第三十話 旧都テーベ
「お前さんに聞きたいことがある。あの魔導書は、どこで手に入れた?」
カルラは目を吊り上げ、大きく目立つ鷲鼻をひくつかせながら、カリウスに問うた。
カリウスはもうすでに完全に観念していたためか、すんなりと白状した。
「あれは、テーベで手に入れましたものです」
「テーベだと?ふん!なるほどな……」
カルラはそう言って、しばらく考え込んだ。
ガイウスは、カルラに直にテーベについて聞きたい気持ちは山々だったものの、どうせ酷い目に遭うことは判りきっていたため、後ろで控えるロデムルに対して、小声でささやくように訊いた。
「テーベって?」
「ダロスの現在の首都アレキサンドラの北に位置する、かつての都でございます。とは申しましても遷都されたのは今から千年もの昔でございますので、今はだいぶ寂びれておりまして、主な収入源は遺跡観光によるものと聞いております」
「ふーん。旧都か。いろいろなものがありそうだね?」
「元は首都であったため、大変に道が入り組んだ造りとなっております。そのため様々な輩が跳梁跋扈しているようでございます」
「うん?首都だと、道が入り組むの?」
「一概には申せませんが、テーベはそうでございます。万が一首都に攻め込まれた場合に備えて、道を複雑に入り組ませるのです。そう致しますと防衛拠点が作り易くなりますし、それになにより攻略に時間がかかりますので、守備側としては時が稼げます」
「でもローエングリン教皇国の首都オーディーンは、教皇庁を中心にして放射状に十二本の大路がどこまでも真っ直ぐに続く街並みだって聞いた事があるけど」
「それはそれぞれの国による首都の設計思想が違うからです。ダロスは攻め込まれた時を想定して設計し、ローエングリンは想定せずに都市生活者の利便性を優先させた設計をしているのです」
「なるほどね。その話を聞くと、一見してローエングリンは万が一を想定していない愚か者が設計したと思ってしまいがちだけど、首都に攻め込まれた時点でもはや国としてはまず挽回できない所まで追い込まれている訳だし、他の全ての都市を奪われてなお首都だけが残ったとしても、もはや国家の体を為さない以上、意味がないという考え方な訳だね?」
「さすがは坊ちゃま、ご明察の通りでございます」
「じゃあダロスの現在の首都であるアレキサンドラはどうなの?」
「テーベ同様、ことさらに入り組んでおります」
「なるほどね。これもまた『ダロスの憂鬱』の一つってわけだ」
「これまたご明察にございます」
「どうやらダロスという国は、ジェイドが言っていたように、様々な古い体質を抱え込み、各地で動脈硬化を引き起こしてしまっている国のようだね。ダロスを古王国と呼ぶ人がいるのは、その歴史に敬意を表しているのだとばかり思っていたのだけれど、どうやら揶揄の意味合いもあるようだね」
ロデムルは、シュナイダー家に代々仕える家令として、ガイウスのこの類稀なる優秀な頭脳は、いずれシュナイダー家の未来を明るく照らすものと、心から頼もしく思った。
と同時になぜこの若さでこれほどまでに冴え渡っているのか、と思わないではなかったが、その思いは家令としての分を超えると思い、心の奥底にそっと仕舞い込んだ。
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