米沢編第31話 上位グループ激戦区
K368
ちとせ「カナタく〜ん♪ 来たんだね〜、、、」
カナタ「ちとせ!!!」
ちとせ「抜かせないよ〜、、、もへ〜、、、、、、」
バイパスの超高速セクションから、米沢市内へと向かうタイトな中速コーナー。
これまで鉄壁の守りを見せていたシラヌイのLFAに対し、カナタの86がその「死神の鎌」を振り下ろした。
若林「そして!!! 赤い戦闘機がLFAを抜いてしまうゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!」
ゴオオオオオオオ!!!
ステアリングを最小限の動きで保持したまま、カナタの86が「ゼロ・カウンター」に近い姿勢でコーナーへ飛び込む。
タイヤの摩擦音が悲鳴ではなく、勝利の咆哮となって夜の空気を切り裂く。
シラヌイ「へぇー? ......抜かれちゃった✩」
バックミラーから消えたと思った刹那、真横に並び、そして前へと躍り出た赤い残像に、シラヌイの口角が愉悦に吊り上がる。
マヒロ「これぐらいのレベルのドライバーだと簡単に抜けるものではありませんので、、、カウンターもほとんどせずにドリフトしていきましたね、、、、、、。まさにタイヤのグリップとスライドの『黄金比』を見極めている証拠ですっ☆」
若林「腹切カナタがシラヌイをついにドリフトでオーバーテイク!!!!!
格上のLFAを、86という名の戦闘機が撃墜したァァァァッ!!!」
カナタの86から放たれる赤いオーラが、LFAの放つ光を飲み込み、そのままトップ3が争う遥か前方へと加速していく!
実況席の喧騒が遠く感じるほど、静まり返ったエーペックスカップ本部。
無数のモニターに映し出されるテレメトリデータと、赤い戦闘機の挙動をじっと見つめていたセノが、わずかに口角を上げた。
セノ「フッ...このやり方は俺も見事なモンだと籠ったよ、、、、、、」
隣にいたスタッフたちが、その一言に息を呑む。
セノが特定のドライバーの技術を、これほどストレートに称賛するのは極めて異例なことだった。
セノ「並の知識と技術だと公道ではすぐ外側のガードレールに吹っ飛ぶからな、、、ッ。
カウンターを当てずに滑らせるということは、路面状況、タイヤの熱、そして車体の重心移動のすべてを、
針の穴を通すような精度でリンクさせている証拠だ。」
セノの視線は、モニターの中で4位に躍り出た86を捉えて離さない。
セノ「腹切カナタ……。あいつはただ『速い』んじゃない。公道という名の魔物を、完全に手懐けてやがる。面白い……そのままどこまで上がってくるか、見せてもらおうか。」
バイパスの超高速域から一転、コースは小川を跨ぐ橋へと続く急勾配のダウンヒルへ。
若林「R13! 小川の橋を駆けくだるレーサー達!!! まるでジェットコースターのような落差ッ! 重力から解き放たれたモンスターたちが、米沢の夜を切り裂いていくゥゥッ!!!」
先頭のイヨは重力波動で強引に路面を掴み、浮き上がろうとするスープラを押さえつける。
だが、その真後ろ。2位のフリスと3位のちとせ、そして4位のカナタが、橋の継ぎ目で同時にジャンプ!
フリス「……この程度の落差、スプリンターの勢いを止める障壁にはならない......ッ!」
ちとせ「もへ〜……皆さんとっても元気でいいね~。お豆腐、崩れないといいですけどぉ……」
カナタ「……止まるな。86、俺の意志に応えろッ!!」
四台のマシンが、空中で一列の「光の帯」となり、小川のせせらぎをエンジンの咆哮でかき消しながら橋の向こう側へと着地する。
サスペンションが底突きし、火花が夜の闇を白く照らし出す。
このダウンヒルが、膠着していたトップ集団の均衡を完全に破壊した!
ダウンヒルの着地。サスペンションが悲鳴を上げ、火花が夜の闇を裂いたその瞬間、カナタの86はちとせのフェアレディZの背後、数ミリの位置にまで迫っていた。
ちとせ「カナタく〜ん♪ 来たんだね〜、、、」
通信回線に、戦場の緊張感とは無縁な、のんびりとしたちとせの声が響く。だが、バックミラー越しに見える彼女の瞳――ブルーグレーの輝きは、獲物を逃さない氷の獣そのものだった。
カナタ「ちとせ!!!」
ちとせ「抜かせないよ〜、、、もへ〜、、、、、、」
刹那、ちとせのZから絶対零度の冷気が爆発的に吹き出す。
橋を渡り終えた直後の路面が、彼女の意思に応えるように瞬時に「ヌルコチ」とした弾力のある氷に覆われた。
若林「ちとせが動いたァァァッ!! おっとりした口調とは裏腹に、カナタの進路を完全に氷結封鎖ッ!! これこそが氷雪の獣神、冷たくタチの悪い『極寒の洗礼』だァァッ!!!」
マヒロ「きゃあぁぁっ☆ ちとせお姉ちゃん、全然のんびりしてないよぉっ! カナタくんのタイヤをカチコチにして、お豆腐と一緒に冷やしちゃうつもりだねぇーっ☆!!」
カナタ「……ッ、滑る!? いや、この質感……重力が効かないのかッ!!」
カナタの86が、ちとせの作り出した特殊な氷の罠に足元を掬われ、テールを大きく振り乱す!
飯坂温泉街を抜けた直後の緩やかなカーブ。
「氷雪の獣神」ちとせのRZ34が放つ絶対零度のオーラが、路面を白く、そして滑らかに凍りつかせる。
若林「赤い戦闘機がRZ34に仕掛けを、、、ッ!!」
キィキィィィッ!!!
カナタの86が氷の路面に足元を掬われ、タイヤが悲鳴を上げる。
だが、カナタは瞬時にステアリングを微調整し、マヒロが驚愕した「カウンターレス」の姿勢で強引にインサイドを突こうとする。
ちとせ「言ったよね〜カナタく〜ん✩ そう易易と抜けられたら困るよ〜、、、、、、」
ちとせがブルーグレーの瞳を細め、さらに冷気を強める。
Zのリアがわずかにスライドし、カナタの86をガードレール際へと押しやる。
おっとりした声とは裏腹に、そのブロックは一分の隙もない。
ちとせ「もへ〜……。ここで凍っちゃえば、お豆腐も新鮮なままですよぉ……♪」
カナタ「……ッ、ちとせ……! 本気か……!?」
若林「ちとせ、一切の妥協なしッ!! 飯坂の街を抜けてもなお、極寒のディフェンスがカナタを苦しめる!! 86のターボ音が、氷の壁に跳ね返されて虚しく響くゥゥッ!!」
飯坂温泉の湯煙を背に、国道13号へと続く夜道。
ちとせのRZ34が撒き散らす「極寒の絶対零度」の性格が、路面をスケートリンクのように変えていく。
若林「さあ、修正情報が入りました! 24位は300馬力の衝撃、伊藤翔太だァァッ!! 中団も熱いが、今は前方ッ! 飯坂の夜を凍らせる、ちとせとカナタの師弟対決が激化しているゥゥッ!!」
カナタ「……ッ、この氷……ただ滑るだけじゃない。タイヤの熱を奪って、グリップを完全に殺しに来てるのか……!!」
ちとせ「もへ〜……カナタくん、鋭いねぇ。でも、気づいても無駄だよぉ。私のZの後ろは、世界で一番寒い場所なんだからぁ……♪」
ちとせがステアリングを優雅に捌くと、Zのテールが左右に揺れ、カナタの86に「氷の飛礫」を浴びせる。
飯坂の温泉客が驚くほどの爆音と冷気が、静かな夜を支配していく。
マヒロ「うわぁっ☆ ちとせお姉ちゃん、カナタくんのことを『お豆腐』だと思って、キンキンに冷やして保存しようとしてるねぇーっ☆ 美味しくなっちゃうよぉっ☆」
ちとせのRZ34から放たれる冷気が、飯坂の夜を絶対零度で上書きする。
カナタの86が氷の路面に足を取られ、一瞬駆動力を失ったその隙を、ちとせは見逃さなかった。
ちとせ「もへ〜……カナタくん、おやすみなさい。……また次回、遊びましょうねぇ……♪」
RZ34が400馬力オーバーのトルクを路面に叩きつけ、赤い戦闘機を置き去りにする異次元の加速を見せる!
若林「ちとせのRZ34が一気に86を突き放していくゥゥ!!! 赤い戦闘機はこれで3位争いからは脱落かァァァァ!!!? カナタ、万事休すかァァッ!!!」
だが、絶望の淵に沈むカナタの背後から、鼓膜を突き破るような超高音の咆哮が迫り来る。
若林「その後方から仕掛けたァァァァ!!! LFAェェ!!!! 天使の咆哮が、氷の夜を切り裂きながらトップ集団へ殴り込みだァァッ!!!」
シラヌイ「あははっ✩ 楽しくなってきたから、ボクも混ぜてよ! 凍りついた世界に、ボクの歌を響かせてあげるッ!!」
シラヌイのLFAが、氷結した路面など存在しないかのような超旋回で、失速したカナタの86を右側から一気にパス!
白銀の閃光となって、ちとせのZの背後へと躍り出た!
前方でちとせとシラヌイ、そしてカナタが死闘を繰り広げているその遥か後方。
中団グループの均衡を、たった一台のコンパクトカーが破壊しようとしていた。
若林「おっとォォォォ!!! ここで沈黙を守っていた24位、伊藤翔太が動いたァァァァ!! 300馬力の衝撃が、前方の4台を一気に飲み込もうとしているゥゥッ!!!」
伊藤「……スイフトだからって、舐めてんじゃねーぞ。この加速……受け切れるヤツがいるかッ!!」
軽量ボディに過激なチューニングを施したエンジンの咆哮。
伊藤のイエロースイフトスポーツが、並走していたライバルたちの隙間に、弾丸のような速度で飛び込んでいく。
若林「1台! 2台!! 3台!!! まだ止まらないッ!! 300馬力のパワーが軽量ボディを押し出し、まるで物理法則を無視したような伸びを見せているゥゥッ!!」
マヒロ「きゃあぁぁっ☆ 伊藤くん、すごいっ! あのスイフト、もう車じゃなくて飛んでくるミサイルだよぉーっ☆!!」
伊藤が4台目のインサイドへ強引にノーズをねじ込むと、飯坂の夜道にタイヤの焦げる臭いと、格上を喰らう野心の火花が散った。
中団グループが伊藤翔太の強襲で混乱に陥ったその刹那、相川の瞳が「一筋の真空」を捉えた。
先行車たちが激しくラインを入れ替えることで生まれた、複雑に絡み合う巨大なスリップストリームのトンネル。
相川「オラァァァァ!!!! 行くしかねェェ!!! 全員まとめて風の餌食にしてやるぜッ!!」
R35 NISMOのブースト圧が限界まで跳ね上がる。
相川は前のマシンのリアバンパー数センチまで肉薄し、その風を奪っては次の獲物へ、また次の獲物へと、飛び石を跳ねるような超高速移動を開始した!
若林「真っ先にストレートで動いたのは相川ァァァァ!!!! 1台、2台……いや止まらないッ! 3、4、5……なんと6台ごぼう抜きィィィィィィ!!!!!!!!」
11位付近を走っていた柳津パパや古田レジェンドさえも、一陣の銀色の風となって抜き去る相川!
マヒロ「うわわわぁっ☆ 相川くん、空飛んでるみたいだよぉっ! 6台も一気に抜いちゃうなんて、スリップストリームの魔法使いだねぇーっ☆!!」
相川「見たかッ! 俺が風を味方につければ、どんな格上だって関係ねぇんだよォォォッ!!」
若手の無謀とも言える連続オーバーテイクが、ベテランたちのプライドを逆撫でした。
特に、山吹花に屈辱を味わわされた高橋勇太の瞳には、かつての冷徹な光が戻っていた。
高橋「……若造どもに好き勝手させすぎたな。古田さん、あんたの『伝説』……ここで一度、断たせてもらうッ!!」
NSXのSH-AWDが、飯坂の夜道を精密にトレースする。
先行する古田のMR-Sが描く理想のライン――そのわずかな隙間に、高橋は吸い込まれるようなブレーキングで飛び込んだ。
若林「さらに高橋勇太が古田をオーバーテイク! 沈黙していた銀色の断頭台が、ついにレジェンド・古田のりあきを捉えたァァッ!!!」
古田「……ほう、目が戻ったな高橋。だが、そう簡単に……ッ!?」
古田がラインを閉じようとした瞬間、高橋のNSXがさらに鋭い角度でインサイドを抉る。
銀色の閃光がMR-Sの横をすり抜け、前方の相川と山吹花を追撃する体制に入った!
マヒロ「きゃあぁぁっ☆ 高橋さん、怒らせるとやっぱり怖いねぇーっ☆ 断頭台の刃が、レジェンドの首をハネちゃったよぉーっ☆!!」
若林「さあ、カメラが再び先頭集団を捉えました! 1位から7位、そこにあるのはもはやレースではなく、神々の領域の殺し合いだァァッ!!」
先頭を走るイヨのスープラ。その後ろ、フリスのポルシェがピンクの綿雪を舞わせ、重力と甘い香りが火花を散らす。
だが、今もっとも熱いのは3位争いだ。
ちとせ「もへ〜……シラヌイくん、そんなに大きな声で鳴かないでくださいよぉ……凍っちゃいますよぉ〜?」
シラヌイ「あははっ✩ ちとせちゃんの氷、ボクの歌声(V10)で全部粉々に砕いてあげるッ!!」
氷雪の結界を張るちとせのRZ34と、超高音の咆哮で空気を震わせるシラヌイのLFA。
二台のオーラが激突し、飯坂の夜空にオーロラのような光が走る。
そのすぐ背後では、氷の罠を神業のバランスで切り抜けた4位のカナタが、虎視眈々と二人の隙を狙っている。
カナタ「……まだだ。この二人がやり合っている間に、道は必ず開く……ッ!」
さらに後方、6位の大成と7位のフブキ。
「白い狼」と「鋭利なる吹雪」。二つの「白」が、上位陣の放つ強烈なプレッシャーに耐えながら、米沢への登り坂を前に爪を研いでいた。
飯坂から国道13号へ向かう、タイトな右コーナー。
6位の岡田大成が、得意の4WDトラクションを活かしてインを抉ろうとヤリスを向けた。
岡田「ここだ……! 一気に上位を――」
若林「岡田大成行くかァァァァ!!!!? いや、、行けないッ!!! 赤い戦闘機の方が鋭いエントリースピードォォ!!!!!」
大成がブレーキを踏むコンマ数秒前、その視界を「赤い影」が横切った。
カナタの86が、ちとせの氷が残る路面を物ともせず、ノーブレーキに近い速度でインサイドへ飛び込んだのだ。
岡田「なっ……!? あの速度で曲がれるわけが……ッ!!」
カナタの86は、タイヤが白煙を上げる寸前の極限状態でグリップを維持。
大成の進路を完璧に塞ぎながら、先行するシラヌイとちとせの懐へと強引に割り込んでいく!
マヒロ「きゃあぁぁっ☆ カナタくん、ブレーキ壊れちゃったのぉーっ☆!? 狼さんのヤリスもびっくりして足が止まっちゃったよぉーっ☆!!」
カナタ「……岡田、悪いな。今は一秒でも早く、あの二人の背中に触れなきゃならないんだッ!!」
カナタの異常なエントリースピードに視線を奪われ、コンマ数秒、大成の集中力が前方へと削がれた。
そのわずかな「エアポケット」のような隙間に、鉛色のエミーラが滑り込む。
若林「そして、、そのすぐ後ろから来てしまったのかァァァァ!!!?? 鉛色のエミーラ!!! フブキッ!!!!」
エンジン音さえも夜の闇に吸い込まれるような、冷徹で無駄のない加速。
大成のヤリスのサイドミラーが鉛色の車体で埋め尽くされる。
フブキ「ここまで大したことなかった......」
吐き捨てられた言葉は、氷よりも冷たい。
上位陣の乱戦を「低レベル」と切り捨てるかのような絶対的な自信。
エミーラは、ヤリスが描くラインの外側から、まるで重力に逆らうように並びかける!
岡田「後ろから速いのが、、、ッ!!? まさか、この速度で外から……ッ!!」
若林「岡田大成に並んでしまうゥゥ!!!!! 白い狼の喉元に、鋭利なる吹雪が突き立てられたァァッ!!!」
マヒロ「きゃあぁぁっ☆ フブキちゃん、今まで死んだふりしてたのぉーっ☆!? 鉛色のエミーラが、大成くんを飲み込もうとしてるよぉーっ☆!!」
若林「抜かれてしまったァァァァ!!!!!! エミーラこれで6位浮上ォォォォ!!! 赤い戦闘機に張り付いてしまう!!!!」
コーナー出口の立ち上がり。大成のヤリスがわずかにラインを乱した刹那、フブキのエミーラが鉛色の閃光となってその横をすり抜けた。
息をつく暇もなく、フブキは前方を走るカナタの86へと照準を合わせる。
フブキ「……赤い86。あなたの走りは少し熱すぎる。……私が、冷ましてあげるわ。」
86のリアウイングと、エミーラのフロントノーズ。
触れ合わんばかりの距離――「ゼロ・レンジ」のチェイスが始まった。
カナタが放つ赤きオーラを、フブキの鉛色のプレッシャーが侵食していく。
カナタ「……ッ! 背後から、ちとせとは違う……刺すような冷気が来る!? このエミーラ、さっきまでとは別人かよッ!!」
若林「フブキ、一切の容赦なしッ!! 6位浮上の勢いそのままに、カナタの86を完全にロックオン!! 米沢の山道を前に、5位争いが火花を散らすゥゥッ!!!」
マヒロ「きゃあぁぁっ☆ フブキちゃん、本気モード全開だよぉっ! カナタくん、後ろから鋭い鉛の針で突っつかれてるみたいで、逃げ場がないよぉーっ☆!!」
カナタの全身を、経験したことのない悪寒が駆け抜ける。
バックミラーを埋め尽くすのは、夜の闇に同化するような鉛色のエミーラ。
エンジン音さえ聞こえないほどの至近距離で、フブキはカナタの呼吸さえも読み取っているかのようだった。
次回 フブキのちから
朝9時に公開




