第六十一話 少年の日
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「……そうだったのか、シェスター……」
ロンバルドは、シェスターのあまりにもな告白にしばし絶句し、しばらくの間を置いてからようやくシェスターに声をかけたのだった。
だがそれは声をかけたというよりも、自らの混乱を収拾せんがための独白に近く、そのためかシェスターからの返答はなかった。
対するロムスは内心では大層驚きながらも、そんなことはおくびにも出さずに至極平静を装って言った。
「ほう……親ごろしか……たしかになかなかの過去を持っているようだな」
だが弟のレムルスは違った。
「すっげー!お前、親を殺したのかー!すっげーなー!なー兄者?」
レムルスは大仰に身振り手振りを交えながら素っ頓狂な声でそう言った。
するとロムスが突然声を荒げた。
「別に凄くはねえだろうよ!親殺しなんざ、そんなに大したこっちゃない。まあそうだな、そこそこってところだな」
レムルスは突然のロムスによる叱責に不服そうに口を尖らせ抗議しようとしたものの、そもそもなんで自分が怒られたのか理解出来なかったため途中で面倒くさくなり、それ以上何も言わずに不機嫌そうにぷいっと後ろを向いてしまった。
そんなレムルスの態度にロムスは若干の苛立ちを感じ、何か一言言ってやろうかと思ったが、先程声を荒げてしまったことで自分の平静な態度が実は虚勢であるとロンバルドたちに見抜かれたであろうことを思い出し、少々ばつが悪そうな顔で一つ咳払いをした。
だがそのことでロムスは気持ちを持ち直し、かなり短めではあるものの何とか言葉を継いだ。
「……で、親殺しがどうしたって?」
ロンバルドはロムスのその言い様におかしみを感じたものの、これでバッカス兄弟がシェスターの告白の途中で不意打ちを仕掛けてくる可能性が低くなったと思い、流すことにした。
するとシェスターが静かに訥々と語り始めた。
「あれは……俺が六歳の時だった。通っていた学校で……初めての魔法教練が行われたんだ……」
「魔法教練か……」
「ええ、その日は夏休み明けの……とても暑い日でした……」
2
「おい!今日は授業やらないらしいぜ」
腕白にシャツの袖を肩まで捲り上げた、三代続く老舗パン屋の倅ジョゼフは、先程聞きつけた噂について傍らの親友に勢い込んで喋りかけた。
すると、腕がいいと隣町までその名が轟く刀鍛冶の息子セバスティアンは、温厚な性格という評判通りの柔和な顔つきで答えた。
「そうじゃないよジョゼフ。今日はいつもの授業はやらずに特別な授業をやるんだよ」
「特別な授業ってなんだよ?」
「さあ、それは僕もよくわからないけど……」
「なんだよ。お前もわからないんじゃないかよ」
真夏の強烈な日差しを浴びてうだるような暑さに熱せられた校舎内で喧しく話す二人の声に、机の上で組んだ両腕を枕に寝ていた少年がゆっくりもぞもぞと起きだし始めた。
「おい、シェスター。お前よくこんな暑さで寝れるな?」
ジョゼフは呆れたといった口調でシェスターに語りかけた。
すると、それにセバスティアンも同意した。
「ほんとだね。僕なら到底寝付けやしないよ」
「だろ?俺も無理だ。こんな暑さで寝れるなんてこいつだけだぜ、まったく!」
するとシェスターはやおらむくりと起き直り、大きく伸びをすると同時に大きな欠伸を一つした。
そして喧しい二人に向き直って不機嫌そうに言った。
「……うるさいなあ、もう……うるさくって寝てられないじゃないか……」
するとジョゼフが返す刀で斬りかえした。
「もうすぐ授業の時間だっていうのに寝ているお前が悪い」
それに対してセバスティアンが混ぜっ返した。
「とは言ってもどんな授業をやるのか判らないんだけどね」
するとシェスターはさも訳知り顔となって言った。
「ふうん。俺は知ってるよ。今日は魔法教練の日だ」
「「魔法教練?」」
「ああ、俺たちが魔法を使えるかどうかを見極めるのさ」
「どういう意味だ?」
ジョゼフは興味津々に勢い込んでシェスターに尋ねた。
「魔法ってのはさ、生まれつき使える奴と使えない奴がいるんだよ。これはもう素質があるかないかの話しであって、どんなに努力したところで出来ない奴は出来ないのさ。だから魔法を使える素質があるかどうかを今日、調べるって訳さ」
「そうだったのか。じゃあもし俺が魔法を使えるようになったらパン屋を継がなくてすむかもしれないってことだな」
すると、セバスティアンが意外そうにジョゼフに尋ねた。
「ジョゼフ、パン屋を継ぐのが嫌なの?」
「まあな。と言っても凄く嫌だって訳じゃないけどな。なんとなくだよ。お前はどうなんだよセバスティアン?」
「ぼく?そうだなあ。言われてみれば、ぼくもなんとなく鍛冶屋を継ぐのは嫌かなあ」
「だろ?なんとなく嫌なもんだよな。なんか将来がきまってるみたいでさ」
「うん。そうだね。ところでシェスターはどうなの?シェスターの家は家業はないけど……」
話しを振られたシェスターはじっと考えこんでから言った。
「俺は……わかんないよ、そんな先のことはさ……」
「そりゃそうだ。ていうか俺たちには明日のこともわかんないしな」
「それどころか今日のことだってぼくたちにはわからないよ」
「そういやそうだった。でもシェスターだけは今日なにがあるのかわかってたな」
「ああ。でも判るのは今日魔法教練があることだけで、その先のことはわからないさ」
シェスターはそう言うとなにやら胸騒ぎがしたのか一瞬顔を曇らせた。
だが気のせいだろうと思い直し、シェスターは再びジョゼフたちとの会話に興じはじめた。
運命の時は刻一刻と迫り来たっていた。




