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第二章 エスタ戦役~ロンバルド・シュナイダーの戦い~

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第三十九話 再びの男

「ところでロトス君。君の所属は近衛兵なのかね?」


 ロンバルドは、ロトスの案内で本陣幕舎へと向かう道すがら質問をした。


 その問いに、赤ら顔のロトスはさらに顔を紅潮させて答えた。


「あっ、はい。バルク・ゴルコス枢機卿閣下麾下(きか)の第十九近衛中隊所属でありなっす」


「ん?ゴルコス将軍は、枢機卿でもあられるのか?」


 すかさずシェスターが答えた。


「ええ。教皇庁においては、教皇に次ぐ地位である現在三十六人いる枢機卿の内の御一人で、軍においては、十二ある軍団の内の第七軍団を率いる軍団長でもあります」


「ふむ、枢機卿か。それで近衛兵が配属されているという訳だな?」


「ええ。通常近衛兵というものは王族などの警護を主な任務としますが、ローエングリンにおいては枢機卿に中隊規模の近衛兵が、直属の護衛部隊として配属されます。むろん護衛部隊は教皇にも付きますが、こちらは大隊規模となりますね」


「よくわかった。ところで近衛兵になるには縁故(えんこ)があるか、よほど武芸に秀でていなければなれないと聞く。君には縁故はないようだから、相当に腕が立つとみえるな」


 ロンバルドがそう言うと、ロトスは大きくかぶりを振って恥ずかしそうに否定した。


「いっやあそんなことねえだなっす。わたすは生まれつき力が強いだけだなっす。剣も槍もからっきしだなっす」


「それが謙遜でなければ、君の怪力は相当なものなのだろうな」


「あっ、はい。わたすは他に何の取り柄もねえっすけんども、力だけは自慢できるだなっす」


「ほう。それはぜひ一度拝んでみたいものだ」


 するとロトスは、すかさず前言をあっさりひるがえした。


「いっやあ、やっぱりそんなには大したことはねえでなっす。そんな拝むようなものではねえでなっす」


 両の手の平を見せて自らの顔の前で激しく振るロトスの、あまりの照れっぷりを見たロンバルドとシェスターは、またも互いの顔を見合わせて笑いあった。



 そうこうする内に、彼らの目の前にひと際大きな幕舎が現れた。


「ああ、こちらは参謀の方々がおられる幕舎だなっす」


「ほう、参謀幕舎か」


 その時、ロンバルドの眼が鋭く(きらめ)いた。


 そしてそれを見て取ったシェスターが、すかさず言う。


「では、そちらに案内してくれるかな?」


 ロトスは、怪訝(けげん)そうな顔で尋ねた。


「将軍閣下の本陣幕舎でなくっていいのでなっすか?」


「ああ、かまわない。先に参謀たちに挨拶をしておきたいんだ」


 シェスターは、ロンバルドの意を完全に()んでいた。


「そうだなっすか。そったら案内するだなっす」


 ロトスは二人を引き連れ、参謀幕舎の前で大声で呼ばわった。


「失礼するだなっす!ヴァレンティン共和国使節団のロンバルド・シュナイダー殿をお連れしたなっす!」


 ロトスの言上に応える声が、幕舎内から聞こえてきた。


「ほう、これはこれは……お通し申せ」


 その甲高くねっとりとした粘り気のある声に、ロンバルドは聞き覚えがあった。


 そしてそれは、ロンバルドにとって到底忘れえぬ嫌な記憶を呼び覚ました。


 愛息ガイウスがこの世に生を受けた、六年前のあの夏の日。


 あの日に出会った、決して自分とは相容(あいい)れることの出来ない、許すべからざる敵。


「失礼する!」


 ロンバルドは、ロトスを制して前に進み出た。


 そして自ら入り口の幕を勢いよく跳ね上げ、幕舎の中に敢然(かんぜん)と分け入った。


「おお!これはこれはシュナイダー殿ではありませんか。一別以来ですが、わたくしのことを憶えておられるでしょうか?」


 そこには、ロンバルドが思い描いたとおりの男がいた。


 肉を極限までそぎ落とし、骨の上に皮が乗っているだけではないかと思わせる痩身(そうしん)に、ゼクス教の質素な黒いローブを(まと)っただけの男。


 そしてその生気のない青褪めた顔に、薄気味の悪い笑みを貼り付けた男。


「ああ、もちろん憶えているさ。レノン司教」


 ロンバルドに続いて幕舎内に入ったシェスターは、その名を聞いて一瞬顔を強張(こわば)らせた。


 だがすぐに持ち直して顔からすっと表情を消し去り、傍らのロンバルドを仰ぎ見た。


 ロンバルドもまた、感情というものの一切を(うかが)い知れぬ顔となっている。


 今二人は、完全なる戦闘態勢に入った。


「おお!それは光栄の至り。かのシュナイダー家の方に我が名を憶えていただけたとは」


 その大仰に両手を広げて言い放つ様は、嘘と欺瞞(ぎまん)に満ち(あふ)れており、レノンもまた戦闘態勢に入ったことを(うかが)わせた。


 今ここに、宿命の敵同士が再び相まみえた。


 そしてその戦いの火蓋は、今にも切られようとしていた。

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