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86伝説エーペックス[POWER!!!]  作者: SAI
POWER!!!米沢編
420/425

米沢編第32話 フブキのちから

K369

カナタの全身を、経験したことのない悪寒が駆け抜ける。

バックミラーを埋め尽くすのは、夜の闇に同化するような鉛色のエミーラ。

エンジン音さえ聞こえないほどの至近距離で、フブキはカナタの呼吸さえも読み取っているかのようだった。


カナタ「やばいのが来てるッッ!!!!! ちとせやシラヌイとは違う……このプレッシャー、まるで首筋に刃を突きつけられているみたいだ……ッ!!」


カナタが86のステアリングをねじ込み、わずかにラインを変えてフブキを牽制する。

だが、エミーラは糸に引かれるかのように、86の動きと完全に同期して背後に張り付いて離れない。


フブキ「……無駄よ。あなたの動揺は、その挙動ラインにすべて現れている。……逃げ場なんて、もうどこにもないわ。」


若林「カナタ、完全にロックオンされたァァッ!! 鉛色のエミーラ、フブキが放つ『沈黙の重圧』に、赤い戦闘機が悲鳴を上げているッ!! まさに獲物を追い詰める死神だァァッ!!!」


マヒロ「うわぁっ☆ カナタくん、顔色が真っ青だよぉっ! フブキちゃんの影に飲み込まれちゃいそうだよぉーっ☆!!」


鉛色のエミーラのフロントノーズが、カナタの86のリアバンパーを小突き、死のカウントダウンを刻む。

通信回線に割り込んできたのは、感情を一切排したフブキの冷徹な声だった。


フブキ「遅いわね...その86、アプライドA...とても古そうじゃない......」


カナタ「……ッ!? 俺の86が、初期型だってことを見抜いたのか……ッ!!」


カナタが驚愕するのも無理はない。一瞬の挙動、そしてマシンの鼓動から、フブキは86の年式という「正体」を看破していた。


フブキ「私が吹雪の棺桶に入れてあげる、、、」


刹那、エミーラのエンジンが鋭く吹け上がり、カナタのインサイドへ吸い込まれるように入り込む。

鉛色の車体から放たれるのは、飯坂の夜をさらに凍てつかせる「沈黙の吹雪」。

それは、旧世代のマシンを公道から排除しようとする、冷酷なまでの処刑宣告だった。


若林「フブキが行ったァァァァ!!!! 5位のカナタを文字通り『棺桶』に閉じ込めるようなイン刺しッ!! 最新のミッドシップが、初期型86の意地を粉砕しにかかるゥゥッ!!!」


カナタの額から冷たい汗が伝う。

バックミラー越しに見えるフブキの瞳は、感情の欠片も映さない鉛色の鏡のようだった。

エミーラに背後を取られてから、カナタの五感がおかしな感覚を訴え始める。


カナタ「なんだ、、、このエミーラ、、、、、、ッ!???」


ヒーターが効いているはずの車内。それなのに、指先から感覚が失われていくような錯覚。

エンジンの熱気さえも、この鉛色の影に吸い込まれて消えていく。


カナタ「こいつに張り付かれてから、、、周りが、、、すごく寒い気がしてきた、、、、、、ッ!!」


若林「カナタの様子がおかしいッ!! 86の挙動が、寒さに震えるように細かく乱れているゥゥッ!! これがフブキの真骨頂……物理的な温度ではなく、精神の芯を凍てつかせる『吹雪の棺桶』のプレッシャーかァァッ!!!」


マヒロ「うわぁぁっ☆ カナタくん、真っ白になっちゃいそうだよぉっ! エミーラから出てるのは冷気じゃなくて、死神の吐息なんだよぉーっ☆!!」


フブキ「……ふふ、ようやく気づいた? 凍えたまま、静かに眠りなさい……。」


鉛色のエミーラが、獲物を仕留める最後の一歩として、86のリアバンパーをそっと撫でるようにインサイドへと滑り込んだ!


若林「まだ並走を続けているゥゥ!!!! 赤い戦闘機対鉛色のエミーラだァァァァ!!!」


飯坂の街明かりが遠ざかり、周囲を木々に囲まれた中速コーナーの連続セクション。

インサイドを強襲したフブキのエミーラと、アウト側で必死に堪えるカナタの86が、磁石で吸い寄せられたかのように一塊となって疾走する。


カナタ「……ハァ、ハァ……ッ! 体が……動け……ッ! 負けてたまるか……こいつは、俺の相棒なんだッ!!」


カナタは震える両腕でステアリングをねじ伏せ、初期型特有のピーキーな挙動を力技で「前進する力」へと変えていく。

エミーラから放たれる鉛色のオーラが86を包み込み、車体からはミシミシと軋む音が上がる。


フブキ「……しぶといわね。古いマシンには古いなりの意地があるというの……? でも、その意地ごと凍らせてあげるわ。」


フブキがさらにステアリングを切り込み、86を外側のガードレールへとじりじりと追い詰める。

タイヤとタイヤが触れ合わんばかりの超接近戦。一ミリのミスも許されない「死のダンス」が続く!


マヒロ「きゃあぁぁっ☆ 二台ともくっついちゃって、離れないよぉっ! 赤い戦闘機が、鉛色の吹雪の中で必死に翼を広げてるよぉーっ☆!!」


カナタとフブキが極限の並走を続けるその「影」から、突如として真紅の閃光が飛び出した。

姿を消していたはずのフェラーリ488GTSが、まるで空間を飛び越えてきたかのような加速でフブキの背後を強襲する!


若林「そこから飛んだのは、、、、赤い488GTSだった、、、!!!

クリスタ・ニールセンだァァァァ!!!! どこかに消えたかと思いきや、まさかのフブキの背後に迫っていた!!! そして、スルリと並んだァァァァ!!!!」


クリスタ「アナタが吹雪なら、、、こっちはマグマのようなデンジャラスを体感させてあげる、、、、」


クリスタの488が、エミーラの外側にピタリと張り付く。車内からは、フブキの冷気を真っ向から跳ね返すような、燃え盛る情熱のオーラが溢れ出していた。


フブキ「ふーん....で?」


フブキの返答は、どこまでも無機質だった。

直後、鉛色の車体と真紅の車体が、時速200キロを超える領域で激しくぶつかり合う!


ガァァァン!!!


若林「当たったァァァァ!!! フブキとクリスタ、一歩も引かずにサイド・バイ・サイドのまま接触ッ!! まさにマグマと吹雪の正面衝突だァァッ!!!」


マヒロ「きゃあぁぁっ☆ 488とエミーラが喧嘩してるよぉっ! カナタくんを置き去りにして、女の子同士のガチンコバトルになっちゃったよぉーっ☆!!」


サイドミラーが接触し、激しい火花が散る中、フブキの表情は一つも動かない。

通信回線から漏れ出るのは、クリスタのマグマを瞬時に凍らせるような、極低温の声だった。


フブキ「邪魔しないで。アナタのフェラーリこそ先に眠らせてあげる......」


エミーラのステアリングをミリ単位で微調整し、フブキはクリスタの488GTSに「死の体当たり(サイド・プレス)」を仕掛け返した。

ただの衝突ではない。フェラーリの挙動が最も不安定になるタイミング、サスペンションが沈み込んだ一瞬を狙った、精密な「暗殺」の一撃だ。


クリスタ「なっ……!? この女、この速度で狙って当ててきてるのッ!!?」


ガガガッ!!!


若林「フブキがやり返したァァァァ!!!! 488のサイドをエミーラが削り取るッ!! まさに『吹雪の棺桶』の蓋を無理やりこじ開けて、クリスタを引きずり込もうとしているゥゥッ!!!」


マヒロ「きゃあぁぁっ☆ フブキちゃん、本気で怒らせちゃダメな人だったよぉっ! 真紅のフェラーリが、鉛色の吹雪に飲み込まれてスピンしそうだよぉーっ☆!!」


激しく火花を散らす接触戦の中、エミーラの車体から放たれる「静寂」が、クリスタの488を侵食していく。

ステアリングを通して伝わる衝撃が、いつの間にか柔らかく、そして抗いがたい「心地よさ」へと変わっていく。


フブキ「気持ちいいでしょ......? そのまま飲まれたら楽になれるわ、、、、、、」


クリスタ「な、何……? 意識が……遠のく……ッ。熱かったはずの車内が、どうしてこんなに穏やかなの……ッ!?」


若林「クリスタの動きが止まったァァァァ!!!! あんなに激しかったフェラーリの挙動が、まるでフブキの吹雪に抱かれるように緩慢になっていくッ!! これがフブキの真の恐怖……抗う意志そのものを凍てつかせる『吹雪の揺りかご』だァァッ!!!」


マヒロ「きゃあぁぁっ☆ クリスタさんが眠っちゃいそうだよぉっ! 鉛色の吹雪が、真紅のフェラーリを優しく包んで、奈落の底へ連れて行っちゃうんだよぉーっ☆!!」


フブキは冷徹な瞳で、抵抗を止めた獲物を見つめる。

次の瞬間、エミーラがわずかにノーズを向け、488をコース外の闇へと優しく押し出した。


若林「クリスタ対フブキ対赤い戦闘機!! 激しいぶつかり合いだァァァァ!!!! 三台が完全に重なり合い、火花で夜道が真昼のように明るいィィッ!!!」


フブキの「揺りかご」に沈みかけたクリスタが、ステアリングを自らの拳で叩き、強引に意識を呼び覚ました。


クリスタ「……アタシを……眠らせるなんて、百年早いのよッ!! 燃えろ、488ッ!!」


マグマのような熱気が再燃し、フェラーリがエミーラの横腹を突き上げる!

だが、その外側からはカナタの86が、二台の接触によって生じたわずかな慣性の隙間に、弾丸のように突っ込んできた。


カナタ「……ここだッ! 二人がやり合ってラインが膨らんだ今しかないッ!!」


ガガガガッ!!!


鉛色のエミーラを挟んで、右に真紅の488、左に赤い86。

三台のマシンがサイドミラーを削り合い、ボディーを軋ませながら、三連装の噴進弾となってコーナーを駆け抜ける。


マヒロ「きゃあぁぁっ☆ 三人ともめちゃくちゃだよぉっ! 氷と炎と魂がぶつかり合って溶けちゃうよぉーっ☆!!」


三台の激しい肉弾戦の中、フブキの瞳から一切のハイライトが消え、底なしの虚無が宿る。


フブキ「じゃあ、二人ともさっきより深い吹雪を見せてあげる......ッ」


その言葉と同時に、信じられない現象が起きた。

カナタの86とクリスタの488に挟まれていたはずのエミーラが、ノイズが走るように輪郭を失い、透き通っていく。


若林「な、なんだってェェェェ!!? エミーラが……フブキが消えるッ!!? カメラの故障かッ!? いや、肉眼でも透けて見えるゥゥッ!!!」


カナタ「消えた……ッ!? いや、そこにいるはずなのに……感覚が掴めないッ!!」


フブキが放つ「深淵の吹雪」が、周囲の光と音を完全に屈折させ、マシンの存在そのものを「虚数」の世界へと引きずり込んだのだ。

透明になったエミーラは、物理的な接触さえも無効化するように、二台の隙間をすり抜け、猛吹雪の幻影を残して前方へと霧散した。


クリスタ「嘘でしょ……!? アタシのフェラーリが、空気を叩いてるみたいじゃないッ!!」


マヒロ「きゃあぁぁっ☆ フブキちゃんが本当の幽霊になっちゃったよぉっ! 吹雪の棺桶どころか、吹雪の冥界に連れて行かれちゃうよぉーっ☆!!」


透明になったエミーラが二台を切り裂いて前方へ消えた刹那。

カナタとクリスタの五感は、現実を拒絶するほどの「極寒」に叩き落とされた。


カナタ「なっ……なんだこれ……ッ!? 雪……? 山の中なのか……ッ!!?視界が!」


フロントガラスの向こう側、さっきまで見えていた飯坂の街明かりやシラヌイのテールランプが、猛烈な吹雪によって掻き消される。

気温は一気に氷点下、いや絶対零度。吐く息は白く凍り、ステアリングを握る指先が、雪山で遭難したかのように感覚を失っていく。


クリスタ「アタシの……フェラーリの熱が、奪われていく……ッ! エンジンが、凍りつこうとしてるのッ!!?」


若林「信じられない光景だァァァァ!!!! フブキに抜かれた二台が、秋空の夜に雪山の極寒を体感しているゥゥッ!! 86と488が、目に見えない吹雪に飲み込まれ、コース上で力なく彷徨い始めたァァッ!!!」


マヒロ「きゃあぁぁっ☆ カナタくんもクリスタさんも、お目々が真っ白だよぉっ! フブキちゃんの深淵に触れたせいで、魂がヒマラヤの頂上に飛ばされちゃったんだよぉーっ☆!!」


フブキ「……ふふ、そこで静かに凍りなさい。春が来るまで、ずっと……。」


鉛色の亡霊が去った後には、ただ冷たい沈黙と、凍りついた二台のマシンだけが取り残された。


視界を覆い尽くす白い闇。エンジンの回転数が落ち、車内はシン……と静まり返っていく。

カナタは震える手で、重くなったステアリングを必死に支えていた。


カナタ「まだ……諦め……っ、相棒(86)が……まだ生きてるんだ……ッ!!」


薄れゆく意識の中、カナタがアクセルを踏み込もうとしたその瞬間。

すぐ耳元で、現実の音さえも凍りつかせるような、フブキの声が響いた。


フブキ「まだくたばってなかったの......?」


透明化ステルスしたまま、カナタの86に並走していたエミーラ。

その存在を感じ取った瞬間、カナタの精神こころに直接、鉛色の吹雪が突き刺さる。


フブキ「しぶといわね。でも、その無駄な抵抗が、余計にあなたを苦しめるのよ。……おとなしく、雪の下で眠りなさい。」


若林「カナタの86、ついに失速ッ!! フブキの冷徹な一言が、カナタの最後の闘志を凍らせにかかったァァッ!! まさに吹雪の女王による、非情な『死の宣告』だァァッ!!!」


マヒロ「うわぁぁんっ☆ カナタくん、もう限界だよぉっ! 吹雪の棺桶の蓋が閉まっちゃうよぉーっ☆!!」


カナタを雪山の幻影へと葬り去ったフブキが、その透明な輪郭を徐々に夜の闇へと戻していく。

彼女の視線の先には、黄金に輝くLFAのテールランプ。


フブキ「お姉ちゃん、、、」


その声は、先ほどまでの冷酷なものとは違い、どこか寂しげで、執着に満ちた響きを含んでいた。

前を走るLFAのコクピットで、シラヌイがバックミラー越しに妹の瞳を射抜く。


シラヌイ「フブキ、、、同じ双子だからって負けないからね、、、、、」


若林「な、なんだってェェェェ!!? シラヌイとフブキ……二人は双子の姉妹だったのかァァッ!!!?

天使の歌声を持つ姉と、吹雪の死神と呼ばれる妹……今、米沢の峠道で、運命の姉妹対決が勃発だァァッ!!」


シラヌイがアクセルを踏み抜くと、V10エンジンが「天使の絶唱」を上げ、空気を細かく振動させる。

対するフブキのエミーラからは、全ての音を吸い込むような絶対零度の静寂が溢れ出す。


マヒロ「きゃあぁぁっ☆ 似てないようで似てる二人だと思ってたけど、まさかの双子ちゃんだったんだねぇーっ☆

光と影の姉妹喧嘩、これはもう誰も止められないよぉーっ☆!!」

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