吾妻編第10話 REVIVE86、出動!
K416
赤い戦闘機の吾妻GT予選!!!!
1位:山吹 花(SUBARU WRX STI VAB - 首都高・ハイカム仕様) ★ALL NEW コースレコード
2位:相川 律(日産 GT-R NISMO R35 - ホワイト)
3位:菜園 宗一郎(ポルシェ 992 GT3)
4位:内藤 セリナ(アウディ R8 V10 plus)
5位:柳津 雄介(BMW M4 DTM Edition)
6位:中野 伸一
3日目の朝。高湯温泉の空気は、前日の女王・山吹花が残した凍てつくような緊張感に支配されていた。
だが、その静寂を切り裂いたのは、どこか懐かしく、それでいて以前よりも遥かに力強い、乾いたボクサーサウンドだった。
若林「そして3日目!! 7人目はエーペックスカップで1番人気!!!
次々とスーパーカーを非力な赤い戦闘機と名付けられた存在で倒す鬼神!!!
もうお分かりでしょう!!! 腹切カナタです!!!」
実況の絶叫と共に、観衆から今日一番の地鳴りのような歓声が上がる。
スタートラインに据えられたのは、古田の手によって280馬力のターボ仕様へと「蘇生」した、赤いREVIVE86。
カナタは、花に罵倒され肩を落とす相川の横を通り過ぎる際、一瞬だけ視線を送り、それから前方の急勾配を見据えた。
腹切 カナタ「……花さん。あなたの言ったことは、正論かもしれない。
でも、俺は信じてる。車は、誰かを傷つけるための道具じゃない……。
古田さんの執念、この86で証明してみせる!」
若林「REVIVE86が出たああかっ!!!!
腹切カナタの吾妻GTがスタートしたアアアア!!!!!!」
シグナルが青に変わると同時に、86は280馬力のトルクを路面に叩きつけ、猛然とダッシュを開始した。
かつてのNA(自然吸気)では苦戦したはずのきついヒルクライム。
だが、今の赤い戦闘機は、過給圧の高まりと共にその巨躯を軽々と押し上げていく。
若林「きついヒルクライムが赤い戦闘機に迫るうううっ!!!!
しかし速い! 明らかに過去の86とは次元が違う加速だぁぁ!!!」
パドックでモニターを見つめる山吹花は、不敵に口角を上げた。
「……見せてなさいな、カナタ。その280馬力が、私の王座に届くのかどうか☆」
カナタの瞳は、異常なまでの集中力で、吾妻の山道に潜む「最速のライン」を捉え始めていた。
高湯温泉の急勾配、最後のヘアピンコーナー。
カナタはステアリングを切り込み、クリッピングポイントをミリ単位でかすめる。
「ガッ、ギィッ!」
鋭い金属音と共に、カナタの手によってシフトレバーが4速から2速へと叩き込まれた。
直後、HKSターボが「キィィィィィィン!」と高周波の過給音を響かせ、フラット4特有の低く力強い「ドロォォォォン!」という咆哮が、山肌を震わせる。
若林「ヘアピンを立ち上がる!!! 最初のチェックポイントが迫る!!!
ここを何位で通過してしまうのかあああ!!??」
電光掲示板がカナタの通過を告げる。しかし、表示された順位は、まだ「7位」。
若林「最初のチェックポイントで、、、まだ7位のままです!!!
ターボをつけてもヒルクライムではまだほかの車に太刀打ちは不可能!!!
女王・花の記録が、あまりにも遠いッ!!!」
パドックでモニターを凝視する伊藤翔太が、膝を叩いて叫んだ。
伊藤 翔太「……ここからなんだよ! カナタの本当の戦いは!!
この先スカイラインのテッペンの道の駅吾妻を超えたらダウンヒル……5連ヘアピン!!
白樺の峰によるつづら折りが待ち受けるうう!!!!」
10月末の冷たく澄んだ空気が、真っ赤に熱を帯びた86のインタークーラーを冷やす。
頂上を超え、下り坂に差し掛かった瞬間、カナタの瞳に「鬼神」の光が宿った。
伊藤 翔太「……10月末の昼間の吾妻山を、、、
赤いマシンが駆け下るっ!!!!!」
フロント荷重を最大限に活かし、ナイフのようなドリフトでつづら折りを切り裂く。
280馬力の心臓を得た「赤い戦闘機」が、今、重力を味方につけて上位陣を飲み込み始めた。
つづら折りのコーナーを抜けた瞬間、視界が劇的に開けた。
眼前に横たわるのは、深い谷を跨ぐ全長1キロの巨大な弧――不動沢大橋。
眼下には、秋の陽光に輝く福島市街地がジオラマのように広がっているが、カナタにその景色を愛でる余裕はない。
若林「そして全長1キロある福島市街地を見渡せる不動沢大橋!!! ストレートが続く!!!」
若林の絶叫が風を切る音と混ざり合う。
カナタは迷わずアクセルを床まで踏み抜いた。
「キィィィィィィン……ッ!!」
HKSターボが再び高周波の過給音を奏で、REVIVE 86の心臓が激しく脈打つ。
以前のNA仕様であれば、この1キロのストレートはライバルたちに引き離されるだけの「耐える区間」だった。
だが、今の赤い戦闘機には、古田が魂を込めて過給機を組み込んだ280馬力の力がある。
腹切 カナタ「……加速する。もっと、もっとだ……。
古田さんの280馬力、ここなら100パーセント解き放てる!」
「ガッ、ギィィッ!」
4速から5速へ。電撃のようなシフトチェンジ。
フラット4の排気音が、橋の欄干に反響して巨大な衝撃波となり、橋全体を震わせる。
10月末の冷たい空気が、インタークーラーをこれ以上ないほどに冷却し、パワーを絞り出す。
若林「速い! 速いぞ赤い戦闘機!!
これまでのカナタのデータにはない、圧倒的な最高速をマークしている!!
不動沢の風を切り裂き、先行する上位陣の背中を確実に射程圏内に捉えたぁぁ!!!」
パドックでモニターを凝視する山吹花は、不敵に目を細めた。
「ふふっ……いいわ。その直線、せいぜい楽しんでおきなさいな。
でもね、カナタ……その先の『本当の地獄』で、アンタの280馬力が悲鳴を上げないことを祈ってるわよ☆」
橋の終わりが近づく。
天空のストレートを駆け抜けた赤い閃光は、そのまま土湯峠の「死のダウンヒル」へと、狂気的な速度で突っ込んでいった。
全長1キロ、天空を貫く不動沢大橋のストレート。
そこは、パワーが正義を語る残酷な戦場だった。
先行する中野伸一の漆黒のアルテッツァが、福島の意地を見せるようにエンジンを絞り出し、橋の中間地点を駆け抜ける。
だが、その後方から迫るのは、もはやかつての「非力な86」ではない。
「キィィィィィィン……ッ!!」
HKSターボが吸い込む空気が、FA20の燃焼室で爆発的なエネルギーに変わる。
不動沢の谷底から吹き上げる突風を、カナタの86は切り裂くどころか、そのダウンフォースへと変えて加速し続ける。
若林「このストレートで中野伸一のタイムを赤い戦闘機が抜いていく!
抜いた! 抜いたああああ!!!
これまでの最高速記録を自ら更新し、中野のアルテッツァを瞬時に過去へと追いやったぁぁ!!!」
中野 伸一「(何だ……あの速さは……!? ターボを積んだだけで、あそこまで化けるのかよ……!)」
中野がミラー越しに見たのは、陽光を浴びて血のように赤く輝く、鬼神の如き86のフロントマスクだった。
カナタは無言のまま、中野の横を弾丸のような速度差で追い抜いていく。
それは、病床の父のために走る中野の「想い」すらも、純粋な「速さ」という暴力でねじ伏せる非情な瞬間。
若林「腹切カナタ、暫定6位浮上!!
しかし、その差はわずか! 5位の柳津、4位の内藤をも視界に捉えているかぁ!!?」
腹切 カナタ「……ごめんなさい、中野さん。でも、俺には止まる理由がないんだ。
古田さんの280馬力……これなら、あの女王の背中まで手が届くかもしれない!」
橋を渡りきった瞬間の衝撃。
ストレートの最高速を維持したまま、赤い戦闘機は不動沢の終点、120Rの高速コーナーへと「ナイフ」を突き刺すように飛び込んでいった。
スカイラインの頂点、道の駅を「赤い閃光」が駆け抜けた。
そこから先は、牙を剥くダウンヒル・セクション。
280馬力のターボパワーに「重力」という最強の味方が加わり、REVIVE 86は狂気じみた加速を開始した。
若林「赤い戦闘機が道の駅を通過!! ここからはダウンヒル!!!
一気に標高を下げる、ブレーキ殺しの急勾配だぁぁ!!!」
若林の絶叫が届かぬほどの風切り音を置き去りにし、カナタの視界は針の穴を通すような集中力で研ぎ澄まされていく。
眼前に現れるのは、土湯峠名物「3連つづら折り」。
ガードレールの先は断崖絶壁。一瞬のミスが「死」を意味する超高難易度の連続ヘアピンだ。
若林「ここを抜けると3連つづら折りです!!!
先行する柳津! セリナ! 準備はいいか! 鬼神が背後まで迫っているぞ!!」
「ガッ、ギィッ!!」
カナタの左足が電光石火の速さでクラッチを蹴り、シフトを2速へ叩き落とす。
HKSターボが「キィィィィィィン!」と限界まで過給圧を高め、赤い86は横を向いた。
いや、それはスライドという生温いものではない。
アスファルトの深層を抉り取り、最短距離を「最短のナイフ」で切り刻む、超高速の旋回だ。
腹切 カナタ「……見える。路面が、俺にラインを教えてくれている……。
古田さん、280馬力のこのパワー……ダウンヒルの旋回軸として、完璧にコントロールできます!」
「ドロォォォォォン!!」
フラット4の重低音が、つづら折りの谷間にこだまし、先行する柳津雄介の耳にまで届く。
ミラーに映る赤い光。それは、1日目に雄介が刻んだ「プライド」を、粉々に粉砕しようとする死神の目。
若林「信じられない旋回スピード!
3連つづら折りの第1コーナーで、柳津雄介のタイムを上回ったあああ!!」
パドックで見守る山吹花は、思わず身を乗り出した。
「……ふふっ、やっと面白くなってきたわね、カナタ。
その重力、私に届くまで維持できるかしら?☆」
土湯峠のダウンヒル、そして庭坂のテクニカルセクションを駆け抜けたREVIVE 86が、凄まじい熱気を放ちながらゴールラインを通過した。
電光掲示板に表示されたタイム――それは、驚異的な追い上げを見せながらも、トップ4の「化け物」たちの牙城を崩すには至らない数字だった。
若林「赤い戦闘機! コースレコード樹立はありません!!!
5位で予選を終えましたアアア!!!!」
若林の絶叫が、期待に沸いた会場をわずかにクールダウンさせる。
だが、そのタイム差はわずか数秒。
ヒルクライムの絶望的な遅れを、ダウンヒルだけでここまで詰め寄った事実に、パドックの強者たちは戦慄していた。
山吹 花「……ふふっ、届かなかったわね、カナタ☆
280馬力ごときじゃ、私の王座を揺らすことすら叶わない。
悔しいかしら? ざぁ〜こ♡……と言いたいけれど、その『5位』、本戦での位置取りとしては最高に不気味ね」
花は真っ赤に熱を帯びたとろとろの耳を揺らし、チェッカーを受けた赤い背中を冷たく、だが期待を込めて見つめる。
腹切 カナタ「……ふぅ。これが、今の俺たちの限界です。
でも、古田さん。86の挙動は完璧でした。
5位……十分です。本戦で、皆さんの背中を全部、獲りに行きますから」
カナタはヘルメットを脱ぎ、額の汗を拭う。その瞳には、敗北の悔しさよりも、2周目(本戦)に向けた確かな手応えが宿っていた。
相川 律「……あぶねぇ。あのまま下りが続いてたら、僕のGT-Rも危なかったかもな。
でも花ちゃん、あいつ本番はもっと来るよ? 怖いねぇ……」
相川の言葉を鼻で笑い飛ばしながらも、花は無意識にステアリングを握る手に力を込めていた。
最強の女王、解析の狂気、スリップマンの怪鳥、そして巨大な翼のR8。
その「4強」のすぐ背後に、鬼神の如き86が張り付いた。
パドックに激震が走った。攻撃的な走りで知られる黒川海斗のランエボIX MRが、体調不良――まさかの「インフルエンザ」で出走を断念したというのだ。
だが、その空席を埋める男の名前がコールされた瞬間、会場の熱気が再び跳ね上がった。
若林「予選自体はまだまだもっと続きます!! 3日目! 8人目は、眞鍋琉世!!!
黒川海斗がインフルエンザのために、代わりに呼ばせて頂きました!!!
銀色のエボ9が出たあああ!!!!」
スタートラインに据えられたのは、鈍い光を放つシルバーのランサーエボリューションIX。
黒川の獰猛さとは違う、どこか冷徹で計算し尽くされたオーラを纏った眞鍋琉世が、バケットシートに深く身を沈める。
眞鍋 琉世「……黒川さんの代役とは言え、恥ずかしい走りはできないな。
三菱の4WDが、この峠の正解だと証明させてもらうよ」
若林「スタートッ!! さあ、エボ特有の4WDロケットスタートだぁぁ!!!」
「シュゴォォォォン!!」
ミスファイアリングシステムが「パン、パンッ!」と乾いた音を響かせ、銀色のエボIXは4輪すべてでアスファルトを噛み砕くように加速した。
ヒルクライムの急勾配など、このトラクションの前では無意味。
カナタの86が苦戦した登り区間を、眞鍋は機械的な正確さで駆け上がっていく。
若林「速い! 登りでの加速はポルシェやGT-Rに引けを取らない!!
眞鍋琉世、代役とは思えない完璧なコントロールでスカイラインへと突入だぁ!!」
パドックでモニターを見ていた山吹花は、少し意外そうに耳を動かした。
「ふふっ……黒川の代わりにこんな馬の骨がいたのね。
銀色のネズミさん、私のレコードにどこまで近づけるかしら?☆」




