :ちとせ(日産 フェアレディZ RZ34 - 氷雪仕様) ★POLE POSITION

2位 :柊 蒼真(シビックタイプR FL5) ★NEW! ちとせと0.2秒差の怪物

3位 :サテラ(三菱 ランサーエボリューション VII MR - 水鮫)

4位 :フリス(ポルシェ 718 ケイマン GT4 - 走る精密機械)

5位 :山吹 花(SUBARU WRX STI VAB - 首都高・ハイカム仕様)

6位 :相川 美保(日産 スカイラインGT-R 400R - ブルーシャーク)

7位 :岡田 大成(トヨタ GR GT - 黒き開発車両)

8位 :古賀 加奈子(BMW M5 G90 - 紅い重戦車)

9位 :高槻 健永(ダッジ・バイパー - 赤いドラゴン) ★ついに9位転落

10位:クリスタ・ニールセン(フェラーリ 488GTS)

11位:伊藤 翔太(スズキ スイフトスポーツ ZC33S - チャンピオンイエロー)

12位:相川 律(日産 GT-R NISMO R35 - ホワイト)

13位:菜園 宗一郎(ポルシェ 992 GT3 - 解析の狂気)

14位:内藤 セリナ(アウディ R8 V10 plus - フミッパスライダー)

15位:イヨ(トヨタ GRスープラ - 白い重力破壊神)

16位:腹切 カナタ(TOYOTA 86 REVIVE - 280馬力仕様)

17位:眞鍋 琉世(三菱 ランサーエボリューション IX - 銀の戦闘機)

18位:伊藤 乎太郎(パガーニ・ウアイラ - 風の天才)

19位:樋口 瀬那(Xiaomi SU7 Ultra - ライトニングイエロー)

20位:柳津 雄介(BMW M4 DTM Edition - Mの誇り)

21位:佐藤 ジュン(マツダ RX-7 FD3S - 紅蓮の少女)

22位:陽太(マツダ ロードスター - オレンジの意地)

23位:中野 伸一(トヨタ クラウンアルテッツァ - 福島の意地)


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