↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生君主 ~伝説の大魔導師、『最後』の転生物語~  作者: マツヤマユタカ@1×∞(ワンバイエイト)コミック第三巻発売中!
第二章 エスタ戦役~ロンバルド・シュナイダーの戦い~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
80/2928

第七十九話 森の名

「エルだと!?」


 ロンバルドは驚愕の表情で、目の前の黒く巨大な生物に問いかけた。


 それというのも、エルという名と、この巨大な姿形に聞き覚えがあったからだった。


 それは、メリッサ大陸全土に古くから伝わる土着の神話に登場する『神』であった。


「こらこら、呼び捨てにするでない。様を付けんかい。様を」


 エルはあごを上げて首を後ろに反らし、ずいぶんと偉そうな態度で口をむにゅっとひん曲げながら、ロンバルドを(いさ)めた。


「エル――黒猫?ならば、本当にあの神話のエル?まさか、実在するというのか……」


 ロンバルドは目を何度もしばたかせながら記憶の断片をつなぎ合わせて、自らを『エル』と名乗る黒い生物の正体についての解答を得ようとした。


「だから、様を付けろと言うておろうが、わからん奴だな。次に呼び捨てにしよったら、ぶっ叩くぞ?」


「あっ、いや、その、エル様、本当にあなたは神話に出てくる猫の王である、あのエル様なのですか?」


「神話か。まあそうじゃな。わしがそのエルじゃ」


 ロンバルドは驚きのあまり二の句が継げず、ただ黙ってエルの巨体をぼうっと眺めた。


「…………なんか言わんかい」


「あ、いや…………はっ!そうだ!シェスターたちは!?」


 ロンバルドは途端に我に返り、いまだ戦っているはずのシェスター達のことを思い起こした。


「うん?あの騒がしい連中ならば面倒なんでな、そこに転がっている奴同様まとめて眠らせたぞ」


 エルは気絶し倒れ伏すレムルスを、その丸太のように太い左前足で指し示しながら言った。


「眠らせた?」


「うむ。話をするのは一人で十分じゃでな。皆片っ端から眠らせたわ」


「……はあ、そうですか。怪我をしていなければいいのですが……」


 ロンバルドは倒れ伏してピクリとも動かないレムルスを見ながらそう言った。


「何を言っておる。このわしが無闇に怪我などさせるものか。それどころかすでに怪我しとった者共を治療してやったくらいじゃぞ」


「……はあ……それはどうも……」


「……お前さんさっきからノリ悪いのう……」


「……はあ……」


「まあ突然わしが目の前に現れたら驚くのも無理はないが……それにしてもノリが悪いのう……」



「…………」



「…………だからなんか言わんかい!」


「いや、その……神話世界の住人たるあなたがなぜこんな所に?」


「それはこちらの台詞じゃ。おぬしらわしの庭で何をしておったのじゃ?」


「庭?このルーグの森はあなたの庭なのですか?」


 するとエルは小首をかしげ、(いぶか)しげに言った。


「ルーグ?ここは今そういう名で呼ばれておるのか?」


「はい。わたしも詳しくは知りませんが、この森はかつて栄えた古代タミール族の聖地で、名はルーグと……」


「タミール!懐かしい名前じゃな……じゃがおかしいのう。奴らもこの地をそんな名では呼んでおらんかったがな」


「そうなのですか?……ではタミール族が忽然と何処(いずこ)かへと消え去ったのち、この辺り一帯を領したローエングリンが名づけた地名なのかもしれません」


「……ふむ。面白いな。人の世ではタミールは忽然と何処かへ消え去ったことになっておるのか?」


「はい。古代タミール族については謎だらけで、古文献を紐解(ひもと)いてもほとんどなにも判らずじまいだと……エル様は彼らの行方をご存知で?」


 ロンバルドは古代史上の大いなる謎についてエルに問うたが、エルはそれに答えず逆にロンバルドに問い返した。


「……ふむ、そうか……まあよい、それよりローエングリンと言うたか?それが今この地を治めておると?」


 ロンバルドの問いはエルにまんまとはぐらかされたものの、そもそもロンバルドはあまり歴史に興味がなかったためか特に気にせずエルの問いに答えた。


「はい。ローエングリン教皇国が今現在この辺り一帯を治めております」


「……きょうこうこく?……きょうこうこくとはなんじゃ?」


「……えーと。ゼクス教はご存知で?」


「知らん。なんじゃそれは?」


「……たしか先ほどこの地はエル様の庭だと(おっしゃ)ってたと思うのですが……」


「うむ。言うたがどうした?」


「そのご自分の庭を訪れたのは何年振りのことなのでしょうか?」


「……そうじゃな。ざっと……千年振りといったところかのう……」


 ロンバルドはエルの言葉に片方の眉尻をピクリと跳ね上げて言った。


「……千年ほったらかしにしておいてもここはご自分の庭だと?……」


「……なんじゃ文句でもあるのか?」


「いえ、別に……」


 しばしの沈黙の後、エルが気まずそうに一つ咳払いをしてから言った。


「……まあ、そうじゃな。ちょこーっと久しぶりではあるな。じゃがまあわしも忙しいでな。なかなか下界に下りてはこれんのじゃよ」


 エルはロンバルドに対して完全に目を逸らしながらそう言った。


 ロンバルドは優しさからかそれ以上エルを追求することはせず、先ほどの疑問をエルにぶつけてみた。


「……ではそれはいいとして、この森は元々何と言われていたのですか?」


 するとエルは気まずい態度が一変、機嫌よくロンバルドの疑問に答えた。


「知りたいか?そうかそうかこの森の名を知りたいか。ならば教えてやるとするかのう」


 エルは早口でまくし立てると一旦そこで言葉を区切り、次いでゆっくりとした口調でこの鬱蒼とした森の名を告げた。


「この森の名はエデン。人の世が始まりし地にして原罪を背負いし地、ここがそのエデンの森じゃよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=46484825&si
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。