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第十一章 神の棺

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第二千九百二十一話 素直

 ガレーシャはうつむき、翳りを帯びた表情で呟くように言った。


「それが定石ならば、仕方がないか――わかった。では国境まで退くとしよう」


 ガイウスはこれで完全に理解した。この子はまだ司令官職に任命されて日が浅いのだ。だから自信が無い。だからパルススの進言で、定石だと言われればそれに逆らうことが出来ないのだ。ならば何故、この子のような経験のない者がこの軍の司令官にされたのか。これは恐らくだが、急に南下政策を実行せんがため、お飾りでいいからと配置されただけに過ぎないのだろう。


 ならば、自分が真に対峙すべきは――


「では殿下、早速国境まで撤退するとしましょう」


 パルススが柔和な笑顔を見せ、ガレーシャに言った。


 ガレーシャはうんとうなずき、言った。


「そうだな。善は急げと言うしな」 


 ガレーシャは早速手綱を引いて馬首を返した。

 

 そして若干振り返りながらガイウスに言った。


「では、一時休戦だ。また会おう」


 ガレーシャはさっと手綱を振るい、馬を駆った。


 乾いた大地を叩く蹄の音が初めは甲高く響き、次いでどんどん低く遠くなっていった。


 遠ざかるガレーシャの背に、パルススが大声で言った。


「ではわたしは殿(しんがり)を務めますので、殿下は先頭切って退却をお願いします!」


 ガレーシャは振り返りもせず「わかった!」とだけ言って、大軍の中に埋もれていった。


「さて、じゃあここからは大人の話をしようか」


 ガイウスはそう言うと、パルススが笑った。


「殿下も大変でしてね。常に気を張っておられるのですよ」


「急に方面司令官なんてものに任命されれば、そりゃ気も張るさ」


 パルススは肩をすくめた。


「いきなり任命されたと思ったら、すぐに南下してマンド国を平定せよ、ですからね。大変なんですよ、彼女」


「あんたも気苦労が絶えないな」


「いえいえ、わたしはそう大して苦労はしていません。結構あの方、意見を取り入れてくださるので」


「素直なんだろうな。部下であろうと、経験者の言葉をちゃんと聞く。それはいい資質だと思うぜ」


「ええ、とても素直なお嬢さんですし、とても良い資質を持っておられると、わたしも思います」


「成長したら、いっぱしの将軍になりそうだな」


 パルススは、慈悲深い笑みを湛えて言った。


「どうですかねえ、それよりも宮廷内で静かに暮らされた方が、幸せだと思いますがねえ」

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