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86伝説エーペックス[POWER!!!]  作者: SAI
POWER!!!米沢編
407/425

米沢編第19話 開会式の罠

K356

福島県庁正門前。特設ステージには若林とマヒロ、そして純白のドレスのようなレーシングスーツに身を包んだセシルが立っていた。

上空からはフリスの放ったピンク色の「コットンキャンディーの雪」が舞い降り、県庁の重厚な建物を幻想的に彩っている。


若林「お待たせしました!!! エーペックスカップ米沢グランプリもとうとう大詰め! いよいよ決勝です!!!」


マヒロ「いよいよだねー☆ なんと、今回は37名のレーサー達が駆け抜けていきます!!! 前代未聞のバトルとなるのかァァァァァ!!!??」


若林「それでは、、、、福島県福島市県庁から開会式をしたいと思います、、、、。セシルさん、、、開会式の挨拶をお願いします!」


セシルは一瞬、マイクを前にして視線を泳がせた。

37台の猛獣たちが放つアイドリングの地響きと、詰めかけた数万人の観衆。

彼女はギュッと拳を握りしめ、顔を少し赤らめながらマイクを引き寄せた。


セシル「……えっと。……別に、皆さんに期待しているわけではありません。……です。ですが、これだけの人数が集まったのですから……あまり無様な走りをして、大会の品位を落とさないでくださいね.......ッ!!」


少し震える声。しかし、その瞳には強い光が宿っている。


セシル「特に……前方集団の皆さん! ……誰とは言いませんが、寝不足だからといって、コーナーで膨らむような真似は許しません! ……それと、最後尾のレジェンドの方々も。……敬意は払いますが、コース上ではデータ通り、私たちが『最新』であることを証明してみせますから……!」


最後は自分に言い聞かせるように、ツンと胸を張るセシル。


セシル「……以上です。……怪我だけは、しないでください。……本当に、心配なんて、これっぽっちも、してませんからねっ!」


マヒロ「セシルちゃん、ツンデレ全開で可愛いー☆!!」


福島県庁前に設置された超大型パノラマスクリーンが、突如として鮮烈な光を放った。


若林「それと、、、エーペックスカップをゲームでシミュレートした映像がありますのでまずそちらをご覧下さい!」


マヒロ「わぁーっ! 本物みたい☆ これが明日の、あ、今のバトルを予言してるの!?」


映し出されたのは、最新の物理演算エンジンによって構築された、ピンク色の雪が舞う米沢の峠道。

37台のマシンがデジタルデータとして再現され、爆音と共にグリッドを飛び出す。


映像の中のフリスは、まるで意志を持つ氷の精霊のように、ポルシェを滑らせることなく加速させる。

対照的に、5番グリッドの花のWRX STIは、スタート直後に挙動を乱した。

寝不足の影響か、わずかなクラッチミートの遅れ。そこを逃さず、32位の黒川が猛スピードで背後に迫る。


花「(観客席で映像を見ながら)……嘘っ、私、あんなところで黒川に……!?」


シミュレーションは止まらない。

中段では、セシルのウラカンが精密なライン取りで他車を圧倒し、ツンとした挙動でコーナーを抜けていく。

圧巻だったのは最後尾の動きだ。

レジェンド古田のMR-Sと、柳津雄介のM4 DTMが、示し合わせたようにサイド・バイ・サイドで上位陣を「掃除」し、1コーナーを抜ける頃には20台近くをパスしていた。


映像の終盤、全ての音が消え、ピンク色のコットンキャンディーが画面を埋め尽くす。

そして、フリスのポルシェだけが、凍りついた静寂の中をチェッカーに向けて突き進むシーンで、シミュレートは幕を閉じた。


若林「……見たか! これが計算上の結果だ! だが、現実には魂がある! 感情がある! データを超えられるのは、今ここにいる37名だけだぁぁぁッ!!」


会場に集まった観衆は、そのリアルな「敗北の予言」に息を呑んだ。

しかし、グリッドに座るレーサーたちの瞳には、データを叩き潰すための激しい火が灯っていた。


若林「それでは、、、予選での抱負を、、、フリスさんが代表してお願いします!」


若林が震える手でマイクを差し出すと、ピンク色のツインテールを揺らし、フリスが静かに一歩前へ出た。

彼女が動くだけで、周囲の気温が数度下がり、舞い落ちるコットンキャンディーの雪が激しさを増す。


フリス「……皆さん、、、、こんにちは。……抱負、ですか。……そうですね、、、、」


フリスの声は、スピーカーを通しているはずなのに、まるで観衆一人一人の耳元で直接囁かれているような、不思議な透明感と威圧感を持っていた。


フリス「……このレースに、慈悲はありません。……私が見つめるのは、ただ一つ。……完璧な、終わりの景色だけです、、、、」


彼女は手にしたコットンアイスの杖を、コン、と一度だけステージに立てた。

その瞬間、最前列の観客たちの脳内に、キーンと刺すようなあのアイスクリーム頭痛が走る。


フリス「……速い者も、遅い者も、、、、最後尾の『レジェンド』も、寝不足の『守護者』も、、、、。すべて等しく、私の降らせる雪の中に、凍りついてもらいましょう、、、、。それが、この世界の、閻魔としての、、、、私の抱負です、、、、」


フリスは薄く、冷たく微笑んだ。

その瞳は、もはやレースの勝利などという小さな結果ではなく、37台すべてを自分の支配下に置くことを確信しているようだった。


マヒロ「……なんだか、フリスちゃんが言うと、本当に世界が凍っちゃいそうだよぉ☆」


若林「……ひ、冷徹! まさに絶対王者の風格だぁぁッ!! さぁ、これですべての儀式は終わった! 37台のドライバーよ、マシンに魂を吹き込めッ!!」


花はマシンのシートで身震いした。

フリスの言葉が、単なる強がりではないことを、その冷気が肌に教えていたからだ。


ピンク色の雪がアスファルトを薄く覆い、世界が甘い香りと死の静寂に包まれる中。

1番グリッドのポルシェの中で、フリスはヘルメット越しにバックミラーを鋭く見据えていた。

その視線の先にあるのは、5台後ろで静かにアイドリングを続ける、赤きターボを纏ったREVIVE 86。


フリス(やっと現れたな、、、、赤い戦闘機、、、、

たたきつぶしてあげるから、、、覚悟してね、、、????)


フリスが杖を模したシフトノブに指をかけると、彼女の周囲だけ雪の結晶が激しく舞い踊る。

彼女にとって他の35台は単なる「風景」に過ぎない。

唯一、自分の支配を揺るがす可能性を持つ「赤」だけを、徹底的に排除すること。それが彼女の楽しみだった。


一方、6番グリッドのカナタは、ステアリングを握る手が痺れるほどのプレッシャーに冷や汗を流していた。

500メートル先、先頭に位置するフリスから放たれるのは、物理的な冷気を超えた「絶望」のオーラ。


カナタ(これが、、、、王者かよ、、、ッ!!)


カナタは深く呼吸をし、かつて英雄が戦った地を思い出す。

どんなに寒くても、どんなに強大な敵が立ちふさがろうとも、この86のエンジンだけは熱く燃えている。

肘の傷はもう痛まない。あるのは、最強の少女を追い落とそうとする、レーサーとしての本能だけだ。


福島県庁の重厚なバルコニーから、若林が身を乗り出すようにしてマイクを握り直した。

上空から舞い落ちるピンク色の「コットンキャンディーの雪」は、ライトアップに反射して宝石のように輝き、観衆のボルテージはもはや臨界点を超えている。


若林「改めて、、、37名全員になりますが選手紹介してまいりましょうか、、、ッ! 皆さん、心の準備はいいですかァァァ!!?」


マヒロ「みんなカッコいいよー☆ 3人ずつ、心を込めて紹介しちゃうねっ!」


【1~3番:絶対零度の先頭集団】

若林「まずはこの3人! 予選1位、絶対王者フリス! ポルシェ718ケイマンGT4が放つ閻魔の冷気は、米沢を地獄へと変えるのか! 続く2位、シラヌイ! LFAの天使の咆哮が霧を切り裂く! そして3位、覚醒した『氷雪の獣神』ちとせ! RZ34の放つ闘気は、もはや神の領域だぁぁッ!!」


フリスは無言で杖の先を向け、シラヌイは静かに目を閉じ、ちとせは「もへ〜」と言いながらも、その背後には猛烈な吹雪が渦巻いていた。


【4~6番:蒼と赤の守護者たち】

マヒロ「次は4位、神の領域に住む少女イヨちゃん! GRスープラが光るよ☆ 5位は寝不足なんて跳ね除ける『蒼き守護者』花ちゃん! WRX STIの4駆性能で勝利を掴んでッ! そして6位、伝説を継ぐ者、腹切カナタくん! REVIVE 86 TURBOの赤い炎が、今ここで燃え上がるぅぅっ☆!!」


花は「寝不足を力に変えてやるわよッ☆!」と拳を上げ、カナタは古田の視線に応えるように、力強くステアリングを握り直した。


【7~9番:猛獣たちの饗宴】

若林「7位、吹雪の瞳を持つ男・森下遊矢! 4ローター換装のRX-8が咆哮を上げる! 8位、白い狼・岡田大成! GRヤリスの軽快なフットワークを見ろ! 9位、ゾフィア! 真紅の猛獣コルベットC7が、米沢の峠を食い荒らすッ!!」


アスファルトが、3台の全く異なるエンジン音によって激しく共鳴し、観衆の耳を震わせた。

ピンク色の雪がそれぞれのマシンのボンネットで溶け、甘い香りが一層濃くなっていく。


セシル「……(26番グリッドから)ふん、あんなに派手に紹介されて……。でも、データの数字は嘘をつきませんからっ。……少しは、様になってますけどねっ」


セシルはツンと顔を背けながらも、モニターに映し出される仲間たちの姿を、どこか誇らしげに見つめていた。


若林「興奮は冷めやらない! 続いて10番グリッドから12番グリッドの登場だぁぁッ!!」


【10~12番:銀と黒の超速重圧】

若林「10位、銀色の断頭台・高橋勇太! NSX (NC1)のハイブリッドパワーが火を噴く! 11位、漆黒の魔王・坂田五郎丸! 1500馬力の怪物ブガッティ・シロンが地響きを立てる! そして12位、自称スリップマン・相川律! R35 NISMOのリアに食らいついたら最後、逃げ場はないぞッ!!」


坂田のシロンが「バォォォッ!!」と空気を震わせる地鳴りのような排気音を放つと、相川が「俺のスリップストリームからは、誰も逃げられないぜ」と不敵に笑い、高橋は冷静にグローブを締め直した。


【13~15番:次世代の鋭き牙】

マヒロ「次は13位、氷のプリンこと夢野ユナちゃん! GR86が可憐に舞うよ☆ 14位、蒼き彗星・神代ナツメくん! 新型BRZの鋭い走りに注目! 16位……の前に15位! 白髪の弾丸・チャッピー! 小さなGRコペンが巨体をなぎ倒すぅぅっ☆!!」


ユナは「氷のように冷たく、熱く走るわ」と静かに呟き、ナツメは「スバルの誇り、見せてやる」と気合を入れ、チャッピーはヤンチャな笑みを浮かべて愛車を軽くホッピングさせた。


【16~18番:ポニーテールと300馬力の衝撃】

若林「さぁ来たぞ! 16位、蒼きポニーテール・天羽シオン! R34 V-specIIが伝説を現代に呼び戻す! 17位、300馬力の衝撃・伊藤翔太! スイフトスポーツの限界を超えた加速を見ろ! 18位、橙の旋風・陽太! NDロードスターが人馬一体の走りで峠を駆け抜けるッ!!」


天羽シオンは、風にたなびく美しいポニーテールを揺らしながら「私のRのテールランプ……見失わないでね」と観衆を魅了した。

伊藤翔太が気合の空ぶかしを見せると、同じ「伊藤」の名を持つ31位の乎太郎が、バックミラー越しに鋭い視線を送ったのを誰も見逃さなかった。


セシル「……ふんっ。ポニーテールが綺麗だからって、空力が良くなるわけではありません。……ですけど、あのR34の輝きは……少しだけ、私のウラカンに近いものがあるかもしれませんね。……ほんの少しだけですよっ!?」


セシルは頬を膨らませながらも、最新鋭のマシンに立ち向かう「伝説のGT-R」の姿に、ひっそりと熱い視線を送っていた。


若林「盛り上がりは最高潮! 続いては19番グリッドから21番グリッド……といきたいところだが、ここは特別に、この子を先に紹介させてもらおうッ!!」


マヒロ「はーい☆ 26番グリッド、私たちの天使! セシルちゃーんっ!!」


【26番:氷冠の乙女ツンデレ

若林「26位、セシル! ランボルギーニ・ウラカンの咆哮を響かせ、氷の微笑で峠を支配する! 完璧なデータと、時折見せるその愛くるしいギャップに、全観客がノックアウトだぁぁッ!!」


マヒロ「セシルちゃん、さっきの挨拶も可愛かったよー☆ 今の気持ちはどうかな? 『みんなが無事でいてくれたら、それでいいんだもんっ』って感じかなっ!?」


セシルは、大型モニターに自分のアップが映し出された瞬間、ビクッと肩を震わせた。

ヘルメットを脱いだ彼女の髪には、ピンク色のコットンキャンディーの雪が数粒、宝石のように輝いている。


セシル「……っ、な、何を言っているんですか、マヒロさんっ! 別に、誰の無事なんて祈ってません! レースはデータのぶつかり合い、非効率な感情は排除すべきですっ!」


マイクを握る手が、緊張と恥ずかしさで真っ赤に染まっているのを、高性能カメラは見逃さない。


セシル「……それに! このウラカンの性能を引き出せば、26番手からでも全員抜き去るのは論理的に可能です! だから、前方で寝不足だなんだと騒いでいる人たちは……せめて私の邪魔だけはしないでくださいっ。……もし、どうしても助けてほしいって言うなら、考えてあげなくも……ない、ですけどっ!」


最後の方は消え入るような声になりながら、セシルはプイッと顔を背けた。


若林「出たぁぁーっ! セシル選手の『助けてあげなくもない』発言! これには5番グリッドの花選手も苦笑いだぁぁッ!!」


セシル「……っ、もういいです! 早く紹介を終わらせてください! 恥ずかしくて、エンジン温度が上がりすぎちゃいます……ッ!!」


顔を真っ赤にしてウラカンのコクピットに逃げ込むセシル。

その様子を見ていた1番グリッドのフリスは、「……ふふ。……可愛い、お人形さんですね、、、、。でも、私の雪の中では、その熱もすぐに奪われてしまいますよ、、、、」と、冷たく、しかし楽しげに微笑んだ。


若林「おっとぉ! 紹介の順番が前後しましたが、この選手を忘れてはいけません! 25番グリッド、今大会注目のニューカマーだぁぁッ!!」


【25番:鋭利なる吹雪】

若林「26位は、、、エーペックスカップでは初参戦のメーカー、ロータス エミーラから、、、フブキ!!!!」


マヒロ「わぁーっ! 綺麗な車! 鉛色っていうのかな? 落ち着いた色がカッコいいよー☆」


ピンク色の雪が舞う中、25番グリッドに鎮座するロータス・エミーラが、その低くワイドなシルエットを晒した。

磨き上げられた鉛色のボディは、フリスの降らせる雪を跳ね除けるような金属質の光沢を放っている。

そのヘッドライトが点灯した瞬間、鋭い「青い閃光」が濃霧を一直線に貫いた。


若林「見ろ、あの鋭い眼光を! 伝統のブリティッシュ・ライトウェイトスポーツが、米沢の峠に新たな風を吹き込む! フブキ選手の操るエミーラは、まさにコースを切り裂く氷の刃だぁぁッ!!」


フブキは無言のまま、薄いグローブをはめた手でステアリングを撫でた。

彼女の周囲には、ちとせの「吹雪」とも、フリスの「冷気」とも違う、静かで、しかし一度触れれば命を奪うような「鋭利な殺気」が漂っている。


フブキ「……ロータスに、不可能はありません。……この雪も、私のラインを邪魔することはできない。……見ていなさい、前方の『神』も『閻魔』も、すべて私の後ろに沈めてあげますから」


彼女がアクセルを軽く煽ると、エミーラのV6スーパーチャージャーが、まるで金属の弦を弾くような高く澄んだ咆哮を上げた。

その音は、26番グリッドで恥ずかしがっていたセシルをもハッとさせ、背筋を正させるほどのプレッシャーを持っていた。


フリス「……ふふ。……新しい氷の欠片、ですか。……いいでしょう。……我のかわいさコレクションに加えられるか、試してあげるぞ......?」


フリスのポルシェと、フブキのロータス。

色も質も違う二つの冷徹な意志が、米沢の空をさらに凍らせていく。


開会式の華やかなアナウンスが遠く響く、福島県庁のひっそりとした洗面所。

鏡の前で、寝不足の顔を洗おうとしていた花の背後に、音もなく影が差した。

振り返る暇もなく、冷たく細い腕が花の身体を背後から「ぎゅー」と拘束する。


フブキ「花ちゃん、、、落ち着いてない、、、すごく下まで落ち着かせてあげる、、、、ッ」


花「ひっ……!? フ、フブキちゃん……っ?」


花の肩越しに、フブキの顔が近づく。

彼女の肌が触れた瞬間、花の心臓が凍りつくような錯覚に陥った。

それは人間が持つ体温ではなく、極寒の北海に浮かぶ流氷のような、命を拒絶する「絶対零度」の冷たさ。


フブキ「……ふぅぅぅ、、、、、、っ」


フブキが花の耳元、そして項に向けて、深く、強烈な吐息を吹きかけた。

その吐息は、鉛色の吹雪そのものだった。

触れた肌からは瞬時に汗が引き、産毛が逆立ち、薄桃色の肌が陶器のように白く透けていく。


花「あ……ぁ……っ!!寒い……っ、凍っちゃう……っ!!」


花の脳裏には、甘いコットンアイスではなく、鋭利に尖った鉛色の氷の刃が突き刺さるような感覚が走る。

フブキの吐息が繰り返されるたび、花の体温は物理的に奪われ、思考は真っ白に塗り潰されていく。

身体の芯まで「落ち着き」を通り越し、細胞の一つ一つが結晶化していくような、甘美なまでの恐怖。


フブキ「……もっと、冷たくしてあげる。

……あなたの熱い四駆魂も、、、、私の吹雪で、動かなくしてあげるから、、、、」


フブキは花の身体をさらに強く抱きしめ、白く冷たい蒸気のような吐息を、花の首筋に深く、深く刻み込んだ。

完全に凍りつく寸前、花の意識が遠のく中で見たのは、フブキの瞳に宿る、鉛色の静寂だけだった。


花「……ひ、ぅ……あ……ッ」


花の視界は、もはや県庁の洗面所ではなく、吹雪き荒れる標高三千メートルの絶壁へと変貌していた。

フブキの細い腕は、逃がさないという意思を込めて花の細い腰にさらに深く食い込み、身体の熱を物理的に吸い取っていく。


フブキ「……もっと、深く、、、真っ白に、、、してあげるから、、、、ッ」


フブキは花の耳たぶを冷たい唇で軽く食むと、そこから首筋にかけて、先程よりもさらに深く、長く、重い吐息を吹きかけた。


フブキ「……ふうううううう.......ッ!!」


それはもはや人間の吐息ではない。

雪山の頂上で、すべてを凍りつかせ、生命の灯を消し去るブリザードそのもの。

花の身体は激しくガタガタと震え、吐き出す息すらも鉛色の雪と混ざり合って白く結晶化していく。

肌の表面には薄い氷の膜が張り、思考回路は「寒い」という本能的な恐怖だけで埋め尽くされた。


花「……あ……ふぶ……き、ちゃん……も、う……だめ……ッ」


完全に凍りつく寸前。花が力なくフブキの腕の中で崩れ落ちそうになると、フブキは満足げにその冷たい顔を花の首筋に埋めた。

花にとって、この抱擁は「落ち着かせる」ための救済ではなく、魂を鉛色の雪に沈めるための儀式だった。


フブキ「……いい子。……これで、あなたも私の吹雪の一部よ。……ねえ、最高に冷たくて、、、気持ちいいでしょう、、、、?」


フブキの瞳に宿る、雪山のような無慈悲な静寂。

開会式の喧騒がどれほど熱を帯びようとも、この二人の周囲だけは、一歩も立ち入ることのできない「絶対零度の牢獄」と化していた。


県庁の洗面所に、パキパキと微かな氷の割れるような音が響く。

花の意識は、もはや現実と幻想の境界を彷徨っていた。

そんな彼女を逃がさないように、フブキの腕がいっそう強く、骨が軋むほどに締め上げられる。


花「あ……、ぁ……っ」


フブキは花の冷え切った頬に自分の冷たい頬を寄せ、氷の彫刻のように動かなくなった花の首筋に、最後の一撃を込めた。

もはや「吐息」という言葉では生ぬるい。

それは、すべてを拒絶し、時間を止めるために放たれた、絶対零度の「裁き」だった。


フブキ「......ふうううううううっ!!」


花の体内にかろうじて残っていた最後の熱が、その強烈な「ふーふー」によって一気に体外へと引きずり出される。

花の視界は真っ白な猛吹雪に覆われ、心臓の鼓動さえも雪の重みに沈んでいく。


フブキ「……あたたかいものなんかいらない、、、。この世界には、私とこの鉛色の静寂があればいいのよ」


フブキの冷たい唇が、花の耳元で残酷に囁いた。

「温もり」を完全に否定された空間で、花はもはや一歩も動けない、美しい氷の結晶と化した。

彼女の持つ「蒼き守護者」としての情熱は、フブキの深い闇のような冷気の中に、跡形もなく消え去ってしまった。


満足げに腕を解いたフブキは、崩れ落ちるように壁に背を預ける花を一瞥することなく、鏡を見て髪を整えた。

その瞳には、これから始まる米沢の地獄を、さらに冷たく塗りつぶそうとする静かな野心が宿っていた。

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