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86伝説エーペックス  作者: SAI
米沢編
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449/535

米沢編第59話 終幕への点火

K396


ゲーム内の女の子「うっふーん♡ 私とラブホいかなーい?☆坂田きゅーん☆☆☆」


その音声がヘッドホンから流れた瞬間、坂田五郎丸の脳内で何かが焼き切れる音がした。

「プツンッ」という理性の断裂音だ。

彼の瞳からハイライトが消え、代わりに欲望という名のハートマークが点灯する。


坂田 五郎丸「……い、行く……。

行くに決まってるだろおおおおおおッ!!!!

うおおおおおおッ!! 俺はこの瞬間のために生まれてきたんだァァァッ!!

待っててくれ、今すぐチェックインだァァァッ!!」

高橋 勇太「次は誰を殺す....誰をォォォォ!!!!!」


ヘルメットの中で、勇太の目は完全にイッていた。

視界が赤く染まる。アドレナリンが脳を焼き、冷静な判断力などとうに蒸発していた。


今の彼にとって、前を走る車は「ライバル」ではない。

叩き潰すべき「敵」であり、自分のNSXが最強であることを証明するための「生贄」だ。


高橋 勇太「……見つけた。赤い……デカいケツだ……!!」


雨煙の向こうに、ゾフィアが駆るシボレー コルベット C7の幅広なテールランプが浮かび上がった。

6.2L V8エンジンの重低音を響かせるアメリカの巨象。

その圧倒的な存在感さえも、今の勇太には食欲をそそる餌にしか見えない。


ゾフィア「Oh...!? 何、後ろの車!?

Crazy...!まっすぐ突っ込んでくるわよ!?」


15位のゾフィアは、バックミラーに映る異常な光景に戦慄した。

NSXが、コーナーへのブレーキングポイントを完全に無視して、ミサイルのように突っ込んできたのだ。

3モーターハイブリッドによる強烈な回生ブレーキと、トルクベクタリング。

勇太は電子制御の限界ギリギリ……いや、制御が悲鳴を上げてエラーを吐き出す領域で、車体を無理やりねじ曲げていた。


高橋 勇太「V8がなんだ!! 排気量がなんだ!!

俺のハイブリッドの方が……殺傷能力は上なんだよォォォッ!!!!」


ドガガガガッ!!!!!


ABSが作動する不快な振動すら、勇太には心地よい鼓動に感じられた。

NSXの鋭いノーズが、コルベットのリアバンパーに喰らいつく距離まで迫る。

煽り運転などという生易しいものではない。

「どかなければ刺す」という、明確な殺害予告だ。


マヒロ「ひえぇ……☆ もう見てられないよー……高橋くん、完全に『闇落ち』しちゃってる。

あのNSX、悲しんでるよ……。

『こんなことのために生まれたんじゃないのに』って、モーターが泣いてる音がするよー……」


若林「危険だ!! あまりにも危険なドライビング!!

しかし速い!! 狂気と引き換えに得た爆発的なスピードで、

高橋勇太、ゾフィアのコルベットを射程圏内に捉えましたァァッ!!」


南陽市の市街地セクション。

雨に煙るビルボードや大型ビジョンに、後方の映像が一瞬映し出された。

そこには、泥飛沫を上げながらコルベットに特攻を仕掛ける、狂ったNSXの姿があった。


伊藤 翔太「は、、、? ここで高橋動いたのか?

マジでなにしてくれてんだよ......っ」


3位を走る伊藤翔太の、余裕に満ちていた表情が凍りついた。

彼が怒っているのは、高橋勇太の順位上げに対してではない。

その「品位のない走り」が、レース全体を台無しにする可能性があるからだ。


伊藤 翔太「赤旗(レース中断)にでもなってみろ。

俺とカナタ先輩の、この最高のダンスが……全部水の泡だぞ」


翔太は舌打ちをし、バックミラーを睨みつけた。

遥か後方で起きている殺戮劇。

それは、計算と技術で組み立ててきた翔太の「スマートな美学」に対する、最も醜悪な冒涜だった。


伊藤 翔太「……バカが。速さは暴力じゃない。証明(ロジック)だ。

そんな走りじゃ、誰も感動させられないし、誰も納得させられない。

……頼むから、俺たちの邪魔だけはするなよ」


翔太は不快なノイズを振り払うように、アクセルを強く踏み込んだ。

後方の泥沼に付き合っている暇はない。

今は前だけを見て、美しく勝つことだけを考える。


若林「さらに高橋勇太が黒川海斗とウアイラに猛突進でオーバーテイク!!!!

見てくださいこのスピード!! ブレーキを踏む気配がありません!!

まるでミサイルのように、前の『黒い二台』に突っ込んでいきますッ!!」


高橋 勇太「オラアアアア!!!!

今まで泳がせていたんだよっ!!!

この終幕に...点火してやらアアアア!!!!!

銀色の狼のような血祭りをなアアアア!!!!」


NSXの3モーターシステムが、過負荷でキーンという悲鳴のような高周波音を撒き散らす。

勇太の瞳には、前を走るパガーニ・ウアイラとランエボXが、ただの「肉塊」として映っていた。

彼はステアリングを乱暴にこじり、水溜まりを爆発させながら、二台の間の狭いスペース……いや、「存在しないスペース」へとNSXのノーズをねじ込んだ。


黒川 海斗「ひっ……!? な、なんだよコイツ!?

もうやめてくれよ……俺はもう……走りたくないんだよォォッ!!」


伊藤 乎太郎「チッ、野蛮なホンダが……ッ!

私のウアイラに触れるなッ!! 風が乱れるッ!!」


恐怖に震える黒川と、不快感を露わにする乎太郎。

だが、勇太の殺意はそんな感情などお構いなしに、物理的な質量となって襲いかかった。


ドッゴォォォォォンッ!!!!!


NSXの銀色のボディが、左右の黒い車体を弾き飛ばすように中央を突き抜ける。

それはオーバーテイクというより、ボウリングのピンを薙ぎ倒すようなストライク・ショット。

数億円のパガーニも、傷だらけのランエボも、狂った銀狼の前では等しく「獲物」でしかなかった。


高橋 勇太「ハハハハハハッ!!

軽い! 軽いぜェェッ!!

値段が高い車が偉いんじゃない!!

殺す気がある奴が一番偉いんだよォォォッ!!!!」


マヒロ「うわぁ……☆ もう完全に『災害』だねー☆

勇太くん、『泳がせていた』んじゃなくて、自分が溺れかけてただけな気もするけど……

今は完全にリミッターが外れちゃってるよー。

銀色の狼っていうか……手負いの狂犬だねーっ☆ 近寄りたくなーい!」


若林「阿鼻叫喚!! 南陽市の路上で、高橋勇太が暴れ回っています!!

黒川海斗と伊藤乎太郎、まとめて粉砕!!

一気に13位まで浮上!!

このNSX、ゴールまで何台の車を血祭りにあげるつもりなのかァァァッ!!」


若林「そんな高橋勇太が氷と宝石の姫! ビアンコベージュのRomaと、、、

久我ヒカルのRCFに接近してきたアアアア!!!!!」


南陽市の街灯りが滲む雨のアスファルト。

そこには、あまりにも異質な光景が広がっていた。

優雅にラインをトレースする柳津カリンのフェラーリ・ローマ。

鋭い太刀筋でコーナーを切り裂く久我ヒカルのレクサス・RCF。

その「美」と「武」を体現する二台の背後に、泥と殺意にまみれた銀色の塊が、物理法則を無視した挙動で迫っていた。


高橋 勇太「へへっ……! 見つけたぜ、お上品な連中がよォ!!

フェラーリだかレクサスだか知らねえが……

そんな綺麗なナリして、泥遊びは似合わねえだろうがァァァッ!!」


勇太のNSXは、前の二台が描くレコードラインなどお構いなしだ。

縁石をまたぎ、水たまりを爆発させ、最短距離を直線的に突き進む。

その姿は、舞踏会に乱入した泥だらけの暴漢そのものだった。


柳津 カリン「……ッ!? 背中が凍るような、汚らわしい気配……。

まさか、さっきのエボを壊したあの野蛮な車が……もうここまで?」


カリンはバックミラーに映るNSXの「品性のなさ」に眉をひそめた。

彼女の美学において、車を傷つけ、周囲を威嚇する走りは最も醜いものだ。

しかし、その醜さが、今はとてつもない「速さ」となって迫ってくる。


久我 ヒカル「……殺気か。それも、武人のそれではない。

飢えた獣の……ただ貪り喰らうだけの殺気だ」


ヒカルもまた、背後の異常を察知していた。

侍として戦場(サーキット)に立つ彼にとって、勇太の走りは「邪道」。

だが、その邪道が持つ破壊的なエネルギーは、決して侮れない脅威となっていた。


マヒロ「うわぁ……☆ 最悪の組み合わせだねー☆

『潔癖症の御令嬢』と『誇り高き侍』のところに、

『血に飢えた狂犬』が迷い込んじゃったよー☆

これ、ただの追い抜きじゃ済まないよ?

綺麗なドレスも着物も、全部ビリビリに引き裂かれちゃうかもねーっ☆」


高橋 勇太「仲良く並んでんじゃねえよ!!

俺が……俺がその『おままごと』を終わらせてやる!!まとめてスクラップになりやがれェェェェッ!!!!」


銀色の狼が、美しい二台の「聖域」へと、汚れた足で踏み込んでいく。


若林「さあ!ここでNSXがいってしまうのかあああああああっ!!??」


その刹那、高橋勇太のNSXは、ブレーキングポイントを遥かに過ぎても減速しなかった。

狙うは、柳津カリンのフェラーリと、久我ヒカルのレクサスが並走する、そのわずかな隙間。

いや、隙間などない。勇太は自らの車体を「楔(くさび)」にして、無理やり二人をこじ開けようとしていた。


高橋 勇太「どけェェェェッ!!

傷つくのが怖いか!? 汚れるのが嫌か!?

なら、その綺麗な道を俺に譲りやがれェェェェッ!!!!」


NSXのタイヤが悲鳴を上げ、車体が激しく暴れる。

それは「制御されたドリフト」ではなく、いつスピンしてもおかしくない「制御不能の滑走」。

真っ直ぐに自分たちへ突っ込んでくる銀色の弾丸を見て、カリンの表情が凍りついた。


柳津 カリン「ひっ……!? 来ないで……汚らわしいッ!!

私のローマに……その泥を擦り付けないでェッ!!」


カリンは反射的にステアリングを外へ切った。

接触すれば、愛するフェラーリが傷つく。その生理的な嫌悪感が、勝負への執着を上回ったのだ。

美しいフェラーリは、汚物を避けるようにコースアウト寸前まで逃げた。


久我 ヒカル「……狂犬め。心中する気か。

だが、無益な死は武士の本懐にあらず……ッ!!」


ヒカルもまた、勇太の軌道が「相打ち覚悟」であることを見抜き、瞬時にラインを譲った。

勇太の走りは剣術ではない。自爆テロだ。まともに受ければ両者とも終わる。

侍は刀を収め、狂人をやり過ごす道を選んだ。


ドオォォォォォンッ!!!!!


二台が左右に割れた中央を、高橋勇太のNSXが爆音と共に突き抜けていく。

誰よりも速いわけではない。ただ、誰よりも「命知らず」だっただけだ。


高橋 勇太「ハハハハハ!! ビビって逃げやがった!!

腰抜けの侍に、お高くとまったお姫様!!

テメェらの『大事なもん』が、テメェらの弱点なんだよォォォッ!!!!」


マヒロ「うわぁ……☆ 最低だねー☆

『ぶつかりたくなければ退け』なんて、チキンレースの理論だよ。

でも、レースにおいてはそれも一つの『強さ』になっちゃうんだよねー。

勇太くん、プライドも常識も捨てて、悪魔に魂売っちゃったねーっ☆」


若林「なんと無惨!! しかし、これが現実です!!

美学も騎士道も、暴力の前には無力なのか!?

高橋勇太、恐怖による支配で2台を排除!!

狂気のNSX、ついに11位まで浮上ですッ!!」


マヒロ「うわあー☆ まるで氷狼のバニラちゃんを彷彿とさせるね....

しかも彼女の弟子だし、、、」


若林「なんとォォッ!? あの伝説のストリートレーサー、『氷狼』バニラさんの弟子だとォ!?

高橋勇太、その系譜を継ぐ者だったのかァァッ!!」


※バニラがゲスト解説員のは芦ノ湖編を見てね!


コース上、10位を走る田中英二のRX-7 (FD3S) の背後に、銀色のNSXがピタリと張り付いた。

それは、先ほどまでの「無差別な特攻」とは少し違っていた。

荒々しさの中に、冷徹に相手の息の根を止めるタイミングを計る、獣の知性が宿り始めていたのだ。


高橋 勇太「……師匠(バニラ)の教えだ。

『獲物は、恐怖で動けなくなった瞬間に喉笛を噛み切れ』……!!」


田中 英二「……チッ、嫌なプレッシャーだ。

ただの馬鹿な若造かと思ったが……バックミラー越しに『眼』が合ってやがる」


田中は得意のコーナリングでFDを舞わせ、NSXを振り切ろうとする。

しかし、勇太のNSXは、SH-AWD(3モーターハイブリッド)を駆使し、FDが脱出加速に移るコンマ1秒前に、すでにイン側のさらに奥へとノーズをねじ込んでいた。

それは、獲物の逃げ道を先回りして塞ぐ、狼の狩りそのもの。


高橋 勇太「逃がさねえ……。魔術師だか何だか知らねえが……。

そのロータリーの心臓、俺が喰い千切ってやるよォォォッ!!!!」


田中 英二「なっ……!? インが消えた!?

こいつ、俺のラインを『読んで』塞いできやがったのか!?」


ズバァァァンッ!!!!!


南陽市の交差点を抜けた瞬間、銀色のNSXがRX-7の懐を強引にこじ開けた。

接触スレスレ。いや、塗装が触れ合うほどの超接近戦。

勇太は田中のFDを壁際に追い詰め、アクセルを戻させることでオーバーテイクを完了させた。


マヒロ「うんうん☆ やっぱりあの『噛みつき方』はバニラちゃん直伝だねー☆

相手が一番嫌がる場所に牙を突き立てる……。

勇太くん、ただの狂犬から、立派な『氷の狼』に覚醒しつつあるよーっ☆」


若林「おぞましい才能の開花!!

高橋勇太、師匠譲りの冷酷な狩りで、コーナーの魔術師・田中英二をも撃破!!

これでトップ10入り!!

この銀色の狼、どこまで上位を喰い散らかすつもりだァァァッ!!」


一方、群馬県伊勢崎市。

古びたアパートの一室、薄暗い部屋に極彩色のLEDが怪しく光る。

そこは、今回のエーペックスカップを無念のリタイヤで終えた、17歳の高校2年生・坂田五郎丸の「聖域(ゲーミングルーム)」だった。


坂田 五郎丸「……レースは負けた。

だが、ここでは負けられねぇ……!!」


彼の目の前には、トリプルモニターの中央に映し出された『原神』の祈願(ガチャ)画面。

ピックアップされているのは、白鷺の姫君・神里綾華と、ファデュイ執行官・少女(コロンビーナ)。

清楚な氷の剣士と、神秘的で不気味な可愛さを持つ少女。

傷ついた五郎丸の心を癒やすには、この二人をお迎えするしかない。


坂田 五郎丸「俺のバイト代……そして、お年玉の残り……全・部・突・っ・込・むッ!!

頼む……すり抜けないでくれ……!!

七七(ナナ)ちゃんとかディルックの旦那はもう完凸してるんだよォォッ!!」


震える指がマウスをクリックする。

画面上の空が流れ、星が落ちてくる。

その光の色は……青……青……紫……そして……!!


キィィィィィン!!!!!


坂田 五郎丸「き、来たァァァァッ!!

金色(レジェンダリー)だァァァッ!!

綾華か!? それともコロンビーナか!?

頼む……頼むから俺に『勝利』の二文字をくれェェェッ!!」


画面がホワイトアウトし、シルエットが浮かび上がる。

レース中のどの瞬間よりも高い心拍数。

五郎丸は祈るように手を合わせ、画面に額を擦り付けた。


一方、山形の実況席。


マヒロ「あ、ちょっと待ってー☆

群馬の五郎丸くんから、すごい『念』が届いてるよー?

レースのリタイヤより、今のガチャの結果の方が人生かかってるみたいだねー☆

……あ、これ、すり抜けで『刻晴(コクセイ)』ちゃんが出る未来が見えるかも……☆」


坂田 五郎丸「うわああああああああ!!!!

なんでここで恒常なんだよおおおおおお!!!!

俺の原石がアアアアア!!!!!

レースもガチャも爆死かよおおおおおおッ!!!!!」


伊勢崎の夜空に、敗北者の絶叫が虚しく響き渡った。


坂田 五郎丸「さて、そろそろエロゲーでもやるか、、、、」


先ほどまでの絶叫が嘘のように、五郎丸の声は凪(なぎ)のように静まり返っていた。

彼は手早く『原神』を終了させると、デスクトップの奥深くに隠された「秘密のフォルダ」を開いた。

そこには、レースの敗北も、ガチャの爆死も存在しない、約束されたハッピーエンドだけがある世界が広がっている。


坂田 五郎丸「……3次元(リアル)は俺に厳しすぎる。

だが、この画面の向こうの彼女たちは違う。

俺が選択肢さえ間違えなければ、必ず微笑んでくれるんだ……」


カチッ、カチッ……。

マウスをクリックする音が、静寂な部屋にリズミカルに響く。

画面に表示されるのは、とある学園モノのタイトル画面。

五郎丸の表情は、サーキットで見せた鬼気迫る形相とは対照的な、仏のように穏やかな「慈愛」に満ちていた。


坂田 五郎丸「あぁ……幼馴染キャラの『おはよう』が染みる……。

タイヤのスキール音よりも、彼女のボイスの方が俺の鼓膜を癒やしてくれる……。

俺はもう、時速300kmの世界には帰れないかもしれない……」


彼はヘッドホンを装着し、完全に外界からの情報を遮断した。

今、この瞬間、群馬県伊勢崎市の一室は、彼だけの「理想郷(アヴァロン)」となったのだ。


一方、山形の実況席。


マヒロ「あー……☆ 五郎丸くん、完全に『悟り』を開いちゃったねー☆

さっきまで泣き叫んでたのに、今はモニターに向かってニチャア……って笑ってるよ。

『現実はクソゲー、ギャルゲーこそ神ゲー』って顔してるねー☆」


若林「なんと嘆かわしい!! レーサーとしての闘争心はどうしたのですか!!

仲間たちが命を削って走っているというのに、彼は美少女との会話(テキスト送り)に夢中です!!

しかし……ある意味、最も『平和』な時間を過ごしているのは彼かもしれません……」


マヒロ「うんうん☆

傷ついた男の子を癒やすのは、メカニックじゃなくてヒロインだもんねー☆

……でも五郎丸くん、そのゲームのヒロイン、ヤンデレだからバッドエンド一直線だよ?」


坂田 五郎丸「……ん? なんだこの選択肢?

『監禁する』か『監禁される』か……?」


平和なはずの楽園にも、新たな修羅場が待ち受けていた。


ゲーム内の女の子「うっふーん♡ 私とラブホいかなーい?☆坂田きゅーん☆☆☆」


その音声がヘッドホンから流れた瞬間、坂田五郎丸の脳内で何かが焼き切れる音がした。

「プツンッ」という理性の断裂音だ。

彼の瞳からハイライトが消え、代わりに欲望という名のハートマークが点灯する。


坂田 五郎丸「……い、行く……。

行くに決まってるだろおおおおおおッ!!!!

うおおおおおおッ!! 俺はこの瞬間のために生まれてきたんだァァァッ!!」


彼はマウスが壊れんばかりの勢いで「YES」の選択肢を連打した。

レースでの敗北? ガチャでのすり抜け?

そんなものはもうどうでもいい。

今、画面の向こうの彼女が、自分(坂田きゅん)だけを求めている。その事実だけで、彼は世界一の幸せ者になれたのだ。


坂田 五郎丸「神ゲーだ……!!

これこそが、傷ついた俺を癒やすオアシス……!!待っててくれ、今すぐチェックインだァァァッ!!」


一方、山形の実況席。


マヒロ「あーあ……☆ やっちゃったねー☆

五郎丸くん、そのコ、目が笑ってないよ?

『うっふーん♡』の裏に、包丁研ぐ音が聞こえそうなんだけど……☆

しかも名前呼び(坂田きゅん)イベントって、好感度MAXか、ヤンデレ覚醒フラグのどっちかなんだよねー☆」


若林「なんと無防備な!!

17歳の男子高校生に、その誘惑を断れというのは酷な話です!!

彼は今、アクセル全開で『破滅(バッドエンド)』という名のゴールへ向かっている気がしますッ!!」


坂田 五郎丸「へへ……へへへ……。

俺の時代が来た……。もう3次元には戻らねぇ……」


画面の中、二人は夜の街へと消えていく。

だが、そのBGMが、なぜか少しずつ不協和音に変わり始めていることに、興奮した五郎丸はまだ気づいていなかった。


画面の中、ラブホテルの扉が閉まる音。

坂田五郎丸は、期待に胸を膨らませ、コントローラーを握りしめていた。

しかし、暗転した画面から聞こえてきたのは、衣擦れの音ではなく、何か硬いものを取り出す音だった。


ゲーム内の女の子「……ねぇ、坂田きゅん。

ここなら、誰にも邪魔されないね……?

もう、レースなんて行かせない。他の女(キャラ)も見させない。

……ずっと、ずーっと、私だけのモノにしてあげる♡」


坂田 五郎丸「え……? おい、ちょっと待て。

その手に持ってるのは……包丁……!?

ちょ、選択肢!? 『逃げる』は!? 『土下座する』は!?

なんで『愛を受け入れる』しかないんだよおおおおおおッ!?!?」


ザクッ……!! グチャッ……!!


効果音が、あまりにもリアルすぎた。

画面いっぱいに広がる赤黒いノイズ。

五郎丸のアバターは、愛する彼女の手によって、文字通り「骨抜き」にされていた。


ゲーム内の女の子「あは♡ あはははは♡

赤いね、綺麗だね、坂田きゅん♡

中身まで全部、私のことが好きって書いてあるよぉ♡」


坂田 五郎丸「ギャアアアアアアアアアアア!!!!!

痛いッ!! 痛くないけど痛いッ!! 心が痛いッ!!

なんでだ!? 俺はただ、優しくされたかっただけなのにィィィッ!!

これが……これが『萌え』の代償なのかァァァァッ!!??」


モニターには無情にも『BAD END No.13:永遠の愛(物理)』の文字が浮かび上がった。


一方、山形の実況席。


マヒロ「あーあー……☆ 見ちゃいけないもの見ちゃったねー☆

五郎丸くん、画面が真っ赤だよ。

『ヤンデレの愛は重い』って言うけど、物理的に鋭利すぎたねー☆」


若林「なんと凄惨な……!!

レースでリタイヤし、ガチャで爆死し、最後は愛するヒロインに刺殺される……!!

今日の坂田五郎丸は、厄年どころではありません!!

全宇宙の不幸を背負っているかのようですッ!!」


坂田 五郎丸「……もう、何も信じない。

3次元も、2次元も、俺を殺しに来る……。

俺に残されたのは……布団(ここ)だけだ……」


伊勢崎のアパートの一、というか廊下のような部屋で、五郎丸は膝を抱え、

真っ赤なゲームオーバー画面の前で、静かに涙を流した。


名前 | 坂田 五郎丸 (17歳)※SAIのリア友

状態 | 精神的死亡(SAN値ゼロ)

死因 | 推しヒロインによる刺殺(ゲーム内)

トラウマ | 包丁、ラブホテル、ピンク色

教訓 | 「うっふーん♡」は地獄へのファンファーレ♪

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