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86伝説エーペックス  作者: SAI
米沢編
PR
458/535

米沢編第68話 回る宴会

K405

セシル「はふっ……はふっ……。\温かい……生き返るのです……」


身長おおよそ120センチの小さな身体を縮こまらせ、セシルは焼きそばの熱を全身で感じていた。

彼女にとって、このパックに入った数百円の麺は、生命維持装置も同然だった。

平和で、ささやかな幸せの時間。

……だが、その平和は、隣にドカッと座ってきた「災害」によって粉砕された。


高橋 勇太「オラァァァッ!!

焼きそばの供給が遅ェぞ!!

NSXの給油スピードを見習いやがれェェェッ!!!」


焼きそばのところで、セシルの横で高橋が焼きそばを食い荒らしていた。


ズボボボボッ!!! ガツガツッ!!!


それは食事ではなかった。

「補給」という名の破壊活動だった。

勇太は割り箸をショベルカーのように使い、山盛りの麺を口の中へとかき込んでいく。

ソースが飛び散り、紅生姜が舞い、青のりが嵐のように吹き荒れる。


セシル「ひっ……!?

な、なんなんですかこの人は……ッ!?」


セシルはあまりの迫力と、隣から発せられる熱量(と飛び散るソース)に悲鳴を上げた。

自身の冷気で凍りついていた空気が、勇太の熱気で無理やり解凍され、生温かい風となって彼女を襲う。


高橋 勇太「んぐぐッ!! ッパァ!!

足んねェ!! まだまだ食えるぞオラァッ!!

隣のちっこいの! テメェのは紅生姜多めか!?

よこせ!!」


セシル「ひいぃッ!?あ、あげませんよ!!

これは私の命綱なんです!!

絶対にあげないんだからーーッ!!!」


セシルは涙目で焼きそばを抱きしめ、氷のしっぽを逆立てて威嚇した。

しかし、勇太はそんな抵抗など意に介さず、自身の焼きそばをさらに加速させて平らげていく。


高橋 勇太「チッ、ケチなガキだぜ!!

ならおかわりだァ!!

オヤジィ!! 今度は鉄板ごとよこせェェェッ!!!」


屋台のおじちゃん「ひ、ひいぃ……警察呼ぼうかな……」


猛獣の咆哮と、怯える小動物(竜)。

焼きそば屋台は、カオスとソースの匂いで満たされていた。


勇太が焼きそばを掃除機のように吸い込み、セシルが怯えていたその時。

賑やかな屋台エリアの空気を、一台の車が切り裂いた。

音もなく、モーターの駆動音だけで忍び寄る影。

漆黒のボディ。

鋭い眼光のようなヘッドライト。


そこに!!!!

黒いプリウス、、、!


腹切 カナタ「ッ……!?」


カナタは焼きそばのパックを持ったまま、動きを止めた。

その車に見覚えがあった。

かつて、走り屋の世界で世話になり、そしてある理由で離れた存在。


ドアが開き、大人の女性が降りてきた。

夜風に髪をなびかせ、その瞳には強い意志が宿っている。


???「よお、、、!」


腹切 カナタ「アネキ、、、、!?」


カナタの声が震えた。

まさか、こんな場所で、しかもエーペックスカップの閉会式で再会するとは。

周囲の翔太や花も、その異様な雰囲気に箸を止め、固唾を飲んだ。


女性はカナタたちの驚く顔を見て、フッと口元を緩めた。

それは、昔と変わらない、しかしどこか吹っ切れたような笑みだった。


逢田「アンタら、見返したよ、、、!!

あんなバケモノじみたレースを生き残るなんてね。

私の知ってる『弟分』じゃなくなったみたいだ」


彼女はカナタの成長を認めるように頷くと、視線を鋭くし、低い声で告げた。


逢田「アタシ、本当の名前は『逢田(あいだ)』だ。

アネキなんて呼び名はもういい」


腹切 カナタ「逢田……さん……」


逢田「ああ。

それに、今日ここに来たのは、アンタと馴れ合うためじゃない」


彼女の視線が、会場の奥、氷の気配が漂う方向へと向けられた。


逢田「今日は、ちとせっていう奴に用があって来たんだ。あの『ホワイトホルス』にね……」


その言葉には、ただならぬ決意と、因縁めいた響きが含まれていた。

黒いプリウスの女・逢田。

彼女の目的は、カナタたちの母親代わりであり、最強の障壁である「ちとせ」だったのだ。


焼きそばの香ばしい匂いが漂う屋台エリアの端。

そこだけ、まるで別世界のように重苦しい空気が淀んでいた。


黒いプリウスから降りた逢田は、まっすぐに、氷雪の獣神・ちとせの元へと歩み寄った。


逢田「ちとせか、、、、」


その声には、かつての「走り屋のアネキ」としてのドスが効いていた。

しかし、対するちとせは、相変わらずのんびりとした口調で、綿飴のような笑顔を浮かべていた。


ちとせ「.......うへ〜?どうしたの〜?逢田く〜ん☆ そんな深刻そうな顔して、、、

美味しい焼きそばが冷めちゃいますよ〜?」


彼女は、逢田の殺気などどこ吹く風。

しかし、逢田は視線を逸らさず、低い声で告げた。


逢田「実は、、、」


彼女は一度言葉を切り、周囲に聞かれないように声を潜めた。

その内容は、氷の神の笑顔を凍りつかせるのに十分だった。


逢田「......吉田さんの葬式があったんだ。

知ってるだろう? かつての『絶対王者』の吉田さんだ」


ちとせ「えっ......?」


ちとせの動きがピタリと止まった。

その瞳から、いつものハイライトが消え失せる。


ちとせ「......吉田さんの葬式?

絶対王者の??

......嘘でしょう〜? あの人が死ぬなんて......」


※半年前にくたばってるって笑


逢田「事実だ。老衰だったよ。

……だが、問題はそこじゃない。

その葬式の席で聞いたんだ。

『アイツ』が……このエーペックスカップに出るって.....」


ちとせ「アイツ......?」


逢田「ああ。

お前のかつてのS30と並んでたツアラー...っ!

アイツだけはやばい、、、!

今のアンタでも、止められるかどうか……」


逢田の声に、恐怖の色が混じった。

かつて、S30フェアレディZを駆る「ホワイトホルス」ちとせと、互角に渡り合った伝説のツアラー(JZX系)。

そのドライバーが、再び峠に現れるというのだ。


ちとせの脳裏に、懐かしくも恐ろしい、ある人物の顔がフラッシュバックした。

彼女は、信じられないという表情で、その可愛らしくも凶悪な「あだ名」を呟いた。


ちとせ「ニャンコ......っ!!」

「.......へ〜、、、まだ生きてたんだ〜??

楽しみだもへ〜......♫」


その瞬間。

米沢の夜空に、一陣の冷たい風が吹き抜けた。

それは、これから始まる「松島編」での、更なる激闘と波乱を予感させる、嵐の前の静けさだった。


「ニャンコ」というかつての好敵手の復活に、表情を強張らせていたちとせ。

しかし、逢田が持ってきた「爆弾」は、それだけではなかった。


逢田「それとちとせ、、、聞いたか?

今回1位の....あのポルシェ乗りのガキのことだ」


逢田は、視線を遠くの屋台エリアに向けた。

そこでは、フリスが優雅に(そして大量に)スイーツを頬張っている姿が見える。


ちとせ「ん〜? 確かフリスちゃんだっけ?

あの子、私の氷とは違って、ふわふわした綿飴みたいな雪を降らせるのよね〜。

とっても可愛らしい子じゃない?」


ちとせは、フリスに対して「同属性の可愛い後輩」くらいの認識しか持っていなかった。

「コットンアイススノー」の甘い冷気は、ちとせの絶対零度とは質が違うが、脅威とは感じていなかったのだ。


だが、逢田は首を横に振った。


逢田「見た目はただの甘い雪振らせてる感じの王者だが、、、

あいつのバックボーンは、そんな可愛いもんじゃない」


逢田は声をさらに低くし、周囲の闇に溶け込ませるように囁いた。


逢田「本名は...

ヤマ フリス アルカード って言うみたいだぜ、、、、?」


ちとせ「......えっ?」


ちとせの動きが再び止まった。

アルカード(Alucard)。

その名は、古き伝承において「悪魔」(ドラキュラ)を逆さに読んだもの。

高貴なる夜の眷属。あるいは、底知れぬ光と闇の血統。


ちとせ「アルカード......?

まさか、あの『裏の社交界』で噂されていた......?」

(あれ?確かおじさんの名前にもアルカードあったよね......??)


逢田「ああ。

ただの速いお嬢様じゃない。

『王』になるべくして育てられた、正真正銘のサラブレッドだ。

甘いお菓子(スイーツ)の下に、とんでもない牙を隠し持ってるぞ」


遠くで、フリスがふとこちらを見た気がした。

その瞳は、やはり赤く、妖しく輝いているように見えた。

「ニャンコ」という過去の亡霊。

そして「アルカード」という現在の魔王。

これからのエーペックスカップは、ただの走り屋の喧嘩では済まない領域へと突入しようとしていた。


ちとせと逢田が、かつてのライバル「ニャンコ」や、フリスの血統「アルカード」について深刻な話をしていた、その時だった。


腹切 カナタ「あー! 出張回転寿司が来たみたい!!!

逢田さんも行こうよ!!!」


カナタは、屋台エリアの入り口に到着した派手なトラック(中に回転レーンがある移動販売車)を見つけ、子供のように目を輝かせた。

空気の読めなさは、ある意味で最強の武器だ。

重苦しい「死」や「因縁」の空気を、一瞬で「寿司(酢飯と魚)」の匂いに変えてしまったのだから。


逢田「はぁ……。

アンタって奴は……本当に変わらないね。

さっきまでの私の深刻な話を何だと思ってるんだか」


逢田は呆れてため息をついたが、その表情はどこか緩んでいた。

この能天気さに、かつて救われたことを思い出したのかもしれない。


腹切 カナタ「だってお腹減ったし!

あ、そういえばアネキ……じゃなくて逢田さん。

さっき『逢田』って名字だけ聞きましたけど……」


カナタは寿司屋に向かいながら、ふと振り返って尋ねた。


腹切 カナタ「ちなみにフルネームでは?」


逢田は少し歩みを止め、懐かしそうに夜空を見上げた。

そして、短く、しかし誇り高く告げた。


逢田 レイ「逢田レイだ」


腹切 カナタ「レイさん……! かっこいい名前っすね!」


逢田 レイ「ふっ、そうかい?

昔は……そうだな。

マセラティのギブリ乗ってたんだ。赤色」


腹切 カナタ「ええええッ!? マセラティ!?

あのイタリアの!? しかもギブリ!?」


逢田「しかもトロフェオな?」


カナタは驚愕した。

今の彼女は黒いプリウス(エコカー)に乗っているが、かつてはイタリアの高級スポーツセダン、しかも情熱的な「赤(ロッソ)」のギブリを乗り回していたというのだ。

トライデント(三叉の矛)のエンブレムを掲げ、フェラーリ製エンジンを積んだセダンで峠を攻める「アネキ」。

その姿は、想像するだけで痺れるほどカッコよかった。


逢田 レイ「燃費は最悪、故障も多かったけどね。……いい音(こえ)で鳴く車だったよ」


レイは寂しそうに微笑むと、カナタの背中をバンと叩いた。


逢田 レイ「さあ、寿司だろ? 行くよ。

昔話はネタ(寿司ネタ)にはならないからな」


元マセラティ乗りのプリウス使い・逢田レイ。

彼女もまた、カナタたちと共に、米沢の夜の宴に混ざっていくのだった。


リナワールドのエントランスに、またしてもとんでもないマシンが現れた。

派手な電飾で飾られた大型トラック。その荷台がウィング状に開き、中から眩い光と共に「回転レーン」が出現したのだ。

『出張! 爆走回転寿司』のネオンが夜空に輝く。


高橋 勇太「オラァァァッ!! 寿司だァァァッ!!

日本人のガソリン(主食)は米と魚だろがァァァッ!!!」


勇太はNSXのローンチスタートばりのダッシュで、一番ネタが流れてくる「最上流」の席を確保した。


高橋 勇太「大トロ! ウニ! イクラ!!

全部俺の検問(口)を通ってから下流に行かせろォォォッ!!!」


山吹 花「ちょっ、高橋くん!! 独占禁止法違反だよ!!

下流にカッパ巻きしか流れてこないじゃない!!」


花が抗議するが、勇太は皿を取るスピードすら速すぎて残像が見えるレベルだった。


そこへ、黒いプリウス乗りの逢田レイが、大人の余裕(?)で割って入った。


逢田 レイ「まったく、最近の若いのは燃費が悪いねぇ。

……大将、とりあえず『赤身』を頼むよ。

昔乗ってたマセラティ・ギブリの赤(ロッソ)と同じ色でね」


レイは、回っているネタではなく、直接大将に注文を通すという「通(ツウ)」な技を見せた。

出されたマグロの赤身を、彼女は醤油もつけずにパクりとやった。


逢田 レイ「んっ……! 悪くない。

マセラティのV6サウンドみたいに、鼻に抜ける鉄分の香りが最高だ」


腹切 カナタ「寿司の感想で排気音出てくる人初めて見た……。

俺は……あ、ハンバーグ! ツナマヨ!

お子様系最強!!」


カナタは流れてくるジャンクなネタに目を輝かせ、安上がりな皿を次々と積み上げていく。

高級ネタには目もくれず、マヨネーズがかかった寿司に幸せを感じる庶民派チャンピオン。


フリス「……ふん。品がないな、貴様ら」


そんなカオスな回転寿司に、絶対王者フリスが参戦した。

彼女はレーンを流れる皿を、まるでコーナーのエイペックスを見極めるような鋭い眼光で凝視している。


フリス「……来たか。

私の動体視力と演算能力が弾き出した、最も脂が乗ったタイミングの『寒ブリ』……!

捉えた!!」


シュッ!


フリスの手が閃光のように伸び、完璧なタイミングで皿を掴み取った。

ポルシェの正確無比なハンドリング技術は、回転寿司でも健在だった。


フリス「……美味。

この脂の乗り具合、まるで路面のμ(ミュー)が高いウェットコンディションのようだ」


伊藤 翔太「だから例えが全員おかしいんだよ!!

……おっ、コタロー! 炙りサーモン来たぞ!」


伊藤 乎太郎「わぁい! 兄さん取ってー!

……ああっ!? 勇太さんに取られたーーッ!!」


高橋 勇太「甘ェんだよ天才少年!!

寿司は食うか食われるかのバトルロイヤルだァァァッ!!!」


深夜のリナワールド。

輝くネオンの下、回る寿司を巡る仁義なき戦いは、夜明けまで続く勢いだった。

米沢の夜は、胃袋の限界を超えて加速していく――!


勇太が上流で肉寿司を乱獲し、カナタがお子様ネタで喜んでいる中。

山吹花は、レーサーらしい動体視力で「狙い」を定めていた。


山吹 花「私もエビとつぶ貝! 赤貝! いただきまーす!!!」


シュバババッ!!

彼女の手が伸び、レーンを流れる貝類を一瞬で3皿確保した。

WRX STIの四輪駆動のような、路面(レーン)を捉えて離さないグリップ力だ。


山吹 花「ん〜っ!! コリコリしてて最高!!

この歯ごたえ(剛性)、たまらない〜!!

やっぱりボディもネタも、ヤワなのはダメだよねっ!」


彼女はつぶ貝を口に放り込み、その独特の食感を楽しみながら、幸せそうに頬を緩めた。

男たちのガッツリ系とは違う、通な楽しみ方だ。


古賀 加奈子「あら、花ちゃんイイ趣味してるわね。

……じゃあ私は、これにしよっかな?」


先生こと古賀加奈子は、大人の余裕で、少しお高い金色の皿に手を伸ばした。

プリプリに膨らんだ、旬の「生牡蠣」の軍艦だ。


古賀 加奈子「牡蠣のお寿司食べようかな?

『海のミルク』って言うくらいだし、M5のV8エンジンには濃厚な燃料が必要だからね〜♡」


パクッ。

彼女は大きな一口で牡蠣を頬張った。

口の中に広がる磯の香りと、クリーミーな濃厚さ。


古賀 加奈子「ん〜っ、濃厚!!

ハイオク満タンって感じね!

明日のお肌の調子も、エンジンの吹け上がりも最高になりそう☆」


山吹 花「先生、それ何皿目ですか……?

さっき焼きそば特盛り食べたばっかりですよね?」


古賀 加奈子「あらやだ。

500馬力オーバーのセダンを振り回すには、これくらい食べないとガス欠しちゃうのよ?」


先生は悪びれもせず、次は「ウニ」の皿へとターゲットをロックオンした。

スバル女子とBMW女子。

彼女たちの胃袋もまた、高性能エンジンのように底なしだった。


喧騒の回転寿司屋台。

皿が飛び交う戦場のような有様だが、カウンターの端に座る男・川村だけは、まるでピットでエンジンの調律(チューニング)を確認するかのように、静かな時間を過ごしていた。


彼の目の前にあるのは、派手な大トロでもウニでもない。

銀色に輝く皮目が美しい「コハダ」だ。


川村は箸でその一貫をつまみ上げると、口に入れる前に、ネタの切り口とシャリのバランスをじっくりと観察した。


川村「ほぅ……」


そして、静かに口へと運ぶ。

酢の締め具合、ネタの厚み、口の中でほどけるシャリの空気感。


パクッ……。


川村「……なるほど」


彼はゆっくりと咀嚼し、深く頷いた。

派手な旨味ではなく、計算され尽くした仕事の味がそこにはあった。


川村「このネタ作りが上手いな、、、、!」


その言葉は、単に「美味しい」という感想を超えていた。

まるで、完璧にバランス取りされたクランクシャフトや、ポート研磨されたエンジンヘッドを称賛するエンジニアのような響きだった。


川村「締めすぎていない。

素材のポテンシャルを殺さず、最大限に引き出す『セッティング』だ。

この屋台の大将……タダモノじゃないな」


大将「へい! わかるかい旦那!

そこを見抜いてくれるとは嬉しいねぇ!」


屋台の強面な大将が、ニカっと白い歯を見せて親指を立てた。

川村もまた、無言で湯呑みを持ち上げ、敬意を表した。


喧騒と熱気に包まれた回転寿司屋台。

勇太が肉を貪り、花が貝を愛で、レイがマセラティの赤身を味わう中。

職人のコハダに感銘を受けていた川村の背後に、音もなく、雪のような気配が忍び寄った。


ちとせ「川村さ〜ん♪ 話があって.....」


甘く、とろけるような声。

しかし、その声に含まれる温度は、周囲の空気を一瞬で氷点下へと叩き落とすものだった。

ちとせは、川村の耳元へ顔を寄せると、周囲の騒音にかき消されるほどの小さな声で、何かを囁いた。


ゴニョゴニョ......。


その言葉を聞いた瞬間。

川村の手から、職人技を称賛していたコハダの皿が滑り落ちそうになった。


川村「え、、、、?今なんて!!」


彼は驚愕に目を見開き、信じられないものを見る目でちとせを凝視した。

あの冷静沈着なエンジニアが、これほどまでに動揺するとは。

一体、何を言われたのか?

「マシンの秘密」か? 「新たな敵」のことか?

それとも、もっと恐ろしい「依頼」なのか?


しかし、ちとせは既にいつもの「おっとり」の仮面を被り直していた。


ちとせ「もへ〜......♫

内緒だよ〜? うふふ......」


彼女は人差し指を口元に当て、意味深に微笑むと、綿雪のようにふわりと離れていった。

残された川村は、青ざめた顔で、ただ呆然と彼女の背中を見送るしかなかった。


その内容は明かされない、、、

ただ一つ確かなことは、この囁きが、次なる舞台「松島」で巻き起こる嵐のトリガーになるということだけだった。


エーペックスカップ 第7戦 米沢グランプリ編

完


回転寿司屋台の裏で、ちとせと川村が密談をしていた、その時。

会場の中央で、山吹花の怒号が夜空を引き裂いた。


山吹 花「まだ終わるわけないでしょ!?

言ったわよね!? 黒川アアアアっ!!!!!」


彼女の視線の先には、人混みに紛れてこっそりと帰ろうとしていた(あるいは、ただ単に孤立していた)黒川海斗の姿があった。

ランエボIXを駆る、攻撃的で荒い走り屋。

レース中、彼がカナタや他のドライバーに行った数々のラフプレー。

その精算の時が来たのだ。


山吹 花「アンタアアアア!!!

この後全員にシバかれるからなアアアアって!!!!

レース中のあの幅寄せ! 忘れたとは言わせないわよ!!!」


花は仁王立ちになり、鬼の形相で黒川を指差した。

しかし、黒川はポケットに手を突っ込んだまま、冷ややかな笑みを浮かべた。


黒川 海斗「……フン。

俺は最速を目指しただけだ。

雑魚が勝手に潰れたのを俺のせいにするな」


彼は悪びれる様子もなく、むしろ挑発的に顎をしゃくった。


黒川 海斗「やれるもんならやってみな、、、

俺のランエボの加速に、テメェらの鈍足(足)で追いつけるかな?」


その言葉が、会場にいた全員の導火線に火をつけた。

そして、この状況を誰よりも待っていた男が、マイクを片手に高らかに叫んだ。


早川「てことで、、、

皆さんでハリセン持ってください!!!

黒川をシバキ隊! 出撃開始!!!」


早川の合図と共に、どこからともなくスタッフが現れ、大量の「特大ハリセン」がドライバーたちに配られた。

バシッ! バシッ!

試し打ちの音が響く。


高橋 勇太「ヒャッハー!! 祭りだ祭りだァ!!

黒川ァ! テメェにはレースの借りがあるんだよォ!!」


セリナ「あら〜、いい音が出るわねこの扇子♡

黒川くんのお尻ペンペンしちゃうぞ〜☆」


伊藤 翔太「よっしゃ! 行くぞ花ちゃん!

スイスポの機動力とWRXのトラクションで追い込むぞ!!」


山吹 花「ええ! 逃さないわよ黒川!!

覚悟しなさいッ!!!」


黒川 海斗「チッ……!

マジでやる気かよ、このイカレ集団が……!」


さすがの黒川も、数十人のドライバーがハリセンを持って殺到してくる光景には冷や汗を流した。

彼は踵を返し、夜の遊園地の中へと全力疾走を開始した。


「待てェェェェッ!!!」

「シバかせろォォォッ!!!」


こうして、米沢グランプリのフィナーレは、ランエボ使い黒川と、ハリセンを持った暴徒たちによる「深夜の鬼ごっこ」へと雪崩れ込んだのだった。


逃げる黒川、追う暴徒たち。

しかし、怒れる山吹花の加速は、WRX STIのゼロヨン加速そのものだった。

彼女は一瞬で黒川の背後(スリップストリーム)に食らいつくと、手にした特大ハリセンを振り上げた。


山吹 花「まずは私からよオオオ!!!!!」


その瞬間、彼女の背後に青い六連星のオーラが浮かび上がった。

ただの紙の束であるはずのハリセンに、バチバチッ……! と青白いスパークが奔る。

それは、彼女の秘めたる闘志か、それともスバルの魂か。


山吹 花「良くもやってくれたわねエエエ!!!!

レース中の幅寄せ! 私の大事なVABへの傷!!

その痛み、アンタの体に刻んであげるわァァァッ!!!」


黒川 海斗「なっ……!?

電撃だとォ……!? ふざけんな、たかが紙切れで――」


黒川が振り返り、ガードしようとしたが遅かった。

青い稲妻を纏ったハリセンが、音速を超えて振り下ろされる。


**バヂィィィィィンッ!!!!**


黒川 海斗「ぐあァァァァッ!?!?

痺れ――ッ!? いってェェェッ!!!」


強烈な破裂音と共に、青い電流が黒川の全身を駆け巡った。

彼は悲鳴を上げ、まるで落雷を受けたかのようにその場に崩れ落ちた。

焦げ臭い煙(?)が、彼のツンツン頭から微かに立ち上る。


山吹 花「ふゥ……!まずは一発!

でも、これじゃあ私の『VABちゃん』の痛みは消えないわよ!!」


花は鬼の形相のまま、まだバチバチと帯電しているハリセンを構え直した。

黒川包囲網は、まだ始まったばかりである。


山吹花の電撃一閃で動きを封じられた黒川海斗。

その隙を、飢えた狼たちが逃すはずがなかった。


「いっけえェェェェッ!!!」

「日頃の恨みィィィッ!!!」


早川のアナウンスを合図に、ハリセンを持ったドライバーたちが四方八方から黒川に殺到した。

そして一気に、黒川海斗にハリセン攻撃が、、、


バシッ! スパーン! ドゴッ! パァァァン!!


伊藤 翔太「オラオラオラオラァッ!!!

スイスポをナメんじゃねえぞ!!

軽量ボディの連打を見切れんのかよオオオッ!!!」


翔太は目にも留まらぬ速さで、黒川の背中をマシンガンのように叩き続けた。

スウィフト・ラッシュ!!


高橋 勇太「ヌルいヌルいッ!!

NSXのトルクってのはこうやるんだよォォォッ!!!」


勇太はハリセンを両手で振りかぶり、フルスイングで脳天(安全な場所)を叩いた。

それはもはや打撃音ではなく、爆発音に近かった。


**ドゴォォォンッ!!!**


フリス「……記録完了。

ここが最も痛覚が伝わりやすいポイントだ」


フリスは冷静に、黒川の脇腹などの急所を的確にペチペチと狙い撃ちした。

地味に一番痛い。


セリナ「あら〜ん♡ いい音!

もっといい声で鳴きなさいよ、ランエボくぅ〜ん♡」


セリナに至っては、もはやただのサディストとして楽しんでいた。


黒川 海斗「ぐあッ……! やめ……ッ!

てめェら……! 集団リンチかよ……ッ!!

ランエボの……プライドが……ッ!!!」


黒川は地面に這いつくばり、雨あられと降り注ぐ紙の暴力に防戦一方となった。

「最速」を誇る彼も、この「手数」には勝てない。

彼の視界は、無数の白い扇子と、楽しそうに自分を叩くライバルたちの笑顔で埋め尽くされた。


早川「凄まじい光景です!!

あの攻撃的な黒川選手が、今はただのサンドバッグ状態!!

これが米沢の絆! これがエーペックスカップの正義の鉄槌だァァァッ!!!」


会場は爆笑と歓声に包まれ、黒川の悲鳴は夜空へと吸い込まれていった。


124: 走り屋名無しさん

おい待て、何が始まったwwwwww


125: 走り屋名無しさん

【朗報】黒川、ついに年貢の納め時


126: 走り屋名無しさん

山吹花さんのハリセン、バチバチいってて草

スバリストの怒り怖すぎだろwwww


127: 走り屋名無しさん

>>126

あれ絶対ただの紙じゃねーだろww電撃属性付与は規約違反ですよ花さんwww


128: 走り屋名無しさん

勇太のフルスイング、音がハリセンじゃなくて鈍器なんだわ。

NSX(重量級)の一撃重すぎ。


129: 走り屋名無しさん

ちょw フリス様www

ポルシェの精密機械っぷりを「急所攻撃」に使うなwww

「計算完了」じゃないんですよwwwww


130: 走り屋名無しさん

セリナの姉御だけ叩き方がエロいんですがそれは。


131: 走り屋名無しさん

これもうレースの閉会式じゃなくて「公開処刑」じゃねーか!w

でも、あのラフプレー見てたら残当(残念ながら当然)だな。


132: 走り屋名無しさん

早川アナ「黒川をシバき隊! 出撃開始!!!」

↑ノリノリすぎて草。公式が病気。


133: 走り屋名無しさん

カナタだけはペチッて叩いてて安心したわw

あいつだけ聖人すぎるだろ。


134: 走り屋名無しさん

黒川「ランエボのプライドがぁっ!」

視聴者一同「知らんがなwwwww」


135: 走り屋名無しさん

いやー、米沢編、最後は笑い死ぬかと思ったわw

寿司食べてハリセンして、これがエーペックスカップか。


136: 走り屋名無しさん

次、松島編らしいぞ。

伝説の「ニャンコ」が来るって噂マジ?


137: 走り屋名無しさん

>>136

えっ、あのJZXのバケモノ!?

マジなら松島、地獄の戦場になるぞ……。


138: 走り屋名無しさん

とりあえず、黒川は明日から全身筋肉痛確定な。

乙。


外では黒川へのハリセン祭りが続き、お祭り騒ぎのフィナーレを迎えていた頃。

実況席の若林は、ようやく仕事が終わった安堵感から、ヘッドセットを外そうとしていた。


若林「てことでここで、、、終わり、、、?」


彼はマイクのスイッチを切ろうとした。しかし、その手は白く冷たい手によって止められた。


マヒロ「待ってよー☆

最後にマヒロのぎゅーしながらふーふーしてあげる、、、☆」


若林「えっ? うわあっ!?」


マヒロが背後から、若林に「ぎゅー」っと抱きついた。

その瞬間、若林の背筋に走ったのは、愛の温もりではない。

**『極寒のミントフラッペスノー』**の、致死的な冷却効果だった。


マヒロの身体からは、清涼感のあるミントと、甘い練乳のような香りが立ち上り、実況席があっという間にパステルグリーンの霧に包まれていく。


若林「さ、寒いッ!? マヒロさん!?

身体が……凍る……ッ!!」


マヒロ「動かないでね〜☆

若林さんの熱い実況を、クールダウンしてあげるから♡

いくよ〜? いーち♡」


**【1回目のふーふー】**

マヒロは若林の**右耳**に唇を寄せ、そっと息を吹きかけた。

「ふぅぅぅ……っ♡」

その吐息は、まるでドライアイスの煙のように白く、濃厚なペパーミントの香りを纏っていた。

若林の右耳が一瞬で霜に覆われ、鼓膜の奥まで鋭い冷気が貫通する。


マヒロ「にぃ〜♡」


**【2回目のふーふー】**

次は**左耳**。

「ふぅーっ……ふっ♡」

今度は短く、しかし濃密に。

甘いシロップを含んだような重たい冷気が、若林の平衡感覚を奪い、脳内を「キーン!」と強制的に冷却する。

若林の視界が、急速にパステルグリーンに染まり始めた。


マヒロ「さ〜ん♡」


**【3回目のふーふー】**

マヒロは若林の**首筋(うなじ)**に、氷のような指を這わせながら吹きかけた。

「ん〜……ふぅぅぅぅぅ……☆」

脊髄に直接流し込まれる絶対零度のミント流体。

若林の喉からは「ガチガチガチ……」という歯の根が合わない音しか出なくなる。

彼の肌は既に人間色を失い、美しい緑色へと変色していた。


マヒロ「最後だよ〜?

とびっきりの……よ〜んっ!!!♡」


**【4回目のふーふー】**

マヒロは正面に回り込み、若林の顔面至近距離から、肺の中の冷気を全て吐き出すように吹きかけた。

**「ふぅーーーーーーーーーーっ!!!!☆」**


視界を埋め尽くすダイヤモンドダストと、圧倒的なミントの嵐。

若林の悲鳴すら凍りつき、空間そのものが「パステルグリーンの氷塊」へと固定された。


……数秒後。

霧が晴れた実況席には、一人の男はいなかった。

代わりに、美しく輝く**「パステルグリーンのミントアイス像(元・若林)」**が、マイクに向かったままカチコチに固まっていた。


マヒロ「わぁ〜☆ 綺麗な色〜!

これにて、米沢グランプリ、本当に閉幕で〜す!

みんな、まったね〜☆ バイバ〜イ!!」


マヒロはミントアイスになった若林の頭をポンポンと叩きながら、カメラに向かって満面のアイドルスマイルで手を振った。


順位 | ドライバー | 搭乗車種 | 状況

-------------------------------------------------------------------------------------------

01 | フリス | ポルシェ 718 ケイマン GT4 | WINNER! 【絶対王者】

02 | 高橋 勇太 | ホンダ NSX (NC1) | +0.354 【狂気の銀賞】

03 | 腹切 カナタ | REVIVE 86 TURBO (赤) | +0.412 【不屈の銅賞】

04 | 山吹 花 | スバル WRX STI (青) | +0.892 【桜狼の猛追】

05 | 伊藤 翔太 | スズキ スイフトスポーツ ZC33S (黄) | +1.522 【大金星】

06 | セシル | ランボルギーニ・ウラカン (白) | +1.888 【氷解】

07 | ゾフィア | シボレー コルベット C7 (赤) | +6.900 【剛腕】

08 | 伊藤 乎太郎 | パガーニ・ウアイラ (黒) | +7.112 【風神】

09 | 北斗 | メルセデス AMG GTR (緑) | +7.255 【敗北】

10 | 古賀 加奈子 | BMW M5 G90 | +8.550 【先生の威圧】

11 | イヨ | トヨタ GRスープラ (白) | +8.750 【逆転】

12 | フェルリア | ホンダ シビック TYPE R (FD2) | +8.880 【惜敗】

13 | 夢野 ユナ | トヨタ GR86 | +12.110 【滑り込み】

14 | 田中 英二 | マツダ RX-7 FD3S | +12.330 【技アリ】

15 | クレア | 日産 GT-R R35 デビルカラー | +12.450 【滑り込み】

-------------------【ここから賞金圏外(ノーマネー)】-------------------

16 | 森下 遊矢 | マツダ RX-8 (787B Swap) | +13.880 【罵倒】

17 | 黒川 海斗 | ランエボX Final Edition (黒) | +15.200 【憤慨】(※後にハリセン)

18 | 久我 ヒカル | レクサス RCF | +16.500 【決意】

19 | 柳津 カリン | フェラーリ Roma | +17.200 【孤独】

20 | 岡田 大成 | トヨタ GRヤリス | +18.000 【喪失】

21 | 古田 のりあき | トヨタ MR-S (K24A Swap) | +18.880 【職人】

22 | クリスタ・ニールセン | フェラーリ 488 GTS (赤) | +20.100 【転落】

23 | 陽太 | マツダ ロードスター (ND) | +22.500 【癒し】

24 | 天羽 シオン | 日産 スカイラインGT-R R34 (白) | +25.000 【苦戦】(重さに泣く!)

25 | 高村 圭吾 | 日産 フェアレディZ Z33 | +26.800 【苦戦】

26 | 藤堂 セイジ | マクラーレン 650S | +30.000 【宝の持ち腐れ】

-------------------------------------------------------------------------------------------

【リタイヤ】

相川律 (R35 GTR NISMO) / 坂田五郎丸 (ブガッティ・シロン)

シラヌイ (LEXUS LFA) / 柳津雄介 (BMW M4 DTM)

フブキ (ロータス エミーラ) / 川村修一 (SUZUKI ケイワークス)

神代ナツメ (BRZ) ...他多数

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