米沢編第49話 神の拳のAMG
K386
若林「なんという執念!! 古賀加奈子の放つ絶望的なプレッシャーを跳ね除け、
マットグリーンの怪物が再びその牙を剥いたァァッ!!
北斗選手、まさに不死身の闘志でM5のサイドに食らいつくゥゥッ!!」
北斗「それはどうかな?
この北斗神拳伝承者様は不死身だぞ、、、、、、?」
古賀加奈子の「律動」によって乱されたはずの空力とライン。
だが北斗は、車体がハイドロプレーニングで浮き上がる寸前の「死の領域」を
あえて維持することで、M5のスリップストリームから強引に抜け出したッ!!
北斗「お前の音楽が完成する前に、その秘孔(急所)を突かせてもらうッ!!
奥義……水影心!! お前のラインは、すでに俺のものだッ!!」
若林「信じられない!! 北斗のAMG GTRが、古賀加奈子のM5と豪雨の中で車体を激しくぶつけ合うサイドバイサイド!!
15位の高橋勇太をも巻き込み、賞金圏内の境界線は完全に壊滅状態だァァッ!!」
マヒロ「うわぁぁぁーっ✩ 北斗くん、本当に死なないよーっ✩
加奈子先生のタクトを、力技で奪い返しにいっちゃったよーっ☆!!」
若林「おっとォォォォ!! 加奈子先生の口から、およそ教育者とは思えない言葉が飛び出したァァッ!!
不死身を謳う北斗の粘りに、ついに静寂のタクトがへし折れたかァァッ!!」
古賀加奈子「……クソがァァァ!!!!!!」
キィィィィィィィィッ!!
豪雨の路面、BMW M5がタイヤを悲鳴させながら、北斗のAMG GTRに強引に車体をぶつけに行くッ!!
音楽の授業は終わりだ。ここからは、ただの『力』による蹂躙!!
古賀加奈子「不死身? だったら、その不死身ごとこの2.4トンの鉄塊で粉砕してやるわよッ!!
リズムもメロディもいらない!! 私の前を走る雑音は、全部消えてなくなりなさいッ!!」
北斗「……ほう、本性を現したか。だが、その怒りこそが死への誘い(ディープ・ポイント)だッ!!」
若林「荒れる!! 荒れ狂う中段グループ!!
怒り狂う古賀加奈子、受けて立つ北斗、そして恐怖に震える高橋勇太!!
三台の怪物が、もつれ合ったまま高速セクションへとなだれ込んでいくゥゥッ!!」
マヒロ「ひ、ひぃぃぃーっ✩ 加奈子先生が鬼になっちゃったよーっ✩
あんな先生に補習させられたら、一生トラウマになっちゃうよーっ☆!!」
その頃、、、温泉ダイブしたリタイア組は、、、
ちとせ、シラヌイ、フブキの女湯では、、、、
ちとせ「もへ〜……。やっぱり雨の峠より、温かいお湯の方が最高ですねぇ〜……。
シラヌイちゃんも、そんなに肩まで浸かってないで、リラックスしてください〜……」
氷雪の獣神もちとせも、今ばかりは絶対零度の裏の顔を封印し、
蒼色の髪をアップにまとめて、とろけそうな表情で湯船に漂っている。
シラヌイ「……ふぅ。負けたのは悔しいけど、このお湯は格別ね。
フブキ、あんた泳ごうとするのはやめなさいよ?」
フブキ「わかってるって、、、!
でも見てよお姉ちゃん、外の豪雨を眺めながら入る露天風呂って、最高に贅沢じゃない?」
ちとせ「あれ〜、本当だね〜……?
でも、イヨちゃんがまだあの雨の中を走ってると思うと、少しだけ応援したくなっちゃうよね〜……もへ〜……」
シラヌイ「……ま、あの子なら心配ないでしょ。
それより、あがったら美味しい牛乳でも飲みに行きましょ」
一方、男湯では、、、ダムにダイブした面々が、湯船で激しい「場外乱闘」を繰り広げていた。
黒川海斗「……クソっ!! あのまま走れてりゃ、俺が今頃フリスの首を獲ってたはずなんだよ!! なんで俺がこんな場所で、野郎どもの裸を拝んでなきゃならねえんだ!!」
ランエボを失った黒川海斗が、湯船の湯を叩きながら毒づく。その隣では、相川律がぐったりと縁に頭を預けていた。
相川律「……静かにしてくれよ、黒川。負けたのは事実だろ……。それより、あの86……腹切カナタの走りは異常だった。あれを間近で見せつけられたら、リタイアして正解だったかもな……」
黒川海斗「あァ!? 弱気なこと言ってんじゃねえぞ相川!!
次は絶対に、俺の加速で腹切カナタも、あの生意気な伊藤翔太もまとめてぶち抜いてやる!!」
柳津雄介「……はは、相変わらず元気だねぇ、君たちは。
僕はカリンがまだ走っていると思うと、気が気じゃないよ。
あの子のガラスのような心が、あの豪雨に耐えられているかどうか……」
大袈裟雅人「……(無言で潜水し、悔しさを泡に変えている)」
若林「男湯も荒れています!! 敗北の悔しさと、次戦への闘志が、
湯煙と共に米沢の夜空へと昇っていくようですッ!!」
外の豪雨が嘘のように静まり返った女湯。
ちとせは蒼色の長い髪を湯船に漂わせながら、のんびりとシラヌイの隣へ滑り寄った。
ちとせ「もへ〜……。やっぱりお湯はいいねぇ……外はあんなに荒れてるのに、ここはこんなに温かいよ。ねえ、フブキちゃんもこっちにおいでよ〜……♪」
氷雪の獣神としての威圧感を霧の中に溶かし、ちとせはタメ口でゆったりと語りかける。
その視線の先では、フブキが一人、露天風呂の縁で雨に打たれながら佇んでいた。
フブキ「……遠慮しておく。私はこの雨の冷たさが心地いい。
レースに負けた熱を冷ますには、この程度じゃ足りないくらいだ」
フブキの言葉は、まるで鋭い氷の礫のようにクールだ。
彼女の瞳は、湯煙の向こう側――今も走り続ける者たちがいる峠の方を冷徹に見据えている。
シラヌイ「フブキ、あんた相変わらずね。リタイアしたんだから、少しは気を抜きなさいよ」
フブキ「抜いているさ。だが、次はあのアスファルトを凍りつかせてやる。
そのための律動を、今は一人で刻んでいたいだけだ」
ちとせ「あらあら〜……。フブキちゃんは相変わらず吹雪みたいに冷たいねぇ……。
でも、そんなところも私は好きだよ……もへ〜……」
相川律「露天風呂はこっちか? オオ、、、、?」
ガラッ、と音を立てて相川律が引き開けた扉の先。
そこにあったのは、男湯の無骨な岩風呂ではなく、白い肌と湯煙が舞う幻想的な「楽園」――のはずだった。
シラヌイ「キャァァァァッ!!! 変態ィィィッ!!!!」
シラヌイの鼓膜を突き破るような絶叫が、静かだった温泉施設に響き渡る。
それと同時に、洗面器や備え付けの椅子が、物理法則を無視した速度で相川の顔面へと飛来した。
ちとせ「あらあら〜……。律くん、そんなに私たちの裸が見たかったの?
……もへ〜、なんて言ってる場合じゃないよね。死んじゃうよ〜……?」
ちとせはのんびりと首を傾げているが、その瞳の奥には氷のような冷徹さが宿っている。
フブキ「……万死に値する。その眼球ごと、ここで凍らせてやろうか」
フブキの冷たい視線が相川を射抜く。
そこにはレースでのクールさとは違う、本気の「拒絶」が込められていた。
相川律「……ち、違うんだ!! 視界が霞んで……!! ぐはっ(椅子が直撃)」
若林「戦慄!! コース外でも大波乱ですッ!!
相川律、女湯突入という『最大級のペナルティ』により、再起不能以上の社会的制裁を受けること間違いなしィィィッ!!!」
相川律「……す、すまない。悪気はなかったんだ……!」
飛んできた洗面器を必死でガードする相川律に対し、フブキは湯船から立ち上がることなく、ただ冷徹な視線だけで彼を釘付けにする。その瞳は、彼女の故郷の吹雪よりも冷たい。
フブキ「せっかく調子良かったのに、、、元はと言えば相川、、、アンタのせいでこうなったんだからね、、、、、?
アンタと一緒にオーバーランして温泉ダイブするとは思わなかった、、、、、」
相川律「……それは、俺だって……。あの刹那の判断ミスがなければ、今頃はカリンたちの前を走っていたはずなんだ……」
フブキ「……黙れ。その言い訳が、今のこの状況を、私のこの屈辱を拭えるとでも思っているの?
レースで私を道連れにし、さらにここでも私の視界を汚す……。
アンタ、本当に……救いようがないわね」
ちとせ「あらあら〜……。フブキ、そんなに怒らなくても。律くんも顔が真っ青だよ〜?
……もへ〜。でも確かに、フブキのラインを潰したのは律くんだもんねぇ。
……律くん、今ここで凍らされちゃうのと、外で土下座するの、どっちがいい〜?」
シラヌイ「ちとせ、甘いわよ! こいつは今すぐ警察に……ううん、まずは黒川たちに引き渡して、一生の語り草にしてやるんだからッ!!」
相川律が女湯でフブキの冷気に射抜かれているその頃、壁一枚隔てた男湯では、サテラが首までお湯に浸かって天井を仰いでいた。
サテラ「いやー、、、ボクもアソコでやられるとは思わなかったね、、、、スピード出しすぎたかな? ま、ボクの実力ならあんなコーナー、余裕でクリアできるはずだったんだけどさ」
サテラは気さくに笑ってみせるが、その指先は悔しさで少し震えている。彼にとって、リタイアという結果はプライドが許さないはずだ。
サテラ「……別に、悲しんでるわけじゃないからね! むしろ、この温泉に入れたんだから結果オーライっていうか。……でもさ、ボクのあとの走りが気にならないわけじゃないし……。特にあの腹切カナタとかいう奴、ボクがいなくなった後で調子に乗ってなきゃいいけど」
隣でその独り言を聞いていた黒川海斗が「あァ!? 腹切カナタなら今3位だぞ!」と怒鳴りつけると、サテラは顔を真っ赤にしてお湯を跳ね上げた。
サテラ「はぁ!? 3位!? ……ふん、ボクがいれば1位だったのに! 仕方ないから、今日はこのお湯でボクの完璧な身体を休めてあげるだけなんだからねッ!!」
男湯の奥、湯気で真っ白な空間から、のんびりとした気の抜けた声が響く。
柳津雄介「そんなのもういいじゃーん、、、、。
あー、、、いい湯、、、、、。コースの雨もひどかったけど、このお湯も別の意味でひどく最高だねぇ……」
柳津雄介は、リタイアの悔しさも、娘のカリンが今まさにトップ10を争っている緊張感も、すべて温泉の成分と一緒に排水溝へ流してしまったようだ。
相川律「柳津、、、、ッ! ここにいたのか! 助けてくれ、女湯でフブキたちに……ッ!!」
女湯から命からがら(そして洗面器の直撃を受けながら)逃げ戻ってきた相川律が、柳津雄介の肩を掴んで激しく揺さぶる。
柳津雄介「おっと、相川くんじゃないか。そんなに慌ててどうしたんだい?
……ん? その顔のアザ、新しい洗面器の形だね。おしゃれだなぁ。
まあ、細かいことはいいじゃない。ほら、サテラくんも黒川くんも、みんなで浸かればリタイアなんてただの思い出だよ」
サテラ「ちょっと、柳津さん! ボクをあんな覗き魔と一緒にしないでよ!
……でもさ、柳津さんのその余裕、ちょっとムカつくっていうか……ツン……。
ボクだって、本当はこれくらいリラックスできるんだからねッ!!」
柳津雄介「はいはい、みんな仲良く。
あー……カリン、パパは一足先に天国にいるよ……」
柳津雄介「あー……カリン、パパは一足先に天国にいるよ……」
相川律「パパじゃねェだろォォ!!! お兄さんだろッ!!!」
相川律の魂の叫びが、男湯の天井を突き抜けて女湯にまで届かんばかりに響き渡る。ボコボコにされた顔で必死にツッコむ相川の姿は、悲哀を通り越して最早芸術的ですらあった。
柳津雄介「おや、相川くん。そんなに大きな声を出したら、せっかくの温泉の成分が逃げちゃうよー? それに、僕は正真正銘カリンの父親だよ。お兄さんに見えるなんて、相川くんは本当にお世辞が上手だねぇ」
サテラ「……ふん、ボクから見れば、どっちもただの『リタイア組』にしか見えないけどね! 柳津さんがパパだろうとお兄さんだろうと、ボクの完璧なドライビングには関係ないんだからッ! ……でも、確かにその若さはちょっと、ツン……ムカつくかも……」
黒川海斗「おい柳津!! そんなことより、お前の娘が今、岡田や伊藤乎太郎をちぎってトップ10に迫ってんだぞ!! 親なら少しは応援しねえのかよ!!」
柳津雄介「応援? してるよー、心の中でね。あ、カリンが勝ったら、帰りに美味しいアイスでも買ってあげようかなぁ……。相川くんも一緒にどうだい?」
相川律「誰がパパ(兄)のアイスなんか食うかッ!! ……いや、カリンのアイスなら……って、そんな場合かァァッ!!」
ちとせ「うへ〜……ねえ、ドライバーについて話さない? 今回いないあのフミッパスライダーの、、、、」
女湯のちとせがのんびりと投げかけた言葉は、壁を越えて男湯の野郎どもの耳にも届いた。
相川律「内藤セリナか、、、、あのスーパーアイドルポニーテール女子高生、、、、、」
相川がボコボコの顔で、うっとりと天井を見上げる。その名前は、この場にいる全員が無視できない重みを持っていた。
柳津雄介「あー、内藤さんねぇ。彼女がいたら、今頃フリスくんの横をポニーテールなびかせながら、アクセル全開で駆け抜けてただろうねぇ。……カリンも彼女の走りを意識してたみたいだし」
黒川海斗「……内藤……セリナ。あの女がいりゃ、俺が抜くターゲットが一人増えるだけだ。アイドルだろうがJKだろうが、俺のランエボの前じゃバックミラーの塵になる運命なんだよッ!!」
ちとせ「……みんな内藤セリナちゃんが好きだねぇ〜……。でも、彼女のあの踏みっぷり、見てるだけでこっちまで凍りつ……もへ〜、楽しくなっちゃうよねぇ……」
サテラ「内藤、、、、?」
サテラが不思議そうに首を傾げると、相川律は湯船から身を乗り出し、まるで聖書を語るかのような熱量で言葉を継いだ。
相川律「あー、、、知らなかったなサテラは、、、女子高生なのにスーパーアイドルしてて、R8をコーナーをフミッパで走るんだぜ、、、、!!」
サテラ「……はぁ!? アウディR8!? あのミッドシップのモンスターを、女子高生が、しかもコーナーでアクセルを抜かない(フミッパ)で曲がるっていうのかよ!? そんなの物理的に……ツン……ボクの理論じゃありえないッ!!」
サテラは驚愕のあまり、危うくお湯を飲み込みそうになった。完璧主義の彼にとって、そんな「理性を投げ捨てた速さ」は理解の範疇を超えていた。
相川律「事実なんだよ! ステージで歌って踊るあの細い腕で、R8の強大なトルクをねじ伏せる。ポニーテールが遠心力で真横になびく様は、まさに戦場の女神……。今回彼女がいないのは、海外遠征かライブのスケジュールが重なったからだって噂だ」
柳津雄介「あー、そのR8はねぇ……、
カリンも一度抜かれたことがあって、あのポニーテールの残像がしばらく目に焼き付いて離れなかったって言ってたよ。……あー、いい湯……」
ちとせ「あらあら〜……。R8を振り回すセリナちゃん、カッコいいよねぇ。……でも、彼女が来たら、今のイヨちゃんやカナタくんでも、バックミラーを見る暇さえないかもしれないねぇ……もへ〜……」
温泉施設のロビーにある大型モニター。そこに映し出されているのは、豪雨の高畠セクションを死に物狂いで駆け抜ける鉄塊たちの群れだ。
相川律「エイペックスカップの配信から中継を見ているが、、、AMG GTRが追い上げてきたのか、、、それに伊藤のスイスポまで、、、、」
相川はタオル一枚の姿で、アザだらけの顔をモニターに近づける。そこには、17位から驚異的な粘りを見せる北斗のグリーン・モンスターと、4位・5位争いで火花を散らす伊藤のスイスポが映し出されていた。
サテラ「……ふん、北斗の奴、ボクがいないからって目立とうとしちゃってさ。でもあのAMG、重い車体を無理やりねじ伏せて、まるで秘孔を突くようなラインでコーナーを潰してるね……ツン……。ボクならもっとスマートに走るけどさ」
柳津雄介「あー、伊藤くんもすごい気迫だねぇ。実家の伊藤自動車の看板を背負ってるだけあるよ。あの立ち上がりの鋭さ……カリンも苦労しそうだ」
ちとせ「あらあら〜……みんな、雨の中なのにすごく楽しそう。伊藤くんの黄色いスイスポ、まるで暗闇の中の蛍みたいに光って見えるよぉ……もへ〜……」
黒川海斗「……チッ、伊藤の野郎。あんな非力なスイスポで、俺が届かなかった領域まで行きやがって……! 認めねえ、認めねえぞ!! カナタも伊藤も、俺がいない間に勝手に速くなりやがってッ!!」
温泉のモニターに、真っ白なランボルギーニ・ウラカンが映し出される。豪雨を切り裂き、大排気量のV10サウンドを響かせるその姿は、まさに獲物を追う猛牛そのものだ。
相川律「にしても俺が気になるのは、、、、ウラカンのセシルという少女、、、、やけに小さいのに強そうなんだよ、、、、」
相川は、画面に映る小さなドライバーの影を凝視する。ヘルメットに隠れて表情は見えないが、そのステアリング捌きには一切の迷いがない。
柳津雄介「あー、セシルちゃんね。見た目は小学生か中学生くらいに見えるけど、あのウラカンの4WDシステムを完全に自分の手足にしてるよ。……カリンも、あの圧倒的なパワーには近づきたくないって言ってたねぇ」
サテラ「……ふん、ただのパワー自慢じゃないの? ボクの計算によれば、あんな大柄な車、この狭い峠道じゃ不利なはずなんだけどさ。……でも、コーナーの出口で車体が全くブレない。……ツン……あの体格でどうやってあのG(重力)に耐えてるんだよッ!!」
ちとせ「あらあら〜……セシルちゃん。あの子、時々すごく冷たい目をするんだよねぇ。まるで獲物を引き裂く瞬間の獣みたいに。……もへ〜。イヨちゃんも、あの子だけは『少し壊しがいがある』って言ってたよぉ……」
黒川海斗「……セシルか。あの白のウラカン、俺の加速でも追いつけなかった。あのアホみたいな馬力を、あの小さなガキが完全に制御してやがる……。化け物だよ、ありゃあ」
温泉のモニターが、中段グループの後方から音もなく順位を上げている一台のマシンを捉える。漆黒のボディを濡らし、狂乱のバトルに一切加わらずに最短距離を走るポルシェ。
柳津雄介「あれはどうした? 花ちゃんの妹、、、、山吹芽衣ちゃん、、、、、」
柳津雄介が湯船から顔を出し、不思議そうに画面を指差す。そこには、姉である山吹花のWRXとは対照的な、冷徹なまでに無駄のないラインを刻むカレラGTSの姿があった。
相川律「あの大人しいカレラGTSのか、、、、強そうなんだけどな、、、、、ッ!!
姉の花があれだけ熱血なのに、妹の芽衣はまるで精密機械だ。
派手なドリフトもせず、ただひたすらに最速のグリップを追求している……」
サテラ「……ふん、ボクの理論に近い走りだね。カレラGTSのリアエンジンを活かしたトラクションの使い方……ツン……分かってるじゃないか。でもさ、大人しすぎて存在感を消してるのが逆に不気味っていうか……」
ちとせ「あらあら〜……芽衣ちゃん。あの子、普段はあんなに控えめなのに、
車に乗ると姉の花ちゃんさえも見えていないみたいに集中しちゃうんだよねぇ。
……もへ〜。お姉さんを抜く時、彼女はどんな顔をするのかなぁ……」
黒川海斗「……山吹芽衣。あの黒いポルシェ、俺がリタイアする寸前まで、
ずっと俺の死角に張り付いてやがった。一度も仕掛けてこねえくせに、
離れもしねえ……。気味の悪い女だぜッ!!」
若林「さあ、上位陣がさらに密度を増していくッ!!
ここで夢野ユナが再びウラカンに張り付いたァァァ!!!!!!
ランボルギーニの大排気量パワーに対し、ユナはコーナーの突っ込みだけで
その差をゼロにする!! まさに執念のドライビングだァァッ!!」
夢野ユナ「……逃がさない。セシル、あんたがどれだけ速くても、
このコーナーの出口では私の86が、あんたの死角を喰い破るッ!!」
セシル「……くっ、しつこい。この雨の中、どうしてそんなスピードでノーズを入れられるの……!? 私のウラカンのパワーが、あの小さな86に押し負けてるっていうの……ッ!!?」
若林「セシルが必死のブロック!! しかし夢野ユナ、もはや接触を厭わない超至近距離!! 5位伊藤、6位セシル、7位夢野ユナ!!
この三台が塊となって、最終セクションへと突入していくゥゥッ!!」
若林「さあ、レースは今大会最大の難所、鳩峰峠に突入だァァッ!!
ガードレールのすぐ外は断崖絶壁!! 逃げ場のない極細のワインディングを、
モンスターマシン達が通過していくゥゥゥゥ!!!!!!」
霧が立ち込める峠道、先行するフリスのケイマンが、テールランプの光だけを残してコーナーの闇に消える。それを追うイヨのスープラ、そして腹切カナタのREVIVE 86が、水飛沫を跳ね上げながら超高速の舞を披露する!!
腹切カナタ「……ここだ。ここなら、パワーの差は関係ない。
ライン感覚と路面のμを掴んでいる奴が、この峠の王になるッ!!」
若林「凄まじい光景だ!! 5位伊藤のスイスポ、6位セシルのウラカン、7位夢野ユナのGR86が、まるで数珠繋ぎのように、ガードレールスレスレのラインを駆け抜けていく!! 一瞬のミスが、即ち崖下へのダイブを意味する極限状態だァァッ!!」
伊藤翔太「……花、カナタ、そして後ろの奴ら!!
俺はこの峠で、実家の看板(伊藤自動車)に泥を塗るような走りは絶対にしないッ!!
このスイスポの軽さこそが、鳩峰のタイトコーナーを制する武器だッ!!」
若林「そして、、、赤い戦闘機の3秒先に、腹切カナタの視界に再びGRSUPRAを捉えましたァァァ!!!!!」




