第三十一話 偽書
「ふん!さっきから小声でべちゃくちゃとうるさいね!」
カルラは長い思索の時を終えると、再びガイウスたちに向かって小言を繰り出した。
「男のおしゃべりはみっともないって教わらなかったのかい?静かにしな!」
ガイウスたちはまたも大いにたじろぎ、さっと口をつぐんで静かになった。
カルラはその様子を見て満足したのか、鼻を一つふんと鳴らすと再びカリウスへと向き直った。
「ところでお前さん、なぜに悪魔を呼び出したんだい?悪魔召喚が重罪だってことを知らなかった訳ではあるまい?」
「は、はい……」
カリウスのカルラに対しての怯えは尋常でなく、なかなか言葉にならなかった。
「何故だ、と聞いている」
カルラは、少々いらつき気味に催促した。
カリウスはその気配を察したのか、あわてて喋りだす。
「そ、その、他に方法が見当たらず、それで……」
「悪魔を制御できると、本当に思っていたのかい?」
「は、はい。最下級の悪魔ならば人身御供を差し出すことで誰でも制御できると、あの魔導書に書いてあったものですから」
「ああ、やっぱりかい」
カルラは、そこで一つ大きなため息を吐いた。
「あの魔導書は、偽書だよ」
「ぎ、偽書!?」
「ああ、そうさね。あの魔導書はね、お前以上にろくでもない或る魔導師が書いた、正真正銘の偽書さ」
そこでガイウスは、たまらずカルラに問いかけた。
「あの、ろくでもない魔導師というのは?」
「昔にいたのさ。とんでもないのがね。そいつが悪意を込めて書いたのが、あの魔導書さ」
「悪意というと、どういう意味でしょうか?」
「どうもこうもないさ。さっきみたいな状況が生まれるように、嘘八百を書き連ねたのさ。つまり、悪戯目的ってことさね」
「悪戯!?悪戯って言いますけど、先ほどの場合あなたがいたから良かったものの、そうでなければどれだけの死者が出ていたかわかりませんよ?」
「大量に人死が出ていたろうね」
ガイウスは、カルラの言葉に眉根を寄せた。
「ひど過ぎませんか?」
「だから、ろくでもない奴だと言っているだろう?」
「ろくでもないにも程がありますよ」
「そうさね。だが元々は偉大な魔導師だったんだよ」
ガイウスは驚き、一段声が大きくなった。
「偉大な魔導師!?そんな奴がですか?」
「ああ、だがその後色々あってな。ろくでもない奴になっちまったのさ」
「色々というのは?」
「色々は色々さ。それにしても困ったことになった。偽書はすべて焼き払ったはずだったんだが、な」
ガイウスは話しを少しはぐらかされたと思ったものの、聞いたところで答えまいと思い、カルラの話に乗って続けた。
「なのに、残っていた」
「ああ。一冊残っていたなら、他にも残っているかも知れん。ならば――」
「入手ルートを遡って調査する必要がありますね」
「ああ、そういうことだな。というわけだ、いつ、テーベのどこで、どのようにして手に入れたのか詳しく聞かせてもらおうか?」
カルラに眼光鋭く射すくめられ、カリウスはまたも震え上がった。




