第五十九話 本性
「そうだろう?お前は皆殺しにするつもりだったんだ」
ロムスは酷薄な性根を表にあらわし、楽しそうな口調でシェスターに問い糾していた。
「ゴルコスを殺した後でお前は演説を打って、自らの行為の信を問うたよな?あの時、隊長のアルスが己の保身のために真っ先にお前の行為を正当化し、次いで副長がそれに従い皆を誘導した。そしてあっという間に大勢が決してお前の行為は不問に付された。……だがもしもあの場がそうはならず、皆がお前の行為を信認しなかったとしたらどうだ?お前の味方はシュナイダーとあの神輿担ぎのロトスとかいう奴だけだ。多勢に無勢ってやつだ。にもかかわらずお前はゴルコスを躊躇なく刺し殺した。なぜだ?まさか後先のことを考えずに衝動的に殺してしまったとでも言うつもりか?」
ロムスは一段と楽しそうに身振り手振りを交えて言葉を継いだ。
「そんなはずはない。お前は考えていたのさ。皆がお前の演説に従わず敵対する素振りをみせたら構わず……皆殺しにしてしまえばいいってな。そうなればあの場のことを問題にする奴はいなくなるからな。シュナイダーもヴァレンティンもその責を負わずに済む。万々歳ってわけさ。だがな……普通の人間はそんな風には考えたりはしないんだぜ。普通の人間ならば……な」
ロムスはそこで、遂にたまらず笑い出した。
それまで極端なほどの猫背で、前傾だった姿勢を大きく後ろに反らせ、裂けんばかりに大きく口を開けながらとても愉快そうに哄笑した。
そしてしばらく大いに笑った後、ロムスは急に真剣な顔つきとなって言った。
「お前……俺の同類だな?」
つまりロムスは、シェスターを自分同様の快楽殺人者であると断じたのである。
だがこれは、別段シェスターを挑発するために言ったわけではなかった。
ロムスは本心でそう言ったのである。
いくら敬愛する上司と愛する母国を守るためとはいえ、数十人もの人間を皆殺しにするのは誰しもが二の足を踏むことである。
だがシェスターは違った。
何の迷いもなく彼はその選択をした。
それをロムスは潜在的な快楽殺人者の性ゆえのものだと喝破したのである。
それまで無表情にロムスの独演会をおとなしく聞いていたシェスターが、静かに呟いた。
「……かも知れんな」
ロンバルドは、シェスターのよもやの発言を聞き、たまらず両者の会話に割って入り敢然とそれに異議を唱えた。
「それは違うぞシェスター!断じて違う!お前はただ、俺と祖国をもっとも確実に守れる方法を思いついてしまっただけだ。だから決してこいつらと同種の人間などではない。お前は俺と同じくこちら側の人間なのだ。俺とお前の間にはなんらの境界線もなく、俺たちとこいつらとの間には途轍もなく深く大きな溝がある!奴に引きずり込まれるな!シェスター!お前は俺の部下であると同時に俺の大切な友なのだから!」
するとロムスが吐き棄てるように言った。
「けっ、くだらねえ!なにが友だよ。友だからなんだってんだよ。あんたと友だからってこいつの本性が変わるのかよ?」
「だから言っているだろう!シェスターはお前の同類なんかじゃあないと」
「いや同類だね。こいつはゆずれねえよ。だってこいつは俺と同じにおいがするんだぜ?こいつはきっと俺と同じ感性を持っているはずだ」
「そんなものシェスターは持ち合わせてはいない!」
「あんたには聞いてないよ。俺が聞いているのはシェスター、お前だ」
ロムスは長い舌でちろちろと舌なめずりしながら、シェスターに迫った。
「お前は今までに何人もの人間を殺しているはずだ。そこで聞きたいんだが、初めて人間を殺した時お前はどう思った?殺した瞬間のあのえも言われぬ感触をお前はどう思った?普通の人間ならば恐怖におののくだろう場面でお前は一体どう思ったんだ?」
シェスターは答えない。微動だにせずただロムスをじっと見据えていた。
「答えないなら俺が答えてやるよ。お前はきっと……快感を覚えたはずだ。人間の命を刈り取るっていうのは、そこでぶつっとそいつの人生をぶった切るってことだ。その後の人生の全てを奪い取るってことだ。だから普通の人間はびびっちまう。殺した相手の身になって考え、次いでそれを自分の身に置き換えちまう。で、俺はなんてことをしちまったんだろうって後悔する。だが俺は後悔なんかしねえ。それどころか……笑っちまうんだ。楽しくてしょうがねえんだよ。そいつのあったはずの残りの人生を俺の都合でぶった切る。俺の勝手で切り取っちまうんだ。たまらねえ。まったくもってたまらねえよ。こんな快感がほかにあるかよ。だってそうだろう?その瞬間そいつにとって俺は……神にも等しい存在なんだからな」
ロムスは自分が人を殺した時の感触を思い出したのか、満面に愉悦の表情を浮かべていた。
ロンバルドはロムスのその様をみてか、事ここに至ってついに覚悟を決めた。
これまでなにとはなしに深く踏み入ることを避け続けてきた事柄と直面する決意を固めたのだ。
ではその事柄とはなにか。
それはシェスターの過去についてであった。
これまでロンバルドはシェスターの前身、つまりはロンバルドと出会いヴァレンティン共和国の公僕となる以前については、ある程度の概要は把握しているものの、シェスター本人に深く詳細を問い質すようなことはしてこなかった。
なぜならそれは、カンパネラの甕のようにロンバルドには思われたからであった。




