米沢編第65話 最終車検
K402
レース後の車検場。
激闘の熱が冷めやらぬ中、運営スタッフがクリップボードを片手にカナタに歩み寄った。
運営スタッフ「腹切カナタ....さん?」
腹切 カナタ「はい、、、」
カナタは緊張した面持ちで返事をした。
REVIVE 86は急造のターボ仕様。レギュレーション違反を疑われてもおかしくない改造車だ。
運営スタッフ「最終車検終わりました。
……問題なし、パスです。
3位でしたね。おめでとうございます。
この後、特設会場で閉会式やパーティがあります。ぜひ、来てください」
腹切 カナタ「はぁ……よかった……。
ありがとうございます。顔、出しますね」
カナタはその場に座り込みそうになるほど安堵した。
しかし、その安らぎは、とんでもない爆音によって切り裂かれた。
フォンッ! フォオオオオオンッ!!!!!
鼓膜を震わせるV10エンジンの高周波サウンド。
車検場の入り口に、目が痛くなるほど鮮やかな「レモンイエロー」のスーパーカーが滑り込んできた。
アウディ R8 V10 plus。
そこに!!!
見覚えのあるレモン色のR8が、、、、
ガルウィング(※R8は通常ドアだが、改造か演出で跳ね上がったかもしれない!)が開き、派手なファッションの女性が飛び出してきた。
内藤 セリナ「じゃじゃーん☆ 内藤だよ〜!!
久しぶり〜☆☆☆☆
みんな、生きてる〜? 元気〜? レース楽しかった〜??」
場違いなほど明るい声。
内藤セリナ。
その姿を見た瞬間、近くにいた山吹花の表情が、レース中よりも険しくなった。
山吹 花「内藤セリナ......」
花は知っていた。
このふざけた言動の裏にある、彼女の実力を。
そして、彼女がここに現れたという意味を。
内藤 セリナ「あれあれ〜? 花ちゃんじゃん!
顔こわーい☆ 眉間のシワ増えちゃうよ〜?
カナタくんも久しぶり〜! 3位おめでと!
でも……『内藤』がいなかったからラッキーだったね〜☆」
セリナは悪びれもなく、カナタの86のボンネットをポンポンと叩いた。
その時、R8の甲高い音とは対照的な、腹の底に響くようなドロドロとした重低音が車検場を震わせた。
アメリカン・マッスルの頂点。8.4リッターV10エンジンを搭載した「怪物」。
真っ赤なダッジ・バイパーSRT10が、セリナのR8の隣に傲然と停まった。
そこに洒落た青年も来た、、、、、
赤いチェック柄の服を着こなし、サングラスを外しながら降りてきたのは、高槻健永だった。
高槻 健永「よお、ボロクズ。」
開口一番、カナタへの挨拶は侮蔑の言葉だった。
山吹 花「出た! 高槻ッ!
あんた、まだそんな口の利き方してるの!?」
花が噛みつきそうな勢いで睨むが、高槻は涼しい顔で受け流し、カナタの86へと歩み寄った。
高槻 健永「まぁ...86ターボにしたんだって? REVIVE86......?」
彼は値踏みするように、無理やり押し込まれたタービンとインタークーラーを見下ろした。
腹切 カナタ「そうだけど、、、」
高槻 健永「フン。
……まだまだボロクズだな......?」
カナタ「なっ……!」
高槻は鼻で笑うと、パチンと指を鳴らした。
すると、バイパーの助手席と、いつの間にか後ろに停まっていた取り巻きの車から、着飾った女性が2人駆け寄ってきた。
女性A「見てみてあの格好、、、あの車、、、
煤だらけで汚ーい」
女性B「高槻様の赤いドラゴンバイパーがかっこいいに決まってるじゃない、、、、、
あんなツギハギの車、貧乏くさくてイヤよね〜♡」
高槻の両脇を固める美女たちが、クスクスと笑いながらカナタと花を見下す。
その光景を見た瞬間、山吹花の堪忍袋の緒が、音を立ててブチ切れた。
山吹 花「また女連れてくんなアアアア!!!!
ここはレース場だぞッ!! 合コン会場じゃないんだよこのバカスカトリオォォォッ!!!!」
花の怒号が、米沢の空に木霊した。
花が高槻たちに怒鳴り散らし、場がカオス極まる中。
突如として、車検場の気温が急激に下がった。
アスファルトが白く染まり、空気中の水分がキラキラとダイヤモンドダストに変わる。
そこに!!!
蒼色のロングヘアに、もふもふの帽子と萌え袖。
見た目はどこからどう見ても可愛らしい女子高生が、ふわふわと現れた。
ちとせ、タメ口で!!
ちとせ「あらら〜? 騒がしいねぇ〜。
あ、いたいた! カナタく〜ん♪」
ちとせはイヨの母親とは思えないほど若々しい(というか幼い)見た目で、ぺたぺたとカナタに歩み寄る。
そして、高槻やセリナを完全に無視して、カナタの顔を覗き込んだ。
腹切 カナタ「えっ……ち、ちとせさん!?
なんでここに……うわっ、寒っ!!」
ちとせ「んふふ〜。3位だったんでしょ〜?
すごいじゃ〜ん。頑張ったねぇ〜♪
カナタく〜ん♪ おめでと〜....」
ちとせは萌え袖で口元を隠し、悪戯っぽく目を細めた。
その瞳の奥にあるブルーグレーの光が、怪しく輝く。
ちとせ「お礼に.....
アタシの『特製ご褒美』、あげるねっ♡」
腹切 カナタ「えっ? ご褒美……?」
ちとせの口からカナタに極寒の息が、、、
ちとせ「ふーーーーっ♡」
ヒュオオオオオオオオオオッ…………パキキキキキッ!!!!!
それは吐息なんて生易しいものではなかった。
マイナス数百度の冷気が、至近距離からカナタの顔面を直撃した。
レースで火照ったカナタの体が、一瞬にして冷却……いや、凍結されていく。
腹切 カナタ「!!!????
つ、つめっ……痛っ……!?
こ、凍る……息ができな……ガチガチガチッ!!!」
一瞬にして、カナタの眉毛や前髪が霜で真っ白になり、顔面が薄い氷の膜で覆われた。
まさに瞬間冷凍。
ちとせ「キャハッ☆ カナタくん、かき氷みたいで美味しそ〜♪
これでクールダウンできたでしょ〜?
感謝してね、もへ〜......♪」
高槻 健永「な……なんだこの女……!?
バイパーのボンネットが凍ってやがる……ッ!?」
チャラついていた高槻すらも、本能的な恐怖に一歩後ずさりした。
ちとせ「んふふ〜、顔が白くなって可愛いねぇ〜。
頑張ったカナタくんには、さらに……」
ちとせは凍りついたカナタの前で、その小柄な体を広げた。
萌え袖の腕が、ふわりと持ち上がる。
ちとせ「ぎゅーもしてあげるね......いい?♡」
腹切 カナタ「えっ、ちょ、ちとせさ……これ以上は死ん……!!」
カナタの拒否権など最初から存在しなかった。
ちとせは、氷像になりかけのカナタの胸に、ふわっと飛び込んだ。
むぎゅっ♡
その瞬間、カナタを包み込んだのは、ミルキークイーンのような弾力のある不思議な質感ではない。
**純粋な、あまりにも純粋な「氷と雪」の結晶。**
それも、最高級のパウダースノーを固めたような、極上の感触だった。
**【もふもふ】**
彼女が纏う帽子や服、そして彼女自身のオーラが、羽毛布団よりも柔らかくカナタを包み込む。
**【もちもち】**
そして頬ずりしてくる彼女の肌は、つきたての雪見だいふくのように、吸い付くほど柔らかくて「もちもち」としていた。
腹切 カナタ(うわぁ……すっげぇ柔らかい……もふもふだ……
もちもちしてて……甘い匂いがして……最高だ…………でも……)
パキパキパキパキパキーンッ!!!!!
至福の柔らかさと同時に、カナタの体の芯までが「カチンコチン」に凍結した。
柔らかいのに、硬い。温かそうなのに、絶対零度。
その矛盾する感覚が、カナタの意識を彼方へと飛ばしていく。
ちとせ「ん〜っ♡ ひんやりしてて気持ちいいねぇ〜♪
カナタくんも、おじさんの氷雪で癒やされてね〜……もへ〜……♡」
山吹 花「ちょっ……!? カナタ!? カナタが青白くなってる!!
離れて!! 離れてよちとせさん!! カナタが死んじゃう!!!」
高槻 健永「おい……マジかよ……。
あいつ、ハグされただけで睫毛まで凍ってやがる……。
なんだあの女……人間じゃねぇ……!!」
高槻の取り巻きの女性たちも、悲鳴を上げてバイパーの陰に隠れた。
純粋無垢な氷の魔女が、米沢のパドックを恐怖(と一部のご褒美)で支配していた。
ちとせ「んふふ〜、カナタくんカッチコチだねぇ〜♡
永久保存版にしたいくらい可愛い〜」
ちとせが凍りついたカナタを愛でていると、横からレモン色の影が割り込んできた。
内藤セリナだ。
彼女はR8のトランク(※R8はフロントトランク)から、どこに積んでいたのか分からないほど巨大なピコピコハンマー(に見えて実は硬質プラスチック製の凶器)を取り出した。
内藤 セリナ「あーあ、カチンコチンじゃん!
でも大丈夫☆ 私に任せて!
こういう時は、衝撃を与えればパリーンって割れるんだよ〜☆」
山吹 花「は!? ちょっと待ってあんた何持って……
やめろ! カナタごと砕ける!!!」
花が止めるのも聞かず、セリナは満面の笑みでハンマーを振りかぶった。
そのフォームは、ゴルフのスイングのように美しく、そして無慈悲だった。
内藤 セリナ「私がハンマーで、、、
オラアアアアアアっ!!!!」
ゴオオオオオンッ!!!!!
空気を切り裂く音と共に、ハンマーがカナタの頭部(の氷)めがけて振り下ろされる。
ガッシャァァァァァァァン!!!!!
鈍い音ではなく、何か硬いものが盛大に砕け散る音が響いた。
ちとせの「純粋な氷雪」が、セリナの「純粋な暴力」によって粉砕される。
氷の欠片がダイヤモンドダストのように舞い散る中、中からカナタが転がり出た。
腹切 カナタ「ギャアアアアアアアアッ!!!!
いっでええええええええッ!!!!!」
解凍された(氷を割られた)カナタは、頭を押さえてのたうち回った。
頭頂部には、漫画のように見事なタンコブが急速に隆起していく。
内藤 セリナ「やった〜☆ 解凍成功〜!!
ね? 私ってば天才でしょ〜?☆
カナタくん、お礼はR8の洗車でいいよ〜!」
腹切 カナタ「し、死ぬ……凍らされて……殴られて……
俺……今日3位だよね……? 罰ゲームじゃないよね……?」
ちとせ「あら〜、氷割れちゃった。残念〜。
でも中身も元気そうでよかったねぇ〜、もへ〜♪」
山吹 花「どいつもこいつも……!!
もうめちゃくちゃだあああああっ!!!!」
カオス極まる車検場に、花の絶叫とカナタの悲鳴が虚しく響き渡るのだった。
内藤セリナのハンマーで物理的に解凍されたカナタが、頭を押さえて呻いている時だった。
車検場の入り口から、耳をつんざくようなスキール音が響き渡った。
キキィィィィ!!!
ABSが作動する限界のブレーキング音。
銀色のホンダ NSXが、人だかりなどお構いなしにドリフト状態で突っ込んでくる。
その鼻先は、カナタと花の方を向いていた。
山吹 花「何!? 危ない!!」
花はとっさにカナタの襟首を掴み、後ろへと飛び退いた。
そのわずか数センチ手前で、NSXの巨大なタイヤが白煙を上げて停止した。
ゴムの焼ける強烈な匂いが鼻をつく。
ウィーン……バタンッ!!
運転席のドアが乱暴に開き、ギラついた目をした男が飛び出してきた。
高橋勇太。
2位という結果に満足しているのか、それとも興奮が冷めやらないのか、そのテンションは異常なほど高かった。
高橋 勇太「オラァァァ!!!
見つけたぞ赤と青の戦闘機の2人組ィィ!!!!」
勇太は、ボロボロのREVIVE 86(赤)と、花のWRX STI(青)を指差し、唾を飛ばしながら絶叫した。
高橋 勇太「テメェらだよテメェら!!
俺のNSXの『科学の暴力』についてきたのはよォ!!
特にそこの赤いの(カナタ)!!
最後、俺にライン塞がれて悔しかったかァ!?
あそこで引いたからテメェは負けたんだよオオオオッ!!!」
勇太はカナタの胸ぐらを掴み上げようと歩み寄る。
その殺気に、近くにいた高槻健永さえも不快そうに眉をひそめた。
高槻 健永「チッ……野蛮な猿が来やがった。
おい、シッシッ。ここは俺様の独壇場だ。
オイル臭いホンダ乗りはあっちへ行け」
高橋 勇太「あァ!? 誰だテメェは。
赤チェックのダサい服着やがって……。
俺の視界に入ってんじゃねぇぞ、ボンボンがよォォッ!!」
狂犬・勇太のターゲットが、一瞬で高槻へと移った。
高橋勇太と高槻健永が睨み合い、火花が散りそうになったその瞬間。
二人の間を割るように、レモン色の影がひょっこりと顔を出した。
内藤 セリナ「ねーねー! 喧嘩もいいけどさ〜、私の話聞いてる〜?
あのね、決めたの!
次回のレースは私も出るから☆」
勇太「あァ!? 誰だテメェ……」
高槻「チッ……またお前か……」
殺気立つ男たちを完全に無視し、セリナはウインクを飛ばした。
内藤 セリナ「もちろん、コーナーもヘアピンもフミッパ(踏みッパ)でね☆
ブレーキなんて飾りだよ〜!
V10エンジンの咆哮、みんなの耳元で歌わせてあげるから覚悟してね〜☆☆」
「踏みッパ」。
それはアクセルを床まで踏み続け、戻さないこと。
コーナーやヘアピンでそれをやるということは、すなわち「自殺行為」か「曲がる気がない」かのどちらかだ。
そんな物騒な宣言を、まるで「ランチに行こう」くらいのノリで言う彼女に、近くで様子を見ていた伊藤翔太が深いため息をついた。
伊藤 翔太「……はいはい、フミッパフミッパ......。
相変わらずだな、お前は。
コーナーで壁に刺さっても、俺は牽引してやんねーぞ」
翔太は、まるで聞き分けのない妹をあやすかのように、適当に手を振った。
彼は知っている。この女が「本気でやる」と言ったら、本当にブレーキを踏まないことを。
そして、それでもなぜか曲がってしまう「野生の勘」を持っていることを。
内藤 セリナ「ぶー! 翔太くん冷た〜い!
カナタくんはもっと優しくしてくれるよね〜?
ねっ、タンコブくん?」
腹切 カナタ「(ズキズキ……)
い、今はそっとしておいてください……頭が割れそう……」
カナタが内藤セリナのハンマーで物理的に解凍され、頭を押さえて悶絶している横で。
ちとせは、ふわりとターゲットを変えた。
その視線の先には、呆れ顔で立っていた伊藤翔太がいた。
ちとせ「あら〜、そういえば......
伊藤くんもありがとね〜......」
ちとせは音もなく地面を滑るように、伊藤翔太との距離を詰めた。
その瞳は、獲物を見つけた捕食者のように細められている。
伊藤 翔太「えっ、あ、いや……俺は別に……
って、うわっ!? 来るな! 寄るな!!
さっきのカナタ見てただろ!? 凍るんだよアンタは!!」
伊藤翔太は本能的な危機を感じ、後ずさりした。
しかし、スイフトスポーツの加速をもってしても、この「獣神」からは逃げられなかった。
ちとせ「花ちゃん助けてくれたんでしょ?
仲良しさんだもんね〜、えらいえらい〜♪」
ちとせは逃げようとする伊藤翔太の腕を、ガシッと(しかしふんわりと)掴んだ。
その瞬間、伊藤翔太の腕から「パキキッ」と乾いた音が鳴る。
ちとせ「お礼にぎゅーしながらふーふーでもしてあげる〜......♪」
伊藤 翔太「ちょ、待っ……やめろおおおおおッ!!
俺は熱いのが取り柄なんだよおおおおっ!!!」
ちとせ「ん〜っ、ぎゅ〜っ♡」
ちとせは有無を言わさず、伊藤翔太の胸に飛び込んだ。
カナタの時と同様、その感触は極上の羽毛布団のように「もふもふ」で、マシュマロのように「もちもち」としていた。
だが、その温度は絶対零度。
**ジュッ……!!!!**
伊藤翔太の体温と、ちとせの冷気が接触し、まるで焼けた石に水をかけたような水蒸気が上がった。
ちとせ「そして〜……ふ〜ふ〜♡」
ヒュオオオオオオオオオッ!!!!!
至近距離から吐きかけられた冷気の吐息が、伊藤翔太の「熱血」を一瞬で奪い去った。
伊藤 翔太「あ……あ……あがががががッ……!!
さ……さみぃ……死ぬ……
花ちゃん……俺……シャーベットになっ……ガチーンッ!!!」
伊藤翔太の絶叫は、途中で凍りついた。
髪の毛は逆立ったまま霜で白くなり、口を開けたままの姿勢で完全な「氷像」と化した。
ちとせ「んふふ〜♪ 伊藤くんもひんやりしてて気持ちいいねぇ〜。
これで花ちゃんといつまでも仲良くね〜、もへ〜......♪」
山吹 花「い、伊藤くーーーんっ!!!!
また!? またなの!?
ちとせさんお願いだからやめて!! 私のチームメイトが全滅しちゃう!!!」
内藤 セリナ「あはは☆ 翔太くんもカッチカチ〜!
よし、次はこっちもハンマーで……」
氷像と化した伊藤翔太に向かって、再びセリナがピコピコハンマー(凶器)を構えた。
内藤セリナが、氷像と化した伊藤翔太の脳天めがけて、凶器のピコピコハンマーを振り上げたその瞬間だった。
内藤 セリナ「いくよ〜☆ スイスポ割り〜!!」
山吹 花「やめてぇぇぇッ!! 伊藤くんが粉々になっちゃう!!!」
絶体絶命の危機。
そこに、凛とした涼やかな声が響いた。
シラヌイ「私の炎使う? それっ!!」
ボッ......フワアアアアアッ......!!
セリナのハンマーが振り下ろされるよりも速く、どこからともなく飛来した「純白の炎」が、伊藤翔太の全身を包み込んだ。
それは、メラメラと燃え盛る炎に見えたが、熱波は一切感じられない。
むしろ、春の木漏れ日のような、不思議な温かさが周囲に広がった。
伊藤 翔太(氷の中で意識がある)
(……!? 熱ッ……くない!?
なんだこれ……暖かい……。
凍りついた体の芯が、優しくほぐれていく……)
白い炎は、伊藤翔太を傷つけることなく、表面を覆っていた強固な氷だけを瞬時に気化させた。
痛みも、火傷もない。
あるのは、冷え切った体を芯から温める「癒やし」だけだった。
シュウウウウウウ……。
白い水蒸気が晴れると、そこには濡れ鼠にはなっていたものの、五体満足でポカンとしている伊藤翔太の姿があった。
伊藤 翔太「……へ?
お、俺……生きてる? 割れてない?」
内藤 セリナ「あ〜あ、また邪魔が入っちゃった〜。
せっかく私の『内藤スペシャルハンマー』で直してあげようと思ったのに〜☆」
山吹 花「はぁぁぁ……よかったぁ……。
ありがとうシラヌイちゃん……!!
あんた(セリナ)のハンマーだったら、絶対頭蓋骨陥没してたよ!!」
シラヌイ「ふふっ。ちとせの氷は頑固だからね。
これくらいの『浄化の炎』じゃないと溶けないのよ」
シラヌイは指先で小さな白い炎を弄びながら、微笑んだ。
破壊神と獣神が暴れまわるカオスなパドックに、ようやくまともな「救世主」が現れた瞬間だった。




