米沢編第25話 王手を掛ける
K362
国道13号バイパス、21位争いは混迷を極めていた。
フブキの冷気で凍りついていた花のWRX STI。そこに、二台のイタリアン・レッドが牙を剥く。
クリスタ「3速使えないみたいね、、、、ッ! 馬力の高いFerrariなら抜くこと自体は、一瞬よ、、、、ッ!!」
「でも、赤い戦闘機も青い戦闘機でさえも300馬力程度しかないからそれでギアの2速や3速がないのは致命的、、、、、ッ!!!!」
「ノーズねじ込んで、、、外に思い切りボディごと吹き飛ばしてあげる、、、、ッ!!!!」
クリスタ・ニールセンの488 GTSが、ターボの咆哮と共に花のイン側を抉る。
だが、その背後からさらに鋭い「氷と宝石」の輝きが迫っていた。一気に二台を抜き去った、柳津カリンのローマだ!
クリスタ「でも、、、すぐ後ろから、、、来たッ!! もう一人のFerrariが、、、ッ!!」
カリン「お兄さんが前にいるの、、、ッ!! こんなところじゃ、、、諦め切れない、、、ッ!!!」
遥か前方の8位を走る兄・雄介の背中を追い、カリンはV8ツインターボを限界まで回す。
二台のフェラーリが、21位を走る花のWRXを左右から挟み込み、その存在を消し去ろうとしたその時。
後方の26位、黄色のスイフトスポーツから見守っていた伊藤翔太が、絶望に目を見開く。
伊藤「そんな、、、、花、、、、やられちゃう、、、、?」
カナタ「花、、、、、、ッ!!!!!」
その瞬間だった。
ギュワアアアアアア!!!!
凍りついていたWRXのテールパイプから、青白いアフターファイアが闇を切り裂いて噴き出した!
3速が使えない? シフトが壊れている? そんなものは「気合」でねじ伏せる。
花の瞳に再び「桜狼」の獰猛な光が宿り、ステアリングを握る手が熱を取り戻す!
若林「山吹花に再び火がついたッ!!!!! 左右から迫る二台のフェラーリを強引に押し返し、3台で並走へ持ち込むゥゥゥッ!! 信じられないッ! 桜狼はまだ死んでいなかったァァッ!!!」
花「……負けない……見てて。私は……まだ走れるっ!!」
マヒロ「花ちゃぁぁんっ!! いけぇぇーっ! 300馬力の底力、見せてやれぇぇっ!!」
今の山吹花にあるのは、フェラーリ二台の風圧に潰されまいとする、剥き出しの生存本能のみ。
クリスタ「せっかくこの馬力あるFerrariでスバルを潰せると思ったのに、、、、計算外じゃない、、、、ッ!!! でも、、、潰して、、、ッ!??」
クリスタの488 GTSが、V8ツインターボの暴力的なトルクでWRXを左右から圧縮し、路肩のガードレールへと押し潰そうとする。
その「殺意」が完成しようとした瞬間、クリスタの右サイドから、より鋭利で冷徹な気配が襲いかかった!
カリン「、、、、ッ!! 私がいかせない、、、ッ!!」
柳津カリンのフェラーリ・ローマが、まるで巨大な氷の槍へと変貌したかのように加速する。
カリンは花を救うためではない。ただ、兄のいる前方へ行くために、邪魔なものは味方であろうと容赦なく排除する!
若林「柳津カリンのFerrari Romaが氷の槍のように前へ出ようとしている、、、、クリスタの488 GTSを掠めてェェッ!! フェラーリ同士が火花を散らすゥゥッ!!!」
金属が削れる嫌な音が夜のバイパスに響く。
カリンのローマの左フェンダーが、クリスタの488のドアを強引に削り取り、その衝撃でクリスタのラインが乱れた。
三台並走の均衡が、内側からの身内撃ちによって崩壊する!
花「(……今だっ!!)」
花はその一瞬の隙を見逃さず、フルブーストで二台の間から突き抜けようとアクセルを蹴り飛ばした!
福島市飯坂町平野
バイパスは飯坂区間へと突入し、道はよりタイトに、そして複雑なうねりを見せ始める。
そこで柳津カリンが目撃したのは、先ほどまで凍えていたはずの少女による、物理法則を無視した「舞い」だった。
カリン「速い、、、ッ!! さっきとは別人、、、、ッ!! 人間とは思えないように滑るかのようにタイヤを食いつかせてる、、、、?」
花のWRX STIは、もはやアスファルトの上を走っているのではなかった。
路面とタイヤの間に生じるわずかな摩擦の「波」を完璧に捉え、滑りながらも加速するという矛盾した挙動を成立させている。
3速が死んでいるはずなのに、花は高回転のまま強引にコーナーを曲がり、カリンのフェラーリ・ローマの鼻先をミリ単位でかすめていく。
カリン「なんでそんなことができてしまうの、、、、?」
カリンの瞳には、花の背後に「巨大な狼の影」が咆哮を上げているのが見えた。
恐怖。そして敬畏。
フェラーリのV8が叩き出すパワーをもってしても、飯坂の入り組んだ闇の中で踊る青い影を捉えることができない。
若林「コースは飯坂区間へ!! おっと!! 山吹花がFerrari Romaと鋭い競り合いが始まっているゥゥゥ!!!! 15歳のフブキが放った冷気を、花は今、自らのタイヤを冷やす『武器』へと変えたのかァァァッ!!?」
花「……見えた。ここのライン、私だけが通れる道……ッ!!」
花はステアリングを最小限に。だが、その一瞬の入力でWRXはカリンの懐深くへと突き刺さった。
飯坂区間のテクニカルなS字コーナーが続く中、花のWRX STIの車内に、今までとは違う「音」が響き渡った。
無理やり叩き込み続け、悲鳴を上げていたトランスミッション。だが、フブキの冷気が金属の熱膨張を抑え込み、皮肉にも最適なクリアランスを生み出していた。
花「3速が、、、使える、、!」
カチッ、という小気味よい感触。
今までスカスカだったゲートに、確かな重みが戻る。
花は迷うことなくクラッチを蹴り、シフトレバーを叩き込んだ。
ギュルルルゥゥゥッ!!
3速、フルブースト。
今まで2速で吹けきり、4速で失速していた「空白の領域」が埋まる。
WRXのボクサーエンジンが、まるで心臓を取り戻したかのように歓喜の咆哮を上げた!
カリン「……ッ!? エンジン音が変わった……!? ここからさらに加速するなんて、嘘でしょッ!!」
カリンのフェラーリ・ローマの横を、青い稲妻が文字通り「ワープ」するかのような加速で通り抜ける。
コーナーの立ち上がり、3速の強大なトルクが四輪に均等に配分され、アスファルトを粉砕しながら車体を前へと押し出した。
若林「奇跡だァァァッ!! 山吹花、死んでいたはずの3速がここで復活ッ!! 飯坂のワインディングを、かつての父親を彷彿とさせる全開走行で駆け抜けていくゥゥッ!! これが……これが桜狼の、本当の姿だァァァッ!!!」
マヒロ「いっけぇぇーっ! 花ちゃんっ!! そのギアは、君を信じるみんなの想いだよっ!!」
後方で見守っていた翔太の視界からも、青いテールランプが瞬く間に遠ざかっていく。
もう、誰も彼女を「存在が薄い」などとは言わせない。
飯坂区間のテクニカルな夜が、3速という翼を得た「桜狼」の独壇場へと変わる。
前方の16位グループ――北斗、相川、シオン、そしてチャッピー。
強者たちが固まって火花を散らすその真っ只中へ、青い閃光が文字通り「突っ込んだ」。
若林「山吹花が来たァァァァァッ!! 20位から一気に加速ッ! 前方の16位グループ4台に、桜狼が牙を剥くゥゥッ!!」
チャッピー「……っ! 青い……うそっ、花さんなのっ!?」
シオン「なっ……あの距離から、ブレーキングだけで詰めてくるっていうの……ッ!?」
花は一切の迷いなく、4台が形成する複雑なラインの「隙間」を見抜いた。
ステアリングを最小限の角度で切り込み、3速の圧倒的な立ち上がり加速で北斗のAMG GTRの懐を抉る。
さらに、驚愕でラインを乱した相川のR35とシオンのR34の「間」を、ミラーが擦れ合うほどの精度でブチ抜いた!
相川「バカなッ!! この狭いところで三台並走から抜き去るだとッ!!?」
※毎回スリップしてるあなたこそバカてす笑
北斗「……ぬぅっ! これが……これが奴の言う『本能』の走りかッ!!」
最後は先行するチャッピーのコペンを、アウト側から豪快なドリフトで捲り上げる。
WRXのテールが路面を掻きむしり、ピンク色の雪煙が4台の視界を真っ白に染め上げた。
花「……待たせて……ごめん。私、もう止まらないから……ッッ!!!!!」
若林「4台ごぼう抜きィィィーッ!! 山吹花、16位浮上ォォッ!! 絶望の淵から這い上がった狼が、今、上位陣を丸呑みにしようとしているゥゥッ!!」
飯坂の夜を切り裂くのは、覚醒した桜狼だけではない。
兄・雄介の背中を追う柳津カリンのフェラーリ・ローマが、21位を走るサテラのランエボⅦのテールに、音もなく忍び寄る。
サテラ「……っ! なんだこのプレッシャーは……ッ!......お前まで兄貴に似て無茶苦茶なライン取りしやがって……ッ!!」
サテラは持ち前の気さくな性格で毒づきながらも、ツンデレな彼らしく「行かせてたまるか」とステアリングを力強く抑え込む。
4WDのトラクションを活かし、飯坂のタイトな立ち上がりでフェラーリを突き放そうとするサテラ。
だが、カリンの瞳には、すでに「勝利の欠片」が見えていた。
カリン「私は、、、まるで脆く繊細なキャンドルアイスの氷のように突き刺していく、、、、、、ッ!!」
カリンがパドルシフトを弾くと、ローマのV8サウンドが鋭い高音へと変わる。
それは力任せのオーバーテイクではない。サテラのランエボが描くラインの、わずか数センチの「揺らぎ」を突く、針の穴を通すような刺突。
サテラ「なっ……!? そこから入るのかよッ!? 繊細すぎて逆に見えねぇよ……ッ!!」
若林「柳津カリンがサテラに接近!!! そして一気に突き刺したァァァーッ!! まさにキャンドルアイス! 脆く、しかし鋭い氷の刃が、サテラの鉄壁の守りを内側から破壊したァァッ!!」
横並びになった瞬間、サテラはカリンの冷徹な横顔を見て、思わずゾクりと震えた。
カリンはサテラを視界に入れることすらなく、氷の槍となって前方の闇へと消えていった。
サテラ「……あーあ、行っちまった。……あんな顔、兄貴にそっくりじゃねぇか。可愛くねーのっ!!」
吐き捨てるサテラの言葉とは裏腹に、その表情には強者と戦えたことへの高揚感が滲んでいた。
飯坂のタイトな右コーナー。
サテラのランエボⅦを鮮やかに、そして冷酷に切り裂いたフェラーリ・ローマのテールランプが、夜の闇に吸い込まれていく。
慣性ドリフトの反動を抑え込みながら、サテラはバックミラー越しに消えていく「白き残像」を追い、誰に聞かせるでもなく呟いた。
サテラ「にしても可愛かったね、、、、、、髪の毛は亜麻色なのに、、、瞳は、、、淡い氷のようなブルーグレーなのがさ、、、ッ」
その声には、先ほどまでの激闘の熱気とは正反対の、どこか穏やかで、それでいて切ない響きが混じっていた。
一瞬だけ並走した際、窓越しに見た柳津カリンの横顔。
激しくなびく亜麻色の髪と、感情を排した冷徹なブルーグレーの瞳。
その「氷のような美しさ」が、ツンデレなサテラの胸の奥を、弾丸よりも鋭く撃ち抜いていた。
サテラ「……あーあ、俺は何を感傷に浸ってんだか。アイツ、絶対に俺のことなんてゴミか何かだと思ってたぞ」
自嘲気味に笑いながらも、サテラはシフトノブを力強く握り直す。
美しさに気圧されたままでは終われない。
たとえゴミだと思われていようと、あの「淡い氷」の視界にもう一度入り込むために、彼はランエボのターボを再び咆哮させた。
若林「サテラ、カリンに抜かれたショックか、あるいはその美しさに魂を抜かれたかァァッ!? しかしその加速に衰えはなしッ!! フェラーリを追うランエボ、飯坂の闇を青い火花で染め上げるゥゥッ!!」
福島飯坂ランプを目前に控え、国道13号バイパスのボルテージは臨界点に達しようとしていた。
13位、フブキのロータス・エミーラ。その後方から、黒い「深淵」が音もなく、しかし確実にその背後を飲み込みにかかる。
乎太郎「……やっと追いついた。ねぇ、フブキさん。君の氷は、僕の『深淵』を凍らせることができるかな?」
乎太郎がステアリングのスイッチを弾くと、ウアイラの可変フラップが獲物を切り裂く鎌のように立ち上がる。
820馬力のV12ツインターボが、夜のアスファルトを震わせ、銀色のエミーラの真横へと躍り出た!
若林「ウアイラとエミーラが福島飯坂ランプ手前でサイドバイサイド!!! 13位争いは、今や人智を超えた『深淵』と『絶対零度』の激突へと進化したァァァッ!!」
フブキ「…………。」
フブキは無言のまま、乎太郎の挑発を冷徹に受け流す。
時速280キロを超える超高速域。二台の距離は、わずか数センチ。
ウアイラから放たれる、全てを吸い込むような重圧。
対してエミーラから吹き出す、全てを静止させる極寒の気。
反発し合う二つの力が、バイパスの空気を物理的に歪めていた。
乎太郎「あははっ! すごいよフブキさん! 僕のタイヤが、君の冷気で悲鳴を上げてる……ッ!!」
フブキ「……うるさい。沈みなさい……深淵の底へ。」
フブキがわずかにステアリングを切り、エミーラのボディでウアイラを外側へと押しやる。
だが乎太郎は、狂気すら感じさせる笑みを浮かべたまま、その極寒の接触を真っ向から受け止めた!
マヒロ「うわぁぁぁっ!! 二人とも、飯坂ランプへの突入速度じゃないよぉーっ☆!! このままじゃ二台とも、闇の彼方に飛んでいっちゃうよぉっ!!」




