吾妻編第2話 68の刻印
K408
朝倉 カイト「どうも、、、朝倉カイトです、、、」
秋田 レイナ「秋田レイナよ☆ よろしく」
花「なんだコイツらアアアア!!!!! 」
「熟した」という言葉に食ってかかる花を、ヴィヴァーチェは楽しげに、それでいてどこか誇らしげに見つめた。
そして、彼女は小さな胸を張り、とっておきの秘密を打ち明けた。
ヴィヴァーチェ「ふふっ……そういえば花ちゃん。あなたのWRXのゼッケン、なぜ『68』なのか考えたことはありますか〜?☆」
山吹 花「えっ? ゼッケン……?
あ、あぁ。エントリーした時に、なぜかその番号が割り振られてたけど……それがどうかしたの?」
ヴィヴァーチェは扇子をパチンと閉じると、勝ち誇ったようにカナタたちの顔を見渡した。
ヴィヴァーチェ「実は、花ちゃんの車を68号車にするように仕向けたのは、元はと言えば私なんです!」
伊藤 翔太「なんだって!? 運営の番号割り振りにまで手を出したのかよ、この幼女……!」
ヴィヴァーチェ「失礼ですね☆ 私はただ、ほんの少し運命を書き換えただけです。
私の年齢……1無量大数、つまり『10の68乗』。
その聖なる数字を、私の一番お気に入りの『孫』に授けてあげたのですよ☆」
山吹 花「ちょ、ちょっと待って……!
私の『68』って、アンタの年齢のゼロの数だったの!?
そんな勝手な理由で……!」
ヴィヴァーチェ「あら☆ 素敵じゃないですか。
その数字が貼ってある限り、あなたは私の加護を受けているのと同じなんですから。
もし崖から落ちそうになっても、私の年齢の重みで、空中で止めてあげなくもありませんよ〜? ん〜?☆」
花は顔を真っ赤にして絶句した。
自分の愛車に刻まれた数字が、目の前の生意気な獣神の「年齢の象徴」だったなんて。
しかし、その強引なやり方に呆れつつも、どこか「見守られている」ような不思議な感覚を、花は否定しきれなかった。
カナタ「……68。1の後に、0が68個。
そんなとんでもない加護を背負って、花さんは走ってたんだな」
カナタが感心したように呟くと、ヴィヴァーチェは満足げに頷いた。
世界の獣神の寵愛を受けた、蒼き68号車。
次の吾妻スカイラインでも、その数字が奇跡を呼ぶのかもしれない。
ヴィヴァーチェのドヤ顔を前に、伊藤翔太は頭を掻きながら、心底不思議そうに問いかけた。
伊藤 翔太「……あの、すみません。理屈はなんとなく分かりましたけど、なんでわざわざ『68』なんですか? 他にも数字なんて山ほどあるじゃないですか」
ヴィヴァーチェは「はぁ……」と大袈裟に溜息をつき、扇子を広げて優雅に仰いだ。
ヴィヴァーチェ「これだから、寿命がたかだか百年前後の人間さんは困りますねぇ☆
いいですか? 宇宙の始まりから終わりまでを数える時、一、十、百、千……と進んでいって、最後に行き着く極致。それが『無量大数』なのです。
そして、その強大すぎる力を安定させ、現世に留めるための『鍵』が、68という数字なのですよ」
ヴィヴァーチェは一歩、伊藤の前に踏み出し、人差し指を立てた。
ヴィヴァーチェ「1の後に0が67個では、私の力は溢れて世界を壊してしまいます。
逆に69個では、重すぎて花ちゃんの車は1センチも動かなくなるでしょう。
68という数字こそが、世界の獣神たる私の『存在の証明』であり、調和の数……。
つまり、花ちゃんを最強の加護で守りつつ、その速さを最大限に引き出すための、唯一無二の最適解なのですッ!☆」
山吹 花「……つまり、アンタの『ジャストサイズ』に私が合わせられたってこと?」
ヴィヴァーチェ「その通りです! 光栄に思いなさいな☆
花ちゃんが吾妻の激しいGの中でも意識を保ち、WRXが崖に吸い込まれないのは、そのボディに『68』という私の刻印が刻まれているからなのですよ〜? ん〜?☆」
伊藤 翔太「う、うわぁ……。なんか、数学的なのかオカルトなのか分かんなくなってきた……」
カナタ「でも……68という数字に、ヴィヴァーチェの全存在が詰まってるってことだよね。
そう思うと、なんだかすごい重みを感じるな」
カナタが感心したように頷くと、ヴィヴァーチェは「ふふん☆」と鼻を高くした。
本人が言うには「最適解」。
だが、その真意は、自分の分身とも言える数字を大好きな花ちゃんに背負わせておきたい、という独占欲に近い愛情だったのかもしれない。
ヴィヴァーチェは広げていた扇子を、静かに、ゆっくりと閉じた。
先ほどまでの茶目っ気のある表情が消え、一無量大数年という、人間には到底理解し得ない「時の重み」が彼女の瞳に宿る。
ヴィヴァーチェ「68、、、それは……」
彼女は自分の小さな掌を見つめ、独り言のように言葉を紡ぎ出した。
ヴィヴァーチェ「私という存在が、この世界で『一人きり』にならないための……たった一つの、命綱なのです☆」
その場にいた全員が、息を呑んだ。
ヴィヴァーチェ「一、十、百、千、万……。
数字が増えるたびに、私の周りからは誰もいなくなりました。
皆、寿命という名の壁に阻まれ、私を置いて先に逝ってしまう。
宇宙が生まれ、消え、また生まれるのを眺めるだけの時間は、あまりにも静かで、退屈で……。
『無量大数』という極致に辿り着いた時、私は自分自身さえ見失いそうになったのです」
彼女は顔を上げ、花、そしてカナタたちを順番に見つめた。
ヴィヴァーチェ「だから、0を68個並べました。
私の力の全てを注ぎ込み、この世界の『速さ』と『命』に結びつけたのです。
68号車が走る音を聞くたびに、私は『ああ、私はまだここに居ていいんだ』と思える。
花ちゃんがその数字を背負って走る姿は、私にとって、この退屈な宇宙で唯一見つけた『私が私であるための理由』なのですよ☆」
ヴィヴァーチェは、またいつもの小悪魔のような微笑みを浮かべた。
けれど、その青い瞳には、隠しきれない愛情と寂しさが混ざり合っていた。
ヴィヴァーチェ「ですから花ちゃん、絶対に負けてはいけませんよ?
あなたが止まれば、私の1無量大数年も、またただの孤独な数字に戻ってしまいますから……☆」
山吹 花「……ヴィヴァーチェ」
花は、自分のWRXに貼られた『68』というステッカーを思い浮かべた。
それはただのゼッケンではない。
一無量大数年を孤独に生きた神様が、この世界と繋がるために必死に投げた、愛のアンカー(錨)だったのだ。
葬儀場を包む静寂の中で、カナタは自身の拳を軽く握り、花の愛機の姿を思い浮かべた。
今や峠のギャラリーやライバルたちの間で、その数字は特別な意味を持っていた。
カナタ「もう68号車と聞いたら山吹花、、、
青の電撃の桜狼のWRX STI VAB型ともう世間では伝わってるもんな、、、、」
カナタの言葉に、周囲の面々も深く頷いた。
米沢グランプリを経て、花の走りはそれほどまでに強烈な印象を焼き付けていたのだ。
伊藤 翔太「ああ、全くだぜ。
青い車体が火花を散らしてコーナーを抜けていく姿は、まさに電撃だ。
『68』がバックミラーに映っただけで、並の奴なら道を譲っちまうくらいのオーラがあるもんな」
山吹 花「……青の電撃、桜狼……。
ちょっと、恥ずかしい名前で広まっちゃったわね」
花は照れ隠しに少し顔を背けたが、その口元には誇らしげな笑みが浮かんでいた。
自分が背負っているのは、ただのスバルの誇りだけではない。
隣で生意気に笑う一無量大数歳の「おばあちゃん」の、気が遠くなるような孤独と期待も一緒に背負って走っているのだ。
ヴィヴァーチェ「ふふん☆ 当然です。
私の聖なる数字を纏って、ただの凡走で終わるはずがありませんもの。
世間があなたの走りに平伏すのは、宇宙の摂理通りというわけですよ☆」
ヴィヴァーチェは花の腰に抱きつくようにして、甘えるように見上げた。
生意気な言葉とは裏腹に、自分の「68」がこの世界で最高の賛辞と共に語られていることが、嬉しくてたまらないようだった。
カナタ「……青の電撃か。
俺の86も、いつかそんな風に、数字を聞いただけで皆が震えるような伝説になりたいな」
カナタの瞳に、新たな闘志が宿る。
伝説の68号車。そしてそれを追う者たち。
彼らの物語は、今まさに「日本のニュル」吾妻スカイラインという最高難度のステージで、真のクライマックスを迎えようとしていた。
葬儀場がヴィヴァーチェの「68」の真実に包まれていた、その時。
静寂を切り裂くように、全身黒ずくめのタイトなスーツに身を纏った、異様なほどストイックなオーラを放つ男が歩み寄ってきた。
島 勝也「どうも、、、島勝也です、、、!」
その名を聞いた瞬間、ヴィヴァーチェが耐えきれないといった様子で、お腹を抱えてクスクスと笑い転げた。
ヴィヴァーチェ「くっ……ふふふっ!☆
まさか、このタイミングで『外科医』の彼が迷い込んでくるなんて……運命がバグり散らかしていますねぇ!☆」
山吹 花「はああああああ!!????」
花の絶叫が響く。彼女は目の前の男を指差し、驚愕のあまり顔を真っ赤にした。
島 勝也「会場はここで合っているんですよね? ああ、、吉田さん……。
彼とは一度、湾岸の直線で競いたかったのだが……」
島は周囲の動揺など意に介さず、遺影に向かって神妙に首を振った。
だが、その空気の読めなさに、花がさらにブチ切れる。
花「ちょっと待て!! 話の途中に何っ!??
てか、島勝也ってアレじゃねェかよオオオ!!!!!
アンタ、住む世界(漫画)を間違えてるでしょうがッ!!」
島 勝也「……? 私はただ、おふくろ(母上)にお会いしてもいいかと……」
山吹 花「嫌に決まってんだろおお!出てけえええ!!!」
げしッ!!!
花の鋭い回し蹴りが、島の脇腹にクリーンヒットした。
だが、島は流石の体幹で耐え、何事もなかったかのようにネクタイを整え直した。
伊藤 翔太「島勝也って……某首都高作品のポルシェ使いかよ、、、。
変なの多いな、この世界、、、、、、」
伊藤が頭を押さえて溜息をつく。
86、WRX、NSX、そしてまさかのブラッ〇バード……。
ここは福島のはずだが、もはや日本中の、いや次元を超えた伝説たちが引き寄せられる「特異点」と化していた。
ヴィヴァーチェ「ほほほ☆
いいじゃないですか、カオスな方が面白いですよ!
島さん、次はあなたのポルシェも68号車に変えてあげましょうか〜?☆」
島 勝也「……いや、私は黒がいい」
会話の成立しない外科医を前に、花ちゃんの怒髪は天を突く勢いだった。
「ちょっと、誰か説明してよおおお!!!」
花は、あまりにも「そのまんま」な島勝也の姿に、頭を抱えて叫んだ。
黒い服、冷徹な外科医のオーラ、そして葬儀場の駐車場に停まっているであろう、あの漆黒のターボ。
山吹 花「こんなやつ、どうしろって言うの!!??
こんな某首都高作品仕様で、車も同じなんだよ!!??
まんまじゃん!!! パクリとかオマージュとか、そういうレベル超えてるわよ!!」
伊藤 翔太「確かに……。実車が出てくるこの作品で、あの『黒い怪鳥』が出てきたら、もう吾妻スカイラインが湾岸ミッドナイトになっちまうよ……」
伊藤も、あまりの「ガチ」な登場に冷や汗を流している。
だが、当の本人はどこ吹く風。島勝也はスッと眼鏡を指で押し上げ、花の激昂を「静止」させるように手をかざした。
島 勝也「……私は、私だ。
作品がどうとか、世界観がどうとかは関係ない。
ただ、最高速の向こう側にある『真実』を求めているだけだ……。
そこに吉田さんの死という『空白』があったから、埋めに来た。それだけのことだ」
山吹 花「うるさいわよ!! その台詞回しも、いちいちポエムなのよッ!!」
ヴィヴァーチェ「ほほほ☆ いいじゃありませんか〜!
私がこの世界(86伝説)に呼び寄せたわけではありませんが、きっと1無量大数年の歪みが、他作品のレジェンドを吸い寄せちゃったのかちら〜?☆」
ヴィヴァーチェはお腹を抱えながら、島勝也の周りを浮遊するように回り始めた。
ヴィヴァーチェ「島さん、ここは最高速300キロの世界ではなく、複雑怪奇な『つづら折り』の吾妻ですよ?
あなたのポルシェ、曲がれるのかちら〜?ん〜?☆」
島 勝也「……曲がるのではない。捩じ伏せるだけだ」
山吹 花「だからポエムを吐くなぁぁぁっ!!!
もういい、カナタ、伊藤! こいつは放っておいて、早く行くわよ!
このままだと私たちの物語まで乗っ取られるわッ!!」
花は島の背中を強引に押し出しながら、葬儀場の出口へと急いだ。
花は、自身のWRXに乗り込む寸前、ふと駐車場に鎮座する不気味なほど漆黒のポルシェに目を向けた。
その放つオーラは、市販車とは明らかに一線を画している。
山吹 花「……一応聞くけど。
アンタの外にあるあのポルシェ、、、いじってるのは誰なのよ?」
島 勝也「……西見さんですが、、、」
その瞬間、葬儀場の静寂が、花の絶叫によって木っ端微塵に砕け散った。
山吹 花「絶対怪しいってエエエ!!!!!
名前の絶妙な変え方が余計にリアリティあって怖いわよッ!!
それ、地獄のチューナー的なアレでしょ!?
走るたびに火を噴いたり、異音を撒き散らしたりするアレでしょおおお!!」
島 勝也「……彼は、機能美の追求者だ。
ただ、少しだけ『命』を削って速さを生み出すのが得意なだけで……」
山吹 花「それが一番ヤバいっつってんだよおおおッ!!!」
バキッ! ベキ! げしィ!!!
もはや問答無用。
花の鋭いローキック、ミドルキック、そしてトドメの踵落としが、ストイックに語る島に叩き込まれた。
しかし島は、まるで「これがコーナーでのGだ」と言わんばかりの無表情で、ボロボロになりながらも立ち続けている。
伊藤 翔太「おいおい花さん、葬儀場の駐車場で伝説の外科医を解体するなよ……。
てか西見さんって……あの、一度組んだら二度とバラせないエンジンとか作る人だろ?
それ、吾妻スカイラインで走らせたら山全体が爆発しねーか!?」
カナタ「(俺の86も古田さんに REVIVE してもらったけど……西見さんのチューンは次元が違いすぎる気がするな……)」
ヴィヴァーチェ「ほほほ☆
いいじゃないですか! 地獄のチューナー対、HURUTAWORKSの古田さん!
どちらが先に、一無量大数年の理(物理法則)をブチ壊すか見ものですねぇ☆」
ヴィヴァーチェは空中で足をバタつかせながら、カオスな状況を楽しそうに眺めていた。
結局、満身創痍の島(自業自得)を黒いポルシェに押し込み、一行は嵐を予感させる吾妻スカイラインへと向かって発進した。
島勝也を蹴り飛ばしていた花の背後に、重低音の地鳴りが響き渡った。
古田が「なんだあれ?」と眉をひそめ、ガレージから身を乗り出す。
そこに現れたのは、もはや説明不要の二台。
ミッドナイトブルーに輝く『S30Z』と、気高くも鋭いオーラを放つ『R32 GT-R』。
花「やな予感しかしない、、、っていうか、もう確信に変わったわよ!!」
S30Zから降りてきたのは、どこか遠くを見つめるような瞳をした、浮世離れした美青年。
そしてGT-Rからは、圧倒的な華やかさを纏った美女が現れた。
朝倉 カイト「どうも、、、朝倉カイトです、、、」
秋田 レイナ「秋田レイナよ☆ よろしく」
花「なんだコイツらアアアア!!!!! はよどっか行けエエエエエ!!!」
花の絶叫がこだまする。
名前も「アキオ」じゃなくて「カイト」! 「レイナ」はそのまま!
しかも島勝也と合わせて、主要キャストが勢揃いしてしまった。
朝倉 カイト「……この場所も、何かの『回廊』なのかな。……は〜い、、、行こうぜ、、、」
秋田 レイナ「そうね。ここは私たちのステージじゃないみたい」
島 勝也「ああ、、、。吾妻の風も、湾岸の風も、本質は変わらない……」
島がボロボロの体のままポエムを吐き捨てると、三台の伝説のマシンは、まるで蜃気楼のようにエンジン音を響かせ、駐車場を後にしようとした。
花「そうよ!! 自分の漫画に帰りなさいよ!!
これ以上、私の『86伝説』をややこしくしないでッ!!」
ヴィヴァーチェ「ほほほ☆
いいじゃないですか〜、一無量大数年ぶりの同窓会みたいで!
カイトくんのZに、私の『68』のステッカーを貼ってあげたかったのに、残念ですぅ☆」
伊藤 翔太「おいおい……今の三台、合計馬力だけで福島県の発電量を超えてたんじゃねーか?
変な奴らだけど、あのマシンのオーラだけは本物だったな……」
古田「(……フン、あのZのキャブの同調。悪くない。だが……俺のセッティングしたREVIVE 86なら、峠でなら喰える)」
古田だけは、去りゆくS30の排気音に、静かに闘志を燃やしていた。




