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86伝説エーペックス  作者: SAI
米沢編
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457/535

米沢編第67話 レース収めの会食

K404

フブキによる「放送禁止用語の凍結処理」が完了し、なんとか平和を取り戻したステージ。

ビショビショになったドライバーたちの熱気を、早川がさらに煽る。


早川「さあ! 続いては!!! 皆さんでパーティをしましょう!!!!!」


ステージの照明が落ち、代わりにリナワールドのエントランス方向へ、煌びやかなイルミネーションが点灯した。

夜の遊園地。

幻想的な光の回廊が、戦い疲れた戦士たちを迎え入れる。


早川「メイン実況の若林さんと、ゲスト解説員のマヒロさんも到着してきました!!!!」


スポットライトが、ステージ脇の通路を照らす。

そこには、長時間の実況で喉を枯らした若林と、最後まで涼しい顔で毒を吐き続けたマヒロの姿があった。


早川「この夜のリナワールドのエントランスで、熱いパーティをしましょう!!!」


マヒロ「わぁ〜☆ イルミネーション綺麗だね〜!!

……って、うわっ」


マヒロはステージ上の惨状(炭酸水と、ゾフィアやセリナが撒き散らした液体)を見て、一瞬だけ顔をしかめた。

だが、すぐに「営業用スマイル」を貼り付け、カナタたちに手を振った。


マヒロ「みんなお疲れ様〜☆

すっごいビショビショだね〜!

まるで水没車みたいで可愛いよ〜☆」


若林「マ、マヒロさん……? 褒めてるんですよね?

『水没車』って廃車確定じゃないですか……?」


マヒロ「えへへ☆ もちろんだよ若林さん!

さあさあ、汚い……あ、じゃなくて、頑張った体は美味しいご飯で癒やそうね〜!

山形牛が待ってるよ〜!!」


若林「(あ、今『汚い』って言った……絶対言った……)

は、はい! そうですね!!

さあ選手の皆さん、風邪を引く前に着替えて、エントランスの特設会場へ移動しましょう!!」


こうして、フリスを先頭に、勇太、カナタ、花、そして問題児軍団(セリナ・ゾフィア・クリスタなど)は、夜の遊園地のゲートをくぐった。

レースの余韻と、炭酸の匂い。

そしてマヒロの甘い毒舌と共に、米沢グランプリ最後の宴が幕を開ける。


高橋勇太が米沢牛と芋煮で野生を爆発させ、花が絶叫しているカオスな屋台エリア。

その喧騒から少し離れた「たこ焼き屋台」の前に、黒いパーカーを着た少年、伊藤乎太郎の姿があった。


伊藤 乎太郎「わぁ〜、日本のたこ焼きだ!

海外にいたから久しぶりだな〜。

ソースの匂いがたまらないね!」


彼はウアイラのステアリングを握る繊細な指先で、舟皿に入った熱々のたこ焼きを一つ持ち上げた。

かつお節がゆらゆらと踊っている。


伊藤 乎太郎「たこ焼きいただきまーす☆」


パクッ。


彼は躊躇なく、焼きたての一玉を口の中に放り込んだ。

その瞬間。


伊藤 乎太郎「……!!?

ふぐっ……!! はふっ、はふっ!!

あつっ……これ、タイヤウォーマーより熱いよ……!!」


口の中で炸裂するトロトロの生地と、灼熱のタコ。

天才ドライバーも、屋台の火力(ヒート)には勝てなかったようだ。

彼は口元を手で仰ぎながら、涙目になってモグモグしている。


伊藤 翔太「おいコタロー!! 大丈夫か!?

お前、猫舌なんだから無理すんなって言っただろ!!

水! 水あるか!?」


兄の翔太が、スイスポの挙動のように機敏な動きで駆け寄り、弟にペットボトルの水を差し出した。


伊藤 乎太郎「んぐっ……ぷはぁ。

ありがと兄さん。

でも……美味しいねこれ!

外はカリカリで中はトロトロ……まるで最適なサスペンションセッティングだね☆」


伊藤 翔太「食い物の感想まで車かよ……。

まったく、数億円の車転がす奴が、たこ焼きで泣いてんじゃねーよ」


翔太は呆れつつも、弟の口元についた青のりを指で取ってやった。


喧騒の屋台エリアの片隅。

そこだけ、時間がゆっくりと流れているような、不思議な空間があった。

絶対王者、フリス。

彼女は一人、優雅にテーブルにつき、目の前に積み上げられた「山」と対峙していた。


それは、米沢牛でも芋煮でもない。

リナワールドの売店から調達してきたと思われる、大量のスイーツの山だった。

クレープ、チュロス、ソフトクリーム、そして顔よりも巨大なわたあめ。


フリス「…………」


彼女は無言だった。

だが、その手は目にも止まらぬ速さで、しかし音もなく動いていた。


パクッ……スッ……モグ……。


フリス「とても繊細に静かに、、、

コットンキャンディのオーラをかすかに出しながらお菓子を食べる、、、大量の」


通常なら口の周りを汚しそうなクリームたっぷりのクレープも、彼女にかかれば「消滅」したかのように綺麗になくなっていく。

ポルシェの PDK(デュアルクラッチトランスミッション)のような、電光石火かつ継ぎ目のない捕食。


そして、彼女の背後には、幻覚か現実か……

ふわふわとしたピンク色の**「コットンキャンディのオーラ」**が立ち上っていた。

威厳ある王者の覇気が、糖分によって極限まで「甘く」「メルヘン」に中和されているのだ。


腹切 カナタ「えっ……? フリスさん……?

それ、全部一人で食べるんですか……?」


通りがかったカナタが、その量と、漂う甘いオーラに圧倒されて声をかけた。

フリスは、フォークに刺した巨大なイチゴを口に運びながら、涼しい顔で答えた。


フリス「……何か問題か? 86使い。

脳の回転には糖分が不可欠だ。

我の演算速度を維持するためには、これだけのカロリーが必要なのだ」


腹切 カナタ「いや、それにしても量が……

ていうか、なんかフリスさんの後ろに、可愛いオーラが見えるんですけど……」


フリス「ふん。気のせいだ。

我は常に冷徹で完璧な王者。

……んっ、この『山形さくらんぼソフト』、悪くないな。

酸味と甘味のバランスが、GT4のウェイトバランスのように絶妙だ……」


フリスは真顔で食レポを呟きながら、次なるターゲット「ジャンボパフェ」へとスプーンを伸ばした。

その姿からは、レース中の鬼気迫るオーラは消え失せ、ただの「スイーツを愛しすぎる美少女」としての顔が覗いていた。


山のようなスイーツを優雅に、かつ猛スピードで平らげたフリス。

彼女はナプキンで口元を上品に拭うと、満足そうに吐息を漏らした。


フリス「ふぅ……。

糖分充填完了。これで思考回路も正常に戻った」


彼女は椅子から立ち上がり、呆然と見ていたカナタの目の前に立った。

その瞳は、レース中の鋭い眼光ではなく、どこか少し潤んだような、甘い光を宿していた。


腹切 カナタ「あ、あの……フリスさん?

食べすぎじゃ……」


フリス「……カナタ」


彼女はカナタの言葉を遮り、一歩踏み出した。

そして、予告もなく、その華奢な身体をカナタに預けた。


フリスが腹切カナタにぎゅ、、、と抱きついた。


腹切 カナタ「えっ!? うわっ!?」


心臓が跳ね上がるのと同時に、カナタの全身を不思議な感覚が襲った。

ちとせの「重く湿った氷雪」とは違う。

フリスのそれは、空気を含んだ綿菓子のように軽く、しかし芯まで凍りつくほど鋭い冷気だった。


フリスの極寒のコットンアイススノーの感触が一瞬腹切カナタに、、、、


**【フワッ……キーンッ……】**


まるでドライアイスの煙で作った綿飴に包まれたような感触。

触れた瞬間は柔らかく甘い香りがするのに、皮膚の奥底が一瞬で「極寒」に麻痺する。

冷たい。でも、嫌な冷たさじゃない。

高貴で、清潔で、どこか儚い「氷の羽衣」を纏ったような抱擁。


フリス「……悪くなかったぞ。

貴様の『泥臭い走り』もな」


耳元で囁かれたその言葉と共に、フリスはパッと体を離した。

抱擁はほんの一瞬。

しかし、カナタの胸には、強烈な冷気の残滓(残り香)と、甘いスイーツの香りが刻み込まれていた。


腹切 カナタ「……っ!!

つ、冷たっ……! でも……なんか……いい匂い……?」


フリス「ふふっ。勘違いするなよ。

これは王からの『褒美』だ。

精々、次も我を楽しませてくれ」


フリスは悪戯っぽく微笑むと、踵を返してスタスタと去っていった。

王者の気まぐれすぎるスキンシップに、カナタは再び赤面し、その場に立ち尽くすしかなかった。


カオスなメンバーたちがそれぞれの方法で(あるいは暴走して)パーティを楽しむ中。

山吹花は、屋台エリアの一角で、ある「のぼり」を見つけて目を輝かせた。


山吹 花「うわあー!! 山形名物 鳥中華なんてあるよ!!

伊藤くん!! 見て見て!!」


花が指差した先には、黄金色のスープから湯気が立ち上る、ラーメンのような、でも蕎麦つゆのような、不思議な香りを漂わせる屋台があった。

『鳥中華』。

蕎麦屋の出汁に中華麺を入れ、鶏肉と天かすを乗せた、山形県民が愛してやまないソウルフードだ。


伊藤 翔太「おっ、マジか!

さっきの勇太のステーキ爆食い見てたら腹減ってきてたんだよな。

シメに丁度いいじゃん!」


翔太も、先ほど弟の乎太郎に「たこ焼き」を食べさせた後で、自分も何か温かいものが食べたくなっていたところだった。

二人は顔を見合わせて頷いた。


伊藤 翔太「少し食べてみるか!」

山吹 花「うん! 半分こしよっか!

……あ、いや、一人一杯いけるかも!」


花は先ほどまでの「ツッコミ疲れ」を癒やすように、満面の笑みで屋台の暖簾をくぐった。

さっきまで「ラブストーリー期待してるよ」なんて冷やかされていた二人だが、美味しいものを前にすれば、そんな気まずさも吹き飛んでしまう。

それが「食」の力であり、二人の絆の深さだった。


店主「へいお待ち! 鳥中華二丁!」


差し出された丼からは、あっさりとした和風だしの香りと、揚げ玉のコクのある匂いがふわりと漂う。

戦いの後の疲れた体に、一番染み渡る優しさだった。


リナワールドの夜風は少し肌寒かったが、二人の手元にある丼からは、湯気と共に幸せな香りが立ち上っていた。

透き通った醤油ベースの和風だしに、黄色い中華麺。

その上には、鶏肉と揚げ玉、刻み海苔が乗っている。


「いただきます」


山吹 花と伊藤 翔太は、揃って手を合わせると、レンゲでスープをすくった。

黄金色に輝く液体が、ゆっくりと口の中へと運ばれる。


ズズッ……。


山吹 花「はぁぁぁ……。

染みるぅぅ……」


花は一口飲んだ瞬間、ほうっと長い息を吐いた。

蕎麦屋の出汁特有の甘じょっぱさと、鶏肉から溶け出したコクのある脂。

それが絶妙なバランスで混ざり合い、レースで張り詰めていた神経を、優しく解きほぐしていく。


山吹 花「これだよこれ……。

さっきまでのカオス(主に勇太とセリナとフリス)で疲れた心が、浄化されていく感じ……」


伊藤 翔太「んぐっ……ああ、美味いな。

なんていうか、派手さはないけど『帰ってきた』って感じがする味だ」


翔太もまた、目を細めてスープの余韻を楽しんだ。

ちとせに凍らされたり、セリナに呆れたり、弟に煽られたりと散々な夜だったが、この温かい一杯が全てを帳消しにしてくれるようだった。


伊藤 翔太「揚げ玉がまたいい仕事してるんだよな。

スープを吸って、トロトロになって……」


山吹 花「そうそう! 麺も中華麺だけど、スープが和風だからスルスル入っちゃうの。

……ねえ、伊藤くん」


花はレンゲを置き、ふと真面目な顔で翔太を見た。


伊藤 翔太「ん? どうした?」


山吹 花「……次は、勝とうね。

フリスにも、高橋くんにも。

この美味しい鳥中華パワーで!」


花はニカっと笑い、箸で鶏肉をつまんだ。


伊藤 翔太「おうよ!

俺たちのスイスポとWRXなら、次はもっと上に行けるさ。

……とりあえず、今は替え玉したいくらいだけどな!」


二人は顔を見合わせて笑い合い、再び温かい麺をすすった。

米沢の夜空の下、湯気の向こう側には、確かな信頼と、明日への希望が見えていた。


伊藤翔太と山吹花が、鳥中華の優しい出汁に癒やされていると、隣の席に静かな影が落ちた。

数億円の車が並ぶこの会場で、ひときわ優雅で、しかしどこか寂しげなオーラを纏った少女。


その伊藤の隣の席。


柳津 カリン「どうも、、、」


消え入りそうな声で、彼女はぺこりと頭を下げた。

手には、少し場違いなほど上品なハンカチを持っている。


伊藤 翔太「あれ? 確かRomaの、、

フェラーリに乗ってた子だよね?」


翔太は箸を止めて、記憶の糸をたぐり寄せた。

レース中、後方から静かに、しかし鋭く追い上げてきていた「孤独」な走りのフェラーリ・ローマ。


柳津 カリン「カリンです、、、

兄である柳津雄介の妹です......っ」


カリンは俯き加減に自己紹介をした。

「柳津(やなづ)」という名字を聞いて、山吹花がレンゲをピタリと止めた。


山吹 花「あー? 柳津って……

さっき温泉のためにリタイヤしてたM4ね?」


花の指摘は、相変わらず手加減がなかった。

レース中盤、温泉街のセクションで謎の失速をしてリタイヤしたBMW M4。

そのドライバーが彼女の兄だというのだ。


柳津 雄介「それは失礼だろ、、、」


カリンの背後から、少しムッとした声が飛んできた。

BMW M4を駆る兄、柳津雄介だ。

彼は腕を組み、不服そうに花を見下ろした。


柳津 雄介「俺は温泉に入りたくてリタイヤしたわけじゃない。

マシンの熱ダレだよ、熱ダレ!

M4のS58エンジンが悲鳴を上げてだな……

たまたま止まった場所が温泉街の目の前だっただけだ!」


山吹 花「ふーん。

でも、リタイヤした直後に『あー、いい湯だな〜』みたいな顔してタオル持ってたって、実況で言われてたよ?」


柳津 雄介「ぐっ……!

そ、それは汗を拭くためだ! 勘違いするな!」


柳津 カリン「兄さん……恥ずかしいからやめて……。

……ごめんなさい、騒がしくして……」


カリンは顔を赤くして、さらに身を小さくした。

どうやらこの兄妹、しっかり者の妹と、少し抜けてる兄という構成のようだ。


鳥中華の優しい出汁でホッとしたのも束の間。

15歳の天才・伊藤乎太郎の嗅覚が、新たな「ソースの匂い」を捉えた。


伊藤 乎太郎「お! 焼きそば食べに行こうぜ、、、!」


彼はウアイラの鍵をポケットに突っ込み、数億円の車に乗るオーナーとは思えない軽さで、鉄板でジュージューと焼かれる焼きそば屋台を指差した。


古賀 加奈子「いいね! 私も!!」


そこに、BMW M5を駆る「先生」こと古賀加奈子が、いつの間にか背後に立っていた。

彼女もまた、レースの激闘でカロリーを消費しきっていたのか、焼きそばの香ばしい匂いに目を輝かせている。

教師としての威厳はどこへやら、今はただの「腹ペコな美人」だ。


伊藤 翔太「おい待て!! 焼きそばなら食べたいな俺も!!」


弟と先生が動き出したのを見て、伊藤翔太が慌てて立ち上がった。

鳥中華を食べたばかりだが、「焼きそば」という単語を聞いた瞬間、彼の胃袋に別腹が生成されたようだ。

スイスポ乗りの加速力は、食欲にも適用されるらしい。


山吹 花「なら、私もいくねー!!」


花も負けじと手を挙げた。

伊藤くんが行くなら私も行く。それに、お祭りごとの屋台メシは全制覇するのが礼儀だ。


こうして、鳥中華の余韻もそこそこに、スイスポ、WRX、ウアイラ、M5という多種多様なマシンのドライバーたちが、一斉に焼きそば屋台へと雪崩れ込んだ。

米沢の夜は、まだまだ終わらない。

炭水化物の宴は、ここからが本番だった。


「へいらっしゃい! 特製ソース焼きそば、大盛り一丁!!」


屋台のおやじさんの威勢のいい声と共に、熱々の鉄板から香ばしいソースの匂いが爆発した。

ジュウウウウウウッ……!!

焦げたソースと、豚肉の脂が混ざり合う、暴力的なまでに食欲をそそる香り。


古賀 加奈子「ん〜っ! この香りよ!

M5のV8ツインターボもいいけど、このソースの焼ける匂いは格別ね!」


加奈子先生は、BMW M5のキーをポケットにしまい、割り箸をパチンと割った。

彼女の目の前には、山のように盛られた「特盛り焼きそば」が鎮座している。


古賀 加奈子「いただきまーす!!」


ズズズッ!! ハフハフッ!!


先生は上品な見た目とは裏腹に、豪快に麺をすすり上げた。

濃厚なソースが絡みついた太麺が、彼女の口の中へと吸い込まれていく。


伊藤 翔太「うおっ、先生はえぇ!?

負けてらんねぇ! 俺もいくぜ!!」


翔太も負けじと、スイスポのクイックなハンドリングのような手さばきで麺を口に運ぶ。

鳥中華を食べた直後だというのに、その吸引力は衰えることを知らない。


伊藤 翔太「美味ぇッ!!

やっぱ祭りの焼きそばは最高だわ!

この少し焦げたキャベツがたまんねぇ!!」


山吹 花「紅生姜もいいアクセントだよね!

鳥中華があっさり系だったから、ソースの濃さがガツンと来る〜!!」


花も口の周りに少しソースをつけながら、幸せそうに頬張った。

炭水化物 to 炭水化物。

カロリー計算など、この瞬間は無粋なことだった。


伊藤 乎太郎「ふー、ふー……」


一方、15歳の天才・乎太郎だけは、たこ焼きの失敗(火傷)を教訓に、慎重に麺を冷ましていた。


伊藤 乎太郎「……よし、今だ! パクッ」


彼は適温になった焼きそばを一口食べると、パッと顔を輝かせた。


伊藤 乎太郎「んん〜っ! ジャンキーで美味しい!

イタリアのパスタもいいけど、日本の『YAKISOBA』も捨てがたいね☆

青のりの風味が、ウアイラのカーボンボディみたいに奥深いよ!」


伊藤 翔太「だから例えが全部車なんだよお前は!

……ほら、水。詰まらせんなよ」


翔太は焼きそばをモグモグさせながら、弟に水を差し出した。

高級車を乗り回すドライバーたちが、プラスチックのパックに入った数百円の焼きそばを囲んで笑い合う。

米沢の夜は、ソースの香りと共に更けていった。


「熱っ……! はふっ、はふっ……」


翔太たちが勢いよく焼きそばを啜るその隣で、小さな身体を縮こまらせている少女がいた。

セシルだ。

彼女は、まるで吹雪の中にいるかのように小刻みに震えていた。


セシル「うぅ……寒い……。

自分の息が……冷たすぎる……」


彼女の口から漏れる吐息は、ダイヤモンドダストのようにキラキラと輝き、周囲の空気を凍らせていた。

常にマイナスの冷気を纏う体質。

夏場なら最強のクーラーだが、今はただの「自爆」だった。


セシル「でも……この焼きそばは……温かい……」


彼女は、プラスチックの容器を両手で大事そうに包み込んでいた。

指先から伝わるソース焼きそばの熱が、冷え切った彼女の唯一の救いだった。


パクッ……。


震える手で、温かい麺を口に運ぶ。


セシル「ん……っ。

……おいひい……」


口の中で広がるソースの熱と、自身の冷気がぶつかり合い、一瞬で「適温」になる。

しかし、飲み込んだそばから身体の芯が冷えていくため、彼女はまたすぐに次の一口を求めた。


セシル「あったまる……。

生き返る……」


彼女は涙目で焼きそばをモグモグと動かし続けた。

その姿は、雪山で遭難した登山者が焚き火に当たっているようでもあり、あるいは小動物が必死に木の実を頬張っているようでもあった。


自身の冷たい息に震えながら、温かい焼きそばに縋るセシル。

その矛盾した姿は、米沢の夜に咲いた、儚くも可愛らしい一輪の氷の華だった。


翔太と花が、焼きそばを完食し、満足げに腹をさすっていた時だった。

ふと、翔太が隣のベンチで小さくなっている「雪だるま」のような存在に気づいた。


そこに、、、、


伊藤 翔太「あれ? なにそのちっこいの?」


翔太は悪気なく、見たままの感想を口にした。

彼の視線の先には、焼きそばの容器を抱えてプルプルと震えている、小学生……いや、幼稚園児くらいに見える少女がいた。


山吹 花「うわ! 小さ、、、!

えっ、何センチ? 120センチぐらい?」


花もまた、驚きを隠せず目を丸くした。

レーシングスーツを着ているからドライバーなのだろうが、あまりにもサイズ感が可愛らしすぎる。


その「ちっこい」「小さい」という単語が、寒さで縮こまっていた少女の逆鱗(コンプレックス)に触れた。


ピキキキーンッ……!


少女の背後で、何かが凍りつく音がした。

彼女のスカートの裾から、透き通るような青白い氷の結晶で覆われた、小さな「竜のしっぽ」がバッと姿を現し、怒りで逆立ったのだ。


セシル「――っ!?

ち、ちっこくなんかないです、、、!」


セシルはガバッと顔を上げ、二人を睨みつけた。

寒さと怒り、そして恥ずかしさで、白い頬が林檎のように真っ赤に染まっている。

目尻には少し涙が浮かんでいた。


セシル「レディに向かって失礼な!

私は成長期なだけです! これから伸びる予定なんです!

……たぶん!」


彼女はフンスと鼻息を荒くし(その息も凍っているが)、小さな胸を張った。

氷のしっぽが、犬のようにブンブンと激しく振られ、周囲に冷気を撒き散らしている。


セシル「セシルって言うんです!!!

覚えておきなさいよね、この無礼者たち!」


精一杯の虚勢を張るその姿は、まるで威嚇する子猫(しかも氷属性の竜)のよう。

ツンツンしているが、その小ささと必死さが相まって、可愛らしさしか感じられないのだった。


伊藤 翔太「あ、はい。すみませんセシルさん……(何この生き物、めっちゃ可愛いんだけど)」

山吹 花「ごめんごめん! あまりに可愛いからつい……(やばい、連れて帰りたい)」


二人は顔を見合わせ、セシルのあまりの愛らしさに、同時に撃沈した。


勇太の爆食、先生の焼きそば、セシルの震え……。

カオスな屋台エリアに、また一人、戦場から生還(?)した男がフラフラと、しかし幸せそうに現れた。

坂田五郎丸だ。


彼はレース後、謎の精神攻撃(色仕掛け?)を食らって轟沈していたはずだが、今はなぜか満面の笑みで焼きそばとフランクフルトを両手に持っていた。


※米沢編第59話参照


坂田 五郎丸「あー、、、結局あのゲームで『うっふーん♡』でゲームオーバーになった後戻ったらこんなに美味しいものが☆」


彼の脳裏には、自分をリタイヤに追い込んだ「うっふーん♡」という悩殺ボイスと、視界を埋め尽くしたピンク色のハートマークが焼き付いていた。

普通のレーサーならトラウマになりそうな敗北だが、五郎丸にとっては「ご褒美」だったのかもしれない。


パクッ。


坂田 五郎丸「あ、うま♡」


彼は悔しがる素振りなど微塵も見せず、口の周りをソースだらけにして、極太のフランクフルトにかぶりついた。

肉汁がジュワッと溢れ出す。


坂田 五郎丸「ん〜っ! たまんねぇ〜!

負けても腹は減るし、むしろあの『うっふーん』のおかげで、並ばずに一番いいタイミングで屋台に来れたからラッキーかも☆

レースはリタイヤしたけど、人生は優勝だね!」


彼は、勝負の厳しさよりも食欲と性癖(?)を優先する、ある意味で誰よりもタフなメンタルを持つ男だった。

その能天気な笑顔は、米沢の夜に平和(?)な空気を振りまいていた。

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