米沢編第22話 王者の威厳
K359
GRSUPRAVSフェアレディZ RZ34
ブガッティVSウアイラVSVAB!!!!
高橋勇太のNSXが必死に制止を試みる中、モニタリングルームのマヒロは、冷徹なまでに無表情な花のアップを画面に見つけた。
ヴォヴォオオオオン!!!!!!
マヒロ「花ちゃんってまさに王者だよね、どこかの王って感じがしそうな感じがあるんだよー......」
マヒロの呟きは、熱狂する実況席の中でそこだけ温度が低いように響いた。
感覚を失い、恐怖すら超越してしまった今の花は、確かにどんなプレッシャーにも動じない「孤独な王」に見える。
マヒロ「でもその見えないポーカーフェイスもいつまで保ってられるかな......?
ちょっとなーんかおかしーね、VABの動きが......。」
若林「それはつまり.....?」
マヒロ「昔友達もとあるレースに参戦したときに左手をお姉ちゃんを助けるために怪我をさせたことがあってですね......」
「ただ、山吹花の車内カメラからは怪我の形跡もありません........。もしかしたらシフトトラブルかもしれません!!!!」
花「(……痛くない……怖くない……私は、みんなを守る『盾』なんだから……ッ)」
花の瞳は、もはや先行車のテールランプを追っていない。
ただ、真っ暗な栗子峠の闇の奥、自分の存在が消えてなくなる場所を探しているかのようだ。
指先から滴る血も、激しくぶつかり合う高橋のNSXの衝撃も、今の「王者」には届かない。
若林「山吹花、高橋のブロックを強引に押し返していくゥゥッ!!
あのポーカーフェイスの裏で、一体何を考えているんだァァッ!!!!?」
「王者」という名の呪縛に囚われた少女。
その仮面が剥がれ落ち、少女としての悲鳴が上がるまで、残された距離はそう長くはなかった。
13号線バイパス、栗子峠への上り。本来ならスバルの独壇場であるはずのこのステージで、青い車体に異変が起きていた。
アクセルを踏み込んでも、ブースト計の針は鈍く、排気音は湿った火薬のように重く沈んでいる。
若林「やはり今日に限っては青いスバルブルーの電撃がストレートが伸びないッ!!! 山吹花、加速が死んでいるッ!!」
高橋「(横を通り過ぎながら)……山吹ッ!! エンジンまで凍りついてやがるのか……ッ!?お前の青い戦闘機はどこいったんだッ!!???」
15歳の少女が無理やり維持していた「ポーカーフェイス」に、初めて明らかな絶望の亀裂が走る。
感覚のない足で踏み続けるアクセル。しかし、マシンはそれに応えてくれない。
若林「山吹花がまた一歩後退ィィィィッ!!!! 13位の高橋、さらには14位の坂田五郎丸までもが、息絶え絶えの守護者を飲み込んでいくゥゥッ!!」
マヒロ「……あぁ、もう限界だね。エンジン保護モードが入っちゃってる。花ちゃんの『王者』としてのプライドが、マシンの限界を追い越しちゃったんだよ……☆」
花「(……なんで……なんで動かないの……ッ。まだ、みんなを……守らなきゃいけないのに……っ!!)」
電撃のような鋭さを失ったWRXは、後方から迫る猛獣たちの餌食となり、順位を14位へと滑らせた。
「王者」の椅子は、もはや雪の下に埋もれようとしていた。
栗子峠の急勾配。誰もがマシンの挙動を制御するだけで精一杯のその場所で、イヨのGRスープラが異次元のトラクションを見せた。
若林「そしてェェェ!!! イヨが2台の前へ!!!! 3位、4位を走っていたシラヌイとちとせを一気にパスッ!! 2位へと躍り出たァァァァッ!!」
ちとせ「...チッ。……イヨちゃんすごいね〜☆ でも、おじさんも負けないよ〜??」
舌打ちを漏らしながらも、ちとせの瞳には獣のような鋭い光が宿る。
Zのフロントをねじ込み、イヨの排気熱を直接浴びるほどの超至近距離で食らいつく。
シラヌイ「へー、☆ でも、私も負けてられないね!? 渦巻け....わたしの白い炎ッ!!」
シラヌイのLFAが、天使の咆哮を一段と高く響かせる。
路面を焦がさんばかりの熱気が、フリスの降らせるピンク色の雪を蒸発させ、真っ白な霧となって背後のカナタたちの視界を奪う。
イヨ「……先に行くよ。フリスちゃん!!!!
……君のその『甘い走り』を私がすべて溶かしてみせるからッ!!」
トップ4の争いは、もはやレースの域を超えた。
神の領域へ挑むイヨ、獣の執念を見せるちとせ、そして白い炎を纏うシラヌイ。
先頭を独走するフリスの背中を、三つの異なる殺気が同時に捉えた。
イヨのスープラに先行を許したその直後。
ちとせの駆るRZ34のコックピットから、粘りつくような濃密な殺気が溢れ出した。
ちとせ「いや〜...いよいよやってくれたねイヨちゃ〜ん......♫」
低く、地を這うようなちとせの声。
それは普段の軽薄な「おじさん」の仮面が、熱で溶け落ちたあとの本性だった。
バックミラー越しにイヨを射抜くその瞳は、獲物を逃さない飢えた獣そのものだ。
ちとせ「だったら...ここからは容赦しないよッッッッ!!!!!!!!」
RZ34のVR30DDTTエンジンが、限界を超えた過給音を響かせる。
ちとせはイヨが作った僅かな気流の乱れを突き、スープラのリアバンパーを削り取るような、狂気的なまでの超インコースへと突っ込んだ。
若林「うおおおっ!? 3位に落ちたちとせ、豹変だァァァッ!! 言葉の温度が氷点下まで突き抜けたァァッ!!」
マヒロ「……ちとせさん、本気で怒らせちゃったね。あのライン取り、イヨちゃんをコースの外に弾き飛ばすつもりだよ……っ☆!!」
イヨ「……っ!! このプレッシャー……っ!! さっきまでとは、全然違う……ッ!!」
「神の領域」に挑むイヨの背後に、泥臭く、執念深く、そして圧倒的な暴力性を持った「獣神」の影が重なり、栗子峠の夜はさらに深い赤に染まっていく。
激しさを増すトップ4の死闘。その瞬間を、公式ライブ配信の映像越しに、食い入るように見つめている瞳があった。
篠目カホ。小学6年生。
銀髪のショートヘアを揺らし、白いパーカーのフードを少し被ったまま、彼女は自宅のソファーでスマホを握りしめていた。
イヨの親友であり、共に走ることを誓った大切なパートナー。
カホ「イヨちゃん、、、、ッ!!」
カホの細い指が、熱を持ったスマホの画面を強く押さえる。
画面の中では、ちとせのRZ34が放つどす黒い殺気が、イヨのスープラを飲み込もうとしていた。
ちとせの「分際で」という冷酷な言葉が、スピーカー越しにカホの胸に突き刺さる。
もちろん、その声は13号線バイパスを猛爆するイヨには届かない。
しかし、カホの瞳には、イヨが「神の領域」へと至るまでの努力のすべてが焼き付いている。
小さな画面の中で渦巻く白い炎と、青い電撃の失速、そして親友の孤高の戦い。
カホは息を止めるようにして、米沢へと続く闇を切り裂くイヨの背中を追い続けた。
ちとせのRZ34が放つ、精神を削り取るようなプレッシャー。
だが、イヨの脳内は驚くほど静寂に包まれていた。
バックミラーに映る獣の形相すら、彼女にとってはただの「動体データ」に過ぎない。
イヨ「対抗角バッチリー......ッ!!☆ このままキープできる速度を保てる........ッ!!」
(俺の対抗角アタックは単なるアタックなんかじゃない......ッ!!!!
ここから猛烈に勢いを増す結果に過ぎない.....ッ!!!わたあめが大きくなるように!!!!)
ピンク色の雪が積もるアスファルトの上。
イヨはカウンターステアの角度とアクセル開度を、1ミリ単位で完璧に同調させた。
GRスープラのリアが外側へ流れるが、その速度は一分一厘も死んでいない。
むしろ、ドリフトの遠心力を利用して、次なるストレートへの脱出速度を上乗せしていく。
ちとせ「……なっ!? あの角度で、なんで速度が落ちない……っ!!?」
ちとせは驚愕した。
殺気でラインを乱すどころか、イヨはそれを「利用」して、さらに高い次元のコーナリングを披露してみせたのだ。
若林「見ろォォォ!! イヨのスープラ、四輪を美しく滑らせながらも、加速力は異次元だァァッ!! まさに計算し尽くされた『神の領域』のドリフトォォォッ!!」
スマホの画面越し、カホは小さく拳を握りしめた。
その瞳には、親友が磨き上げてきた「技術」への確信が宿っていた。
イヨのスープラは、ちとせの殺気を置き去りにするように、先頭のフリスの背中へと再びその鋭い鼻先を向けた。
若林「イヨのスープラ、もはや芸術的とも言えるライン取りィィ!! ちとせの殺気を完全に無効化し、先頭フリスの背中を確実に捉えたァァッ!!」
ちとせ「……ッ! おじさんの殺気が効かないなんて、可愛くないねぇ……!!」
ちとせのRZ34が、タイヤを空転させながらもイヨのテールを追いかける。
だが、その背後からはシラヌイのLFAが、白い炎を撒き散らしながら虎視眈々と順位奪還を狙っている。
一方、中段グループ。14位まで後退した山吹花のWRX STIは、もはや悲鳴を上げるような排気音を響かせていた。
若林「そして、かつての『王者』山吹花! 依然としてストレートが伸びないッ!!
15位の伊藤乎太郎、パガーニ・ウアイラがついにその真後ろに張り付いたァァッ!!」
乎太郎「……花さん。……悪いけど、沈んでもらうよ。深淵の底までね」
乎太郎の駆るパガーニの影が、花のマシンを飲み込むように重なる。
栗子峠の急勾配が、パワーを失ったWRXに非情な現実を突きつけていた。
誰もが「終わった」と思った。13号線の急勾配、馬力がモノを言うこの区間で、失速したWRXが息を吹き返すはずがないと。
だが、坂田五郎丸のバックミラーの中で、消えかかっていた青い光が再び強烈に輝き始めた。
若林「しかァァァァァし!!! ここで山吹花が坂田五郎丸に再び並んだァァァ!!
終わっていなかった!! 青いスバルブルーの電撃が、栗子峠の闇を再び切り裂くゥゥッ!!」
坂田「なんだと、、、、ッ!!? 1500馬力のこの俺に、そのボロ雑巾のようなマシンで並ぶというのかッ!!?」
坂田は愕然とした。シロンの圧倒的なパワーで突き放したはずなのに、
花はコーナーへの「超絶的な突っ込み」だけで、ストレートの差を帳消しにしたのだ。
ブレーキを捨てることで得た、死線を超える速度。
花「(……まだ……沈まない……☆。この青い色は、希望の火を消さないためにあるんだから……ッ!!)」
マヒロ「うわぁっ! 花ちゃん、サスペンションが悲鳴を上げてるのに、無理やり姿勢を制御してシロンのインを抉じ開けたよーっ☆ まさに『不屈の王者』だねっ!!」
世界最高峰のハイパーカーと、満身創痍の国産スポーツカー。
格上の怪物を相手に、花のWRXが火花を散らしながらサイド・バイ・サイドを繰り広げる。
坂田のプライドを、15歳の少女の純粋な闘志が今、真っ向から打ち砕こうとしていた。
栗子峠の闇を、三つの異なる咆哮が切り裂く。
もはや、マシンのスペック差など、この少女の前では何の意味も持たなかった。
若林「そこから...なんとウアイラも立ち上がってきたァァァァァ!!!!!
3台並走!!! スーパーカーに楯突く青の電撃の桜狼ォォ! 山吹花ァァァァァ!!!!」
「ポジションを死守できるのかアアアアアアアアア!!????」
左に漆黒の魔王・坂田のブガッティ・シロン。
右に深淵の刺客・乎太郎のパガーニ・ウアイラ。
その中央を、火花とオイルを撒き散らしながら、花のWRX STIが突き進む!
乎太郎「……信じられない。そのエンジンで、なぜ僕のウアイラに食らいつけるんだ……ッ!!?」
坂田「小娘がァァッ!!1500馬力をナメるなよォォォッ!!!!」
坂田www
シロンとウアイラが花の進路を塞ごうと、左右から巨大なプレッシャーをかける。
だが、花の瞳には、かつて福島で見た満開の桜のように、美しくも激しい闘志が宿っていた。
花「(……私は……『桜狼』。たとえ花散る時が来ても、この場所だけは、譲らないッ!!なにがあっても最後まで走り切る!!!!)」
ギギギイイイイイイインッッ!!
金属が擦れ合う悲鳴を上げながら、WRXは左右の怪物を弾き飛ばすように再加速する。
エンジンの悲鳴さえもが、王者の凱歌のように響き渡る。
若林「絶対に見逃すなァァ!!!! 絶望の底から這い上がった桜狼が、今、ハイパーカー2台を同時に飲み込もうとしているゥゥッ!!!」
マヒロ「いっけぇーっ! 花ちゃん!! それが君の、本当の『王者』の走りだよーっ☆!!」
三つ巴の死闘。時速200キロを超える領域で、三台のマシンは文字通り「紙一重」の距離で火花を散らしている。
シロンの巨体を操る坂田五郎丸の腕には、今まで感じたことのない異様な反動が伝わっていた。
坂田「クソッ! ハンドルがッ!! 並走状態はただでさえ減速せざる負えないのにこれほどまでとはッ!!」
超高速域での並走。左右を塞がれたシロンは、本来の空力性能を発揮できず、猛烈な空気の渦にハンドルを奪われそうになっていた。
わずか数ミリの接触が即、死に直結する。その恐怖が、坂田の右足を無意識にブレーキへと向かわせる。
だが、その中央で、青い電撃はさらに深くインへと切り込んできた。
坂田「ブレーキングだけを頼りにあのスバルはッ!! 狂ってやがるのかッ!!?
なんだそりゃああああああ!!!!!!」
花「(……ブレーキさえあれば……止まれる、曲がれる……ッ!前の方には一台ブレーキングがいるんだ....ッ!!!だから、ギリギリまで……離さないッ!!)」
WRXのブレーキディスクが真っ赤に焼け、ホイールの隙間から不気味な光を放つ。
シロンが風圧に負けてわずかに外側へ膨らんだその刹那、花は真っ赤に焼けたブレーキを一瞬だけ蹴り、車体の向きを強引に変えた。
若林「来たぞおおお!!見たかァァァッ!!!!!! 坂田がハンドル操作に苦しむ中、山吹花は極限のブレーキング一点に賭けたァァッ!! 桜狼、シロンの懐を完全にブチ抜いたァァァッ!!!」
マヒロ「うわぁ……坂田さん、馬力がありすぎて逆に身動きが取れなくなっちゃったね☆ でも花ちゃん、あのブレーキ……もう一回踏んだら壊れるよ……っ!!」
1500馬力の怪物を、一振りの「ブレーキ」という刃で切り裂いた少女。
桜狼の咆哮が、R13下り区間の絶壁にこだました。
吾妻連峰の稜線が夜の闇にうっすらと浮かぶ、国道13号矢野目区間。
緩やかな下りの高速ベントに差し掛かった瞬間、失速していたはずの青い影が爆発的な再加速を見せた。
若林「山吹花が13位に復帰だァァァァァ!!!!!!!! 吾妻見渡せるR13の矢野目区間ッ! 高速ベントの下りで青の電撃の桜狼がここでまた立ちはだかるゥゥ!!!!」
WRX STIのテールランプが、ピンク色の雪煙の中で鮮やかな残像を描く。
シフトが入りにくい。ストレートが伸びない。だが、この下り坂なら「重力」がエンジンパワーの不足を補ってくれる!
坂田「....シフトトラブルなのか知らないが、それでこれかよ......ッ!!」
坂田は絶句した。自分のシロンが1500馬力を解き放とうとするその瞬間、花はノーブレーキで下りのGを旋回力へと変換し、弾丸のような速度でシロンの視界から消えていった。
乎太郎「それでこそ青い戦闘機だァッ!!!!」
ヴァアアアアアアアアアン!!!!!!
ドゴオオオオオオオオオンッッ!!!!!!!!!
乎太郎の瞳が、狂喜に濁る。
絶望的な状況下でこそ輝きを増す、山吹花という「個」の力。
それはスペックやデータを遥かに超えた、レジェンドの血筋が成せる「極致」だった。
若林「このレースの中心は赤い戦闘機(腹切カナタ)と青い戦闘機(山吹花)なのかァァァァァ!!!?? 二人の少女が、米沢への道を戦火で染め上げるゥゥッ!!
台風の目の中心にはこの2台がいたあああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」




