第六十話 過去
カンパネラの甕とは、メリッサ大陸全土に古くから伝わる土着の神話の一つで、神により作られし神の姿を模した人形カンパネラが、自らの過去を封印した甕を割って、神に戦いを挑むという物語である。
結果的に敗れはしたものの、自らの信念で持って甕を割り、過去と向き合って敢然と神に立ち向かう姿は尊いとされ、人々の尊崇を受けてきたのであった。
「シェスター、俺はお前の過去についてはある程度しか知らないし、あえてそれ以上詳しく聞かずにこれまで済ませてきた」
ロンバルドは、相対するバッカス兄弟たちへの警戒を怠らないよう正面を向きつつ、きびしい表情で後背のシェスターへと語りかけていた。
「なぜなら重要なのは今現在のお前であって過去のお前ではないと俺は思っていたからだ。だがそれは俺が間違っていたのかも知れん。過去を甕に隠して蓋をしても過去が綺麗さっぱり無くなるなんてことはありえない。それに今のお前があるのは過去のお前の延長線上だろう。人というのは過去の歩みがあって今現在の自分がいる。ならばお前の過去を正しく見つめなおし、その上で今のお前を改めて見ようと思う」
そこでロンバルドは言葉を切り、一つ大きく深呼吸をしてから決然と言い放った。
「シェスター!カンパネラの甕を割れ!おまえ自身の手で。俺は甕の中身がどんなものであったとしても必ずお前を受け入れてみせるぞ」
ロンバルドの情熱のほとばしる長広舌を受け、シェスターはそっと目を瞑ってしばし沈思黙考した。
すると、対峙するロムス・バッカスが、シェスターが口を開くよりも早く割って入った。
「おいおい、カンパネラの甕とはまたずいぶんと大げさじゃないか。そいつにはそんなに大層な過去があるってのかい?だとしたらぜひとも聞いてみたいもんだな。もっとも俺たち兄弟以上の悲惨な過去があるとは思えんがね」
ロンバルドは、ロムスの持って回った言い回しに若干の苛立ちを覚えた。
だがそれも次の瞬間、その思いはたちまち雲散霧消することとなった。
なぜならばついにシェスターがその重い口を開いたからである。
「……悲惨……かどうかは知らないが……俺もお前たちと同じく、孤児だった」
シェスターはそう言いつつ敢然と前へ進み出てロンバルドの隣に並んだ。
だが顔は依然として正面を向いたままであり、ロンバルドとは決して視線を合わせようとはしなかった。
ロンバルドはそんなシェスターの様子を横目でそっと伺いつつも、シェスター同様に顔は正面を向いたままであった。
それというのも曲者のバッカス兄弟がいつ何時機先を制して攻撃を仕掛けてくるか判らないため、それに対して警戒する必要があったためだった。
だがロムス・バッカスは意外にもシェスターの話にずい分と興味をそそられた様子であった。
「へえ、そうなのか。お前もね……道理で匂いが似ている訳だ」
ロムスは舌なめずりをしながらそう言った。
するとロムスの斜め後方でおとなしく事態の推移を見守っていた弟のレムルスが口を開いた。
「兄者、あいつ俺たちと同じなのか?それじゃあ、あいつは俺たちの仲間なのか?」
「いや早合点するなよレムルス。今のところ奴は敵さ。今のところは……な」
「そっか。じゃあもうあいつらやっちまってもいいかな?」
「まあ待てよレムルス。もう少し奴の話を聞こうじゃないか。やっちまうのはそれからでもいい」
「ちぇっ!つまんねえの」
シェスターは、渋々ながらもレムルスが引き下がったのを見て、改めて話し始めた。
「……俺は孤児だ。だが孤児となったのはお前たちとは違い、親に捨てられたからではない」
シェスターの言い分にロムスが噛み付いた。
「はあ?何言ってんだお前。親に捨てられてないだって?そんなのお前がそう思い込んでるだけじゃねえのか?捨てられてないって言うんなら、じゃあ一体なんでお前は孤児になったんだよ?言ってみな!」
ロムスの言に、シェスターはうつむき加減に視線を落とし、たっぷりと間をおいてからゆっくりと語った。
「それは俺が……俺自身の手で…………両親を殺してしまったから……さ……」
「面白かった!」
「続きが読みたい!」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
執筆の励みとなりますので、どうぞよろしくお願いいたします。




