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唯一無双の現代ダンジョン  作者: 歌歌犬犬
第二章 宝物殿
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第十四話 亡者の王国



「亡者の王国だ……」

「です……ね」

「うむ、そうとしか言えん光景だ」


 俺たちが跳び込んだ宝物殿内部。

 そこは、正しく亡者の王国と呼ぶのが相応しい場所だった。


 ダンジョンの第六階層から先を言っているのではない。


 中世の街並み。

 現代ではなかなか見ない民たちの服装。

 街中を巡回する武装した衛兵に遠くには城。

 時折魔法使いのような者が本を片手に歩いているのは、俺たちの知る歴史にはない光景だが……まぁここまで言えばわかるだろう。


 ここは言葉通りの亡者が暮らす王国だ。


 そんでもって一番重要なのが、ここの亡者たちは誰もがただ生活をしているだけで、特別俺たちを襲うといった敵対をしていないことだった。


 ここダンジョンから入った宝物殿の中だよな?

 ……宝物殿はダンジョンとは違う理、なのだろうか?


 ……チラと端末を確認する。



〈コメント〉

:悪いが宿敵さん、俺たちもわからん

:考察は大好物だが、まだまだ情報が足りない。もうちょっと散策してみてほしい

:あんま冒険者の判断に口出ししたくないが、できれば武力行使は避けてほしいとも思う。もちろん友好的なうちに限るが

:これはダンジョンが現れて100年ちょい、時代の転換点となるかもな……

:ここの亡者たちとは意思疎通ができるのか? まずはそこから試すのはどうだろう?

:ダンジョン内でやることが戦闘じゃないって、なんか調子狂うよね

:↑ わかる



 ……俺が端末を確認したのを見て皆色んな意見を出してくれた。

 いやそりゃここにいる俺たちでもわからないのに視聴者が正解言えるはずもないんだけど、ちょっと意外な展開に戸惑ってしまったんだ。

 ダンジョンと言ったら戦闘だろと……まだ潜り始めてそう長くないのに、大分染まってきたな俺も。


「……ま、確かにずっとこうしてるのも違うか」

『その通りですわ御仁。よろしければあちらでお茶でもしながらお話しませんこと?』

「あぁ、そりゃいい……って、いやいやアリス、ここはダンジョン内だぞ。流石に」

『あら、ここをそんな野蛮な場所だとお思いで? 悲しいですわぁ、わたくしの大好きな国ですのに。しくしく』

「……あの、宿敵さん? あなたが今話してるの、私じゃないですよ……?」

「クク、最高だなお前……クク」

「ん……?」


 アリスとイリスが変なことを言う。

 わかってはいるんだけどね、今ちょぉっと横向きたくないかも。

 でもそっちから目の前に進み出てくるのはさらに予想してなかったかも。


『お紅茶は好きかしら?』

「……そもそも飲めるのかもわからないよ。俺たち半透明じゃないからね」


 ぬっ、と横から突き出てきたのはドリルポニテのご令嬢。

 もちろん半透明で、突き出たという表現も比喩じゃなくて実際そうなんだよ。

 このご令嬢横から浮いたまま直角に出てきたからね、ほんと人生謳歌してそうで何よりです。

 生きてるのか知らんけど。


『大変失礼いたしました。確かに生者にここのお紅茶は飲めませんわね。ではわたくしのティータイムにお付き合いいただくということでどうかしら? 色々お聞きしたいでしょう? ここで話せるのはわたくしだけですのよ』


 そう言われて周りを見れば、確かにここの亡者たちは会話しているようでまるで声など聞こえない。

 それはただ俺たちが声を聞けないだけなのか、それとも本当に会話なんてしてないのかすらわからない。

 アリスとイリスを見る。

 二人も同じ意見なのか頷いている。


「わかった。俺たちも休憩がてら付き合おう」

『あ、ごめんなさい。生者は椅子にも座れませんの。わたくしの足元でよろしくて?』

「お前結構いい性格してるな? いいよ足元座ってるよ!」

『ではこちらですわぁ』


 愉しそうにうふふと笑うご令嬢の後に続いて半透明の街を進む。

 椅子に座れないならこの道も完全無視できるんじゃないかと思うんだが、道案内のご令嬢がそれをしないんじゃ意味もないな。

 というか……。


「お前は浮いてるんだな? 他の亡者は普通に大地と暮らしてるけど」

『……うふふ。彼らは厳密には亡者じゃありませんもの。ここでそうなのはわたくしだけですわ。……さ、着きましてよ! わたくしおすすめのお紅茶を出すお店ですの! 飲めるのはわたくしだけですけどね!』

「さっきからチクチクしてくるなぁ。冒険中の暴食は歯ぎしり止まらないから禁句だぞ」

「お紅茶私も飲みたいです……」

「パックじゃない紅茶とか初めて見たぞ。飲みたいんだが」



〈コメント〉

:ティータイムの用意、こちらも完了です。いつでもお話聞けます

:とりあえず紅茶に合いそうなカステラ持ってきた。安物だけどないよりはいいよね

:やべ、俺家に和菓子しかないわ。緑茶と団子で話聞くか

:お前らww

:鬼かな?ww

:アイリスには後日私が最高級のお紅茶を振舞うわ。お話、聞かせてね?

:あれ? 宿敵さんのは?ww

:彼は私の部下にならないならダメよ。グレードを落としたもので満足してもらうわ

:なんかここにも凄いお嬢様がいる……



「ぐ、ぎぎぎぎ」

「落ち着いてください宿敵さん……帰ってからの楽しみが増えたと思いましょう」

「お腹空いたな」


 コメントなんか見たのが間違いだった。

 これ見よがしに暴食の構えを取る視聴者なんか知りたくなかった。

 なんか中に知ってるようなお嬢様のコメントもあるし……いったいなに宝院さんなんだろうか。


 ……部下になったら最高級のお紅茶か。

 ……いやいや、あり得ないけどね?

 はははまさかまさか。


『あっ、美味しっ』

「ぶち殺すぞ……!」

「すていすてい宿敵さん……」

「お腹空いたな」


 ふーっ。

 ダメだこんな煽りに構ってないで早いとこ情報収集を済ませないと。

 さっきからお腹空いたなしか言ってない娘もいるし、携帯食だけど俺たちもなんか食べながら話そう。


 ……もそもそだ。


「マジックポーチあるし、なんかうまいもの突っ込んできてもよかったな……」

「安くても美味しいもの沢山ありますからね。私たちの分も入れておいてくれますか?」

「セーフティアリアならあたしが料理してもいい。食は命の源だ」

「そうするか……」

『うーん、これ話を初めてもいい空気かしら? 割と真面目なことだからしっかり聞いて欲しいんだけど……』


 もそもその携帯食を口にねじ込み、ゴクンと飲み込む。

 冒険者なら冒険中の飯なんてこんなもんだ。

 上にずらしていた兜を戻し、早々に栄養補給を済ませた俺は椅子に座るご令嬢に視線を向けた。


「聞かせてくれ。この宝物殿とはなんなのか……いや、知ってることをすべて」


 俺に続いてアリスとイリスも携帯食を飲み込み、黙ってご令嬢を見る。

 それを確認したご令嬢は紅茶で口を湿らせてから語りだした。


 それはそうでもしないと話せないとでもいうように、ゆっくりと。


『──気付いていると思いますけれど、この半透明の世界はあなた達から見た異世界なんですの。わたくしの大好きな世界の、大好きな国の姿……。人がいて、文明があって、営みがある。いえ、あった。あの竜が襲来するまでは、確かに……』

「竜?」


 ご令嬢はコクンと頷き、思い出すかのように上を見つめた。

 きっと彼女の瞳には今、かつてのその大好きな世界の光景が浮かんでいるのだろう。

 そしてそれがその竜の襲来によって壊れるところも……。


 ご令嬢は語った。


 竜の襲来で人は毒素に侵されたと。

 それはただ吸い込むだけで息だえるものだったと。

 魔法という力があってもただの遅延療法にしかならなかったと。


『──だから殺しましたの』


 と、なんの誇りも気負いもない顔で、ご令嬢はそう言った。


 ご令嬢は竜を殺した。

 大好きな国を、世界を守るために殺したのだ。

 彼女は讃えられた。

 当然だ。

 それは守りたかった人間たちからの感謝だった。

 彼女は呪われた。

 ただの逆恨みだった。

 それは殺さねばならなかった竜からの憎悪だった。


『死した竜はその身体から毒素を世界に撒き散らしましたわ。わたくしは腕に覚えはありましたけれど、既に死んだ竜をもう一度殺す術は知りませんでしたの。結果……世界は竜の毒素で滅び、わたくしは呪いで魂をこの世界に囚われ続ける亡者となった。……わたくしは結局、なんにも救えなかったのですわ』

「………」


 ご令嬢の顔に涙はない。

 怒りも、哀しみも、苦痛も、後悔も……その顔にはなんの感情も浮かんでいなかった。


 いったいこれはいつの話だ?

 最早涙を流すこともできないほど昔のことか?

 感情が消えるほど昔の、遠い昔の話なのか。


「……それで、この亡者の王国が出来上がったというわけか? あんたはさっき、厳密には亡者は自分だけだと言っていたが」


 辛い過去を抉っている自覚はあるが、それでも聞く。

 それはこのご令嬢が話したから。

 どっから来たかも知れない俺たちに、自分の大切な世界の過去を話したのだ、なにかあるだろう。

 そもそもここは宝物殿、その試練はどこにある。


 ご令嬢は俺の顔を上から眺めると、ふっと笑った。


『ずっと、あなたのような傑物の到来を待っていましたわ。ここは迷宮……あなたたちがダンジョンと呼ぶ場所に囚われた、世界の記憶が生み出す虚像。みんな知っていて、生きているように動くけれど……ただの記憶なんです。だからわたくしが入店してもお紅茶を出してくれるお店なんて、ここだけですのよ? ……生前からの付き合いですの』


 そういうご令嬢の視線の先には、老齢の店主が他の客に紅茶を出している。

 その姿も半透明だが、あれが記憶の再現だと言うのなら相当な腕前だったのだろう。


 ……飲んでみたいものだ。


『試練の内容をお伝えいたしますわ』


 俺が店主の淹れる紅茶を羨ましく見ていると、ご令嬢が背筋を伸ばして真っ直ぐ見てくる。

 釣られるように俺も背筋を伸ばした。


『わたくしの大好きな世界の記憶、それを迷宮に縛り付ける邪竜を滅ぼしてくださいませ。英傑たるあなた様の前になら、邪竜は必ず現れます』


 邪竜の討滅、それが試練の内容か。

 さっきの話と続くならその邪竜ってのは毒素を振りまいてくると見るべきか?

 邪竜ってご令嬢が倒したっていう竜とはまた別ってことはないよな?

 まぁ、竜は竜、討滅の対象なのは変わらないが。


『引き受けてくださいますか?』

「おう。冒険だな」

『なら毒素はわたくしが無効化して差し上げますことよ』

「おう。助かるな」

『なら早速特訓ですわね!』

「おう? 特訓?」

『竜の毒素を無効化するための特訓ですわ!』

「おぅ……人力」


 っと……もう引き受ける前提で応答してたが、今の俺は一人じゃないことを思い出した。

 ちょっと気まずくアリスとイリスに目を向ける。


「人力の習得を目指すならこれからの冒険でも役に立つかもしれませんね」

「あたしそういうの嫌いじゃないぜ」


 目を向けたんだが……そのまま何も言わずに戻した。

 なんだ、やっぱり俺たち似た者同士だな。


 アリスとイリスはそのまま二人で仲良く談笑している。

 まだまだご令嬢に聞きたいこと、話したいことがたくさんあるんだが、まぁゆっくりでもいいだろう。

 俺も真面目な話の間コメントをまるで見れていなかったから今のうちに確認しておくか。

 ……アイリスの配信のはずなのに、俺もすっかり視聴者たちの声を見るのが好きになってしまったな。

 まぁ楽しいことに拒否感なんてないからいい。

 さてどれどれなに話してんのかな……は?


『それと実は特訓の前にまだ皆さんにお話ししなければならない大事なことが──』

「すまんご令嬢、後でもいいか? アリス、イリス、悪いが今すぐダンジョンから出たい」

「え?」

「どうした?」


 ご令嬢の言葉を遮るのは悪い気がしたが、それでも俺はじっとしていられなかった。

 大事な話というのも凄く聞きたいが、今俺は端末の画面から目を離せない。


 その端末には視聴者からのコメントが滝のように流れていて……そして。


「不破ちゃんが……死ぬかもしれない」


 彼女の窮地を知らせていた。

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